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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


貧乏神がやってきた

 それは突然、草間武彦の目の前に現れた。
「ふむ。思ったとおり居心地のいい場所ぢゃのう」
 小柄な老人。しわくちゃの顔をさらにしわくちゃにして微笑みながら、興信所内を見回す。
「ふむふむ。よき貧乏っぷりぢゃ。ここならわしも安心して居つけそうぢゃ」
「おい……あんた誰だ」
 草間は一歩退き、妹の零をかばいながら慎重に話しかける。
 老人はひょいと二人のほうを向き、
「わしか。わしは貧乏神ぢゃ」
「びんっ……!?」
「ふむふむ。よき貧乏面ぢゃの、おぬし」
 草間の顔をまじまじと見ながら、老人はそんなことをぬかす。
「よけいなお世話だっ! つーか、今何て言った……!? 居つくとかなんとか――!」
「ふむふむ。わしは安寧の地を求めてさすらっておったのぢゃ。ここならばゆっくり休めそうぢゃ」
「ふざけるな! 貧乏神に居つかれちゃこの事務所はおしまいだ……!」
「ふむふむ。しかしここはよき貧乏っぷりぢゃ」
 一瞬草間が言葉をつまらせたことを、誰も責められはしまい。
「案ずるな、わしは貧乏神仲間の中でもれべるが低いとされておっての。わしが居ついてもそれほど貧乏にはできんのぢゃ」
「そ、そうなのか?」
「うむ。とりあえず一家夜逃げはしないていどの貧乏で済む」
「―――!」
 草間は声にならない叫び声をあげた。そして、「出てけ! 今すぐ出て行け……!」と事務所のドアを指した。
「いやぢゃ」
 つん、と貧乏神はそっぽを向く。
「出てけっつーの!」
 がしっとつかまえようとして――草間は唖然とする。
 貧乏神は、その外見年齢にそぐわない身軽さでひょーいと飛び跳ね、草間をよけた。
 そして零のところに飛びついて、その胸にすりすりと顔をよせた。
「ふむふむ。このような娘っこの頼みならば聞いてやるんぢゃがのう」
「零に触れるなーーー!」
 蹴り。しかしひょいとよけられて。
 貧乏神は机にすとんと正座で座り込むように着地し、机にあった草間用のお茶をずずと飲んだ。
「わしを追い出そうとも無理ぢゃて。わしはここが気に入った」
「………っっっ!」
 草間の両手が、生き物のようにわらわらとうごめいた。怒りで、指先さえも真っ赤に染まっていた。

     **********

「赤貧回避は安心だけれど……」
 困ったように頬に手をあてたのは、草間興信所の事務もやっているシュライン・エマだった。
「武彦さんの精神状態が心配。――落ち着いて。ね?」
「これが落ち着けるかーーー!」
 草間は激昂してシュラインの言葉をまともに聞いていない。
 目の前では貧乏神が、相変わらずテーブルの上に正座して、ずずずと相変わらずお茶を飲んでいる。
「……零ちゃんに抱きつくって、神様には見えないよなあ……ただのヤラしいじーさんみたいだけど……」
 たまたま居合わせていた少年、葉室穂積(はむろ・ほづみ)はぽりぽりと首の後ろをかきながら貧乏神を見ていた。それから、
「と、とりあえずはさ、夜逃げするほどじゃないみたいだからまだマシじゃん!」
 彼は一生懸命、今にも貧乏神に噛みつきそうな表情の草間に言う。
「ほら、何かひとつが似合うのってすごいとおもうよー、なかなか見つけられないじゃん、自分に合ってるってものってさ!」
 ……フォローになっていない。
 とそこへ、ひとりの青年がひょこっと興信所に顔を出した。
「おんや〜。今大声が聞こえたけど、何か起こったのかよ武彦?」
 にやにやしながら勝手に事務所に入ってくるのは、もう三十近いくせにやたらと若く見える、しかも美形の青年である。
 青年、唐島灰師(からしま・はいじ)は、貧乏神の話をシュラインに詳しく聞くなり、にたりと笑った。
「いいね! じいさん、あんた見る目あるぜ……! 何てったってこの興信所は今にも崩壊寸前」
「そこまで赤貧じゃねえーー!」
 草間が口調まで荒くして灰師に怒鳴りつける。
 その怒鳴り声に誘われたのだろうか――
「邪魔するよ、草間さん」
 さらにひとり、馴染みの人間がひょっこり事務所に現れた。
 臨床心理士の門屋将太郎(かどや・しょうたろう)である。
 将太郎はテーブルの上のじいさんを見て、
「誰だい? そこにいるじいさんは」
 と誰にともなく訊いた。
 シュラインが、
「貧乏神さんらしいのだけれど……」
 と柳眉を寄せて答える。
「は? 貧乏神? へえ……貧乏神って本当にいたんだ」
 将太郎はまじまじとじいさんを見て、うんうんとうなずいた。
「俺んとこも貧乏だけど、それ以上に草間さんとこが貧乏ってことなんだな」
「待てこら門屋ー!」
「そうそう、この興信所ほど貧乏なところってそうねえよ。ほら、あのヒーター見てみ? こないだ粗大ゴミとして捨てるって言ってた知人からもらったらしーけど、その日中にぶっ壊れてやんの」
 灰師がけけけと笑いながら将太郎に言う。
「それで余計に処分に金かかって困ってるんだよな、なあ武彦」
「余計なことは言うなー灰師ーーー!」
「落ち着いて武彦さん……!」
 シュラインが一生懸命なだめた。
「そ、そうだよ草間さん。あのヒーターだって、来年になったら動き出すかもしれないじゃん」
 穂積が訳の分からない慰め方をした。
「だから、来年までオブジェだと思ってればいいんだって、ね? ね?」
「そうそう、壊れたものほどこの興信所に似合うオブジェはねーよ」
 灰師が煙草に火をつけながら言った。
 テーブルの上のじいさん貧乏神が、嬉しそうにのほほんと言った。
「おお。わしゃここでは歓迎されとるらしいの。嬉しいのう」
「ま、待って貧乏神さん」
 シュラインが慌てて、「神様って家に一神? あの、通常貧乏神様は貧乏なところでなく普通や裕福なお宅に憑いて貧乏に貶めていくものではと不思議なのだけれど」
 ほら、そこに――とシュラインは灰師を示し、
「とっても憑き甲斐がありそうな方もいらっしゃることですし」
「おおう。言ってくれるねえお前」
 灰師は唇の端をにやりとあげた。「神様にも色々あるってこった。そうだろじーさん?」
「その通りじゃ。わしゃとりあえず、貧乏な家にいるのが落ち着くのじゃ」
「うちの事務所が貧乏ならもうすでに貧乏神様いらっしゃいそうだし、もし先にいらしたら他の場所さがしてくださる?」
「ここにはおらんぞい」
 貧乏神は図々しく、お茶のおかわりまで請求した。
「おらんのにこの貧乏っぷり! 素晴らしい家を発見したものぢゃのう、わしも」
「……っ……っ……っ」
 草間が奥歯をきしらせる。
「おまけにかわいい娘っこつき……かわいいのう」
 お茶のおかわりを持ってきた零を見て、貧乏神はでれでれとした。
「っかー!」
 灰師が煙草を口から離し、初めて額に手を当てた。「なんだ、助平爺さんか」
「さっきからヤラしいんだよこのじーさん」
 穂積が灰師に言う。
 零は先ほどから言葉にも困って、全員の顔を順繰りに見つめていた。
「ああ、でも零ちゃんは心配することねーぜ? もういっそこんなとこ出て、俺の最高級マンションで暮らすか?」
「に、兄さんを放っておくわけには……」
「うう……零……」
 草間が腕に顔をうずめた。感激して泣いているのだろうか。
「ええと……うちの依頼人や協力者には、これでも一応とてもお金持ちな方々がいらっしゃるし、すごく居心地がいい訳でもないと思うの」
 シュラインが貧乏神の説得にかかる。
 しかし灰師が、
「何言ってんだ。貧乏神様だぜ? そーゆー客は全部追っ払ってくれちまうんだろ? もちろん俺を除いて」
「うむうむ。お前さんはよく分かっておる。あまり近くにはいたくないが、追っ払おうとは思わんぞ」
「そら見ろ武彦。武彦には似合いだぜ、貧乏神。いや、何にでも好かれちまって大変だねぇ」
「そうそう、好かれるってすごいことだよなっ!」
 灰師のただのからかいの言葉に、穂積が真剣にフォローのつもりのあいづちを打つ。
「貧乏神に好かれて喜ぶヤツがどこにいるかっ!!」
 草間が大声で叫べば、
「じゃあ武彦が『貧乏神に好かれて喜びました人間第一号』ってことで」
「灰師ー! お前俺に何か恨みでもあるのかー!」
「何言ってんだよ武彦」
 灰師は心の底から心外そうな顔をして、「俺はお前が困ってるのを見るのがもうこの世でトップスリーに入っちまうくらい好きってだけじゃねえか!」
「はーいーじー!」
 地団太を踏む草間をよそに、シュラインは零とともに、「一応神様だから粗末な扱いはしないほうが」とキチンと清めた高めのお客様用お茶碗と高級茶や、たまたま依頼人にもらった高級菓子などを用意していた。
「じいさんが気に入ってるっていうんだからさ」
 そんなシュラインが用意した菓子を勝手につまみながら、将太郎が口を出す。
「気が済むまでここにいさせたらどうだ? いずれ、ここに飽きて他に行くだろ」
「何言ってんの!」
 灰師が大げさに両腕を広げた。「ここに飽きるなんてありえねえ! こんな楽しい、居心地のいい場所はねえぜ、なあじいさん!」
「うむ。わしもそんな気がするぞい」
 うむうむとうなずく貧乏神。草間が頭を抱える。
「ええと、ええと」
 穂積が一生懸命頭を悩ませ、
「それじゃ、草間さんよりも貧乏な人を見つけて、その人に取り付いてもらうってのはどうだろう! あ、ウチは嫌だから勘弁してね。零ちゃんとか、若い女の子と一緒ならじーさんも一緒に来てくれるだろ?」
「だめだめ。ここ以上にじーさんのお気に召す素敵な貧乏事務所なんか、絶対存在しねえ」
 灰師が深刻を装って首を振る。
「えーでも、もしかしたらさ、草間さんよりも貧乏そうな人がいるかもしれないよ、確率低いけど」
 ――穂積はどこまでもフォローのつもりらしい。
 灰師は穂積の言葉に、ちっちっと指を振った。
「確率なんて、低いどころか、ゼロだ。むしろマイナスだっつの」
「や、やっぱりそうかな」
 うーんと穂積は腕を組んで考え込んでしまった。
「外出ればじーさんの気も変わるかと思ったんだけど……うーん……」
「つーかお前ら全員、人をバカにしてるだろーが!」
 草間は顔を真っ赤にして怒鳴った。
「バカにしてんじゃねえよ」
 灰師はふっと笑った。「事実を言っているだけさ」
「はいじーーー!」
「……そんなに貧乏神にいられるのが嫌なら、ほら、もっと仕事して、じーさんが愛想尽きるぐらいまで働いて金を稼ぐんだな」
 将太郎が草間の肩をぽんと叩いた。
 草間にじろりとにらまれて、将太郎は苦笑する。
「……まあ俺も他人のこと言えないけど。金がありゃ、もっといい場所に相談所移転してるし」
「あ、じゃあ門屋さんのところに貧乏神さん移ってもらうとか!」
 穂積がぽんと手を打った。
「勘弁してくれ!」
 自分が言っていることは棚にあげて、将太郎はぶんぶんと首を振った。
 ――シュラインはひそかに、零とともに掃除をしているフリをして、風水で金運のアップする西に黄や橙のモノを置いてみた。
 それが腐ったみかんだったというあたりは置いといて。
 シュラインは男性陣に聞こえないよう、零にだけそっと囁く。
「無理強いではなくて、ご自身の意思で旅立って頂きたいのね」
「そうですね……」
 零はそっと兄の様子をうかがい見る。
 草間は今にも血管が切れそうだった。
「ううむ……尻がむずがゆくなってきたのう」
 腐ったみかんでも効果があったのか、貧乏神はそんなことを言った。
 灰師がすかさず、
「武彦ー。じーさん尻がかゆいってさー。かいてやれよ」
「俺は猫の手かー!」
「尻をかく猫の手ってのは聞いたこたねえが、武彦の手はここにあるんだからして♪」
 むんずと草間の手首をつかみ、ひょいひょいと灰師はもてあそぶようにそれを振った。
「だめだって草間さんの手は!」
 穂積が慌ててそれをとめる。「だって草間さんは零ちゃんに触る機会が多いんだから……!」
「うおう。よくぞ教えてくれた、少年」
 目が覚めたようにはっとした灰師は、改めて「すまん、武彦」と沈痛な面持ちになった。
「じーさんの尻をかいた後は、必ず手を洗剤で洗って熱湯で消毒殺菌しろよ」
「だれが人の尻なんぞかくかーーー!」
 そんな騒ぎを横目で見ながら、将太郎が貧乏神に訊いた。
「なあ、じいさん。ここよりもっと貧乏なとこがありゃそっちに行くかい?」
「そうぢゃのう」
 うーむ、と貧乏神は、骨と皮しかないような腕を組んで、「しかしここは物凄く居心地がいいのう」
「つまりここにいたいんだな。ん〜……」
 将太郎は草間に向かって、
「こりゃ、草間興信所の貧乏ぶりじゃなくて、草間さん自身に貧乏を感じてるのかもな、このじいさん」
「あ!?」
「草間さん……あんた、金運なさそうだな……」
 将太郎は深く深くため息をついた。
 はっは、と灰師が軽く笑った。
「そんなとっくの百年ぐらい前から分かりきってること言うんじゃねーって!」
「俺はそんな昔から生きてない!」
「だから生まれる前からそういう運命だったって意味ー」
「そんな運命があるなら今からでもタイムマシンさがして使って運命ねじまげてくるわーーー!」
「草間さん、草間さん!」
 穂積が泣きそうな顔で草間にすがった。「大丈夫? タイムマシンだなんて、そろそろ頭が疲れてきちゃった? な、大丈夫だよ、夜逃げしなくて済むんだから。だから気をたしかに!」
「心配ない、少年」
 灰師が煙草の煙を吐き出しながら言った。「武彦はこれが普通だ」
「誰がだーーーーー!」
「……武彦さん、本当に血管が切れてしまいそうね……」
 少し離れたところで見ていたシュラインが、心配そうにつぶやいた。
「今日の面々は大変な人ぞろいね……」
 零が腐ってないみかんを、西へともうひとつ追加する。
 むむうっと貧乏神が、テーブルの上で飛び上がった。
「誰ぢゃ! この家の金運をあげようとしておるのは!」
「なにっ!? 誰だそんなもったいないことしてんのは!!」
 灰師がすかさず反応する。
 貧乏神はさっと部屋を見渡して、
「むっ! 西に橙色! なんたることを……!」
「あ……見つかった」
 シュラインが知らないふりをし、零がぺろっと舌を出してかわいい顔をする。
「零……シュライン……ありがとう……」
 天使でも降臨したかのような表情で、草間は両手を握り合わせた。
「零ちゃんがやったのか……くー。怒れないなあ」
 灰師が残念そうに煙草の灰を落とす。
 灰皿の場所ではなく、なぜか貧乏神の上に。
「あつっ! 何をするんぢゃおぬし!」
「あ、わりーわりー灰色の髪してやがるから、灰皿と間違えた」
 意味不明である。
 灰師はふわあと大きく欠伸をした。
 ――飽きが来た証拠だった。
「なあじーさん……面倒くせーや。零ちゃんが嫌がってるからどっか行け」
「なぬっ!? おぬしは歓迎してくれておったのと違うのか!」
「うるせーなー。人間ってのは気が変わんの。ほら、どっか行け」
 がすっと貧乏神の尻を蹴っ飛ばす。
「あ、ちょうど尻かゆかったんだっけか? かゆくなくなったか?」
 欠伸をしながら灰師は言った。「いけねーな、これでこの靴もう二度と使えねえ……武彦、いる?」
「お前な……」
 金持ちのパトロンを持つ灰師は金に頓着しない。草間はがっくりと肩を落とす。
「ほら、出てけ出てけじーさん」
「くううううう」
 貧乏神は悔しそうにうなり、「いやぢゃ! わしゃここが気に入っとるんぢゃ! 死んでも離れんぞ!」
「だーかーら、他にも貧乏はいくらでもいるって。武彦を気に入る気持ちは分かるけど」
「こんなかわいい娘っこがいるところ、離れてたまるかい!」
 ぷちっ、と灰師の血管が切れるのを、誰もが聞いた気がした。
「てんめ、零ちゃん目当てかよ……! いつまでもいい気になるなよ……!!」
 灰師はがっしと貧乏神の頭をわしづかむ。
 貧乏神がなぜか悲鳴をあげた。
「す、水分が、水分が……っ」
「ふん。こんなひょろっちいじーさんでも水はあるんだな」
 水を操る灰師は今、貧乏神の体から水分をしぼりとろうとしていた。
「どうするよ? ひからびて干物になってみるか?」
「だ、だめだって!」
 穂積が灰師を止めようとした。「だってそんな干物、誰も食べないよ! 作ってもしょうがないよ!」
「たしかにまずそーだなーそのじーさんの干物……」
 将太郎がぽつりとつぶやく。
「安心しろ」
 灰師は冷たく冷えた声で言った。「干物にしたらこの興信所のドアに貼り付けておいてやる」
「そんなモンいらん!」
 草間が叫んだ。
「やめろ、やめてくれぃ!」
 どんどん水分がしぼりとられていき、貧乏神が悲鳴をあげた。
「分かった。出て行く、出て行くから……!」
「本当か? 嘘だったら一瞬で干物だぜ」
 灰師の脅しにこくこくと貧乏神はうなずいた。
 灰師はようやく貧乏神の頭から手を離した。そして、
「あー。手ぇ洗わなきゃならねえじゃねえか。熱湯消毒か……? 勘弁しろよくそじじい」
 訳の分からない八つ当たりでもう一度貧乏神の背中を蹴り飛ばした。
「この靴、もう履かねえ。武彦にやる。ただしこの靴履いてるときにゃ零ちゃんに近づくな武彦」
「俺だって欲しくねえっつーの」
 貧乏神がとぼとぼと、蹴られた尻やら背中やらをとんとん拳で叩きながら興信所のドアに歩いていく。
「あ、貧乏神さん」
 シュラインが声をかけた。
「この先行くところがないなら、おすすめの物件をいくつかご紹介できるのだけれど……」
「本当かっ!?」
 嬉々として貧乏神は振り向いた。シュラインはそんなじーさんに、幾つかの住所を教えた。
「ありがたく様子を見に行ってくることにするわい」
 貧乏神はシュラインや零に笑顔を見せ、灰師には険悪な表情を向けて、
「おぬしは貧乏の底に落ちるがいい」
「できるもんならやってみな」
 欠伸しながら、緊張感のない声で灰師は返事をした。
「じーさん、俺のところには来ないでくれよ」
 将太郎が言う。
「俺のところも勘弁してね?」
 穂積が重ねて言った。

 かくして――
 貧乏神は、草間興信所を出て行ったのであった。

     **********

 一騒動おさまり、灰師や将太郎、穂積が帰ってしまってから、草間は事務員である女性に声をかけた。
「シュライン……」
「なに? 武彦さん」
「お前があのじーさんにすすめてた物件……全部ストーカーやら悪徳商法の元締めやらじゃなかったか……?」
 シュラインはにっこり笑って言った。
「一石二鳥。素敵でしょ?」


 ―Fin―


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086/シュライン・エマ/女/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1522/門屋・将太郎/男/28歳/臨床心理士】
【4188/葉室・穂積/男/17歳/高校生】
【4697/唐島・灰師/男/29歳/暇人】

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■         ライター通信          ■
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シュライン・エマ様
お久しぶりです、笠城夢斗です。
今回も依頼にご参加くださり、ありがとうございました!金運アップ作戦!お見事です。
ラストのオチも見事に決めてくださりありがとうございますv
またお会いできますよう……