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<東京怪談・PCゲームノベル>


Dead Or Alive !?

 ある日突然現れたのは黒い服に身を包んだ二人組の死神。
「お前、今日死ぬぜ」
 唐突に告げられた言葉に
「は・・・・・・?」
 とりあえず顔をしかめるしかなかった。


【どうか見守って〜桐生・暁〜】


「死亡予定リスト・・・ねえ。そんなのがあるんだ?へえ〜」
 死神―本人達は「生命の調律師」だとか言っている―のうちの一人・紺乃綺音の話によると、そのリストに暁の名前が載ってしまったらしい。あろうことか誤って。
 なるほど。それで、今日死ぬ、と。
「そのリストに載ってしまった人間はほぼ100%の確率で死ぬ」
「それじゃあんた達、俺をお迎えに来たってわけ?」
「いや、違う」
 首を横に振る綺音。
 なら、何の為だというのだ。
 疑問符を浮かべているともう一人の調律師・鎌形深紅が続けた。
「誤ってリストに載っちゃった人間を見殺しにするわけにはいかないよ。こっち側のミスなわけだし。事前にいつどんなふうに死ぬかがわかってれば、死を防ぐことができなくもなくもなくも・・・あれ・・・?」
「防ぐことができなくもない・・・ってわけで、俺達がお前が生き残る為の手助けをしにきたってわけだよ」
「はあ。それはご苦労様」
 軽く返すと今度は綺音達が顔をしかめる番だった。
「お前、その反応はないんじゃねーの?可愛くねえな」
「”うわー、どうしよう・・・!”とか言って脅えろって?死ぬっつってもいまいちピンとこないし。別に生きることに大して執着もないしさあ」
「あ・の・な!」
 何故か怒った顔で綺音が迫ってくる。
「うわっ、ちょ・・・近いんですけど・・・」
「いいか、これには俺達の・・・っていうか俺の始末書生活脱出がかかってんだよ」
「し・・・始末書・・・?」
「素直に死んでやるとか馬鹿なことは考えるんじゃねえ!大人しく俺に協力しろ。いいな!?」
「は・・・はあ・・・」
 勢いに押され、こくこくと頷いた。豪快な溜息をつきつつ、その場に座りこんで項垂れる綺音の肩を深紅が叩く。
「綺音・・・そんなに切羽詰ってたんだ・・・」
「誰のせいだ、誰のっ!」
「・・・」
 出会ってから数分。何となくこの二人の人間関係がわかったような気がした。
 深紅の後始末を綺音が文句を言いつつも毎回やっている・・・といったところか。
「えーっと・・・とりあえず死因とか教えてもらえる?」
「え?ああ・・・死因。死因な」
 即座に立ち直った綺音がポケットから出した紙に目を走らせ・・・・・・顔をしかめた。
「・・・誰かに殺されるらしいな」
「誰かって誰に」
「そこまでは書かれていない」
 随分と大雑把なリストである。
「へぇ・・・まあ、俺なんか殺して殺人犯になるなんて可哀想だし生き残ろうとはしてやるよ」
「よっしゃ、その意気だ」
「頑張って生き残ろうね!」
 何ともでこぼこなコンビに苦笑しつつ、暁は差し出された深紅の手を握った。

 今日は日曜日で、当然のように学校は休みだ。暁はバイト先に向かっていた。
「珈琲店?」
「そ。そこでバイトしてんの」
「へえ。僕、珈琲好きなんだよね。ご馳走してもらったりなんかは・・・」
「深紅っ」
「ははっ。りょーかい。無事生き残れたらご馳走しましょう?」
 笑顔で応えてみせると深紅も嬉しそうに微笑む。綺音がその横でやれやれと首を振っていた。
「綺音。紅茶もご馳走できるよ?」
「・・・あ?」
「綺音は珈琲より紅茶派。違った?」
 ぽかんと口を開ける綺音。図星らしい。
「よくわかるな、そんなどうでもいこと」
「まあ、店に来る客見てるうちに何となく・・・さ。どうでもいいことかもしんないけど、わかったらわかったで楽しいじゃん」
 一見無駄だと思うことでも、日常を楽しくするスパイスくらいにはなる。ただ機械的に働くよりも、そうやって楽しんだ方が何だか得した気分じゃないか。
「桐生っ!!」
「ん?」
 突如、後ろからかかった声に振り返った。見知らぬ少年がこちらを睨みつけている。暁と同い年か一つ年下くらいだろうか。
「えーっと・・・誰?」
「や。俺もわかんない」
 深紅の問いに首を振ると少年の顔にカっと血が昇る。
「お前・・・っ俺の彼女だった女に手出しただろーが!さんざん弄ばれた挙句手酷く振られたって・・・あいつ泣いてたんだかんなっ!!」
「・・・」
 深紅と綺音の視線が暁に集まった。
「お前・・・そりゃ相当酷い奴だぞ・・・・・・?」
「ね・・・ねえ、綺音。これが修羅場ってやつ?」
「深紅、お前は黙ってろ」
「あのさあ・・・俺、全然身に覚えがないんですケド?」
 そんな軽々しく特定の人間と親しくなったりはしない。だが少年は引かなかった。
「嘘をつくな!」
「あー・・・じゃあ、試しにその彼女さんの名前言ってみてよ」
 少年が口にした少女の名は確かに暁が知っている名ではあった。少し前に柄の悪い男達に絡まれてる所に遭遇し、放っておくわけにもいかずに助けたのだ。そうしたらどうにも一目惚れされてしまったようで、数日間しつこく付き纏われたのだった。
 今、思い出せば随分と迷惑な話で。暁がはっきりと「あんたのことは好きになれない」と告げると往来で激しく泣きじゃくり「この男酷いんです」と道行く人に訴える始末。
 ――性格悪い子だな〜・・・とは思ってたけど
 まさか彼だった男まで巻き込むとは。
「お前・・・絶対許さないからなっ」
「だーからあ、手なんて出してないって。だいたい俺、年上が好きだし〜。つかアンタさぁ〜そんなん信じてるワケ?カワイソ」
「な・・・っ」
「おいおいあんま煽ると・・・・・・」
 綺音の言葉の途中――少年がこちらへと距離を詰めてきた。手が届くくらいの位置で足を止める。近くで見ると背が高く、顔もなかなか整っていた。あんな女に引っ掛かってたのが勿体無いくらいだ。
「・・・ほら、何か怪しい雲行きになっただろ・・・?」
 少年の手には―――ナイフが握られていた。
「ききき綺音・・・っななななナイフ・・・っ」
「落ち着け、深紅。暁の死亡予定時刻が近い。多分死因はあれだから、ちゃんと見張ってろ。暁も気をつけろよ」
「りょーかい」
 綺音と少年には聞こえないくらいの小声でやりとりをする。とはいっても、ナイフを握る少年の手は小刻みに震えており、とても人を刺せる状態には思えないが。
「あんたさあ・・・誰かの為に人殺しなんて馬鹿らしいと思わない?」
「黙れっ」
「思わないわけね・・・。ご立派なことで」
 このままでは埒があかない。
 と―――
 白い綿のようなものが視界の隅にちらついた。
 ――・・・雪?
 空を見上げ、目を細める。そういえば傘持ってくるの忘れたななどと思っていると・・・首に重さを感じた。
「へ・・・?」
 少年の手が首にかけられたロケットペンダントを掴んでいる。
「お前、これいつも付けてるよな?そんなに大事なものなのか?」
「・・・」
 ぶちっとロケットのチェーンが切れた。
「何だよ。取り返さないのか?」
「ん〜・・・別にどうでもいっけど」
「どうでもいいだと!?はっ、どうせ本命の彼女の写真でも入れてんだろ?」


 ロケットの蓋を開けると、少年は一瞬言葉を失ったようだった。
「何だこれ・・・?お前の父親と母親・・・・・・か?」
「・・・」
 暁は無言。深紅が綺音の服の裾を引っ張った。
「綺音。何か暁くんの様子がおかしい」
「え?」
 視線を暁に戻し、「あ」と気付く。出会った時から絶えず笑顔を浮かべていた暁の顔が強張っていた。金縛りにあったかのようにぴくりとも動かない。
 チャンスだと・・・思ったのだろう。綺音が少年の立場だったとしてもこの隙を逃すなんて馬鹿なことはきっとしない。
 ナイフを持った少年の手が動いた。
「暁くんっ危な―――」
「んの、馬鹿・・・っ!」


 刺されたのだと認識するのに、やたらと長い時間がかかったような気がする。
 ふと死んだら・・・俺が死んだらどうなるんだろうと思った。
 両親の前では幼く可愛く良い子で居たい。
 ねえ・・・
 ねえ、母さん。俺、約束は守れたのかな?
 一応笑ってたつもりなんだけど。
 ねえ、父さん。俺、一緒のトコいける?
 もし行けたら、その時は優しく笑いかけて・・・?
 頭を撫でて、抱き締めて欲しい。

 そんな子供っぽい想いを抱えている自分に苦笑しつつ、目を閉じて―――

「腕刺されたくらいで倒れんじゃねーよ」
 閉じる前にかけられた声にはっと我に返った。
 自分の腹に視線を移す。血は・・・出ていない。代わりに左腕が赤く染まっていた。
「あ・・・っれえ?俺、確実腹刺されたと思ったのに」
「咄嗟に俺が引き寄せたんだよ」
「へえ〜。ナイスプレイじゃん」
「お前を死なすわけにはいかねえからな」
 左腕もそれほど深い傷ではなさそうだ。今は神経が麻痺しているようで動かすことはできそうにないが。
 一瞬死を覚悟してしまった分、何だか拍子抜けした気分だ。
 ――まだまだ死なせてくれないってわけね
 最近の神様は随分と厳しいようである。
「あ・・・ああ・あ・・・」
 前に立つ少年は顔面蒼白で、震えている手からナイフとロケットペンダントが落ちた。
 暁はロケットを拾い上げ、中の写真を見る。
 ――父さん、母さん
「俺、もうちょっと頑張るね」
 写真に軽く口付けてから、少年に笑顔を向けた。
「人殺しになんなくて良かったじゃん?」
「な・・・」
「俺なんか殺して殺人犯になるなんてさ、馬鹿らしいと思わない?一度きりの人生、簡単に棒に振っちゃ駄目っしょ」
「・・・」
 少年の顔がくしゃりと歪む。暁はそれには気付かないフリをして、調子を変えずに続けた。
「格好良いんだから次の恋探しなよ。誰かの為に人殺しまでしよーとするなんて間違ってるケド凄く優しいと俺は思うし。きっと貴方を好きだっていう人居るから。絶対いるから。本当は優しいし少なくとも・・・・・・俺は好きだよ」
「・・・」
 少年はその場にがくりと膝をつき、声を押し殺しながら静かに泣いた。


「とりあえず俺、病院行ってくるよ」
「まあ、それが無難だな」
「何かけろりとしてるけど・・・平気なの・・・?その傷」
 不安そうな深紅に、暁は明るく笑う。
「ははっ。心配してくれるんだ?こんなのすぐ治る治る」
「・・・」
 じっと暁の顔を見つめる深紅。
「ん?何かついてる?」
「暁くんってさ・・・いい顔で笑うよね」
「へ・・・」
 完全に不意を付かれ、思わず間の抜けた声を出してしまった。
 いい顔で笑う?俺が?
「生きた方がいいと思うんだ。暁くんみたいな人なら絶対に幸せになれる。だから、さっきみたいに自分のことを簡単に放り投げるのはやめて欲しいな」
「深紅・・・」
 それは気休めのような、形のない曖昧なものだったけれど。
 胸に深く染み入っていくのを感じた。
「大丈夫だよ。ちゃーんと生きるって。その代わり、生を全うして死ぬ時は深紅達が迎えに来いよ?」
「うん。上に掛け合ってみるよ。・・・・・・綺音が」
「俺!?」
「はははっ」
 やはりそういう面倒なことは全て綺音にまわるようだ。
「まったく・・・それじゃあ、そろそろ俺達は行くぜ」
「あ・・・ちょっと待って」
「あ?」
 踵を返しかけた二人を引き止める。


 暁が何を思って綺音達を引き止めたのか。言葉を待っていると・・・・・・
「珈琲と紅茶、まだご馳走してないじゃん」
「は・・・?」
 突拍子の無い台詞が降ってきた。
「病院からすぐ戻ってくるからさ、もう少し待っててよ」
「え?あ・・・ちょ・・・」
「絶対絶対帰んなよっ」
 念を押すだけ押して、暁は走って行ってしまった。
「な・・・何だ、あいつ・・・」
「楽しそうだったね」
「まあな」
「・・・ご馳走になってく?」
「・・・・・・なってくか」


「俺みたいなやつは幸せになれるってさ」
 走りながら暁はクスクスと笑う。
「そういうわけなんで、もう少し見守ってて。父さん、母さん」

 空を見上げた。
 雪はもう止んでいて、わずかに青空がのぞいていた。


fin


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC

【4782/桐生・暁(きりゅう・あき)/男性/17/学生アルバイト・トランスメンバー・劇団員】

NPC

【鎌形深紅(かまがたしんく)/男性/18/生命の調律師】
【紺乃綺音(こんのきお)/男性/16/生命の調律師・助手】

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■         ライター通信          ■
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こんにちは、ライターのひろちです。
発注ありがとうございました!
そしてこの度は納品が激しく遅れてしまい、本当に申し訳ありませんでした・・・!

暁くんを書かせて頂くのは二度目で、久しぶりだったのでどんな子だったかな・・・と思い出しつつ書きました。
自分を殺そうとする相手に対し「優しい」と言う事ができる暁くんこそが本当に優しい人なんでしょうね。
深紅同様、私も暁くんの幸せを願いつつ。
少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。

本当にありがとうございました!
また機会がありましたら、その時はよろしくお願いします。