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<東京怪談・PCゲームノベル>


ココロを変えるクスリ【強い×愛情】



 【ねぇ・・・貴方との関係は、いつだって楽しかったよね??】

 【兄妹のような関係で・・・・】



☆★☆はじまり☆★☆


 2度ある事は3度ある。
 桐生 暁はその日、その言葉を思わずしっかりと胸に刻みつけた。
 いつもと同じように軽快に夢幻館の扉を開け―――待ってましたと言うようにその場に突っ立っていた少女とバッチリ目が合ってしまう。
 紅咲 閏・・・とても愛らしい外見をした少女だが、外見と中身が必ずしも比例しないと言う事は暁もよく解っていた。
 この館に住む、外見年齢小学生の可愛らしい少女。口調も可愛らしく、着ている服も何時だって可愛らしい。ツインテールの髪が揺れ、にっこりと微笑みながら走ってくる様はまさに天使と言っても過言ではないほどだった。
 それなのに、良く見るとその手にはハンドガンを持っており、たまにロケラン=ロケットランチャーを担いで走り回っている時もある。
 いつも思うが、華奢なあの身体の何処にそんなパワーがあるのだろうか・・・。
 つまり、人は外見には寄らない。
 外見で人を決めるなどと言う行為は、時に人を窮地に立たせるものであって―――。
 この少女も、中身はとんだ狂人だ。
 わけのわからない怪しいクスリを買って来ては、ここを訪れるいたいけな客人に無理やり飲ませ、データを取ったりしている。
 更にもっと酷い事に、この間なんて暁と夢幻館1のキング―――なんのキングだかはあえて言わない事にするが―――を恋人同士にした挙句、ラブラブの映像をビデオカメラに収めて・・・。
 暁は思わずゴメンナサイと謝ってからクルリと踵を返して帰りたい気分でいっぱいになった。
 ニッコリと微笑んでいる閏だったが・・・その瞳はちっとも笑っていない!
 何かある・・・絶対何かある・・・!!
 「暁さん、お久しぶりで〜すw」
 「あ、うん。久しぶり〜☆閏ちゃん元気だったぁ?」
 「元気でしたよ〜♪暁さんも元気そうで何よりです。」
 うふっ♪と、妖しげな笑顔をのぞかせる。
 そして、ポケットから小さなカプセルを取り出すと暁に差し出した。
 “ココロを変えるクスリ”だ。
 暁が過去に2回飲まされている・・・。
 「え・・・?・・・え??」
 「飲んでくーだサイ☆」
 可愛らしくそう言って、背後から水を取り出し、それも暁に手渡した。
 「はやく、飲んでくーだサイ♪」
 そうは言うものの、これを自ら進んで飲むような人はいないだろう。
 そもそも、飲んでしまった後、効果が切れるまで“自分”が“自分”ではなくなってしまうのだ。そんな危険を冒してまでこのクスリを飲もうなんて者は誰もいないだろう。
 スーっと視線を閏に向ける。
 ニコニコとした顔。その背後に見える黒い闇が濃い。
 「早く飲んでくれないと、コレを色んなところに・・・」
 取り出したのはビデオテープだった。
 ―――暁の脳裏に“あの時”の映像が流れ出す。
 冬弥と恋人同士になった時の・・・・・
 脅迫だ・・・絶対コレ、脅迫だよ・・・!
 とは思うものの、そんな事をこの少女に訴えてもどうしようもない事は暁も重々承知だった。
 覚悟を決め、カプセルを口の中に入れ―――水で流し込み・・・。
 それから先は知れた事だった。
 ドクンと心臓が高鳴り、息苦しいまでに胸を締め付け―――

  意識が闇に飲まれる
  ―――甘い痛みを伴いながら・・・・・


★☆★始まる、関係★☆★


 「にゃ〜ん。」
 高い猫の鳴き声がして、片桐 もなは読んでいた本から顔を上げた。
 締め切った扉をカシャカシャと弄る音がして・・・
 パタリと本を閉じると椅子から立ち上がった。
 「もー!自分で開けられるでしょ〜?」
 苦笑しながらそう言って、扉を開ける。
 そこにはニコニコ顔の暁が立っており―――
 「言葉だってちゃんと話せるんだから、ちゃんと話しなさい、アキ。」
 「ゴメンナサイ。」
 ちょっと怒ったように頬を膨らませたもなに、暁が素直に謝る。
 ちょっぴしシューンとしてしまうのは、飼い主であり、大好きなもなに怒られてしまったから。
 それを見て、もなが苦笑しながら暁の服の裾をチョイチョイと引っ張る。
 どうやらしゃがめと言う事らしい。
 それに素直に従うと、暁はちょこりとその場にしゃがみ込んだ。
 もなが暁の頭を優しく撫ぜ―――
 「可愛い可愛い。イー子イー子。」
 くしゃくしゃと髪の毛を散らしながら、クスクスと小さく微笑む。
 飼い主さんに褒められた事が嬉しくって、暁は思わずもなに飛びついた。
 もなが体制を崩し、ドサリと仰向けに転がり・・・暁がその頬をペロペロと舐める。
 「やだ・・・アキったら、くすぐったいってば〜!」
 キャッキャともながはしゃぎ―――扉の向こうで、その光景を見ていた梶原 冬弥と神崎 魅琴が思わず顔に縦線をつけながら顔を見合わせる。
 「おい、あれ・・・すげー怪しい光景じゃね〜?」
 「アレが素の暁ともななら、怪しい光景と言うか、犯罪だけどな。今は例外だ、例外。」
 冬弥がそう言って溜息混じりに額に手を当てる。
 外見年齢小学生のもなの上に、17歳の少年である暁が乗っかり、顔を舐めている・・・。
 どう考えたって犯罪くさいが・・・
 「ま、でもこうして見れば“おかしい”っつーだけであんま犯罪っぽくねーな。」
 「ある意味絵っぽいな。」
 どちらも外見が酷く良い分、あまり犯罪っぽく見えないのが救いだった。
 だが、おかしな光景はおかしな光景である。
 「つーか、暁がペットで飼い主がもなねぇ。どう考えたって反対っぽいのにな。」
 身長が150cmは確実にないもなと、170cmはきっちりある暁。
 その身長差は20cm以上だ・・・。
 ゴロゴロと戯れる2人・・・もとい、1人と1匹をしばらく見詰めた後で、冬弥が暁を持ち上げた。
 「もな・・・ごは・・・エサはあげたのか?」
 「あ・・・まだあげてないや。アキちゃん、もしかしてお腹空いてるの〜?」
 もなの言葉に、暁がにっこりと微笑む。
 「ごめんね、ゴメンネ??今すぐにあげるからね??」
 そう言って走り出そうとして・・・下に敷かれていた絨毯に足を取られ、ドサリと派手な音を上げてその場に倒れこんだ。
 「い・・・ったたた・・・。」
 むくりと起き上がり、膝を見る。血は出ていないものの、赤くなっているそこはかなり痛そうだった。
 「おいもな、大丈・・・」
 言いかけた冬弥の腕からするりと抜けると、暁はもなの元に走り寄った。
 心配そうに顔を覗き込み、頬をペロリと舐め、膝を・・・
 「それはヤメロっ!!!」
 「確実に怪しい光景になるじゃねぇかっ!!」
 魅琴と冬弥が2人をベリッと引き剥がす。
 もなの膝を舐める暁を見るのは酷く心に響く・・・と言うか、見たくないと言うのが2人の意見だった。
 暁が肩にかかった魅琴の手を振り解くと、冬弥の元にツカツカと歩き、その腕からもなを奪う。
 お姫様抱っこをして・・・小さく華奢なもなは、綿で出来ているのかと疑いたくなるほどに軽い。
 「アキちゃん・・・」
 うるうるとした瞳で暁の首元にぎゅっと抱きつくと、耳元で「キッチンまで連れてって?」と囁いた。
 了解と言う代わりに、その髪にそっと口付けをする。
 「おいおいおい・・・!!暁のペットがもなの間違いじゃねぇのか!?」
 「飼い主がペットの膝を舐めようとするかよ・・・。」
 冬弥が盛大な溜息をつくと、暁ともなの後を追って行った。


 夢幻館には動物はいない。
 無論“どこか”には犬や猫、果ては象なんかもいるのかも知れない。
 無数にある扉は、その数だけ色々な場所に繋がっており・・・中には、未来や過去にも繋がる扉があると言う。
 つまりは、マンモスなんかもいるかも知れないのだが・・・。
 とりあえず、夢幻館の住民が飼っている動物は1匹もいない。
 と言う事は必然的にこの館にはペット用のご飯はない。
 ドッグフードやキャットフードもないし・・・勿論、ラビットフードなんて尚更ない。
 そこはある意味救いと言っても良かった。
 まさか人間(クスリによって今ではもなのペットだが)にペットフードを食べさせるわけにはいかない。
 「そんなんなんのプレイだっつ・・・」
 「お前は黙っとけ。つーか、口開くな!一々発言が下品なんだよ!」
 おじやを作っていた手を止めると、冬弥は魅琴の後頭部をグーで殴った。
 殺人的料理“しか”作り出せないもなを、あの手この手を持ちいてキッチンより放り出すと、冬弥と魅琴はさっそく暁のご飯・・・もとい、エサ作りに奮闘していた。
 まさか普通のご飯を出すわけにも行かず、かと言って何を作ったら良いのか解らない。
 結局2人で相談の末、おじやを作る事にしたのだが・・・。
 「て言うか、暁は自分で食べられるのか?」
 ペットはスプーン使えますぅ?と、魅琴が小首を傾げながらスプーンを出してくる。
 「や、でも体は暁のモノなんだし・・・」
 「ココロだってちゃんと暁のだよ。今は少し斜めに傾いてるだけだろ。」
 「・・・そうだな。」
 冬弥がスプーンを受け取り、ホールで待機させている2人の元へと急ぐ。
 「あ、アキちゃん!ご飯ですよ〜☆」
 もながトテトテと走って来て、冬弥の手からお盆を受け取る。
 「走るなよ、転ぶなよ、足元に気をつけろよ?」
 「解ってる〜♪」
 本当に解っているのか!?と疑いたくなるほどに危なっかしい足取りで、ソファーの上にちんまりと座る暁の隣に腰を下ろした。
 小さな膝の上にお盆を乗っけ、にこにこと微笑みながらスプーンを握る。
 「はい、アキちゃん、あーん。」
 もなの言葉に暁が口を開き・・・
 「そうか、そうやって食べさせるのか。」
 「・・・犬食いじゃなくて良かったって言いたいのか?」
 「いや、どっちにしろ暁が面白い事になってるのに変わりはねーよ。」
 魅琴が肩を竦めながら、お前もあーして欲しいか?もなに?と付け加える。
 「ぜってー勘弁。」
 「だろ?」
 ほらみろと言うように魅琴が笑う。
 その間も、どんどんもなが暁にご飯を食べさせ―――
 「アキちゃんは良い子だね〜♪」
 もながわしゃわしゃと暁の髪を撫ぜ、頬にそっと口付けをする。
 暁が嬉しそうにギュっともなに抱きつくと、もうお腹一杯だとそっと告げる。
 「そ?それじゃぁ、あたしはお片づけしなくちゃだから、アキちゃんはそこら辺で遊んでて?」
 「はーい。」
 少ししゅんとしながらも、暁は頷いた。
 もながトテトテと走って行ってしまい・・・暁はその場にいた冬弥にテテっと走り寄った。
 冬弥が顔を引きつらせながら、どうした〜?と言って小首を傾げる。
 「遊んで〜!遊んでよ〜!」
 そう言ってクイクイと服の裾を引っ張り・・・隣で魅琴がフルフルと肩を震わせている。どうやら爆笑したいのを必死にこらえているようだった。
 「遊ぶ・・・えーっと、なにして?」
 「んー。かけっこ。」
 「かけっこぉ〜!?」
 「俺が逃げるから、追いかけてね?」
 「そりゃ鬼ごっこっつーんだよ!!」
 そんな冬弥の突っ込みに構う事無く、暁は全力疾走でホールを抜け、長い廊下を走り去って行った。
 「・・・あんの馬鹿!この館をめちゃくちゃに走りやがって・・・!行方不明になってもしらねぇぞ!?」
 「ぶつくさ言ってないで早く行けよ。俺はもなの方見てるから。」
 魅琴に背中を押され、短い溜息をついた後で冬弥は駆け出して行った―――。


 ホールを駆け出して行った暁だったが、しばらく走るとなんだかつまらなくなってしまった。
 冬弥が追いかけてくる気配もないし・・・走り疲れてしまったし・・・。
 飼い主のもとに戻ろうとするが、めちゃめちゃに走ってしまったために、現在位置把握不可能に陥っている。
 右を見ても左を見ても、同じ扉がズラーっと並んでいるばかり・・・。
 なんだか無性に寂しくなって、暁はその場にペシャリと座り込んだ。
 館の中は温度が一定に保たれているため、廊下に座っていてもそれほど寒いとは感じないけれども・・・。
 キュっと両足を抱く。
 寂しくて寂しくて・・・今はとても愛されていて、幸せだけれども・・・いつか、捨てられる日が来るかも知れない。
 そうなった場合、この“寂しさ”はずっと続くんだ―――
 「捨てられる時は、晴れの日がいいなぁ〜・・・。」
 ポツリと呟き、クスっと小さく微笑む。
 「だって、雨だと寒いじゃんね。」
 「でも、あたしは雨でも晴れでもアキちゃんの事捨てたりしないよ。」
 そんな声が聞こえ、廊下の端からもなが危なっかしい足取りで駆け出してきた。
 その瞬間、心の中がポっと温かくなった・・・。
 「良かった・・・アキちゃん見つかって・・・。」
 もなが暁に抱きつき、ギュっと強く抱きしめる。
 「どうして捨てられたらなんて言うの。あたしは、アキの事大好きだよ?本当に大好きなんだよ?それなのに、捨てられたら〜なんて、言わないで。あたしが、アキの事捨てるわけないじゃない。」
 涙ながらのもなの声に、思わず暁の目も潤みそうになった。
 「それに、遊んでなさいとは言ったけど、こんな遠くまで来たらダメでしょ?ここは危ないんだから。」
 「ごめんなさい・・・。」
 「さ、帰ろう?ね?寂しかったでしょう?」
 そう言って差し出されたもなの手は酷く温かくて―――


☆★☆終わる、関係☆★☆


 もなと暁がホールに戻ってしばらくしてから、冬弥もホールに戻ってきた。
 暁ともながまったりと寛いでいるのを見て、ほっと安堵の溜息をつく。
 「ゴクローさん。」
 「や、苦労はいつもの事だからな。」
 そう言って軽く肩を竦めた冬弥の目に“あるもの”が飛び込んできた・・・思わずグリンと魅琴の方を見やる。
 「おい、アレなはんだアレは!!」
 冬弥の指先が、真っ直ぐに暁に注がれ―――その頭には三角の耳がチョコンとのっていた。
 「犬耳だよ、犬耳。見てわかんねぇのかよ。」
 「解るっつーの!なんであんなんがついてんだよ!!」
 「なんで俺のせいになってんだよ・・・。」
 「お前以外にあんなんつけるヤツいねーだろーがよっ!」
 「俺が持ってったら、暁が自分からつけたんだよ。」
 はぁぁ・・・と、ガクリとなる冬弥。
 「てーか、なんであんなん持ってんだよっ!!!」
 「今年は戌年だからな。」
 「意味わかんねぇよっ!」
 「アイツ、にこにこしながらつけてたぞ・・・??」
 その言葉に、更に冬弥が脱力しようとした時、もながふいとこちらを向いた。
 「冬弥ちゃん、どこ行ってたの・・・?」
 「ちょっとな・・・つーか暁、なんかぐったりしてるけど・・・?」
 もなの膝の上でコテンと横になっている暁の顔を覗き込む。
 どうやら眠くなってしまったようだ。
 トロンとした瞳を見て、もながクスリと小さく声をあげる。
 「アキ、寝るんならあたしの部屋に行こう?歩ける?」
 もなが暁の頭を優しく撫ぜ、コクリと頷くと暁は起き上がった。
 暁が先に立って歩き、もながその後ろからチョコチョコとついて行く―――。
 冬弥と魅琴がその背を見詰め、ついて行こうかどうしようか悩んだ挙句、とりあえず2人にさせてみるかと言う話でまとまった。
 「もなだし、変な事にはなんねーだろー。」
 「もなだしって、誰と比較してだよ。」
 魅琴がそう言って―――あっ、と声を上げた。
 「ヤベ・・・首輪つけんのわす・・・」
 「比較の対象なんて、お前以外にいるかボケ!つーか、発想が一々ズレてんだよ発想が!」


 「アキちゃん、あたしのベッド使って寝て良いからね?」
 「・・・一緒にいてくれないの?」
 「え・・?」
 突然の言葉に、もなは思わず足を止めた。階段の途中、変な体制でフリーズする。
 「アキちゃん?」
 「じゃぁ、なんかやるから、上手く出来たら一緒にいてくれる?」
 アキちゃんはあたしに甘えてるんだ・・・。
 もなはそう思うと、満面の笑みで頷いた。上手く出来たら、一緒にお昼寝しよっかと小さく告げて。
 暁が階段の上に立ち、危ないからと言われ、もなが少し離れた位置で事の成り行きを見守る。
 何が起きるのか解らないけれども―――暁が階段に対して背中を向け、1呼吸置いた後にぴょんと後ろに飛んだ。
 そのまま階段の下に落ちて行き・・・
 「アキちゃ・・・」
 クルリと1回転をするとスタっと華麗に着地をした。
 「十点満点!」
 「・・・もー・・・!心臓止まるかと思った・・・。」
 もなはそう言うと、暁に向かって手を差し伸べた。
 「それじゃ、約束。一緒にお昼寝しよっか。」
 そう言って、2人はもなの部屋に入ると、そっと真っ白なカーテンを引いた。
 目に刺さるくらいに明るかった室内が、薄暗く光を落とす。
 カーテンと同じ、真っ白なベッドに寝転がると暁は仰向けになった。
 もなが笑いながらその上に上半身を乗っけ、キューっと胸に抱く。
 通常、猫がお腹を見せるのはお世話をしてくれる人を信頼している証だ。
 つまりは、暁ももなを信頼しており―――とは言え、この状況だ。
 信頼の証と言うよりは、警戒心0、ダメ猫一等賞と言うか・・・。
 「ねぇ、アキちゃん。あたしはずーっとアキちゃんの傍にいるよ。だからね、アキちゃんもずっとあたしの傍にいてね?」
 横になり、トロトロと甘い睡魔が下りて来る。
 まどろむ意識の中で聞こえたその言葉に、暁はココロからの微笑を見せ・・・

  ―――意識は、闇に飲まれた・・・



   ・・・パチン



 眠っていた意識の中で、急に何かが弾けた。
 今まで暁の胸を締め付けていたものが、一気に弾け飛ぶ。
 「・・・・え・・・・?」
 そう呟いて目を開け―――薄暗い部屋の中、目の前にいる人・・・。
 丁度その人物は暁の右腕を腕枕にするような形で、ぐっすりと眠り込んでいた。
 未だにボンヤリする頭で、この状況を理解しようとなんとか脳みそを回転させる。
 よくよく見てみると、暁は少女を抱っこするような形で眠っていたようだった。
 左腕は少女の背に回され・・・・え・・・?ちょっと待てよ・・・え・・・?ダレ・・・?
 少女を起さないように、すっと体を起し―――その際、かかっていた毛布がハラリとずれた。
 こちら側を向いていた顔を覗き込む。それはもなだった。
 ソノ瞬間、今までの事がバーっと頭の中に流れ込んできた。
 今日1日の事が、カタカタとまるで映画のように暁の頭の中で回る。
 「うわ〜っ・・・俺、もなちゃんのペットになっちゃってたんだ・・・。」
 もなを起してしまわないようにそっとそう呟くと、暁は右手を抜いた。
 華奢なもなの体を抱き上げ、枕にしっかりと頭を乗せ、毛布をかけてから部屋を出る。

  パタン

 「おう、起きたか。」
 「冬弥ちゃん・・・?」
 部屋を出た瞬間声をかけられ、暁は顔を上げた。
 廊下に寄りかかっていた冬弥と目が合い―――
 「クスリの効果が切れたのか?」
 「うん。そーみたい。俺、もなちゃんのペットになっちゃってたね!結構面白かった〜。」
 「・・・どんだけポジティブなんだよ。」
 「え、い〜じゃんvもなちゃんのペットならまたなってもいいなぁ☆」
 「そんなに楽しかったか?もなのペットは?」
 「んー、もなちゃん優しかったから。」
 「そーか・・・つか、早くソレ取れよ。犬耳。」
 「犬耳?」
 あぁ、と暁は自分の頭に手を当てた。ふわふわの三角のものが2つ、チョコンと頭の上に乗って・・・。
 「やぁん、冬弥ちゃんってば、もしかしてこーゆーの、す・き?」
 「馬鹿か?」
 「えー!だぁって!可愛いっしょ〜?」
 ねーねー!と腕を引っ張る暁の頭をペシリと1つ叩くと、冬弥は階段を下りて行った。
 暁が1つだけクスリと声を上げて笑い、その背に飛びついた―――。


○後日○


 「あたし、絶対暁ちゃんに嫌われちゃったよ〜!」
 「だぁらぁ、何度も言ってんだろ〜!?アイツは楽しんでたんだよ!お前のペットならまたやっても良いってさ。」
 「冬弥ちゃんは社交辞令ってものを知らないから・・・!」
 「社交辞令であんな事言うか馬鹿!」
 「それか、冬弥ちゃんの事、暁ちゃんは好きだから・・・」
 「何の関係があんだ、なんの!」
 「冬弥ちゃんの前では優しい良い子で居たい・・・みたいな・・・?」
 「おいおいおい、あいつが何時俺の前で優しい良い子だったか?」
 「とにかく・・・どーしよー・・・!!」
 泣きそうになるもなに、盛大な溜息をつくと、冬弥は思わず天井を仰いだ・・・。



  「あー!もー!!グジグジすんなっ!!!」





 【今の2人の関係は・・・】



 【 ――― 兄妹であり、姉弟のような関係・・・カナ? ――― 】 




       〈END〉


 
 ◇★◇★◇★  登場人物  ★◇★◇★◇

 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


  4782/桐生 暁/男性/17歳/学生アルバイト・トランスメンバー・劇団員


  NPC/片桐 もな/女性/16歳/現実世界の案内人兼ガンナー

 
 ◆☆◆☆◆☆  ライター通信  ☆◆☆◆☆◆

 この度は『ココロを変えるクスリ』にご参加いただきましてまことに有難う御座いました。
 そして、いつもいつもお世話になっております。(ペコリ)
 
 さて、如何でしたでしょうか?
 今回は色々と“甘め”のシーンが詰まっていたように思います・・・恋人同士のようですね(苦笑)
 ほのぼのとした、それでいて甘い、まったりとした雰囲気を上手く描けていればと思います。
 それにしても、もなのペット・・・絶対彼女は一人で世話が出来なさそうですよね・・・。
 自分の世話すらも夢幻館の住民によって支えられていますし(笑)


  それでは、またどこかでお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。