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<東京怪談ノベル(シングル)>


『ゆったりと、ゆっくりと。〜サクラサクカナ〜』

 3学期が始まり、静かだった神聖都学園もいつもの賑わいを取り戻しつつある。俺がいるカウンセリングルームも、相談や雑談にやって来る生徒達が絶えないほどだ。今の時期になると、ダントツで相談数が多いのは受験を控えた生徒だ。受験生にとっては、正月休みは関係無い。
 もっとも、受験ではなく就職を決めた生徒は羽根を延ばしていることだろう。俺ももっと有意義に正月休みを過ごしたかったのだが、カウンセラーとしては休み返上で相談に乗ることもあった。そのほとんどが困ったものだったのだが…

<ある男子生徒のケース>

トゥルルル

「はい、門屋心理相談所」
『あ、もしもし門屋先生ですか?』
(この声は、確か神聖都学園の生徒だったか…受験生の)
「ああ、そうだけど…こんな休みにかけてくるなんてどうしたんだ?」
『大変なんです、僕…僕…これから生きていく自信がありません…』
「お、おいちょっとまて!! いいか、落ち着け……深呼吸して……早まるなよ…何があった?」
『足りないんです…』
「何が足りないんだ? 金か? 愛情か?」
『点数が合格点似たりないんです!!』

ピッ

 ヒステリーになるのもわからなくもないんだが…なぁ?
 血相を変えた声で、足りないとかいわれるとさすがに困るぞ。休み中だとトラブルに巻き込まれたりとかするだろうし。俺の力は相手の目を見なきゃ発揮されないので、なるべく電話はやめてくれ。
 ちなみに、金も愛情も俺は売り切れている。頼らないでくれ…
 年も明けて学校が始まり、カウンセリングルームを開けるとまた相談が舞い込んでくる。

<ある女生徒のケース>
「先生、少し相談に乗ってもらいたいことがあるのですが…」
「ああ、いいぞ。今日はなんの相談だ?」
「最近、眠れなかったり、胸がドキドキしたりするんです…あることをずぅっと考えてて」
「恋かな? 年も明けたからな、いいスタートだ」
「いえ、違うんです。実力テストでいい点取らないと内申とかに…」
「…………あー、たぶん、もう大丈夫だぞ。おまえ、今年受験だろ?もう決まってるって、それくらい」
「あ、そうだったんですか! それを聞いてホッとしました」

 本当はテストのことだとわかっている。けど、彼女のために少しだけ緊張のほぐれる会話にしたのだ。本人が冷静に判断ができないくらい追い詰められていたのだと思う。嬉しそうにホッとした彼女の笑顔を見て確信した。

 今も昔も、受験戦争は変わらない…むしろ、だんだん低年齢化している傾向にすらあるという。そして、心が未熟な時期であればあるほど『合格』というものがプレッシャーになってのしかかかってくるものだ。
 俺もそういう時期があったから、わからなくはない。それに俺の力がそういう不安や、恐怖をダイレクトに俺に伝えてくる。
 だけど、俺は気の利いた言葉とか、アドバイスなんかは思いつかないし、かけても拭えないものだとわかっている。だから、俺は普通に接する。

 世間話をするもいい。
 昨日の夕食をネタにもした。
 時にはカウンセリングルームで菓子とジュースの宴会を開いたりして、見回りの教師にしかられたりも…

 そんなありきたりの日常こそが、受験生にとって一番必要なのだと俺は思っている。勉強で押し込められた心をひと時でも開放し、リフレッシュさせることが一番の薬なのだから…俺がそうであったように、こいつらにもそうであって欲しいと思っている。
 まだまだ、冬は本格的になってくるし、受験が大詰めになってくるだろう。だけど、あせらず行こうぜ。ゆったりと、ゆっくりと…平常心で挑めば何も恐れることは無い。
 あ、だからといって遊んでばかりいるなよ?そして、それを俺のせいにもするなよ。
 
 桜が咲くまでにすごく苦労するだろうが、がんばれよ。春は近いのだから…

 咲く桜、散る桜はあるだろうけど、サクラサクカナサイタライイナ