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<PCあけましておめでとうノベル・2006>


楽し! おそろし? 運試し!



「もう、お兄さん。お正月早々、そんなところで寝てばかりいないで下さい!」
 零の言葉に、ところどころ色の剥げた皮のソファに寝そべっていた草間武彦は、視線だけを彼女にやる。

 あいかわらず薄暗く、散らかったまま年を越してしまった草間興信所。窓ガラス一枚隔て相対する青い空が、サングラス越しでも目に眩しい。
 傍らの映りの悪いテレビから聞こえるのは、駅伝の遠い歓声。
 良き哉、今年も平和でなによりだ……。
 
「ってお兄さん、また眠らないで下さい! もうこんなに日は高いんですよ? お正月だからって、ダラダラしすぎです!」
 とうとう癇癪を起こした零が、ソファから武彦を叩き落す。はずみでテーブルの角に頭をぶつけてしまい、草間は新年早々の「大当たり」にしばし身悶えることになった。
「……お、おい、零……お前な。正月なんだから、俺だって少しぐらいゆっくりしたいんだよ……」
「そうですよ、お兄さん。お正月なんですから、『初詣』に行きましょう!」

 草間の言葉で思い出したのか、零はぱっと華やいだ声で、彼のささやかな訴えを遮る。
 人ごみを思い浮かべ、早速げんなりする草間をよそに、零はうきうきとポケットからなにやら折りたたんだ地図を取り出した。
「おい、なんだそれ?」
「あのですね、この前教えていただいたんです。ここの興信所の近所にある『草薙神社』へ初詣に行って、そしてお願いをすれば、例えどんなことでも叶うそうですよ」
「なんだと?」
 ――誰だ、怪しげな話を零に吹き込んだのは。
 思わず鼻の頭にしわをよせる草間。そんな彼を気にも留めず、零は今もまた可愛らしく小首を傾げて見せたのだった。

「でも、『願いは叶う』けれど『幸せになるとは限らない』んだそうです。……願いが叶うのに幸せじゃないって、どういうことなんでしょうね、お兄さん?」




●楽し! おそろし? 運試し!



<男性陣の密談>

「俺さ、正月といえば初詣だと思うんだよね」
 応接セットのテーブルの上に申し訳程度に置かれたみかんを遠慮なく抱え込みながら、羽角悠宇は草間に対し遠慮ない口を聞く。
「なのに、寝正月で終わらせようってそれは不届きじゃないの、草間さん」
「……不届きってのはなんだ?」
「不届きだろ? せっかく神様が『正月なんだから挨拶に来い』って言ってるんだからさぁ。なんて言うんだっけこういうの。わびさび?」
 彼らしい物言いに、傍らに腰掛けるセレスティ・カーニンガムが静かな笑みを漏らした。窓からの陽光に、さらりと流れる髪が光る。
「そうですね。一年の始まりから早速行動を起こすことは、けじめをつける事にもつながって良いことだと思いますし」
「羽角さん。草間さんに物の道理を説いてもムダだと思いますよ。セレスティ様も、草間さんなどに真面目に返事しなくても」
 そして、室内を落ち着きなく歩き回るモーリス・ラジアルの口調は容赦ない。
 振り向きもせずばっさりと切って捨ててみせながら、「相変わらず、ろくなものがないくせに物が溢れていますよね」などと、大きすぎる独り言を吐いている。


 指摘されずとも寝正月を送ろうとしていた草間を邪魔したのは、予想もしなかった来訪者たちだった。去年散々見慣れた顔を、新年早々また見ることになろうとは……などと、彼らに世話になったことを棚に上げて草間は独り言ちる。
 零と、近所への挨拶から帰ってきたシュラインは別室にこもっている。なんでも他の女性陣に着物の着付けをしてやるとかで、その表情は新年早々気力に満ちていた。
 女ってのは、よく分からないところでやる気を発揮するよな――なんて呟きを、草間は煙の輪と共に宙に浮かす。


「……お前らなぁ。お前らの言い分、そっくりそのまま返すぞ」
 草間は重い頭を巡らし、散々な言い草を放つ(自称)客たちに視線を戻した。くわえていた煙草をギリ、と噛む。
 彼らの言葉は嫌味を通り越し、もはや白旗を上げた方がいいのではと思えてくる。
「お前らは何か? 正月早々、俺にイヤミでも言いに来たのか?! あぁ?!」
「人聞き悪いなぁ。暇そうな草間さんをわざわざ誘いに来てあげたんじゃん」
「俺はそんなこと頼んでない」
「私だって頼まれてませんよ。そんなに暇ではないですし」
「モーリス、あまりに正直なのも考え物ですよ」
 ――だめだ、多勢に無勢だ。
 思わず、草間が見えない天を仰いだ時。
 
 
「お待たせしました、お兄さん」
 隣室との扉が開き、零がぴょこん、と顔を出した。
 長い髪に、桜のかんざしが良く似合っている。どうですか、とその場をくるりと回ると、桃色の振袖の裾がひらりと宙を舞った。
「おお、悪くないな」
 本日初めての素直な賞賛を、草間は口にした。似合うぞ、との草間の言葉に、零は小首を傾げて照れてみせる。
「なんだ、誰かに着せてもらったのか」
「はい、シュラインさんと都由さんに」
「そうか、そりゃ良かったな」
「ちょっと武彦さん。その感想は簡単すぎるんじゃない?」

 零に引き続いて、他の面々も次々と姿を現す。
 肩をすくめてみせるシュライン・エマは鴇色の振袖。鷲見条都由が着ている訪問着は萩色だ。ここに来た時は仕事用のスーツだったはずの藤井百合枝も、その名に似合う藤色の振袖を身にまとっている。また、なぜかクリスティアラ・ファラットは白い襦袢に赤い袴の巫女姿だ。
 そして最後に出てきた初瀬日和の振袖は桔梗色。いつも下ろされている長い髪は高く結われ、着物にちなんだ桔梗の花のかんざしが挿されている。
 白い花柄が散ったその着物は彼女の白い肌によく似合っている。ソファに座っていた悠宇と目が合うと、日和はかすかに頬を染めた。
 ――見違えたなぁ。なんだか別人みたいだ。
「どう、悠宇くん? 私と都由さんの着付けの腕前は」
「日和さん〜着物、お似合いですよね〜?」
 手練な彼女たちの問いに、とっさに悠宇は返事を返す事が出来なくて――思わず日和が不安げに眉を小さく寄せると、慌てて悠宇は立ち上がり日和の元に駆け寄り、違う違う! と両手を振ってみせた。
「すっごく似合ってるぜ、日和」
「……ありがと、悠宇くん」
 悠宇の真摯な言葉に、日和の頬がさらに赤くなる。
「な、なんていうかさ。あんまり似合ってるから、俺見とれちゃって……実はさ、ちょっとだけ楽しみにしてたりしたんだ、だから俺なんか嬉しいな、あはは」
 日和に負けないくらい顔を赤くし、照れたように頭をかく悠宇。しどろもどろになっている口調にも気がついていないらしい。
「あら、仲のいいこと」
「どーして、お二人は顔があんなに赤いんですか?」
 百合枝とクリスティアラのからかいも、二人の耳には入っていないようだ。 
 

「で、武彦さん。誰が一番、着物がよく似合ってるかしら?」
 シュラインに問われ、草間は再びぐっと詰まっている。
「まぁまぁシュラインさん、無粋な草間さんに気の効いた返事を期待するのは無駄ですよ」
「甲乙つけがたく、皆さんよくお似合いですよ」
「そうかな。俺、日和が一番よく似合ってると思うけど」
「! 悠宇くんってば!」
 一同を前にしての悠宇の正直な感想に、日和は真っ赤になっている。
「ま。そこまで正直に言われちゃ、敵わないわね」
「でも〜みなさん〜それぞれ〜お似合いだと思います〜」
「あれ? あれれ? この『みこ』姿が、ショーガツの正装じゃないんですかっ!」
 顔を見合わせて笑いあう、百合枝と都由。その横でクリスティアラは周囲をキョロキョロと見回し続ける。

 そして。
 「便所」と一言呟き、気まずそうにそそくさと部屋を逃げ出した草間。
 まったくもう、と肩をすくめたシュラインの姿が目に入っていないはずはないのに、そ知らぬ素振りだ。

 彼の背中に向け、狭い室内に一向の明るい笑い声が弾けた。



     ■□■



 草薙神社は興信所より20分ほど歩いたところにあった。
 長い参道はたくさんの屋台と、その隙間までも埋めるほどの人で賑わっている。
 冷えた空気に、白い吐息が上がっては消えていく。賽銭を握り締め本道へ向かうもの。それに背を向け、破魔矢を抱いて帰宅の途につく者。
 すれ違うのも困難な狭い道。参拝者のさざめきと、屋台の賑わいが交じり合う。
 これだけの大きな神社を、なぜ今まで知らなかったのだろうか? ――その大きな疑問にしっかりと答えられる人間は、この場所にはいないだろう。
 誰もが思うはずの疑問にしっかりを蓋をし、ただ願いが叶うというその評判だけを頼りにして、長い参道を抜けると――迎えるのは大きな朱色の鳥居。
 それを2回くぐり、破魔矢やお守りなどが並ぶ窓口を抜けると、人々の前に本堂が現れる。
 置かれた大きな賽銭箱目掛け、皆賽銭を投げる。そうして柏手と共に、人はそれぞれつつましい願いを口にする――



「ごめんね、悠宇くん」
「んー? 何が」
「その……重いでしょ?」
「ぜーんぜん。むしろお前軽すぎるぞ」
 悠宇の言葉に照れたのか、背中にしがみついたまま日和が身を縮こませる気配がする。
 日和をおぶったまま悠宇は得意げな笑みを漏らし、そしていっそう足取りを大きくする。
 彼の足にじゃれ付くようにして駆け回っていた白露と末葉――二匹のイヅナが、慌てたようにその動きを早くした。
「こらお前ら、ちゃんとついて来ないと捕まえるぞ」
 彼の言葉が分かってかどうかは分からないが、二匹は数歩前まで進み出て彼を振り返り、悠宇に向かってチチチ、と声を合わせて鳴いた。


 晴れ着にて共に初詣に繰り出した日和が、草履の鼻緒を切ったのはついさっき。そうして、悠宇は歩けなくなった彼女を背負って歩みを進めている、というのが現在の状況だ。
 日和はひたすら謝っているけれど、悠宇が少しだけ喜びを感じていたのは事実だ。
 だって、俺って頼られてる男ってカンジするじゃん? ――なんて、あまりにも子供っぽい理由かなぁと思わないでもなかったけれど。

「なぁ、ところでさ」
「なに、悠宇くん」
 背中からの声は耳に直に入って来るようで、胸が騒ぐ。
「……お前さ、何お願いしたんだ?」
「え?」
「ほら。賽銭入れた後さ、随分長いこと祈ってたから」
 ――わずかな沈黙。
 その後に、わずかに柔らかくなった声が再び聞こえる。
「当ててみて?」
「んー? じゃぁさ、あれだろ。チェロがもっと上達しますように!」
「……ぶー、違います」
 へ? と間の抜けた声を返してしまったのが可笑しかったらしい。
くすくす、と笑ってから、日和は言った。
「……チェロが、『もっともっと』上達しますようにって」

「なんだ、合ってるじゃん」
 照れ隠しに、悠宇が少しだけぶっきらぼうに言うと、日和はうふふ、と笑う。
 ああきっと今、日和らしい笑顔を浮かべてるんだろうな――そう思うと、悠宇は振り返って彼女と真正面に向き直りたい衝動にかられた。
 もちろん、彼女を背負っている今は無理だけれど。
「さっきね、おみくじもひいたでしょ? そうしたら『直に成功への光差す』って書いてあって……だからね、今年も、もっともっと頑張ろうと思って」
「そうか」
 この願いと志は、なにより彼女らしい、と悠宇は思う。
「この神社、願いは何でも叶うらしいから、きっと日和の願いも叶うだろうな。たっのしみだなー、日和のチェロがどんどん上手くなるの。おい日和、ちゃんと俺に聞かせろよ?」

 約束ね、と日和はしっかりと頷いてみせ、そして続ける。
「……ねぇ悠宇くん。悠宇くんのお願い事は?」
 当然の問いに、だが悠宇はすぐに返事をしなかった。
「なんだと思う?」
「え……?」
「例えばさ。草間さんの願いごとって容易に予想がつくんだよな。今年こそハードボイルドに徹する事が出来ますようにとか、今年こそ経済的困窮から脱出できますようにとか、そのあたりだと思うんだよな。あの人、あんまり無理っぽい願いは最初からしない方がいいと思うんだけどさぁ……神様だって、叶えるのに苦労する願いは困ると思うんだけどな、俺」
 日和もそう思うだろ? 
 そう投げかけた問いに返ってきたのは、悠宇が少しばかり焦るものだった。
「……ずるいわ」
「日和?」
「私だってちゃんと正直に言ったんだから、ちゃんと教えて。もちろん、おみくじの結果も」

 彼女の声に、わずかながらの意地を嗅ぎ取った悠宇は、思わず目を逸らしてしまう。
 会話の相手は背後にいて、彼の表情を見ているはずがないのに――と、我に返った悠宇は、いっそうの照れくささを覚える。
「……とりあえずさ。おみくじには『感情を素直に表すべし』って言われた」
 だから、と語を継ごうとして、悠宇はすぐに言葉に迷う。
「ま、だから……今年もよろしくな、日和」
 それが悠宇の精一杯だったが、日和にはちゃんと伝わったらしい。言葉ではなく、頷いた気配が背中から伝わってくる。
「あとは俺のお願いだけど……えーと」
 ちゃんと伝えようとは思っているけれど、なんと言葉にすればいいのか迷った悠宇は、しばらくの間日和を焦らす事になったのだった。

 

 ――日和の願いが叶いますように。
 俺がついてるからな、日和。
 
 
 吉を引き当てた彼の願いも、必ずや叶う事だろう。
 






追伸 ――おみくじの結果一覧――

(数字が)1.緑雨吉/胆に注意/風涼やかにして軽やか。平穏は続く。
2.紅雲吉/小腸に注意/夜明けの時期。直に成功への光差す。
3.暗黒凶/腎に注意/大凶。自重せよ。ただ耐え苦難をやりすごすべし。
4.桃花吉/肌荒注意/恋愛関係に吉。八方美人は揉め事の元。
5.黄金吉/胃に注意/意地を張るのは凶。感情を素直に表すべし。
6.白圭凶/肺に注意/口は災いの元であり、風邪は万病の元である。


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【0086 / シュライン・エマ / しゅらいん・えま / 女 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【3524 / 初瀬日和 / はつせ・ひより / 女 / 16歳 / 高校生】
【3525 / 羽角悠宇 / はすみ・ゆう / 男 / 16歳 / 高校生】
【3954 / クリスティアラ・ファラット / くりすてぃあら・ふぁらっと / 女 / 15歳 / 力法術士(りきほうじゅつし)】
【1883 / セレスティ・カーニンガム / せれすてぃ・かーにんがむ / 男 / 725歳 / 財閥総帥・占い師・水霊使い】
【2318 / モーリス・ラジアル / もーりす・らじある / 男 / 527歳 / ガードナー・医師・調和者】
【1873 / 藤井百合枝 / ふじい・ゆりえ / 女 / 25歳 / 派遣社員】
【3107 / 鷲見条都由 / すみじょう・つゆ / 女 / 32歳 / 購買のおばちゃん】

(受注順)


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          ライター通信           
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(少々遅くなりましたが)明けましておめでとうございます。つなみりょうです。
この度は発注ありがとうございました。大変お待たせした分、ご期待に沿えた物をお届け出来ていればいいなと思います。

さて、今回はお正月らしく、皆様に初詣へ繰り出していただきました。
「草薙神社」も、当初の想定は雑木林の中のうらぶれた神社――だったのですが、嬉しい事に多くの皆様においでいただきましたので「だったら結構賑わってる神社かも」なんてことになりました。さて、いかがでしたでしょうか?


悠宇さん、ありがとうございます! さて今回はいかがでしたか?
今回もまた日和さんとの仲のよさを書きつつ……あとはコメディが続いたので、悠宇さんの「カッコよさ」を少し入れたいな、と思ったのですが、上手くお伝えできましたでしょうか?
ちなみにお二人とも引き当てたのは「吉」でした。神社のご加護できっと願い事は叶う事でしょう。


余談ですが、私自身も先日おみくじを引いたところ、「吉」でした。可もなく不可もなく、「願い事は努力すれば叶う」だそうで……精進いたします。
本音を言ってしまえば、楽して幸せになりたい〜幸運よ雨ほど降って来い! なんて思ってしまいましたが(笑)

お告げ通り、マイペースではありますが地道に努力していく所存ですので、本年もどうぞよろしくお願いいたします。
機会がありましたら、またぜひお越し下さいね。その際はまた楽しんでいただけますよう、大歓迎いたしますので!

ではでは、つなみりょうでした。