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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


■元旦は子供日和■

「でね、人にはそれぞれ、たくさんの未来があるんです。これはその、どれか一つの未来を自由に見ることが出来る手鏡でしてね」
「どうせ俺の未来を見ようとか言うんだろ」
 仲間内だけで新年会を今まさに開催しようとしていた草間武彦は、くさる。
 せっかく今年こそは楽しく、元旦を過ごそうとしていたのに。
 目の前に何故生涯の宿敵である生野英治郎がいるのかといえば、絶対に開けるつもりはなかったのに、「入れてくださいよぉ」と一晩中ノックし続け、近所のおばちゃんやらに「あんたこの人のたった一人の親戚なんだって? 慕ってやってきたらしいじゃないの、入れてやらなくちゃ可哀相でしょ!」だの、同じビルの会社の人間達に「こううるさくちゃ、仕事も気が散るんだよね」と苦情がきたりで、武彦は中に入れざるを得なかったのだった。
 その英治郎は今、嬉々として和風の手鏡を手に持っている。まだ、布がかぶせてはあったが。多分その布を取れば、未来が見れるのだろう。仲間達の中には面白そう、と興味を惹かれている者も何人か、いる。
「正解です! ではAタイプの未来を見てみましょうかねえ」
 布を取り、何やらあちこちをちょこちょこと押す、英治郎。
 ぱっと、鏡に今とは微妙に違う興信所が映った。
「未来ってこれ、どれくらい未来なんだ? 俺はどれだけ未来でも興信所にいるのかよ」
 なんだかんだ言って自分も見ている武彦が文句を言うと、
「この場合は、そうですねえ……10年は未来ですね。あっ、武彦の子供が出てきましたよ!」
「なっ!?」
 武彦は目をむく。
 確かに武彦によく似た、女の子がこれがまた意外に可愛らしくにこにこと武彦らしきオジサンに抱えられている。
「奥さんは誰でしょうね……」
 英治郎が画面を変えようとする気配が伝わったのか、武彦は咄嗟に、
「わーっ、やめろ! たとえAタイプの場合だけでもそこまで細かい未来は見たくない!」
 と、手鏡の表面を手で隠した───つもりが、勢いあまって押してしまい、気がつけば英治郎の手から手鏡は落ちて、割れていた。
 ───そして、一瞬後にはそこから光が溢れ───、
 なんと。
 興信所内に、ありとあらゆる3〜4歳の子供達が溢れていたのだった。
「なっ……なんだこれはっ!?」
「あーあ、武彦が壊したものだから、Aタイプの場合の、『この場にいる人たちの子供達』が出てきてしまったんですよ。見てください、武彦の仲間達にママとかパパとか言ってますよ?」
 実際、出てきた子供達は、さほど驚いたふうでもなく、自分の「過去のパパやママ」を本能で察することができるのか、抱きついたり笑いかけたりしているところだった。武彦の子供も、例外ではない。
「ぱーぱ」
「あー……英治郎」
 頭を抱える武彦に、にっこりと、英治郎はうなずく。
「分かっていますよ。ちゃんと治してあげます。けれど今回は武彦、自分で墓穴を掘ったんですからね? 次はちゃんと素直に中に入れてくださいね?」
「分かったから、早くしてくれ!」
「最低でも今日いっぱい、長ければ明日までかかります。皆さんで元旦を子供達と楽しんできては如何でしょう? そう、せっかくの元旦なんですし。あ、私の子供も宜しくお願いしますねv」
 さり気なく、英治郎は自分の子供を差し出してくる。
 その子は男の子だったのだが、実に英治郎に似ていて、武彦の子供である女の子───名前を聞くと「たから」と名乗った───たからちゃんに、「けっこんしてください」とおままごとを仲良く始めているのだった。



■元旦たからばこ■
●子供だらけ●

 実際、武彦と零、それに元凶である英治郎を入れて実に12人の「大人」がそこにいたのだが。
 一瞬にして、彼らは「パパ」あるいは「ママ」となってしまった。
 シュライン・エマ、由良皐月(ゆら さつき)、羽角悠宇(はすみ ゆう)、初瀬日和(はつせ ひより)、加藤忍(かとう しのぶ)、玖珂冬夜(くが とうや)、フランシス・ー、草摩色(そうま しき)、CASLL・TO(キャスル テイオウ)はそれぞれに、とてとてと寄ってくる子供達を呆然と見つめるしかなかった。
 まず、シュラインのところにはなんと、武彦の子供であるたからがやってきた。
「まぁま」
 きょとんとしてからにっこり笑って抱きつかれては、さすがのシュラインも悪い気はしない。公衆の面前で恥ずかしくもあったが、武彦以外は皆自分のことでてんてこまいで、幸いというかなんというか今のところ突っ込む者もいなかった。
 ただ、武彦だけが真っ赤になって驚き、しきりに英治郎の首を締め上げて照れ隠しをしていたのだが。
 その英治郎の子供は、たからが「シュラインママ」のところへ行ってしまうと、自分の「ママ」を発見し、嬉々として抱きついてゆく。
「えっ……ちょっと、何かの間違いでしょ?」
 英治郎の息子が抱きついていったのは、最近英治郎と武彦同等とは言えなくとも天敵になりつつある皐月のもとである。
「まちがいじゃないですよ。ぼくのなまえはパパとママからとって、えいめいっていいます、皐月ママ」
「えいめい……?」
 多分間違いなく、英治郎の「英」と皐月が五月のものだから英語で「メイ」、そこからとったのだろう。あとで漢字を聞いてやろうと頭のどこかで思いつつも、ショックが隠せない。しかもこの子供、言葉遣いは丁寧だがとんだやんちゃ者ときて、隣の悠宇に抱きついていこうとした女の子に早速ナンパ(?)をしかけている。
「おじょーさん、ぼくとけっこんあそびしてください」
「コラ。ガキの分際で俺の娘にちょっかい出すな!」
 きょとんとしていた悠宇だが、ストレートロングの銀髪に碧眼、自分に外見色がとてもよく似た人懐こそうで好奇心旺盛そうな女の子に「パパ、みつるのなまえは、みつるだよ」と言われたところを「えいめい」にひったくられそうになり、無理矢理みつるを抱き上げる。
「あーそっちに行かない! えーと……とりあえずおとなしくして! あちこち行かない!」
 皐月が「えいめい」を抱っこすると、悠宇はようやく自分の娘をまじまじと見つめる。まだ実感は沸かないが、事務所の机の上にあった漢字辞典を引っ張り出し、名前の漢字を手で当てさせ、「美鶴」だと知ると、
「うん、いい名前だな。こっち向いて笑ってみな、美鶴」
 と、早速いつも持ち歩いているカメラを取り出しパシャッと一枚。やはり彼にとってこういう場合、写真は外せないものらしい。
「悠宇、こっちも一枚お願い」
 いつになく弾んだ声の日和の声に振り向く悠宇。その腕の中には、黒髪茶目のいかにも人見知りそうに日和にひっついている可愛い男の子が抱っこされている。
「そ、それ……日和の子か?」
「うん、そうみたい。拓海(たくみ)くんていうんだって。チェロのレッスンに忙しいから、結婚とかママになるとか遠い夢じゃないかと思ってたんだけど……希望はあるって考えてもいいわよね……」
 一瞬彼氏の存在も忘れてうっとりする日和に焦る悠宇だが、せっかくだからと写真を撮ってやる。
「やれやれ、今回も大変ですね、草間さん」
 言われて、シュラインが「どうやってこの人数で子供と元旦を過ごすか」を皐月や英治郎達と考えているのをぼんやりとへたりこんで見ていた武彦、ちらりとその声の主である忍を見上げる。
「……お前も人のこと言えないみたいだが?」
「え?」
 聞き返したと同時に、忍のズボンを、はっしと掴まえ「パパ」と呼んだ女の子がいた。利発そうな目のきりっとした、忍によく似た綺麗な子である。
「て、……私を捕まえてパパと呼ぶ子がいる!」
 忍の混乱も当然のものだろう。
 そんな忍の隣で、こちらも利発そうな、だがやや口の悪そうな長い黒髪の巻き毛な部分以外はほぼフランシスそのものといった感じの男の子の手を取りつつ、フランシスがこの前の大掃除の時のようにヤンキー座りで座っている。如何せん、この狭い興信所にこの人数、仕方がない格好とも言えよう。
「あなたこの前と違って随分落ち着いてますね」
 忍の言葉に、フランシスは頷いてみせる。
「父親の威厳、て最近よく言われんじゃん? ぶっちゃけ俺そうゆうの好きじゃない。互いにリスペクト出来てればんなもんいらね。今回は割りと落ち着いてるわ。こないだ? こないだは俺どうかしてたね。俺の子に生まれるとは不憫な奴め。にしてもこいつァ似過ぎててもう呆れるわ」
「確かに似てはいますが」
「親父、俺は『こいつ』じゃねぇ。ノゾミだ」
 ちびフランシスがぶっきらぼうにそう言う。とても3〜4歳の子供の口調とは思えない。だがフランシスはさもそれが当然とも言うように「ああ、ノゾミだったな。ノゾミ」とあやしてるんだかなんだか分からない会話を親子で繰り広げている。
 そんなやり取りを見て忍は、ふうとため息をつくと、まだ自分のズボンの裾を掴んで自分を見上げている女の子に名前を聞いた。志乃(しの)、とかえってくる。志乃の肩を掴んでしゃがみ、目線を合わせて忍は真顔で言った。先刻まで「天涯孤独の私に子供が?」な心境だったが、なにやら悟ったらしい。
「私ら職人はいざという時のため(捕まった時)家庭は持たないものですが。まあ、私の父親の例もありますしね。いずれにしよ、わが子よ、今言いたいことは二つ、人様に迷惑をかけないように。泥棒にはなるな。て、父親が私に言った言葉ですがね。さあ、事態が片付くまで、草間さんのお手伝いをしましょう」
 因みに忍の父親とは、老盗賊のことだったがまだ小さな志乃には分からないようだ。だが、「おてつだい」という言葉は理解できたようで、
「はい。パパ」
 とこちらも3〜4歳にしては凛とした声で返事をした。
 そのまた隣では、パニックを起こしている色がいた。「ああ待て! それは依頼書だから落書きすんな! ったく、元気良くて乱暴者で――─俺とは違って心身共に健康で、悪餓鬼だよこいつ。ああ、だから他の子の服にも落書きするなって!!」
(子供っていうか――俺の歳だと想像も出来ねーや。つうか十年後には子供居んの俺? 子供ってより弟って感じだなぁ)
 内心はこんな感じだったが、実際はゆっくり悩んだり考えている暇もない。すぐ隣にいた黒髪黒目の可愛らしい、おしゃまなしっかりもの、といった顔つきの女の子の服に落書きする息子を怒鳴る。
「えーっと……お前名前、透(とおる)って言ったな。透、怒られたことは二度やっちゃ駄目だ! いいかわかったな!?」
「ごめんなさい……」
 ガキ大将風に遊んでいた透だったが、色パパに怒られてすぐに謝る。だが、おしゃまな女の子のほうが黙っていなかった。
「あたしにもあやまりなさいよ。これ、パパが買ってくれたおようふくなのよ」
「ああ、こらこら。和迪(かずみ)。一方的に言うものじゃあないよ。向こうの言い分もきかないとね。それが喧嘩っていうものなんだよ?」
 そんなことを吹き込んでいるのは、実際は放任主義である冬夜である。おいおい、と言う色の足元で、再び剣呑な空気が広がってゆく。
「でも今のは一方的に向こうがしてきたんだから、和迪の言うことも確かだ。ということで草摩さん、息子さんに謝ってもらってもいいかな?」
「あ、ああ」
 色は、確かにその通りだと思ったので透を言い含め、和迪に謝らせた。
「皆さん、賑やかになりましたね」
 一方、唯一(?)ほのぼのとしているのは、CASLLと零である。それぞれ男の子と女の子が、持ってきた玩具で遊んでいるのを見つめている。
 男の子のほうは零の子らしく、女の子のほうはCASLLの子である。とてもCASLLの子とは思えないほどに似ても似つかない可愛さ、透き通るような白い肌、赤い大きな目にしかもまつ毛が長く、赤いストレートの髪である。名前は「RI(アーリ)」と言うそうで、由来は何か分からないがとにかくCASLLは可愛くて可愛くて仕方がなかった。



 一頻り親子の邂逅が終わり、悠宇が引っ張りだこになって写真を撮り終えると、武彦が号をかけた。
「よし、俺なりに計画を立ててみた。みんなの意見もさっきそれぞれ言ってもらったからな。出来るだけ取り入れるつもりだ。まずは食材探しも兼ねて初詣だ」
 きゃーっと子供達が騒ぎ出す。言うまでもなく、初詣は子供の一大イベントである。
 ざっとやることを書き出してみた武彦の但し書きを見ると、こんなことが書いてあった。

 1.初詣兼食材探し(今日はコンビニ程度しか開いていないため)
 2.初詣では人ごみに注意。おみくじや屋台、甘酒などにも注意
 3.子供達を外で遊ばせ、危険がないか見張る役とその間に、集めた食材で料理する役とに分かれる
 4.料理と同時に風呂の用意。外では怪我等に注意
 5.泊まる場合も考え、絵本や子供向けビデオも経費で落として買う(経費は、今回の件は発端は英治郎でも原因を作ったのは武彦であり責任があると追求されたため)
 6.その他、各自したいことを心置きなくしてやること(もしかしたら未来に戻るのが早くなるかもしれないから)

 ようやく慣れてきた頃に、そうして元旦は遅れ馳せながら、始まった。



●初詣は大賑わい●
 近くの神社はそれほど有名ではない。
 有名ではないが、やはりそこは元旦の昼前、寝正月の人間達がこぞっておまいりやらおみくじ引きやらに来ていた。
「いいですねー、皆さんしっかりお子さんの手を繋いでくださいねー♪」
 英治郎が、あわや誤解を招くようなことを大きな声で言ったので、自然と視線が全員と全員の子供達に注がれた。ひそひそと、「今時の子供は……」だの「あらでもあの子、よく似てるわよ、ほら」だの聞こえてくる。
「早く行きましょう」
「そうね、ごめんなさいね」
 さすがに赤くなったシュラインが、こちらも赤くなっている武彦と片手ずつたからの手を掴んで、何故か謝って英治郎と自分の子、えいめい(漢字は「英明」と判明した)の片手をこちらも掴む皐月と共に足早に通り過ぎる。
 悠宇と美鶴、日和と拓海、忍と志乃、フランシスとノゾミ、冬夜と和迪、色と透、CASLLとRIもそそくさと鳥居をくぐる。
 屋台に飛びつこうとする子供達をいさめ、まず五円玉やら十円玉やら一円玉やらを握らせ、遠くから、あるいは肩車をしてやって放り投げさせて願掛けというものを教えてやる。
「親父、がんかけって俺はしなくてもいいんだろ?」
 ひとり冷めたような口調のノゾミは、早くも屋台の射撃に目を奪われている。
「あ〜、射撃は駄目だぞ確か年齢制限が……輪投げならいいんじゃね?」
 フランシスが指さすと、「だっせー」とため息をつく。それでも一生懸命やって見事景品を取ってきた。
「結構熱くなってたじゃねぇか」
 ぽん、とフランシスが頭を撫でればそれすらも冷めたように、景品をかかげてみせる。
「これがほしかったからな。そんだけ」
 景品はなんと、悪魔の形をした人形。一瞬、本当に自分の子かとまじまじ見たが、子供というのはかくも残酷なものなのかとフランシスは覚悟したのだった。
 一方、普通にりんご飴やらおもちゃ屋さんやらおみくじやらたこ焼き屋に惹かれている子供達である。
「なにか食べたいものあるか?」
「クレープ」
「女の子だなあ……」
 こちらはしっかり肩車もしてやっている悠宇、しみじみと、はや父親の感覚である。チョコクレープを買ってやっていると、頭上で美鶴のぴしっとした声がした。
「透ちゃんに和迪ちゃん! またけんかしてる! 透ちゃんも、お屋台壊したらだめよ!」
 クレープは後回しにして悠宇パパの肩車からおりると、高いから見渡せたのだろう、和迪が腰に手を当てて、なにやら透と言い合いをしている。すぐそばのたこ焼き屋の屋台の一部が小さな手の形にやぶれ、ひたすら色が屋台の店主に謝っているので子供のほうにまで目が届かないのだ。
 そして何故か、和迪の後ろで、りんご飴の棒だけを持って拓海が泣いていて、日和が慌ててあやしていた。
「拓海ちゃんはおとなしいのよ、せなかあんなに強くおしたら、りんごがおちちゃったじゃないの。あたしみてたんだから」
「お前、謝りなさい謝りなさいってそればっか! おとこなんだから、ちょっと強くおしたくらいでなくなよなー、おんなのうしろでみっともねー」
「透くん! パパにいいつけてやるから!」
「らくがきのふく、にあってるぜ」
 昨今の3〜4歳の子供というものは、こんなにも口達者なものなのだろうか。
 誰もがそう感じたに違いない。
 結局、「子供の喧嘩に親が口を挟まないほうがいいよ〜」と言う冬夜の言い分ももっともだったので、喧嘩に気づいて、おもちゃ屋さんで羽子板やら双六やらをたからと英明と共に買っていたシュラインと武彦、皐月と英治郎はとめようとしたのだが、黙ってみていることにした。
 だが、元はといえば屋台を壊したりちょっと乱暴な気がしないでもない透が悪い、と悠宇パパの肩車ですべて見ていた美鶴が言ったため、おみくじを親子で引いてほのぼのとしていた零親子とCASLLにRIも含め、子供談義となった。
「はい」
 志乃が手を挙げる。こちらはこちらで、何をほしがるでもなく初詣の様子をじっと見ていたのだが、ふと忍の脇で発言を主張した。
「志乃ちゃん、どうぞ」
 たどたどしくはあってもしっかりした口調で、裁判官のような和迪。発言権を得られた志乃が、冬夜に続いてもっともなことを言った。
「ひとのことに口をだすのだめっておもってたけど、志乃からみて、透くんのパパはしつけがわるいとおもいます」
 まさか、こんな子供の口からしつけなんて言葉が出ようとは。パパである忍も思っていなかった。
「十年後の世界って、今よりもっと子供がおませになってるのかしら」
 少し心配そうなシュラインに、けれどたからが微笑んで、
「おませより、たからにはいっぱいたからものがあるの」
 と、唯一子供らしいことを言ったので、ちょっと嬉しくなってしまう。
 皐月がわざとらしく英治郎をじろりと見てから、ため息をついた。
「いいわねシュラインさん、あなたの子供はまともで。というか英明のほかの子はみんなまともだわ。ませてるけど」
「英明ちゃんは英明ちゃんで、味があっていいと思うのだけれど……」
 苦笑するしかないシュラインである。
 そんなたからに、RIが話しかけている。
「たからちゃん、おみくじ、たからちゃんと英明くんのぶんもひいてきたです〜」
「ありがとう!」
「ありがとうございます。おれいにおむこにいってあげます」
「またアンタは……性格もコピーされてるとしか思えないわ」
 皐月が、一度ぺしっと英明の頭を軽くたたいて嘆く。しかし英明にこたえるはずもないのであった。
「こっちがたからちゃんのぶんで、こっちが英明くんのぶんです〜、あーりはだいきちがでたです〜」
「うまれたばかりのうちのあかちゃんにも、おみくじひいてくの」
 たからの言葉に、転びそうになるシュライン。多分ほのぼのおおらかそうな家庭なんだろうなあとは思ってはいたが、もしや大家族なのではなかろうか。いや、シュラインと武彦の年齢を考えれば、たからのほかに何人か既に子供がいてもおかしくはない。なにしろ最低十年は後の未来である。
 シュラインが尋ねてみようと思ったその時、「はんけつ!」と和迪の声が響き渡る。「喧嘩しながら力加減って覚えるんだよね〜」とにこやかにイカ焼きを食べつつ暖かく見守る冬夜パパである。
「わるいのは、透くんのパパのしつけだとはんめいしました!」
 なにやらわけの分からない結果になり、けれどわあっと拍手をする子供達。一方慌てたのは災難続きの色である。
「ええと……し、躾が出来てないって言われても、ふ、不可抗力だろ!? そ、外行ってきまーす!!」
「色パパ、ここは外だぜ」
 にたりと笑うフランシス。その横で同じタイミングでノゾミも笑うものだからその不気味な親子の一風景に、思わずシャッターを切ってしまった悠宇である。
 さて判決が出たので志乃と、更にすべてを見ていた美鶴の助言もあって透はしぶしぶ色に背中を押されて拓海に謝り。
 初詣は人が多いから嫌だと最初日和に言っていて、実際来ても日和と手を繋いで離れなかった拓海だが、美鶴が気になりだしたようだった。
「まま」
 日和のところにとってかえり、落ちたりんご飴のかわりにと新しく日和が買ってあげたそれを受け取りつつ、真っ赤な顔をして言う。
「たくみね、みつるちゃんといっしょにいたい」
 そこで何故か赤くなる、親の悠宇と日和である。
「ノゾミちゃんのぶんもおみくじあるです〜、みんなぶん、ぱぱにかってきたもらったです〜」
 RIの言葉に、たからと英明以外の子供がRIに群がる。
 拓海はちょっとはずかしそうに、美鶴に「みつるたちもいこう」と手を引っ張られ、ついていく。
「パパ、志乃は吉、だったよ。いいどろぼうになれる?」
 見せに来た志乃の言葉に、忍は頭が痛くなった。これは遺伝なのだろうか、十年後の自分がインプットしてしまっているのだろうか。
「志乃、とりあえず『ここ』にいる間だけは泥棒のことは忘れなさい。いいですね?」
「はい、パパ」
「志乃ちゃんがどろぼうになったら、たからがつかまえなくちゃいけなくなるよ」
 こちらもおみくじの金運のところを見ていたたからが、ぽつりとそんなことを言う。こちらも親の影響が出ているのだろうか。いやしかし、掴まえるのは警察の仕事だと思うのだが子供だから湾曲して覚えてしまっているのかもしれない。
「あーりのぱぱは、いつもどこかでつかまって、あやまられるです〜」
 そこでCASLLに視線が集まる。なにしろ性格とは正反対の、悪役顔のCASLLである。想像してしまって、思わず一同の笑いを誘ったのだった。
「ぱぱ、げんきだすです」
「わかってます。皆さんの笑いを誘えたなら、パパは本望です」
 うう、とうれし泣きだか切なさ泣きだか分からない涙を流すCASLL。
 色は結局、神社を出るまで子供に振り回されっぱなしで。フランシス親子はあちこちで記念写真を悠宇に特別多く撮って貰い。冬夜は帰り道、
「コンビニでもカレーの材料くらいは売ってるからね」
 とコンビニに寄って、武彦の経費で落としてお菓子やらも一緒に買ってきた。
「ちょっとくらいならいいよな、縁起物だし」
 と悠宇が甘酒を、本当に少しずつ子供達に分けて配り、その風景を今度はシュラインが撮る。
「シュラインさん、コンビニにも結構材料あったし、これで事前にうちで作ってあった御節も入れたらなんとかなりそうじゃない? カレーはいい案だと思う」
 皐月が、帰る道々、冬夜のコンビニの袋を見せてもらって提案する。シュラインも覗き込んで、これとこれと……と考えて、こくりと頷いた。
「そうね、おでんの素まで売ってるとは思わなかったわ。冬夜くん、なかなか鋭いのね。大人数の料理にはカレーにおでんは最高。御節は有り難く頂くわね、興信所にも御節を用意してあったけれど、この人数だからメインはおでんとカレーにして、御節は少しずつ。この果物でフルーツポンチのデザートでも作りましょ」
 今日はカレーとおでんと御節、フルーツポンチ、と今夜のメニューが告知されると、子供達は全員手放しで喜んだ。やはりどんなに冷めていてもおしゃまでも、そこは子供らしさなのだろう。



「はーい、とりますよー。そこのパパ、あまりこっちのほうを睨まないでくださいねー」
 写真館の店主が、感動するCASLLに怯えながらそんなことを言う。
 夕方にならないうちにと、やっと探して見つけた、あきのある写真館である。
 CASLLが自分の子供に晴れ着を着せてやりたいというので、それは名案だということになり───どの親も結局は自分の子供の晴れ姿をこの目で見てみたいようだった───今現在、順番待ちでそれぞれに晴れ着に着替え、まずはひとりずつで撮り、最後は大人も混ぜて全員で撮ろうということになったのだが、さすがにそれは悠宇も「それならちゃんとしたトコのほうが、どうせならいいだろ」と提案し、こういうことになっている。
 RI、たから、英明、和迪、美鶴、拓海、ノゾミ、志乃、透、とくじ引きで決めた順番通りに撮り終わり、今度は大人も入って全員で撮る。もちろん、大人も晴れ着の貸し出しもしている、この写真館のものを着ていた。
「はーい、お疲れ様でした! 出来上がりは混んでますので少し遅くなると思いますが、必ずこちらの住所に届けますので」
「ああ、よろしく頼む」
 武彦が、名刺を渡しておいたのでそちらの手配も万全である。
 確実に渡すため、いったん興信所にまとめて送ってもらうかこちらが取りに来るかして、すぐにそれぞれの大人のところへ送るつもりだった。
 興信所へ帰る道すがら、少し離れたと思ったらCASLLが人攫いと間違われるハプニングもあったが、大勢の仲間達に弁明され、あわや元旦に子供の目の前で逮捕さる、という新聞記事は免れたCASLLだった。



●夕方からは、遊んでお風呂●

 英治郎が妹、ユッケ・英実に頼んで、実家の財閥から届けさせた子供用防寒服や着替えを、すぐに興信所に届けさせると、同時に子供達を外や中で遊ばせて、その間に料理班は料理を、子供の目付け役は目付け役をということになった。
 外で遊ぶのは透に和迪、たからにRI。
 中で遊ぶのは美鶴に拓海、英明に志乃、ノゾミ。
 たからとRIは羽子板で羽根突きをして楽しみ、透と和迪は意外に気が合ったようで隠れ鬼をして遊んだ。もちろん、それぞれの親が目付け役である。
 たからの場合はシュラインが料理をするので武彦が目付け役となった。
 透は派手に転んで膝小僧に怪我を作っても、それが日常なのだろう、構わず笑って走り回る。
「ああいうところ、透くんのいいとこだね」
 冬夜に言われ、思わず照れる色である。
「どんな子供にも、いいところは必ずあるもんなんだな」
 しみじみと色が言うと、「そうだなあ」と武彦が相槌を打つ。
「私はもう……可愛すぎて手放したくありません!」
 CASLLが涙ぐみつつ言うので、「それを世間一般人の前で言うなよ? 確実に変態か誘拐犯だと思われるからな」と武彦がしみじみと耳打ちした。聞こえてしまって、思わず深く同意してしまった冬夜と色である。
 大人たちがそんなことをしているうちに、ちょっとした事件が子供達の中で起きていた。ほんの少し目を離した隙である。
 珍しく、和迪が目に涙をためていた。どうやら、通りがかった近所の悪ガキ大将達に、「見ない顔、よそもの」として髪を引っ張られ、転ばされたようである。
 これには思わず冬夜や色も駆けつけようとしたが、それよりも早く。
「なっ、なにすんだよっ」
 悪ガキ大将が派手に転んだ。見ると、この時期に虫を見つけて採ろうとしていたはずの透がいつの間にか駆けつけていて、和迪の敵を討ったようである。和迪の前にかばうように立ちはだかり、悪ガキ大将を、正統派ガキ大将とすぐに分かる顔つきで睨み下ろしていた。
「そっちがわるいことしたんだろ、もんくいうならそういうことすんなよ」
「透くん、いいわよ。あたし、なんともないもん」
 そう言う和迪と透を見て、今度は冷やかし始める悪ガキ大将達。今度こそ透は頭にきて、数人相手にとっくみあいの喧嘩になり、難なくのしてしまったのだった。
 泣いて逃げる相手の子供達を見て、色は透の頭を抱きしめてやった。
「やるじゃんか、透」
「こんなのいつもだ」
 いつも、こんなことをしているのだろう。意外なところでいい一面を見て、嬉しさを隠せない色。その間、冬夜は優しく、和迪の髪の毛を梳いてやり、抱きしめてあげていた。
 興信所の中では、おままごとが繰り広げられていた。意外にもノゾミが乗り乗りである。こういった芝居がかったことは楽しいらしい。
 未来から持ってきていたお人形もあるので、それも交えて、屋台で買ってきた簡単なおままごとセットと人形ハウスで遊んでいる。
 台所にはシュラインと皐月、日和も手伝って大人数のカレーとおでん作りである。
 英治郎は当然のごとく鏡の修理にいそしみ、悠宇は外やら中やらあちこち飛び回って写真を撮りまくっている。
 忍は、なかなかに「おままごと」のいいシチュエーションを発案する自分の子供、志乃に内心感心しており、また、ちょっとした自慢心も芽生えていた。フランシスはといえば、時折ふいにノゾミに話を振られても難なく返している。まさにツーカーの親子であった。
 こうして見ていると、ちょっとした授業参観のようだ。
 美鶴と拓海が夫婦役、英明は「美鶴ちゃんのあいじん」と言いかけて、ノゾミ以外のほかの子供がきょとんとしたところへ皐月の鉄拳が入って仕方なく「拓海くんのゆうじん」にしたようだ。
「親父、おとなのせかいも子供のせかいもたいしてかわんねぇな」
 ノゾミが言うと、
「まったくだ」
 と深く頷くフランシス。しかしどこでアイジンなんて言葉覚えたんかね、とふと十年後の自分を顧みてしまう。
「なんだか夫婦関係も大変そうね」
 シュラインが苦笑して、鉄拳を入れて戻ってきた皐月につい言ってしまう。皐月もそれは同感だったのであえて異を唱えず、
「本当……どう進めば私と生野さんていう夫婦が有り得るのか想像もつかないわ」
「そう? 俺、なんとなく最近になってだけど、ちょっと想像できるけど」
 墓穴を掘ったのは悠宇。がーん、という感じで大根をゴトンと流しに落としたのを、慌てて日和が拾って悠宇を振り向く。
「悠宇! 失礼なこと言っちゃだめよ」
「あ、悪い。ごめん皐月さん」
「……貴方達、子供を未来に返したくないようですね」
 始終を聞いていた、鏡を治す手を止めて、にっこりと英治郎が言ったので、その場はおままごとをする声しかしなくなった。



 外から子供達が帰ってくると、あとは煮込むだけ、そしてフルーツポンチも冷蔵庫にしまったシュライン、皐月、日和も加わって、英治郎とその助手をしてくれている零とその子供を抜かした大人と子供全員の双六、そしてカルタ大会となった。
 途中、シュラインと皐月が抜け出してお風呂の用意や布団の用意などもしておく。日和も少し抜け出して、今日も実は連れてきてずっと興信所の番犬をしてくれていた愛犬バドに、早いご飯をあげた。
 このバドにも子供達は興味を示し、幸い誰もこわがることなく、むしろバドのほうがいい迷惑なほどに構っていた。耳を引っ張ってみたり、おやつをあげてみたり。ミルキーをあげたときには、さすがにバドは頭がいいので食べなかったが、日和が慌ててとめた。ミルキーなんてあげてしまったら、大変なことになるのを知っていたのだ。何故か。
「犬にミルキーとかねばねばするお菓子はだめよ? 歯にくっついて口があかなくなっちゃった犬もいるの」
 日和の犬知識に、次から次へと質問が浴びせられたのは言うまでもない。
 カルタでは、圧倒的なほどに志乃が勝った。思わず英治郎が、なにやら怪しげな物体を取り出して志乃の頭に当て、その体温計のようなものを見て驚いたほどである。
「すごいですね、この子のIQ。300もありますよ」
「そんなにあるんですか!?」
 ちょっと自分の子供が自慢ではあったものの冷静さも失っていなかった忍が、驚いて身を乗り出す。英治郎は、しかし「冗談ですよ。そんなにあったら、短命で終わってしまいますから」と言ったのでさしもの忍も、この男、どうしてくれようと思った。
 だが、IQが普通の子供より高いのは本当らしい。子供達が意味も分からぬまま面白がって自分も自分もとはかってもらったところ、志乃とノゾミがダントツで高かった。ほかの子供達はそこそこに高かったり普通だったりといった感じである。
「志乃ちゃんはみんながよめないごほんでも、よめるんです〜」
 あーりもときどきよんでもらうです、というRIの言葉に、一同からほう、とため息が漏れる。
「忍さん、一体どんな奥さんと出会ったの?」
 面白そうに尋ねる、冬夜。
「いや、案外もう出会ってるかもしんねーよ?」
 と、もっともなことを言う色。
「出会いは身近なところに落ちてるって言うからなァ」
 駄目押しでフランシス。
「そっそうだ美鶴、あのな、パパ、教えてもらいたいことがひとつあるんだけどさ……」
 思い出したように美鶴に何か尋ねている悠宇。察したシュラインが、微笑ましげに、ちょっとからかい気味に、
「日和さんじゃないかしら?」
 と、こっそり耳打ちすると悠宇は真っ赤になった。
「なんだ青少年、どうした? つーかお嬢ちゃんと並んで子供二人、ピッタリファミリーに見えるぜ俺には」
 フランシスがからかうように言うが、実際改めて見てみると、悠宇と日和、そしてそれぞれの子供である美鶴と拓海は外見がというよりも雰囲気そのものが家族といった感じである。
「拓海くん、美鶴ちゃんのお嫁さんにはなれないようですね」
 こちらも少し微笑ましくなってそんなことをいう忍だが、拓海にとっては一大事な一言だったようだ。ショックを受けて、青ざめる。
「でもまだ分からないわよ? 案外、拓海くんは悠宇くんのお兄さんか弟さんかお姉さんか妹さんか、とにかく兄弟の子で美鶴ちゃんとは従兄妹、になるとか」
 皐月がそんなことを言うので、CASSLまで微笑んで、
「まるで悠宇さんと日和さんは将来夫婦決定の感じですね」
 と言った。
「ばっ、そ、あ、」
 悠宇ですらそんな感じなのだから、隣にいる日和が言葉を出せるはずもない。ただただ真っ赤になり、もじもじと拓海を抱っこしてうつむくのだった。



 そんなこんなでカレーとおでん、そして御節や、冷蔵庫の残りものなどで作った散らし寿司や手巻き寿司、フルーツポンチなどを美味しく全員で頂くと、お風呂タイムになった。
 時刻は夜の8時を回るところである。
 この年齢の子供は、既に眠っている頃だ。実際みんな眠そうだったが、お風呂が残っている。
 この人数では興信所のお風呂は無理なので、近くの銭湯に行くことにした。
 銭湯、ということでまたまた眠気を吹っ飛ばすことができるのだから、子供というのはすごいものだ。それでもかなり眠そうではあったものの、男性班と女性班とに分かれ、子供達をお風呂に入れた。もう周囲の目などほぼ気にしていない。
 歯磨きも一緒にさせたのだが、ここまでするのに結構難儀をした。
 まず透は暴れる。
「いやだ! はみがききらいだ!」
 それを抑え付ける色。
「虫歯はもっと嫌いだろ!? そのままにしてたらもっといやぁなことになるぞ!」
「志乃はちゃんとみがけます」
 反して志乃のほうはきっちりと、さすが泥棒の娘というのは関係ないだろうか、器用な手つきでしゃこしゃこと自分で歯磨きをする。ただ年柄、やはり少しは甘えたいようで、髪の毛だけは忍パパに洗ってもらった。
「どこに出しても恥ずかしくないね、アンタの子供」
 その隣で、こちらも自分で歯磨きをしているノゾミに時々「そこ、今一本飛ばしたぞ」とツッコミを入れつつフランシスが忍に笑いかける。
「まあ……私も昔こんな感じだったのかもしれませんね。子供を見ると自分の子供時代が分かるとも言いますし」
 和やかに、そんなことを思ってしまう忍。
「あたし、おくの歯だけみがけないの。パパ、おねがい」
 和迪が歯ブラシを差し出せば、放任主義ではあるが頼まれたことは大抵拒まない冬夜が優しく磨いてやる。
「和迪は人参好きになったらもっと綺麗になるね」
「パパ、それほんとう?」
「うん、本当」
 そんなふうににこやかに言ってみせるところも、色から見ればすごいな、と思ってしまう。実は冬夜、シュラインに頼んで人参を動物に模ったものを数個、和迪のお皿に入れておいたのだ。それで少しは人参嫌いが治った模様である。
「あのねパパ、美鶴も拓海くんといっしょにおふろしたかったの」
 髪を洗ってもらいながら、美鶴がそんなことを言ったので、ここぞとばかりに悠宇は更に尋ねる。どうしても、とある名前が出てはこないかと気にしているのだ。
「拓海くんて、そんなに気になる存在か? 美鶴、美鶴のママって美人か? 優しいのか? 料理はうまいのか? 美鶴のママだからそうだろうとは思うんだけど」
 だが美鶴は、拓海のほうばかり気にしているようで、残念ながら回答は得られなかった。

 一方女風呂のほうでも、似たような光景が繰り広げられていた。
「ああもうじっとする! 生野さんにも子守頼みたかったけど、修理の詰めだからって……パパならちゃんと遊んであげなきゃねぇ?」
 髪の毛を洗ってあげつつ、くすぐったそうに笑う英明にぼやく皐月。
「パパはいつも、ぼくとあそんでくれますよ」
 その言葉に、未来予想図に頭を抱える皐月。
「零ちゃんたちもくればよかったのに……やっぱり零ちゃんの子供だから、どこか何か人と違ったところがあるのかもしれないわね」
 そんな零と留守番をした武彦のかわりに、ママであるシュラインが丹念に、たからの歯を磨いてやっている。
「零おばさんのところのかぞくと、たからのかぞくは、なかがいいの」
 たからがそんな可愛らしいことを言うので、「そうなの」と思わず頭を撫でてやってしまう。
「まあ拓海ちゃん、銭湯のほかの知らない人たちがこわいの? でも、そんなにくっついてたら何にもできないわ?」
 日和は日和で、抱っこしてくっついている拓海に少し手を焼いているようだが、そうは言いつつも嬉しそうである。
「美鶴ちゃんといっしょなら、こわくなかったよ」
 ぽつんと言った言葉が、未だうっとりしている日和に聞こえたかどうか。



●元旦に見る夢は●

 その後、興信所に戻ってそれぞれに眠りについた。
 狭くはあったが、なんとかこの人数入ったのが不思議なくらいだった。

 写真をいつもよりもかなり多く撮って飛び回っていた悠宇も疲れたのか、美鶴を護るように抱きしめたまますぐに眠ってしまった。
(最初は困ったけど、案外嬉しいものだな……いい思い出だよな)
 夢の中、悠宇は美鶴と公園にいた。あちこち走り回っては笑う美鶴に、つい悠宇も笑みがこぼれる。ふと、美鶴の足が止まり、悠宇を見上げた。
『パパ』
 にこっと極上の笑みを見せる。
『あのね、美鶴のママはね、とってもびじんでやさしくて、おりょうりもうまくて、それでね……おんがくもすごいの』
 え、と思ったときには。
 美鶴は、消えてゆくところだった。



 朝、目覚めると───やはり、子供達はいなくなっていた。
 恐らくみんな、夢の中でそれぞれに別れを告げたのだろう。
「うーん、意外に修復が早かったんですね。ここをもう少し固めなければと一晩置こうと思ったんですが、意外に早く固まりました。多分もう、二度とあんな現象は起こらないと思います」
 何か例外でもなければね、と英治郎も少し感傷に浸りつつ説明している。
 賑やかで楽しかったことが、急になくなってしまい、一同はしばらくしんみりしていた。
「でも」
 武彦が、ぼんやりと微笑んだ。
「いつかは……『その』未来に辿り着いたなら、いつか───必ず出会う奴らだもんな」
 武彦の言うとおりだった。
 思えば「親心」というものを植えつけていったり、分からせてくれたり。
 親は決して悪いものではないとか思わせてくれたりした、誰かの気まぐれな、いい思い出作りだったのだろう。
 しかしそのあとは現像できた写真のうつりのことや、この時はああだっただのうちの子のほうが可愛いだの、まったくの親ばかな一同だった。

 こうして、元旦に突然訪れた子供達は、それぞれに未来に帰って行ったが、
 親たちの手元には、ふたつのものが残された。
 ひとつはいつもどおり、生野英治郎編集の「2006年元旦特集アルバム(写真館の写真つき)」。
 そしてふたつめは、
 ほかならぬ、「元旦のたからもの」になった思い出、なのであった。


《完》
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0086/シュライン・エマ (しゅらいん・えま)/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
5696/由良・皐月 (ゆら・さつき)/女性/24歳/家事手伝
3525/羽角・悠宇 (はすみ・ゆう)/男性/16歳/高校生
3524/初瀬・日和 (はつせ・ひより)/女性/16歳/高校生
5745/加藤・忍 (かとう・しのぶ)/男性/25歳/泥棒
4680/玖珂・冬夜 (くが・とうや)/男性/17歳/学生・武道家・偶に頼まれ何でも屋
5515/フランシス・ー (フランシス・ー)/男性/85歳/映画館”Carpe Diem”館長
2675/草摩・色 (そうま・しき)/男性/15歳/中学生
3453/CASLL・TO (キャスル・テイオウ)/男性/36歳/悪役俳優
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■         ライター通信          ■
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こんにちは、東圭真喜愛(とうこ まきと)です。
今回、ライターとしてこの物語を書かせていただきました。また、ゆっくりと自分のペースで(皆様に御迷惑のかからない程度に)活動をしていこうと思いますので、長い目で見てやってくださると嬉しいです。また、仕事状況や近況等たまにBBS等に書いたりしていますので、OMC用のHPがこちらからリンクされてもいますので、お暇がありましたら一度覗いてやってくださいねv大したものがあるわけでもないのですが;(笑)

さて今回ですが、生野氏による草間武彦受難シリーズ、第20弾です。
今回は、さすがにグループ分けかなという感じの人数だったのですが、記念すべき第20弾でもあるし、やはり皆さん一緒のほうが楽しいだろうと思いまして、このような形になりました。
因みに最後の「夢でお別れ」の部分だけ、ほんの少しですが個別となっております。それぞれに託された、子供達からの「見えないプレゼント」が文章のどこかに隠されていますので、もしよかったら探してみてくださいね(*^-^*)
今回、ひとつのアイテムが皆さんのお手元に届いているはずです。
ラストの文章の「ふたつのプレゼント」の中の、一つ目です。せっかくなので、ということでお渡しします(笑)
そしてこれはライター通信に書いておけばよかったなとあとで思ったことなのですが、お子さん達のお名前。つけてくださっていた方と、気にしてつけていなかった方といらっしゃいまして。もちろんつけてくださっていてよかったのですが、つけていらっしゃらなかった方には東圭が勝手につけてしまいました。もしお気に召さないお名前でしたらリテイク可ですので遠慮なく仰ってくださいね;
さて今回は人数が多いので、いつもより少しコメントを短く。

■シュライン・エマ様:いつもご参加、有り難うございますv たからちゃんを子供にしてきてくださって、こちらも楽しかったです♪ 皐月さんと並んで主婦的な会話が繰り広げられていたのではないかと思っていますが、如何なものでしたでしょうか。
■由良・皐月様:いつもご参加、有り難うございますv ご希望通りのお子様になりましたが、名前は勝手につけました、すみません(爆)。一番「お母さんお母さん」していた気がします。
■羽角・悠宇様:いつもご参加、有り難うございますv いつもよりも写真もあちこちにと大変だったことでしょう。「ママの名前」を最後に出そうかとても迷ったのですが、やはりここは、こんな感じで(笑)。
■初瀬・日和様:いつもご参加、有り難うございますv 悠宇さんといい家庭を築くのでは……と雰囲気的ににおわせてみましたが、その後のお二人の気持ちの増加がとっても知りたい出歯亀な東圭です。
■加藤・忍様:続けてのご参加、有り難うございますv 名前はただ縮めただけじゃないかと言われてしまいそうですが、IQはいいだろうなとちょっとした裏話的なことからきた名前でもあります。忍さんは子供がもし本当にできたら案外面倒見もいいのではとちょっと思って書いていました。
■玖珂・冬夜様:初のご参加、有り難うございますv カレー作りはシュラインさんにお任せでしたが、案外和迪ちゃんと透ちゃんはいいコンビになりそうだなと将来を勝手に想像してしまいました。
■フランシス・ー様:二度目のご参加、有り難うございますv ツーカーなところをもうちょっと細かく書きたかったのですが、なかなかその部分が出せず、申し訳ないです;ただ、ノゾミちゃんは将来親をも凌ぐ大物になるのではと思いました。
■草摩・色様:初のご参加、有り難うございますv お名前が、「色」ならその逆でも「全部」でもある「透」にしてみましたが、如何でしたでしょうか。名前に反して(?)いいガキ大将ぶりで和迪ちゃんを救うという、本当に子供子供したお子さんで、書いていて楽しかったです。
■CASLL・TO様:お久しぶりのご参加、有り難うございますv 子供さんのお名前はどこから由来がきたかと言いますと、「テイオウ=帝王」なんだからそこからとろうかとも思いましたがシンプルに、キーボードの「T」と「O」のそれぞれ隣の「R」と「I」を繋げてもじった読み方にしたのでした。因みにプレゼントしたぬいぐるみもしっかりRIちゃんは持って帰っていますv

「夢」と「命」、そして「愛情」はわたしの全ての作品のテーマと言っても過言ではありません。今回は主に「夢」というか、ひとときの「和み」を草間武彦氏、そして皆様にも提供して頂きまして、皆様にも彼にもとても感謝しております(笑)。
次回受難シリーズ第21弾ですが、既に受注頂いておりますバレンタインネタのあとはホワイトデーネタとなる予定です。ひな祭りもどうかな、と思っているのですが去年やったので……もしかしたら、桃の節句ということでやるかもしれません。

なにはともあれ、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
これからも魂を込めて頑張って書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します<(_ _)>

それでは☆
2006/01/21 Makito Touko