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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


二つの刻

●願い
「お姉ちゃんを助けてください、様子がおかしいんです」
 草間興信所に一人の銀髪の少女がやってきたのはその夕方に差し掛かった頃であった。
 彼女は古書店文月堂に住んでいる神聖都学園の生徒の佐伯紗霧(さえき・さぎり)という少女であった。
 「ちょ、ちょっと紗霧さん、一体どうしたんですか?そんなに慌てて…」
 草間零(くさま・れい)が息を切らしている紗霧の事を落ち着かせ様として水の入ったコップを差し出す。
 水を一口飲み、ようやく少し落ち着いた紗霧はぽつぽつと話し始めた。

●経緯
PM.1:00.

「それじゃちょっと出かけてくるから紗霧、留守番とかしっかりお願いね?」
「あ、うん、どこに行くの?」
「うん、まぁ色々と…」
「そっか、行ってらっしゃい」

 そう言って佐伯隆美(さえき・たかみ)は文月堂から出かけていった。

PM.3:00.

 アンティークショップレンにての会話。
「ねぇ、蓮さんこの懐中時計綺麗ですね」
 そういって隆美は手に取った懐中時計を動かして見た。
「ああ、それかい?綺麗だけど動かしちゃ駄目だよ、ちょっと曰く付きのだからね」
 時、既に遅く動かしてしまっていた隆美であったがそれを言う訳にもいかずすぐに止めて、針を戻し蓮にこう言った。
「でもデザインが気にいったので動かせなくても良いからこの懐中時計ください」
「ああ、まぁ、そういう事なら良いよ、でも決して動かさないんだよ」
「はい」
 隆美はそういってう懐中時計を受け取り首から下げると、逃げるように店を出て行った。

PM.4:00.

「ただいまー」
 隆美はそう言って文月堂へいつものように帰って来た。
「お姉ちゃんお帰りなさい」
 そう言って紗霧は隆美の事を出迎えた。
「ちょ、ちょっとあなた…誰?」
 出迎えた紗霧の事を隆美はまるで不法侵入者の様な様子で見ていった。
「え?わ、私は紗霧だよ、おねえちゃんの義理の妹の…」
「私に妹なんていないわよ、出てってなんでそんな嘘をつくのよ!!」
「え?そ、そんな…」

……
………
…………

「と、いう訳なんです…、まるでお姉ちゃんまるで『私の事だけ忘れてしまっている』様な感じで…」
 そう言って零やその場にいた面々に紗霧は説明した。
「紗霧さんは隆美さんがどこに行っていたかは知らないんですか?」
「はい…、全然…」
「確かにおかしいですね、普段あんなに仲が良いのに…」
 零はそう行って落ち込みうつむいてしまっている紗霧を見る。
「判ったわ、この件は私達が何とかしてあげる、だからそんなに落ち込まないで」
 零はそう言って紗霧の肩を叩き励ますと小さくため息をついた。

●興信所にて
 佐伯紗霧(さえき・さぎり)が話し終えたところで、奥にいた数人が紗霧の所にやってきた。
 祖父の使いの帰りにたまたま興信所へよりお茶をいただいていた、天薙・撫子(あまなぎ・なでしこ)とと同じように遊びに来て先ほどまで撫子と談笑していたモーリス・ラジアル、月見里・千里(やまなし・ちさと)、上水流・つかさ(かみずる・−)であった。
 紗霧と佐伯・隆美(さえき・たかみ)の事を知っているモーリスと撫子は紗霧のただならぬ様子に驚きながらもまずは落ち着かせようとした。

「紗霧さん、そんなに慌てないで。隆美さんがどうしたんですか?もう一度しっかり教えていただけませんか?」
 モーリスのその言葉に紗霧はずっと今まで我慢していたのであろう涙をその瞳ににじませた。
 それを見たモーリスはゆっくりと紗霧の事を抱きしめた。
 噂で紗霧の事を聞いていた千里はその噂とはどこか違う様子を見て撫子にそっと問いかける。
「紗霧さんってこういう人だったの?あたしが聞いていたのと少し印象が違うんだけど…」
「いえ…、どうやら少し錯乱をなさっているようですので…。わたくしもいつもと様子が違うので驚いている処です…」
 撫子もそんな紗霧の様子を少し、困ったように見つめながら答える。
 撫子もモーリスも今まで仲の良かった二人の姉妹に何かあったらしいと言う事を感じ、戸惑いを隠せなかった。
「ねぇ、もう一度私達に何があったのか話してもらえないですか?話によっては力になれると思うから…紗霧…さん」
 しばらくして紗霧が泣き止むとつかさが紗霧にゆっくりとまた混乱させないようにと配慮しながら話しかけた。
 モーリスから離れた紗霧はそのつかさの言葉を契機にぽつぽつとまた話始めた。
「すみません、取り乱しちゃって…。お姉ちゃんとの事でどうしていいのかわからなくなってしまって…」
「気にしないで良いよ。人間大事な人との事で何かあったらどうして良いかわからなくなっちゃうのは仕方ないし…」
 そう千里は紗霧の事を励ました。
「ありがとう…」
 紗霧は励ましてくれた千里に礼を述べた。

……
………
…………

「つまり…隆美さんが紗霧さんの事をすっかり忘れてしまった、こういう事でいいのかな?」
 モーリスが今まで紗霧が話したことの要点をまとめる。
「はい…。まるでお姉ちゃんの時間の中で私の存在だけがなくなっちゃったみたいに…」
 辛そうな声をあげる紗霧の肩を抱きながら撫子は疑問を述べる。
「隆美さんがその出掛ける前とその事以外で変わった事は何かなかったのですか?」
「そうそう、何かなかった?何か変わったところ。たとえば…何かおかしな物を持っていた、とか…」
「変わったところ…」
 そう呟き二人に聞かれた事を必死に紗霧は思い出そうとする。
「うん、そういうのがわかると少しは原因を掴みやすいかな?って…」
 つかさは必死に思い出そうとする紗霧に声をかける。
「ごめんなさい…。思い出せないです…。何かあったのかもしれなかったけどそれどころじゃなくて…」
 しばらく紗霧は考え首を横に振って答える。
「やっぱり一度私達も一度隆美さんに会ってみないとダメかもしれませんね。紗霧さんだけの問題なのか私達も含めた問題なのかそれも判らないと動きようがないですし」
 モーリスがそう言って立ち上がる。
「あたしはその隆美さんは直接は知らないけど、紗霧さんの様子を見てとても大事な人なんだなっていうのは判ったよ。その人とこうやって辛い状況にある、というのはとても悲しいと思うのであたしも協力させてください」
 そう言って千里が名乗りをあげると撫子とつかさも同じように名乗りを上げ立ち上がった。
「それじゃみんな紗霧さんを助けるって事で意見一致なんだね?それじゃとにかくまずは隆美さんの所に行ってみようよ」
 そう言ってつかさが興信所の扉を開け外に出ていった。
「零様、紗霧様の事をよろしくお願いします。多分今はまだ隆美様とお会いにならない方が良いと思いますので…」
 そう撫子は零に紗霧の事を頼むとつかさの後に続いていった。

●道すがら
 文月堂へ向かう途中、モーリスは紗霧に疑問に思っていた事を改めて聞きなおす。
「紗霧さん、隆美さんはあなたの事だけ忘れているのですか?それともほかの事も忘れているのですか?」
「えっと……それは…」
 モーリスの言葉に紗霧は言葉につまり考え込む。
「そうですわね。今までと違うことがあるようならば教えていただいた方がわたくし達も対応がしやすいですし…」
 撫子にもそう聞かれ、紗霧は顎に手を当ててしばし考え込む。
「……ごめんなさい。私以外についてはやっぱり判らないです…。皆が行けば判ると思います、モーリスさんや撫子さんはお姉ちゃんとも何回も会っていますし…」
「やっぱりそれしか無いか…。まぁ、仕方が無いね、こればかりは…。とにかく文月堂へ急ぐとしようか」
「そうだね、とにかく現場百回、まずはその状況を知るのが大事だしね。地道な聞き込みも必要だしね」
 千里のその言葉に思わず皆笑みをこぼす。
「それじゃとにかく急ぎましょう」
 つかさはそう言って進める歩を早めた。

●懐中時計
 文月堂へついた一向は店の前に立っていた。
「こう見ると何も変わったことはなさそうですね、ひょっとしたらお店の方に何かあったのかも知れないかな?とも思ったのですが…」
「そうですね…。そういう事は特にはなさそうですね。先週遊びに来たときと特に変わったこともなさそうですし…。
 モーリスの言葉に、以前一緒にキャンプに行った事から、ちょくちょくと文月堂に遊びに来ていた撫子が周囲の気配を探りながら答える。
「とにかくその隆美さんに会ってみようよ。話はそれからだと思うんだ」
 千里がそう言って文月堂の扉を開けた。
 店の中に一行が入ると黒髪の女性、隆美が本の整理をしていた。
「いらっしゃいませ。あ、モーリスさんに撫子さん…つかささんも一緒になってどうしたんですか?」
 一行の事を出迎えた隆美はいつもの通りに見えた。
「あの隆美さん?私達の事を覚えているのですか?」
 モーリスが隆美に確かめると不思議な事を聞かれたとでも言うように隆美が笑ってこらえる。
「当たり前じゃないですか。今日のモーリスさんは変な事を聞きますね」
「どうやらわたくし達の事は覚えていらっしゃるようですね…」
 撫子がつかさとモーリスに確認のように目配せをする。
 その目配せにモーリスは頷くと、話を切り出す。
「あの…隆美さん。それではこの子の事は覚えていますか?」
 そう言って今までどこか逃げるように一行の陰に隠れていた紗霧の事を隆美の前へと押し出す。
「ちょ、ちょっとモーリスさん…」
 きょとんとした表情でモーリスによって前に押し出された紗霧の事を見ると不思議そうに答える。
「このお嬢さんがどうしたんですか?さっき何を勘違いしたのか私の事をお姉さんと勘違いしていた子ですけど…」
「やっぱりそういう答えですか…」

 モーリスと隆美がそういうやり取りをしている間、つかさは周囲の本の九十九神達に話を聞いていた。
『ねぇ、隆美さんについて何か変わった所はなかった?』
 九十九神達はつかさのその問いに口々に答えた。
『隆美には変わった所は無いけれど何か嫌な感じがある』
『隆美のそばに自分達に近いものがいる』
『隆美のそばにいつもと違う気配がある』

 隆美のその答えにモーリスは考え込む。
 考え込むモーリスにつかさは先ほど九十九神達から聞いた事を伝える。
「何か九十九神達に近いものが隆美さんの近くにある…、しかもそれは最近になって現れた、こういう事でいいのかな?」
「多分それで間違いないと思います」
「なるほど、ありがとう」
 モーリスとつかさのその会話を聞いて千里が隆美に問う。
「隆美さん、今日どこに行ったか教えてもらえない?」
「今日?」
「うん、絶対に何かおかしいことが起きてると思うんだ。それを何とかするためには必要なことだと思うから」
「そうね…そう言われても特に変わった事はなかったと思うけど…」
「そう言わずに思い出して、ね?」
 千里のその言葉に観念したように考え込む隆美。
「とりあえずこの店を出て……あれ?誰かに見送られたような…?いえそんな事は無いわね…」
 小さく呟きながら今日一日を思い出そうとする。
「ここを出て……家でる前に何か…つぅ!」
 頭を抱え込んだ隆美を見て慌ててモーリスが駆け寄る。
「だ、大丈夫ですか?」
「え、ええ…何とか……、なんでだろうここを出た時の事を思い出そうとするとなんだかうっすらと靄が掛かった様になって思い出せないのよ…。無理に思い出そうとすると頭が痛く…」
「無理に思いだそうとしないで良いですよ。その後どうしたんですか?ここを出て」
「え、ええそうする…。心配かけてごめんなさい」
「隆美さんが無理すると心配する人がいますからね」
 そう呟いて心配そうに隆美の事を見つめる紗霧にモーリスは大丈夫だ、という様に小さく頷いてみせる。
 再び何があったかを隆美は思いだして行く。
「ここを出て…、そう図書館に行ったわ。図書館で借りていた本を返して…そのあと…レンに行ったわ…」
「レンに?なんで行ったの?」
 千里がなんでアンティークショップ・レンに行ったのかを聞くと隆美は困惑した表情を浮かべる。
「誰かにプレゼントを上げるために……って誰にプレセントを…?判らない……」
 困惑した隆美を見てやっぱりと皆が思った。
 そして隆美には聞こえないように小さい声で話し合う。
「やっぱり隆美さんは紗霧さんの事だけ忘れているみたいですね」
「今までの言動を見てもそう考えて間違いないと思います。なんで紗霧様の事を忘れてしまったのか…もしくは誰かに忘れさせられたのか…」
「そこが問題だね。九十九神に聞いた感じだと何かアイテムが関係あるみたいだから、レンで何かあったんだと思うんだけど…」
 つかさのその言葉で一同は再び隆美に注目する。
「隆美さん、誰にと言うのはもう良いですから、まず何があったのかだけ教えていただけませんか?たとえばそこで何か手に取ったものがあったのか、とか買った物があったとかなにか…」
 モーリスのその言葉に頷くと再び思い出そうとする
 撫子はその間自身の龍晶眼の力で過去見をし、隆美の言葉に嘘が無いか見張っていた。
「隆美様の今ままでの言葉に偽りは有りません。信じて良いと思います」
 撫子のその言葉で皆安心をする。

 その間、隆美は懐に手をやりその中にある古びた懐中時計を握り締めていた。
『なぜだろう…、この時計を買ったって言えば良いのに…それを言っちゃいけない気がする…』
 懐に手をやって何か考え込んでいる様子を見て千里がすっと手を伸ばす。
「ちょっとごめんなさい、その手に持っているもの見せて下さい」
 千里はそう言って隆美の手を引き出し、その手に持っている懐中時計を皆の前にさらし出す。
 千里が時計を取り出すとつかさは周りにある古本たちが口々に騒ぎ出すのを聞き取った。

『その時計だ!』
『その時計から変な感じがする!』
『その時計が変だ!』

 つかさは本の九十九神が騒ぐ声を聞くと皆にそれを伝える。
「その時計から変な感じがすると九十九神達が言っています!」
「隆美さんその時計はレンで手に入れたのですか?」
「え、ええ…」
 不承不承といった様子ではあったが隆美は頷く。
「隆美様ちょっとその時計を見せていただけますか?」
 撫子ののその言葉に隆美は首を横に振り後ろに一歩あとずさる。
「いや…この時計はなんでもないの…だから…」
 嫌がる隆美を見てモーリスは仕方ないな、といった様子で首を振る。
 そしてすっと駆け出す。
「隆美さん、すみません」
 そう言ってモーリスは隆美の事をそっと優しく抱きしめる。
「今です、早く時計を…」
 抱きしめられ暴れる隆美を抑えながらモーリスは皆にそう叫ぶ。
『いつもの隆美さんだったら嬉しいのですけどね…』
 不謹慎とは思いつつもそんな事を考えてしまう。
 そして暴れる隆美の手から千里が懐中時計を奪い取る。
 手から懐中時計が離れると隆美はモーリスのうでの中でぐったりと意識を失う。

 千里は手に取った懐中時計をまじまじと見つめるとその懐中時計に魅入られたかのように見入ってしまう。
 その様子に撫子が気がつき千里に声をかけその手にしている懐中時計を奪い取る。
「千里様!」
 その撫子の声にはっと千里は我に帰る。
「なんだろう?時計から声が聞こえたような気がするんだ…。安らぎを得たかったら我を回せって…」
「安らぎを得たかったら我を回せ?」
 つかさが不思議そうに聞き返す。
「うん…そうどこからか聞こえたような気がする…」
「撫子さん私にその時計を貸してもらえないですか?少しそのこの聞いてみたい事があるので…」
「つかさ様それは…」
「大丈夫、私はこういうのには慣れてるから」
「そうですか…、ならば良いのですが…。くれぐれも気をつけてください」
 撫子はそう言ってどこか警戒しながらもつかさに懐中時計を渡す。
「ありがとう」
 撫子にお礼を言うとつかさは懐中時計に向かって問いかける。

『あなたは誰?あなたは何をしたいの?』
『我は二つのときを作りし物…我をまわせば時は二つ目の時を刻みだす…』
『二つの時?』
『…………』

 時計はそれだけ言うとつかさの問いに何一つ答えなかった。
「どうやらその時計は二つの時を刻むもの、らしいです…。二つの時っていうのがよく判らないんですけど」
 そこへ気を失った隆美の事を紗霧と一緒に横にしてきたモーリスが戻ってくる。
「紗霧さんは隆美さんの事を見ているそうです。それで何かわかりましたか?」
 つかさがモーリスに今までの事を説明する。
 つかさのその説明の間に千里に先ほどの言葉を思い出す。
「ひょっとして…ひょっとしてなんだけど、二つの時って言うのは、もう一つの時間をくれるって事なんじゃないかな?たとえば…その人に取って辛かった事を無くしてくれるとか…辛かった事だけとは限らないかもしれないけど…」
「なるほど…確かにそういう風に取れますね。それならば紗霧さんの事を思い出せない、と言うのも納得できます。隆美さんにとって紗霧さんとの出会いはとても楽しかった事でしょうから…」
「なるほど、その人にとって一番心に引っかかっている事を無くしてしまうって事かな?」
「そういう事だと…思う…」
 つかさの言葉に答えながら千里はその心の中にある小さな痛みがうずくのを感じていた。
『ひょっとしてあの時計を使えば…』
「千里様どうかしましたか?」
 撫子が急に黙った千里に声をかけ、千里はなんでもないよ、というようにわざと明るい声で答える。
「あ、ううんなんでも無いよ。この時計どうしたら元に戻せるのかな?と思って…」
「それなんだけど、私にちょっと考えがあるんだけど」
 普段からこういう品と付き合うことの多いつかさが自分の意見を述べる。
「多分時計、だから回した方と逆の方に回せば良いと思うんだ…。こういういたずらをする時計はそういう風に直すことが多いから…」
「だったらすぐ回しましょう」
 モーリスがそう言って時計を回そうとする。
「だめ!こういうのは回した本人が回さないと意味が無いから」
「そういう物なのですか…」
 回そうとした手を止めモーリスは小さくため息をつく。
「それじゃ隆美さんが目を覚ますまでどうしようもないね」
 千里が諦めたように言葉を吐いた。

●隆美
 一同はその後紗霧の煎れたお茶を飲みながら一息つきながら隆美が目を覚ますのを待っていた。
 待っている間に撫子は先ほどの懐中時計が、中から隆美の事を操作できぬよう、懐中時計に簡単な封印を施した。
「う……う……ん」
 横になっている隆美声が上がりゆっくりと身を起こす。
「あれ…、私は…?」
「隆美さん、目を覚ましましたか?」
 モーリスが声をかけるとどこか焦点の定まっていない様子で隆美は辺りの事を見る。
「隆美様は今まで悪い夢を見ていたのですよ…」
「悪い…夢?」
「ええ…、それからこれから隆美様に今まで欠けていた物をお返しします」
 そう言って撫子は力が表に出て来ないように力を込めた懐中時計を隆美に渡す。
「この時計は私がレンで買った物…。だけどなんで撫子さんが持っていたんですか?」
「やっぱり先ほどの事は覚えていませんか」
 モーリスがため息混じりに言葉を漏らす。
「隆美様、この懐中時計に隆美様に欠けてしまった物が詰まっています。わたくし達の事を信じて逆に回していただけないでしょうか?」
 懐中時計と隆美の様子に気を配りつつ撫子が隆美に話しかける」
「大事な欠けてしまった…物?」
「ええ、貴女にとってとても大切なものだと思いますよ、隆美さん」
 モーリスも撫子の言葉に口添えをして隆美に行動を促す。
「…………」
 しばらく懐中時計を見つめていた隆美であったが、意を決したようにゆっくりと懐中時計を逆に回し始めた。
 するとゆっくりと懐中時計は逆に回り始めうっすらと白い光をその文字版から発し始めた。
 そしてその白い光が隆美の体に吸い込まれていった。
 白い光が完全に消えると今までどこかぼんやりした様子だった隆美に変化が起こった。
「あ、あれ?私今まで行ったい何を……?」
 周囲をせわしなく見渡す隆美におずおずと紗霧が声をかける。
「お姉ちゃん、私の事…判る?」
「紗霧でしょ、何変な事言ってるの?」
「よかった……本当に…」
 紗霧は隆美の事を半分涙の篭った声を上げて抱きしめた
 その言葉を聞いてその場にいた一同は皆喜びの声を上げた。

●エピローグ
「なんだ…そういう事があったんだ…」
 テーブルの上に置かれた懐中時計をまじまじと見つめながら今まで何があったかの説明を聞いて納得したように頷く。
「とにかく、この懐中時計が問題…か。ちょっと惜しいけど蓮さんに謝って返品させてもらうしか、無いかな」
「それが良いと思いますよ。今回みたいなことがそう何度もあっては困るし」
 つかさがそう言うとモーリスは小さな声で呟いた。
「私はたまにでしたらこういうハプニングは大歓迎ですけどね」
 隆美はどこか楽しそうにしているモーリスが不思議でならなかった。
「モーリスさんなんでそんなに楽しそうなんですか?」
「あ、いいえ、こっちの事ですよ」
「そうですか?」
「ええ」
 なんでそういう風にしているのか判っている一同は言うにも言えずただただ苦笑するしかなかった。
「折角ですので、皆様でお茶にしていくというのはどうでしょうか?色々疲れたと思いますし…」
 撫子のその提案に千里が答える。
「ごめんあたしは折角だけど今回は遠慮するよ。この懐中時計を蓮さんのところに早く届けてこようと思うんだ。久しぶりに行って見たいと思っていたところだしあたしが行って来るよ」
「そうですか?ちょっと残念ですけが、仕方ないですね…」
「そういう訳で善は急げで早速行って来るよ。みんなお疲れ様」
 そう言って千里は懐中時計を持ち文月堂を出て行った。

「そういえば、隆美さん今日は紗霧さんのクリスマスプレゼントを買いに行ったんですか?」
 隆美にだけ聞こえるようにモーリスが隆美に問う」
「え、ええ、とんだクリスマスプレゼントになっちゃいましたけど」
 隆美も紗霧に聞こえないよう小さな声で答える」
「でしたら、今度紗霧さんへのクリスマスプレゼントもう一度見に行きませんか?私も付き合いますから」
「え?いいんですか?」
「はい、喜んで」
 モーリスは微笑を浮かべていた
 そんな会話をしていた隆美につかさが声をかける。
「なんにしても隆美さんが無事でよかったよ」
「つかささん達のおかげですね、本当にありがとうございました。今度からはもっと気をつけないといけないですね」
 どこかほっとした様子の隆美を見て皆もほっとした気持ちになるのだった…。


Fin

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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≪PC≫
■ 上水流・つかさ
整理番号:5828 性別:女 年齢:21
職業:美術品の修復士(見習い)

■ 月見里・千里
整理番号:0165 性別:女 年齢:16
職業:女子高校生

■ モーリス・ラジアル
整理番号:2318 性別:男 年齢:527
職業:ガードナー・医師・調和者

■ 天薙・撫子
整理番号:0328 性別:女男 年齢:18
職業:大学生(巫女):天位覚醒者

≪NPC≫
■ 佐伯・紗霧
職業:高校生兼古本屋

■ 佐伯・隆美
職業:大学生兼古本屋

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■         ライター通信          ■
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 どうもこんにちは、ライターの藤杜錬です。
 この度は『草間興信所依頼 二つの刻』にご参加いただきありがとうございます。
 今回の一軒も皆さんのおかげで無事解決となりました。
 上手い具合に役割分担がされていたので、はかったんじゃないか?と思うくらいでした。
 撫子さんの今回のプレイングがこの結果を生んだと思います。
 ありがとうございました。
 今回はこの様になりましたが、楽しんでいただければ幸いです。


2006.01.10.
Written by Ren Fujimori