コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


Dead Or Alive !?

「あっぶなーい!」
「は・・・?」
 朝。
 それはもう大きく伸びでもしたくなるような長閑過ぎる朝。
 眠気覚ましに外を歩いていたら突然背後から突き飛ばされた。
 ――敵か!?
 咄嗟にそう判断する。それにしても全然気配がなかった。相当の手練と見て間違い無い。数歩進んでバランスを建て直し、振り返る。
 と・・・・・・
「深紅!お前な、いきなり何突き飛ばしてんだよっ」
「え・・・だって、黒猫が突進してきたから危ないなーと思って」
「猫ごときで人が死ぬかっ!だいたいこいつの死因はなあ・・・っ」
 そこにいたのは黒い服に身を包み、不毛な口喧嘩を続ける少年二人組。
「・・・えーっと・・・。お前ら、何・・・?」


【大切なものは〜始竜・帝都〜】


「始竜・帝都。神聖都学園に通う17歳。始竜家26代目当主の陰陽師。あんたで間違いないよな?」
「ああ。まあ、そうだな」
 綺音と名乗った少年の問いに相槌を打つ。
 何だ。何の詰問だ。
 ――俺、何かしたか・・・?
 心当たりはなくはないが、彼らが敵でないことは目に見えて明らかだ。
「ええっと、僕達実は世に言う死神みたいなものなんだけど・・・」
「死神だあ?」
 非常識な話に顔をしかめる。まあ、色々と不思議が渦巻いている東京だ。自分自身も陰陽師なんてものをやっているのだから、今更驚くようなことでもないのかもしれないが。
「見えねえ・・・」
「はは。良く言われるなあ、それ」
 のんびりと苦笑する深紅という名の少年。彼にある少年が重なって見えて、帝都は首を横に振った。
 ――いやいやいや、何であいつが・・・!だいたいあいつは敵だ。殺すべき相手だろ・・・っ
「ええっと、続きいい?」
「・・・・・・どうぞ」
 死神が来たということは結論は一つ。
 予想通り、彼らは今日帝都が死ぬということを宣言した。
「俺が死ぬ・・・ねえ。普通じゃん。毎日のように命狙われてんだから、何時死んだっておかしくねーよ」
「それが実は間違いで・・・」
「あぁ?間違い!?」
 睨んでやると深紅はびくっと震え、綺音の後ろに隠れた。綺音は溜息をついてから続きを引き継ぐ。
「俺達の世界で管理してる死亡予定リストってのがあるんだけど、そのリストに手違いであんたの名前が載っちまったんだよ」
「はあ?んでそんな間違いすんだよ!」
「俺だって知らねーよっ。とにかくリストに載っちまったからには100%あんたは死ぬ。俺達はそれを防ぎに来たってわけだよ」
「上司の尻拭いか」
「ま、そんなとこ」
 肩を竦めてみせる綺音。見たところ帝都と同い年か少し下くらいの年齢なのだが、随分と大人びた雰囲気のある少年だ。帝都より少し上に見える深紅が頼りない様子なので、それが原因なのかもしれない。
「それで・・・死因は」
 だいたい予想がつくが一応訊いてみる。
「誰かに殺されるらしいな」
「ああ・・・そう」
 ――やっぱりな
 まあ、敵が襲ってきたら返り討ちにしてやればいい。
 ――って、普段とかわんねーじゃん
「まあ、いいや。おいお前ら、俺の邪魔すんなよ。っつーか危ねーからどっか行ってろ」
「・・・だってさ、綺音。大丈夫そうだし、どっか行ってようか」
「阿呆か、お前は!」
 踵を返しかけた深紅の頭を綺音が小突く。
「え?駄目?」
「だ・め・だ!リストってのはあんな紙切れでもなかなか侮れねーんだよ。帝都、あんたもあんまり甘く見てない方がいいぜ。俺達が護るっつてんだから大人しく協力させろ」
 真っ直ぐな目でそこまで言われてしまうと、なかなか断れないもので・・・・・・
「・・・わかったよ。好きにしろ」
 結局頷いていた。


 鎌形深紅と紺乃綺音。完全に主導権は綺音が握っているようだが、実際は綺音の方が深紅の助手・・・ということらしい。
「いつもいつもいつもドジるからさ、こいつ。フォローが大変なんだよな」
「ああ・・・なるほど。苦労してんだな、お前」
「ちょ・・・綺音!帝都くんも酷いよ〜」
 そういえば、先程も思いきり突き飛ばされた。黒猫が横切ったくらいで、だ。
 ――天然か・・・。やっぱりあいつと被るな・・・
 どうもこの手のタイプには弱い。
 帝都は溜息をついた。
 ――こんなんで大丈夫なのか、俺・・・
 帝都の使命は彼を殺すことなのだ。最近は少しずつ疑問を感じ始めているが・・・
「なあ、お前ら死神だって言ったよな?てことは色んな奴の死に関わってきたってことだよな?」
「俺はなって日が浅いからそうでもねーけど、深紅はそうだよな?」
「え?うん・・・まあ、一応」
 曖昧な返事だったがまあ、よしとする。
「深紅。お前、人殺しってどう思う?」
「へ・・・?まあ・・・人道には反する・・・んじゃないかな・・・?」
 そんなのは当たり前だ。帝都が訊きたいのはそういうことではない。
「いや・・・そうじゃなくてだな・・・。例えば何かを護る為に誰かを殺した・・・っていうのは人道に反すると思うか?」
「ええっと・・・」
 深紅はしばしの間考え込むような素振りを見せ、ゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。
「人道に反するとかそういうんじゃなくてさ・・・人を殺さないと護れないものって、それほど大切なものじゃないと思うんだよね。これは僕個人の意見だけど。だったら誰かを殺すっていうその力を、本当に大切なものを護る力に使えればいいのにな・・・って。そう・・・思うかなあ」
「・・・・・・」
 殺すではなく、護る力・・・。
 帝都は拳を握り、もう一度開いてみた。この手に、この壊すだけの手に、護る力はあるのだろうか・・・・・・?
 と―――
「っ」
 瞬間的に、殺気を感じた。隣を歩く深紅の手を咄嗟に引っ張る。
「ふえ・・・?」
 半歩後ろに下がった深紅の鼻先を目に見えない早さで何かが通り過ぎていった。煙の臭いが周囲に漂う。
「え・・・ええっと・・・」
「深紅。綺音。殺し屋さんのお出ましだぜ?」
 前方数メートル先に黒コートに身を包んだ長身の男が銃を構えて立っていた。
 ――敵が雇った暗殺者だな・・・
 腕は相当良いのだろう。佇まいには余裕が感じられた。あと一瞬気付くのが遅れたら深紅の鼻くらい飛んでいたかもしれない。
 ――あいつ、俺だけでなくこいつらも殺す気か・・・
 今更関係無いと言い張っても無駄だろう。完全に二人も帝都の仲間と認識されている。舌打ちした。
 深紅と綺音の前に立つ。
「おい、お前ら。俺の邪魔すんなよ?っつーか、危ないからどっか行ってろ!」
「そういうわけにはいかないよっ」
 深紅が帝都の体を押しのけて前に出た。その瞬間、男が再び引き鉄を引いたのを帝都は見逃さない。
「危ねえっ!」
「うわっ!」
 帝都の声に反応して深紅が身を動かす。彼の目の前にあった電柱に穴が開いた。
「バカかお前はっ!!前に出てくんなっつっただろっ!?特に深紅!お前は危ない!ひっじょーに危ない!綺音!コイツをどーにかしろっ!」
「どーにかって言われてもなあ・・・」
「綺音〜」
 世にも情けない声を上げる深紅に綺音は溜息をついた。帝都の方に視線を向け問いかけてくる。
「本当に一人で平気なんだな?」
「当たり前だ。俺様を誰だと思ってんだよ」
「・・・」
 綺音はもう一度息をつくと深紅の腕を引き、後ろに下がった。深紅の表情にはまだ不安の色があるようだったが綺音がいれば大丈夫だろう。
 帝都はにっと笑い、男を挑発する。
「お前の相手は俺だ。かかってこいよ」


「ね・・・ねえ、綺音。本当にこれでいいわけ?何か銃撃戦始まっちゃったけど・・・」
「流れ弾に当たらないように気をつけろよ。帝都が言うようにお前はひっじょーに危ないからな」
「綺音っ!」
 深紅には綺音が何故こうも落ち着いているのかわからなかった。自分達の役目は帝都を護り抜くことではなかったか?死亡リストは絶対だ。そのリストに名を載せられた者には確実に死が訪れる。
 深紅達「生命の調律師」が干渉しない限りは。
「・・・あと2分15秒後」
「へ・・・?」
 綺音がぼそっと呟いた言葉に顔をしかめる。
「お前さあ・・・ちゃんと書類読んだか?リストってのは曖昧だったり、やたら細かかったり色々みたいだけどさ。あいつ・・・帝都の場合、死亡時刻・死因がはっきりしてるんだ。午前11時ジャスト、胸を撃たれて死亡。そこさえ気をつければ後は大丈夫なんだよ」
「な・・・なるほど・・・」
 時計を見る。あと1分48秒。
 先程から何度も銃声を聞いているが、一向に人が来る気配がないのは、ここが住宅街からいくらか離れた人気のない通りだからだろう。
 深紅は冷や冷やしながら帝都と男の攻防を見守った。リストの時間までに死ぬことはないとわかっている。わかっているのだが・・・
「あ・・・っ」
 帝都が・・・銃を落とした。
 マズイ。
 反射的に体が前に出る。
「まだだ、深紅」
 綺音の声。しかし深紅はその声を振り払い、地面を蹴っていた。


「ばっか!あいつ・・・っ!まだ10秒あんだぞ!?」
 これではタイミングが合わない。舌打ちして綺音も走り出す。頭の中でカウントを続けた。
 5、4、3、2、1・・・


 パァン・・・ッ


 銃声。
 ――な・・・何がどうなったんだ・・・・・・?
 随分と体が重いが、きちんと動くようだった。深紅がしっかりと帝都の背中に腕を回している。
 そういえば。
 彼に突き飛ばされたのだ。
 帝都は深紅を抱え込むような体勢になっていた。
「お・・・おい、深紅・・・?」
「い・・・いたたたたたた・・・」
 深紅が顔を上げる。
「お前・・・っ大丈夫か!?」
「へ・・・?うん・・・平気・・・みたいだけど」
「そ・・・そっか・・・良かった・・・」
 ほっと胸を撫で下ろす。そうなると先程の銃声は・・・・・・
「馬鹿深紅!ちゃんと俺の話聞けっつーの」
 銃を片手に持った綺音が仁王立ちで深紅を見下ろしてきた。かなり不機嫌そうだ。
「俺が無事犯人を取り押さえられたから良かったものの、上手くいかなかったらお前大怪我じゃすまなかったぞ」
 綺音の後ろに男が倒れている。深紅が帝都に飛び掛ったのと同時に、綺音も男に飛びかかったらしい。
「・・・ううん、違うよ綺音。怪我してたかもしれないのは帝都くんの方」
「え?」
 同時に首を傾げる帝都と綺音。
「僕が突き飛ばしたらね。逆に帝都くんの方が僕を庇おうとしてくれたんだ。護るはずが護られちゃうなんて調律師失格だよね、僕」
 「ははは」と笑う深紅に、帝都は自分の手の平を見つめた。
 ――俺が?こいつを護ろうとした?
 ほとんど無意識だった。
「ったく・・・また報告書書かされるんじゃねえの?」
「えええええ!?それは困るよおー」
「・・・」
 溜息をつく綺音と情けない声をあげる深紅に―――
 帝都は知らず知らずのうちに笑みを零していた。


「なあ、深紅」
 役目が終わり、自分達の世界へ帰ろうとする深紅を帝都は呼び止めた。
「何?」
「俺にも・・・護れると思うか?大切なもの」
 深紅はにこっと笑い、短く応える。
「それは帝都くん次第でしょ」
「・・・・・・確かに」


 自分の一番大切なもの
 それが何なのか、まだわからない
 だけど

 壊すんじゃない
護りたいと
 護ることができたらと
 そう 思った


fin


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

PC

【5205/始竜・帝都(しりゅう・ていと)/男性/17/高校生&陰陽師】

NPC

【鎌形深紅(かまがたしんく)/男性/18/生命の調律師】
【紺乃綺音(こんのきお)/男性/16/生命の調律師・助手】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

こんにちは。ライターのひろちです。
発注ありがとうございました。
納品が遅くなってしまい申し訳ありませんっ

前回同じシナリオで書かせて頂いたあきらくんと敵対している人物・・・ということでその辺も頭に入れつつ、新たな視点で楽しく書かせて頂けました。
帝都くんはどうも深紅みたいなタイプの人間の世話を無意識に焼いてしまうようなそんなイメージがありますね。
普段の綺音と同じように深紅に振り回され気味だった帝都くんでしたが、いかがでしたでしょうか?
楽しんで頂けたなら嬉しいです。

ではでは、ありがとうございました!