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<東京怪談・PCゲームノベル>


Dead Or Alive!?

 人が空から降ってきた。
 なんて言ったら周りに変に思われるだろうか。
 ――でも、事実だし
 どこか夢を見ているような心地で目の前の少年二人を眺める。首を僅かに傾げてから一言。
「天使・・・?」


【ある日空から〜比嘉耶・棗〜】


 何故だか笑われた。それはもう思いきり。
「て・・・天使・・・っ天使だってよ、深紅・・・っ!」
「綺音、ちょっと笑い過ぎ」
「お前だって笑ってんじゃん」
 さすがにカチンときたので口を挟んだ。
「だって・・・空から降りてくるっていったら・・・・・・天使、でしょ?」
「まあ、そんな解釈もありか」
「僕達はね、天使じゃなくって生命の調律士だよ」
「生命の・・・?」
 何だそれは。問いかけてみると深紅と名乗る人の良さそうな少年の方が説明してくれる。
 生命の調律師とは人間界の生と死のバランスを取る役目を負わされている者のことをいうのだそうだ。
「そんな人達が、どうして私の所に?」
 もう一人の少年―綺音というらしい―が口を開いた。
「単刀直入に言うぞ。比嘉耶・棗、あんた、死ぬぜ」
「は・・・・・・?」
 死ぬ?
「・・・誰が・・・?」
 思わず間の抜けた声が出てしまう。
「だから、あんたがだって」
「死・・・ぬって・・・・・・」
 彼らの話によると、人間の死を管理する死亡リストとやらに彼女の名前が載ってしまったとか。
「そんな・・・まだ嫌・・・だよ。チョコ食べたりないし・・・」
「チョコって・・・あんたなあ・・・」
「大丈夫だよ。リストに載ったのは手違いでなんだ。それで僕達が君を助けに来たってわけ」
 微笑む深紅に棗は目を瞬かせる。
「助けに・・・?」
「そ。手違いで人を死なすわけにはいかねーからな。とにかく全力で護るから、今日一日は俺達から離れないこと。いいな?」
「・・・」
 棗は頷く代わりに綺音の顔を見上げた。
「・・・私はどうすればいい?二人に任せっぱなしにもできないから切り抜ける方法、考えるよ。自分のことだし」
「へえ」
 棗の申し出が意外だったのか、にっと笑う綺音。
「あんたなかなか度胸があるみたいだな。ただ脅えるだけかと思ったけど」
「・・・甘く見ないでよ・・・。それで、死因とかってわかってるの?」
「ええっとね」
 深紅がポケットからメモのようなものを取り出す。
 死因は「失血死」とのことだった。
「・・・もしかしてチョコ食べ過ぎで鼻血・・・とか!?」
「や。そりゃさすがにねーだろ。っていうかあんたどれだけチョコ好きなんだよ?」
「絶え間無く食べていても苦にならないくらい好き」
「あ、そう」
 呆れたように息をつく綺音。
 チョコの良さがわからないとは、可哀想な男だ。
「まあ、多分怪我とかするんじゃないかな」
「そっか・・・・・・・じゃあ、こけないように気をつける」
「こけただけで失血死はないだろ・・・」
「上手く切り抜けられたら五円チョコ、お礼であげるね」
「は?いらね―――」
「本当!?」
 嫌そうな顔をする綺音に対し、深紅が食いついてくる。
「やったね、綺音。チョコだって」
「お・・・おう・・・」
 目を輝かす深紅に、綺音は大きな溜息をついた。


 大人しく家に戻った方がいいのでは?という提案は呆気なく却下された。別に危険な所にいくわけでもなし、予定通り買い物をしたいという。
「ほんと・・・図太い女」
 自分の立場をきちんと理解しているのだろうか?
 深紅なんかは棗と一緒になってのほほんとウインドウショッピングを楽しんでいるようだし。
 いつものことではあるが、自分が一番しっかりしないといけないようだ。
 ――って、この中で一番年下じゃん、俺
 なのに何故。
 世の中の理不尽さに泣きたい気持ちになる綺音だった。
「あ・・・。あのチョコレートパフェ、おいしそう・・・」
 「パフェ」という言葉につい反応し、棗の視線の先を追う。
「確かに美味そう・・・」
 思わず口にしてしまってから、「あ」と思った。案の定、棗が不思議そうな視線を向けてくる。
「綺音さん、チョコ嫌いなんじゃ・・・?」
「えー?綺音はチョコ好きだと思うよ。僕なんかよりずっと甘党だし。ね?綺音」
 余計なことを!
 深紅の首を締め上げたい衝動にかられる。
「何で嫌そうな顔してるの、綺音さん」
「・・・や・・・なんつーか男が甘党って格好悪いっつーか・・・」
「それで・・・嫌いなフリを・・・?」
「・・・」
 無言で頷くと「ふ」と棗の口から息が漏れた。
「・・・子供」
「な・・・っ」
「あの店、入ろうか。・・・綺音さんもパフェ食べたいみたいだし。・・・私も食べたいし・・・」
「そだね」
「ちょ・・・待てこら!腕を引っ張るなーーーーっ」
 必死の抗議も虚しく
 綺音は二人に引き摺られ、喫茶店に足を踏み入れる羽目になった。

「・・・おいしかった?」
「・・・・・・まあ」
 また「子供」と言われるのも嫌だったので渋々頷くと、棗は満足そうに微笑んだ。
「で、次はどこに―――」
 行くんだ?と訊こうとした瞬間、店内がざわつき始めた。
「・・・何かな・・・?」
 顔をしかめる棗。
 他の客達の会話に耳を傾ける。
『おい、大変だ。自殺だってよ』
『このビルの屋上から、飛び下りようとしている奴がいるらしいぜ』
「自殺だあ・・・?」
 深紅の方を見ると綺音と同じく深刻そうな顔をしていた。
「おかしいな・・・。今日この辺の人間で死亡リストに載ってたのは棗さんだけのはずだけど・・・」
「だよな・・・」
 それなのに何故
「って、あれ?棗さんは?」
「え・・・?」
 言われて初めて棗が席から消えていることに気付いた。視線を巡らすと、店の外の階段を駆け上がっていく彼女の姿が見える。
「あの馬鹿・・・!」
 舌打ちし、慌てて後を追った。

 自殺志願者というのはまだ幼さの残る中学生くらいの少年だった。
「ねえ・・・自殺なんて意味がないよ」
 早くも説得を始めている棗に対し、少年は首を振る。
「うるさい!お前に関係ないだろ!?」
 何故自殺しようとしているのかと棗が尋ねると、少年は「受験が嫌になった」と答える。
 なるほど。よくある受験ストレスというやつか。
「その場の勢いで死ぬのは・・・後悔が残りまくると思うけど」
「うるさいっ!!」
 喚く少年は今にも飛び下りてしまいそうだ。
「おい、棗。あんた、どうする気だ?」
「そんなの・・・決まってる」
 棗は一歩ずつ少年の方に近づいていった。
 死亡リストに名前のない少年。
 そして棗は失血死・・・。
「・・・深紅。俺、何か見えてきたぞ・・・」
「何が?」
「ここが正念場ってことだよ。気抜くなよ」
 綺音が言おうとしていることがわかったのか、深紅は真剣な面持ちで頷いた。
 多分、棗が死ぬ可能性があるのは今だ。
 あの少年を助けようとして、過ってビルから転落・・・そんなところだろう。
 それなら失血死というのも納得できる。
「ねえ・・・死ぬのはやめよう?私なんて・・・今日死ぬって言われたんだよ?酷い話」
「お・・・俺は死にたいんだよ・・・っ」
「嘘。・・・あなたは面と向かって死ぬって言われたら脅えるタイプ・・・だと思うんだけど」
「う・・・うるさいっ!」
 タイミングはいつだ。
 今、綺音達が動いたら弾みであの少年は飛び降りてしまう気がする。
 なら、いつ。
「・・・そうだ。チョコ食べる・・・?五円チョコ、おいしいよ」
「な・・・チ・・・チョコ・・・?」
「そう、チョコ」
「ち・・・近づくな・・・っ!!」
 棗と少年の距離はあと数歩。
 一歩、二歩、三歩―――
「く・・・来るなあ・・・っ!うわ・・・っ」
 少年の体が傾いた。バランスを崩したのだ。
「危ない・・・っ!!」
 棗の叫び声。
 そして―――


 少年のことは助けた。手を引いて上手く屋上の方に持っていけたはずだ。
 その代わり、自分が落ちてしまったが。
 ――ああ・・・これで失血死。なるほど・・・
 冷静に納得してしまう。
「おい、棗。目開けろ」
「・・・え?」
 はっとして声に従う。綺音の顔が目の前にあった。
「・・・これは・・・どういう状況・・・・・・?」
「落ちそうになったお前を俺が助けました。で、俺も落ちそうになってます」
 綺音は右手で棗を抱え、左手で屋上の端を掴んでいた。
「・・・ピンチ・・・?」
「ピンチだな。あんたが馬鹿なことするから」
「・・・どうするの・・・?」
 問いかけると綺音は顔を歪め、深紅の名を呼んだ。
「ま・・・待って、綺音!今、引き上げるから・・・」
「お前一人じゃ無理だろ!誰か人呼んで来い!」
「でもその間に落ちたり・・・」
「しねーよーに、命令してけ!」
「あ・・・そっか」
 深紅が納得したような声をあげる。
「命令?」
「俺の体にはあいつの式神が宿っててな。あいつの命令で身体能力が強化できんだよ」
 なるほど。手の力を強化すれば、落ちる心配はなくなるわけか。
 深紅が連れてきた人々の協力により、棗と綺音は無事に救出された。
 自殺志願の少年は一度怖い思いをして懲りたらしい。泣きながら家へと帰っていったのだった。


「はい、五円チョコ」
 約束通り、綺音と深紅の手に五円チョコを一個ずつ渡した。
 深紅は嬉しそうに「ありがとう!」と言ってくれたが、綺音は不服そうだ。
「少なくねーか?俺、体張ってあんたを助けたんだぜ?」
「じゃあ、もう一枚」
「そういう問題じゃねえ!」
 不機嫌そうに顔をしかめ、拗ねるようにそっぽを向く綺音はまるで子供のようだった。
 そういえば、彼はまだ16歳。
 棗より二つも年下なのだ。随分と大人びていて、しっかりしていたから今までそうは思えなかったけれど。
 それなら、ここは一つ大人の余裕ってやつを見せてやろうか。
「じゃあ・・・もう一つお礼あげる」
「またチョコとか言うなよ?」
 まさかと苦笑しながら、棗は背伸びをし、綺音の頬にそっとキスをした。
「は・・・・・・」
「・・・うん。かなりの出血大サービス」
 ぽかんとする綺音から離れ、棗は軽く頭を下げる。
「本当にありがとう」
 そして踵を返した。
「は・・・?ちょ・・・おい・・・っ」
 動揺しまくっている綺音の声を背中に聞きながら。


 空から降ってきた甘党でちょっと子供っぽいあなた
 また、どこかで会えるといいね


「もう死にかけるのは嫌だけど」


fin

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC

【6001/比嘉耶・棗(ひがや・なつめ)/女性/18/気まぐれ人形作製者】

NPC

【鎌形深紅(かまがたしんく)/男性/18/生命の調律師】
【紺乃綺音(こんのきお)/男性/16/生命の調律師・助手】

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■         ライター通信          ■
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初めまして、ライターのひろちです。
納品が大幅に遅れてしまい申し訳ありませんでした・・・!!

書いている間、棗さんの醸し出す独特な雰囲気に惑わされっぱなしでした。
上手く彼女の魅力が出ていればいいのですが・・・。
彼女に惑わされたのは綺音も同じだったようで、いつもは大人でしっかり者の彼も少々リズムが狂っていたようですね。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです!

本当にありがとうございました!
また機会がありましたらその時はよろしくお願いします。