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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


年の初めの運試し

0.年初め 今年も儲かり ますように…?

 ちゃり〜ん

 ぱんぱん!!

 地元の小さな神社には今、彼しかいなかった。
 おそらく皆大きな神社へと初詣に行っているのだろう。

  いっぱい人が行くところの神さんは、ボクの願いなんか叶えてる暇あらへんかもしれんもんな。

 小さな手で放り投げた45円。
 始終(四十)ご縁(五円)がありますように。
 彼は真剣に神様にお願い事をしていた。
 と、突然声がした。

「お坊チャ〜ン! ちょぉおおっとヨロシイですカ〜?」

 声をかけられ、白い手が伸びてきた。
 その手の中には、犬の顔が描かれたキャンディーが1つ握られていた…。


1.災厄は めでたい日にこそ やってくる

「あ はっぴ〜 にゅ〜 いやぁ〜 !!」

 パーンと鳴らされた小さな破裂音は手に持ったクラッカー。
 そのクラッカーより出た小さな紙切れや紙テープをもろに頭にかぶった草間武彦は明らかに不愉快そうだった。
「貴様はいったい何をしに来た!?」
 そう怒鳴りつける先に居るのは先ほどのクラッカーを鳴らしたピンクの毛皮が新年早々ケバケバしい『マドモアゼル・都井』と名乗る謎の人物。
 こいつが来るとろくでもないことが多々起こる。
「新年なのデ〜ス! もっとハッピースマイルでワンダフルにいきまショ〜!」
「おまえが来たことによってすでにハッピーじゃないんだがな…まぁ、いい。で、何の用だ? 用がないならさっさと出てってほしいんだがな」 そう聞いた草間にニヤリとマドモアゼルの口元が微かに歪んだ。
「ちょっとお引き合わせしたい方々がいるのデ〜ス! 皆さんカモーンです!!」
 遠くから、ワンワンとなにやら吼える声が近づいてきた。
 そして現れたのは、大きさがばらばらな数頭の犬だった。

「このワンちゃんたち、実は草間さんのお知り合いの方々デ〜ス。
 皆さん、草間さんに名前を呼んでもらえば元に戻る『おみくじ呪い』がかかってるのデ〜ス!」

「なんだとーーーーー!?!」


2.災厄に 見舞われては みたものの

「ん〜…」

 草間興信所の中は今現在、異様な雰囲気を醸し出している。
 それは当然の話で、所長草間の前に並んだ大小入り混じった5匹の犬が目を輝かせてジーっと草間を見ているのである。
 また、草間も彼らを鋭い観察眼で食い入るように眺めている。
 事情を知らない者が見たら凄腕のトレーナーと見られるかもしれない。
「わっかんねぇって。勘弁してくれよ…」
 突然がっくりとうなだれ草間はそう呟いた。

  犬!? ボク、犬になってもうたんか!?
  うう…これじゃあ、お家に帰れへんやん…。

 愛らしくクルンと丸まった尻尾がトレードマークの柴犬。
 まごうことなく、これが今の彼の姿だ。
 隣を見ればゴッツイ体をしたブル・マスティフという名の犬と、ニュージーランド・ハンタウェイという犬。
 それから、なにやら部屋の中を忙しげに走り回るシェットランド・シープドッグ。
 そして犬種不明の白い犬が一匹。

  あのケバケバしい兄ちゃん…姉ちゃんか?
  とにかく、わからんけったいな人に会うてなかったら、こないなことにならへんかったやろな。
  はよ、草間のおっちゃんにボクの名前呼んでもらわな。

 でも、どうやって?
 彼はふむっと頭を悩ませた。
 そんな彼の後ろでは草間がブル・マスティフと白い犬がじゃれあっていた…。


3.お金です 福沢さんが 大好きです 
 
  せや! お金や!
  おっちゃんのおさいふ取ったらええねん。
  そんで、お金をばらまいて、お金好きをアピールしたらええねんや!

 天の閃きとはまさにこのことだと思った。
 彼以外にこんなに無邪気にお金を好きだと言い切る人間はきっといないはずだ!

「うわぁああぁ!」

 草間の叫び声がした。
 その声にハッと目を上げると、草間がブル・マスティフと白い犬に押し倒されていた。

  …犬になりきっとる…。

 そんな冷たい視線に耐えかねたのか、ブル・マスティフと白い犬は草間から離れた。
 草間も、冷静を装うべくタバコを一本取り出した。

  は!? そんなことより財布を探さないかんのやった!

 彼はくるんと尻尾を振りながら、草間の椅子に掛かっていた上着に口を突っ込んだ。
 彼の勘は実に鋭かった。

「ちょ、ちょっと待て! それはやめろ!!」

 草間の制止の声が虚しく響く中、彼は財布の中身をぶちまけた。
 チャリン! チャリン! と心地よく落ちていく小銭達。
「あぁあああぁあ〜!!」
 それをすかさず手で受けとめようとした草間は、机に当たった拍子にガツンといい音を出した。
 どうやら机の角で腰を強打したようだ。
 草間が思わずうずくまり、ニュージーランド・ハンタウェイがそれに駆け寄った。
 見るからに痛がっている草間に、少しだけ罪悪感を覚える。

  あちゃ〜…これは計算外や…。

 が、さらに彼にとってさらに計算外のことがこれから起ころうとしていた…。


4.暴走か ボクは関係 ないやんか 
 ブル・マスティフの目の色が変わった気がした。
 雰囲気が先ほどよりも硬化し、顔つきがさらに恐ろしくなった。

  な、なんや??

 そして、おもむろに草間のタバコを一本咥えてドカッと草間の椅子へ座る。
「おい、そこ俺の場…」
 そう言いかけた草間の顔をじろりと睨み、ブル・マスティフは踏ん反り返った。
 それはさながら王者のように、はたまた独裁者のように偉大で尊大な姿だった。
 だが、肘掛に置いた手もやはり犬のものである。
 それは違和感以外の何者でもなく、草間の顔が徐々に引きつっていった。
 内心、彼もその違和感に少しの笑気を催していた。
「ぷ…」
 こらえ切れなくなった草間がそうこぼして横を向いた。
 彼はなんとなく、ここで笑ってはいけない気がした。
 これは本能が告げる危機といったところか。

 と、ブル・マスティフが突然、近くにあったアルミホイルをムズッと器用に咥えると草間へと襲い掛かった!
「ちょ、あぶねぇっ!!」
 そういって逃げ回る草間を執拗に追い掛け回す。
「ワンワン(ちょ、なにしてんねん)!」
 彼はおもわず咆えたが、ブル・マスティフの耳には届かないようだ。
 ブル・マスティフは口に咥えたアルミホイルを振り回しつつ、ついに草間をソファーの上でこけたところを射程に入れた。
「待て、話せばわかるだろう? 俺の声、聞こえてないわけじゃないんだろう??」
 ガルル〜っと迫るブル・マスティフに草間は冷や汗をかいている。
 目の錯覚か、先ほどまで口に咥えていたアルミホイルはいつの間にかチェーンソーになっていた。
「落ち着け! いや、違う。これがアイツなら…」
 草間が何か思い出したようだ。
「カーーーーーーット!!!!」
 あと数センチでチェーンソーが顔に当たろうかというところで、ブル・マスティフはその動きを止めた。

  な、なんやったん??

 訳がわからない彼は、ただ呆然とその光景を見つめていた…。


5.やっぱりな 元の姿が いちばんや

  あ、しもた。
  すっかり毒気抜かれてもーた。

 ハタ、と彼は自分が何をしていたかを思い出した。
 草間は安堵したのか、自分の椅子に深々と座っている。
 福沢さんを探すなら今のうちである。
 財布に首を突っ込み、福沢さんを1枚丁寧に噛み破らぬように口で咥えた。
 そして、彼は草間を見た。
 と、草間もちょうどこちらに目を移したところで、その彼の姿を見ると「おい」と小さく呟いた。
 床にばら撒かれた小銭を拾いつつ、福沢さんを振り回す彼をなだめすかす。
「それは貴重な万札だぞ? いい子だから返してくれよ、な??」
 口調は優しいがその言葉には確実に怒気が含まれていた。
「返してくれないと、おまえの名前、呼んでやんねぇぞ?」

  それは困るなぁ…。

 彼は渋々と草間に福沢さんを返した。
 どうやら目的は達成されたようだった。

 が、彼はなんとなく寂しげだった。
 できればあのまま貰えたらよかったのに…なんて思っていた。
 お正月にお年玉はつきものなのだから。

  あとでねだってみよかなぁ…。

 と、そんなことを考えている彼の後ろでは、すでに2人が元の姿に戻っている。
 シェットランド・シープドッグは着物姿のシュライン・エマに。
 先ほど暴れまわっていたブル・マスティフはCASLL・TO(キャスル・テイオウ)だった。
「ワン(ボクは?)!」
 草間に向かってそう咆えると、草間はポンッと彼の頭を軽く叩いた。
「まず間違いなく門屋将紀(かどや・まさき)だな」

 そうして、将紀の体は柴犬から元の体へと戻ったのだった…。


6.世はすべて こともなし めでたしめでたし?
 将紀の後の残った2匹の内、1匹に対し草間は名前を呼んだ。

「葉室穂積(はむろ・ほづみ)!」

 次々に人間の姿に戻った彼らは口々に安堵の言葉を口にした。
「よかったわ、元に戻れて」
「おれ、どうしようかと思ったよ。ホントに」
「いたいけな子供にこないなことするなんて! 『ようじぎゃくたい』で訴えるで、ホンマ!」
「…子供を巻き込むのはよくないと思うのです」

 だが、もう一匹犬は残っていた。
 草間が申し訳なさそうに呟いた。
「…で、この最後のヤツだけが誰だかわからんのだが…」
「それは私についてきてしまった本物の犬さんです」
 CASLLは怖い顔で恐縮したようにそう言った。
 白い犬は不思議そうに首をかしげた。
「そらわからんわけやな。ホンマの犬がおるなんて、聞いてぇへんもんな」
 将紀は神妙な顔をして頷いた。
 
 と、そこに零が出来立て熱々の雑煮を運んできた。
「6つでよかったですよね?」
 草間、エマ、CASLL、将紀、穂積……と?
「あら? あの人は?」
 いつの間にか消えている人物。
 事務所内にその姿を見つけることはできない。
「あいつのことだ、自分の立場が悪くなってきたから逃げたんだろう」
 草間がそう冷たく言い放ったが、それをフォローするものは誰もいない。
「そうだ。私の犬さんにおすそ分けしてもいいですか?」
 CASLLがそう言った。
「それじゃあ小分け用のお皿を持ってきますね」
 零がそそくさと台所へと駆け込んでいく。
「よかったわね、わんちゃ…」
 エマが、足元にいた犬にそう言いかけて固まった。
「どうしたんすか?」
 穂積が、将紀が、CASLLが、草間が、エマが見た足元を覗き込む。

 そこには、ピンク色のにやけた犬がちょこんと座っていた。
 その犬の足元には、見覚えのある犬の顔が描かれたキャンディーの包み紙が落ちていた。

「………」
 一同は瞬時に顔を見合わせた。
 そして、次の瞬間。

 何事もなかったかのように、雑煮を食べ始めたのだった。

  世の中『ひとをのろわばあなふたつ』っちゅーことわざもあるんやから、『じごうじとく』やな。
  当分そのままでええやろ…。

 関西風とはまた一味違う関東風雑煮を堪能しながら、将紀はそんなことを思っていた…。


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■□   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  □■

0086 / シュライン・エマ(シェットランド・シープドッグ) / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

3453 / CASLL・TO(ブル・マスティフ) / 男 / 36 / 悪役俳優

2371 / 門屋・将紀(柴犬) / 男 / 8 / 小学生

4188 / 葉室・穂積(ニュージーランド・ハンタウェイ) / 男 / 17 / 高校生


■□     ライター通信      □■

門屋将紀 様

明けましておめでとうございます…て遅いですね。(¨;)
お久しぶりです。この度は『年の初めの運試し』へのご参加ありがとうございました。
変身していただいた犬は、プレイングよりいただきました。
お金に…とのことで、とても将紀様らしいプレイングで楽しく書かせていただきました。
あの後福沢さん、もらえたらいいですね〜。
少しでもお楽しみいただければ幸いです。
それでは、またお会いできる日を楽しみにしております。
とーいでした。