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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


不死鳥を追え! 1

 三下忠雄
 いつも没原稿を出すヘタレ編集
 しかし、今回は違ったらしい。彼にも運が向いてきたのだろうか?

 かれは、寒い公園のベンチで昼食を摂っていた。
 鳩やスズメたち其れを欲しがる様に見ている以外なんて事のない冬の公園。
「?」
 ふと、空を見上げた瞬間だ。
 周りにいた鳥たちが逃げていった。
「わわわぁ!」
 慌てる三下。
 その瞬間、彼は見た。
 命の輝きとも言える綺麗な翼に、雄々しい瞳を持つ鴉よりも大きい猛禽類を……。
 その猛禽類は、身体が炎の様に輝いていたのだ。
 西から東の方に向かって……旋回し……また西に向かった様だ……。

「へ、編集長ぉぉぉ!」
「どうしたの、うるさいわね……」
 機嫌の悪そうな碇麗香にこの事を報告する。
「ふーん……。では、其れを探しに向かうわけね?」
「え? あ、そ……」
「しっかり記事にしてきなさい! さもないと……」
「わ、わかりましたぁ!」

 ……努力で勝ち取れるものだろうかは不安だが、彼の冒険行が始まろうとしている。

〈1〉
 白里焔寿は猫を2匹連れて、三下の奇妙な行動をずっと見ていた。
 鳩に餌をやっているところまでは良かったが、焔寿が一瞬大きな“力”を感じたとき、三下は愕き、しりもちをついた。更には腰を抜かしたらしく、その場でジタバタしている。何かに終われて逃げるかの様に。まあ、気絶していないだけ成長したのだろうか? 其れは瑣末な事だから置いておき。
「何をしているのでしょう?」
 首を傾げる焔寿。
 確かに何か力を感じたのだが、冬の快晴。変なところは何もない。
 三下が慌てて仕事場に戻る様なので、彼女は後をつけていった。

 アリス・ルシファールは自分の任務関係で、白王社・月刊アトラス編集部を訪れる。サーバント『アンジェラ』を起動させて。しかし、ビル入り口手前でどう入ろうか迷っていたところ、如何にもひ弱そうで臆病な男が通りかかった。
「急がないと……。信じてくれるかなぁ……編集長……」
 と、何かぶつくさ言っている。
 そして、彼もまた入り口でうろうろしているのだ。
 アリスは情報を思い出す。あの編集部の中で一際悲しい存在を。彼が三下忠雄という事を。彼女は、彼に声をかける。
「あのう。どうしましたか?」
「ぎゃああ!」
 三下はいきなり声をかけたのか驚いて騒ぎ立てた。
「ひいい! でたぁ!」
「お、おちついてください〜!」
 アリスは慌てふためく三下を宥めることとなった。目の前に、アンジェラがぼうっと立っていれば、余計混乱するのだろうか?
 彼女からすれば、内心非常にショックであろう。その後ろには白里焔寿が走り寄ってきた。
 何とか2人で三下を落ち着かせた。
 各々が自己紹介を済ませ(アリスは『アンジェラ』を姉として紹介する)、三下の話をベンチで話を聞いた。
「三下さんには見えたのですか……」
「はいぃ。そうなんですぅ」
「でも、運が良いかも知れませんよ? 特ダネじゃないですか?」
「そそんなぁ! ぼ、僕しか見えないのはおかしいですよぉ!」
「私たちが、手助けしますから。大丈夫ですよ?」
 同情したアリスは三下の手を優しく握って笑いかけた。
「あ、ありがとうございますぅ〜。信じてくれるのかなぁ」
 三下は未だ自信がない様だ。


 そして、編集部。三下が事情を説明すると、碇麗香は顰め面をする。その真相を突き止めるべく、取材に行かせる事になるが何かと自信がない。
 一緒にコーヒーを飲んでいたシュライン・エマがこう言った。
「誰かの凧揚げだったりして……」
「公園と言ってもそこまで出来る広さあったかしら?」
「何にもなかったと言ってますよ?」
 首を傾げる焔寿。
 真相を知るにはやはり三下が探すしかない。今のところ発見者が彼しか居ないのだ。もし実際にその炎の様な猛禽類が居れば彼の株が上がるだろう。多分。かなり確率は低い事だが。
「まずは現場でどう見えたか確認しないとね。どこで見たか教えてくれないかしら?」
「あ、はい……わ、わかりました……」
 と、シュライン、焔寿、アリスの3人が三下を連れて一度外に出る。
「……。あ、宝剣」
「はい、何でしょうか?」
 と、書類集めをしているバイト、宝剣・束(ほうけん・つかね)を呼び止める。
「心配だから、三下に付いてってくれない?」
「はい、分かりました」
 と、ペコリと一礼をし、近くにいた桂に、
「これ、よろしく!」
「え?! わわ!」
 と、山と積まれた書類を彼の目の前に置いた。桂自身が持っていた書類と合わせて、高さ1m近くになった。それが彼の腕に重くのしかかり……結果的に書類をまき散らしながら彼は下敷きになった。
「では、行ってきます」
 彼女はバッグを持って三下達の後を追った。



〈2〉
 ――三下の手記から抜粋。
 大変な事になりました。僕が昼休みで公園にてぼうっとしていたときです。な、何と不死鳥が僕の真上を飛んでいったんです! もうどうすればいいか分からず、その場で慌てふためいてしまいました。腰も抜けたかも……。何とか編集部に戻って編集長に報告すれば、誰かが追ってくれるはず……って僕ですかぁ!?
「だって、あなたしか見ていないでしょ?」
 確かにそうですけど、僕で、アレを追うのは無理です〜。
 白里さんは
「縁起が良いですねぇ」
 と、猫さん抱っこして笑っているし〜。
 シュラインさんも助けて下さい〜。凧との見間違いじゃないですよお。
 編集長怖い顔をして、「行け」と言うから……うう、平和に過ごしたい。


「此処なのね?」
 と、現場を見るシュライン。
「三下さん、しっかり書かないと又シュレッダー行きですよ? 原稿」
「わ、わかってますよう……はうう。気のせいで済ませばよ……、わあ! ごめんなさいぃ」
 小声で呟いた三下の行った事に気が付く宝剣は、睨んだ。とたん、三下は大泣きする。正社員の男がバイトにも下に見られるというのは悲しいものである。
「静かにして。音を探るから」
 シュラインが耳を澄ます。
「流石に分からないわね」
 そして、周辺の散歩をしている人達に聞き込みしている。
 アリスは、
「三下さんどんな鳴き声をしてました?」
 と聞いてみる。
「え? 声……もう驚いて……いたから……」
 縮こまる三下。
「まったく、コレだから三下さんは……」
 呆れる宝剣。
「三下くん、しっかり思い出して。どんな鳥だったのか?」
 と、公園で女性4人から質問攻め。


 鳥が向かっていった方向、そして姿を何とか思い出した三下は、
「鷹かワシだったと思いますぅ」
 と、鳥の絵を描いてみた。
 絵が上手くないのは、横に置いておき、向かっていった方向等を地図で照らし合わせてみる。
「鷹でしたら、茄子も用意しておきましょうか?」
 と、焔寿がにっこり言う。
「どうして茄子なんですか?」
 アリスが首を傾げた。
「外国の方でしたね。一富士二鷹三茄子といって、初夢で見ると縁起が良いというものですよ」
「そうなんですか」
 焔樹の話で、感心するアリスだった。
「で、このまま西に行くと……富士山だなぁ」
 宝剣は向こうを眺める。あながち焔寿が行った事に間違いはないらしい。
「途中で茄子大安売りしてないでしょうか?」
「茄子は秋の……」
 と、いつの間にか茄子の話になっていく。
 流石に声は思い出せないわけであるが、三下の絵と僅かな情報を元に、西へ西へと聞き込みを続ける。
 何人か同じように見た様だ。
「其れはどこに?」
「西の方に……」
「どんな姿か覚えてませんか?」
 など、猛禽類数種のイラストを見せるシュラインに、声はどんな感じだったかを聞く宝剣。三下も頑張って尋ねているが、アリスが居ないと何かたどたどしい。
 三下は目撃したとしても恐怖と驚きで曖昧にしか覚えていない。気が動転しているのだ。
 その鳥らしきモノが通った場所で、カメラに収めたと言った人がいたのだが、残念な事にそこには何も映っていない。
「その時の天気を調べても快晴だったから、やはり何かしら……」
「“霊力”があるのではやり、聖獣か幻獣ではないでしょうか?」
「炎を纏った猛禽類だからねぇ……」
 近くの、ファーストフード店で休憩し、情報を纏めるのだが、未だ足りない。焔を纏った鷹らしい事と、其れは西に向かっている事以外何も分からないのだ。
 ゴーストネットの書き込みでも、未だ住民の中では見ていないのか、スレッドが存在していない。
「ヤッパリ気のせいだったんですぅ」
「何言ってるのよ、三下くん。焔寿さんが霊を感知しているなら、何かあるのじゃないからしら?」
「うう、でも……」
「三下……私は編集長に言われて、見ているんだ。コレを落としたら私も大変なことになるんだぞ!」
 宝剣は三下を威圧する。
「ひいいい!」
 三下は、窓際まで逃げる。
「ぎゃああ!」
 と、行きなり声を上げた。
「どうしたの!?」
「と、とんでる!」
 と、指さす三下。
 しかし何も見えない。空の青さが綺麗な冬晴れだ。
「何が見えるの? 何も見えないじゃない?」
 焔寿、アリスが何かしら術をかける。透明なモノを見る事が出来る術だ。
「あ、居ます!」
 何かしら機器を取り出す。其れはゴーグルだった。シュラインと宝剣に渡す。
「あ、本当だ!」
 驚く、4人。

 その姿は炎を纏った鷹であり、三下を見ている様に飛び、周りのモノを誘う様に……西に飛んでいった。
 その先には、確か……
「富士山……がこの先にあるね!」
 宝剣が言った。
「富士山に来いという事かしら?」
「わ、わかりませえん!」


〈3〉
 ――再び三下の手記から抜粋。
 大変な事になりました……。
 一部の人にしか見えないようです。でも何故僕なんでしょう?
 あの鳥は僕に用事があるのでしょうか?
 でも、本当は……いやいや、此処まで皆さんが手伝ってくれるにはやらなきゃ行けないと思うのですが……。怖いなぁ。
 宝剣さんや編集長後が怖いし……
 この手記が誰にも見られません様に。

 三下は何を思っているのかは横に置いておき、火の鳥を追いかける事になりそうだ。

続く


■登場人物
【0086 シュライン・エマ 26 女 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1305 白里・焔寿 17 女 天翼の神子】
【4878 宝剣・束 20 女 大学生】
【6047 アリス・ルシファール 13 女 時空管理維持局特殊執務官/魔操の奏者】


■ライター通信
 こんにちは、滝照です。新年が明けましたね。
 「不死鳥を探せ! 1」に参加していただきありがとうございます。序盤という事で、実物との一寸した遭遇に終わりました。如何でしたでしょうか?
 シュライン様、白里様、毎回ご参加ありがとうございます。今年も宜しくお願い致します。
 また、初参加の宝剣様、アリス様ありがとうございます。
 2話から、少し本格的にこの謎の鳥を探し、追いかける事になるでしょう。
 

 では、又お会いしましょう。
 滝照直樹拝
 20060119