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<東京怪談・PCゲームノベル>


猫が来た。


「本当にご迷惑おかけします」
 苦笑交じりの言葉を奈津ノ介は紡ぐ。
 今は要の腕の中にいる猫、小判。その保護者探しに協力を名乗り出たのは三人。
 デリク・オーロフ、桐生・暁、そして玖珂・冬夜だ。
「それじゃあ行ってくる」
「行ってきまーす」
「暁さん、親父殿マイペースなんで気をつけてー……」
 暁と藍ノ介は店の引き戸を出発準備万端だ。と、外へ出ようとするのを冬夜がちょっと待ってと止める。二人の服の端をちょっと触って、そして笑った。
「……うん、二人の氣覚えたから、ここにその保護者さん来たら知らせに行くよ」
「うむ、世話をかけるな、暁行くぞ」
「デハ、私たちの氣もお願いしますネ」
「うん」
 こちらも出発しようとするデリク、そして要と小判にも触れて、冬夜はもう大丈夫と言う。
「デリクさん行きますよー」
「無事に見つけられたら、とっておきのお茶とお菓子の一つでも振舞って下さいナ」
 要に呼ばれて店から出て行きかけたデリクはふと奈津ノ介に笑みかけそう言う。
「ええ、もちろん」
 引き戸まで出発する彼らを冬夜と奈津ノ介は見送る。
 デリクは腕に小判を抱えて少し離れたところで待っている要のところまで急ぎ足だ。
「お待たせしまシタ、いきまショウ」
「とりあえず小判君がはぐれたところを奈津さんに聞いてきたのでそこまで逆流しましょう」
「そうですネ、頼りにしていますヨ」
 はい、と要は元気良く笑う。
「意外と、眼を離した隙にトカ、ちょっとした隙にはぐれる場合が多いンですよね」
 デリクは小判に笑いかける。
「端で面白いモノを眼にして思わず立ち止まったり、その保護者サンが気づかず先へ行ってしまったトカ、その逆ナド……小判サンが興味を引かれたポイントへ立ち戻ってみるのもいいかもしれまセン」
「さすがデリクさん、ポイント抑えてますね。小判君何かあったら教えてね」
 その言葉ににゃあ、と小判は鳴いてその日本の尻尾を揺らす。わかった、と言っているのはすぐに理解できた。
「それにしても」
「どうしマシタ?」
 要がわさわさ、にぎにぎと小判を触りまくっている、ちょっと挙動不審だ。
「すごく毛並みがいいんですよ……触り心地が良くて……」
「……要サン、ちょっと嫌がってますヨ?」
 デリクが苦笑交じりに言うと要ははっと我に返ってその腕の中の小判を見る。すこし恨めしそうに見上げる金の瞳。我慢も限界に近かったようで少しほっとしているような雰囲気だ。
「ごめんごめん、つい、ついね、もうしないよ、きっと多分」
 要の曖昧な言葉に、こいつまたやるぞ、と思ったのか小判はその腕から逃れるように地に下りる。とん、と軽やかに音も立てない。
「オヤ、信用無しみたいですネ」
「でも私ももうしない自信がないので何も言えません」
 少し残念そうに、でも少し安心した、というような雰囲気で要は笑う。
 てくてくと、小判の急ぎ足の速度にあわせてゆっくりと、デリクと要はその後ろをついていく。小判はきょろきょろとあたりを見回して、その自分がたどった記憶を思い出しているようだ。
「この道をまっすぐ行くと、ちょっと大きな通りに出るんですよね。人も多いし」
「ナルホド。そこではぐれた、というのもありえますネ」
「そうですねー、あ、小判君が止まった」
 そう要が言ってデリクが低い位置に視線を落とすと人が通るのがやっとというくらいの細い路地の方を見ている小判がいる。そして二人の視線に気がつくと一鳴きしてそちらに視線を戻した。
「この場所で何かあった、ということでしょうカ?」
「路地の奥に何かあるのかな……? ちょっとのぞいてみますね」
 要がたたっと走りよってそこを覗き込む。少し薄暗くて何があるかはよくわからなかったらしくデリクの方を向いて何もありませんね、と言う。
「先ほど通ったときには何かあったのかもしれませんネ。どうしますカ、小判サン」
 デリクは小判に決定権がある、と暗に示す。小判は少し俯いてから大通りの方へと歩み出す。
「大通りの方に出るみたいですね。はぐれたって最初に気がついたところは大通りを越えたあたりらしいです」
「はぐれた事に気づいた場所も、重要デスからその周辺もあたりませンか?」
 そうしよう、と小判がにゃあと鳴き二人と一匹は大通りへと辿り着く。
 確かに人並みは多い、というか今まで人がいなさ過ぎたのかもしれない。
「じゃあこの大通り突っ切ってみましょう。ここまっすぐ行くと神社あるんですよ」
「オオ、そうなンですか。このままそこまで探しながら歩いテ、そこまで行ってみまショウ。見つからないようならおみくじを引いて参考にしてみマスか」
「それいいですね! 目標地点は神社で」
 それで小判君もいいよね、と要は聞き、きっとそれでいい、と言ったのだろう。小判はまた一鳴きして尻尾を揺らした。
「人込抜けるときにはぐれるといけないから小判君私の腕に……」
 にこっと笑った手を差し出す要から、小判は一歩引き、かわりにデリクを見上げる。
「おや、要サンに抱き上げられるのは嫌なようですネ」
「アハハハ、みたいですね……」
「デハ、私の肩にでも乗りますカ、視線も高くなって楽しいデショウ」
 少し屈んでそう言った後、小判はにゃあと、きっとそうする、と言ったんだろう。ぴょん、と軽く飛び上がってデリクの肩の上に器用に乗る。右肩に前足、左肩に後足、尻尾でバランスとり、と慣れているようだ。
「思ったよりも軽いデスネ。ん、要サンどうしましたカ?」
「いや……高級毛皮にも負けないような毛皮になるかなって……」
 じっと、真顔で小判をみながらそう言う彼女はちょっと本気のようだ。小判は顔をそらせて何も聞かなかった、という様子だ。デリクはそれに苦笑する。
「小判サンも好かれてますネ。それと要サン、目が本気ですヨ」
「あ」
 小判からの不審な視線を要は感じつつ、大通りを突破。そしてデリクの肩の上が気に入ってしまったらしく、小判はそこから降りようとしない。あたりを見回しながら、いつのまにか神社へと到着している。紅葉の時期は終って葉のない気が立ち並ぶ神社だった。人気もなくすがすがしい空気だけが広がっている。
「よしおみくじ! おみくじ引きに行きましょう!」
「そうですネ」
 るんるんと先陣切って、要はおみくじのある場所へと走る。女の子はやはりこうゆうのが好きですネ、とデリクも少し遅れてそこへ。もうすでにおみくじを引いたらしく、要はその結果とにらめっこしている。お布施を払って、無造作に置かれている箱から一つ引くタイプのものだった。
「私は吉ですー。えーと……」
 真剣におみくじの結果と睨めっこする要に苦笑しながら小判サンも引きますか、とデリクは問う。小判は一鳴きするとその肩から降りて、降りると同時にそこに猫の姿はなく、一人の少年がいる。けれども、肘と膝あたりからは真っ黒の毛並みの猫手猫足のまま、そして頭には耳と尻尾が二本、残っている。
「……小判サン、ですよネ?」
「……小判君、だよね?」
 こくん、と満面の笑みで微笑んだ彼の瞳は金色で、猫の姿の時のものと変わらない。
「人型の方が話も聞きやすいのに……なんで隠してたの?」
「だって、俺猫姿のほうが好きなだから……ごめんなさいです」
「まぁ、面白いからいいデショウ。ところでちょっとその耳、さわらせて頂いてモ?」
 ふくれっ面の要を他所にデリクにどうぞ、と耳を小判は差し出す。ふにふにと、普通の猫の耳と変わらない。
「普通の猫の耳、デスネ」
「うん。そのうち完璧に人型取れるようになるのが夢です」
 えへへ、と小判は照れ、さぁおみくじを引くぞ、と箱に手をつっこみごそごそと一番下から、一つおみくじを引っ張り出す。がさがさとそれを開けて書いてある事に目を通す。
「……朗報来るって書いてます」
 と、小判が言った時だった。おーいと呼ぶ声が聞こえてそちらを向くと、店で会った冬夜が此方へと走ってきている姿が見える。
「さっき千両さん、お店に来たから……また戻ってくるって」
「すごい、おみくじ当たっちゃいました、すごい」
「え、小判君があたったなら私も当たるかも……!」
「ハハハ、要サン、それはどうでショウ」
 要をからかいながらデリクは冬夜を見る。
「ところで、小判サンの姿をみても驚かないンですね」
「え、うん……猫の時と氣は同じだし……不思議なこといっぱいあるし……」
 とろとろと、少し眠そうな雰囲気で冬夜は言う。
「そうですネ。ここでお手伝いしてるのも何かのゴ縁。あなたの名前を教えていただけマス? 私はデリク・オーロフと申しマス」
「うん、俺は玖珂・冬夜って言うんだ。よろしく」
「私は音原要」
「俺は小判です」
 要と小判は片手を挙手するような形で名乗る。なんだか息が合っていてコンビのようだ。
「じゃあ、俺はあと藍ノ介さん達のところにも行ってくるから……」
「ええ、マタ後で」
 軽く手を上げて挨拶をした後、また冬夜は走ってその場を後にする。
 それを見送ってからデリクは二人に向き直る。
「銀屋に戻りまショウ」
「戻ります、千パパ戻ってるかな……」
「センパパ……?」
 要が誰だそれ、とばかりに眉を顰める。小判は笑顔でそれに答えた。
「俺の保護者ですよ、名前が千両だから、千パパって呼べって言われてて」
「千パパですカ……なんだか面白そうな人の雰囲気が漂ってますネ」
「そうですねー。奈津さんと藍ノ介さんて普通の知り合いいませんよねー」
 そんな会話を交わしながら、三人は店へとの帰路に着く。
 そして銀屋へ帰ると真っ先に小判が引き戸を開けて中へと入っていく。
「奈津兄ーただいまです!」
「あれ、小判君人型になったんですね。おかえりなさい」
 たかたかと嬉しそうに奈津ノ介に小判は走りより、その後からデリクと要は中へと入る。
「お茶とお菓子と用意しておいたんですよ。お疲れ様でした」
「さすが奈津サン。用意がいいですネ」
 すでに要は和室に上がりお菓子を物色中だ。年相応の女の子らしい姿をまた目にする。
 和室に上がり一息ついた頃、またからからと引き戸が開く音がして誰かが帰ってきたようだ。
「奈津、わしたちにも茶!」
「はいはい、なんだか僕主夫みたいだなぁ……」
「……その前にそれはわしが隠しておった菓子じゃないか」
 藍ノ介は和室のちゃぶ台に広がる饅頭、干菓子などを見て眉を顰めた。
「ああ、親父殿のでしたか。名前書いてないのでわかりませんでした」
 いかにもわかってますそんなこと、という口ぶり、笑顔で奈津ノ介は言う。それに藍ノ介は諦めたのか溜息をついた。
「奈津サンには藍ノ介サンでも勝てませんネ」
「誰に似てこんな性格になったんだろうな……」
 デリクの言葉に藍ノ介は苦笑しながら答える。
 奈津ノ介の淹れた茶を皆で飲んで、藍ノ介秘蔵の菓子を遠慮なく食べ終りかける頃。
 がらららっ、と乱暴に引き戸が開く音がする。
 もう誰が来たのか、全員わかってそちらを見る。
 小判の保護者、千両だ。
「こっ、こここここ」
「千パパ!」
 小判が嬉しそうに走り寄ると、千両は涙目でそれを抱きとめる。
「こばんコバン小判、小判たあぁーんっ!」
「千パパはぐれたら駄目です」
「ごめん、小判たん、千パパが悪かった、もう放さない、もう迷子にしない、もう一人になんてしない、寂しかっただろー」
「おい、その辺にしとかないといい加減キモいし友の縁切ってここに立ち入り禁止にするぞ」
 冷ややかな藍ノ介の言葉で千両と、千両の面白っぷりを見て固まっていたものは動き出す。小判たんはどうだろう、と誰もが少なからず思い、口に出せず曖昧な笑みを浮かべる。
「いや、すまん、ほら感動とかそのほか色々でうっかりだな、うん。とりあえず小判がお世話になりました」
「皆さんありがとうございました! また遊びに来ます」
 千両が頭を下げるのを見てか、小判も頭を下げる。
「じゃあな藍ノ介、またそのうち遊びに来てやるよ。小判たん行くよ」
「千パパちょっと待って」
 そう告げると小判はデリクと要の方へと来る。
「今日は一緒に千パパを探してくれてどうもありがとうございました」
「今度ははぐれないようにお気をつけテ」
「はい!」
 デリクの言葉に元気よく返事をして小判はまた千両の元へと戻る。尻尾の揺れ方がどこか嬉しそうだ。
「礼儀正しい子に育って……!」
「汝がいたらないから小判は学んだんだろう」
「貴様に言われたくないな……」
「あ?」
「何だ?」
 険悪ムード漂う二人を交互に、心配そうに小判は見上げる。千両の服の裾を引っ張るが気が回らないらしい。
「はいそこまでです。小判君いつでも遊びに来てくださいね。千両さんはしっかり目を放さないようにしてくださいね。親父殿は黙っててくださいね」
 いいタイミングで奈津ノ介が割ってはいる。なんとなく、誰もがこうなるだろうな、と想っていた。
「おい、奈津邪魔を……」
 異を唱えようとする藍ノ介に奈津ノ介は何でしょう、と微笑で答える。親と子でも逆らわせませんとゆう雰囲気に藍ノ介は黙る。
 その様子を見ていたデリクは笑う。
「奈津サンには誰も逆らえませんネ」
「ですね。店の歩く法律ですね」
 その言葉にうんうん、と頷いて要は同意する。
「私もココでは奈津サンにおとなしく従っておきまショウ」
「あ、でもきっとデリクさんは大丈夫ですよ。奈津さんお客様は神様です、な人ですから」
「要さーん、何言ってるんですかー?」
「うわー聞こえてるし!」
 一瞬藍ノ介に向けたのと同じ微笑を要に奈津ノ介は向ける。それだけで彼女も押し黙った。
「じゃあ今度こそ行くな。奈津、またな。皆さんも今日は本当にご迷惑をおかけした。そして感謝している」
「さよならです」
 千両の後を今度ははぐれないぞと小判はついて行く。千両の歩く速度も小判にあわせてゆっくりだった。
 二人を店の出口まで奈津ノ介は見送って、そして戻ってくる。
「皆さん本当に今日はお疲れ様でした」
「中々楽しかったですヨ」
「うん、楽しかったー! 藍ノ介さんといっぱい遊べたし」
「ちゃんと、保護者さんのもとに帰れたしね」
 奈津ノ介は千両さんも小判君も安心していたようですし、と笑って和室にあがる。
 そしてふと、デリクは思い出す。
「そういえば要サンのおみくじはなんて書いてあったんですカ?」
「えっ、内緒、内緒です……!」
「秘密ですカ……残念」
 そう、秘密です、と要は笑い返す。でもその表情は曖昧なものだ。良い様な、悪い様な、どちらとも取れるようなことでも書いてあったのかなとデリクは思う。
「デハ、それが当たったら教えてくださいネ」
「それならいいですよ。小判君あたったからなぁ……」
 今日も一日、楽しい事が多くあったな、とデリクは振り返り、今日の閉めにもう一杯、奈津ノ介の淹れた茶を飲もうと思った。


<END> 



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【3432/デリク・オーロフ/男性/31歳/魔術師】
【4680/玖珂・冬夜/男性/17歳/学生・武道家・偶に頼まれ何でも屋】
【4782/桐生・暁/男性/17歳/学生アルバイト/トランスメンバー/劇団員】
(整理番号順)


【NPC/奈津ノ介/男性/332歳/雑貨屋店主】
【NPC/藍ノ介/男性/897歳/雑貨屋居候】
【NPC/音原要/女性/15歳/学生アルバイト】
【NPC/小判/男性/10歳/猫】
【NPC/千両/無性別/789歳/流れ猫】

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■         ライター通信          ■
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 猫シナリオ御参加ありがとうございました。右手の小指にしもやけを作ってちょっと泣きそうな志摩です。しもやけなんて何年振りですか…!覚えてませんよ…!
 今回は千両と小判投入のためのシナリオということでもありまして……すいませんもう本当におかしなNPCばっかり出して…(吐血)自分でもどうなのとかちょっと思い始めました。でももう遅いですよね、ハイ。もうこのまま走ります見捨てないでやってください(切実)小判はともかく千両はどうだろう。千両はどうだろう。(二回も言った!
 ルート選択がお三方、見事にばらけていただいて三方向から書けて自分としても楽しかったですありがとうございます。私と同じようにデリクさま、冬夜さま、暁さまも楽しんでいただければ幸いです。

 デリク・オーロフさま
 毎度ありがとうございます…!
 神社だしたいなぁ、おみくじひかせたいなぁ…と思っていたところ、このプレイングを持っていただき志摩は運命を感じました。テレパシーですか、エスパーですか、デリクさまの職業は魔術師です(もうワケわかってないぞー!)え、ってことは私が念でも送った、の…!?なんて一人ではしゃいでました。本当にウザイくらいテンション高くてすみません。
 これ以上書いてると本当にもう引かれそうなのでこの辺で!それではまた来年どこかでお会いできれば嬉しいです!