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<東京怪談・PCゲームノベル>


猫が来た。


「本当にご迷惑おかけします」
 苦笑交じりの言葉を奈津ノ介は紡ぐ。
 今は要の腕の中にいる猫、小判。その保護者探しに協力を名乗り出たのは三人。
 デリク・オーロフ、桐生・暁、そして玖珂・冬夜だ。
「それじゃあ行ってくる」
「行ってきまーす」
「暁さん、親父殿マイペースなんで気をつけてー……」
 暁と藍ノ介は店の引き戸を出発準備万端だ。と、外へ出ようとするのを冬夜がちょっと待ってと止める。二人の服の端をちょっと触って、そして笑った。
「……うん、二人の氣覚えたから、ここにその保護者さん来たら知らせに行くよ」
「うむ、世話をかけるな、暁行くぞ」
 藍ノ介が咲きに店を出て、その後を暁は軽くスキップ気味についていく。何事も楽しまなくちゃね、とゆうような雰囲気だ。
「ねー藍ノ介さんどうやって探すの?」
「勘で探す」
「あははっ、なんだか宝探しみたいですよね、おもしろっ」
 暁は元気だなぁ、と藍ノ介は笑う。なんとなくその自分にだけ向けられた笑みが嬉しい。
「よし、しょうがないがあの馬鹿を探すか……」
「ね、ね、その、さっきの猫さんの保護者さんてどんな人なんですか? 見た目とか、性格とか」
「見た目は……猫の姿なら尾が二本で毛色は灰だな。でもまぁ、人型をとっておるだろう。灰色の髪で暁よりぼさーっとして長い感じか。目は金だ。背はわしより少し高めか……性格は馬鹿だ、馬鹿」
「馬鹿って二回も言ってる」
 知能はあるが馬鹿なのだ、と藍ノ介は言う。それも溜息交じりにだ。
「えーどんな人だろっ、楽しみだなー」
「楽しみにするほどではないと思うが……まぁ暁が楽しいならそれでいい」
「うん、なんかさーこうやって共有する時間持てて、こうして一緒に並んで歩いてる。そういう事がさ、スッゲ嬉しいなって思うんだけど」
 そこで言葉を切って、暁はふわりと笑みながら藍ノ介を見上げる。その視線に気がついて、藍ノ介は自分も楽しいし嬉しいと言う。
「千両を探すというのは不本意なんだがな」
「あはは、何か奈津さんに弱みでも握られてるとか?」
「夕飯抜かれるのだ」
 そんな理由で、と笑う暁に、食事は大事なんだ、と藍ノ介は返す。
 と、いつの間にか大通りの端、始まりの地点に出ていたらしい。
「あ、あそこなんか待ち合わせスポットみたいだよ」
「だな。普通にいないな……魚屋とか見たほうがいそうだ」
 猫だからね、と暁は言ってその待ち合わせスポットを見る。恋人同士、手を繋いだり腕を組んだりとなんだかその密接な関係がうらやましい。
 不意打ちで、後ろから藍ノ介にとうっ、と抱きついてみる。それに何をしている、と笑って返されるばかりだ。
「ねー藍ノ介さん」
「なんだ?」
「手とか繋いでみたいなー、とか思ってたり。一緒に手ェ繋いで歩いてみたいなーとか」
 暁は思い切って、そう言う。叶うとは思ってないけれども、でももしかしたら、という希望も持って。
 それに藍ノ介はきょとん、とした表情をし、そして笑う。
「なんだ、いいぞ。ほれ」
 手を差し出す藍ノ介に一瞬暁は驚いて、その手を見て、そしてまた藍ノ介を見る。
「えっ、ほんと!? ほんとにいーの? 嫌じゃない?」
「繋ぐんだろ」
「うっわ、ありがとっ!」
 差し出された手を握って握り返して、それじゃあ捜索の続きに出るか、とまた歩き出す。
 大通りは人の通りも多く、中々活気あふれている。
「お、どうした?」
「なんとなく嬉しくて腕に抱きついてみただけ!」
 ぎゅ、と藍ノ介の腕に抱きつき暁は嬉しそうに笑う。そのまま上機嫌で大通りを中ほどまで過ぎた頃。
「みつからないねー。魚屋にもいなかったし」
「そうだな、じゃあ路地の方でも入ってみるか」
 人の多さに飽きてきたらしい藍ノ介はちょうどよさそうな路地をみつけてそこへ入る。そのまま道なりに進んでいくとまた大通りに出てしまった。
「む」
「あはは! しかもちょっと逆流してるし。さっきあの店みたよー。もう頭の中まっさらにしてさ、適当に身を任せていっちゃうとかどう?」
「そうだな……そうするか」
 そう言って先ほどと違う路地に、そのまま気分で二人は入っていく。もう千両探しなどどうでもよくなってきているようだ。
「いい大人なんだから近くに店もあるしさっさと来ればいいのにな」
「でもおかげで俺は藍ノ介さんと一緒にいられるからラッキー」
 道なり、十字路も深く考えずに気分で。そんな調子で二人は歩く。
「あ」
 と、藍ノ介が言葉を漏らす。どうしたんだろう、とその視線の先をみると一人猛ダッシュしてくるのが見える。
 長身、灰髪、金瞳。
 藍ノ介の言っていた特長と同じだ。
「暁、ちょっと離れとけ。あのままつっこんできそうだ」
「うん」
 手を放すのがちょっと名残惜しい。けれどまたいつでも、手は繋げる気がした。
 暁が手を放して、そして一歩後ろに下がると同時に、その千両は藍ノ介につめかかる。
「藍っ、藍ノ……! こば、こば……」
 ぜーぜー肩で息をして、どれほど走っていたのかと思わせる。目が本気だ。
「小判は他のやつらとおるぞ、見てわからんか汝は」
「っ、だよな、そうだよな! わかったそれじゃあな、またな!!」
 やってきて、すぐに去る。一陣の風のようだ。
「……店で待っておれば帰ってくるのにな。馬鹿だろ?」
「ですねー」
 二人、千両が去っていった方向に視線を向ける。砂や土、埃があがるほどの走りなんて久し振りに見たという感じだ。
 そんな二人の前に突然、黒い影が目の前を落ちる。突然人が降ってきたと、二人とも一瞬びくりと後ろに下がるが、それは先ほど店で会った冬夜だ。
「おおっ、びっくりした」
「あ……ごめん、なさい……ええと、千両さんがお店に来て……それで小判くんたちにも知らせたんでこっちにも」
「そうかそうか、ありがとうな」
「千両さんなら今走っていったけど……ほっといていいのかな」
 暁がその走った行った方向を指差しながら言う。
「また……お店に戻ってくるって言ってたよ」
「そうか、じゃあ戻るか暁と……汝、名は」
「玖珂・冬夜だよ」
「知らせに来てご苦労。戻るか、きっと奈津が茶と菓子を用意して待っているだろう」
 右手に暁、左手に冬夜と、二人を小脇に抱えそうな勢いで藍ノ介はがしっと掴むと銀屋への帰路に着く。
「なんだ、汝は眠そうだな」
「んー……そんなことはない、かな?」
「あー俺も構ってよ!」
「お、暁はやきもちやいておるのか」
「そ、そんなことないしっ」
「やきもちやきさんなんだね」
 天然のボケを冬夜がし、それを藍ノ介が弄って暁も巻き込まれる。そんな風に会話をしながら銀屋に到着だ。引き戸を開けると先に帰っていたらしくデリクも小判も要も優雅に茶会開催中状態だ。
「奈津、わしたちにも茶!」
「はいはい、なんだか僕主夫みたいだなぁ……」
「……その前にそれはわしが隠しておった菓子じゃないか」
 藍ノ介は和室のちゃぶ台に広がる饅頭、干菓子などを見て眉を顰めた。
「ああ、親父殿のでしたか。名前書いてないのでわかりませんでした」
 いかにもわかってますそんなこと、という口ぶり、笑顔で奈津ノ介は言う。それに藍ノ介は諦めたのか溜息をついた。
「奈津サンには藍ノ介サンでも勝てませんネ」
「誰に似てこんな性格になったんだろうな……」
 デリクの言葉に藍ノ介は苦笑しながら答える。
 奈津ノ介の淹れた茶を皆で飲んで、藍ノ介秘蔵の菓子を遠慮なく食べ終りかける頃。
 がらららっ、と乱暴に引き戸が開く音がする。
 もう誰が来たのか、全員わかってそちらを見る。
 小判の保護者、千両だ。
「こっ、こここここ」
「千パパ!」
 小判が嬉しそうに走り寄ると、千両は涙目でそれを抱きとめる。
「こばんコバン小判、小判たあぁーんっ!」
「千パパはぐれたら駄目です」
「ごめん、小判たん、千パパが悪かった、もう放さない、もう迷子にしない、もう一人になんてしない、寂しかっただろー」
「おい、その辺にしとかないといい加減キモいし友の縁切ってここに立ち入り禁止にするぞ」
 冷ややかな藍ノ介の言葉で千両と、千両の面白っぷりを見て固まっていたものは動き出す。小判たんはどうだろう、と誰もが少なからず思い、口に出せず曖昧な笑みを浮かべる。
「いや、すまん、ほら感動とかそのほか色々でうっかりだな、うん。とりあえず小判がお世話になりました」
「皆さんありがとうございました! また遊びに来ます」
 千両が頭を下げるのを見てか、小判も頭を下げる。
「じゃあな藍ノ介、またそのうち遊びに来てやるよ。小判たん行くよ」
「千パパちょっと待って」
 千両に一言告げると小判はたかたかとデリクと要の方へと行き手伝ってくれてありがとう、と言っているようだった。
「礼儀正しい子に育って……!」
「汝がいたらないから小判は学んだんだろう」
「貴様に言われたくないな……」
「あ?」
「何だ?」
 険悪ムード漂う二人を交互に、心配そうに小判は見上げる。千両の服の裾を引っ張るが気が回らないらしい。
「はいそこまでです。小判君いつでも遊びに来てくださいね。千両さんはしっかり目を放さないようにしてくださいね。親父殿は黙っててくださいね」
 いいタイミングで奈津ノ介が割ってはいる。なんとなく、誰もがこうなるだろうな、と想っていた。
「おい、奈津邪魔を……」
 異を唱えようとする藍ノ介に奈津ノ介は何でしょう、と微笑で答える。親と子でも逆らわせませんとゆう雰囲気に藍ノ介は黙る。
「暁よ、奈津がいじめる」
「うーん、今のは藍ノ介さんが大人気なかったからしょうがなかったんじゃないのかな」
「うっ……確かになぁ……けどな、昔は小判みたいだったのに今はどうだあの変わりよう……」
 いきなりメソメソしだす藍ノ介をちょっとかわいいと、暁は思いながら励ます。ぽんぽん、と肩を叩いて背中から抱きついてスキンシップ。
「ほらほら、俺が奈津さんの分も懐いてあげるからさー」
「暁……!」
「はい、それに暁さんもあんまり親父殿甘やかさないでくださいね、調子に乗るので」
 藍ノ介が嬉しそうな声を上げた途端、奈津ノ介は暁ににっこりと笑いかけた。暁はそれに笑顔ではーいと応える。
「じゃあ今度こそ行くな。奈津、またな。皆さんも今日は本当にご迷惑をおかけした。そして感謝している」
「さよならです」
 千両の後を今度ははぐれないぞと小判はついて行く。千両の歩く速度も小判にあわせてゆっくりだった。
 二人を店の出口まで奈津ノ介は見送って、そして戻ってくる。
「皆さん本当に今日はお疲れ様でした」
「中々楽しかったですヨ」
「うん、楽しかったー! 藍ノ介さんといっぱい遊べたし」
「ちゃんと、保護者さんのもとに帰れたしね」
 奈津ノ介は千両さんも小判君も安心していたようですし、と笑って和室にあがる。横を通り過ぎて、それからちょっと間をおいて暁は言葉を紡ぐ。
「ねーまた手繋いでくれるますか?」
 藍ノ介の背中に、背中を預けて。ちょっと体重をかけたりもするがびくともしない。
「そんなに手を繋ぐのが好きなのか? いつでも繋いでやるぞ」
「本当に? やった!」
「まぁ、肩車くらいまでなら可能だな」
 そんなに喜ぶものなのかと、背中から笑っているのを感じる。
「うわー楽しみいっぱい増えちゃったな」
 背中合わせにお互い笑っている。それを感じて嬉しくなる。
 今時間を共有できてるんだと。また、こんな時間をたくさん作れるといいなと暁は思う。
 落ち着ける、そんな気持ちを抱いて暁は笑う。


<END> 



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【3432/デリク・オーロフ/男性/31歳/魔術師】
【4680/玖珂・冬夜/男性/17歳/学生・武道家・偶に頼まれ何でも屋】
【4782/桐生・暁/男性/17歳/学生アルバイト/トランスメンバー/劇団員】
(整理番号順)


【NPC/奈津ノ介/男性/332歳/雑貨屋店主】
【NPC/藍ノ介/男性/897歳/雑貨屋居候】
【NPC/音原要/女性/15歳/学生アルバイト】
【NPC/小判/男性/10歳/猫】
【NPC/千両/無性別/789歳/流れ猫】

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■         ライター通信          ■
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 猫シナリオ御参加ありがとうございました。右手の小指にしもやけを作ってちょっと泣きそうな志摩です。しもやけなんて何年振りですか…!覚えてませんよ…!
 今回は千両と小判投入のためのシナリオということでもありまして……すいませんもう本当におかしなNPCばっかり出して…(吐血)自分でもどうなのとかちょっと思い始めました。でももう遅いですよね、ハイ。もうこのまま走ります見捨てないでやってください(切実)小判はともかく千両はどうだろう。千両はどうだろう。(二回も言った!
 ルート選択がお三方、見事にばらけていただいて三方向から書けて自分としても楽しかったですありがとうございます。私と同じようにデリクさま、冬夜さま、暁さまも楽しんでいただければ幸いです。

 桐生・暁さま
 今回もありがとうございます…!
 暁さまだわーわー!と小躍りしつつ。いつもながらプレイングにトキメキを隠せない自分と戦っておりました…!手繋ぐとか大好きシチュエーションなんで…!(暴走気味)これからもそのまま変わらずにいてください…私のトキメキ…!(しっかり)肩車まで許可出てますからもうおんぶでもなんでもねだってやってください、藍ノ介は息子に冷たくされて寂しがっております…!
 それではまた来年どこかでお会いできれば嬉しいです!