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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


『闇を狩る者達』
◆プロローグ◆
 周りの景色が急速に上昇していく。悪寒を伴った浮遊感。続いて背中に走る膨大な衝撃。
「――ッハ!」
 強制的に肺から空気を追い出され、御柳美影(みやなぎ みかげ)は眼前に血が舞うのを見た。
 道路に背中から叩き付けられ、アスファルトを割って体がめり込む。
「どーしたのー? もうお終い? これじゃーつまんないよー、ボク」
 甲高い声が頭上から聞こえた。
 ダークスーツに身を包み、何かを招き入れるように両手を広げながら、彼は中空に停滞していた。柔らかそうなブロンドと、病的に白い顔が闇夜に映える。
(これが……ヴァンパイアの力……)
 『虚無』の多大な寵愛を受けた不死の眷属。抵抗力の無い者は視線だけで意識を乗っ取られるという。
(けど、負ける訳にはいかない。ダークハンターの意地に掛けても!)
 彼女は傷つき疲弊した体に鞭打ち、得物である霊刀『夜魔王』を杖代わりに立ち上がった。バランスを崩し、少し前のめりになった拍子に、後ろで束ねていたはずの長い銀髪がバサリと目の前を舞う。
「満身創痍だね。そんな体で次の攻撃をかわせるのかな?」
 スピード強化に重点を置いたパワードプロテクター「KUNOICHI」は、至る部位が破壊され、下にある白い地肌を露出させていた。
「黙れ!」
 叫んで自分に気合いを入れ、『夜魔王』を構え直す。
 ――その時だった。後ろから人の気配を感じたのは。

◆闇を狩る者◆
「おやおや……」
 加藤忍はゆっくりとした口調で呟く。
 丁度、一仕事終えた帰りだった。これから『アンティークショップ・レン』にでも行って、今回の成果品について蓮とお茶でも飲みながら話し込もうかと思っていたのだ。
(さっきから見覚えのない風景だとは思ってたけど……まさかこんな殺伐とした異界に迷い込んでしまうとは)
 鉛を流し込んだように重苦しい空。淀んだ空気が肌にまとわりつき、名状しがたい不快感が体の奥から滲み出てくる。
「しかも訳の分からないドンパチ遭遇のおまけ付きは……私もツイてないですね」
 耳の下あたりで切りそろえたストレートの黒髪をかき上げながら、忍は目の前で対峙している二人に目をやった。
 一人は顔面蒼白のホスト。自己主張するためか、まるで似合わないブリーチをかけ、薄汚い黄色に染まった髪の毛を自慢げに梳いている。
 もう一人は全身傷だらけになった女性。体にピッタリとフィットしたスーツは恐らくパワードプロテクターだろう。美しく長い銀髪を風に靡(なび)かせ、意志の強そうな視線で”勘違いホスト”を睨み付けている。
「だ、誰?」
 女性の方がコチラに気付いたらしい。期待とも不安ともつかない感情を宿した目で、忍を見つめた。
「ああ、ちょっとした通りすがりの者ですよ」
 忍は軽い口調でそう言い、肩をすくめておどけてみせる。
「早く逃げなさい! ココは危険よ!」
 切羽詰まった女性の声。柳眉を逆立て、まくし立てるように言い放つ。しかし忍はまるで動じる様子もなく無遠慮に、しかし無駄のない動きで女性に近づいた。
「まぁ、貴女がソレを強く望むなら別に良いのですが……ただ私のポリシーに大きく大きく反するものですから」
 忍のポリシー。それは女性に対しては常に紳士的でいること。特に、今目の前にいるような美女に対しては。
「それに、これも何かのご縁です。この加藤忍、貴女のハエ叩きに微力ながら助太刀致しましょう」
 女性の横に立ち、柔和な笑みを浮かべて忍は言った。
「ば、馬鹿なこと言ってないで! 早く逃げるのよ!」
 少し大きめの綺麗な碧眼で忍の方を真剣に見ながら、女性は声を荒げる。
「そうはいかないよ」
 頭上から甲高い声が降って来た。見上げると例のホストが、怒りも露わに忍達の方を睨み付けている。
「ボクをハエ呼ばわりしたそこのお前。悪いけど、楽な死に方出来ないよ?」
「おや、奇遇ですね。私も丁度そう考えていた所なんですよ」
 忍の挑発的な言葉に、ホスト――ヴァンパイアは牙を剥きだし、瞳を紅く染めた。どうやら完全に戦闘態勢に入ったようだ。
「やれやれ不死の眷属にしては底が浅い。思慮行動はお子さま並ですか。いやー、コレは可笑しい。傑作ですね」
 あっはっは、と額に手を当てて大袈裟に作り笑いをしてみせる忍。
「死ねー!」
 ヴァンパイアは金切り声をあげ、忍に向かって高速で飛来する。
「ちょっと失礼」
 短い言葉で言うと、忍は女性を両腕で抱き上げて跳躍し、素早くその場から離れた。一瞬後、さっきまで忍のいた位置が半径五メートルほどのクレーター状になって大きく抉られていた。
「スイマセンがとりあえずお名前をお聞きしていいですか?」
 あくまでも紳士的な態度は崩すことなく、下から巻き上げる爆風に乗って器用に空中浮遊しながら、忍は自分の腕の中に収まっている女性に声を掛ける。
「み……御柳美影……」
 女性は少し顔を赤らめながら、小さな声で呟いた。
「美影さんですね。分かりました。それじゃ美影さん、ちょっと貴女の得物を拝借しますよ」
 綺麗に着地し、雑居ビルの影に身を隠した忍は、美影を降ろして彼女が持っていた刀を手に取った。
「あ、ちょ、ちょっとソレは……!」
 青ざめた表情で美影が声を上げる。
「ええ、知っています。夜魔王。持つ者の生気を糧として斬れ味を増す霊刀の一種ですよね」
 霊刀『夜魔王』。一メートル三〇センチの刀身は鏡のように磨き上げられ、常に青白い光で薄く覆われている。鍔(つば)はなく、柄の長さが五〇センチとやや長いのが特徴だ。
「あのハエにダメージを与えられる物は今のところこれしかなさそうなので」
 額に少し汗を浮かべ、忍は『夜魔王』の柄を握った。
「っく!」
 全身を襲う圧倒的な脱力感。掌から生気が吸い取られていくのが分かる。それでも忍は手を離すことなく、目を瞑って精神を落ち着けた。
「さて……」
 そして、ゆっくりと眼を開く。
「あ……」
 その忍の目を見てか、美影から驚嘆の声が漏れた。
「蒼い……瞳……」
「え? 何ですか?」
 その時、頭上で破壊音が鳴り響いた。まるで天が降ってきたかのような轟音。耳をつんざくようなコンクリートの無機質な悲鳴が忍達の鼓膜を激しく振動させる。
「ちぃ!」
 舌打ちして忍は美影を抱え直し、横っ飛びに跳んだ。
「アッハハハハハ! さっきまでの威勢はどこにいったのさ!」
 ヴァンパイアは哄笑を上げ、崩落していく雑居ビルを高い位置から愉快そうに睥睨していた。
「どうやら、お仕置きの時間のようですね!」
 石の破片が掠(かす)めたのだろう。美影の頬に一筋の紅い線が引かれている。
 それを見て忍は珍しく感情的な声を上げた。そして『夜魔王』を逆手に持ち変え、飛ぶ。
 瓦解(がかい)し、天から降ってくる雑居ビルの成れ果てを足場代わりに、忍は遙か上空に浮遊しているヴァンパイアへと肉薄して行った。
「っな!?」
 まさかこんな方法で近づかれるとは思っても見なかったのだろう。三角飛びの要領で、瓦礫から瓦礫へと高速で移動を繰り返す忍の姿に、ヴァンパイアはただ唖然としながら視線だけで追っていた。
「はぁぁぁ!」
 そして瓦礫の頂上。忍は裂帛(れっぱく)の気合いと共に、一際高く跳躍する。
「一刀流奥義『金翅鳥王剣(きんしちょうおうけん)』!」
 上空十メートルに位置するヴァンパイアの頭上まで飛んだ忍は、『夜魔王』を逆手のまま両手で持ち、刀に自重と落下速度を付加してヴァンパイアの眉間に切っ先を向けた。
 最大鳥王である迦楼羅(かるら)の如く舞った忍の突戟が完全にヴァンパイアを捕らえていた。
「こ、のおおぉぉぉぉぉぉ!」
 絶叫を上げ、ヴァンパイアは素手で『夜魔王』を受け止める。しかし力の乗った忍の攻撃を完全に止めるまでには至らない。刃先が僅かに脳を抉り、黒い血が霧のように眉間から噴出した。
「ガアアァァァァ!」
(くそ、浅いか……)
 だが忍の攻撃も致命傷とまでは行かなかった。ある程度食い込んだところで、『夜魔王』が完全に止まる。
「ちっ!」
 舌打ちして、忍はヴァンパイアの腹を蹴り、近くにあったビルの屋上へと身を移した。
 そして、その場で片膝をつく。『夜魔王』がさらなる生気を求めて、忍の体を再び蝕み始めたのだ。
「貴様! 貴様! キサマあああああぁぁぁぁぁ!」
 額から墨のようにドス黒い液体を垂れ流し、ヴァンパイアは狂ったように吼えた。
「よくも! よくもこの高貴なる不死の眷属に傷をおぉぉぉぉぉ! 人間の分際でえええぇぇぇ!」
 先程までの余裕は微塵もない。ただ激情に身を焦がし、睨み殺さんばかりに真紅の瞳で忍を射抜く。
(さて……あれでどの程度のダメージを与えられたかどうか……)
 思ったよりも体力の消耗が激しい。早期決着が望まれた。
「もぅ、いたぶり殺すのはやめだ! 塵も残さず一瞬で消し去ってくれる!」
 ヴァンパイアの周囲に黒いオーラが立ち上る。金髪を逆立て、ヴァンパイアは小さく口を動かし始めた。何か呪文のような物を唱えているようではあるが、人間とは発声が違うのか、忍には聞き取れない。
「『夜魔王』の防御フィールドを展開して! 早く!」
 下から美影の声が風に乗って届く。
「言われなくても……!」
 屋上のコンクリートに忍は『夜魔王』を突き立てた。そして柄の部分に両手をかざし、精神を集中させる。
「我が魂の楼閣喰らいし闇の王! 冥界に潜む汝の躰の一部を持って、主を護る盾となれ!」
 忍の声に応えのように、『夜魔王』から放たれる蒼い輝きが増す。それは破裂したように一気に膨れあがると、忍の周囲にドーム状となって展開した。
「死ねえぇぇぇぇぇ! 暗黒呪殺『獄龍』!」
 ヴァンパイアの前に無数の黒い棘が現出する。
「あっはははははは! 体中穴だらけにして、くたばっちまえ!」
 数千本はある黒い棘は、豪雨の様にありとあらゆる方向から忍に降り注いだ。
「ぐ、うぅぅぅぅ……!」
 『夜魔王』の防御フィールドを維持しているだけでも生気がどんどん吸い取られていく。黒い棘の殆どははじき返すものの、いくつかは内部へと侵入し、忍の体を刻んでいった。
 右脚、左頬、脇腹、右拳。
 降り止まない黒い雨にひたすら耐えながら、忍は勝つ方法を思案した。
(まぁ、結局はいつも通り。一刀流の基本であり極意に従うしかないわけだが……)
 どれくらい耐え続けていただろうか。気の遠くなるような時間を乗り切った忍はもはや満身創痍だった。立っているのがやっとといった感じだ。
「うーん、良い格好になったじゃないかー。そうそう、人間はそうでなきゃねー」
 その忍の姿を見たヴァンパイアは満足そうに頷いた。
 肩で荒い息をしながら、忍は苦しげに相手を見据えた。
「それじゃぁ……殺してあげるよ!」
 ヴァンパイアは忍にもう力が残っていないと見て、正面から突っ込んでくる。
 ――予知能力で見た通りに。
 忍は待っていたのだ。自分の残った力を最大限に活かせるチャンスを。そして、今がまさにその時。
 カッ、と大きく目を見開き、忍は『夜魔王』を脇の高さで横にして構えた。
 一刀流の極意は切り落としにあり。一刀のもとに敵を倒す。
「ッハアアァァァァ!」
 気合いと共に、残った生気を全部つぎ込むつもりで柄を握りしめた。
(後、五メートル……三メートル……一メートル……)
 切り落しとは、相手の打突の起りを察知しながらそれにかかわらず切り込み、相手の太刀を切り落として防ぎつつ、そのまま相手を斬る攻防一体の技。
(今だ!)
 ヴァンパイアの爪が、殺戮の狂喜に高々と振り上げられる。
「一刀流奥義『仏捨刀(ふっしゃとう)』!」
 叫びながら忍は『夜魔王』を逆さにし、長い柄で爪を弾く。
「おおおぉぉぉぉ!」
 その勢いに乗せて刀身を逆袈裟にヴァンパイアの体に滑り込ませた。更に刀を返して袈裟切りに斬り込む。
「な……な……!」
 黒い飛沫を浴びながら、忍はヴァンパイアの目が驚愕に見開くのを見た。
(まだ! 終わらない!)
 そのまま横薙ぎに払い抜け、ヴァンパイアの左側面へと回り込む。すくい上げるように『夜魔王』を振り上げ、左手首を跳ね飛ばす。相手の頭上で刀を逆手に持ち替え、渾身の力を込めて背中へと突き刺した。
「が! あ、あああぁぁ!」
 背中に刺した『夜魔王』を強引に引き寄せてヴァンパイアを後ろに向かせると、右肩から刀を抜く。踏ん張った左足を支点に体を半回転させ、正面に向き直ると、体を沈めて下腹を穿った。
「終わりだ。化け物」
 静に言って、忍は脚のバネを最大限に活かし、『夜魔王』を真上に引き抜く。
 腹から胸へ。胸から喉へ。喉から顔、そして脳天を突き破り、周囲に黒い華が咲いた。
 ふぅ、と息を吐く。忍の最後の大技だったが、コレで決まらなければもう手はない。生気も殆ど限界まで吸い取られてしまった。寿命が何年か縮んだかもしれない。
 呼吸を整えながら、ヴァンパイアに傾注する。
 しかし、ビクともしない。
(いくら不死の眷属とはいえ、さすがに頭部を破壊されれば再生は不可能か……)
 安堵の息をつき、忍がヴァンパイアに背を向けたその瞬間、背後で邪悪な妖気が膨れ上がった。
「後ろ! まだ生きてる!」
 美影の声が届く。
 だが、どうすればいい? 技も力ももうすべて出し尽くした。あとまだ手があるとすれば、それはもう『命』を削る――
 ドクン
 突然、忍の鼓動が早まった。周囲から彩りが失せ、白と黒で塗り分けられる。自分の周囲だけが切り取られたようにスローモーションになり、精神と肉体が分離したかのような錯覚に襲われた。
 ――汝の命、差し出すか
 ドクン ドクン
 『声』が聞こえる。
 ――覚悟は、出来ているか
 ドクン ドクン ドクン
 頭に直接響く『声』。ソレは『夜魔王』の『声』だった。
 ――汝は選ばれたのだ。さぁ、覚悟が出来ているなら求めるがいい。力を
 ドンドンドンドンドンドンドン!
 体の内側を心音が激しく叩き付ける。
 聞いたことがある。霊刀『夜魔王』に選ばれた者は、刀と一体化できる、と。
(私は……選ばれたのか……。そうか……。なら、美影を助けることが出来るな)
 視線がゆっくりと後ろを向く。
 体を二つに分けられながらも、再生を始めているヴァンパイアの姿が見えた。
(女を護って、果てるのも……一興か)
 自嘲めいた笑みを張り付かせ、忍は決断した。
(今なら出来る、最高奥義! 力を貸せ! 『夜魔王』!)
 忍の喚び声に応えるように、『夜魔王』の蒼い輝きが増す。そして忍に絶大な力が溢れかえった。風景が彩りを取り戻す。同時にスローだった世界が、元の早さに戻った。
「一刀流最高奥義『夢想剣』!」
 体は自然に動いた。蒼い残像を残し、下から大きく弧を描いた『夜魔王』が吸い込まれるようにヴァンパイアの頭部を捕らえる。
 陶器が内側から破裂したような乾いた音。
 頭の破壊と連動するかのように破裂は体へと伝播し、一呼吸のうちにヴァンパイアの体は塵と化した。

◆エピローグ◆
 気が付くと、美影の顔が目の前にあった。何故か酷く悲しそうな顔をしている。
「私は……」
「馬鹿!」
 呟いた忍に美影は涙を浮かべながら叫んだ。
「何考えてるのよ! もうちょっとで『夜魔王』に取り込まれるトコだったんだから!」
 視線の先には美影の顔。その更に向こうには鉛色の空。どうやら横になっているらしい。
 忍は自分の体を見下ろす。大切なジャケットは見る影もなく無惨に破れ、露出した肌からは血が滲んでいた。
(しかし……生きている?)
 右手を動かす。続けて左手。両足の神経も繋がっている。
 脚があると言うことは、とりあえずあの世ではないことは確かだ。
 苦笑しながら忍は上体を起こした。
「あのイケ好かないハエは?」
「ヴァンパイアなら貴方が倒したんじゃないの」
 溢れる涙を拭いながら、美影は鼻をすすらせて言う。
「そうか……倒したのか……」
 だからこそ信じられない。自分はあの時、命と引き替えに『夜魔王』から力を授かった。つまり刺し違えるはずだったのだ。
(まぁ、いいか。二人とも無事で、とりあえずなによりだ)
 忍が立ち上がろうした時、カランと澄んだ音が足下で響いた。『夜魔王』だ。どうやら自分の体の上に乗っていたらしい。
「じゃあ、これ。お返ししますよ」
 ソレを拾って美影の方に差し出すが、彼女は首を横に振る。
「貴方が持ってて。きっと私よりも巧く使いこなせると思うから」
「え……でも。美影さんの大切な商売道具でしょ?」
 戸惑う忍に美影はニッコリと微笑み、
「霊刀は主を選ぶと言うわ。そして貴方は選ばれたのよ。最初に貴方が『夜魔王』を手に取ったとき分かった。瞳が蒼く輝いてたから」
 確かに、そんな『声』を聞いた気はした。
 ――汝は選ばれたのだ。
(だから、死ななかった? 私と『夜魔王』が一体化したから?)
「大切にしてね」
 そう言って美影は屈託無く笑う。
「分かりました。この加藤忍。責任を持って霊刀『夜魔王』を使いこなしてみせますよ」
 木製の鞘に収まった『夜魔王』を強く握りしめ、忍は美影に強い誓いを立てた。
「ああ、それから。貴女はそうやって笑っている顔がお似合いですよ」
 言われた美影は顔を真っ赤に染め、
「な、何言ってるのよ! いきなり!」
「いや、貴女ほどの綺麗な女性なんですから、もう少し女性らしい楽しみ方が他に沢山あるのではないかと」
「余計なお世話よっ」
 べーっと舌を出し、子供っぽい仕草でカラカラと笑う。
「それじゃあ。また、ご縁が有ればどこかでお会いしましょう」
「ええ。また、ね」
 そして忍は『夜魔王』を手に美影と別れた。
 さっきまで鉛色だった空の一角から、僅かに陽光が差したような気がした。

 【終】

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号:5745 / PC名:加藤・忍 (かとう・しのぶ) / 性別:男性 / 年齢:25歳 / 職業:泥棒】

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■         ライター通信          ■
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 どうもこんにちは。加藤忍様。三度目のご発注ありがとうございます。
 加藤様がどうやって戦闘シーンを乗り切るんだろうと思っていましたが、なるほど、得物は現地調達すればいいわけですね。考え付きませんでした。
一刀流を私なりに調べてみたのですが、加藤様のイメージと合っていましたでしょうか。それだけが不安です(汗)。
 三度もお仕事を下さったことへのお礼と見事なプレイングを下さったことへの感謝もこめて、霊刀『夜魔王』を進呈いたします。
 また、新しい物語でお会いできれば幸甚です。では。