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<東京怪談・PCゲームノベル>


ココロを変えるクスリ【心地良い×温度】



 【ねぇ・・・貴方との関係は、知り合い??友人??】

 【なんて言えば良いのか、わかんないよ・・・・】


☆★☆はじまり☆★☆


 その日、火宮 翔子は沖坂 奏都に呼ばれて夢幻館を訪れていた。
 なんでも緊急な用事のようで・・・奏都さんが私に用事って、珍しいわね。と、少々心に引っかかるものがあったものの、翔子は夢幻館へと急いでいた。
 外見年齢17,8歳くらいのここの総支配人の奏都は、一言で言ってしまえばつかめない人だった。
 いつも穏やかに微笑んでいるため、その真意は見えない。
 まぁ、優しい良い人であるのは確かだけどね。
 だからこそ、翔子はその緊急の呼び出しに応えたわけであって・・・。
 奏都から直々の頼みとあれば、なにか厄介な事なのだろう。
 いつも色々とお世話になっている分、こう言う所で恩返ししないとね。
 そう思い、翔子はバイトをキャンセルしてまで夢幻館に向かっていたのだった。
 まぁ、後々になって考えてみれば電話を貰った時点でおかしいと気づくべきだったのだ。
 なにせ電話に出たのは奏都ではなく、閏だったのだから・・・・。
 『あのね、翔子さんに奏都が用があるらしいんだけど、今ちょっと立て込んでて・・・手が離せないみたいだから私が代わりに電話をかけてるんだけど、翔子さん、今すぐこっちに来られるかな?』
 あまりに切羽詰った声だっただけに、その時は“本当に奏都からの呼び出し”だと思っていたのだ。
 夢幻館が視界の端に映り、翔子は足を速めた。
 綺麗な庭を通り、夢幻館の両開きの扉に手をかけ、思い切り押し開ける―――
 と、そこには閏の姿があった。
 ニコニコと可愛らしい笑顔を浮かべて・・・
 「あら?閏ちゃん・・・」
 「こんにちはw翔子さん★」
 「丁度良かったわ。それで、奏都さんは?何があったの?」
 「実は・・・っと、その前に、これを持ってくださいw」
 そう言って閏が持っていた水を差し出す。
 何だろうか?とりあえず、翔子は閏の言う通り水を受け取り―――その瞬間、閏がニヤリと不気味に微笑んだのが見えた。
 ・・・しまった・・・!!
 とは言うものの、時既に遅し。
 閏が翔子を押し倒し、口の中に何かを放り入れ、水を大量に注ぐ。
 「な・・・ちょっ・・・ゴクン・・・け・・・けほっ!こほん、こほんっ!!」
 何か固形状のものが喉を通り過ぎ―――水が気管に入ってしまったために翔子は涙目になりながらむせ返った。
 「ちょっ・・・閏ちゃ・・・ん・・・?」
 ギュっと、心臓がつかまれたように痛くなり、翔子は思わずその場に倒れこんだ。
 心臓が痛い・・・

 ドクン・・ドクン

 心臓が飛び跳ねる音が耳の直ぐ近くで聞こえる気がする・・・。
 「え・・・な・・・に・・・?」
 「大丈夫ですよ。半日すれば元に戻りますし・・・多分、身体に害は無いはずですし。」
 閏が酷く曖昧にそう呟き、すっと翔子の頭を撫ぜた。
 痛い・・・心臓が痛い・・・
 でも、これは本当に痛いと言う感覚なのだろうか?
 痛いと言うよりは、キュンと胸を締め付けられていると言うか・・・
 「目が覚めた時は、ココロが変わってますよ。ある1点に関してのみ・・・って言っても、もう聞こえてないですよね?翔子さん?」
 クスクスと、閏の笑い声が聞こえた気がしたが・・・

   ―――意識は直ぐに闇に飲まれた・・・


★☆★始まる、関係★☆★


 「翔子。ほら、起きろ。何時まで寝てるつもりだ?」
 「え・・・?」
 声をかけられて、翔子は目を擦りながら起き上がった。
 見慣れない部屋・・・全てが真っ白に染まるその部屋で、ただ1つ、知っているものを挙げるとしたならば・・・。
 「冬弥さん。」
 愛しい彼の姿を見つけ、翔子は思わず微笑んだ。
 「昨日は仕事で忙しかったのか?」
 「どうして?」
 「ぐっすり寝てたから。」
 「そう言うわけじゃないんだけれど・・・」
 それにしても、何時の間に眠ってしまったのだろうか?
 夢幻館に来て・・・そもそも、今日はどうして此処に来たんだっけ?冬弥さんに会う為?いいえ、なんだか違う気がする。誰かに呼び出されて・・・それは冬弥さんではなくって・・・。
 ズキリと頭が痛んだ気がしたが、それはほんの刹那だけだった。
 すぐに考えていた事が意識の外に弾かれる。
 「顔色が悪いな。大丈夫か?」
 「大丈夫よ。全然、元気よ。」
 心配そうに冬弥が顔を覗き込み―――翔子はそれに軽く首を振るとふわりと微笑んだ。
 「そうか?」
 まだ心配そうに、冬弥はじっと翔子を見詰めた後でクシャリとその頭を撫ぜた。
 「無理すんなよ?」
 「無理してないわよ。」
 「それなら良いんだけどな・・・。」
 冬弥がそう言って窓の傍まで歩む。
 細い髪の毛がサラサラと陽に透けて金色に輝く―――本当に、何時見ても冬弥は綺麗だった。
 整った顔立ちは美しく、少し分かり難い時もあるけれども・・・それでも、優しい冬弥。
 一緒に居るとほっと安心できる、そんな不思議な雰囲気を纏っていた。
 私がそう思っているのと同じように、冬弥さんも思ってくれていたら・・・・・
 素敵だろうと思う。
 互いに支えあえる、互いに安心できる、そんな関係を翔子は夢見ていた。
 それを―――冬弥となら実現できると、思っている。
 「ねぇ、冬弥さん。」
 「なんだ?」
 「・・・デート行こうか?」
 突然のその申し出に、冬弥がしばし目を丸くした。
 その顔が可愛くて・・・思わず苦笑してしまう。
 表情の一つ一つを可愛らしいと思い、言葉や仕草の一々に反応してしまうなんて・・・以前の翔子からは考えられなかった。クールな女ハンターである翔子は、常に冷静沈着、まさに“クール”と言う言葉が良く似合う女性だった。
 それが、冬弥と会ってから変わったのだ。
 相手を守りたいではなく、大切にしたいと思う、この気持ち。
 キュンと胸を締め付ける、この甘い痛み。
 それがマイナスだと言う人もいるだろう。ハンターにとってそんな気持ちは必要のないもの。いかに華麗に相手を翻弄するか、それを求められるわけであって、恋に翻弄されるハンターなんて誰も素敵だとは思わないだろう。
 けれど、それはそれ、これはこれ。
 仕事の時にはきちんと切り替えているし、この感情をマイナスだと翔子は思わなかった。
 むしろ、良い方に向かっている気がする。
 大切にしたいものがあるからこそ、戦える。
 恋をして心が脆くなったのではなく、恋をして、心が強くなった気がする。それは、やはり相手が冬弥だったから・・・
 「ほら、私達ってあんまり遊びに行かないから、たまにはね。」
 ダメかしら?と、翔子は冬弥の顔を窺った。
 冬弥が少し考え込むように、クシャリと髪を散らし・・・すぐにふわりと温かな笑顔を翔子に向けた。
 「あぁ、そうだな。たまには良いかもな。でも、どこに行くんだ?」
 「遊園地なんてどうかしら?」
 「翔子が行きたいんなら、別に良いけど?」
 ともすれば、冷たく響いてしまう言葉だったけれども・・・冬弥の優しさが沢山つまった言葉に、思わずにっこりと微笑む。
 「うん、それじゃぁ決まり♪早速行きましょうよ!」
 ベッドから起き上がると、冬弥の腕を引っ張った。
 嬉しくて、楽しくて・・・甘い幸福感が胸をいっぱいにする・・・・・。


 「それじゃぁ、まずはジェットコースターね!」
 「おいおい、随分重たいのから行くんだな。」
 「そう?」
 小首を傾げながら、翔子が冬弥をグイグイと引っ張って行く。
 冬の遊園地はどこか寂しげで、植えられている木々は葉を落としており、風が吹けばかなり寒かった。
 けれども、組んだ腕が温かくて―――布越しに感じる冬弥の体温は思わずトロリと眠たくなってしまうほどに心地の良いものだった。
 こう言うのを、ぴったりの相手を言うのだろうか?
 温度が心地良くて、ずっと触れていたいと思うくらいに・・・温かい。
 閑散とした遊園地に人の影はまばらで、2人はそれほど並ぶ事なくすんなりとジェットコースターに乗り込めた。
 風を切る、冷たい刃が頬をかすめ、翔子の髪を靡かせる。
 ワクワク感とドキドキ感。どこか恋を連想させるその2つの気持ち。
 「次はお化け屋敷!」
 「また重たいのを・・・」
 「冬弥さん、お化け屋敷嫌い?」
 怖いの〜?と、からかう様に腕に絡みつきながら冬弥を見上げる。
 180cm以上ある冬弥の顔は、翔子からは遠くて―――
 「馬鹿にしてる〜?」
 「あれ?怖くないの?」
 「おまっ・・・怖いっつっても知らねぇからな?」
 「生憎私は怖くないの。」
 何かを言いたげにジーッと翔子を見下ろしていた冬弥だったが、やがてふっと口元に微笑を浮かべると、翔子の髪を優しく梳かした。
 「髪の毛ぐしゃぐしゃ。」
 「ジェットコースターの後なんだから仕方ないわ。」
 冬弥が立ち止まり、翔子もそれに合わせて立ち止まった。
 上から優しく髪を梳かす、冬弥の大きな手を頭に感じながら、翔子は思わず俯いていた。
 顔を上げたならば、にやけるこの顔を見られてしまいそうで・・・。
 「よし、これで大丈夫だろ。」
 「ありがとう。」
 「どーいたしまして。」
 ふっと息を吐きながらそう言って、冬弥が手を差し出した。迷う事なくその腕に縋り、2人でお化け屋敷へと向かう。
 視界の端に見える典型的なお化け屋敷に、翔子は思わず苦笑していた。
 歩くタイプのお化け屋敷・・・普通の女の子ならばここでキャーと叫んで彼氏に抱きついたりするのだろうが・・・怖くも無いのにどうやって叫べば良いと言うのか。
 それほど演技力があるわけでもないし・・・
 「ほら、行くぞ。」
 冬弥の声にはっと顔を上げると、翔子はお化け屋敷の中へと入って行った。
 薄暗いお化け屋敷の中では足元が良く見えなく、時折聞こえる呻き声は思い切りテープのものだ。
 ふぅっと吹く冷たい風はなんとも言えず心をザワつかせる。
 怖いとは思わない。でも、心細いとは思う。
 たまに道の端から落ち武者や女性の幽霊なんかがガタリと音を立てながら出現し―――しばらくすると引っ込んで行く。
 「張りぼてだな。」
 「・・・もー、折角の雰囲気がぶち壊しじゃない。」
 「そもそもお化け屋敷を無言で歩いてる時点で雰囲気も何もないだろう?」
 確かにそれはそうだけれど・・・。
 「キャーとか、言ってみれば?」
 「怖くも無いのに?」
 「俺に言わせるつもりか?」
 「冬弥さん、そんなに高い声出るの?」
 「・・・それはどうだろうな。」
 その答えに、思わず噴出そうとした時―――何かが翔子の足に絡まった。
 そしてそのまま・・・
 「キャァっ!!」
 倒れこみそうになる翔子を助けようとして、冬弥も一緒にその場に尻餅をつく。
 はたから見れば翔子が冬弥を押し倒したような格好になっている。
 「い・・・ってぇ・・・っつか、大丈夫か?」
 「私は大丈夫だけど、冬弥さんは大丈夫?」
 「あぁ。大丈夫だ。」
 冬弥が翔子の身体をひょいと持ち上げて、脇にどけ、立ち上がる。
 「なんかに躓いたのか?」
 「そう・・・みたい・・・。ごめんなさい・・・。」
 「いや、良い。怪我が無いんなら、それはそれで・・・ま、暗くて足元見難いしな。」
 そう言うと冬弥が手を差し伸べた。
 「これでコケる心配もないだろ?」
 「そうね。」
 翔子が冬弥の手を掴み・・・仲良く手を繋いでお化け屋敷を後にした―――。


☆★☆終わる、関係☆★☆


 日が傾き、地平線に飲み込まれてゆく。
 その際に周囲の明かりを連れ去って―――
 辺りは漆黒の闇に染まった。
 小高い丘の上、上空には星と月の煌き、眼下にはネオンの輝き。
 キラキラと輝く光に囲まれたその丘の上で翔子と冬弥は和やかな談笑をしていた。
 風が冷たく翔子の髪を梳かし・・・
 バサリ、冬弥がコートを脱いで翔子にかける。
 「冬弥さん、寒いんじゃない?」
 「男のが体温高いんだよ。」
 「でも・・・」
 「翔子は仕事があるだろう?明日も。」
 「・・・うん。」
 ふわりとコートから香る冬弥の匂い。
 そして、仄かに残った温度・・・・・・。
 まるで抱きしめられているみたいだと思った。
 思わず嬉しそうに微笑み―――翔子は冬弥の腕をそっと取った。
 冬弥が翔子を見下ろし、翔子が冬弥を見上げる。
 2人の間に邪魔をするものは何もない。一直線に結ばれる視線は、絡み合って甘く溶ける。

 刹那の沈黙―――
 
 翔子はそっと瞳を閉じた。
 冬弥の顔がゆっくりと近づき・・・温かい、吐息がかかる。
 唇と唇の温度が混じり合いそうになる、その瞬間

   パチン

 何かが翔子の中で弾けた。
 今まで翔子の胸を締め付けていたものが、一気に弾け飛ぶ。
 「・・・・え・・・・?」
 パチリと目を開けた先には、冬弥の顔。その顔も、驚きに染まっている。
 「き・・・きゃぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!」
 そう叫ぶと、翔子は冬弥を突き飛ばした。
 あまりの事に冬弥もフリーズしていたらしく、ドンと突き飛ばされてその場に尻餅をついた。
 今のはなんだったのだ・・・え・・・今、何をしそうになった・・・?
 え・・・え・・・えぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜!!!
 カァァっと、顔が赤くなる。
 意味も無く口をパクパクさせ・・・
 固まったままの冬弥と視線が合う。
 「・・・〜〜〜〜っ・・・!!!」
 翔子はその場から走り出した。
 脱兎のごとく、まるで逃げるように、冬弥をその場に残したまま・・・・・。
 

―――次の日


 もしも、万が一、奏都が翔子に用があるのだとしたら・・・そう思いながら、翔子は再び夢幻館を訪れていた。
 夢幻館の両開きの扉を開け―――そこには冬弥の姿があった。
 ふいっと視線を逸らし・・・カァァっと顔が真っ赤になる。
 とりあえず中に入ると、翔子はタっと駆け出した。
 冬弥と顔が合わせられない・・・!
 昨日の事があまりにもリアルに心の奥底に根付いており・・・。
 「あらら〜?翔子さん、顔が赤いですよぉ〜w」
 そんな呑気な声と共に、今回の諸悪の根源である閏が姿を現した。
 その瞬間に、恥ずかしさがどこかへと吹っ飛び、ふつふつと湧き上がってくるのは怒りだ。
 燃えるほどの怒りのオーラを纏いながら、翔子はツカツカと閏に歩み寄った。
 「人を実験台にするのはやめなさい〜〜〜っ!!!」
 閏を捕獲しようと、手を伸ばした時・・・
 「あ、冬弥。」
 その声にビクリと肩を震わせる。
 閏が翔子の背後を指差し・・・カァァァ〜・・・顔が赤くなる。
 居たたまれなくなって、翔子はその場から逃げ出した。
 後に残ったのは閏ただ一人。
 悪戯っぽい瞳で翔子が走って行った方を見詰めている。
 「うふっ♪翔子さんったら、カーワイイ☆」
 悪魔の羽が見えるほどに、閏の瞳は小悪魔めいていた。
 冬弥が翔子の背後に居ると言ったのは嘘だった。それでも、こんなに素直に引っかかってくれるなんて・・・。
 「さぁて、次はどうしよっかなぁ〜w」
 ニンマリと微笑むと、閏はポケットからあのカプセルを取り出した。




 【今の2人の関係は・・・】



 【 ――― とりあえず、意識はしているのかな・・・? ――― 】 




       〈END〉


 
 ◇★◇★◇★  登場人物  ★◇★◇★◇

 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


  3974/火宮 翔子/女性/23歳/ハンター


  NPC/梶原 冬弥/男性/19歳/夢の世界の案内人兼ボディーガード
 
 ◆☆◆☆◆☆  ライター通信  ☆◆☆◆☆◆

 この度は『ココロを変えるクスリ』にご参加いただきましてまことに有難う御座いました。
 そして、いつもいつもお世話になっております。(ペコリ)
 
 さて、如何でしたでしょうか?
 ・・・ラブラブの恋人同士に描けていたでしょうか・・・。
 もう、翔子様も冬弥も以前の面影が薄いですね・・・。こんなの翔子様じゃないっ!そして、冬弥じゃないっ!と思っていただければココロを変えるクスリ、成功と言ったところでしょうか(苦笑)
 この後翔子様と冬弥が何時頃から元に戻るのか非常に気になります・・・w
 閏はまだまだ悪戯し足りない様子ですので、再び夢幻館へお越しの際は上下左右、よーく御確認の後にいらしてくださいねw

  それでは、またどこかでお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。