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<東京怪談・PCゲームノベル>


はじまりの物語……?

 それは、今から数年ほど前のこと。
 
 京都の隣に、美坂市という街がある。
 当時大学生だった棗響(なつめ・きょう)がそこを訪れたのは、そこに住む彼の親友に呼ばれたからであった。
「よかったら、今日泊まってけよ」
 すっかり長居をしてしまった響にとって、親友のその言葉はまさに渡りに船であり、それを断る理由など何一つとしてありはしなかった。

 その夜に起こることを、その時の彼はまだ知るよしもなかったのである。

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「全く……薬がまだあるかどうかくらい、ちゃんと確認しておけばいいでしょうに」
 薬局のドアをくぐりながら、響はぽつりとそう呟いた。

 夜になって、不意に親友が貧血を起こして倒れたのである。
 普段ならば、買い置きしている薬を飲んで一件落着というところなのだが、今日に限ってその買い置きが切れていたのだ。
「たまたま俺がいたからよかったようなものの、誰もいなかったらどうするつもりだったのやら」
 帰ったら、少し落ち着くのを待って、しっかり釘を刺しておかねばなるまい。
 そんなことを考えながら、響は帰り道を急いでいた。

 と。
 彼の目の前を、一人の少女が横切っていった。

 こんな夜中に、あんな幼い少女が一人で出歩くなんて、一体どうしたというのだろう?
 その疑問と、ちらりと見たその少女の可憐さが、響に彼女の後を追わせた。





 響が辿り着いたのは、人気のない裏通りだった。

 少女の姿は、なぜかどこにもなく――その代わりに、道の真ん中に一人の男が血まみれで倒れていた。

「しっかり! 何があったんですか!?」
 一も二もなく、男に駆け寄って尋ねる響。
 すると、男は何度か苦しげに口を動かし……震える手で、響の後ろを指さした。

 弾かれるように振り返った響の目に映ったのは、先ほどの少女だった。

 その顔に浮かんでいるのは、天使のような笑み。
 そして、その手に握られているのは――およそ彼女には似つかわしくない、血染めの鉈。
 返り血を浴びて、妖しく微笑む彼女は、まさに死を運ぶ美しき天使だった。

 一歩、一歩、ゆっくりと少女が近づいてくる。

 このままでは――殺される。

 そう感じた響は、とっさに男を助け起こし、必死で走った。

 少女は、なぜか、追ってはこなかった。

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 二人が逃げ込んだのは、近くにあった公園だった。

「ここまでくれば、もう大丈夫でしょう」
 安心すると、一気に疲れが襲ってくる。
 響は近くにあったベンチに腰を下ろすと、男にこう尋ねてみた。
「一体何があったんですか?」
「さあ……それが、俺にも何がなんだか……」
 わからない、と言うように首を横に振る男。
 ということは、ひょっとすると通り魔の類だろうか。
 考えにくいことではあるが、少なくとも彼女が死神であるというよりはまだありそうな話だ。
「とにかく、まずは病院と警察ですね」
 そう言って、響は携帯電話を取り出した。

 その時だった。
 突然、男が頭を抱えて苦しみだしたのである。
「どうしたんですか!? しっかり!」
 どうにかしてやりたくても、響には声をかけることくらいしかできない。
「いや……あいつは……違う、俺は……俺は誰だ?」
 響の見ている前で、男はうわごとのように意味不明なことを口走り――。

 突然、響に襲いかかってきた。

 とっさのことではあったが、間一髪でどうにか回避する。
「いきなり、何を……!?」
 そこまで言って、響ははっとした。

 目の前の男の口元には、今までにはなかった長い牙のような犬歯が覗いていたのである。

 この男は、人間ではないのか?

 驚く響に、男は邪悪な笑みを浮かべ――。

 次の瞬間、響は何かが脳を駆け抜けるような、不思議な感覚を味わった。




 
 気がつくと、男は頭を押さえて地面に横たわっていた。
 辺りには、なにかガラスの破片のようなものが散乱している。
 恐らく、さっきまで近くにあったはずの街灯のものだろう。
 だが、なぜ……一体、何が起こったというのだろう?

 答えの見あたらない無数の疑問と、そして恐怖。
 たまらずに、響は大慌てでその場を逃げ出した。

 逃げる途中、先ほどの少女の姿が見えたような気もしたが……それを確かめるために足を止める余裕など、その時の響にはあるはずもなかった。

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 その後、響は這々の体で親友の家に帰り着き、自分が巻き込まれた出来事のことを興奮気味に彼に語った。
 もちろんそんな荒唐無稽な話が信じられるはずもなく、「遅れた言い訳としちゃ気が利いてる方だ」と笑い飛ばされてしまったが――まあ、当時はかなり腹を立てたものの、今にして思えば妥当な反応だろう。
 実際、響自身、あの時何が起こったのかをある程度理解できるようになるには、かなりの時間を要したし、それまでに何度も「あれはただの悪い夢だった」と思いこもうとしたこともある。
 けれども、最後に公園の入り口からこちらを見ていたあの少女の姿だけは――その目は、まるで「また……会おうね?」と、そう言っているようだった――どうしても、響の脳裏から消えることはなかった。

 今でも消えることのない、あの夜の記憶。
 ひょっとしたら、あれが全ての始まりだったのかもしれない――。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 0424 / 水野・想司 / 男性 / 14 / 吸血鬼ハンター(埋葬騎士)
 4544 /  棗・響  / 男性 / 26 / 情報組織『式』の長

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■         ライター通信          ■
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 撓場秀武です。
 この度は私のゲームノベルにご参加下さいましてありがとうございました。

・このノベルの構成について
 このノベルは全部で四つのパートで構成されております。
 今回は若干字数が少なめですが、その分全パートが個別ということでお許しいただければと思います。

・個別通信(棗響様)
 はじめまして、撓場秀武です。
 さて、響さんはこれが初めての文章商品のようですが、響さんの描写などはこんな感じでよろしかったでしょうか?
 もし何かありましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。