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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


ヤマタノオロチ

●オープニング

「『八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を知っているかい?」
 『アンティークショップ・レン』の店長、蓮は煙管で肩を叩きながら紅唇をゆったりと笑みの形にした。
「そう……色々とあちこちで伝説化してる、八つの首があるバケモノさ」
 ――それがこの骨董品屋と何の関係があるのだろう。
 蓮は、ひとつの大きな壷を煙管で示した。
 おかしな壷だった。やたら大きく、かなり古いことが見ただけで分かる。
 そしてその入り口には布が張ってあり――朱で難しい文字を描かれた札が貼られていた。
「その壷の中に、その八岐大蛇が封印されているって言ったら、どうさ?」
 ――……
「そのオロチの呪いでね。その壷の持ち主は代々ひどい目に遭ってきてるんだってサ」
 現在その“持ち主”になっている蓮はのんきに煙管から煙を吐き出す。
「退治するには――」
 再び煙管で、壷の傍らに置いてある木箱を指して。
「その箱の中に入ってる八つの指環。それをはめている者たちだけが、指環の霊力でオロチにダメージを与えられる」
 壷の封印を解いてね、と蓮は目を細めながらそう言った。
「つまり、いちかばちか――の闘いさ。挑戦してみる気は……あるかい?」

●集まった者たち

「それって某有名ゲームに出てくる怪物でしょ!」
 好奇心まるだしで蓮の依頼を引き受けたのは、赤羽根灯(あかばね・あかり)だった。
「すごいすごい! それを私の手で倒せちゃうんだ!」
「……遊びじゃあないぞ」
 封印の壷を見つめながら重々しい口調で言ったのは、不動修羅(ふどう・しゅら)。
「感じる……妖気だ。間違いなくヤツはこの中にいる……」
「そのようね」
 同意したのは長い緑の髪を後ろに流した火宮翔子(ひのみや・しょうこ)である。
 代々退魔の家系に生まれ、現在修行中の身の彼女は体を緊張させていた。
「すごいパワーを感じるわ……またきつい依頼ね。少しでも気を抜いたらあの世へ行けそうだわ。……ま、気を抜くつもりもないけど」
 他にも、
「本物かよ。すげえな」
 どこか呆れ気味に、どこか緊張した声で言った倉塚将之(くらつか・まさゆき)。その横にはじっと壷を見つめている少年、七枷誠(ななかせ・まこと)もいる。
 そして、
「っていうかさあ」
 ひとり場違いにのんきな声を出しているのは、
「ハナっからそんな壷持たなきゃいいじゃん、捨ててこいよ」
 ……なぜかここにいる、面倒くさいことが大嫌いで脱Hellしたはずのダメ悪魔・フランシス。
 蓮はくすっと笑った。
「そういう危ないモンこそ、コレクターは欲しがるのサ。本当は呪いを解かないほうが高く売れるンだけど」
「よく分からない世界ね」
 翔子がつぶやく。
「レンねえさんの言うことならなんだってきくよ!」
 力いっぱい目いっぱい、そう宣言したのは灯だった。
「まあ身も蓋もないことは置いといて、要はそのオロチを退治すりゃいいわけ?」
 フランシスがその長い手で首の後ろをかきながら言った。「渋るわけじゃねえけどさあ、後からいい感じの娘紹介してくれんの? やっぱクシナダヒメ的なのが必要だろ、スサノオを動かしたのもスケベ心なんだからさあ」
「それこそ身も蓋もないです」
 ぽつりとつっこんだのは誠である。
 修羅が蓮に、「やっぱりパターンからして壷に酒入れて酔わせるべきだろ」と言った。
「あ! それ私も知ってます! 伝説ではお酒を飲ましていましたよね!」
「壷に入れる……可能かなあ」
 将之が首をかしげた。「封印解いたらすぐ飛び出して来ちまうわけだろ?」
「……そうだな。じゃあ誰かクシナダヒメになるか?」
 修羅はじっと女性二人――翔子と灯を見つめた。
「どちらかが酒持ってオロチに最初に近づく。……できるか?」
 私がやります! と大声をあげたのは灯だった。
「伝説にはのっとって……生贄の役は私、やります! サポートお願いします!」

●作戦会議

「ヤマタノオロチは皆が知っているように、八本の首を持ってる」
 修羅が封印の壷から目を離さないまま、他の五人に言った。
「それぞれが炎・吹雪・毒液・霧・硝酸・粘液・呪いの息・癒しの霧を吐く」
「……さすが、どこにも死角がありませんね」
 誠がつぶやいた。
「って、なんであんたそんなに詳しいんだ?」
 修羅の言動に、将之が首をかしげた。
「後で分かる」
 修羅はにっと笑った。それから、
「首は……どれがどの息を吐くのかは実はいまいち分かっていないんだ。何しろスサノオは酔わせてほとんど機能していないところを叩いたからな」
「ああ、なるほど」
「炎や吹雪になら、私強いですよ!」
 灯が宣言した。「炎の結界とか自分に張れますから!」
「その八本の中からってんなら……」
 フランシスがあごをなでながら、「戦術は……まず癒しの首からってのが妥当だろ。ゲームの基本」
 全員がうなずいた。
「どれが癒しの首かを判断するのが難しいですね」
 誠が言った。
「どれでもいいから一度切断しちまえばいいんじゃねーの?」
 と将之が言う。そりゃそうだ、とフランシスが同意した。
「たとえ酔っ払っても、炎や吹雪系はがむしゃらに攻撃に走ると思うんです」
 誠が口を挟む。「だから、炎や吹雪は分かりやすいかと」
「ふーん……あとはよう、俺としては粘液優先かと思うんだがなあ。足止めくらっちゃかなわねえ。ステータス異常系を優先だ」
「それなら呪いの霧もです。目が見えなくなってしまう」
 修羅がフランシスの後をついだ。
「これだけ人数がいるんです! 複数を同時攻撃だってできます!」
 灯が熱弁する。「ステータス異常なら毒もですね! ゲームやってると毒はとっても嫌なものです!」
「炎と吹雪と硫酸はただの攻撃と考えていいかしら? どれも、くらったらひとたまりもなさそうだけど」
「だろうなあ」
 フランシスが頭をかきながら言った。「あとは、そうだな、頭が八つってことぁ常に団体行動ってことだろ? それぞれの首には序列があるはずだ。その和を乱すってあり? 人間なら難しいだろうが、しょせん畜生だからな」
「これ以上ない畜生ですが」
 誠が冷静に言葉を紡ぐ。「お酒を飲んでくれればそれができるかもしれません」
「飲んでくれなかったら?」
「……私は私のやり方で同士討ちを狙うけれど」
 翔子が低く言った。「それもうまく行く可能性は低いから……とにかく防御を固めましょう」
「炎だの吹雪だのは気圧の変化で受け流し。息だの霧だのは俺が風で拡散させるよ」
 将之が言った。「俺の得手は風だから」
「そりゃあ助かるな。じゃあその辺の防御はしばらく任せてもいいか?」
 修羅が将之を見た。
「OK」
 将之は片目をつぶった。
「となると毒と硫酸ですね、各自気をつけなきゃならないのは」
 誠がつぶやく。
「とにかく、ステータス異常系はみんなに頼むよ」
 修羅が言った。「あとは全部俺が引き受ける」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫。餅は餅屋ってね」
 修羅はにいっと唇の端に笑みを刻む。
「日本酒、用意できたよ」
 注文した樽酒が届いたことを、蓮が入り口から知らせてきた。
 六人は顔を見合わせてうなずき合い、封印の壷の傍らにあった指環をそれぞれにはめた。

●クシナダヒメの挑戦

 封印の壷を修羅が店の外に出し、広めの場所を選んで全員で移動して。
 誠が自分の血で『障壁』と書いた紙片をバトルフィールドの四隅に貼り付け、戦闘の余波が外界に影響を与えないように結界を張る。
「じゃ、行ってきます!」
 灯が修羅に手助けされながら、お酒の樽を必死に持ち上げ封印の壷に近づいた。
 修羅が待機組に戻り、待機組五名は少し離れた場所で見守る。
 灯は――
 樽の入り口を開き、酒がすぐにでも飲めるよう用意して――
 それから、

 ――壷の封印を、解いた。

「―――!」
 八本の首が一気に飛び出した。灯が思わず一歩飛びのく。
 壷から、やがて胴体も出てくる。
 肝心の酒樽が、一本の首によって弾き飛ばされた。
「しまった――」
 修羅が愕然と言葉をもらした。「やつら、過去の記憶がある。学習してやがる――」
「スサノオとの戦いをですか……。なら、お酒は無理ですね」
 八本の首のうち二本が、早速炎と吹雪を同時に吐いた。
 灯は必死で避けた。
「あれが炎……あれが吹雪」
 誠が冷静に観察していく。
「よし、行くぞ!」
 修羅の号令で、修羅とともに翔子、将之が飛び出した。

●決戦

「俺は元々弱キャラだからなあ。後方支援に回るわ」
 ぶつぶつとつぶやいたフランシスは、ふと自分とともに後方に残った誠を見やり、
「お前さんはどうすんだ?」
「タイミングを見て……飛び込みます」
 誠は真剣そのものの顔でそう答えた。

 翔子が飛び上がり、オロチの背中側へと回る。
 背後には八本の尻尾があった。翔子はごくりとつばを飲み込んだ。
 灯が手には炎の剣を生み出し、自らの背中に翼を生やす。
 将之は少し離れた場所で立ち止まり、再び襲ってきた炎と吹雪を気圧で受け流した。
「助かるわ!」
 翔子が大声で将之に礼を言う。それは翔子にとってすれば、自分が囮になる意味もあった。
 背後にいる自分。もし自分に向かって首を曲げてくれれば、同士討ちも狙える――
 その瞬間、くるりと翔子のほうを向いた首が、ふわあと息を吐いた。
 黒いもやもやした霧――
「―――っ!」
 咄嗟に目を閉じたのは幸いだった。それは呪いの霧――すなわち、目が見えなくなる霧だったのだから。
 灯が呪いの霧を吐いた首を一撃する。
 すべての首の意識が灯に向いた。
 その隙を狙って将之はオロチの背後に向かい、
「まだ目を開けちゃいけませんよ!」
 と翔子に言いながら、風を生み出して空気中に漂う呪いの霧を拡散させた。
 OKです、と言いながら将之は再び灯の支援へと戻る。
「どれが癒しの首ですか〜〜〜!」
 灯は必死に炎の剣ですべての首を叩いていった。
 彼女は己の身を炎の結界で包んでいる。大抵のブレスはそれで無効化できた。
「切断してみなきゃ――分からねえよ!」
 修羅が一声吼え――両手で印を組んだ。そして、
「降臨!」
 稲妻が修羅の上に落ち、「あっ!」と全員が一瞬オロチを忘れ修羅を見る。
 修羅は――
 平気な様子で、再び顔をあげた。
 ざわり
 オロチが反応する。
『我はスサノオノミコト――』
 修羅の口から、修羅ではない誰かの声が聞こえてくる。
『オロチよ、まだ懲りぬか!』
 掌に剣。アメノハハキリ。
 八つの首のうち、七つの首が修羅に向かって、一気にブレスを吹きかけた。

「あれが――粘液、あれが毒、あれが――硝酸!」
 さらに離れた場所から誠がすべての首の役割を把握して、そして「フランシスさん!」とのんきなフランシスを呼んだ。
「申し訳ないんですが、オロチの背後にいる翔子さんに癒しの首はあれだと――伝えてください」
「しょーがねーな」
 元々伝達役くらいはやるつもりでいたけどよ、とぶつぶつ言いながら、フランシスは面倒くさそうにその長い足で走り出す。
 オロチには、どうやら過去の記憶があるらしい。
 だからこそ、スサノオノミコトを降ろした修羅に反応したのだ。
「修羅さんは囮役をやるつもりなんだ――」
 誠はつぶやいた。そして、
「ただの人間である俺が神話級の化け物に対抗する手段はひとつ……ヤマタノオロチ退治はひとつの神話……俺が出来るのはせいぜい触れたものを一時的に書き換える程度……」
 ぶつぶつとつぶやきながらも、どんどんと精神が集中していくのを感じる。
「――ならば、やることはひとつ。『俺自身を一時的にスサノオに書き換える』……人の身だから長くは持たないだろうけど、治癒の首から落とすにはこっちも神話レベルにまであげないとな……」
 ――今、修羅にスサノオ本人が降臨している。
「タイミングだ……修羅さんのスサノオに隙が出来てしまったときのための、タイミングだ」
 そして、誠は待った。
 その危うすぎる『タイミング』を。

 フランシスの伝達により、オロチの背後にいた翔子にも、どの首がどのブレスを吐くのかが分かった。
「癒しの首は――これね!」
 背後から首にのぼり、槍で思い切りつきさす。
 翔子は元から力で戦う人間ではない。槍一本で首を落とす自信は最初からなかった。
 首を刺され、その首が振り向く。その目を――翔子は突いた。

 ―――……!!!

 音にならない断末魔の叫びが聞こえた。一瞬、人間全員の動きがとまった。
「……っ! 負けない!」
 灯がとどめとばかりに、翔子が目をつぶした癒しの首を、炎を剣をふりかざし、渾身の力で叩き落す。
 ぼとり、とオロチの首がひとつ落ちた。
「おやおや、強い嬢ちゃんたちだぜ」
 怖い怖いとばかりに、フランシスが肩をすくめる。
 そして自分は、ひそかにこっそりと粘液の首に向かって呪いの波動をかけていた。
 粘液の首の動きが鈍くなる。
『隙を見せればおしまいだ』
 スサノオとなった修羅が、アメノハハキリで粘液の首を落とした。

 炎と吹雪の首は、相変わらず元気だった。
 その最中に呪いの霧が撒かれるのでたまったものではない。
「じょーだんじゃないぜっ!」
 将之はそのことごとくを風を操り拡散させた。しかし、
「あっ!」
 ――タイミング悪く、灯は呪いの霧をその目に受けてしまった。
「! 引っ込め!」
 将之は空中から落ちてきた灯をどさりと受け止め、「フランシスさん!」と後方支援に徹している悪魔を呼ぶ。
「へいへい。呪いが解けるまで後ろに引っ込ませておくぜ」
 将之から灯の体を受け取り、フランシスは見事な素早さでバトルフィールドのかなり離れた場所へと避難した。
『翔子!』
 言葉まで変わった修羅が、オロチの背後にいる翔子に声をかける。
『私が背後に回る! 交代せよ!」
「何だか知らないけど、分かったわよ……っ!」
 翔子はオロチの前面に出た。修羅がその傍らをすり抜けた。
 オロチはどこまでもスサノオを追うつもりらしい、すべての首が後ろを向いた。
「あ!? やべえ風が――!」
 将之が声をあげる。
 オロチが炎をうずまかせる。
 この状態では、炎をうまく修羅からはずさせられない。

 と――

 ――其は荒ぶる神、天より堕とされオロチ討ちし存在――
 ――この身にて現世と常世を繋ぎ――
 ――我が血と肉に来たれ――

 ――我が名はスサノオ 器たる我が汝が力に耐えることを此処に命ずる!――

 ずっと後方で様子をうかがっていた誠の言の葉が、
 空気を大きく震えさせ、
 誠の体が内側から変化していく。

 ワードマスター七枷誠。その言の葉はそれをそのまま現実にする。

 二人目のスサノオが、その場に現れた。

 オロチの残っていた首のうち半分が、うろたえたように誠のほうを向いた。
 宿敵の気配がふたつする。ひとつは自分の背後に、ひとつは自分の前方に。
 ――うろたえている。
「よっしゃ……!」
 将之がここぞとばかりに動きを乱した首のうち、炎を刀で打ち落とした。
 これで炎の脅威はない。
「灯さんの呪いを解くにはどうしたらいいの!?」
 彼女は貴重な戦力よ――と翔子が槍を構えたまま声を張り上げると、
「とにかく呪いの首を落してみりゃいいんじゃねえか?」
 フランシスののんきな声がした。「まずはそっからだろ?」
「そうね、そうしてみるわ……!」
 翔子は呪いの霧を吐き続け、ことごとく将之に拡散されているその首を狙って槍を突きだした。
 目をつく。断末魔の叫びが聞こえる。
「そのまま目を突いてください……!」
 スサノオの気配を身にまとった誠が、背後から観察していた結果を前衛に伝えた。
「目を突かれると、しばらくの間、他の首も動きをとめます……!」
「ってこたぁ、俺でも……っ!」
 ずっと風操りに終始していた将之がすかさず目をつぶされた呪いの首を刀で叩き落す。
「おい、嬢ちゃん」
 フランシスが支えていた灯を揺さぶった。
 灯はぎんっと目を見開いた。
「よくもやってくれましたね……! お返しします!」
 言うなり少女は再び背中に翼を生やし、オロチへと一直線に飛んでいく。
「……やっぱ女は怖いやね」
 フランシスはつぶやいた。

 翔子と代わりオロチの背後へ回った修羅――スサノオは、八本ある尻尾をことごとく切り払っていった。
 本当は傷跡からさがすつもりだったのだが、『ヤマタノオロチはスサノオノミコトに切り刻まれた』という史実通り尻尾も傷だらけだったので、目的の傷がどれか分からなかったのだ。
 やがて五本目の尻尾を切ろうとしたとき――
 ガチン、と何かがアメノハハキリに当たった。
『これか……』
 修羅はつぶやき、中から一本の剣を取り出した。
 これぞ、伝説の「草薙の剣」――
 その剣のおかげでますます修羅はパワーアップした。
 振り向きざまに――
 修羅は一本の首を、草薙の剣で切り払った。
 それは、硝酸の首だった。口元からこぼれでる唾液のような何かが、オロチ自身の体にこぼれおち、しゅうしゅうと煙をあげて溶けている。
「はーあっ!」
 戻ってきた灯が、一本の首の頭を炎の剣で一撃した。
 ――硬い!?
「それは――霧です!」
 誠の報告。
 フランシスがもにょもにょと口の中で何かを唱え、霧の首を呪う。
 霧の首の動きが、にぶくなった。
 翔子が霧の首の目をついた。
 修羅が後ろから、草薙の剣でその首を落とした。

 吹雪が巻き起こった。
 首のほとんどが落されたことで、重荷がなくなったかのように今までで最高の吹雪が。
「く……っ!」
 将之が気圧を必死に支配する。吹雪の流れる方向を移動させようと。
 そして全力で吹雪と戦った結果、吹雪は何とか仲間たちを襲うことなく外へ流れた。
 外には、あらかじめ誠が張った結界がある。結界にぶちあたり、吹雪はしばらくして消えた。
「でも……寒っ!」
 翔子がぶるっと震えて「もう背後に戻ってもいい!?」と修羅に問う。
『よし。では』
 修羅は背後から全面へと回ってきた。代わりに翔子が背後へと移る。
 翔子は炎を生み出した。――実体化した炎を。
 そして、背後から吹雪の首に巻きつかせ、しめあげた。
 首を上向かせる。苦し紛れに、首は吹雪を吐く。翔子はそれを、うまく避けた。
 もうひとつ残っていた毒液の首が、どろりと唾液のように黒い何かを吐く。
 灯は飛んでいたので関係なかったが、「うわったた!」と将之が慌ててそれを避けた。
『往生際の悪い……』
 修羅の低い声がする。
 毒液の首は長く首を伸ばし、大分後方にいた誠を狙って毒液を吐き出す。
「!」
 誠はぎりぎりでそれを避けた。
「うちの大切なサポーターに何すんだかね」
 フランシスが目の前にきた毒液の首を呪った。
 呪いを近くでまともに受け、首を伸ばした状態のまま、毒液の首が動かなくなる。
 灯と修羅と将之が――
 そろって、剣と刀をふりかざした。

 残るはたったひとつの首。
 翔子が実体化させた炎で縛り上げている、吹雪の――
『本当はアレを早めに倒したかったのだが……』
「今さらだ!」
 将之はオロチの首に飛び乗った。そして、
「灯ちゃん!」
「はいな!」
 翔子が動きを止めているのをいいことに、二人で両側から、首を断ち切った。

●終焉

 八本の首すべてが消滅していく。
 ついでとばかりに、修羅が残っていた尻尾もすべて切り刻んだ。「スサノオノミコト」が乗り移っている状態だから、行動がそうなってしまうのだろう。
 じゅわり じゅわり と切り口からオロチの体が溶けていく。
 しゅうしゅうと煙がわきおこり、慌てて将之が気圧を操作し受け流す。
 溶けて煙となり、天に昇っていくさまは、まさしく昇天するというに相応しかった。
「………」
 背中の翼を消した灯が、そのさまをじっと見上げている。
「どうしたの?」
 翔子が灯に尋ねた。
「はい。……これでオロチくんの呪いも断ち切れたかなって……」
 灯は照れたように笑った。「長年、人を呪うのも辛いはずですし……」
「………」
 翔子は微笑んで、歳下の少女の肩を抱く。
 背後では、時間切れでスサノオが離れた修羅と将之、面倒くさそうなフランシスが、誠の介抱をしていた。
 どうやらスサノオの気配を身にまとうのは相当の体力が要ったらしい。誠は倒れ伏せ、気絶している。
「ありがとうな。お前さんのおかげでオロチの動きがよく分かったし、動きも乱せた」
 修羅がつぶやいた。「俺ひとりで受け持てると思ったんだが……ちと自意識過剰だったかもしれん」
「そうでもないぜ。修羅のスサノオは強かったしな」
 ま、早い話――と将之はにっこり笑って言った。
「全員が力をあわせたからだ。そーだろ?」
 修羅が笑った。気絶した誠を抱えたまま笑った。
「美談で終わらされるとむずがゆいぜ……」
 フランシスが背中をかきかき言う。
「じゃあもっと言ってやる。フランシスもすっげえ仲間っぽかった。うん、すっげえ」
「よせよせ、よせっつーの!」
 全身じんましんが出たように暴れ出すフランシスに、将之がぶぶっとふきだした。
「何やってるのよー?」
 後ろから、女性二人が歩いてくる……


 事の顛末を聞いて、『アンティークショップ・レン』の店主たる蓮は煙管をふかしながらため息をついたという。
「あの日本酒、高かったんだけどねえ……」


 ―Fin―


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1555/倉塚・将之/男性/17歳/高校生兼怪奇専門の何でも屋】
【2592/不動・修羅/男性/17歳/神聖都学園高等部2年生 降霊師】
【3590/七枷・誠/男性/17歳/高校二年生/ワードマスター】
【3974/火宮・翔子/女性/23歳/ハンター】
【5251/赤羽根・灯/女性/16歳/女子高生&朱雀の巫女】
【5515/フランシス・−/男性/85歳/映画館”Carpe Diem”館長】

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■         ライター通信          ■
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火宮翔子様
こんにちは、笠城夢斗です。先日はお世話になりました。今回も依頼にご参加いただき、ありがとうございます。
先日とはうってかわってのアクションのみシナリオ、いかがだったでしょうか。
翔子さんの戦法は他のメンバーにはないものでしたので、貴重でした。楽しんでいただけましたら嬉しいです。
またお会いできる日を願って……