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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


『幽霊退治屋・瑠花の挑戦!』



○オープニング

 とある住宅街にある公園に、人魂が現れるようになった。特に大きな被害は出ていないが、公園が閉鎖されて、子供達が公園で遊べなくなり、また、幽霊を見たという人が続出し、あたりは騒然となっていた。
 この騒ぎの解決は、草間興信所へと依頼されるようになり、所長の草間・武彦は、依頼を解決してくれる者を募集したが、そこに現れたのは、13歳の少年、綾川・瑠花(あやかわ・るか)であった。
 瑠花は代々幽霊退治屋をしている一族の子供で、自信たっぷりにこの依頼に挑もうとしているが、どうも危なっかしい。
 そこで武彦は、この人魂の退治と、瑠花のおもり役の者を、こっそりと募集する事にした。



「ボク一人でも大丈夫だって言ってるのに」
 草間興信所に集まった者達を見て、幽霊退治屋の綾川・瑠花は不満そうな顔を見せた。
「いやまあ、人手はあった方がいいかと思ってな」
 瑠花をなだめるように言う興信所の所長、草間武彦を見つめ、シュライン・エマ(しゅらいん・えま)はそっと呟いた。
「とにかく、瑠花君のプライド傷つけて暴走させないように、監視すればいいのよね?」
 エマの言葉に、武彦が小さく頷いて見せた。
「やたらにやる気だけはあるようだからな。そのやる気を潰さないようにしてやるのが大人の役目かとは思う。一応、彼が手伝って欲しいと言うのなら、サポートしてやってほしい」
「そうね。私もそう思ったから、影からサポートするつもり。それから」
 そう言ってエマは、怖いものを見るような目つきをして、ゆっくりと視線を床に落としていく。
「大丈夫だ。お前が苦手なアレは、さっき零が片付けた。冬のヤツだからな、少し弱っていたみたいだ」
「そう、ありがとう」
 あの黒い虫だけは苦手なのよね、と心の中で言いつつ、エマは瑠花の方を見つめた。
「ねえ、お兄さんってヤクザ?」
 瑠花は、こわもてな顔をしているCASLL・TO(キャスル・テイオウ)を見上げ、いきなり失礼な口を聞いている。いくら怖そうな顔でも、それをそのまま口にしているところを見ると、社会的な礼儀も身に着けた方がいいかもしれないと、エマは思っていた。
 まあ、確かにCASLLはかなりの大男だし、髪の毛先が白いし、ヤクザに間違えられても仕方がないような顔つきではあるが。
「よく言われますけどね、私は悪役俳優を目指しているのですよ」
 CASLLの口調は、その外見からは想像できない程、穏やかで優しかった。瑠花を見つめるその表情は、まるで子供の面倒を見る保父のように微笑んでいる。
「子供さんが公園で遊べないというのは、可愛そうです。早く、幽霊をどうにかしてあげましょう」
「お兄さんが立っているだけで、幽霊もいなくなるような気がするボク」
 CASLLにぼそりと答える瑠花に、悪気はないのだろう。
「幽霊は怖いですが、少しでも克服できたらとも思っておりましたので、お手伝いしたいと思います」
 CASLLは幽霊が苦手なのかしら。人は見かけにはよらないのね、とエマが思っていると、今回の依頼の最後の参加者、都築・亮一(つづき・りょういち)が小さく息をついた。
「仕事柄、綾川君の両親とは交流があるので無下に出来ないと思っていますが」
 そう言って亮一は、瑠花を見つめてさらに続けた。
「この忙しい時期に俺を呼ぶなんて、いい根性してますね」
 口調こそ落ち着いているが、何となく亮一から、マグマのようなオーラが放出されていそうな気がするのは、どうしてだろうか。
「あら、亮一君は、この子と知り合いなの?」
 亮一に、エマが瑠花に視線を向けながら答えた。
「いや、両親の方ですよ。俺、高野山の退魔師なんです。だから、仕事先で一緒になる事が何度かあったんですよ。今日は、綾川君が一人で仕事に行くって聞いたから、様子を見に来たんですが」
「おや、そうでしたか。幽霊専門の人が沢山いれば、心強いですね」
 亮一に、CASLLが笑顔で返事をした。
「ふーん、お兄さんが、お父さんが言ってた、高野山で一番の退魔師、とか言う人なんだね?」
「まあ、皆からはそう言われていますが」
 その亮一の言葉を聞いた瑠花は、わずかな笑みを見せつけて言う。
「じゃあ、しっかりボクのサポートをしてよね!ま、お兄さんの出番はないかもしれないけどさっ!」
「はいはい、わかりましたよ。あなたの力がどれほどの物なのか、楽しみにしておりますから」
 自信満々に答える瑠花に、亮一はやや苦笑して言葉を返した。
「じゃ、早速、幽霊退治にいこう!」
 瑠花は拳を上に突き上げると、専用の幽霊退治道具であるという、幽霊掃除機を持ち上げて、興信所の玄関へと足を向けた。その機械は、どこからどう見ても掃除機にしか見えないのだが、見た目よりも凄い力を持っているのかもしれない。
「自信があるのは良い事ですが」
 瑠花の後姿に視線を向けながら、本人には聞こえないように亮一が呟いた。
「技術が追いついていないのが、今のあの子の状況だと思うのです。あの子はこれから、色々な幽霊退治に行く事でしょう」
 亮一は優しく見える目を細めていた。
「この先、凶暴な霊に会った時の事も考えなければなりません。少し厳しいかもしれませんが、今回の依頼で、自分の力量を自覚させようと思います」
「そうね、その方がいいかもしれないわね。それがあの子の成長につながるかもしれないし」
 すでにドアを開けて興信所の外へ出て、雑居ビルの廊下ではしゃいでいる瑠花を見て、エマは少し心配になってしまった。
「未成年が補導される危険性を回避する為、私は保護者にカモフラージュしてついていくわ。すでにあの子には、私は事後処理や書類作成なんかの助手で付いて行くって、言ってあるし」
 ブーツを履きながら、エマは答えた。
「では、私はボディガード代わりにでもなると言っておきましょうか。幽霊は恐ろしいですが、私は見たくないものが見えてしまう体質なものですから、幽霊を見つけるお手伝いぐらいは出来るかと思います。怖いですが」
 CASLLが後ろから、心配そうな声を出す。顔は相変わらず、こわもてであるが。
「そうね。あなたがいれば、一般人も寄ってこない…いえ、何でもないわ。さあ、行きましょうか」
 エマは二人にそう言うと、すでにビルから出て、外で待っている瑠花を追いかけた。



「実は、興信所へ行く前、昼間のうちにここへ、浮幽霊が逃亡した時の為の結界を張る、用意をしてきたんです」
 公園の入り口についた時、亮一がエマとCASLLに囁いた。
「ただの浮幽霊とは言え、念には念を入れて置いた方がいいでしょうから」
「さすがベテランの退魔師さんですね!」
 CASLLが亮一に笑いかけているが、笑っても怖い顔にしか見えないとは、CASLLもなかなか可愛そうな人物である。
「瑠花さんは幽霊退治のプロとのこと、瑠花さんがいらっしゃれば安心だと思っていましたが、亮一さんがいらっしゃるおかげで、鬼に金棒です」
「俺も、色々な経験をしてきましたから」
 少しだけ照れくさそうに、亮一がCASLLに答えた。
「その問題の霊は、人格もないようだし、きっと成仏の仕方もわからなくなってるのよね。気の毒な方だし、ちゃんと送ってあげたいわ」
 すでに暗くなっている公園を見つめながら、エマは小声で言った。
 さほど大きな公園ではなく、入り口に立って見回すだけで、公園のほとんどの景色を見ることが出来た。手前には遊戯施設があり、子供に人気のすべり台やブランコ、ジャングルジムと言ったものがあるが、さすがにこの時間に公園で遊んでいる子供はいなかった。
 その奥に、小さな噴水のある広場があり、まわりにはベンチがいくつかある。現在、この公園は幽霊騒ぎの一件で立ち入り禁止になっているはずなのだが、そのベンチには何故か、カップルがいて、いちゃいちゃと体を突付きあっていた。
 立ち入り禁止になっているとは言えども、入り口にロープが張ってある程度だから、公園に入るのは簡単だ。この周辺では幽霊騒動が広がっているが、あのカップルはそれを気にしていないのか、それとも騒ぎを知らないだけなのかもしれない。
「ねえ、あの人達、あそこで何をしているんだろう?ちょっと邪魔だよ」
 今にも、子供には見せてはいけないような事をし始め兼ねないカップルを見て、瑠花が不思議そうな表情を見せた。
「色々な意味で邪魔だわねえ。あの人達にはどいてもらいましょう」
 エマは、自分達が見られている事にすら気づいていないカップルを眺めて、苦笑した。
「それでは、私が彼らを説得してみましょう。皆様は、その間に幽霊退治の調査を」
 CASLLが公園の中に入り、カップル達へ近づいていく。
「そう。では、そっちはお願いするわね。瑠花君、私も何かお手伝いしたいのだけど、いいかしら?」
 エマの提案で、一行は公園に来る前に、近くの神社により、お神酒を数本もらってきたのだ。それを公園のまわりにまいていけば、浮遊霊が気持ちよく、移動できる行動範囲を狭めると思ったからであった。
 瑠花が一人で出来ると言っている以上、勝手にお神酒をまくのもどうかと思い、エマは念の為、瑠花に許可を求める。
「うん?別にいいよ。ボク一人が活躍しちゃっても、悪いしね」
「そう。では、私はこのお神酒を、公園のまわりに撒いてくるわ」
 エマは瑠花に優しく返事をし、お神酒を撒き始めた。
「何でお酒なんてまくのさ」
 お神酒をまくエマを見て、瑠花が首を傾げて尋ねてくる。という事は、何故神社でお神酒を貰って来たのか、ちゃんと理解していないのだろう。
「お神酒で、幽霊を少しずつ、公園の中心部へ追いやっていくのですよ」
 亮一が答えると、瑠花は再び得意げな顔をしてみせた。
「やっぱりね、そうだと思ったんだよ!さすがはボクのサポート員、そっちはよろしく頼むよ!」
 自信満々に答える瑠花であったが、果たして本当にわかっていたかどうか、微妙なところである。
 その時、公園の奥から悲鳴が聞こえた。幽霊が現れたのかと、エマがその声のした方向に顔を向けると、先程のカップルが、CASLLの前から逃げ出していく姿が目に映った。
「だから、立ち入り禁止になってたんだよ。ヤクザに絡まれるとは、ここは治安悪いんだよ!」
 逃げていくカップルの叫び声が、エマの耳に届いた。何を勘違いしたのか知らないが、これで存分に調査が出来る。
 エマはカップルがいなくなったあとも、瑠花が幽霊を吸い取りやすい場所へと、幽霊を誘導させる為に、お神酒を振りまき続けた。
 一方、CASLLは、先程までつけていた眼帯を外して、公園の中を見回っている。本当に幽霊が怖いのだろう、一見怖く見えるその顔には、怯えの色が見え隠れしていた。
 亮一は瑠花のそばに立ち、公園を見回しているが、特に何かをしているわけではない。おそらくは、何か問題が起きるまでは、この小さな退魔師の様子を見つめるつもりなのだろう。
「で、出ました!!」
 CASLLが表情を強張らせ、先程カップル達がいた広場の噴水を凝視している。暗がりでのその顔は、わずかな街灯に照らされて影が出来、より一層迫力があった。
 エマは、CASLLが視線を向けている場所へと近づいた。
 そこには、ぼんやり光ると白い人魂が水の上を漂っていた。人魂にはわずかに顔のようなものが浮かび上がっているが、性別も年齢もわからない程ぼやけており、一番近い位置に立っているCASLLにも興味はないようで、ただゆらゆらと、周辺を漂っているだけであった。
「特に危害を与える感じではないわね。あの様子なら、瑠花君も退治出来るんじゃないかしら」
 広場のそばにある木の横で、エマは瑠花をそっと見守っている。
「あれ一匹なら問題ないでしょうが」
 いつのまにかそばに来ていた亮一は、真剣な表情を見せていた。
「浮幽霊は集団で行動するのが多いのです。油断してはいけないでしょうね。まずは、どのくらいの力量があるのか見定めようと思います」
 エマは亮一の言葉に、黙って頷き、噴水周辺に視線を向けた。
「ほ、本当に出た!」
 瑠花は、幽霊掃除機を握り締めているが、なかなか動き出そうとしない。しかも、少し声が震えていた。そのうち、CASLLが瑠花を幽霊の前に軽く押し出した。
「あ、何、急に何するんだよお!」
 瑠花が、CASLLを睨み付けた。
「さあ、どうぞ。後はお任せ致します」
 瑠花は幽霊退治屋なのだから、CASLLに任せられるのは当然である。例え、瑠花がまだ子供であっても。
「あの子、本当に大丈夫かしら。青い顔して、一番怖がっているように見えなくもないけど」
 エマは瑠花が幽霊を見つめたまま、なかなか動き出さないので心配になっていた。
「しかし、ここで手助けしてしまっては、彼の為になりませんから」
 亮一の言うことも最もだとエマが思った時、瑠花がやっと一歩踏み出し、幽霊掃除機を構えた。
「バキューム、オン!!!」
 瑠花が掃除機の吸い込み口を幽霊に向けて、吸い込む…と思った瞬間、突然噴水のまわりに次々に人魂が出現し、瑠花とCASLLのまわりを囲んだ。
「ひいいいいいっ!?」
 CASLLの叫び声が木霊した。
「やはり、集団で現れましたか!」
 亮一が叫んだ。
「瑠花君は?!」
 エマは瑠花の方を見つめたが、突然の事に驚いたのか、瑠花は立ったまま意識を失っていた。
「って、気絶してる!?」
 エマが叫ぶと同時に、亮一が噴水へと駆け寄った。
「このままでは危険です!」
 噴水へ走りながら亮一は、剣を作り出し、そこから十二神将を呼び出し、人魂を浄化させるように命令を下した。
「こっちへ来ないで下さい!!」
 CASLLも十二神将に負けてはいなかった。むしろ迫力だけなら、十二神将に劣らないかもしれない。怖がりながらも次々に人魂を殴りつけ、見事に人魂を消滅させていく。
「生身の人間が、幽霊を殴っているわ。気合で何ともなるものなのかしら」
 亮一やCASLLを見つめ、エマは呟いた。
「しかし、困ったものね。最初からこれでは、先が思いやられるわ」
 幽霊退治の騒動の中で一人、幽霊掃除機を構えたまま、まったく身動きしない瑠花を見つめ、エマは長いため息をついたのであった。



「ま、まあ、最初の依頼なんだから、トラブルがあってもいいでしょ」
 人魂を退治し、草間興信所へ戻って来たエマ達は、零に出してもらった菓子を口にしながら、武彦へ依頼の報告を行っていた。
 結局、幽霊退治をしたのは亮一とCASLL、サポートを行ったのはエマであり、瑠花は何もしていなかった。
 それでも瑠花は、まったく懲りていないようで、ジュースを飲みつつ、武彦に次の依頼はいつ?などと尋ねているのであった。
「沢山の幽霊を見てしまいました。しかし、おかげで幽霊を退治出来たのなら、良かったです」
 CASLLは安心した様子で、ゆっくりとソファーに腰掛けているが、やはり顔つきは相変わらず怖い人であった。
「これからも、一族の歴史や家族の経歴は自分に関係ない修行を、しっかりやって下さい」
 瑠花の隣で、亮一が真面目な表情で小さな退魔師を論していた。
「そして、家族の皆を唸らせるような、立派な退魔師になりなさい」
「なれるわよね、瑠花君。もうちょっと、怖がりをなくして、技術を身に付ければ、ね?」
 亮一の言葉に、エマが続けて言った。
「今でも十分に実力派だけどね。次に依頼が来た時は、もっと凄い実力者になってここへ来るから」
 実力はともかく、そう答えた瑠花の、その自信だけは、褒めるべきものなのかもしれない。(終)



◇登場人物◆

【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0622/都築・亮一/男性/24歳/退魔師】
【3453/CASLL・TO/男性/36歳/悪役俳優】

◇ライター通信◆

シュライン・エマ様

 シナリオへの参加、ありがとうございました。WRの朝霧です。
 今回のシナリオは、コミカルな幽霊退治でしたので、内容もライトな雰囲気で書かせて頂きました。エマさんは、大した実力もないのに、自信だけは人一倍という少年幽霊退治屋を、優しく見守るお姉さん、という感じを出してノベルを書いてみました。
 瑠花の挑戦は、まだ続くかもしれませんね(笑)それでは、どうもありがとうございました!