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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


邂逅


――十三番地区にて怪異発生。規模、種族共に不明。現状では怪異同士の交戦と推測される。状況の確認および可能なら殲滅せよ――
 自室で眠っていた乃木坂・蒼夜(ノギサカ・ソウヤ)に携帯が鳴る。其れを気怠そうにとればそのような、連絡が入った。つまり、裏の仕事が舞い込んだわけだ。
 彼は普通の高校生なのだが、怪異に対しての仕事を持つ。最もなんでも屋家業にも身を突っ込む様になりけだるさは更に増えている様だ。
「ったく、面倒だな……」
 寝ぼけ眼の彼は、Tシャツにいつもの上着を羽織って、武器を持って出かける。


 数刻前、蒼夜が向かう現場。
「邪仙か……。不愉快だ、消えろ」
「何を申すか、公主。汝もただ現世で謳歌して要るのみ。ワシとて同じ」
 来ている服はお互いほぼ同じ時代のようだ。麗龍・公主(レイリュウ・コウシュ)と、邪仙との対峙のようだ。
「ならば問おう。その魂はなんぞや?」
 公主が邪仙を睨む。
 彼の手には、既に引き取った人の骸がぶら下がっていたのだ。魂はもはやなし。
「我延命するにあたりの食事よ」
 邪仙は邪悪な笑みを浮かべていた。
「それゆえ、お主は消えなければならん。人に害する事は仙人として許されぬ事よ!」
「この混沌とした世界で何をほざくか!」
 お互いが武器を抜く、術の行使、それで深い森が、霊圧の光によって輝いた。


「な? あの霊気はただ者じゃない!」
 自転車を必死に漕いで、現地に向かう蒼夜。
 もしアレが大きな被害を及ぼすならば、各機関が黙っては居ないだろう。昔からの退魔や、IO2などが……。早急に決着をつける必要があるのだ。大きな組織同士は何かと折り合いが悪い事を子供心でも知っている蒼夜であった。
 しかし、彼がたどり着いたときには、もう一つの霊気は確認されない。
「!? な? どういう事だ?」
 目の前には、とても綺麗な髪をした女性が、青龍偃月刀をもち、何かと戦った跡に立っていただけだった。
「見られた……か……しかし、お主もなにか“力”を持ってそうだの? 先ほどの手下か? それとも仲間か?」
 女性の服装は時代錯誤である。良く書物(蒼夜が良く読むのか分からないが)である中国の服だ。しかも数百年前の代物である。
「あ、俺は対怪異対策の関係者だ。何と戦っていたか訊きたい」
「人の魂を食らう悪鬼の類と言えばいいだろう」
「では、被害者とその悪鬼は?」
「なに、倒した。被害者の方は、悲しいか、塵となってしまった」
 暴れてしまうと何もかも塵になる。と肩をすくめる公主。
「……」
 蒼夜の行動に、公主は何か警戒している。
 ――見られた以上は、どうしたものか……。
 ――此処で話をしても寒いだけだし……どうしようか。
「まず、詳しい事を当局で聞かせて欲しいのだけどさ……付いてきてくれるか?」
 蒼夜が仕事なので、と言うそぶりで公主に提案するも……。
「断る」
 公主は、即答した。
「いや其れは困るんだけどさ……色々問題が起きて」
「私は己の世界以外には縛られる事はない。其れに人間の組織に根ほり葉ほり聞かれるのも好きではないのでね」
 と、軽い布の様に、舞い上がる女。
「そうは行かない! 逃がすか!? こうなれば……」
「実力行使か? まあよかろう」
 クスクス笑う公主。
「結局こうなるのか……っくそ!」
 悪態を付く蒼夜は銃を取り出し、公主の足や腕を狙う。しかし、公主とて超越者だ。其れを巧くかわしていく。人間のキャパ以上に動ける来訪者と渡り合えるとするのは龍種や精霊などの幻想種であろう。
「あんたが、大人しくすればいいって事だ! って、ええい! 兎も角、一度は抵抗を止めて当局まで連行して貰う」
「しつこい男は嫌われるぞ?」
 銃撃の音と、軽やかに木々を渡っていく音が深い雑木林で木霊する。
 ――地の利は俺の方にある……。
 相手が枝に着地したときがチャンスだ。
 既に、この地形は把握した。いくら相手が仙号種としても……
 ――どんな相手でも俺が勝つ。
 身を隠し、気配を消す。読み通りならこの近くに舞い降りるだろう。
「追いかけっこは、もう終わりか?」
 と、女が枝に降り立った。
 今だ!
 枝を撃つ。枝は粉砕されてその波動は、彼女に咄嗟的な落下対策秘術を使え無くさせた。
「!?」
 公主はよろめいて地に落ちた。
 6秒も満たない時間。
 倒れた女に、有る程度の距離をとり、猛攻撃をかける。
「やるな、坊主」
 女性は未だ笑っていた。
「減らず口をたたいて……。 だから、大人しくしたがってくれれば面倒な事にならないんだよ!」
 彼の仕事の関係上、掃討である。抵抗するなら殺す。コレが基本だ。
 目の前には女。仙号種といえ、綺麗な女性なのだ。
 其れは理屈でしかないか? 何か引っかかる。
 銃口が震える。
 射撃が止まった。
 その一瞬、公主は……、
「やはり子供よのう」
 彼女が笑った瞬間、
 蒼夜は宙にういた。
「え?」
 そのまま何が起こったのか分からないまま、彼は意識を失っていく。
「仕事熱心なのはよいが、お主は未だ子供だろう? ありのままに生きる事を……」
 と、先ほどの女性の声が聞こえながら……・
「あんたは? いったい……何者?」
 と、蒼夜はそう言いかけて完全に意識が飛んだ。



 蒼夜は気が付くと自室である。包帯を巻かれかなりの怪我をしていると直ぐに分かる。あまりの痛さに身体が動けないのだ。
「思いっきりやられた……」
 あの時何が起こったのかを思い出す。
 あの女性は何て言ったのか?
 自分らしく? 過去のないのに……そんな俺にどうしろというのか?
 あの女性にやられた事より、今の自分に何か問われていた。
 その中で、彼自身の本来の心が今の彼に問いただす。
 ――今のままで良いのか?
 ――ありのままに生きたかったのではないのか?

「うるさい! おれは! おれは!」
 首を振るように叫ぶ。
 蒼夜は、何とも言えない不安に襲われた。
 

End