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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


対決! 怪人黒マント

 ここ最近、神聖都学園高等部ではある噂が広まっていた。
「なぁ、聞いたか? A組の田中が昨日出くわして、ボロ負けしたって話だぜ」
「ええ、田中って柔道部では期待のホープって言われてるんだろ?」
「こないだの新人戦でも良い成績残したっていってたじゃん」
「そう、その田中が負けたんだよ。あの黒マントに!」

 怪人黒マント。
 それが噂の元になっている人物だ。
 出現するのは決まって夜、神聖都学園の敷地内だ。
 宵闇に紛れるような黒マントを羽織り、顔は誰だか判らないようにマスクをしているらしい。
 かなり怪しげで一昔前の悪役のような姿をした怪人。
 それがただの噂でなく、目撃者、遭遇者が多数となればある少女の目が光る。
「怪しい、怪しいわ。怪人というだけあって怪しすぎるわね!!」
 その少女の名は瀬名 雫。
 今日より黒マントと壮絶なバトルを繰り広げる偉大な少女である!
「待ってなさい、黒マント! 私がすぐにでも正体を暴いてやるわよ!!」
「あの、雫さん? 女の子一人じゃ危ないんじゃ……」
 控えめに忠告する影沼 ヒミコの顔を見て雫は不思議そうな顔をする。
「一人? そんなわけないじゃない。助っ人は手配済みよ!」
 そう言いながら、雫は携帯電話のメール送信ボタンを押した。

『今夜決行! 黒マントの正体を暴くための助っ人募集!!』

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「おかしい、おかしいわ」
 雫は握りこぶしを震わせながら呟いた。
「このあたしが号令をかけているのにこの出席率の低さは何!?」
 夜の神聖都学園校内に集まったのは雫を含めて5人。
「え、ええと、何人に声をかけたんですか?」
「40人! あたしの人脈を駆使して40人よ!? その内3人しか集まらないなんて!!」
「よ、よんじゅうにん……」
 無駄な人脈の使い方に多少呆れている影沼 ヒミコ。
「まぁまぁ、そんなに大声出すと向こうから逃げちまうぜ?」
 学校内外問わず、その名を轟かせる鋼鉄番長こと不城・鋼(ふじょう・はがね)。
 その微笑で万人を和ませ、全ての諍いを治めるというエンジェルスマイルを持つが、その裏では周辺一体を治める総長の名を冠していた男である。
「そうだぜ。数より質ってな。俺らが居れば問題ないって」
 目指すは世界一のチンドン屋、志羽・翔流(しば・かける)。
 チンドンだけが取り柄ではなく、扇を使った戦闘術も使える、チンドンもできて戦闘もこなす男。
「そうだぜ、瀬名。鋼鉄番長が居れば黒マントを捕まえるのも簡単だって」
 まじりっけ無しの天然キャラ、葉室・穂積(はむろ・ほづみ)。
 天然キャラと言っても彼は弓道の全国大会ベスト8の実力。そのため今夜も一応弓と矢を持参で登場。
 この5人である。
「おいおい、葉室ぉ。鋼鉄番長だけか? 俺も居るだろ、俺も」
「あ、そうな。志羽さんもいたな」
「思い出したように言うなよッ!」
 後輩に絡み始める翔流とマイペースな穂積。
「それにしても……不城さんってホントに……」
「噂に違わず、可愛いよねぇ」
「お、おわ! なにすんだよ!!」
 雫とヒミコにイジられる鋼。
 夜の校舎に似つかわしくない雰囲気で、なにやらワイワイ賑やかにやっていた。

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 昼。雫とヒミコの所に、翔流と穂積が来ていた。
「なになに? 黒マント捕獲作戦参加者?」
「ああ、俺らも手伝ってやるよ」
「女の子だけじゃ大変そうだからな」
 雫の机に四人が集まり、黒マントの事で会議を行い始めた。
「黒マントってさ、柔道部のホープを倒したほど強いんだろ?」
「そう聞いてるわ。もしかしたらムキムキマッチョかも!?」
「え!? そんなマッチョなヤツに勝てるのか!?」
「おま、間に受けんなよ!?」
「え、でもありえなくは無いですよね?」
「そうよそうよ。もしかしたらムキムキマッチョに加えて武器の扱いもかなりの物かも!!」
「そ、そうなったら俺達が居ても敵うかどうか……」
「だからさ、そんな怪しいヤツが学校に居たらすぐバレるだろ?」
「わかんないよ? もしかしたら外部から侵入してきたのかも」
「この学校って変な事件ばっかり起こりますから、警備は結構厳重なはずですけど……。ここの生徒ならまだしも外部からとなると難しいのでは?」
「それすら掻い潜る凄腕のスパイだったりして!!」
「スパイだったのかぁ!!」
「お前はもう黙っとけぇ!!」
 会議というよりはただの4人漫才であったのは、当事者を含めその教室に居た者、誰もが認めた。

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「……ということは、何か? 真面目に下準備してたのは俺だけって事か?」
 パトロールがてら移動しつつ情報交換をしようとした鋼だったのだが……。
「いやぁ、おれは真面目に話し合ってたつもりなんだがなぁ」
「いや、お前はボケっぱなしだったぞ」
 あの4人漫才は上手かった、と後にクラスメイトなどから褒められたりするのだが、それは余談。
「まぁ、でも俺のほうも大した情報は得られなかったけどな」
 鋼が情報収集しても、黒マントは噂通りということしか判らず、結局は『黒マントは色々と謎』という事でスタートになる。
「まぁ、どんなヤツが相手でも男子諸君が気張れば問題ないわけだし、問題ないよね?」
「完全に人任せってか。言いだしっぺはお前だろうが。ったく」
 鋼の不機嫌もなんのその、雫は4人を連れて鼻歌混じりに校内を歩き回った。
「それよりも志羽さん、その恰好はどうしたんだよ?」
「ああ、これか。カッコいいだろ!」
 穂積が気付いた、というか集まった瞬間からみんな気付いていたのだがあえてスルーしていた翔流の格好。
 袴、防具、面、そして竹刀。
「……仮装パーティじゃないわよ?」
「仮装パーティならもっと派手目な恰好をしてくるっつの。これはアレだよ。おとりってヤツだ」
「おとり、ねぇ」
「こないだは柔道部員が襲われたわけだから、今度は剣道部員で誘えば出てくるんじゃないか、とね」
 自信満々の翔流だが、他の4人はそんなおとりで黒マントが現れるのか、かなり疑問に思っていた。

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 だが、しかしヤツは現れた。
「はぁーっはっはっは!!」
「誰!?」
 闇夜に響き渡る高笑い。
 声のした方を見ると、建物の屋上に妙に明るい月を背にした人影が一つ。
「あれは、もしかして……!!」
 影をよく見ると、風にマントがたなびいている。
 という事は……。
「我輩の名は怪人黒マント! 挑戦状も叩きつけてないのにノコノコ現れるとは、もしかして我輩の熱狂的なファンだな!? 後でサインをプレゼントしよう!」
 高らかに叫ぶ怪人黒マント。
「……何だか、絡み難いわね」
「というか、アホじゃないのか、アイツ」
「やっぱ俺のおとり作戦が効いたって事だろ」
「す、すげえよ、志羽さん!」
「……と、ともかく現れてくれて良かったです。……あれ、良くないのかな……?」
 どうにもテンションの上がり具合に欠ける黒マントの登場シーン。
 その雰囲気に気付いたのか、黒マントは一つ咳払いをして台詞を続ける。
「さて、今宵は貴殿らの相手をするわけだが、我輩の狙いはただ一人! 葉室 穂積! 貴殿だ!」
「えぇ!? おれ!?」
「な、なんだって!? この剣道部員(嘘)の俺じゃないのか!?」
「え……? だって貴殿は部員簿に載ってなかったよ?」
「シィット! 俺としたことが思わぬ落とし穴だったぜ!」
「というか、あの黒マント、いきなりキャラが変わった気がしたが……」
 鋼のツッコミが聞こえ、一瞬たじろいだ黒マントだが、更に一つ咳払いをして台詞を続ける。
「我輩の狙いはただ一人だが、集まってくれた貴殿らの相手もしないわけにはいくまい。出でよ、我が下僕たち!!」
 黒マントの号令と共に鋼と翔流の目の前に人型の泥人形が現れる。
「な、なんだこりゃ!?」
 穂積と他4人を分断するように現れた泥人形は4体。
「それらは我輩の式神。我輩と葉室 穂積との戦いが終わるまで、それらと戯れていてくれ! 葉室 穂積は今すぐ我輩の元へ来い! さもなくば泥人形は永遠に現れ続け、そこな女子どもにも危害が及ぶぞ!!」
 そう言って、屋上の奥に隠れていった黒マント。
 泥人形は今のところ目立ったアクションはしていないが、鋼や翔流が穂積の方へ向かおうとすると空かさず進路を妨害してくる。
「……っち、これは骨が折れそうだな。葉室、先に行け。後から俺らも合流するから」
「俺の扇術があればこんな奴ら楽勝だってな」
「わ、わかった。じゃあ、行ってくるよ!」
 建物の中に駆け出す翔流。しかし、それを良しと思わぬ少女が一人。
「犯人の顔を拝むまで、ぜぇったい帰んないんだからねえ!!」
 言わずもがな、雫だ。
 雫は驚くべき瞬発力と脚力で泥人形の邪魔する手を掻い潜って穂積を追って行った。
「……偶に、アイツがすごく見えるよ」
「ああ、俺もだ」
「……ええと、放って置いて良いんでしょうか?」
「大丈夫なんじゃないか?」
 何となく、今の雫ならどんな死地でも越えられそうな気がする。

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 雫と共に屋上へ上ってきた穂積。
 そこにはやはり月明かりを浴びて立っている黒マントが居た。
「よく来たな、葉室 穂積!」
 待ち受けていた黒マントは噂通り、黒いマントを羽織り、顔が判らない様にマスクをしていた。
「どうやら、本物みたいね。噂通りだわ」
 雫が静かに呟く。
 それを聞いて穂積は静かに気を引き締めた。
 噂通りならば、黒マントは何人もの『強いヤツ』を倒した手練。
 穂積一人の力でどうにかできるのか……、多少心配してしまう。
「葉室 穂積、貴殿の全国ベスト8の弓の腕、確かめさせてもらう! 出でよ、我が下僕!!」
 そういうと、黒マントの目の前に敷かれていた魔方陣から獅子面の弓術士が現れた。
「ちょっとぉ! 何で黒マント自ら戦わないのよ!!」
「う、うるさいな! これは前座! 穂積の腕を試すところだから!!」
 雫のブーイングに調子を外した黒マントの返答が帰ってくる。
「……やっぱり、なーんか怪しいわね。穂積ちゃん! ちゃちゃっとアイツをやっつけちゃって!!」
「簡単に言ってくれるなよ……。でも弓で負ける気はない!」
 穂積は腰にぶら下げた矢筒から一本矢を取り出し、和弓を構える。
 それに呼応するように獅子面の弓術士も何処からとも無く矢を取り出し、構える。
(的が人間じゃないなら……多分大丈夫)
 精神を集中させ、まっすぐ前を見据えて弦を引く。
 獅子面の弓術士もそれに倣うように弦を引く。
 そして満を持した。
 ピィィンと張り詰めた空気の中、穂積は気付く。
 足の下に僅かな違和感があることを。
(これは……小石?)
 確かに靴の下に小石が落ちている。
 いつもは綺麗な床の上で弓を引いてるのに、今はゴミも散らかる屋上だ。
 こんなところでは精神の集中が途切れてしまう。
 といっても、最早勝負は始まってしまった。退く事は出来ないだろう。
 というわけで、穂積は少し足をずらすことにした。
 隙を見せれば向こうの矢が飛んでくるかもしれない。事はどんな些細なことでも慎重に……。
 そして、穂積は誰にも気付かれないようにそっと足をずらしたのだが、その時、僅かに矢の先がずれてしまった。
(しまった……!)
 今まで完全に獅子面の弓術士の胴の中心を狙っていた矢が少しずれてしまったのだ。
 今、同時に矢を射た所で、向こうに致命傷を与えることは出来ないだろう。そして向こうはこちらの胴の中心に狙いを……。
「……あれ?」
 そこで気付いた。
 あの獅子面も同じく狙いがずれていることに。
 もしかして、と思い、穂積は弓を下げてみた。思ってみれば大胆な行動ではあったが、穂積の『もしかして』は現実になる。
 獅子面の弓術士も弓を下げたのだ。
「あっれぇ!? どうして!?」
 驚いた雫が声を上げる。
「……やっぱり、あの化け物はおれの行動を鏡のように映して行動してたんだ」
 穂積が試しに右腕を上げてみると、獅子面の弓術士も右腕を掲げた。
「な、な、何でバレたんだー!!」
 一番驚いたのは黒マントだった。

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 鋼と翔流とヒミコが屋上に辿り着いた時には、黒マントは両手を挙げ、降参していた。
「な!? もう終わったのか!?」
「あ、うん。案外早く終わったよ」
 翔流の問いにあっさりと答える穂積。
 鋼も幾分肩を落としていた。
「なんだか、期待外れって感じ。この黒マントってば自分では戦わないでやんの」
 一番落胆していたのは雫だった。
 これからどんな勝負が待っているのか!? とワクワクしていたのに、いきなり降参してきたのだ。
 肩透かしも良いところである。
「で、でもよかったです。皆さん怪我が無くて」
 ヒミコが間を持たせようと声を出すが、沈んだ空気ではどうしようにも無かった。
「まぁ、とりあえずメインイベントの黒マントの正体明かし、しちゃおうか」
 テンションミニマムの雫の提案に全員が適当にうなずいて、本日のメインイベントが始まろうとした瞬間。
「そ、そうは行くかぁ!!」
 黒マントはいきなり暴れだし、5人から距離を取った。
 鋼が捕まえようとしたが、現れた泥人形に阻まれてそれも叶わなかった。
「ふ、ふん! よくも我輩をここまで追い詰めたものだ! 不城 鋼、志羽 翔流、葉室 穂積! 貴様らを我がライバルとして……」
 その黒マントの台詞が終わらぬ内に雫がやはり泥人形の隙を突いて駆け出す。
 鋼鉄番長ですら足を止めたにも拘らず、泥人形を突っ切る少女。恐るべし。
「逃がさないわよぉ!!」
「うぉあ!!」
 マントを掴まれた黒マントは強引にマントを引っ張る。だが、雫の方も離さない!
 そして、マントが我慢の限界を超える。
 ビリリ、と。
「あ、破けた」
「あああああああああああああ!!」
 大声を出したのは黒マントだった。
「ちょ、おま、これ作るのにどんだけ苦労したと思ってるんだよ!? バッカ、お前! 金じゃ買えねえんだぞ!?」
「知らないわよ。ちょっと引っ張っただけで破けるそのマントが悪いのよ」
「反省の欠片も無しかよ!! 良いよ、良いさ! 瀬名 雫! お前を今日から目の仇に認定するからな! 覚悟して置けよ!!」
 そう言い遺し、黒マントは宵闇に消えていった。
 黒マントの姿が見えなくなると同時に泥人形も消え去り、屋上には静寂が戻った。
「……一体、なんだったんだよ」
「判らん。全然判らん」
「ええと、一件落着ってことで……良いのか?」
「良いんじゃないでしょうか……」
「ああ、もう。テンションドン減りなんだけど……。良いよ、もう今日はこれで解散〜。お疲れ〜」

 そんなこんなで、ある晩の黒マント騒動は幕を閉じたのだった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【2239 / 不城・鋼 (ふじょう・はがね) / 男性 / 17歳 / 元総番(現在普通の高校生)】
【2951 / 志羽・翔流 (しば・かける) / 男性 / 18歳 / 高校生大道芸人】
【4188 / 葉室・穂積 (はむろ・ほづみ) / 男性 / 17歳 / 高校生】


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■         ライター通信          ■
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 葉室 穂積様、依頼にご参加いただき本当にありがとうございます。『怪人の正体は謎でこそ』ピコかめです。(何
 色々と大暴走につきよく判らない文字列があったりしたらすみません。
 あと黒マントには逃げられちゃったけど今度機会があれば頑張ろうね☆って事でどっすか?(ぉ

 弓って、良いですよね。(何
 何を隠そう、俺のフェイバリット武器が和弓なのですよ!
 実際に何度か引いたことがあるのですが、アレは、アレは良いものだぁ!!(危
 まぁ、でも本格的に遠くにある的を狙ったことがあるわけではないですが、いつかはやってみたいですねッ!
 そんなこんなで、機会があればまた!