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<東京怪談・PCゲームノベル>


Dead Or Alive !?

「おい、深紅・・・」
「何、綺音」
「何だ、あのやたらでかい女は・・・?」
 前方を歩く女性には聞こえないような声で深紅に問いかける。
「何って、八重草・狛子さん。23歳。職業・ボディーガード。リストに間違って載っちゃった人だろ?」
「あんなでかいなんて聞いてねーぞ」
 下手をすれば綺音よりいくらか高いかもしれない。
「あ。何かね、実際は157cmなんだけど、シークレットブーツで高く見せてるらしいよ」
「はあ?せこくないかそれ・・・って、わっ!?」
 いきなり腕を掴まれ、綺音は足を止めていた。前を歩いていたはずの女性―八重草・狛子が鋭い眼光で綺音を睨みつけている。
「・・・狛に何かご用ですか?」
「え・・・?あー・・・えーっと・・・」
「口篭もる所を見ると何かやましいことがあるようですね。さては貴方、敵ですね?」
「て・・・敵・・・?」
「敵とわかれば容赦はしません。覚悟っ!」
「は?ちょ・・・っ待―――」


【護りきるまでは〜八重草・狛子〜】


 殴られた頬をさすりながら、綺音は腹の中に溜まっていた空気をゆっくりと吐き出した。
 落ち着け、自分。相手は女性だ。しかも護らなければならない人間だ。逆ギレして殴ってしまったらここに来た意味が無い。
「いや・・・さ。こそこそ付けまわしてた俺達も悪いとは思うけど、いきなりこれはないんじゃねえ?」
「す・・・すいません・・・。てっきり敵かと・・・」
「あの・・・僕達、”生命の調律師”なんです。僕が深紅でこっちが綺音」
「生命の調律師・・・・・・ですか?」
 首を傾ける狛子に深紅が説明を始める。
 自分達は「ナイトメア」という場所から来たということ。
 そこでは人間の生命のバランスを取る為に「生命の調律師」と呼ばれる者達が調整をしているということ。
 そこに存在する死亡予定リストに誤って名前が載ってしまったということを告げると、狛子は考え込むように顔を俯けた。
「死・・・ですか。でも狛には護るべき方がおりますので、そう簡単に死ぬわけには・・・」
「だから俺達が来たんだよ」
「狛子さんが生き残る為の手助けをする為にね。今日死ぬってことと死因がわかってれば何とか防げるかもしれないでしょう?」
 と、いうか防がなくてはならないのだが。
 仕事を失敗したら報告書を書く羽目になる。深紅ではなく、綺音が。
「そうですか・・・。そういうことでしたら精一杯頑張ってみせますっ!」
「その意気ですよ、狛子さん」
「何か一抹の不安がよぎるけどな・・・」
 ボディガードというくらいだから、決して弱くは無いはずだ。先程腕を掴まれた時も一切気配を感じさせなかった、
 ただ何となく・・・・・・性格が抜けているような感じがするのは気のせいだろうか・・・?
「それで・・・死因というのは何なのでしょう?」
「ナイフで一突き。まあ、殺されるってことだな」
「なるほど・・・。やはり、そうですか・・・」
 狛子は大して動揺する様子も無い。死と隣り合わせの生活をしているのだろう。
 ――だったらまあ、心配する必要は・・・・・・ないか
「お二人にはご迷惑をかけるわけにはまいりません!ここは狛が自力で自分の命を守ってみせます!」
「だってさ、綺音。頼もしいね」
「あ・・・ああ・・・そうだな」
「こう見えても、狛って結構強いんですよ〜」
 自信ありげに胸を張り、どこからか鮮やかな手つきでナイフを取り出す。
「ほら、ナイフとか・・・あっ」
 切れた。
 何がって、狛子の指が・・・だ。
「血が・・・」
「・・・・・・えーっと・・・」
「・・・残念だな深紅。それ程頼もしくなさそうだ・・・」
 心配する必要大ありだったらしい。

「と・・とにかく、深紅様や綺音様を危険な目にあわせるわけにはまいりません!」
 例え抜けてる部分があってもボディーガードとしての心構えは1人前のものらしい。切れた指にバンソウコウを貼った後で、狛子は改めてそう宣言した。
「殺されるということですから、とりあえず目立たないようにブーツは脱いだ方が良いですよね。着物も目立ちますよね・・・・・・?」
「あーまあ、確かにな」
 綺音が頷くと狛子は何やらぶつぶつと思案し始めた。
 着替えを取りに家に戻ろうにもここからはそれなりに距離がある。
 近くにブティックがあったはずだが、所持金が少ないとか何とか。
「金なら俺達出すけど?」
「え・・・?えええええ!?そ・・・そんなっ、助けに来て頂いたというのにそこまで迷惑をおかけするわけには・・・」
「いいから、そのブティックってのはどこだ?」
 まだ何か言いたそうな狛子を無理矢理引っ張って行く。
 彼女が案内した店は上品な雰囲気漂う高級店だった。
「う・・・」
「高そうなお店だね・・・」
「だから狛はご迷惑だと・・・・・・」
 深紅と狛子の不安げな視線が綺音に突き刺さった。
「必要経費だ。後で上に請求すりゃいいじゃん」
「えー?払ってくれるかなあ・・・?」
「いざとなったらお前の給料から抜く」
「そんなあっ!」
 とはいったものの・・・
 あまりに高いものは避け、割と手頃な値段だった地味めのツーピースを買うことにした。隣にあった靴屋で安いシューズも購入する。
 着替えを終えた狛子が試着室から出てきた。
「どうでしょうか・・・?」
「うん、似合ってますよ。狛子さん」
「いいんじゃねーの」
 こういう格好をすると余計に幼く見え、とてもボディーガードには見えない。服のどこかにナイフや拳銃を忍ばせているようではあったが。
「まあ、これで今日一日慎重に行動すれば―――」
 何とか生き残れるんじゃねえの・・・と言おうとしていたのだが・・・
「きゃあっ!?」
 突然あがった女性の悲鳴に言葉を止める。視線を声の方へ向けると、ブティックの若い店員がサングラスにマスクをしたいかにも「あれ」な男に羽交い締めにされ、首元にナイフをあてられていた。
「金を出せ!」
「あー・・・」
 頭が痛くなってくる。
 今時珍しいくらいにオーソドックスな強盗だ。しかも襲うのが銀行ではなくブティックとはまた微妙な。
 店の中に緊張が走る中―――
「あ・・・おいっ」
「狛子さん?」
 狛子が強盗の前に立つ。強盗は狛子が近づいてきたことに気付いていなかったようで、一瞬ぎょっとしたような表情を見せた。
「慣れない者が刃物を扱うのは危ないですよ。今日の所はこれで引き取って頂けませんか?」
 狛子の手には恐らく彼女の所持金であると思われる千円札が二枚。
 ――馬鹿か、あいつ・・・っ
 綺音は胸の内で舌打ちをする。
 そんな金で素直に引く強盗など、世界中捜してもいるわけがない。
 案の定、強盗は「ふざけるな!」と声を荒らげた。女性店員を突き飛ばし、代わりに狛子の体を引き寄せる。鋭利な刃が彼女の首に突き付けられた。
「こ・・・これってまずいよ、綺音・・・っ」
 深紅が落ち着かない様子で時計を見る。狛子の死亡予定時刻は午後1時〜3時の間。現在時刻は1時35分だ。
 狛子が顔をしかめる。
「もしかして狛、これで死ぬんでしょうか・・・?」
「その可能性が高いな」
「はあ・・・。てっきり敵に襲われるのかと。拍子抜けです」
「あんたなあ・・・」
 まるで緊張感の欠片もない。
「ぶつぶつ喋ってんじゃねえ!!」
 強盗の罵声が飛ぶ。
「お・・・おいっ、お前!早く金を用意しろ!でないとこの女が死ぬぞ!」
 強盗から解放された店員が慌ててレジに向かおうとする。それを止めたのは狛子だった。
「出す必要はありませんよ。狛、死ぬつもりはありませんし」
「な・・・っ」
 強盗の表情に焦りの色が浮かび始めた。狛子の態度が予想外のものだったのだろう。まあ、当たり前の話だが。
 綺音は悟る。
 この強盗、始めから狛子を殺すつもりなどない。いや、殺す度胸がない。それをわかっているから、狛子はあんなに落ち着いているのだろう。
「綺音・・・どうしよう・・・」
「どうすっかなあ・・・」
 とはいえ、このままでは埒があかない。
 ここは一つ、心理的に攻めてみるか。
「そいつが言う通りあんたは刃物を扱い慣れてないみたいだな」
「な・・・何を・・・」
「人殺すのって結構大変らしいぜ?上手く刺さないとすぐには死んでくれないしさあ」
「・・・」
「血の量も凄まじいんだろうなあ・・・」
「う・・・」
 想像して気持ち悪くなったのだろう。強盗の顔が歪んだ。
 数分間、沈黙が続き―――
 カラン・・・と音をたててナイフが床に落ちた。

「気の弱い強盗で良かったね」
「まあ、狛子が冷静だったお陰だな」
 綺音の言葉に狛子は首を横に振る。
「いえ、あれは綺音様の説得のお陰ですよ」
「説得っていうか・・・」
 ただの脅しだったのだが。
 時刻は午後4時。もう狛子が命を落とす心配はない。
「正直最初は不安爆発だったんだけど・・・あんたなかなかやるじゃん。これならきっと長生きできるぜ」
「そうでしょうか・・・?」
「生命の調律師・助手の俺が言ってるんだ。間違いねーよ」
 断言してやると、狛子は嬉しそうに柔らかく微笑んだ。
「さて、と。それじゃあ、帰るか」
「そだね」
 踵を返しかけて―――
「あ。ちょっと待ってください」
 引き止められる。
「何?」
「あの・・・お礼に何かご馳走しますよ。狛、腕によりをかけさせて頂きます!」
「・・・」
 綺音と深紅は顔を見合わせた。
 確か狛子のデータには「料理が殺人的に下手」と書かれていなかったか・・・?
「いや・・・ほら、僕達早く帰らないと・・・」
「そう言わずに・・・少しならいいでしょう?」
「や・・・ほんともう・・・勘弁してくれ!」

 それから結局、狛子の手料理を半ば強制的に食べさせられ・・・・・・
 綺音と深紅は三日程寝こむ羽目になった。
 ――本当に本気で、長生きするな・・・あの女・・・


「そんなの当たり前です。あの方を護りきるまでは、狛は死ぬわけにはいきませんもの」


fin


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC

【5206/八重草・狛子(やえぐさ・こまこ)/女性/23/ボディーガード】

NPC

【鎌形深紅(かまがたしんく)/男性/18/生命の調律師】
【紺乃綺音(こんのきお)/男性/16/生命の調律師・助手】

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■         ライター通信          ■
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こんにちは。ライターのひろちです。
発注ありがとうございました。
この度は納品が大幅に遅くなってしまい申し訳ありません・・・

ボディーガードながら大変可愛らしい印象を受ける狛子さんに癒されつつ、大変楽しく書かせて頂きました。
全体通して、天然系の人間はどうにも放っておけない少年・綺音の視点で書かせて頂いたのですが、いかがでしたでしょうか?
楽しんで頂けたなら幸いです。

本当にありがとうございました!
また機会がありましたらよろしくお願いします。