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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


魅惑の病人看病 【 無邪気な悲劇 】


◇■◇■◇


 「武彦ちゃん、おっはよぉ〜!!」
 興信所の扉が盛大な音を立てて開き、外から一人の少女が颯爽と中に入って来た。
 草間 武彦は、その少女を見るなり思わず頭を抱え込んだ。
 「〜〜〜〜片桐・・・今日は何だ・・・??」
 例の如く少女の体をまじまじと見詰める。
 この、一見すると人畜無害な外見年齢小学生程度の少女―――片桐 もなは、いたって人畜有害であり、銃刀法を無視しまくったその出で立ちは、もはや居るだけで迷惑の域に達している。
 どうやら、今日は何も装備していないようだ。
 以前興信所に、何処と戦争を始めるんだ?!と言う重装備で来たのを、武彦がキツク言っておいたからかも知れない。
 ・・・・恐らく、もなに限ってそんな事はないと思うが・・・・。
 「あのね、冬弥ちゃんが、風邪ひいちゃったの。凄い熱でね、39度くらいあるの〜!」
 「は・・・?梶原が・・・?大丈夫なのか?」
 武彦は頭の中に浮かんだ顔をマジマジと見詰めた。
 かなりの美形で、もなの保護者で、結構な常識人―――武彦との面識はあまりない。
 もなの付き添いでココに来たのを数度見かけたくらいだ。
 意味不明、暴走しまくりのもなに、切れ味鋭い突っ込みを入れていたのが最も印象的だったが・・・・・。
 「それでね、今日はみんなお出かけだから、あたしが冬弥ちゃんの面倒を見なくちゃならなくって・・・」
 「ちょっと待て。梶原の面倒を見なくちゃならない片桐が、どうしてここにいる?」
 何だかとっても嫌な予感がする・・・・・・。
 そもそも、もなに病人の看病など出来るのだろうか?
 「とりあえずね、パジャマを着替えさせて、ご飯を食べさせて、薬を飲ませて、額に濡れタオルかなんか置いて、安静に寝かしつけて・・・おいてくださいねって。」
 「おい!それは、片桐がココに来る前にやって来た事じゃなく“やれ”って言われた事じゃないか!?」
 「そうだけど?」
 キョトリとした顔で小首を傾げるもな。
 ―――酷く疲れるのは言うまでもない。
 「パジャマはあたし一人じゃ無理だし、ご飯は食材ないし、薬もないし、出来る事と言ったら濡れタオルと寝かせる事くらいかな?って思って・・・」
 ・・・その言葉の先が聞きたくないのは何故だろうか?
 「タオルが見つからなかったから、氷をビニール袋に入れて・・・そしたら、こぼしちゃって〜。」
 「・・・何処で?」
 「冬弥ちゃんの上☆」
 サァァっと、音を立てて武彦の顔色が悪くなる。
 「ば・・・馬鹿っ!!!」
 「だからね、着替えさせてあげないと駄目なの〜。だから武彦ちゃんを呼びに来たんだぁ。」
 ・・・行かなければ、最悪の場合―――
 そして蘇る、去年の2月の記憶。
 バレンタインだよ〜と言いながら持って来られた、摩訶不思議な茶色い物体。
 もしもあれを病気の時に食べろと言われたならば・・・・!!!!!
 「解った・・・協力しよう。まず、梶原の安否確認が先だな。それから、買い物に行くか。」
 「わぁい!安否確認、安否確認っ!」
 ・・・そんなに軽く言う事ではない。
 「誰か見つけたら拾って行くか。」
 武彦一人では、冬弥の世話どころか、もなの世話すらも出来るかどうか・・・・・。


◆□◆□◆


 のどか・・・デスね・・・。
 シオン レ ハイは、のほほんと道行く人々を観察しながら黙々と絵を描いていた。
 道の端にダンボールを置き、その中に正座をして―――人々があからさまにシオンの近くを避けて通るために、微妙なスペースがシオンの周囲に構築されていた。
 それでも、シオンは一向に気にする気配はなく、黙々と絵を描き続けていた。
 「でもさぁ、そんなに急がなくてもだぁいじょうぶだぁって〜!」
 「いいや、急いだ方が良い!もしもの事があってからじゃ遅いんだぞ!?」
 「大丈夫☆冬弥ちゃんはサイボーグだから!」
 「梶原は普通の人間だ!」
 バビュンとシオンの前を誰かが通り過ぎ、しばらくしてから戻って来た。
 「あ、シオンちゃんだぁ〜♪」
 その声に顔を上げると、そこにはもなの顔があった。
 以前一緒に旅行をした事のある・・・とても可愛らしい少女。
 「あ、お久しぶりです〜。」
 ふわりと微笑み、相変わらす可愛らしいですね〜とのほほんと言葉を紡ぐ。
 「おい、片桐!なにして・・・って、丁度良かった。」
 もなから数歩遅れてこちらに戻って来た武彦が、シオンを見るなり手を引っ張った。
 「な・・・なんでしょう・・・?」
 「ちょっとな、病人がいるんだ。」
 「梶原 冬弥(かじわら・とうや)ちゃんって言ってね、今大変な事態になっちゃってるの〜!」
 もながケロリと言い、武彦が額に手を当てながら「ほとんどは片桐のせいだろう?」と呟く。
 「ご病気ですか!?」
 「そーそー!なんかね、風邪をひいちゃったみたいで〜、運命の悪戯なのかは解んないけど、水が空から降ってきてね?濡れちゃってて、ちょっぴり危険な状況なの。」
 空から水が降ってきた・・・今日は雨は降っていただろうか?
 真剣に悩むシオンの耳に、武彦の長い溜息は聞こえてこなかった。
 それにしても、冬弥さん・・・お会いした事はありませんが、心配です。
 シオンは快く了承すると、ダンボールを畳んで小脇に抱えると夢幻館へと急いだ。
 その道中で、知り合いに会えば声をかけて同行を頼む。
 そして着いた先の夢幻館にも、数名の人が心配そうな顔で待機していた。
 武彦ともなを抜かして、総勢8名の人が集まった・・・。
 どうやら冬弥さんと言う人は、かなり人徳があるらしいですね。
 そうでなければ、風邪をひいたと言うくらいでこんなに人が集まるはずはない。
 シオンは集まった面々を1人1人順々に見詰めた。
 右から順に、シュライン エマ、菊坂 静(きっさか・しずか)に浅葱 漣(あさぎ・れん)、綾和泉 汐耶(あやいずみ・せきや)に火宮 翔子(ひのみや・しょうこ)、そして桐生 暁(きりゅう・あき)に神崎 美桜(かんざき・みお)だ。
 シュラインが心配そうに武彦と何か会話を交わし、美桜が不安そうに胸の前で手を組む。
 「こっちが冬弥ちゃんの部屋だよ!」
 そう言って、もなが先頭を歩き、それに従う。
 館の外観もかなり大きかったが、中も相当広いらしい。
 長い廊下の両脇には同じ扉がズラーっと並んでおり、少し異様な光景だった。
 シュラインと汐耶、そして美桜が興味深そうに並んでいる扉を見詰める。
 どうやらこの3人もシオン同様、館の中に始めて入ったらしい。
 他の、静、漣、翔子、暁はさして気に留める風でもなく、ただもなの背中を見詰めて歩いている。
 それにしても・・・これだけ沢山の扉があって、もなさんは迷わないのでしょうか。
 不安になって見詰める先、1歩1歩確実に進んで行くもなの小さな背中は酷く逞しく見えた。


□◆□◆□


 ここが冬弥ちゃんの部屋だよ〜と言って、扉を開けようとするもなを、武彦が制した。
 そして、酷く真剣な面持ちで
 「今から何を見ても驚くなよ?それと“もしも”の場合はすぐに救急車を呼ぶように・・・」
 と言ってからそっと扉を開けた。
 そんなに酷い状況なのだろうか?
 小首を傾げるシオンの目の前に、床にベシャリと力なく倒れこむ男性の姿が映った・・・!!
 「か・・・梶原っ!!」
 武彦が真っ先に駆け寄り、冬弥の体を起す。
 顔色は赤いと言うか青いと言うか・・・混じり合って紫のような色になっている。
 ぐったりと力なく目を開け「草間か」と呟いたきり、深い溜息を吐き出す。
 よく見るとパジャマはぐっしょりと濡れており、カタカタと小刻みに震えているが、顔は赤く熱っている。
 典型的な風邪の症状が、酷く悪化したようだ。
 とりあえず、内職で作っておいたお花をベッドの脇にあるサイドテーブルに乗せる。
 「なんで・・・全員集合してんだよ・・・。」
 「あたしが呼んだからだよ!」
 「そ・・・か・・・。」
 冬弥が薄く微笑む。
 けれどそれはかなり辛そうな微笑で―――ちょっぴりシオンの胸を痛くした。
 「まずはパジャマを着替えさせないとね。」
 シュラインの言葉に、翔子が頷く。
 暁が「俺、あるとこ知ってるよ〜。」と言って、シュラインとともに部屋の外へと出て行ってしまった。
 「梶原をベッドに寝かせるか。」
 武彦の言葉に顔を上げると、シオンも冬弥をベッドに寝かせるのを手伝った。
 中々身長の高い冬弥だったが、シルエットは細く、体重も軽かった。
 細身の筋肉質と言うのだろうか?良い体格をしており、加えてこの顔の良さ・・・相当モテるのだろうと、シオンは思った。
 とは言え、彼女よりももなさんのお世話で大変そうな感じですが・・・。
 なんとなくここの縮図が見えてきたような気がして、シオンは思わず苦笑した。
 パジャマの背中の部分は汗でぐっしょりと濡れ、乾いて来ているらしく冷たかった。
 そして、胸元の部分もなぜか酷く濡れ・・・。
 「ここで水を零したんだな?」
 と武彦が頭を抱えながらもなに言った。
 「水を零したんですか!?」
 汐耶が信じられないと言ったように声を上げ、しばらくもなのポエっとした顔を見詰めた後で長い溜息をついた。
 この子には何を言っても通じないと言う事が解ったのだろうか・・・?
 「もなちゃん・・・。」
 翔子がなんとも言えない表情で溜息をつき、どうしたらそんな状況になってしまうのかと、頭を抱える。
 「・・・ごめんなさい。」
 しゅーんとしながら謝るもなの頭を、一番近くにいた静が優しく撫ぜる。
 この、もなと言う少女は不思議だった。
 どんなに酷い失敗をしようと、どんなに酷い悪戯をしようと、謝られてしまえばそれ以上はもうなにも言えなくなってしまう。
 今だって、こんなに落ち込んでいる表情をされては、なんだかこっちが悪いような気さえしてくる。
 恐らくコレがもなの特技の一つなのだろうと、シオンは思った。
 「ま、誰にでも失敗はあるからな。」
 漣がそう言って、まとめにかかった。
 「そうです、誰にでも失敗はあります。」
 片桐さんだけじゃありませんと言って、美桜がもなの手を取る。
 ―――凄く良い雰囲気の中で、武彦だけが苦笑いをしながらその光景を見詰めていた。
 皆もなの味方に回ってしまったようだが、今一番味方が欲しいのは冬弥だろう。
 風邪をひいているにも拘らず、水をかけられた挙句、しばらくの間放置されていたのだから・・・・・。
 そらからすぐに、シュラインと暁が両手いっぱいにタオルを抱えて戻って来た。
 タオルの山の一番下からパジャマを取り出し、着替えさせないととシュラインが呟く。
 そう言えば、冬弥は水に濡れていた・・・きっと、寒いのだろう。
 小刻みに震えているし―――シオンはそう思うと、積み重なったタオルの山から数枚タオルを取った。
 そして、もなにキッチンの位置を教えてもらい、階下へと走った。
 階段を下り、巨大な玄関を抜け、広いホールの先、かなり大きなシステムキッチンがあった。
 キラキラと素敵なキッチンに、思わずシオンが憧れの溜息をつく。
 なんだかセレブになった気分だ。
 キュラキュラと輝く妄想がモヤモヤと近づいてきて・・・シオンは、はっ!と気がつくとその妄想をかき消した。
 今はそんな“セレブシオン”を考えている場合ではなかったのだ・・・。
 急いで鍋を探し、そこに水を張るとタオルをポンと入れた。
 そして、火にかけてぐつぐつと煮る。
 煮立ってから半分ほど水を捨て、シオンは鍋を持ったまま冬弥の部屋へと引き返した。
 恐らく、このタオルで体を拭けば温かくなるだろう。
 パジャマを着替えさせたくらいでは、まだ寒いままのはずだから・・・・・。
 扉を開け、中に入ると丁度冬弥が着替えさせられているところだった。
 武彦ともなに支えられて、シュラインがパジャマのボタンを外していっている。
 その隣では静が新しいパジャマのボタンを外し、シュラインに渡す準備をしている。
 丁度のタイミングだったようだ・・・シオンは鍋をサイドテーブルに置くと、水面から出ているタオルの端っこを指でちょっとつまんだ。
 ・・・・・熱い・・・・!!
 それもそのはずだ。先ほどまでこの鍋は火にかけられていたのだから、冷たいはずがない。
 けれど、まさかシオンもここまで熱いとは思わなかった・・・。
 どうしましょう・・・・どうしましょう・・・!
 オロオロとするシオンの脇から、もながトテテとサイドテーブルに駆け寄り、素早い動きでタオルを持ち上げるとパタパタと冷ましてからギュっと絞った。
 「あ・・・熱くないのですか?」
 「ん・・・熱い・・・けど、気合と根性でそこはカバーカバー☆」
 ニヘランと微笑んだもなが、何故だかとてもカッコ良く見えて・・・ちょっと胸がキュンとトキメク。
 もながシオンにタオルを渡し、武彦が冬弥の体を支える。
 タオルを綺麗に四角く折りたたんで、シオンは冬弥の体を優しく撫ぜるように拭いた。
 「熱くないですか?」
 「大丈夫。」
 低く掠れた声でそう呟くと、冬弥がシオンの瞳を真っ直ぐに見た。
 勿論、冬弥の瞳はどこか頼りなさ気に左右に揺れていたのだけれども・・・・。
 「有難う。」
 ふっと儚く微笑み、冬弥はそう言った。
 その笑顔は小動物のようで・・・シオンの心をほんの少しくすぐった。
 「お粥とか食べられそうですか?」
 「・・・あー・・あぁ。」
 頷いた冬弥を見て、ソレならばとシオンは立ち上がった。
 その場にいる面々に、お粥を作ってくるからその間、冬弥の事を見ていてくださいと言い、あたしも一緒に行く〜!と言ったもなに穏やかな微笑を向ける。
 それでは一緒にお粥を作りましょうかと言う事になった時、不意に武彦がシオンの肩を掴んだ。
 低い声で「片桐に料理はさせるな」と呟き・・・。
 「どうしてですか?」
 「片桐は料理が出来ない・・・と言うかなんと言うか・・・とにかく、病人に食べさせられるようなものは作れないんだ。」
 なんだか、解ったような解らないような・・・。
 確かに言われてみれば、どちらかと言えばもなは家庭的ではなさそうだった。
 家でお料理のお勉強をしたり、母親とおやつを作ったりするよりは、外で元気良く走り回って遊んでいるイメージの方が合っている気がする。
 「解りました。」
 それでは、料理は私が作りますと言って、部屋を後にした。
 もなが先に立って歩き、先ほどシオンが訪れたキッチンへと入ると必要そうなものをガチャガチャと引っ張り出す。
 それを見ながらシオンは道端で摘んで来た食べられる草を丁寧に洗った。
 「もなさん、人参はありますか?」
 「んー・・・あると思う・・んっと、はい。」
 冷蔵庫を漁っていたもなが、人参を1本取り出してシオンに差し出す。
 それを丁寧に洗い、皮をむくとトントンと手馴れた様子で輪切りにした。
 何が出来るのだろうかと、興味津々の顔で見詰めるもなに、小さく微笑みかけると、見ててくださいと言ってある形に切り始めた。
 丸い輪郭に、伸びた2本の耳―――それはウサギだった。
 「あー!うさちゃんだぁ〜☆」
 もなが嬉しそうに言って、人参を1つ取り上げるとニコニコと微笑んだ。
 「もなさんはウサギさんが好きなんですか?」
 「うん!大好き♪」
 無邪気にそう言って、クルリと回る。
 膝上のスカートがふわりと広がり、ツインテールがブンと重たいスイング音を響かせる。
 「目からビームが出るんだよね☆」
 ・・・それはきっとウサギではない。
 「そうですか、もなさんのお友達のウサギさんは目からビームが出るのですか〜。」
 シオンはもなの言葉に、のほほんとそう返した。
 もしもこの場に誰かツッコミ役がいれば話は違ったのかも知れないが・・・生憎この場にはもなとシオンしかいなかった。
 よって、2人の奇妙な会話は暗黙の了解の下に終了したのであって・・・・・・。
 シオンの中に“目からビームの出るウサギ”と言うちょっぴり不思議な知識が1つ、構築された。
 お粥作りは手早く終わり、シオンは味見をもなに頼んだ。
 スプーンを1つ出して来て、お粥の中に入れ―――
 「熱いので気をつけてくださいね!?」
 「うん!分かってるよぉ〜♪」
 シオンの注意に、もながニッコリと笑顔を見せた後で、頬を膨らませてふーふーとお粥に息を吹きかける。
 なんだか小さい子供を見ているようで、思わずポヤヤンと和む。
 小さな口を開け、スプーンを入れ、ハフハフと食べ・・・
 「あ、美味し〜!」
 「本当ですか!?」
 「うん!あたし、結構コレ好きぃ☆」
 ゴックンと飲み込んだ後で、もなが無邪気な笑顔を覗かせた。
 どうやら味付けの方は上手く行ったらしい。もなのお墨付きもあって、シオンはそそくさと用意をすると冬弥の元に戻り、俺が食べさせてあげる〜☆と言っていた暁に全てを委ねた。
 恐らく暁に任せておけば安心だろう。
 と言うか、暁に任せて更にシュライン達にその場を見守っていてもらえればなにも心配は要らない。
 もながタシタシと冬弥の布団を叩き、翔子にダメでしょう!?と怒られる。
 パタパタと走って静に飛びつき、汐耶に、病人の傍では静かにしないといけませんよと注意される。
 今度は漣の腕を取りながら美桜に声をかけ―――
 とても病人のいる部屋とは思えないほどに、もなはこの空間をエンジョイしていた。
 恐らく、冬弥の事なんてすっかり忘れているのだろう・・・。
 シュラインが困ったように苦笑して、武彦も小さな溜息をつく。
 少々元気過ぎるもなを何とか出来ないかと考え―――
 「シュラインさん、ちょっともなさんと遊びに行って良いですか?」
 「え?もなちゃんと?」
 「ハイ。」
 「そうね。そうしてもらえると助かるんだけど・・・」
 大変じゃない?とシュラインが小首を傾げる。それに対して、元気の良い子は好きですのでとシオンが答えた。
 「それじゃぁ、お願いできるかしら・・・」
 「任せてください!」
 シオンは力強くそう言うと、冬弥の看病を任せ、もなと共に部屋を後にした・・・・・。


■◇■◇■


 「何して遊ぶの〜??」
 シオンに部屋から連れ出されたもなは、ワクワクとした顔でシオンの周りをぐるぐると回っていた。
 なんだか蹴っ飛ばしてしまいそうで危なっかしい・・・。
 どこか空いている部屋はありませんか?とシオンが訊くと、もなが立ち止まり、すぐ目の前にある扉を開けた。
 「あのねぇ〜、ここら辺にある部屋のなかで、違う世界に繋がってない扉の中は全部使ってない部屋なの〜!」
 ・・・違う世界に繋がってない扉は全て使われていない部屋・・・違う世界・・・?
 「違う世界に繋がってる扉があるんですか!?」
 「ふぇ?んー、いっぱいあるよぉ?んっとね、遊園地とか、映画館とか、アメリカとか、未来とか、過去とか、犬小屋とか。」
 「犬小屋にまでですか!?」
 シオンが犬小屋に過剰反応を示す。未来や過去と言った、ある意味凄い空間は完全無視の方向だ・・・!
 「そー!凄いっしょぉ??」
 もなが部屋に入り、シオンもそれに続く。
 中は白を基調とした質素な部屋だった。窓に揺れるカーテンも、ベッドも、壁紙も、窓の下に置かれた丸いテーブルと椅子ですらも全て白で統一されており、部屋の片隅に置かれた小さなデスクだけが薄い茶色だった。
 「綺麗な白ですね〜?」
 「んー・・・そっかなぁ?結構、お掃除が大変なんだって奏都ちゃんが嘆いてたよ〜?」
 確かにそれはそうかも知れない。
 純白の壁には一切の曇りはなく、透き通るような白だった・・・。
 「それで、何して遊ぶのぉ??」
 もなの瞳がランランと輝く。期待に染まった瞳を見つめながら、シオンはしばし考えた。
 ―――さて、何をして遊びましょうか・・・。
 もなをあそこの空間から連れ出す事しか考えていなかったために、そう言われると言葉に詰まってしまう。
 「そうですねぇ・・・マジック・・・は、どうです?」
 「マジック!?人体切断するヤツ!?」
 ・・・そんな大掛かりなものを望まないで欲しい・・・。
 「いえ、もっと小さな・・・」
 「水中に沈められた箱の中から脱出するヤツ!?それとも、炎の海から脱出するヤツ!?」
 「もっと簡単に出来るもので・・・オネガイシマス・・・すみません・・・。」
 何故か謝ってしまうシオン。
 もーしょうがないなぁともなが溜息混じりに言い、それなら何があるのかと逆に訊かれる。
 「そうですね・・・スプーン曲げなどは如何でしょう!?」
 「すぷーん??」
 「ハイ!」
 ササっとシオンが背後から銀色に輝くスプーンを出すと、なにやら念じ始めた。
 ぶつぶつと何かを呟き、スプーンのくびれた部分を指の腹で擦る。
 「シオンちゃん、本当にそれで曲がるのぉ??」
 「ハイ!頑張れば出来ない事はありませんっ!」

  ―――10分経過

 「ねー・・・それってさぁ、マジックなのぉ?」
 「くにゃんと・・・くにゃんと曲がるはずなんです!もうしばらくお待ちを・・・!」

  ―――更に20分経過・・・

 もなは既に飽きてしまっているのか、眠そうに目を擦ったり、ぼんやりと窓の外を眺めたりしている。
 それでも必死になってスプーンに念を送るシオン。
 そう、あの、スプーンがくにゃんと曲がる所をもなに見せてあげたかったのだ。
 きっと、もなは満面の笑みでシオンに飛びついて言うだろう。「シオンちゃん、凄い!あたしこんなの初めて見たよぉ〜☆」と。
 「シオンちゃん・・・あたし、飽きたぁ。」
 もっと違う遊びしよ〜?と言うもなに、もう少し待ってくださいと言う。
 「それさっきも聞いたよぉ〜!!そんなにスプーン曲げが見たいんなら、見せてあげるよっ!」
 そう言ってもながシオンの手からスプーンを取り―――
 ・・・もなにスプーン曲げが出来るのだろうか!?
 期待に胸を膨らませるシオンの目の前で、もなは無事、スプーンを曲げた。
 ぐにゃんと、己の手の力のみで・・・・・・。
 そう、もなはとっても力が強いのだ。
 この華奢な身体からは到底想像できないけれども・・・・・・。
 「ふー☆完成♪これで良い?」
 「ハイ・・・」
 「んじゃぁさ、ちょっと冬弥ちゃんの様子見に行こう〜?もしかしたら治ってるかもだし☆」
 あれだけ具合が悪かったのに、こんな30分程度で治るはずがないのだが―――。


◇■◇■◇


 ぐっすりと眠る冬弥に付き添うようにして、美桜と暁がベッドの両脇に座っている。
 まるでハーレムだね☆と言いながらもなが無邪気な微笑を浮かべ、壁際でゆっくりとその光景を見詰めている静や漣に絡む。
 下で昼食の用意をしてくれていると言うシュラインと汐耶と翔子はこの場には居なかった。
 「ねーねー、なんかして遊ぼ〜??」
 「もなさん・・・冬弥さんはご病人ですから・・・。」
 シオンの腕を取りながら、ねーねー!と揺さぶるもなに、苦笑を向ける。
 「だから、バタバタしないやつ〜!」
 「例えば・・・?」
 「んっとね、ダーツ!」
 ・・・バタバタしないと言えばしないかもしれないが・・・かと言って、ダーツセットもないし・・・。
 その場に居る全員が、もなの一挙一動に大注目だった。
 そもそも、考えてみればこの面々の中にもなを真正面から注意できるものは居ない。
 つまりは、もなのやりたい放題し放題なのだ!
 「的は後で考えるとしてぇ、んー・・・あ、コレ投げるぅ??」
 そう言って手に持ったのはシオンがお見舞いのためにと持ってきた内職で作った花だ。
 茎の先を尖らせて、すっと構えると―――もながニッコリ微笑んだ。
 美桜とシオン以外の、静、漣、暁がサァっと顔色を変える・・・もなと親しい分、ソノ笑顔が何を意味するのかは十分承知だった。
 「レッツ、雪がっせ〜ん!」
 「ちょっ・・・!もなちゃん、ソレ雪じゃないからっ!!」
 暁が立ち上がり―――
 「ノープロブレム!大丈夫!痛くないって!だって、花だよぉ〜?」
 「でも、先が尖ってますし・・・」
 ようやく事態の大きさに気づいた美桜が何とかもなを説得しようとするが・・・
 「そぉれっ!鬼は外ぉ〜☆」
 「ソレは違うっ!」
 もなの放った花が、一直線にシオン目掛けて飛んで行き―――
 「・・・わぁぁあ!!」
 咄嗟にしゃがみ込んだ。
 花がシオンの頭上を通り過ぎ、弧を描くようにして

  ザクリ

 冬弥の枕元に刺さった。
 「・・・ど・・・どぅわぁぁぁぁぁぁっ!!!げ・・・ゲホっ・・・!ごほっ!!ゴホッ!!」
 急に起き上がり、叫んだため、冬弥が激しくむせる。
 「だ・・・大丈夫か?」
 漣が冬弥の背を撫ぜ、静が咄嗟に花を枕元から抜く。
 「も・・・もぉぉぉぉぉぉぉ〜〜〜〜なぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜!!!」
 怒りを含んだ声が響き、もなが慌てて冬弥の方に走って行く。
 「ごめんねぇ〜?ちょっとシオンちゃんと遊んで・・・てぇっ・・・!?」
 「あ・・・危ないっ!」
 そう叫んだのが誰だったかは分からないが、その場に居た全員がそう思った事は間違いなかった。
 カツンと何かが足に引っかかり、グラリと上半身が前のめりになる。
 そして・・・サイドテーブルに手を着き、もなの重みに耐えかねてテーブルが揺れる。

  ガシャン・・・ザッパーン

 音にすればそれだけの事だった。しかし、現状にしてみればそんな効果音だけでは到底表し得ない惨状になっていた。
 サイドテーブルの上に置いてあった鍋が傾き、冬弥の上に落ちたのだ。
 熱湯はいつの間にか冷め、ぬるいお湯へと変わっていた―――
 「みんな、お昼ご飯を用意したから、下に・・・って・・・え・・・!?」
 ガチャリと扉が開き、翔子が顔を覗かせ、その光景を見て固まる。
 「え・・・なに・・・?」
 「えっとですね、花が飛んできて・・・ダーツが・・・そしてもなさんが転んでしまい・・・。」
 しどろもどろになるシオンの説明で分かったのか、それとも今までの経験上、片桐 もなと言う人物はこう言う子なのだと言う事を知っていたからかはわからないが、翔子は1つだけ大きな溜息をつくと、叫んだ。
 「病人の傍では大人しくしてなさぁぁぁぁいっ!!!!!」


―−―− 後日 −―−―


 酷く悪化したため、奏都ちゃんに連れられて近くの病院に強制連行&緊急入院しました☆


 と、もなからの言伝が草間興信所に送られてきたそうだ・・・・・。
 シオンは冬弥の身を案じながら、今日も道行く人々を観察しては絵を描き続けている。



          ≪ END ≫


 
 ◇★◇★◇★  登場人物  ★◇★◇★◇

 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


  3356/シオン レ ハイ/男性/42歳/びんぼーにん+高校生?+α


  0086/シュライン エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

  5566/菊坂 静/男性/15歳/高校生、「気狂い屋」

  5658/浅葱 漣/男性/17歳/高校生/守護術師

  1449/綾和泉 汐耶/女性/23歳/私立図書館司書

  3974/火宮 翔子/女性/23歳/ハンター

  4782/桐生 暁/男性/17歳/学生アルバイト・トランスメンバー・劇団員

  0413/神崎 美桜/女性/17歳/高校生


  NPC/片桐 もな/女性/16歳/現実世界の案内人兼ガンナー
  NPC/梶原 冬弥/男性/19歳/夢の世界の案内人兼ボティーガード

 
 ◆☆◆☆◆☆  ライター通信  ☆◆☆◆☆◆

 この度は『魅惑の病人看病』にご参加いただきましてまことに有難う御座いました。
 今回は個別作成になっておりますが・・・・・・。
 説明ベタなのに、難しい納品形態をしてしまい、どう言ったら良いものかと困っております・・・。
 お話自体はプレイングにそって完全に個別で描かせていただきました。
 つまり、8通りの『魅惑の病人看病』のお話があります。
 もしお時間がありましたら他の方のノベルもお読みくださればと思います。

 副題に“感謝の”とついていた場合はスタンダードな終わり方です。
 “無邪気な”とついていた場合は、もな終わりになっております。
 “約束の”とついていた場合は、冬弥終わりになっております。


 シオン レ ハイ様

 いつもご参加いただきましてまことに有難う御座います。
 さて、如何でしたでしょうか?
 今回はもな終わりと言う事で、主に冬弥が悲惨な状況に陥っておりますが・・・。
 もなとシオン様のほのぼのとした雰囲気を描けていればと思います。


  それでは、またどこかでお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。