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<PCあけましておめでとうノベル・2006>


江戸艇〜鏡開き


 ■Opening■

 時間と空間の狭間をうつろう謎の時空艇−江戸。
 彼らの行く先はわからない。彼らの目的もわからない。彼らの存在理由どころか存在価値さえわからない。
 けれど彼らはその狭い挺内に謎の江戸世界を凝縮して、時間を越え、空間をも越え放浪する。
 その先々の住人たちを、何の脈絡もなく時空艇−江戸に引きずりこみながら。

 凍てつく寒さもなんのその。
 年も明けて誰もがおせち料理に飽きてきた1月半ば。
 鏡開きに木槌をうって、両国柳橋にある万屋梅の料理茶屋の前に、こんな幟が立ち並んだ。


 『 餅 大 喰 い 選 手 権 』





 ■Where is...■

 西暦2XXX年ブラジル。その北部アマゾン川上流域にひっそりと佇む宇宙と地上を結ぶ起動エレベータの残骸――通称『セフィロト』。
 そのセフィロトの高層立体都市イエツィラーの入口に作られた都市マルクトの更に一画、ガラクタの山に家が立ち並び、怪しげな看板が掲げていたりいなかったり、一種異様な活気を漂わせ掃き溜めの如く存在する町、ジャンクケーブ。
 その怪しげな場所を白神空は軽い足取りで歩いていた。
 長い銀色の髪を背中で軽快に揺らせながら色白のかんばせに紅い唇が妖しくも楽しげな笑みを象って、妙な気合を滲ませていた。
 そう。
 この日の彼女の気合は並々ならぬものがあった。せっかくの新年、今年はリマの姫初めをなどと密かに企んでいるのである。
 ルアト研究所と達筆で書かれた看板の前で空は足を止めると扉をノックするでもなく手にした紙袋を傍らに置いて声をあげた。
「A Happy New Year!」
 それを合図に間を空けず2階の窓が開く。
「空!」
 そう言って顔を出したショートボブの、一見少年にも見えるような少女、このルアト研究所所長の愛娘マリアート・サカ、空が言うところのリマである。
 リマは階段を使うのも面倒で窓をひらりと飛び越えた。
 研究所の隣にあるほったて小屋からはゼクス・エーレンベルクが顔を出す。
「なんだ、海老か!?」
 とは、彼の条件反射であったろう。その端整な顔立ちとは無関係に無類の海老好きである彼は、海老をお土産に持ってきてくれる空に、この時も脊椎反射していたのである。
 ルアト研究所の所長はこの日は助手を連れて不在らしく、バイトに訪れていた常盤朱里が、その研究室で1人オールサイバーをメンテナンス中であった。
 とはいえ、研究室にたった1人というわけではない。
 何よりメンテナンスされているオールサイバーがいるし、その者と親友らしいナンナ・トレーズが、その手をしっかり握りしめて見守っていたからだ。
 その時朱里はふと、何かに気づいたようにいつもは俯かせている顔をあげた。
 折りしも、研究所の前では空がリマを受け止めようと両手を広げているところだった。ゼクスは空が傍らに置いた紙袋から目が離せない。
 ナンナはメンテナンス中のオールサイバーに頑張ってとしきりに声をかけた。
 リマが窓から飛ぶ。
 刹那、研究所を包むように光がスパークした。
 この屋内都市であるマルクトに降り注ぐのは頭上50mのところにある天井からぶら下がった間接照明だけの筈だ。
 にもかかわらず、朝陽のような眩しい光が彼らの元に降り注いだのだった。


 ◇◇◇


 西暦20XX年東京。その片隅にひっそりと佇む雑居ビルの一室に草間興信所のオフィスはあった。しかしあまりにひっそりと存在している為、その前の道を歩く者でさえ、その存在に気づいている者は少ない。それを必要とする者たちだけがふとした拍子に見つけるのだろう。
 その興信所で事務員を務めるシュライン・エマはほっと人心地を吐いて湯飲みを置いた。お正月も3日が経つとやる事も特になくなってしまい何となく暇である。大晦日に大掃除をして早々散らかるものでもない。かと言って、興信所が忙しくなるという事は、物騒という事にも繋がるのだから、その辺には微妙なジレンマが付きまとった。暇が続けばそれはこの街にとって喜ばしい事なのだろう、しかし興信所としては収入源を失ってしまう。
 事件を期待するのはあまりに喜ばしい事でもないが。
 シュラインは湯飲みから立ち上がる湯気をぼんやり見つめた。
 こんな正月早々、事件が舞い込んでくるのはやっぱりよくないわよね、なんて自分に言い聞かせる。
 テレビのリモコンを取って電源を入れると『新春特番・慌てん坊将軍スペシャル〜江戸城に散るサンバ〜』をやっていた。
 江戸城に雄たけびを轟かせ総髪を振り乱し暴れまわる将軍の姿を見ながら、シュラインは眉を顰める。いつから将軍は総髪になったのか。しかもよく見れば彼の着ている衣装は着物のそれではない。
「まさか、ね」
 なんて呟いていると興信所のインターフォンが鳴った。
 来客に慌てて立ち上がり扉を開けると、見知った顔が立っている。
「あけましておめでとうございます。近くに用があったので年始の挨拶に」
 セレスティ・カーニンガムはそう言って手にしていた紙袋を差し出した。
「あけましておめでとうございます。これはご丁寧に。さ、どうぞ。今、お茶を淹れるわ」
 折りしもそれは逢う魔が刻。
 夕暮れの中、興信所の入っている雑居ビルの前を、買い物袋を持った主婦――藤井せりなが足早に家路を急いでいた。
 週一で近所の子供たちに空手を教えている彼女は、うっかりスーパーでその子供のお母さま方に捕まってしまい、今まで井戸端会議をしていたのである。いつもは自分が夫を待つ身だが、如何せん正月休みは夫が腹をすかせて家で待っている。
「遅くなっちゃったわ」
 と呟く彼女の足取りは忙しない。
 そんなせりなの横をこちらはゆったりとした足取りで1人の男がすれ違った。
 綾和泉匡乃は近くの予備校で働く講師である。
 予備校に正月休みなどないに等しい。センター試験に向けて今が追い込みの最も忙しい時期だからである。その超過密ともいえるスケジュールの中で、だからこの日は彼にとって唯一用意された休日であった。その休日をのんびりと過ごした夕暮れ時。
 犬の遠吠えが一つどこかから聞こえてくる。
「ふふ。こんな日に召喚されちゃったりしてね……」
 なぁんて、と笑いながらシュラインはセレスティにお茶を出した。
 刹那、雑居ビルとその周辺を飲み込むように世界は突然真っ白に光輝いたのだった。


 ◇◇◇


 同じく西暦20XX年東京。その片隅にひっそりと佇む小料理屋山海亭のその日の朝は意外に遅かった。今が市場の開かぬお正月だからである。仕入れに出るわけではないのでのんびりしたものなのだ。
 とはいえ店は今日も開く。
 勝手口を開けて朝の空気を開店前の店内に注ぎながら、山海亭の主、一色千鳥はカウンタ席に座ってメニューを考えていた。市が開かない時はどうしても京料理が主軸になってしまう。内陸の京料理は新鮮な魚などが手に入らなかった為、この時期には丁度いい料理が多い。京都のおばんざいを脳裏に描きながら筆を手に首を傾げていると、ふと戸口に人の気配を感じて立ち上がった。
 店の前に、朝陽と共にメアリーポピンズ宜しく1人のマフラーをした少年が舞い降りてくる。
「おや、久那斗くん。あけましておめでとうございます」
 千鳥が目を細めて言うと、晴れた日に傘をさした少年――日向久那斗は珍しくちょこんと頭をさげて言った。
「ん。おめでとう」
「何か甘いものでも欲しくなったのですか?」
 尋ねた千鳥に、久那斗は小さく頷く。
 本当は別の用事で訪れたのだが、甘いもの、につい心奪われてしまったのだ。
 中へと促されるままに山海亭へ入ると久那斗は書きかけのお品書きの並んだカウンターに座った。
「羊羹くらいしかありませんが」
 と千鳥が羊羹を切り分けて皿に盛る。
 それを食べながら、久那斗はやっとここへ来た理由を思い出したように呟いた。
「予感、した」
 それだけ言ってまた、羊羹に意識が戻る。
 千鳥はそれに別段訝しむでも、怪訝に首を傾げるでもなく笑みを返した。
「そうですか。実は私も予感がしていたんですよ」
 久那斗は羊羹を全部食べ終えてから、明後日の方を振り返った。
「優夢……」
 誰かに呼ばれたような気がして聖嵐優夢は目を覚ました。
 布団の上でぼんやり上体を起こす。
 何か夢でも見ていたのだろうかと首を傾げていると、机の引き出しが光ってるような気がして、優夢は寝ぼけ眼を手の甲でこすりながらそちらに顔を寄せた。
 確か、あそこには江戸艇のパスポートが……そう思った刹那、彼女は枕元に置いてあった刀を掴んでいた。
 折りしも、久那斗がお替りと言葉には出さず目で訴えながら皿を出している時だった。それに千鳥がはいはいとカウンターの向こうへ歩きだす。
 彼らの世界を強い光が包んでいた。


 ◇◇◇


 年号不明、XXXX年。異次元。地球とも覚束ない異世界。彼呼ぶところの聖筋界ソーン。誤字ではない。そのソーンで病院経営などをたくらむ――もとい、営む腹黒同盟総帥オーマ・シュヴァルツは【筋賀新年】と書かれたその病院の扉を勢いよく開け放っていた。
 勿論、逃げる為である。
 齢39歳は外見だけ。実年齢不明。たぶん8000歳は軽く超えてる筈。身長277cm。その巨体を脂肪ではなく筋肉で覆うマッチョな親父は、果たして一体、何から逃げようとしているのか。この世に怖いものなどないと言わんばかりのふてぶてしい顔をして実は奥様と愛娘に滅法弱い家族バカ。
 現在、正月早々愛娘にナマ絞られ中。
 そんな次第で下僕主夫ご乱心。
 彼は逃げるように扉の外へと一歩を踏み出した。
 刹那、突然世界は真っ白に光輝いた。
「ん?」
 誰もが目を閉ざさずにはいられないほどの強い閃光の中で、目を閉じるでもなく彼はこれ以上ないくらい楽しげな、それでいて腹黒い笑みを浮かべながら。
 そこには予感めいたものがあったのだ。
「ひゃっほー!」


 ◇◇◇


 そうして誰もが訪れて一番最初に呟く言葉は皆同じだった。
 ある者は不思議そうに、ある者は楽しげに、ある者は落胆しながら。
「ここは……」





 ■Welcome to Edo■

 『ここは』と呟いた千鳥のそれは、確認のそれに近い。
「はぁ〜〜〜〜〜」
 傍らでシュラインが盛大な溜息を吐いていたが、千鳥は別段沈うつになる要素は現時点ではない。
 どちらかといえば、期待に胸が膨らむ気がした。いつもとあまり代わり映えのしない厨房に、いつもと変わらぬ装い。二藍が地色の小袖には私的に満足だった。唯一いつもと違うのは、傍らに見知った顔がある事か。しかし、召喚直前に傍にいた久那斗ではない。
 シュラインがこちらを振り返ってやれやれとばかりに肩を竦めてみせた。
「まぁ、これは何ですの?」
 開いた戸口の向こうから女の声がした。
 千鳥がそちらを振り返る。
「おや、これは立派な松飾りですね」
 そこには松飾りとそれをしげしげ見つめる青い髪の女があった。綺麗な瓶覗のちりめん地の小袖を着た上品な感じの女であったが、勿論というべきか髷は結っていない。いずれこの江戸艇の住人ではないという事だ。
「まつかざり、というんですのね」
 そう言って女は土間の中へと入ってきた。
「わたくし、ナンナと申します。何やら気づいたらこのようなところにおりまして……」
 困惑げに笑みを浮かべるナンナに、戸口の向こうから別の声が重なる。
「良かった。他にも、そういう人がいるのね?」
 そう言って入ってきたのは、松葉色の小袖を着た女だった。
「あら?」
 シュラインが見知った顔なのか首を傾げつつも頬を緩めた。
「と、仰ると、あなたもですのね」
 ナンナがせりなを振り返って安堵の色を滲ませる。
「えぇ」
 頷くせりなに、どうやら2人はここへは初めてらしい、と気づいた千鳥が言った。
「ここは江戸の町なんですよ」
「江戸?」
「EDO?」
 2人が同時に首を傾げるのに千鳥が簡単にこの世界の事をかいつまんで説明した。
 ここが似非江戸である事。とりあえず何か用事があって呼ばれるという事、その用事が済めば元の世界へ戻れる事など。
「御用とは一体なんなのでしょう。わたくしに出来る事なら宜しいんですけど」
 ナンナが不安げに呟く。せりなも少々困惑顔だ。
 そこへ、注目といわんばかりに手を叩く音が響いた。
「もうすぐ時間だよ」
 そう言って三和土から顔を出したのはしわくちゃの老婆だった。
「これは梅さん」
 と、千鳥が目を細める。
 よほどナンナは梅の髪型が珍しかったらしい。
「まぁ! その頭、どうなってますの!?」
 そう言ってもの珍しげにまとわりついてくるナンナを、鬱陶しそうに睨みつけて梅が言い放った。
「もうすぐ餅の大食い選手権が始まるんだ。今日は鏡割りだからね」
「餅の大食い……ですか。いえ、多くは語りません。こうなっては料理人としての腕を大いに揮わせていただきましょう」
「何だかよくわからないけど、御用というのは、その大会のお手伝いに借り出されたという事かしら」
 せりなが今一つ要領を得ない顔付きで首を傾げた。
「まぁ、わたくしお料理はあまり得意ではありませんが、頑張りますわ」
 ナンナが気合を入れる。
 梅は咥えていたキセルを離してゆっくり口から煙を吐き出し言った。
「おぉ。頑張っとくれよ。それよりそこの2人。その髪といい、その目といい、おぬしらキリシタンではないだろうね?」
「キリシタン?」
「これを踏めるか?」
 そう言って梅は懐から1枚の紙切れを取り出すと2人の足元に置いた。
 千鳥はそれを見て小さく溜息を吐きだす。
「梅さん、まだ、そんな事してるんですか?」
 ものを踏むなどよくない事だ、と再び梅に説教を始める千鳥に、しかしそれを知ってか知らずか、その後ろではナンナとせりなが一緒になって踏み絵を踏んでいた。
「…………」


 ◇◇◇


 オーマの『ここは』は助かったという安堵に満ち溢れたものであった。
 どこだ、と考えるのも無駄だと思っているのか、彼は別段深く考える事無く見た事もない景色の町を歩きだす。
「おや、そのかっこは火盗改めの旦那ですか?」
 通りを歩いていると突然、銀髪の男に声をかけられた。どこかの家の庭先に緋色の敷物を敷いて、大きなパラソルをさしたその傍らで立っている。
 別に何か用事があるわけでもないオーマはそれに足を止めた。
「なんでぃ?」
「これから餅大喰い選手権が始まりますよ。ご一緒にいかがです?」
 銀髪の男が自分を誘う。
「おぉ。それは餅筋乱舞お年玉アニキ盛りゲッチュし隊っつーなにかね?」
「はい」
 男が柔らかい笑みを湛えて頷いた。
「おぉっ! いいねぇ。ところで火盗改めの旦那ってのはなんだ?」
「火付けや盗賊を捕まえるお仕事ですよ」
「ほぉ〜。つまり、あれだ。ワル筋汚染乱舞江戸薔薇筋浪漫改め方っつーことだな」
「はい」
 尋ねたオーマに男はやっぱり笑って頷いた。
「では、皆さんの分のお茶でも点てるとしましょうか。用意も整ったようですし」
 そう言って男が下駄を脱いで緋色の敷物に上がる。
「その前に旦那様。こちらの方にこれを……」
 男の傍らにいた変わった頭をした女が、そう言ってそっと一枚の紙切れを取り出し自分の足元に置いた。
「なんだぁ?」
 こちらの、と指されたオーマが覗き込む。
 そこには、へのへのもへじに毛の生えたような顔が十の上にのっていた。ある意味すごい絵である。
「キリシタン狩りにございます」
 言った女に、銀髪の男とは別の黒い髪をした男が女を振り返った。
「踏み絵ですか?」
 尋ねた黒髪の男に女が首を縦に振る。
「なんでぇい、その踏み絵ってのは。これを踏めばいいのか?」
 オーマが怪訝に首を傾げると、黒髪の男が言った。
「一応、そういう事になりますかね。踏まなければキリシタンとみなされ、火あぶりにされたりします」
「何!? これ踏まねぇヤローは全員問答無用でワル筋扱いか!?」
「ワル筋……?」
 黒髪の男は首を傾げたがオーマの耳には届かなかったらしい。
 どうでもいい注釈だがワル筋とはオーマ語録で悪い輩を指す言葉である。閑話休題。
「おっしゃ、わかった。任せろ!」
 気合を入れてオーマは後ろへと下がった。
 踏まねばならぬとわかれば、全力を尽くすのみ。
 踏んでないと後で言われぬ為にもきちんと踏む。
 オーマは適当に助走をつけた。
「どっりゃぁぁぁぁぁ〜〜〜!!!」
 踏み絵に向かってスライディング。
 全力で踏み躙る。
 辺りにはもうもうと土煙が舞い上がったがそんな事おかまいなし。
「…………」
「どうでぃ!?」
 オーマが自信満々の顔で言った。
 彼の大胸筋で抱きしめられた踏み絵はへのへのもへじに髭が生えていた。さりげなく親父臭い絵に変貌している。
「……いいのではないですか……」
 黒髪の男――匡乃はそれが精一杯だったのか。
 そこへ、今までのやり取りからすれば場違いともいえる、まるでそれらをリセットするかの如きまったりとした、銀髪の男――セレスティのマイペースな声が届いた。
「お茶が入りましたよ」


 ◇◇◇


 優夢の『ここは』はまだ寝ぼけている風だった。
 優夢はそこで2度瞬きして「また、ですか……」とぼんやり呟いた。この江戸へはかれこれ2度目である。
 手に愛刀が握られているのを確認して、また町娘にしては質のいい着物を着ているから、前回同様、町娘に扮したお姫様といったところなのだろうと判じて笑みを零す。さすがに2度目ともなれば、慌てるようなことも、無闇に不安がる事もない。
 傍らに唐傘を手に立っている少年を見つけて優夢は声をかけた。
「久那斗くん……だよね」
 すると少年が小さく頷いた。
「優夢。やっぱり来た」
「今度は何が起こったのかしら」
 首を傾げる優夢に久那斗が答える。
「ん。あんころもち。食べたい」
 そんな久那斗の視線を優夢も追いかけると、庭先でお餅つきをしているのが見えた。鏡餅が縁側に並べられている。
「あら、鏡開きかしら」
「鏡開き?」
 優夢の言葉に反応したような声は久那斗からではなくその背中から届いた。
 黒く短い髪の少年に青い髪の青年は共に髪が短かったから、恐らくはこの江戸艇の住人ではないのだろう。
 自分たちの他にも召喚された者達と知れて、優夢が笑みを返す。
「はい。鏡餅を手で割ったり木槌で砕いたりしてお汁粉なんかにして食べるんですよ」
 そう説明すると、青い髪の男の目がキラリと光った。
「食べるのか。そうか」
「あんたにはそれしかないのよね」
 黒髪の少年――いや、よく見れば振袖を着ているから少女だろう――が腰に手をあて呆れ顔である。
 優夢が小さく肩を竦めて久那斗を振り返った。
 久那斗は「ん」と一つ頷く。
「久那、久那斗」
 久那斗が言った。
「私は優夢です」
 優夢が頭を下げる。
「あ、私はリマ。こっちはゼクス」
 黒髪の少女が言った。
 ゼクスと紹介された青い髪の男は、優夢と久那斗には見向きもせず、垣根に取り付けられた幟を食い入るように見つめている。
「むむむ……こっ、これは……」
「餅。食べる」
 同じく幟を見上げながら久那斗が言った。
「タダなんだろうな?」
 ゼクスが誰にともなく念を押す。
「そうじゃないかしら」
 優夢は幟の文字を見ながら答えた。
「参加するぞ」
 ゼクスが宣言した。
「ん」
 久那斗も頷く。
「え? 久那斗君も?」
 優夢が驚いたように久那斗の顔を覗き込んだ。
「参加」
 久那斗が答える。
「じゃぁ、応援しなくちゃね」
 優夢が笑みを返した。
「私はどうするかなぁ……」
 リマが首を傾げる。
「……あ、ナンナだ。私、あっち手伝ってくる。面白そうだし」
 庭先でおもちつきの手伝いをしている中に見知った顔を見つけたのだろうリマはそう言って駆けだした。


 ◇◇◇


 真っ白な世界がゆっくりと影を作る。朝目覚めた時のようにぼやけた輪郭は徐々に焦点が合って像を浮かび上がらせた。朱里の『ここは』は恐怖にも似た不安と共に呟かれた。
 見た事もないような町並みが広がっているのに、朱里は愕然とする。先ほどまで研究所の研究室にいたのだ。
 知らない場所。知らない世界。知らない町並み。見た事もないような髪型の人々が行き交う未知の世界。
 朱里はうろたえる。
「おい、お前!」
 突然、誰かに肩を叩かれた。
 それでなくても人見知りの激しい彼女はどうしていいかわからない。
 殆ど反射的に走りだす。
 肩を叩いた男が追いかけてきた。
 目を閉じる。
 ――誰か!
 閉じていた目を開けて辺りを見渡した。
 目の前に女の人が立っている。
 銀色の長い髪は自然に下りて、見た事もないような髪型をしていない。
 朱里は何だかホッとしたように足を止めた。
 けれど、何て言葉をかけていいのかわからない。
 そうしたら。
「お嬢さん」
 彼女から声をかけてきた。
「あ……あの……」
 朱里は感極まって彼女の胸に飛び込んだ。
「良かった」
 知らない世界でやっと知ってる何かに出会ったような、そんな気分だったのだ。
「へ?」
 彼女が驚いたようにそれでも優しく髪を撫でてくれた。
「お……追われてるんです」
 胸に顔を埋めながら朱里はか細い声で訴える。
「追われてる?」
 朱里は彼女の胸の中で小さく頷いた。
「待てーーー!!」
 通りの向こうから走ってくる三下共の声。
「わかった。逃げよう!」
 彼女は言うが早いか朱里を庇うようにして走りだした。
「は……はい……」
「あたしは空。あなたは?」
「あ……朱里といいます」


 ◇◇◇


 しずめの『ここは』は何とも複雑で且つ微妙なものであった。
 そもそも彼の心情はめまぐるしく、刻一刻と変わっていく。それは彼が何事にも飽きっぽく、自分に都合の悪い事はすぐに忘れられるとっても素敵な性格をしているのが最大の理由であったろう。とにもかくにも、いろんな感情がない交ぜになっていた。
 それは彼がここへ訪れる数瞬前に遡る。
「髷が曲がっておーる!」
 歩く傍迷惑とも天下の迷子とも異名を誇る紫桔梗しずめは、その日特番の慌てん坊将軍に出演中だった。勿論正式のオファーがあっての事ではない。ブラジルサンバカーニバルを目指して遠征中。彼の感覚で一本道を間違えて江戸撮影村に来てしまった彼は飛び入り参加。まさに番組は時代劇初の生放送中であった。大迷惑甚だしく、撮影スタッフ・テレビ局諸々一同泣かせのとんだハプニングを巻き起こしていたのである。
 しかししずめはそんな些細な事には動じない。
 いつだってナチュラルにその世界に溶け込むのが彼の信条だ。たぶん。
 彼はどこで拾ってきたのかハリセンを振り上げて飛んだ。
 その瞬間、世界は白く霞んで消えたのである。
 次に彼が見た世界は、しかしその前と大して変わっていない。
 スパーン!!
 ハリセンが小気味いい音を江戸城の中庭に響かせた。そこにいた家臣の1人が突っ伏している。
「上様ーーーーーーーーーっっ!!」
 そこへ若年寄畑倉が馳せ寄って来た。やっと見つけましたという顔だ。実際城の中を走り回って探していたのであろう。
 上様のお姿を見つけて感極まっているのか目尻に光るものが見える。
「よーございましたーー」
 などとしずめに向かってダイブまでする始末であった。
 それはまるで抱きつかん勢いであったがタックルと解釈したしずめが身構える。
 畑倉がしずめの胸に飛び込もうとした。
 刹那、迎え撃つべく腕を振り上げかけたしずめは、しかしふと持っていたハリセンでハエを叩き落すかのごとく畑倉を叩き落して顔をあげた。
 一瞬の出来事である。
 しずめは何かを感じ取ったようにそちらを振り返っていた。
「上…様……?」
 足元でへしゃげていた畑倉が訝しげに顔をあげる。こんなぞんざいな扱いを受けようとも、彼の忠誠心がチラとも揺らぐ事はない。見上げた根性と言うべきだろう。やはりこうでなくてはこの慌てん坊将軍の若年寄は務まらないのか。
 側近筆頭成原が目頭を押さえて視線を横に移した。その内心では『あぁはなりたくないものだ』と思っていようとも、そんな事はしずめにも畑倉にもわからなかった。
「わし抜きで祭りを始めるなど許さーん!!」
 しずめは咆哮をあげて言い放った。
「祭りは多勢の方が面白いわ!」


 ――かくて餅大喰い選手権の準備は着々と整えられたのである。





 ■Ready Go!■

「万屋梅の庭先に整然と居並ぶ筋肉たちぃ! …一部例外もあるが」
 どこから持ってきたのかしゃもじをマイク代わりにオーマはそこで一つ咳払いをして言い放った。
「今ここに、餅筋乱舞お年玉アニキ盛りゲッチュし隊筋の幕が上腕筋で破り落とされたぁ〜!! 俺の胸筋をワクドキさせてくれる筋肉は果たして誰だぁ〜〜!!」
 オーマの実況と共に餅大喰い選手権をスタートさせる昼時の鐘が鳴った。選手が一斉に目の前の餅を食べ始める。
「オーマさんの実況は無駄に『筋肉』がはいるので何が何だかわかりませんね」
 毛氈の上に正座をして匡乃は抹茶を一口啜ると、のんびりと言った。
「まぁ、ラジオではありませんしいいではありませんか」
 セレスティが優雅に茶筌を振るいながら答える。
「それもそうですね」
 ほんの目の前では凄絶とも呼べるバトルが繰り広げられているのだが、この空間だけは何とも和やかだ。
「優夢さんもお茶、いかがですか?」
「あ、はい」
 セレスティは点てたお茶を優夢の前に置いた。
 いただきます、と頭を下げて優夢がそれを取り上げると手の平の中で茶碗を回して、表を自分に向けて一口いただく。
「しかし、ここは江戸時代でもあるのに、言葉の隔たりをあまり感じませんね」
 匡乃が言った。
「あ、そういえばそうかもしれません。まるでテレビの時代劇感覚でいましたけど、実際にはもっと違った筈ですよね」
 優夢が答える。
「えぇ。書で読む当時の文でさえ時々詰まる事もあるのに、能なんて初めて見た時は、何を言ってるのかさっぱりわかりませんでしたから」
 匡乃は初めて見に行った能を思い出した。パンフレットに謡が載っていなければ、内容すらわからないところだったのである。
「武士言葉は能の言葉を使っているんでしたっけ」
「確かそのはずです。徳川家光の代に参勤交代で訪れる地方武士があまりに訛りが酷くて、それに悩んだ家光が言葉を統一するために能を武士の嗜みの一つに加えたのが始まりだと言われていますから」
「なるほど」
「しかし、よく考えてみればオーマさんのいる聖筋界とやらも日本語とは思えませんし……この江戸艇の中では何か翻訳システムのようなものが働いているのかもしれませんね」
「あぁ、そうかもしれません」
 納得げに優夢も頷く。
 そも、この世界に関して言えば何があってもおかしくないとも思えた。
「しかし、僕にはところどころ意味が通じにくいところがあります」
 匡乃が意気揚々と実況中継しているオーマを見やりなが言うのに、優夢は何とも複雑な苦笑を滲ませてオーマを振り返った。

「早筋! 早筋だぁ! 筋肉はお年玉袋よりも薄付きのくせにこの早筋ぶりは異常だゼクス・エーレンベルク! この餅筋乱舞お年玉アニキ盛りゲッチュし隊筋は早筋を競うもんじゃねぇのに、早筋ぶりだけは他の追随を許さな〜〜〜いっっ!!」
 唾を飛ばしながら早口でまくし立てるオーマの実況にも熱が入っていた。
 何を言ってるのかよくわからないが、とりあえず言いたい事は何となく伝わるだろうか。
 ゼクスは速かった。とにかく速かった。隣に座っている久那斗がマイペースでのんびり食べているだけに、更に彼のスピードが際立ち尋常ならざるものに見えたのだが、それを差し引いても速かった。
 セフィロト随一の貧弱男ゼクス・エーレンベルク。その過酷な幼少時代ゆえに食べる事に異様な執着を見せる。彼の通った後には一切の食いものは残らないとまで噂されるほどの胃袋の持ち主が、このタダ且つ好きなだけ食える機会を逃す事などありえない。
 故に1年分は食い溜めする気満々なのである。気合の入り方が他人とはちょっと違っていた。すなわち、誰かに喰われる前に自分が喰う。
 まるでわんこそばを食べるかの如く一口で飲み込んでいくおかげで皿運びの女が彼の傍らにつきっきり状態であった。
 正にわんこそば。
 そのスピードの中で彼は更に、喉に詰まらせるような勿体ない真似はしない。
「次!」
 と次々に一口でたいらげていく彼のスピードに慌てたのは餅を作っている者達だったろう。
 最初の内は彼らも、白餅ばかりじゃ飽きるだろうからと、黄な粉餅やあんころ餅の計画も立てていたのだ。しかし、そんな余裕はかけらもない。
「次のお餅は!?」
 せりなが次々に餅を丸めながら言った。餅がつきあがるのにも限度がある。いくら彼女の餅を丸めるスピードが速くとも、肝心の餅が出来ていないでは始まらない。そして餅をつくにはもち米が蒸し上がってなければならないのだ。
「これじゃぁ、もち米を蒸すのも間に合わないわよ」
 シュラインが蒸篭を確認しながら悲鳴にも似た声をあげた。
「確か鏡割り用の鏡餅が縁側に並んでたはずだわ。いざとなったらあれで場を凌ぎましょう!」
「そうね。って、あれ? そういえば、一色さんは?」
 シュラインが辺りを見渡した。しかし見渡す限りの視界には見当たらない。
「何だか、白いお餅じゃ飽きるだろうからって向こうの厨房を借りて変わり餅作ってるみたいだったけど」
 せりなが言う。
「どこにそんな余裕があるのよ」
 シュラインは怒り半分呆れ半分で眉間に皺を寄せながら、蒸しあがった蒸篭を取ってバケツリレーのように梅に手渡した。
「あらよっと。どんどん餅ついとくれよ」
 梅はもち米を木臼の中に投じる。
「はい。わたくし、張り切ってお餅をつかせていただきますわ」
 ナンナは杵を掴んで構えてた。介添え用の水を準備して梅があらよっと掛け声をかける。
 気合の入った杵をナンナはフルパワーで振り下ろした。
 ぺったん。ぺったん。ぺったん……どごっ。
「あ……」
 思わず呟いたのはせりなだった。
 シュラインもその音に眩暈を感じてこめかみを押さえる。
 梅は介添え用の水に手を付けたまま固まっていた。
 3人の視線の先にかつて臼だったものがある。
 そう。
 ナンナの怪力が木臼を破壊したのであった。
「あら、わたくし少し力を入れすぎてしまいましたわ」
 少し、なのだろうか。
「ちょっ、どうするのよ。それでなくても、どんどんお餅つかないと追いつかないのに……」
 杵と臼が1セット減ってしまったのである。
 これではもち米が炊き上がっても餅がつけない。
 鏡餅っていくつぐらいあったかしら、とシュラインが頭の中で計算する。とはいえ鏡餅は砕いた後調理する時間もいるのだった。
 餅喰い大会を抹茶を点てながら観戦していたセレスティが、彼女らに気づいて立ち上がった。
「私が杵と石臼を用意しましょう」
「お願い!」
 シュラインは答えて、千鳥を呼びにいく。
 今は人手が欲しい。

 臼、木っ端微塵事件は、勿論、餅を喰ってる者達からも見えた。
「ん!?」
「おおーっと! これはどうしたことか脳まで胃袋筋の筈のゼクス隊員! 突然胃袋筋を休めて席を立ったぁ!! 試合放棄か、とうとう食いすぎたのかぁぁぁ〜〜〜!?」
 オーマの声が響き渡る。いつの間にか選手は隊員になっていた。ゲッチュし隊だからかもしれない。
 立ち上がったゼクスはふらふらとナンナのもとへ歩きだす。
「何て勿体無いことするんだぁ!?」
 ゼクスがナンナを怒鳴りつけた。
「あ…ごめんなさい」
 ナンナは申し訳なさそうに頭を下げたが、既にゼクスの視線は落ちた餅に釘付けである。
「むむむむむむむ……」
 ゼクスは地面に落ちた餅をマジマジと見つめていた。
「?」
 オーマがゼクスの様子に言葉をかける。
「どうした、ゼクス隊員!?」
 ゼクスの中では何かとてつもなく大きな葛藤があるようだった。
「きな粉餅に見える」
 ゼクスが呟いた。
 肌理の細かい庭の砂は微妙に濡れた黄な粉色。それが程よく白いお餅に絡んでいるのだ。
「は?」
 思わずせりなの手が止まる。
「あれも食う筋か全身胃袋筋男ーーーっっ!!」
 勿論、食う。
 それでこそ、ゼクスであろう。
「この執念! そんなに餅が好きなのか!? よし、喰え! もっと喰え! 俺はその根性に感動した! さぁ、この優勝商品も受け取ってくれぇ!!」
 オーマは優勝者用に自分で勝手に用意した商品『下僕主夫特製筋賀新年桃色マニア筋豪華お節』を取り出した。
 食べ物には目がないゼクスはそれが何であろうと手を伸ばす。その貪欲なまでの姿にオーマは更に涙を溢れされゼクスをフルパワーで抱きしめていた。
 胸筋が暑苦しい。
 この寒風吹き荒ぶ真冬にありながら暑苦しい事この上ない。
 離れた場所でそれを見ていた匡乃が抹茶を一啜り。
「ぐえっ」
 体力も筋力もないゼクスは蛙が潰れたような声をあげてオーマの腕の中で息絶えた。若干、語弊あり。


 ◇◇◇


 空は朱里とと共に色里を飛び出して追っ手を振り切るように駆けた。とはいえ、履き慣れない下駄にスピードが出ない。
 咄嗟に空はその人だかりに飛び込んでいた。
 何の人だかりなのか、一番先頭では野点傘に毛氈を敷いて野点をしている一団もいる。
 彼らの髪が、500年近く昔の極東とは違っているのに気づいて空はそちらへ人を掻き分けるようにして近寄った。
「楽しそうな事、してるわね」
 なんて軽い口調で声をかける。
 勿論、見知った連中というわけではない。けれど空には何となく予感めいたものがあった。
 朱里が不安そうに空の着物の裾を握って空の背中に隠れている。
「おや、これは。お餅の大食い選手権だそうですよ」
 銀髪の長い髪の男が振り返って笑みを返した。空や朱里を見ても別段動じるでもなく、また彼女ら自身の事について疑問を抱く風も何か尋ねてくる気配もない。
「へぇ〜」
 相槌をうちながら空は彼が促す先を見やった。庭にござを敷いて机を並べ、そこに座って男たちが餅を食べている。
「ところで後ろの方々はお知り合いですか?」
 短い黒髪の男が人垣の向こうを見やってのんびり尋ねた。
 空はそちらをチラと振り返って肩を竦めてみせる。
「なんだかよくわからないんだけど追われてるのよ」
「キリシタンの奴らはどこへ行きやがった!?」
 そんな声が遠くの方から聞こえていた。
「あぁ、あれはキリシタン狩りですね」
 男は納得げに頷いて「それなら」と、どこからともなく一枚の紙切れを取り出した。
「さぁ、あなた達もこれをどうぞ」
「え?」
 空が訝しげに紙を覗き込む。
 そこにはへのへのもへじに毛の生えたような、ある意味前衛的と呼べなくもない絵が描かれていた。子供の落書きだろうか。絵の片隅に『ゐゑ素』と書いてある。
「これを踏んでください」
 男が言った。
「お1人1度のしきたりだそうですから」
 と、空達を促す。
 何が1人1度なのやら。
「まぁ、踏めと言われれば……」
 空はわけがわからないままに、紙の上に足をのせた。
「さぁ、そちらの方も」
 男が朱里を促す。
「…………」
 朱里は空の袖を掴んだまま紙を踏んだ。
 するとどういった具合なのか、追ってきた連中が突然足を止めて引き返していくではないか。
「どういう事?」
 空が首を傾げると男は柔和に笑って答えた。
「そういう事です」
「……まぁ、助かったけど。……あ、あたしは空……と、彼女は朱里」
「僕はこの近くで寺子屋を営んでいる匡乃といいます」
 黒髪の男が言った。
「私はこの近くで大店の主をしているセレスティです」
 銀髪の男が言った。
「私は、優夢といいます」
 町人体でありながら、どこか気品のようなものを漂わせて優夢が頭を下げた。
「宜しく」
 空が笑みを返すとセレスティが場所を開けるように膝立ちで移動しながら言った。
「空さんも朱里さんもどうぞ。今お茶を点てましょう」
 促されるままに空と朱里は毛氈の上にあがる。
「空さん達もこの世界は初めてなんですか?」
 隣に座る2人に優夢が尋ねた。
「これって、夢……だと思ってたんだけど」
「まぁ、それに近いと思いますけどね」
 そう言って優夢は肩を竦めてみせる。それから、この江戸艇の話を始めた。どうやら、ただの夢というわけではなかったらしい。しかし、だからといって慌てる事は何もないようだった。
「なんだか、人心地ついたらお腹すいちゃったかも。お餅食べたいな」
 大会を見ていると何だか食べたくなってきてしまったのだ。そんな空に匡乃が言った。
「早食いではありませんから、途中参戦も出来ると思いますよ」
「あ、じゃぁ私もやってみようかな。何だかやってみたくなっちゃった」
 優夢が身を乗り出す。
「じゃぁ、参加しよっか」
「はい」
「朱里はどうする?」
 ずっと自分の袖を握り締めて俯いている朱里に空が尋ねた。
 朱里は困惑げに顔をあげて、餅大食い選手権の会場を眺めやる。
 そこにどうやら見知った顔を見つけたらしい。
「あ、ナンナさん……」
 と、呟いた。
「うん?」
「わ……私、ナンナさんのお手伝いをしてきます」
 朱里が言った。
「うん」
 朱里は立ち上がると何のためらいもなく空の袖を手放して、餅の準備をしている者たちの方へ歩き出した。
 そんな朱里の後ろ姿が何だか惜しい気もしたが、空は優夢を振り返って顔を合わせ互いに一つ頷くと会場に向かって手を挙げた。
「はいはーい! 私たちも参戦しまーす」
「おぉっと! 餅筋乱舞お年玉アニキ盛りゲッチュし隊筋に女の子が参戦だぁ!!」


 ◇◇◇


 女の子の参戦で餅筋バトルは俄然盛り上がっていた。
 観覧者の応援する声も更にヒートアップする。
 そんな中、オーマの腕の中で一旦は息絶え、オーマの手厚い介抱のもとすぐに意識を取り戻し餅筋バトルに復帰していたゼクスが、突然ペースダウンした。
 その食べる速さだけは誰にも負けていなかったのに。
「おや? ゼクス隊員、突然の失速! やはり砂筋な粉餅では腹筋を痛めたか!?」
 勿論、そうではなかった。
 彼の胃袋は宇宙にして鋼鉄。いやダイヤモンドより硬い。砂が多少混じったくらいでは微動だにしない胃袋なのだ。
 ただ、彼はちょっぴり体力がなかった。
 だから息切れしてしまったのだ。
 それだけの事である。
 そうして彼の失速に、お餅を用意していた賄いチームがホッと人心地を吐いたのも束の間――。

「貴様らがぐずぐずしておるから祭りが始まってしまっているではないかっっ!!」
 と、しずめは後ろに続く家臣たちを叱りつけた。
 その内何人が、何を言うか、と内心で突っ込んだかもしれない。彼は待つという言葉も知らなかったのだから。待ちもせず、ここまで来ておいて、既に祭りが始まっていた理由を自分たちのせいにされては、彼らもちょっぴり可哀想だ。
 しかも、しずめは曲がるとか迂回するという言葉も知らなかった。
 家臣達は皆、ぜーぜーと荒い息を吐き出しながら、今自分たちが通って来た道を振り返った。それは江戸城へとのびている。但し、まっすぐというには微妙に語弊あり。しずめが天性の方向オンチをフルに発揮したので微妙に捻じ曲がっている。とはいえ、こんなところにそんな道は元々なかった。
 そう。
 しずめは江戸城からここまで迂回もせずに壁を突き破り、ありとあらゆる障害もぶち破って来たのである。途中の民家や店はとんだ災難であったに違いない。
 幕府の財政難に頭を抱えていた勘定奉行は卒倒寸前であったが、慌てん坊将軍がそんな些細なことを気にするわけもない。
「うぉーっと! これは素敵な筋肉を震わせてマッチョな爺が登場だぁ! 餅筋乱舞お年玉アニキ盛りゲッチュし隊筋に参戦するのか!? 俺の胸筋がしてしてとこんなに騒いでるー!!」
 と、相変わらず熱い実況で、胸筋をピクピクと震わせながらオーマが言い放った。
 その声にしずめが反応する。
「何!? 餅大喰い大会だと?! わしも参戦じゃぁ!!」
 しずめの咆哮に匡乃が小さく呟いた。
「どうしてあれで餅大喰い大会だとわかるんでしょう」
 マッチョ親父にマッチョ爺。それはやはり、筋肉という共通項のなせるわざなのか。筋肉で伝わるもの、筋肉で感じるものがあるのかもしれない。一般人にははかりしれないマッチョと筋肉の交わる世界。

 かくて大喰い選手権は更に混迷を極めていったのだった。





 ■Battle & Battle■

 ゼクスの失速で少しゆとりが出来ていた賄いチームは新たなる参戦者に息を呑んだ。
「えぇい! こんな小さいもんをチマチマチマチマ面倒くさいわぁ!」
 と、直接怒鳴り込んでくるあたりゼクスよりたちが悪い。
 せりなが絶句していると、そこへシュラインが千鳥をやっと、奥の厨房から引きずり出してきた。
 千鳥は、なにやら怪しげな七種類の餅を大きな笊の上に山盛っている。
「おや、小さいのではいけませんか。なら、一つにしましょう」
 そう言って千鳥はその場で意気揚々とそれらの餅をつなげ合わせた。
 量にして餅56個分。
 それらを直径3cmくらいの一本のロープ上にしてみせた。
 右の先端が赤色から始まって、左の先端は紫で終わっている。正に7色。レインボー餅だ。
「あれを……作ってたの?」
 せりなが呆気にとられたように尋ねた。
「えぇ。赤はとうがらし。橙はみかん。黄色はゆず。緑は抹茶といった具合です」
 千鳥がにこやかに答えた。
「青は?」
 シュラインが何とはなしに尋ねる。
 千鳥はそれににこやかな笑みを返した。
「青は?」
 シュラインが重ねて尋ねると千鳥が言った。
「紫には茄子を使いました」
「だから、青は?」
 尋ねるシュラインに答えるでもなく千鳥は相変わらず意味深な笑みを返す。
 それからボソリと言った。
「聞きたいですか?」
 シュラインは無意識に息を呑んでいた。
「……や、やめとくわ……」
「さ、どうぞ」
 千鳥がドンとしずめの前に餅を置く。
「ぬおぉぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜!!!」
 しずめは赤から飲み込むと勢いよく吸い込み始めた。餅は長い。彼はしかし息継ぎもせず肺活量の限界に挑む。餅が勝つか、しずめが勝つか。
 赤は唐辛子の赤。
 その辛さには定評がある。
「胸筋が一気に紐餅筋をその体内へ引きずりこーむ!! さすがはマッチョ爺!! どこまで引きずりこむ気か、今、赤から橙……そして黄色までもがその中に飲み込まれたー!!」
 そんなオーマの実況が庭中に轟いた。

 一方――。
 他の選手は淡々と餅を食っていた。
 ペース配分という言葉を知らないゼクスだけが若干息切れ気味なのを除いて。
 と、突然優夢が咳き込んだ。
 どうやら喉に餅を詰まらせてしまったらしい。
「大丈夫ですか!?」
 慌てて匡乃が立ち上がり優夢に駆け寄った。
 せりなも気づいて優夢の背中をさする。
「誰か、ここにお医者さんはいませんか!?」
 匡乃が人だかりに向かって声をかけた。
「俺が医者だ」
 オーマが名乗りをあげる。
「…………」
 匡乃がオーマをマジマジと見た。
「誰か、ここにお医者さんはいませんか!?」
「無視か!?」
「仕方ありません。私も多少の心得があります」
 完全にオーマを無視して、匡乃はせりなと共に優夢の応急手当を始めた。
「……酷い。れっきとした医者なのに。ホロリ。ちゃんと胃薬だって用意してるのよ」
 オーマは泣き崩れて見せながら、地面にいじけたように何故かのの字を書く。
「それ、食えるのか?」
 ゼクスが、オーマの取り出した胃薬に反応した。食べ物だろうと食べ物じゃなかろうと、薬だろうと薬じゃなかろうと、口に入るもの全てに興味のある男。それがゼクスである。
「薬だから、食うとは違うが」
 オーマが答えた。
「うむ。食っていいものなら食う」
 ゼクスが言った。
 勿論、食ったらまずいものでも食う時もままあるが。
「……まぁ、さっき砂付き餅なんか食ってたからな」
 そう言ってオーマは持参の胃薬を手渡した。
「うむ」
 受け取ったゼクスはそのくすりを餅に振りかけて食べ始める。
 ゼクスが食べているのを見ながらオーマは思い出したように付け加えた。
「あぁそうだ。気をつけてくれたまえよ。この下僕ゴッドエキス特製ドリンク胃腸薬には薔薇園でアニキ天使と遊ぶナイトメアな副作用があるんだからな!」
 刹那、ゼクスが悶え転げ始めた。
「のぉぉぉぉぉぉぉわぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「ふむ。副作用が出てきたようだな」
 ゼクスの傍らに膝を付いてその様子を観察する。まるで臨床実験に立ち会う薬剤師のような顔付きだ。
「……やはり、彼に預けなくて良かった」
 彼らのやりとりを横目に見ながら匡乃が心底自分の判断の正しさを確信して呟いた。
「大丈夫ですか、優夢さん」
 せりなが優夢の顔を覗き込む。
「あ、はい。ありがとうございます。ケホッ…何とか……」
「少し休んだ方がいいですよ」
「では、私がお茶を点てましょう」
 セレスティが茶筌を構える。
 それに苦笑を滲ませながら、シュラインが湯飲みの乗ったお盆を持ってきた。
「お番茶を用意したわ。選手の皆さんもどうぞ」
 そう言って、優夢たちに配った後、餅を食い続けている選手の人たちにも配っていく。
「あ、わたくしも手伝いますわ」
 杵をしずめに奪われたナンナが手持ち無沙汰に駆け寄った。
「あら? この席の選手の方々は?」
 お茶を配りながらナンナが首を傾げる。
「確かそこには空さんと久那斗くんが……」
 せりなが、記憶を辿るように答えた。
「どこへ行っちゃったのかしら?」
「そういえば、朱里さんもお見かけしませんわね」
 ナンナが気づいたように言った。
 すると、隅っこの方でのの字を書いていた男が立ち上がった。
「それなら俺が知っている」
「え?」
「なんと餅筋乱舞お年玉アニキ盛りゲッチュし隊隊員久那斗くんは俺の腹筋の中に渦巻くどす黒さとは全く正反対の純白餅に少々春夏冬がきていたようだった」
「それでは、飽きないになってしまいますが?」
 セレスティが不思議そうに首を傾げる。
「よく彼の話している内容がわかりますね」
 匡乃が溜息を吐き出した。
「どうも彼の説明は無駄な修飾語が多くてわかりにくいわね」
 シュラインも同様に溜息を吐く。

 ――というわけで、彼の代わりにその時の状況を簡単に説明するとしよう。

 それは丁度、しずめがこの会場にやってきた直後の事であり、更に優夢が餅を喉に詰まらせている時でもあった。
 要するに、殆どの者がそちらに気を取られていて、気づかなかったのである。その中で唯一オーマが気づいたのは、実況中継を行うというその血にたぎったアナウンサーとしての誇りがなせるわざ、ではなく単に隅っこで1人ぽつねんとのの字を書いていたからにほかならない。
 どうやら、あんころ餅が食べたくて参戦した久那斗は、賄いチームの面々の危惧通り白いお餅に飽きていたらしい。その事に気づいた隣の席の空が、彼を誘った事から話は始まる。
 空は傍にいた朱里も連れて皆の目の届かぬ間に、この会場を後にしたのであった。
 それをオーマが事細かに若干の脚色も交えて説明したものだから、更に話はややこしくなった。
 が、どうやら彼らの間ではこういう結論に至ったらしい。

「つまり、空が2人をかどわかしたっていうのね?」
 リマが念を押すように尋ねた。
「うむ」
 頷いたオーマの首筋に白刃が閃く。優夢がいつも肌身離さず持っている愛刀であった。
「火盗改の長官がどうして気づいていて止めなかったんです?」
 優夢はいつもより1オクターブ低い声音で尋ねた。
「き…切れてる、切れてる。寸止まってない」
 首にあたる優夢の刀の刃はオーマの首の薄皮を切っていた。血が首筋を滴り落ちるのにオーマの顔が蒼褪める。
 しかし、睨みつけてくる優夢は、それ以上手を緩める気はないらしい。
「いや、ちょっと予感めいたものが……」
「予感?」
「う…うん」
 とはいえ、この状況で、それが腹黒い思惑=面白そうな予感であるとはちょっと言える雰囲気ではなかった。きっと、そんな事言っちゃったら、首と胴体は今日を境にバイバイしかねない。勿論、そんな程度で死ぬほどやわには出来ていないオーまであるが。彼はただ顔をひきつらせるばかりであった。
「迷子になってないといいんだけど」
 シュラインが呟いた。
「探しに行った方がいいですね」
 千鳥も気がかりそうだ。
 この江戸艇はさして広いわけではないが、いろんな意味で複雑な場所でもある。
「まだ未成年の子供を攫ったとあっては捨て置けません」
 匡乃が握り拳を固めた。
「空がそんな事するとも思えないけど……」
 リマはまだ信じられないといった顔つきだ。
「探しに行くしかないわね」
 シュラインが溜息を吐く。
「では、私はここで待機しています」
 千鳥が言った。
「そうですね。大会もまだ途中ですし」
 セレスティが頷いた。
「私は道案内をするわ」
 シュラインが進み出る。恐らく現時点でこの江戸艇の中に詳しいのは自分だろう。
「俺は残ろう」
 ゼクスが言った。
「あなたは私と一緒に行くわよ」
 リマがゼクスの耳を掴む。
「なに!?」
「人手が減るのにあんたを残して行ったらお餅がなくなってしまうでしょ」
「ま…まだ、薔薇園で…筋肉が…筋肉がぁぁぁ〜〜〜!!」
「あんたが医療用ESPを使えることくらい知ってるわよ」
「くそぉ……」
「わたくし、頑張ってお餅さんをつきますわ」
 ナンナが言った。
「私もお餅運びをしないと人手が足りないわね」
 せりなが言う。
「あなたは勿論行くわよね?」
 優夢が刀をおさめながら尋ねた。
「は…はいっ! 行かせて頂きます!」
 かくて、優夢、オーマ、匡乃、シュライン、ゼクス、リマの6人は空たちを探しに出たのだった。
 残った千鳥、セレスティ、せりな、ナンナは大会運営に戻る。
 と、千鳥がふと思い出したように、それを指差した。
「で、あれは誰が止めましょう?」
 それにセレスティがうーんと首を傾げる。
 彼らの視線の先では、どっちが蚊帳の外なのか、餅大喰いとは別のバトルが繰り広げられていた。


 勿論、そこに荒野などない。
 しかし、見る者によっては広大な荒野を幻視したかもしれない。
 乾いた風が砂煙を巻き上げていた。
 そこにしずめは怒り狂ったような顔で杵を構え立っていた。彼の睨む先には、梅がのんびりとした面持ちでキセルを咥え庭先の大石に腰掛けている。
 しずめがまるで風を切るかの如く杵を横へ薙いだ。とはいえ実際に切れるわけなどない。
 だが、それまで忙しなく吹いていた風はまるでそれに一刀両断されたかの如くピタリとやんだ。
 宙に舞っていた砂がゆっくりと地面にかえる。
 それを合図にしずめが動いた。
 杵をくるくると器用に回しながら梅に向かって駆けて行く。
 そんなしずめの傍には彼の身を案じ、彼を押し留めようとする若年寄がいた。杵が畑倉の顎を捉える。しかししずめがそんな事に気づくわけもない。畑倉は地面でしたたかに顔をぶつけ鼻から血を垂らしながら四つん這いで後退った。とはいえ、上様に対する忠誠心がこの程度の事で消えうせるというわけでもなかったから、今度は梅の方に説得に向かう。
 しずめの杵が唸りをあげて梅の頭上に襲い掛かった。
 餅をつく道具で梅をつこうというのだ。
 攻撃の軌道がはっきりしている分、梅は余裕であった。
 ぎりぎりでそれをかわす。
 杵は大石を叩いた。
 大石が木っ端微塵に砕け散る。
 その砕けて飛んだ大石の破片が、梅に近づいていた畑倉の顔面に直撃した。
 梅が縁側に腰掛けながらのんびりと煙を吐きだす。
 しずめの雄叫びが再び庭先に轟いて、餅を食べていた選手の幾人かが思わず喉に餅を詰まらせた。
 しかしそんな事も勿論、しずめの知るところではない。
 しずめが一気に間合いを詰め、杵を振り上げる。梅はその一撃を躱でもなくキセルで止めてみせた。
 彼らが持っているのが剣だったなら、鍔迫り合いにぎりぎりと刃が鳴ったところであろう。
「店を壊すな!」
 力対力となれば分が悪い梅は、その力を逸らせるようにキセルを操る。杵は庭の縁石を砕いた。
「えぇい!! 貴様逃げるかぁ!?」
「何を言うか、このたわけが!」
 梅がしずめの後頭部にキセルを打ち据える。
「あぁ、上様を!?」
 畑倉が身を起こしてしずめの前に立った。
「このお方をどなたと心得られる〜!!」
 他の家臣らが呆気に取られている中、畑倉だけがその忠誠心を忘れていない。ここにオーマがいたら暑苦しいほどの筋肉と号泣で畑倉を湛えたであろう。幸いな事に、オーマはここにいなかったが。
 次の瞬間畑倉が倒れた。
 しずめに後頭部を杵でつかれたからである。


 セレスティが言った。
「……触らぬ神に祟りなしと申しますが……」
「それもそうですね」
 千鳥が頷いた。





 ■Final stage■

「空さんの行きそうな場所わかりますか? ここが初めてならどこかの店だと思うんですが」
 尋ねた優夢にシュラインが首を傾げる。オーマの言う事が本当なら、かどわかし、で身代金を要求してこないという事は営利目的ではなく連れて行った相手に用があるということだ。
「そうねぇ、連れ込み宿か出会い茶屋ってところかしら」
「朱里が花魁姿だったから朱里の揚屋かも」
 リマが言った。
「なるほど……吉原は里から出られないしきたりの筈だから、岡場所の方かしら。だとすると丁度深川にあったわね」
 シュラインが記憶の糸を手繰る。
「そこで聞いてみてもいいかも」
「はい」
 リマが頷いた。
「奴は酒豪だぞ」
 ゼクスが横から口を挟んだ。
「久那斗くんは甘味が好きです」
 優夢も続く。
「久那斗くんを唆すには甘味があれば簡単です」
「なら甘味茶屋かしら。それで、お座敷のあるタイプ」
「手分けして探しましょう」
 匡乃が言った。皆が頷く中1人、シュラインが首を捻っている。
「シュラインさん?」
 優夢が声をかけた。
「あ、うん……」
 シュラインにはそれ以外にもう一つ気がかりがあったのだ。ここは時空艇。このフロアには確かに江戸の町しかないが、この町には『外』が存在する。
「どうしたんですか?」
「ううん、なんでもない。とりあえずその線で探しましょうか」
 シュラインは何かを振り払うみたいに首を振って笑みを返した。『外』に出ている可能性は、この町で彼らが見つからなかった時にまた、考えればいい。少なくとも今は、不可抗力でいなくなったというわけではなく、確かに当事者たちの意思が働いているのだから。


 ◇◇◇


 手当たり次第甘味茶屋を覗く優夢、オーマ、匡乃一行。
 岡場所に走るシュライン、ゼクス、リマ一行。
 果たして、彼らは無事空たちを見つけ出す事が出来るのか。
 一方、そうとは知らずに甘味茶屋の一室でのんびりくつろぐ空と久那斗と朱里であった。
 久那斗の前には、みたらしだんごや、あんころもち、あんみつ、鶯餅などなどが並んでいる。まるで店の甘味を全て買い押さえたかのようだ。
 既に食べ終えた椀も高く積み上げられていた。
 大量の甘味を前に、普段はあまり相好を崩す事のない久那斗が幸せそうな顔をしている。
 空は満足気であった。
「どんどん食べていいわよ」
「ん。久那、食べる」
 美少女も大好きだが、美少年も大好きな空である。
 勿論、可愛い男の子も大好きだ。
 空は久那斗の頭を撫でてやった。
 柔らかな猫毛も心地よい。
 そんな空は既にほろ酔い気分であった。
 とはいえ彼女の前にはからの徳利はない。
 朱里が順にかたずけているからだ。
 なので、彼女が既に何本の徳利をあけたのかは謎である。
「どうぞ」
 からになった空の杯に朱里が酒を注ぐ。
 それを一気に煽って空は朱里に杯を手渡した。
 返杯を朱里が煽る。
 普段飲み慣れていないせいだろう、朱里の頬は既に上気していた。酔っているのかもしれない。いつもは人見知りが激しく俯いてばかりいる彼女が顔をあげていた。
「わ…私、舞に挑戦してみたいと思います」
 そう言って突然朱里が立ち上がった。
 それに空は店の者を呼んで三味線の引き手を用意させる。
 宴もたけなわ空も朱里も程よく酔って、朱里は地唄舞を舞った。
 勿論、名前だけしか知らない代物である。
 故に三味線に合わせて適当に振付けるだけであったが、見ている方もわからないので、別段問題はなかったようである。
 三味線を弾いている者だけが怪訝に首を傾げていたが、場が盛り上がっているので口を挟むのも憚られたらしい。

 お囃子に、三味線と朱里の艶やかな舞い。
 それを遮るようにして、突然、襖がすぱんと開かれた。
「見ーつーけーたー!! 空!!」
「あ、リマも来た」
 襖の前で仁王立っているリマに空が軽く手を振ってみせる。
「お…おぉ……海老……海老ではないか……」
 リマの傍らに突っ立っていたゼクスが、空の前に並ぶ食事の中に海老を見つけて駆け寄った。この場の雰囲気を察すれば場違い極まりないが、それも彼らしい。
 一方、そんなゼクスなど眼中にないリマは空に非難がましくまくし立てた。
「来た、じゃないわよ。急にいなくなるんだから」
「ごめんごめん。もしかしてあたしの事心配してくれたんだ?」
 空がリマをなだめるように抱きしめる。
「……知らない」
 リマはそっぽを向いた。
「だって、みんな取りこみ中みたいだったし」
 空が肩を竦める。
「まぁ、排気口の向こう側に迷い込んでなかっただけマシとしましょう」
 シュラインが溜息混じりに呟いた。
「排気口?」
 シュライン達と紙一重で訪れた匡乃がその呟きを拾う。
 シュラインは匡乃を振り返って、曖昧に笑みを返した。
「後で説明するわ」
 匡乃の後からやってきた優夢が、座敷の片隅で甘味を頬張っている久那斗を見つけて駆け寄った。
「ここにいたんですね、久那斗くん」
「ん。優夢。食べる?」
 そう言って鶯餅を差し出した久那斗に優夢は腰砕けたように座り込んでしまった。
 へなへなへな……。
 そんな彼らを見ていた朱里が戸惑ったように声をかける。
「あ…あの……私、書置きしてきましたけど……?」
「えぇ!?」
 探しに来た6人の内4人が一斉に驚いて朱里を見た。
「えぇ!? って、それ見てみんなここに来たんじゃなかったの?」
 空が言った。
 そんな中、海老を頬張るゼクスは横に置いておくとして、座敷を抜き足差し足忍び足で立ち去ろうとする者があった。
「……オーマさん。詳しく説明していただけるかしら?」
 優夢の白刃が閃く。
「や…だから、お嬢さん。全然寸止まってないから……ドキドキドキ」


 ――以下、詳細。

 久那斗は白いお餅を100個ほど食べたところで飽き始めていた。
 あんころ餅や黄な粉餅ならブラックホールもかくやという彼であるが、甘くなければ話は別である。勿論、お腹がいっぱいというわけではないのだが。
 その隣で、お餅を食べていた空も、丁度白餅に飽きてきていた。まだ満腹というわけではなかったが、どうせ食べるなら別のものがいいと、ふと思い始めたからである。
 その点で2人の意見は合致した。
「他のもの食べにいかない?」
「久那。あんころ餅、食べたい」
「よし、奢っちゃる!」
「ん」
 かくて2人は席を立ったのだった。
 一部の者達はしずめ乱入に、また残りの者達は優夢に気を取られていた時であった。
 唯一、朱里だけがそれに気づいた。
「空さん?」
「よし! 朱里も一緒に行こう!」
 美少年も美少女も引き連れて、両手に花。それも良しと空が誘う。
「あ、はい。でも、急にいなくなっては……」
 皆が心配するのでは、と考えた朱里は、しかし彼女自身が押しも押されぬ人見知りだった為、誰かに言伝るという事がすぐには出来なかったらしい。
 そのため、彼女は咄嗟の機転で書置きを残して、大会を抜け出したのであった。

 それを見ていたオーマは、何やら面白そうな予感に元来の腹黒さも手伝って、余計な脚色を加えて現在に至ったのである。


 ◇◇◇


「おや、こんなところに紙切れが」
 千鳥がそれに気づいたのは、選手たちが次々にしずめの咆哮で喉に餅を詰まらせ棄権者続出で大会自体が半ば打ち切り状態になってしまい、何となく手が開いた時の事だった。
「どうしました」
 セレスティが相変わらず茶筅を振るう手を休める事無く尋ねた。
「どうやら朱里さんからの伝言のようですよ」
 そう言って、千鳥はその紙切れを読み上げる。
「『空さんと久那斗くんと裏の椛屋さんに行っています 朱里』」
 机に布巾をかけていたせりなの手が止まった。
「……それって、かどわかしじゃなかったって事?」
「それなら、すぐに戻ってくるのではないですか」
 セレスティがのんびり言った。
「そうですね。皆さんが戻ってきた時の為に、ご馳走でも用意しておきますか」
 千鳥が提案する。
「外は寒いし、トン汁なんてどうかしら。お餅もあるし、おぜんざいやお汁粉も。あ、そうだ。甘酒は?」
 せりなが言った。
「賛成です。虹餅もまた作りましょう」
「そういえば、あの綺麗な青はどうやって出したんです?」
 セレスティが尋ねた。
 千鳥はにっこり微笑み返す。
「……どうやら聞かない方が良さそうですね」
「あ、私買い物籠を持ってたのよ。納豆餅なんてどうかしら」
 せりなが、自分の買い物袋を覗いて言った。のりにごまに青のりに。
「まぁ、わたくし抹茶より青汁の方が体にいいと思いますのよ」
 ナンナが言う。
「わかりました! 材料は全て私が用立てましょう」
 セレスティが請け負った。
「何だか楽しくなってきましたね」


 ◇◇◇


 やがて皆が万屋梅の庭先に帰ってくる。
 日暮れて茜色に染まった夕焼けに、皆は打ち上げの準備で大忙しだった。
「私、干支の形のお餅を作ってみました」
 優夢がそう言って戌の形のお餅を掲げて見せる。
「わ、可愛い。食べるのが勿体無いわね」
 せりなは納豆をお餅に挟みこみのりを巻きながら言った。
「私も頑張りましたわ」
 ナンナが力作を手にのせて見せる。
「えぇっと……うさぎかしら?」
 せりなが尋ねた。
「羊さんです」
「あ、あぁ…耳じゃなくて角だったのね」
「みんなで作るのも楽しいわね」
 空がよもぎ餅にあんこを入れながら丸めていると、隣で朱里が頷いた。
「手巻きパーティーならぬ餅パーティーですね」
 まだ、酔いが醒めきらないのか顔はあげたままだ。それとも人見知りが多少なりとも改善されたのだろうか。
「あんたも手伝いなさい」
「いてっ!」
 味見しかしようとしないゼクスの手をはたいて、リマが鍋の監視をゼクスに申し渡す。
「久那斗くんもあんこの味見ばかりしないでね」
 優夢がお餅にくるむあんこの入った鍋を先ほどからしゃもじでずっとかき回している久那斗に言った。
「ん」
 一方、お餅を作っているグループから少し離れたところでは、トン汁チームが鍋をかき回していた。
「俺も腕を揮わせてもらうかな」
 オーマが袖をまくってチームに加わる。こう見えて、実は料理は大の得意。下僕主夫の名は伊達ではないのだ。次か次へと野菜を手早く切っていく。
 とあっては料理人千鳥も見ているわけにはいかない。
「私も負けていられませんね」
 と包丁を握る手にも力が入る。
 かといって、トン汁ばかり大量生産しても仕方がない。
 かくて2人がセレスティの用意した食材を次々に料理していく様を見ながらシュラインは隣の釜土で揚げ餅を作っていた。
 その庭先では、相変わらずバトルが続いていた。
 勿論、一時に比べればかなりの沈静化はみられたが。
「男ならドーンと食えぇ!」
 しずめが臼から取り出した餅をそのまま丸ごと梅の前に置いてみせた。彼はまだ、大喰い選手権が続いていると勘違いしているのだろうか。しかしそもそも梅は選手権には出場していない。
 要するに、そんな事はどうでもいいのだ。
 嫌がらせ。
「残さず食べよ!」
「わしゃ、女じゃ!」
 梅のキセルがしずめの後頭部を襲う。
「むぉ、やるか!?」
 しずめが身構えた。
「これ以上店を壊すな!」
 梅がしずめのこめかみに蹴りを入れる。
 しずめの巨体は庭の外へ吹っ飛んだ。
 垣根の外で立ち上がったしずめは、垣根で梅が見当たらなくなってしまい辺りを見渡す。そうしてふと、日が落ちて辺りが暗くなっているのに気づいた。
 今の今までのバトルを一瞬で記憶から消し去る事の出来る男は、突然、そこで何やらチマチマと作業を始める。
 家臣らが訝しんでそれを遠巻きに見守っていた。
 料理が庭先に並ぶ。
 皆の手にそれぞれ飲み物が行き渡った。
「今日はお疲れじゃったな。かんぱーい!!」
 梅の合図にそこここで湯飲みがカチカチと音をたてた。

 皆が料理に舌鼓を打つ中、思い出したようにオーマが言った。
「そうだ。参加賞があったんだ。配るぜ。葉を煎じて飲むと胃に良くお肌もギラリマッチョな人面草だ!」
「…………」
 誰も、それを欲しいという者はいなかった。
 いや、一人だけいた。
 ゼクスがそれを一番に受け取る。
 人面草はゼクスに熱い視線を向けていた。しかし色恋には全く関心のないゼクスがオーマに尋ねる。
「喰ってもいいのか?」
 だからさっき、オーマは葉を煎じて飲むと言ったのだが、とは誰も突っ込まなかった。勿論オーマも何も言わなかった。
 ゼクスはふうむと首を傾げていきなり人面草にかぶりついた。
「のぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜!!」
 果たしてどんなお味なのか、はたまたどんな副作用があるのか。
 身悶えしているゼクスにリマが呆れたように肩をすくめてみせる。
「また、やってる」
 と、突然風がヒューと鳴った。
 その音の方を皆が振り返った刹那、ドーンという爆発音と共に、大輪の花火が夜の闇をオレンジ色に染め上げていた。
 花火をあげたのはしずめである。
 祭りの夜といえば、やはりこれで〆なければ。
「たーまやー!」
 シュラインが花火に向かって声をあげた。
「かーぎやー!」
 続く花火にせりなが声をあげる。
「しずーめやー!」
 梅が言った。
「あははははは」
 庭先に笑い声がこだまする。

 料理も殆ど食べつくされ、最後の花火があがる頃。
「楽しい鏡開きになったな」
 梅がそう言って「ありがとう」と皆に頭を下げた。

 その瞬間、世界が白く光り輝いた。

 ここへ訪れた時と同じように――。





 ■Ending■

「ま、今回は楽しかったわね。疲れたけど」
 シュラインはセレスティにお茶を出しながら言った。
「そういえば一冊も本を読む暇がありませんでした」
 セレスティは少しだけ残念そうに呟いてお茶を一啜り。
『髷が曲がっておーる!!』
 テレビから、そんな雄叫びが聞こえてきた。
「あら、それらしい衣装になってるじゃない」
 シュラインがテレビを見ながら苦笑を滲ませた。
 そんな彼らのいる雑居ビルの外では。
「あら、良かった。これで時間も経ってたら、旦那さまに叱られるわね」
 なんて呟いて、家路に向かいかけたせりなが、買い物袋がからになっているのに気づいて絶句していた。
「楽しい休日になりました」
 匡乃が西に沈む夕日を見やりながら呟いた。



「楽しかった」
 久那斗は山海亭のカウンター席に座って羊羹を待っている。
「そうですね。でもまだ、今日は始まったばかりでした」
 まだ朝なのに、この一日を終えた後のような疲労感はどうしたものか。
 千鳥は苦笑を浮かべながら新しく羊羹を切り分けた。
「ん」
 そこから少し離れたとある寝室。
「良かった。今回もちゃんと戻ってこれたようですね。でも、相変わらずこれは何とかならないのかしら」
 前回の召喚でなくしてしまい、新調したばかりのネグリジェがまた小袖になってしまった事実に優夢は小さく溜息を漏らしたのだった。



「!?」
 空は突然降って来たリマを受け止められずにそのまま地面にもんどりうった。
「ごめん、空! 大丈夫!?」
 空を下敷きにしてリマは慌てて立ち上がる。
「うん……全く同じ瞬間に戻れるって聞いてたけど、忘れてたわ」
 上体だけ起こして空は頭を掻いた。
「この紙袋の中に海老は入っているのだな」
 まるで今までの事が何もなかったようなナチュラルさでゼクスが尋ねる。それ以前に、ついさっきまで吐くほど食べていなかったか。
 そこから壁一枚を隔てた場所では。
「帰ってきたんですね……」
 朱里がホッとしたように呟いていた。
「まぁまぁ、わたくし、楽しい夢を見ていましたわ」
「夢ではないと思いますけど……」
 ナンナに朱里は自分の着物を見せて小さく肩を竦めてみせる。
「まぁ、夢ではありませんでしたのね」



「寸分違わずっつー事は……まさか……全然ラッキーじゃなかったぁー!!」
 聖筋界ソーンではその直後、オーマの絶叫が響きわたったという。



 時間と空間の狭間をうつろう謎の時空艇−江戸。
 彼らの行く先も目的も存在理由どころか存在価値すらわからない。
 けれど彼らはその狭い挺内に謎の江戸世界を凝縮して、時間を越え、空間をも越え放浪する。
 その先々の住人たちを、何の脈絡もなく時空艇−江戸に引きずりこみながら。
 戸惑う彼らの困惑などおかまいなし。
 しかし案ずることなかれ。
 江戸に召喚された者達は、住人達の『用事』を完遂すれば、己が呼び出された時間と空間を違う事無く、必ずや元の世界に返してもらえるのだから。
 但し、そこに一つ問題があるとすれば……。


 ――服が元に戻らない事ぐらいだろうか。






 ■大団円■


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┏┫■■■■■■■■■登場人物表■■■■■■■■■┣┓
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┗━┛★PCあけましておめでとうノベル2006★┗━┛

【整理番号/PC名/性別/年齢/職業・クラス】


★聖獣界ソーン★
【1953/オーマ・シュヴァルツ/男性/39/医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】


★サイコマスターズ・アナザーレポート★
【0641/ゼクス・エーレンベルク/男/22/エスパー】
【0579/ナンナ・トレーズ/女/22/エスパー】
【0233/白神・空/女/24/エスパー】
【0659/常盤・朱里/女/15/エキスパート】

 禁区−ルアト研究所
【NPC0124/マリアート・サカ/女性/18/エスパー】


★東京怪談★
【0086/シュライン・エマ/女/26/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1883/セレスティ・カーニンガム/男/725/財閥総帥・占い師・水霊使い】
【4929/日向・久那斗/男/999/旅人の道導】
【3661/聖嵐・優夢/女/16/高校生兼北辰一刀流道場師範代】
【1449/綾和泉・匡乃/男/27/予備校講師】
【4471/一色・千鳥/男/26/小料理屋主人】
【4621/紫桔梗・しずめ/男/69/迷子の迷子のお爺さん?】
【3332/藤井・せりな/女/45/主婦】

 異界−江戸艇
【NPC/江戸屋・椛/女/20/若い女役】
【NPC/江戸屋・梅/女/52/老婆役】


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■         ライター通信          ■
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 ご参加、本当にありがとうございました。
 斎藤晃です。

 たくさんのお時間を頂いていたにもかかわらず、
 大変遅くなってしまい申し訳ありません。
 自己管理の甘さからかインフルエンザで寝込んでしまいました。
 皆さんをお待たせする事になってしまい心苦しく思います。
 待った甲斐があったと言っていただけるようなものに仕上がっている事を、
 切に願いつつ、楽しんでいただけていれば幸いです。
 ご意見、ご感想などあればお聞かせ下さい。

 遅くなりましたが、旧年中は大変お世話になりました。
 またお会い出来る事を楽しみに、これに懲りず、
 どうか本年も宜しくお願いします。