コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


超能力心霊部 ファースト・コンタクト



 腹部に手を当てて、崎咲里美は小さく嘆息する。
 小腹がすいた。
(なにか食べて帰ろうかな……)
 やっと仕事も終わったのだし、少しくらいはいいだろう。
 そう自分に言い聞かせて里美は目についたファーストフード店に足を踏み入れた。

 トレイを持って二階にあがると、窓際の席のすぐ隣に里美は陣取る。
(いただきます)
 トレイの上に並んでいるハンバーガーを齧ろうとしたが、里美は足もとに落ちている何かが目に入って手を止めた。
(ん?)
 屈んでソレを拾い上げると、写真だった。
 どこから?
 そう思って周囲を見回していた里美は、真横……窓際の席に居る三人組のものだと気づく。
 三人組はうんざりしたような顔で黙っていた。その沈黙がまた、重苦しい。
 見たところ三人とも高校生である。三人それぞれ特徴があり、なぜ集まっているのか不思議に思えたくらいだ。大抵の高校生は趣味などが似通った者たちが集まっていることが多いからである。
「あ、写真……一枚落ちてますよ?」
 囁くように声をかけた里美のほうを、黒髪の美少女が見遣る。雑誌のモデルでもすればいいくらいだ。
 彼女はハッとしたように青ざめ、里美から写真をすぐさま奪い取り愛想笑いを浮かべた。
「すみません。拾っていただいて、感謝します」
「いいですけど…………それ、心霊写真、ですよね?」
 里美の言葉に彼女はギシ、と動きを止める。
 悪いことを言ってしまっただろうか……。
(どこかの心霊ものの雑誌とかに応募するためのものかと思ったんだけど……)
 合成や、CGではないことは記者である里美にはすぐにわかった。だからこそ、褒めるところだろうなとも思ったのだが。
 少女はふふふ、と乾いた笑いを洩らした。
「そうですね……どう見ても心霊写真ですね……」
 な、なんでそんな暗い笑いを?
 思わず不安になってしまう里美がおろおろと彼女の連れを見遣った。
「奈々子〜、もういい加減やめようよ〜。昨日も一昨日もその写真の公園探して歩き回ったんだしさあ」
 うんざりした声で呟くのは、奥に座っていたボブカットの小柄な少女だ。彼女は里美のほうをちらっと見てくる。
「ごめんねえ、お姉さん。ちょっとした部活みたいなもんなんだよ、あたいたち」
「部活?」
「心霊写真謎解きクラ……ぶっ!」
 最後のところで横の美少女が彼女の顔を殴った。見事なパンチだ。
「またそうやって見ず知らずの方にペラペラと! 反省しろって何度言わせるんですかっ!」
「…………」
 唖然としている里美に、今度は彼女たちの向かい側に座っていた外人の少年が話し掛けてくる。
「すみません。気にしないでくださいね。この人たちいつもこうなんで」
 流暢に日本語を喋るので里美は驚いた。
 なんなんだろう、この三人は。妙な集団だ。
(でも、少し……)
 おもしろそうで。
 いつもはない、何か不思議な出来事がここには在る。
 里美は自分が拾った写真のことを思い出す。謎な写真だった。
 公園で遊ぶ子供たち。そして遠くには親も。だが、子供を追いかける女の腕も写真には写っていたのだ。
(解明することは、真実を突き止めることになる……)
 里美は意を決して三人を見遣る。
「私は崎咲里美。新聞記者をしてます」
「ええーっ! 記者サン!? ブンヤってやつ!?」
 いきなりぱあっと明るい笑顔を浮かべたのは、ボブカットの少女だ。
「記者!? お、面白いことなんて私たちはちっとも……ほほほ」
 引きつった笑みを浮かべるのは美少女。
「そうなんだあ」
 と、のほほんと言うのは少年だ。
 里美は己の胸に手を当てて言い放つ。
「協力させてください。その写真の謎を解くために」



 小さく咳払いをして、美少女が向かい側から里美を見つめた。
「私は一ノ瀬奈々子。私の横が薬師寺正太郎さん。崎咲さんの横のちんまいのが高見沢朱理です」
「ちんまいってのは余計だろっ!」
「おだまりッ!」
 般若のような形相でぎらっと朱理を睨む。朱理は「うっ」と小さくうめいて小さく縮こまった。
 里美は苦笑する。
「一ノ瀬さんに、薬師寺さん、それに高見沢さんね」
 これで名前は憶えた。
 テーブルの上には一枚の写真。
「これは誰が?」
「あ、ボクです」
 正太郎が片手を挙げる。
 里美は不思議そうな顔をした。
「撮った場所を憶えてないの?」
「え…………と」
 視線を逸らす正太郎。奈々子もすい、と視線を横に向けた。
 どうも彼らは何かを隠している。会ったばかりの里美に打ち明けてくれるつもりはないらしい。
 少し残念そうにしていると、朱理がこちらを見て口を開いた。
「正太郎ってのはさ、こういうのを無意識に撮っちゃう天才なんだよ」
「え?」
「念写能力があるから、変なもんをよく写すんだよね。参っちゃうよ」
 さらり、と正太郎の秘密をバラした朱理に向けて奈々子がトレイを投げる。トレイは朱理の顔に直撃し、朱理は真後ろにイスごと倒れた。
「だ、大丈夫?」
 里美は朱理に声をかけるが、いつものことのようで朱理はむくりと起き上がって親指を弱々しく立てる。
「薬師寺さんは……そういう能力があるのね」
「一応内密にお願いします。記者さんですけど、見たところ悪趣味な記事を書く方には見えませんし」
「大丈夫。そんなこと記事にしたりしないから」
 にっこり微笑む里美の言葉に、奈々子は心底安堵したように息を吐き出した。
 里美が記者ということで、どうやら余計に警戒をさせていたようである。
「とにかく! この写真の謎を解明しようではないですかっ!」
 奈々子はテーブルの上の写真を強く叩いた。

 公園の場所は特定できた。
 問題は、写真に写る謎の手だ。
「崎咲さんてすごいねー。あっという間に見つけちゃったし」
「そ、そう?」
 朱理があまりにも素直に褒めるので、里美は照れてしまう。
 公園に来てみたものの、そこはどう見ても普通の公園だ。
 親子で来ている者がほとんどのため、里美たちのほうがかなり目立っていた。
「どう見ても普通の公園ですね。怪しい気配があるとは思えませんけど……」
 困惑する奈々子に、里美は微笑む。
「まずは聞き込みから始めよう? この公園によく来ていたけれど、突然来なくなった人のこととか」
「なるほど〜」
 感心している正太郎は、ふと気づいて周囲を見回す。その様子に奈々子が緊張した。
「ど、どうしました? 薬師寺さん? なにか感じたんですか?」
「…………朱理さんがいないよ?」
「………………え?」
 奈々子が眉根を寄せる。
 里美のすぐ真横に居たはずの朱理がいつの間にかいない。
「さ、崎咲さん! 朱理はっ!?」
「あれ?」
 里美も気づいたようで見回した。
 と、朱理は子供に混じって砂場で遊んでいるではないか。
 元々小柄なので混じっていても違和感がなかった。
「…………朱理は放っておきましょう。こういう時に役に立つとは思えませんし」
 奈々子の冷たい言葉に、里美は頷くしかない。

 それぞれが公園に来ている母親たちに話を聞く。
 最近見かけなくなった人がいるかどうか。
 この公園で妙なことがないかどうか。
 それほど大きな公園ではないので、聞き込みに時間はかからない。
「そちらはどうでした、崎咲さん?」
「……うん。該当者はいた」
 里美は暗い表情で言う。
 奈々子と正太郎は顔を見合わせた。
「実は……妊婦さんが…………」



「さあ、朱理! 出番ですよ!」
 木陰に隠れて奈々子が小声で言う。
 奈々子の横には里美。そして正太郎だ。
 朱理一人が公園の砂場の近くに突っ立っている。
「へいへい……」
 面倒そうに言う朱理を、里美は心配そうに見つめた。
「でも、高見沢さんだけで大丈夫なの……?」
「こういう時こそ役に立ってもらわないと!」
 そんなことを言う奈々子に、里美は苦笑するしかない。
 里美はそっと朱理を見遣る。
 彼女が攻撃能力が一番高いという奈々子の言葉を信じてのことであった。
 夜の公園は静かで、暗く、重い。
 ひた、ひた、と足音が聞こえた。
「どこ……に…………いる…………の…………」
 すすり泣くような小さな声。正太郎が青ざめてガタガタと震え出した。
「どこ……に…………」
 声は公園の入口から響き、ゆっくりと移動する。透けている白い腕が空中をさ迷っていた。
 何かを、探すよう……に。
 里美は瞼を強く閉じる。
(もういないんです……!)
 もういないんです、あなたの子供は。
 公園での聞き込みを終えて、里美はきちんと全てを調べたのだ。
 何があったのかを。
 そしてあの腕のあるじを。
「どこ……?」
 さ迷う声は悲痛だ。
 泣くのを堪えている声だ。
(もういないんです! あなたの子供は!)
 悲しい出来事だったのよ、と公園に居た母親達は言った。
「旦那さんを事故で亡くしたのよ。でもね、お腹の子供と生きていこうって明るく言っていた、そう決心した矢先のことだったのよ」
 思い返す里美は瞼を開ける。
「彼女も事故に遭ってね……流産しちゃったの。それでね……耐え切れなくなったんでしょうね」
 声を反芻していた里美は朱理に近づいていく腕を目で追った。
 耐え切れなくて――――死んだ。
 生きている意味がなくなったからだ。支えがすべてなくなったからだ。
 腕は朱理の前で止まる。朱理は奈々子に言われたように霊を浄化する気だ。
「待って!」
 思わず飛び出した里美に朱理は驚愕する。
 里美は朱理の前で止まり、霊に向き合った。
 真実を知ることは……時に残酷だ。
 けれども。
「お子さんは、ここにはいません」
 はっきりと里美は言い放つ。後ろで朱理が仰天していた。
「もういないんです……!」
 腕はす、と降ろされる。そして向きを変えて公園を出て行こうした。
 里美は続けて叫んだ。
「違うんです! どこにもいないんです……もう、この地上には!」
 だから探してもムダなのだと……伝えなくてはならない。
 ここにはいないのだと。
「お子さんは、きっとあの世にいます……。待っているはずなんです、あなたを」
 まだ見ぬ母親を、きっと。
 腕は動きを止めて…………そして、その姿を現す。
 泣いていた。
 泣いていたのだ、彼女は。
 そして、彼女はゆっくりと空を見上げて……消えた。
「……うわあ……成仏したっぽいね、今の」
「そ、そうみえた……?」
 里美は恐る恐る朱理に尋ねる。朱理は頷いた。
 そうだったらいい……。そう、里美は思う。
(待っているはずです…………私はそう信じています。きっと、きっと――――)
 だからこそ、こんなにも空の星が綺麗なのだ……。



□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

PC
【2836/崎咲・里美(さきざき・さとみ)/女/19/敏腕新聞記者】

NPC
【高見沢・朱理(たかみざわ・あかり)/女/16/高校生】
【一ノ瀬・奈々子(いちのせ・ななこ)/女/16/高校生】
【薬師寺・正太郎(やくしじ・しょうたろう)/男/16/高校生】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 ご参加ありがとうございます、崎咲里美様。初めまして、ライターのともやいずみです。
 しんみり……を目指しましたが、いかがでしたでしょうか?

 今回はありがとうございました! 楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。