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<東京怪談・PCゲームノベル>


CallingU 「小噺・除夜」



 もうすぐ来年になる。
 梧北斗は愛犬を連れて神社へと向かっていた。
「うおっ、頼むからまっすぐ歩いてくれよ〜」
 愛犬にそう言いつつ北斗はふと思う。
 そういえば……この一年を振り返るとけっこうとんでもない年だったような気がした。
(そっか……そういえば、今年は欠月と出会った年なんだな)
 それがもうあと少しで『去年の出来事』になってしまう。
(いま思えば、凄まじい出会いだったかも)
 仕事先で会ったのだ。そういえば。
 でもそれもいい思い出と言える。
(ま、そう思うのはやっぱり欠月とちょっとは仲良くなれたからかな)
 俺って単純。
 笑って、神社の階段をのぼる。
「来年もいい年だといいな……。なあ?」
 愛犬に語りかけるものの、その愛犬はというときょろきょろと落ち着かない様子だ。
「お、おまえ……もうすぐ新年だというのにその落ち着きのなさはなんなんだ?」
 わんわんっ、と吠えていきなり駆け出す。ぎょわ、と北斗が引っ張られてうめいた。
 愛犬は構わず駆けって階段をのぼると、一直線に目指して走る。
 目指した先には適当な石に腰掛けていた人物が居た。
 飛びかかる勢いの犬に気づき、彼はすっと立ち上がってすいっと避ける。犬はそのまま突っ込んで地面にずざざっと滑った。
「なんなのいきなり……。ボク、犬に好かれるようなことしてないし、なにも食べてないんだけど」
 エサなんて持ってないよ、と不審そうにしている彼の元に、慌てて追いついた北斗が「すいませ〜ん」と言って頭をさげる。
「いきなり走り出しちゃって……あの、ケガは…………って、欠月ーっ!?」
「ん?」
 ビックリした北斗は愛犬を一瞥する。
 そうか。落ち着かなかったり、興奮して駆け出した理由は……。
(欠月か? でもなんで?)
 人間としては美形の部類に入るだろうが、犬に好かれるような要素は欠月は持っていないと……思う。
 ぐるぐると欠月の周りをうろついている愛犬を見て、「おいおい……」と北斗は言う。
(欠月なら動物でも容赦しなさそうだしな……)
 この畜生が、とか言いそう。いや、そこまでひどいことは言わないか。
 そう想像して犬をこちらに引っ張ろうとしたが、欠月が無言なのに気づいて首を傾げた。
 彼は無言で自分の足もとをうろうろしている犬を眺めている。観察している、と言ったほうが正しいかもしれない。
「…………犬、嫌いなのか?」
「え? いや、そういうんじゃないけど……。こんなに好かれることってないからさあ」
 ぼんやりと犬の動きを追う欠月。
「犬はいい人がわかるんだぜ! 欠月のこと、そう思ってるんじゃないか?」
「そうなの? 北斗さんに似て単純そうな犬に見えるけど」
 さらっとひどいことを言われて北斗は「ぬぐ」と言葉に詰まる。
 まあ飼い主である以上、飼い犬が似てしまうのは仕方ないが…………。
「おまえ……俺が単純だと言いたいのか……?」
 ついさっき自分で自分のことを単純だと思っていたが、他人に言われるのは普通我慢できないものだ。
 欠月は犬から視線を外し、ふ、と笑う。
「自覚はあるんだね」
「おまえなぁ……」
「どうでもいいけど……飼ってる動物の管理くらいはちゃんとして欲しいんだけど」
「あ! ご、ごめんっ」
 ハッとして愛犬を欠月から引き剥がす。
「北斗さんに似てるね、その犬」
「あ?」
「元気がいいところとか、素直なところ。ボクに寄ってくるところもかな」
 にこっと微笑む欠月は北斗に背を向けて歩き出した。
「? どこ行くんだ?」
「ちょっと休憩してただけなんだ。新年だから、そろそろここに来る人も増えるし…………ボクは帰るよ」
「休憩? 仕事でもしてたのか?」
 よく見れば欠月はいつもの濃紫の制服姿だ。
 なにもこんな日まで仕事をしなくてもいいのに。そう、思う。
「いや……ちょっと最近体がなまってたから、鍛錬かな」
「鍛錬? おまえが?」
「なにその意外そうな顔。失礼だね。ボクは人間なんだよ? 鍛えておかないと困るでしょ」
「そりゃ、そうだけど」
 いつも涼しい顔でいるから、そんな地道なことはしていないのではと思っていた。
 はふはふと興奮する犬の頭を撫でつつ、北斗は微笑む。
「なんだよ。じゃあさ、今度一緒に鍛錬でもするか? ほら、一人でするよりいいかもしれないし」
「遠慮するよ」
 にっこり。
 キツイ一言に北斗が「……あ、そう」とぼやく。
「同じ遠逆の人が相手ならまだしも、流派も違う人とやってもいいことないもん」
「そうかなぁ。新しい発見があるかもしれないぞ?」
「混乱しちゃうからダメ。それに、手加減できないから北斗さんを殺しちゃうよ」
「おまえさ、俺が弱いと思ってるのか?」
 ムッとして言い返すと、欠月がぴた、と動きを止める。
「強いと思ってるのなら、自信過剰だね北斗さん」
「そうは思ってねぇって。でもおまえより弱いってこともないだろ」
「うーん。まあそうだね。強さっていうのは単純に見えてそうでもないし。色んな種類もあるから」
「む? 単純な力勝負なら負けないって言いたいのか?」
「それは持って生まれた身体能力と、鍛錬の結果によるからなあ。まあ人外にはその常識は通じないけど」
 のらりくらりと言う欠月にイライラし、北斗は愛犬から離れると欠月に腕を差し出す。
 彼は不思議そうに北斗の腕を見た。
「腕相撲ならどうだ!」
「…………やりたいの?」
「ちっがーう!」
 ふふっと笑って欠月は「いいとも」と了承する。
「負けても怒らないでよね」
「そりゃこっちのセリフだっての!」



 欠月が腰掛けていた大きめの石にて勝負をした結果……。
 全敗であった。
(ぬぐぅ……あいつ、ほんとに容赦しねぇ……)
 合図と同時に物凄い力でズドン! と石に倒されていたのは北斗の腕のほうだった。
 悲鳴に近いうめき声を北斗があげたのは言うまでもない。
(こんな細っこいくせになぜだ)
 疑問渦巻く北斗はちら、と欠月を見遣る。
 欠月は背中に犬が乗っかっていることにうんざりしたような顔をしていた。
(三回勝負しても全然ダメとか……)
 最初はすぐに負けてしまったので納得がいかず、「もう一回!」と言ってまたやったのである。
 やれやれという感じに肩をすくめていた欠月の腕はびくともせず、うんうん唸っていた北斗の手をひょい、と倒したのが二回目。
 三回目に至ってはゆらゆらといいように動かされた挙句に、負けた。
(コンチクショー……)
 悔しさを通り越して情けない。
「おまえ、どんな鍛錬してんの? そんな細い腕のくせに」
「うーん。それほど腕力があるわけじゃないとは思うけど」
「俺よりあるだろっ! おかしいんだってそれが! 俺より細い腕なのになぜ! 何故!?」
 勢いに押されて欠月が「へえ?」と困ったような声をあげた。
「なぜって言われても……。コツ?」
「コツってなんだ?」
「北斗さんを見ながらやったから……。それだけ」
「なに?」
 自分を見ながらやっていただと?
 そういえば自分は欠月の腕と手に集中していたので、欠月の表情など一切見ていなかった。
(欠月って、なんかいつも冷静だよな……)
 焦ることもないし、いつも落ち着いている感じだし。
(こいつが怒ることなんて、あるのか……?)
 疑問になってしまい、尋ねる。
「欠月ってさ、怒ることとかある?」
「え? なに、いきなり」
「いや、いっつも笑顔だからさ」
「お仕事中はいつも真剣なんだけど、これでも」
「そうじゃなくてー」
「…………」
 無言の欠月は空を見上げる。
 そういえばもうすぐ新年だ、と北斗は思い出した。こんなところで腕相撲して年を越すのはちょっとヤだ。
「大事な人とか、そういうのが傷つけられたら怒るだろ? ふつうさ」
「そんな人いないからわかんないなー」
「…………いないのかよ」
「記憶がなくなる前にはいたかもね」
 たいして気にしていないように言う欠月の腕を掴んで引っ張り上げ、立たせる。
 その手に五円玉を握らせた。
「? なに?」
「とりあえずその記憶喪失、神サマにお願いしよう!」
「はあ?」
「ほらほら」
 ぐいぐいと手を引っ張って賽銭箱のところまで連れてくる。お参りに来る人もちらほらいる。
 腕時計を見るともう0時を回っていた。
 北斗は賽銭箱に自分の分の小銭を投げると両手をパンパンと合わせる。
「ほら、おまえもやれって」
「……でも、うちってそういうのしな……」
「いいから!」
 北斗の勢いに負けて欠月も賽銭箱にお金を投げた。勿論投げたのは北斗に渡された五円玉だ。
 北斗を真似て両手を合わせている欠月に、北斗は言う。
「記憶が戻りますように! ってお願いしとけ」
「神頼みはあんまり好きじゃないんだけど……」
「いーの! 新年だからいいの!」
「……ふーん」
 興味がないらしい欠月は半眼でいる。
 しょうがないので欠月の分も北斗が願っておいた。

 階段を降りていく北斗はぶちぶちと文句を言っていた。
「まったく。せっかくの五円が……」
「…………そんなにボクの記憶、戻って欲しいの?」
 横を一緒に歩いて降りる欠月に、北斗は大きく頷いてみせる。
「戻ってないとおまえ、困ってるじゃないか」
「いや、困ってはないけど」
「でも比較しちゃうだろ。前がわからないからって」
「……そうかもね」
「だったら神頼みでもいいだろ。叶うかどうかはわかんないしな」
 そういうものかな、と欠月は小さく呟いた。
 最後の段を降りて北斗は大きく背伸びをする。
「さーてと、帰って寝るかー。欠月は?」
「え? 帰って寝るよ」
「なんだ一緒か。
 へへ。なんか最後の日と年始めの日を一緒に過ごせるのって嬉しいな」
 照れ臭そうに笑う北斗を、欠月が無表情で見る。
 あれ? と北斗は動きを止めた。
 いつもなら笑顔で「そういう趣味あるの?」とか、思いっきり「やっぱり北斗さんて男が好きなんじゃ……」と引かれているはずが。
(ウ……なんで黙ってんだ……?)
 欠月はじっと北斗を見つめて微笑む。くるか、と構える北斗。
「変な人だなあ、北斗さんて」
「へ、変とはなんだ!」
「変だよ。変」
 連呼する欠月はくるっと北斗に背を向けた。
「じゃあね。あけましておめでとう」
 すたすたと、そのままこちらを振り返りもせず欠月は去ってしまう。
 北斗は愛犬を見遣り、それから欠月が去った暗い道を見つめた。
「嫌味言わなかった…………め、珍しい」



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【5698/梧・北斗(あおぎり・ほくと)/男/17/退魔師兼高校生】

NPC
【遠逆・欠月(とおさか・かづき)/男/17/退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、梧様。ライターのともやいずみです。
 着実に友情度があがっていっておりますが、いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!