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<東京怪談・PCゲームノベル>


ココロを変えるクスリ【危険な×誘惑】



 【ねぇ・・・貴方とは、初対面だったよね?】

 【それなのに、気づけば恋人同士なんて・・・おかしいね・・・】



☆★☆はじまり☆★☆


 ふわり、どこか心地良くも不思議な雰囲気を感じ、静は足を止めた。
 奇妙に交じり合う時間と空間が、歪ながらもどこか心地良い風を運んでくる。
 心の奥底に届くかのような、甘い心地良さ―――
 どこから?
 そう思うと、静はフラフラとその雰囲気を辿った。
 幾つかの路地を通り過ぎ、何ブロックかを進んだ先、綺麗な庭が姿を現した。そしてその先には巨大な館が1つ、デンと構えていた。恐ろしいほどの存在感を発しているのに、何故だか周囲の空気と溶け込んでいるようにさえ思える、不思議な館。
 対の概念が混じり合っている場所なのだろうと、静は思った。
 しばらく、まるで金縛りにでもあったかのようにボウっとその場に立ち尽くす。
 「おや?何か御用ですか?」
 不意にかけられた言葉に、静は声の方を反射的に振り返った。
 17,8歳くらいの外見の青年が、箒を片手に不思議そうな顔で静を見詰めている。
 「あ・・・別に用があって来たわけではないんですけれど・・・」
 「そうですか・・・でも、コレも何かのご縁でしょう。少しお茶をして行きませんか?俺は沖坂 奏都(おきさか・かなと)と申します。ここ、夢幻館の総支配人をしております。」
 丁寧にお辞儀をされて、静もお辞儀を仕返す。
 「初めまして。菊坂 静と申します。」
 そう言って顔を上げた瞬間、奏都の顔は酷く優しいものだった。
 思わず父親と言う単語を思い出してしまう程に―――
 「さぁ、こちらです。」
 クルリと奏都が踵を返し、静を館の方へと案内してくれる。
 両脇に生えている木々は、冬だと言うのに綺麗な緑色の葉っぱが茂っており、夏の街路樹を思い出させた。


 夢幻館の両開きの扉を押し開けると、真っ先に中から何かが飛び出してきた。
 それは突然静に抱きつき・・・パっと顔を上げれば、小さな女の子だった。
 162cmと小柄な静だったが、この少女はもっと小さかった。150cmは確実にないだろう。
 静と少女の視線が合い・・・少女の大きな瞳が更に大きく丸くなる。
 「はれれ?奏都ちゃんじゃない・・・」
 「もなさん、俺はこっちです。」
 溜息混じりに奏都がそう言い、申し訳なさそうに静に謝罪の言葉を述べる。
 「えーっと、間違えちゃったみたい〜wテヘ☆ごめんね〜?あ、あたしは片桐 もな(かたぎり・もな)って言うんだ〜!で、奏都ちゃん、この子はぁ?」
 「菊坂 静さんですよ。」
 「そっか、静ちゃんか〜☆今日はどしたのぉ?」
 外見年齢小学生程度のもなはそう言うと、頭の高い位置で結ばれたツインテールをブンと揺らした。
 その際、重たげなスイング音が響く・・・・・・。
 「庭のところにいらしたので、俺が声をかけて・・・」
 「やぁん、奏都ちゃんってば、ナンパぁ〜?」
 「・・・どうしてそうなるんですか・・・」
 脱力する奏都を尻目に、もなが静の腕を取った。キュっと、自分の身体を寄せるようにして静を見上げる。
 「この館に住む人を紹介したげるね〜☆って言っても、今は一部しか居ないけど・・・」
 静が何か言うよりも早く、もながグイグイと腕を引っ張る。
 こんなに小さく華奢な女の子なのに、その力は随分と強いように思える・・・・・。
 巨大な玄関を抜け、大きく豪華な扉を押し開ける。
 ソファーが並んだ大きなホール。そしてその向こうにはキッチンが見える。
 「冬弥ちゃん、魅琴ちゃん、閏ちゃん!お客さん〜!」
 「あぁ・・・客・・・?」
 もなの大音量の声で、ソファーから次々に人が起き上がる。
 右端のソファーから起き上がった人物―――酷く美麗な顔立ちの青年をもなが指差す。
 「あれが梶原 冬弥(かじわら とうや)ちゃんって言って、夢幻館1のやられキャラなのw」
 ナンバーワンなのっ☆と、無邪気な笑顔で言う。
 「だぁぁぁっ!このクソチビ!ふざけた紹介してんじゃねぇっ!」
 「あながち間違ってねーんだから、良いじゃねーか。」
 「るっせー!魅琴!お前は黙っとけ!」
 「んで、あっちのが神崎 魅琴(かんざき・みこと)ちゃん。ガサツで男の子女の子関係なく綺麗、もしくは可愛い子が大好きって言う変態さんだから、静ちゃんも気をつけてね?」
 静ちゃんは綺麗な部類に入るから・・・と、そっと付け加える。
 「ま、なんかあったら金属バットで頭叩けばどうにかなりますよ〜。」
 そう言って、可愛らしい雰囲気の女の子がふわりと静の前にやってきた。
 「初めまして。なに静さんだかは解らないけれど・・・紅咲 閏(こうさき・うるう)って言いますv」
 「菊坂 静と申します。宜しくお願いいたします。紅咲さん、梶原さん、神崎さん、片桐さん。」
 丁寧にお辞儀をして・・・顔を上げた時、一同がなんとも言えない顔で静を見詰めていた。
 なにかおかしな事でも言っただろうかと、考えを巡らせるものの―――別段おかしな事は言っていないように思う。
 「新種だな。」
 「これだけ丁寧な人も珍しいよね〜。」
 「夢幻館の住人は結構、みんな口悪かったりするからね〜☆」
 誰かさん達を筆頭にして、と言って、チラリと冬弥と魅琴を見詰める。
 「あ・・・そうだ・・・!」
 突然閏が声を上げると、ニマリと微笑んだ。
 あまりにも何か黒いものを含んでいる笑顔に、一瞬背筋が冷たくなるが・・・それもほんの刹那の事だった。閏がすぐにニコリと愛らしい笑顔を浮かべ、ちょっと待っててくださいねとだけ言い残してパタパタとキッチンの方に走り去って行ってしまった。
 「どうしたんでしょうか・・・」
 「ま、あんま良い事じゃねーよ。あいつのあの笑顔には、必ず何かあるはずだからな。」
 「って言っても、まだ死者は出てないから大丈夫だよ♪」
 そう言って微笑むが・・・死者が出てしまっていては手遅れではないのだろうか・・・?
 しばらくしてから閏がお盆の上に真っ白なティーカップを人数分乗せて戻ってきた。
 どうやらお茶を淹れてきてくれたらしい。カップからは仄かに湯気が立ち上り、甘い香りを部屋中に撒き散らしている。
 「“そうだ”って言う事のモンじゃねーじゃねーかよ。」
 魅琴が溜息混じりにそう言い、カップを一つ手に取った。
 冬弥ともなもカップを手に取り、最後に閏が静にカップを手渡す。
 普通ならばお客さんからカップをどうぞと言うところだが・・・ここの住人にそんな細やかな気配りを期待してはいけない。
 「有難う御座います。」
 丁寧に両手でカップを包み、そっと唇を縁につける。
 ―――コクリ
 中々美味しい紅茶だ・・・
 そう思った瞬間、静の心臓が飛び跳ねた。
 ドクリと、すぐ耳元で聞こえる程に、強く、高く―――!
 心臓が痛い・・・痛い・・・
 思わずその場に崩れ落ちる。持っていたティーカップが手から滑り落ち、高い音を上げながら床の上で儚く割れる。
 しかし、その音すらも聞こえて来ないほどに、静の心臓の音は大きかった。
 痛い・・・まるで心臓を鷲掴みにされているようだ・・・
 「静ちゃん!?」
 もなが心配そうな顔で走りより・・・その向こうでは、冬弥が魅琴の名前を必死に呼んでいる。
 息苦しい程に胸が痛く・・・いや、これは・・・痛いと言うよりは・・・

  胸がキュンと締め付けられているかのような・・・・・

 「大丈夫ですよ〜。半日すれば元に戻りますから。」
 「閏ちゃん!静ちゃんと魅琴ちゃんになにしたのっ!?」
 「ちょっと、クスリを・・・・・」
 そんな会話も、すぐに意識の外に弾き飛ばされる。
 漆黒に染まる闇の中に、静の意識はどこまでもどこまでも落ちて行った―――


★☆★始まる、関係★☆★


 「どーするのよぉっ!よりにもよって一番危険人物と恋人同士なんて・・・」
 「とりあえず、効果が切れるまでどこかに隔離しとくか。」
 「それが一番良いかもね。はぁぁ・・・閏ちゃんはどっかに行っちゃうし。」
 「それでは俺は閏さんを捜しますよ。もしかしたらクスリの効果を無効にする方法を知っているかも知れませんし。」
 「だねぇ。んじゃ、閏ちゃんは奏都ちゃんに任せるとして・・・」
 「俺はとりあえず、魅琴を隔離しとくわ。」
 「うん。じゃぁ、あたしが静ちゃんの相手を・・・」

  パチリ

 静は目を開けた。
 何時の間に眠ってしまったのだろうか・・・?目を開けたそこは、大きなソファーの上だった。
 目の前にはもなの姿があり、静が目を開けたのを確認した途端、パタパタと可愛らしく走って来てソファーの脇にチョコリとしゃがみ込んだ。
 静の顔をジーっと見詰め・・・
 「どうかしましたか?片桐さん?」
 「・・・え・・・?今、静ちゃんなんて言ったの?」
 「・・・どうかしましたか?片桐さん?」
 「あたしの事、片桐って呼んでるの・・・!?」
 変な事を言う・・・そもそも、静はもなの事をその名前以外で呼んだ事はない。
 「冬弥ちゃんと奏都ちゃんは??」
 「梶原さんと沖坂さん・・・?」
 もなの顔が輝く。そして、コクリと喉を鳴らすと、恐る恐ると言った感じで言葉を紡いだ。
 「それじゃぁ、魅琴ちゃんは・・・?」
 「魅琴さんですか?」
 キョトリと小首を傾げると、静はソファーから身体を起した。
 柔らかく、よく沈むソファーは寝るのには適さないらしく、節々がどこかぎこちなく痛む。
 「そっかぁ・・・良かったぁ〜。静ちゃんってば、クスリ系に免疫があるのかなぁ。でも、効いてないって事はそう言う事だよね?あー・・・でも、本当に良かったぁ・・・。」
 ほっと安堵の溜息を漏らすもな。
 何の事だかさっぱりわけがわからないながらも、静は“カレ”を捜した。
 キョロキョロと視線を彷徨わせ・・・
 ―――安堵の溜息をついていたもなが、思わずフリーズする。
 “ソノ事実”に気がついたのだ。・・・ちょっと気づくのが遅い気もするが・・・。
 「え・・・静ちゃん今・・・“魅琴さん”って言った・・・?」
 すーっと、もなの視線が静に注がれそうになった瞬間、ダァン!と言う、いかにもな音がホールに響いた。
 ホールから廊下を繋ぐ扉が勢いよく音を立てて開けられ、その向こうには勝ち誇ったかのような笑顔を浮かべた魅琴の姿があった。
 「み・・・こ・・・と・・・ちゃん・・・?」
 「おう。んで、もな、俺の可愛い彼女はどこだ?」
 「魅琴ちゃん、静ちゃんは女の子じゃないよ。」
 そりゃぁ、綺麗だけどさぁ。などと呟くもなの隣で、静がすっと立ち上がった。
 今までとなんら表情は変わらない。動作も、全ては変わらない。
 なのに・・・なんなのだ・・・この、全身から発せられるフェロモンは・・・!!
 いつもは不思議な時が交錯する夢幻館だったが、この時ばかりは静から発せられる儚さと色香のせいで薔薇色の館に変身していた。
 ぶわっと、溢れるばかりの色香を身に纏った静が、ゆっくりとした動作で魅琴の傍まで歩み―――にっこりと微笑んだ。
 ・・・いつからこの館はこんな、夜の雰囲気バリバリの場所になったのかと訊きたい。
 魅琴と静の周りに、大輪の薔薇の花が見える・・・!
 「悪い、もな!魅琴が扉破って・・・」
 走って来た冬弥が、ソノ光景を目撃し、しばし固まる。
 静と魅琴の身長差は20cm以上ある。
 魅琴がすっと、静の腰に手をあて・・・ぎゅっと胸に抱く。
 それに応えるかのように静も魅琴の背中に手を回し―――。
 「いやぁぁぁっ!!静ちゃんに子供ができちゃうっ!!」
 「待てもなっ!静は男だからその心配は・・・」
 「そう言う問題じゃないでしょっ!早く何とかしてよぉぉっ!!」
 もながツインテールを振り回しながら、今にも泣きそうな顔で2人を見詰める。
 「んだぁ?っせーなぁ。ったく、んじゃ静、二人っきりになれるトコ行くか?」
 ニヤリと微笑んだ魅琴の顔は凶悪で―――静がそれを見上げながらふわりと柔らかに頷いた。
 「だ・・・だめぇぇっ!!」
 もなの静止もお構いなしに、魅琴は静を抱き上げた。
 なかなか様になっているのは、2人の醸し出す常人から逸した色香のせいなのだろうか?はたまた、どちらも整った顔立ちをしているからだろうか・・・?
 「今夜は寝かせないぜ、マイハニー。」
 「まだ夜まで相当時間あるよ・・・?」
 「っつーか、キショイ事言うな!」
 必死にツッコミを炸裂させる2人。
 そんな言葉など聞こえていませんと言う風に、既に2人だけの世界を作り出す静と魅琴。
 静が魅琴の首に手を回し―――そっと目を瞑り、魅琴もそちらに顔を・・・
 「だぁぁぁぁぁっ!!このクソ馬鹿!」
 「そんな事しちゃだめぇぇぇぇっ!!!」
 冬弥が蹴りを魅琴に入れ、もなが力の限り叫ぶ。
 「ってぇなぁ・・・ったく、一人身のお前らにはわかんねーだろーけどなぁ。俺と静は今、ラブ真っ盛りなんだよ!邪魔すんな!・・・な、静?まぁ、キスくらいならいつでも出来っからな。それこそ、2人きりになった時にでも、イヤっつー程してやるよ。」
 「キモイ事ぬかすなボケェっ!!」
 「早くクスリの効果、切れてよぉぉ〜〜〜!!静ちゃんが魅琴ちゃんの毒牙にかかる前にっ・・・!」
 半泣き状態のもなが、そう叫びながら祈りを捧げる。
 既に半狂乱の域に達しているらしく、ツインテールがブルンブルンと重たいながらも軽快な音を響かせる。
 「静ちゃんも、目を覚ましてよぉ〜!」
 「片桐さん、僕はいたって普段通りですよ?」
 もなを安心させるかのように、静は優しく微笑んだ。
 本当に心の底からの優しい微笑だった・・・が、それはもなの精神を追い詰めるだけだった。
 普段通りもなにも、静がこの館にやって来たのは今日が初めてである。
 その台詞は、静が正気でない事を再確認させるだけの力しか持っていなかった。
 「まぁ、こっから先は俺と静の世界・・・邪魔スンナよ?」
 そう言い残してから、静を抱きかかえたまま走り出し―――
 「冬弥ちゃんっ!!」
 「解ってる!追うぞ・・・!」
 もなが1つだけ頷き、2人は魅琴と静の後を追って走って行ったのだが・・・複雑に入り組む夢幻館の中で、その後姿を見失ってしまったのだった。
 「・・・どーしよぉ・・・。」
 泣く1歩手前のもなの頭をくしゃりと撫ぜると、冬弥は長い溜息をついた。
 「こりゃ、1部屋1部屋あたるしかねぇな。どっちにしろ、この辺の部屋っつー事は間違いねぇんだから。」


☆★☆終わる、関係☆★☆


 愛しい人を目の前に、静はただひたすら微笑んでいた。
 それは、挑発するかのような、誘うかのような微笑みで・・・。
 ベッドの上に下ろされてからも、変わる事はなかった。
 ギシリとベッドを軋ませながら魅琴が静の隣に座る。
 そっと、魅琴の服の裾を掴むと、魅琴が静の腕を取った。
 ぐいっとこちらに引き寄せ―――乱暴に静の身体を抱きしめる。
 体温が薄い布越しに伝わり、混じり合う。
 ほんの少し、身体をずらした後で、魅琴は静をベッドに押し倒した。両手首を掴み、押し付け・・・これで、静は身動きが取れなくなってしまった。
 「さぁ、観念しな。お前はもう終わりだよ。」
 「悪の親玉みたいですね。」
 「まぁ、意味は違うかも知れねぇが、当たらずとも遠からずってとこかな?」
 「僕・・・殺されちゃいそうですね。」
 「殺しはしないさ。まぁ、俺が死ぬ時は連れてくけどな。」
 その言葉に、静は妖しい微笑を浮かべた。
 瞬間、静から凄まじい色香が流れ出す―――その香りは、魅琴を誘い、魅了し、誘惑する・・・。
 「さて・・・おしゃべりはお終い・・・だな。」
 ニヤリと微笑み、魅琴の顔が近づいてくる。
 静がそっと目を閉じ―――
 バンと、音を立てて扉が開いたのが聞こえた。
 「だぁぁ・・・ヤバっ・・・!!」
 「ダメっ・・・い・・・いやぁぁぁぁぁぁっ!!!」
 吐息が混じり、魅琴の呼吸をすぐ近くで感じる。
 その合間から聞こえる、冬弥の切羽詰った声ともなの絶叫。

   パチン

 その時何かが静の中で弾けた。
 今まで静の胸を締め付けていたものが、一気に弾け飛ぶ。
 「・・・え・・・?」
 目を開け、一番最初に飛び込んできたのは魅琴の顔。そして、それは鈍い音と共に横に吹っ飛び、次に現れたのは冬弥だった。
 「無事か!?」
 「え・・・?あ・・・はい・・・?」
 どうやら蹴り飛ばしたらしく、魅琴が部屋の隅で伸びている。
 冬弥が手を差し出し静の身体を起すと、じーーっと見詰めた。
 「もう、効果が切れたのか?」
 「・・・えっと、はい。恐らく・・・。」
 そう言って頷いてから、今までの事を順番に思い出して行く。
 この館を訪れた時の事から、クスリを飲んだ時の事、そして・・・その後の事・・・。
 「すいません・・・変な事してしまって・・・。」
 静はそう言うと、冬弥に頭を下げた。
 必死になって捜してくれていたのだろう。冬弥の息はあがっていた。
 「いや、静が謝る事じゃねぇよ。こっちの不手際だったわけだし・・・っつーか、むしろこっちのが謝んなきゃいけねーっつーか・・・なんつーか・・・。」
 「さて、それでは今回の事の発端である閏さんに登場していただきましょう。」
 いつの間にか扉の前に居た奏都がそう言い、背後から閏を引っ張ってくる。
 ゆっくりとした足取りで閏は静の座るベッドの前まで来ると、にっこりと微笑んだ。
 「ごめんなさいw」
 なんら悪びれた様子も無く、それどころか未だに瞳は悪戯っぽい輝きをたたえたままで、そう言うとペコリと小さく頭を下げた。
 「今度やったら怒りますよ?」
 溜息混じりながらも、優しくそう言うと静は小さく苦笑した。
 「でも、本当にすみませんでした。変な事してしまって、迷惑をかけてしまって・・・」
 「こっちは気にしてねーけど、もしまだ悪いと思ってんなら・・・アイツをどーにかしてやってくんねーか?」
 冬弥が指し示した先、床にペタリと座りながら泣きじゃくるもなの姿があった。
 パタパタと涙を流しながら、小さな嗚咽を唇の間から洩らす。
 「片桐さん・・・」
 ベッドから降りて真っ直ぐにもなに駆け寄ると、静はその前にしゃがみ込んだ。
 ふぇぇ〜と小さな声をあげながら、もなが静の服の裾を掴み、潤んだ瞳を向ける。
 「静ちゃん・・・ここの事、嫌いになったぁ・・・?」
 「え・・・?」
 「初めて来たのに、ヤな思いさせちゃって・・・。・・・もう、来たくないって思ったぁ・・・?あたしの事・・・嫌いになっちゃったぁ・・・?」
 大きな瞳から、もなが瞬きをする度に涙が零れ落ちる。
 「そんな事ないですよ。それより、僕の方こそ変な事してしまって、すみま・・・」
 「許さないんだからぁ!」
 静の言葉を遮ると、もながキっと鋭い視線を向けた。
 「ほんとに、ほんとに心配したんだからぁ・・・。」
 「すみません・・・」
 「静ちゃん達がいなくなった時は、ホントにどーしよーかと・・・。もう、絶対許さないんだからぁ・・・。」
 「どうしたら許してくれますか?」
 「・・・今度来た時、なにか甘いもの・・・作って来て・・・。作るの無理なら・・・なにか、買ってきて・・・。クッキーとか、アイスとか、そーゆー・・・甘いの。」
 グスンと、鼻をすするとグイっと静の胸元を両手で掴んだ。
 「あと、次に来た時は一番最初にあたしの事ギュってして。それから、片桐さんって呼ばないで。・・・もなって呼んでよぉ・・・。」
 「解りました。」
 どれもこれも、何の事はない些細な条件だった。
 ふっと、柔らかく微笑むと静が優しくもなの頭を撫ぜ―――
 「ってぇなぁっ!ったく、これからマイハニーと良いトコだったつーのによぉ!おい、クソ冬弥!俺の愛しの静をどこやったんだよ!」
 「・・・魅琴さん・・・。」
 「折角良い雰囲気で終わると思ったのに・・・っつーかお前、クスリの効果は切れてるはずだろ!?」
 「俺はいつだってラブファイターだぜっ!」
 「意味わかんねぇよっ!」
 キャンキャンと、魅琴と冬弥が不毛な言い争いをする中、奏都がこちらに近づき、ペコリと頭を下げた。
 「どうも五月蝿くて・・・申し訳ない。」
 「いえ、賑やかで良いじゃないですか。」
 静はそう言うと、楽しそうに微笑んだ―――。


 【今の2人の関係は・・・】



 【 ――― これから作って行く物語・・・ ――― 】 




       〈END〉


 
 ◇★◇★◇★  登場人物  ★◇★◇★◇

 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


  5566/菊坂 静/男性/15歳/高校生、「気狂い屋」


  NPC/神崎 魅琴/男性/19歳/夢幻館の雇われボディーガード
  NPC/片桐 もな/女性/16歳/現実世界の案内人兼ガンナー
  NPC/梶原 冬弥/男性/19歳/夢の世界の案内人兼ボディーガード
 
 ◆☆◆☆◆☆  ライター通信  ☆◆☆◆☆◆

 この度は『ココロを変えるクスリ』にご参加いただきましてまことに有難う御座いました。
 そして、再びのご参加まことに有難う御座いました。(ペコリ)
 
 さて、如何でしたでしょうか?
 アホばっかりの館で申し訳ないです・・・。特に魅琴は・・・(苦笑)
 一番(ある意味)危険人物の魅琴がクスリを飲む相手・・・これは、周囲が止めないと大変な事に・・・!
 と言うわけで、冬弥ともなには頑張ってもらいました。最後、もなが泣いてましたが、静様に嫌われてしまうと思ったのでしょう。そして更に我侭を連発しておりますが・・・。
 静様の、儚くも艶なる色香をノベル内に上手く表現できていればと思います。・・・それにしても、私の描く静様は本当に年齢不詳っぽい感じになってしまいますね(汗)
 閏の悪戯はまだまだ始まったばかり・・・今度夢幻館へお越しの際は、上下左右をよくご確認の上、更に魅琴の気配もよくご確認の上お越し下さい。

  それでは、またどこかでお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。