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<東京怪談・PCゲームノベル>


All seasons 【ガレット・デ・ロア】


□おやつの時間です☆□


 本日の桐生 暁は甘かった。
 無論、性格がではなく、態度がではなく、もちろん暁自身の体が甘いと言う事でもない。
 暁の“匂い”が甘いのだ。・・・もっと正確に言おう。
 暁の持っている箱から漂ってくる匂いが甘かった。
 夢幻館に入るなり、暁は一直線にホールに進み、大きな扉を押し開けた。
 中でくつろいでいた面々が、ボンヤリと顔を上げ―――
 「もなちゃーん!魅琴ちゃーん!おやつの時間ですよ〜♪」
 「暁ちゃん、おやつの時間は普通は3時だよ?今は2時だよ?」
 大丈夫?と、こちらの心が痛くなってしまうくらいに無垢な瞳で片桐 もなが小首を傾げる。
 「んー、それはそうなんだけど・・・ほら、ジャーン!ガレット・デ・ロアを作ってまいりました〜!」
 「がれっと・で・ろあ?」
 神埼 魅琴が全て平仮名で発音する―――なんだかとても頭が悪そうに聞こえる。
 「うん。そー。」
 暁が頷きながら、箱を開けた。
 甘い香りがふわりと漂い、美味しそうに焼けた丸いパイが出てきた。
 「・・・うわぁ、美味しそう〜!これ、暁ちゃんが作ったの?」
 「うん。そーそーw」
 キラキラと目を輝かせるもなに、優しい微笑を浮かべると、部屋の隅で新聞を読んでいた梶原 冬弥にも声を掛ける。
 「冬弥ちゃんも付き合ってねー!」
 「・・・ハイハイ。」
 抵抗しても無駄な事を悟った冬弥が、新聞を折りたたんで素直にこちらに来る。
 ・・・無抵抗なのもつまらないが、かと言って抵抗されてもメンドクサイ。
 ―――微妙な心境である。
 「んじゃ、早速切り分けて食べよーv」
 「・・・ってか、コレ食べられるのか?」
 冬弥がいかにも不審物を見るかのような瞳で、暁の焼いてきたガレット・デ・ロアを指差す。
 「食べれるに決まってんじゃんっ!俺が焼いてきたんだよ〜?」
 「そもそも、お前は料理が出来るのか・・・?」
 「一人暮らしなのに、出来ないわけないっしょ!?」
 「一人暮らしだからこそ、誰かに作ってもらってるとか・・・」
 「誰かって誰さ?」
 「彼女とか?」
 「冬弥ちゃん一筋☆って俺の宣言を、未だに疑ってるわけだ?」
 「・・・そう言うわけじゃ・・・」
 「それじゃぁ、その言い草は―――酷いっ・・・。」
 目元を拭う仕草をする。酷く傷ついた様子で、俯き、口元に手をあて・・・。
 「あー・・・」
 「もー!どうして冬弥ちゃんはそうやって素直になれないわけ!?暁ちゃんが可哀想でしょっ!?」
 もなが非難をするような鋭い瞳を冬弥に向け、暁の腰に抱きつく。
 「かわいそうに・・・冬弥ちゃんは酷い夫だよね・・・」
 「そうなの・・・」
 「もぉぉなぁぁ〜!いつ俺が夫になったんだよ!夫に!ってか、暁も肯定スンナっ!」 
 「だってお前、寝る前に暁の写真見てたジャン。こないだ。」
 魅琴がそう言って、したり顔で冬弥の肩を叩く。
 「ばっ・・・!誤解されるような言い方をするんじゃねぇっ!あれは・・・」
 「誤解されるようなって事は、事実見てたんだ?」
 ニヤリと、暁は微笑んだ。まさに、小悪魔通り越して悪魔の微笑で。
 「だ・・・ちがっ・・・。あれは・・・」
 「まーまー、そんな冬弥ちゃんの変態さん話は置いといて、早く切って食べようよ〜!」
 「ちょっと待て・・・誰が変態だって・・・!?」
 「そうだね、早速切り分けて食べよーv」
 暁がそう言って、パイを綺麗に4等分にした。
 「俺の話をきけぇっ!!」
 そんな冬弥の叫びは完全無視の方向で―――。


■王様誕生☆■


 「あ、美味しい〜!」 
 「うまっ・・・!暁、やっぱ料理の才能あんな〜w」
 「・・・やっぱって、お前はいつ、どこで、暁の手料理を食べたんだよ・・・。」
 冬弥のそんな呟きに、魅琴はただ曖昧に笑った。
 ―――なんかある・・・。
 そう思ったが、あえて冬弥は訊かなかった。
 世の中には、知らない方が良いものも多々あるのだから―――。
 「ね?冬弥ちゃん、俺って料理できるっしょ?」
 隣に座った冬弥の裾をちょんちょんと引っ張る。
 苦々しい表情で冬弥が振り向き・・・渋々と言った感じで頷いた。
 「まーまーじゃん。」
 「素直じゃないのーっ!」
 そう言ったのはもなだった。
 いつものニコ☆っとした、小学生のような笑顔ではなく、どこか悟ったような・・・全てを知った大人の女性特有の微笑を浮かべている。
 「ん・・・あ・・・?なんだこれ・・・?」
 「中に陶器人形入ってた?」
 暁が見詰める先、魅琴の割ったパイの中で緑色のそらまめがチョコリと顔を覗かせていた。
 「それじゃぁ、今日1日王様に決定〜☆」
 「ふぇ?」
 「・・・なんだそれ・・・。」
 もなと魅琴がほぼ同時に首を傾げる。
 「ガレット・デ・ロアってね、1月6日のキリストの公現祭のお菓子で、中にそらまめが入ってる部分が当たった人がその日1日王様になれるの♪」
 「発祥は16世紀のブザンソン地方と言われ、ある修道院で毎年修道院長を決めるためにとっていた方法が始まりだとか聞いたな。」
 「へー、そうなんだ?」
 冬弥の言葉に、暁が真っ先に反応する。
 「・・・なんでお前が反応するんだよ。」
 「だぁぁってぇ〜。」
 「キリストの誕生を東方の3賢者が祝福に訪れたのが1月6日。それじゃぁ暁。キリストの誕生日は?」
 「12月25日でしょ?クリスマス〜☆そんなん誰でも知ってるよ〜!」
 「へー。12月25日ってクリスマスの誕生日じゃないんだ〜♪」
 もなが、恐ろしい事を言いながら頷く。
 ―――クリスマスの誕生日って・・・。
 「さてさて王様、何をしますか〜?」
 暁が気を取り直して魅琴に恭しく頭を下げる。
 「そーだなぁ・・・」
 「つか、王様に何しよう俺!何でも言っちゃってよー。」
 爽やかに微笑む暁と、ニヤリ・・・悪徳代官のごとく微笑む魅琴。
 ・・・見える・・・その背後に“アノ”独特のセットが・・・!
 『山吹色のお菓子に御座います』『おう、越後屋、お主も悪よのぅ』
 ・・・何コレ!?幻聴っ!?
 などと一人で焦っているのは冬弥のみで、暁は何かを考え込んでいるし、もなは「えー、魅琴ちゃんが王様〜?暴君誕生ジャン!」などと言って唇を尖らせている。
 なんだか一人で虚しい―――
 「うーん・・・王様ゲーム一人勝ちバージョンだと思ってもいいカモよ?ってワケで、GOGO!」
 「暁、なんでもするっつったよな?」
 「え?うん。魅琴ちゃんは王様だからね?」
 「よぉっし、それじゃぁ早速一緒に―――」
 「ちょっと待てボケっ!」
 冬弥が魅琴にきれのある蹴りを入れる。・・・王様になんて事を・・・。
 「王様一人は無理だ。危険だ、危なすぎる!犯罪だ!警察沙汰になる!ってか、ロケラン発射になる!故に死傷者が出る!俺はイヤだぞ!?病院に行ったり警察の事情聴取に付き合ったり、弁護士探したりするのは!」
 必死に訴える冬弥だったが、その言葉の意味の半分もよく分からない。
 どうしてガレット・デ・ロアの王様から警察やロケラン、果ては弁護士まで出てくるのか・・・。
 「まぁ、一人勝ちが微妙っつーなら、何かゲームやってソレに勝つ毎にその勝った人が王様ってゆーのは?」
 暁の提案に、冬弥がガバリと顔を上げる。
 「あ、でも、1日王様の今日の役職は1日王様ね!だから、ゲームで勝ったゲー王は、1日王様の言う事は多少聞かなきゃいけない・・みたいな感じで。こうすれば、余りにもデンジャラスなのは防げる・・・筈?」
 疑問系のその言葉に、冬弥の顔が青くなる。
 「ちょっと、もな・・・」
 冬弥がもなを“お呼び出し”し、部屋の隅でなにやらぼしょぼしょと作戦会議・・・(?)を始める。
 「とりあえず、ゲームに暁を勝たせ続ければ問題はない。」
 「どーして?」
 「見ろよ魅琴のアノ顔!暁の身の危険だ!」
 「・・・確かに、ウキウキMAXって顔してるね・・・。」
 「俺はヤだぞ!友達が友達を襲うなんて、変態罪で連行される魅琴と、その被害者の暁を見るなんて・・・」
 「ちょっと心が痛いね。」
 「相当だ・・・。」
 「でも、暁ちゃんだって自己防衛本能くらいあるって。」
 「力の差が歴然だろーがよっ!」
 もながチラリと暁の方を見る。
 「え?もなちゃん、なにー??」
 にっこりと微笑みながら小首を傾げる暁を見て、もながクルリと冬弥の方に向き直る。
 「ダメだ・・・なんにも分かってない・・・暁ちゃんの将来が心配になっちゃうよあたし・・・。」
 「俺はお前の発育の悪さの方が心配に―――」
 「冬弥ちゃん、セクハラ?」
 にっこりと微笑みながらも右手の拳を固く握るもなに、冬弥は思わず謝っていた。
 「・・・ごめんなさい・・・。」
 「とりあえず、勝たせ続ければ良いのね?よし、分かった。協力する!」
 ―――こうして、暁を護る隊(仮)は結成されたのであった。
 そしてそれを、暁は知らない・・・。
 

□ご命令は何ですか☆□


 「それじゃぁまずは、古典的にカードゲームっ!」
 そう言って暁が取り出したのはトランプだった。
 「ババ抜き?ジジ抜き?」
 「同じゲームだ。」
 もなの可愛らしい質問に、マッハで冬弥が突っ込む。それを見て、クスクスと小さく笑いながら暁はカードをきった。
 「んじゃ、ババ抜きにする?」
 シャッシャと手際よくカードを並べる。手先が器用なのだろうか・・・暁の動作は酷く綺麗だった。
 「なんか、暁ちゃん・・・手先がヤラシイ・・・」
 「・・・へ!?」
 もなのポソリとした発言に、思わず手が止る。
 「・・・ロボット?」
 「はいぃ・・・!?」
 上目遣いで呟いたもなを、驚いたような顔で見詰める。
 どちらかと言えば、暁よりももなの方がロボットっぽい気が・・・・・・。
 「ピアノとかやってそうな指の動きだよね。」
 「そっかなぁ。」
 とりあえず、気を取り直してカードを配り始める。
 4人分のカードを配り終わり、自分のカードを揃える。
 王様からどうぞと言う事になり、魅琴から時計回りにカードを引いて行く事にする。
 魅琴→暁→冬弥→もな
 最初にババを持っていたのはもなだった。それを魅琴が引き・・・・。
 「あっがりぃ〜☆」
 ババ抜きのゲー王になったのは暁だった。
 もなと冬弥の“暁を護る隊(仮)”のミッションは無事にクリアしたのであった。
 今回負けたのは魅琴だ。もちろん、それもこれも全ては冬弥ともなの策略でだ。
 「んじゃぁ、罰ゲームはどうする??」
 「おい。何時の間に罰ゲームになったんだ??」
 冬弥が苦笑いを浮かべながら、散乱したカードを丁寧に集める。
 「暴君の魅琴ちゃんがそれぞれに罰ゲームを科すんでしょう?暁ちゃんはゲー王だから、なるべく軽目のにすれば?」
 「だから、いつ罰ゲームになったんだっつの。それより、暴君って言うな!暴君って。」
 「そーだな。まず、暁はこっち来い。」
 カムカムと右手で呼ばれ、小首を捻りながらも魅琴の傍まで歩く。
 「はい、暁。にっこり。」
 よ・・・よく意味が分からないが・・・微笑めば良いのだろうか・・・?
 に・・・ニコっ☆
 カムカムと、今度はしゃがむように言われ―――しゃがんだ途端に抱きしめられる。
 「もな、とりあえずアレは抱擁だとでも思っとけ。天使の少年、おじいさんへ愛を注ぐ―――みたいな。」
 「全然分からない例えをしないでよ・・・。」
 もながそう言って盛大な溜息をつく。
 「それに、ちゃんと分かってるって。魅琴ちゃんが相当変な行動でもしない限りとめないよ。」
 とか言いつつ、右手に光るモノが怖いのですが・・・。
 掌サイズの拳―――
 「んじゃ次、冬弥。とりあえず、喉渇いたからなんか持って来い。」
 「はいはい。暁ともなもなんか飲むか?」
 「あたしココアがいー!暁ちゃんもココアっしょ??」
 「うん!甘めで☆」
 「分かった。」
 そう言って冬弥がキッチンの方へと歩いて行く―――が、これでは命令と言うよりはただのパシリだ。
 挙句王様以外の飲み物まで持って来るとは・・・このゲームの本質的意味を見失いそうになってしまう。
 「んじゃ、もなは・・・今日1日語尾にニャーをつけて話す。」
 「・・・はっ!?」
 暁が思わずもなの方を見る。それは、どんな顔をしてるのかな〜?と言うより、ロケラン持ってないかな〜?と言うような、恐る恐るの視線だった。
 「良いじゃん。」
 「暁ちゃぁぁん〜!」
 もなが暁に抱きつく。・・・どう言ったら良いか分からないが、とりあえず、無理難題を出されなかっただけましと言うか・・・。
 「大丈夫だって、もなちゃん可愛いから、ニャーって言えば更に可愛く・・・!」
 必死になって何とか説得するように試みる。ガレット・デ・ロアでロケラン発射なんて、洒落にならない。
 「わ・・・分かったニャー・・・。」
 「可愛い可愛いっ!」
 自分よりも20センチ以上小さなもなを抱きしめてあげて―――
 「なんだ?これは何の命令だ・・・?」
 甘い香りを漂わせながら冬弥が帰って来た。その手には、カップが4つ並んでいる。
 「もなに、語尾にニャーをつけろって命令。」
 「また、そんな事を・・・」
 溜息混じりに魅琴にカフェオレを差し出し、もなと暁にココアを差し出す。自分は珈琲を手に取る。
 「なぁ・・・次さぁ、卓球やんねー?ほら、娯楽室あったじゃん。」
 「あぁ。奏都が急に買って来たヤツか。俺は良いけど、他は・・・」
 「いーじゃん!卓球wやろやろっ☆」
 暁がそう言い「なんだか温泉の時を思い出すね」と付け加える。
 冬弥の脳裏に“あの苦々しい記憶”が蘇り、ソレと同時に“ある事”を思い出す。
 「あっ・・・!卓球!?」
 “暁を護る隊(仮)”の危機が・・・・・・・!?


■時は戦国☆■


 人は必ずしも、全てにおいて有能ではない。
 と言う事は、逆も然りである。
 人は必ずしも、全てにおいて無能ではない。


 「よぉっしゃぁっ!俺の勝ちだなっ☆」
 魅琴はそう言うと、満足げに3人を見詰めた。
 卓球にいたっては、魅琴の右に並ぶものは・・・もなか奏都しかいない。
 それでも、ギリギリのところでいつも勝つのは魅琴だった。
 今の魅琴は無敵だった。
 王様×ゲー王・・・つまりは時の支配者だ。
 「こうなると思った・・・。」
 そう言って空を仰ぐのは冬弥だった。
 普段なら運動神経抜群、全ての物事においてそれなりの成績を収める彼なのに、今日の卓球はやたら弱かった。
 “暁を護る隊(仮)”の当初の活動目標は暁をゲー王にさせ続けると言う事だったのだが、卓球にいたっては1対1。つまりは周りからの手助けが出来ない状況だったのだ。
 「やっぱ強いよね、もなちゃんも魅琴ちゃんも!」
 「そうかニャー?」
 「うん!そうだよ!なに、あの超速いサーブ!今度俺にも教えて☆」
 「あぁ、あれはね、こう・・・手首を回すんだニャー!」
 和やかムードで卓球話に花を咲かせる2人を、心配そうな瞳で見詰める冬弥と、したり顔で見詰める魅琴。
 三者三様とはこの事なのだろうか・・・。
 「あ、そーだ!魅琴ちゃん。ご命令はなんですか〜?」
 恭しく頭を下げた暁の体をひょいと持ち上げると、魅琴はにっこりと微笑んだ。
 ・・・なんだかとっても嫌な予感がするのは気のせいかな?
 それはどちらの意味も含まれるわけであり・・・・・。
 とりあえず、自分の身に何が起きるのだろうかと言う嫌な予感と、先ほどまでニコニコと無邪気に笑っていたもなが急に真顔になっていると言う、一種の恐怖を含んだ嫌な予感と・・・・・。
 「ご命令は、2人になってからな。」
 有無を言わせぬ表情でそう言い放つ魅琴。
 ・・・ヤバイっ!
 そう思ってなんとか抜け出そうとした時―――
 「時は戦国!下克上の時代・・・つまりは、強きが上へ、弱きが下へ・・・。」
 もなが髪の毛を解く!
 「その命、頂戴いたすっ!」
 高く高く跳躍したもなが、すとりと魅琴の背に立ち、ガンと頭を何かで殴る。
 ぐらりと倒れこむ瞬間、暁はもなに抱きとめられていた。
 ―――もなちゃんはとっても力持ちである。
 「だ・・・だぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!きゅ・・・救急車か!?警察か!?」
 「落ち着いて冬弥ちゃん。とりあえず、命はある・・・はず?」
 「や、俺に訊かれても。」
 暁がそう言って苦笑いを浮かべる。
 それよりも、早く下ろして欲しかったりするのだが・・・。
 「はぁぁぁ・・・息はアル。」
 「多分手加減したもん。」
 「もなちゃん、多分って・・・。」
 もなが暁をストリと下ろす。
 最近は何かとお姫様抱っこをされる事が多い暁だったが、まさかもなにまでしてもらうとは思ってもみなかった。
 自分よりも身長が20センチ以上違うもなに・・・。
 今度し返してみよっかな・・とか淡く思うが、もしもパニクられてロケラン発射の事態に陥った場合―――なす術がない。
 「さて、時は戦国下克上。つまりはあたしが王様。良い?」
 もなが腰に手を立てながら突如としてそう言う。
 「は?まだ続ける気か・・・?!」
 「当ったり前でしょ〜!ほらほら、命令行くよ〜!」
 有無を言わせぬ口ぶりに、暁と冬弥は刹那、目を合わせた。
 それを見て、ニヤリともなが笑い―――
 「2人でチューして。口よ、く・ち。」
 「はぁぁぁぁぁあ〜〜〜〜〜!!!!!!??」
 「夫婦なら出来るでしょ〜?」
 「だぁら、夫婦じゃねっつの!」
 悪戯っぽい笑顔を浮かべるもな―――それを見て、全てを理解すると暁は冬弥の肩に手を掛けた。
 「冬弥ちゃん、王様の命令は・・・ぜ・っ・た・い☆」
 「キショイ声を出すな!キショイ声を!」
 「モー!ほらほら、王様のご命令だよ〜!早くしないと、首切られちゃうよ〜!」
 「それはハートの女王で・・・うわ、ちょっ・・・ヤメっ・・・!!」
 暁が冬弥の首に手を回し、瞳を瞑り、背伸びをし、自分の体を引き寄せ・・・・・

   プシュン

 「え?プシュン??」
 何かが確実に止ってしまったような音がして、見上げたそこで冬弥が目を開けて固まっていた。
 その瞳はどこも見ていない。
 「・・あれ?冬弥ちゃん・・・??とーやっちゃ〜ん??」
 目の前で手をフリフリとしてみるものの、全然反応がない。
 とりあえず、首から手を離して―――グラリと冬弥の体が真後ろに倒れる。
 「わーわーっ!!!」
 慌てて暁が体を支え・・・目はまだ見開いたままだっ!!!
 「も・・・もなちゃん!冬弥ちゃんが・・・!!」
 「最新版に変えないと、すぐフリーズしちゃうからなぁ・・・。」
 「え!?冬弥ちゃんって何者!?」
 「でもさ、当たったじゃん。おみくじ。上半期でしょ?大接近のチャンス☆でもさ、1回って書いてなかったから、これから先もあるって事かな??」
 それが偶然か必然かは、ここの住人に―――特に、この少女にかかっていると言っても過言ではないのかも知れない。
 「そっか、それじゃぁ皆さんのご期待に応えて・・・ゼヒゼヒ冬弥ちゃんとは夫婦にならないとね♪」
 そう言って微笑む暁の顔を、もなが不思議な笑顔で見詰める。
 「お手伝いいたしますよ?」
 「ありがとう。」
 どちらも、その言葉が本気なのか冗談なのかは分からなかったけれども―――。


         〈END〉


 
 ◇★◇★◇★  登場人物  ★◇★◇★◇

 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

  4782/桐生 暁/男性/17歳/学生アルバイト・トランスメンバー・劇団員


  NPC/梶原 冬弥/男性/19歳/夢の世界の案内人兼ボディーガード
  NPC/片桐 もな/女性/16歳/現実世界の案内人兼ガンナー
  NPC/神崎 魅琴/男性/19歳/夢幻館の雇われボディーガード
 
 ◆☆◆☆◆☆  ライター通信  ☆◆☆◆☆◆

 この度は『All seasons』にご参加いただきましてまことに有難う御座いました。
 そして、いつもいつもお世話になっております。(ペコリ)
 
 さて、如何でしたでしょうか?
 上半期に大接近のチャンス☆〜冬弥の受難〜第一弾です。
 本当に最近は魅琴が変態さんになりつつあり、夢幻館一同ヒヤヒヤしております。
 無論、色々な意味を含む“ヒヤヒヤ”ですけれども・・・(苦笑)
 暁様の身の危険や、魅琴の身の危険、もなが殺人犯にならないように・・・・w
 冬弥が寝る前に見ていたのは、新年の時の写真ですw
 次に暁様が来た時にでも渡そうと思って眺めていたのでしょう☆


  それでは、またどこかでお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。