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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


『極悪バースデイ・プレゼント』
◆プロローグ◆
「ッキャアアアアアァァァ!」
 放課後。夕日を浴びて橙に染まり行く廊下に、響カスミの叫び声が響き渡った。
「あ、あのー……」
 彼女の後ろから肩を叩いて呼び止めた生徒が、申し訳なさそうに声を掛ける。その声に反応し、カスミは両目に涙を浮かべながら恐る恐る振り返った。そして安堵の溜息をもらす。
「ご、ゴメンナサイね。変な声出しちゃって。で、でも次からは遠くの方で声を掛けて貰ってもいいかしら?」
「は、はぁ……」

 そんなやり取りを廊下の曲がり角の影からコッソリ見ていた瀬名雫は、確信したように力強く頷いた。
「やっぱり異常よ、あの恐がり方は。そう思うでしょ? ヒミコちゃん」
 怪奇探検クラブの部室で、怪奇現象についての投稿を閲覧していたら、近くでカスミの叫び声が聞こえたので、二人して見に来たのだ。
「でも……カスミ先生の恐がりは有名ですから」
「これはあたし達の出番ねっ」
 雫の力強い言葉に、少し間をおいてヒミコが声を掛ける。
「ど、どうするつもりですか?」
 ろくでも無いことを考えているのは、すでにお見通しらしい。ならば話が早いとばかりに雫は続けた。
「『毒を盛って毒を制す』って言葉、知ってる?」
「……え?」
「あたしってこういう事するのに打って付けの人、知ってるのよねー」
「ちょ、それは……」
 顔を青くしながら途切れ途切れに言葉を発するヒミコを後目に、雫は更にヒートアップする。
「日時は……そうね。今週の土曜が良いわ。丁度その日はカスミ先生の誕生日だし」
「……トラウマにならないでしょうか」

◆鹿沼・デルフェスの計画◆
「――って、言う訳なんだけど、デルフェスちゃんっ。なんかとっておきの怪談話、無い?」
 木曜日の放課後。雫に呼び出された鹿沼・デルフェスは怪奇探検クラブの部室で、出された紅茶を優雅に飲みながら話を聞いていた。
 時間が遅いせいか周りに人影はない。
 目の前では雫が、少し興奮気味に小鼻をぷくっと膨らませている。頭の紅いリボンを尻尾のように振りながら、期待を込めた視線をデルフェスに注いでいた。
「そう、ですわね……」
 デルフェスはカップをソーサーに置き、少し考え込むような仕草をした後、チラリとヒミコに視線を向ける。
 ヒミコは今回の計画にあまり気乗りしていないのか、さっきから一言も喋らず、暗い表情のまま時々溜息を繰り返していた。
(どうやら……雫様には少々お灸を据えなければならないようですわね)
 カスミはデルフェスにとって大切な茶飲み友達だ。彼女は生徒全員に対して非常に真摯に接し、責任感も強い。男女を問わず人望が厚く、女性であるデルフェスから見ても魅力的な存在だと思う。
 カスミは極度の恐がりではあるが、そんな所も彼女の魅力の一つだとデルフェスは思っていた。
「では『美術館の増える石像』という話はいかがでしょうか」
「えっ? なになにっ。ソレなに?」
 デルフェスの言葉に雫は身を乗り出し、クリクリとした大きな目を輝かせる。
「神聖都美術館はご存じですわよね」
 神聖都美術館はこの学園の最寄り駅から三駅、南へ下った駅の前にある国立美術館だ。
 展示物の豊富さと、床、壁、天井すべてが大理石製という荘厳な雰囲気が人気を集めている。
「うんっうんっ、知ってる知ってる」
「その美術館に飾られている石像がなぜか、たまに増えたりするそうです」
「ホントっ!?」
 勿論嘘だ。
 これは完全にデルフェスが即興で作り上げたお話である。
「ちょうど蓮様のコネが利く美術館ですので、明後日貸し切らせていただきましょう」
「人気のない美術館……増える石像……。うんっ、いい! カスミちゃんを怖がらせるにはもってこいのシチュエーションだわ!」
 そうとは知らず、雫は一人でテンションを上げていく。
「それでは明後日の午前十時に。カスミ様と一緒に美術館に来てくださいませ。わたくしの方で手はずは整えておきますわ」
「わかった。ありがとねっ、デルフェスちゃんっ」
 小悪魔的な笑顔を浮かべ、体全体で喜びを表現した雫は、意気揚々と部室を後にした。結局一言も言葉を発することの無かったヒミコも雫を追って席を立つ。
「ヒミコ様」
 そんな彼女をデルフェスは呼び止めた。
「あ、はい」
 軽くウェイブのかかった黒髪を揺らし、ヒミコは振り返る。
「ちょっと、お話ししたいことがあるのですが……」
 こうして、鹿沼・デルフェスの『計画』は幕を開けた。

◆何も知らない雫◆
「カスミちゃんっ。誕生日おめでとー」
 パチパチと手を叩きながら、雫は神聖都美術館の前で響カスミを出迎えた。
 休日のためか、カスミはいつものスーツ姿ではなく、白いノースリーブ・ワンピースに黄色のフリルブラウス、そして鍔広の帽子といった、いかにも夏らしい格好をしていた。
「あら。私の誕生日覚えててくれたのね。嬉しいわ」
 帽子を取り、胸の前で持ちながらカスミは待っていた雫とヒミコに視線を向ける。
 これから自分の身に恐ろしいことが降りかかろうとは知る由もないカスミは、生徒からの祝福の言葉に素直に喜んで見せた。
「で、いつもお世話になってるカスミちゃんに、あたしとヒミコちゃんからバースディ・プレゼントがありまーす」
 ジャーン、と右腕を大きく振り上げ、雫は背後にそびえ立つ神聖都美術館を指す。
「あらあら、私をここに招待してくれるの? 嬉しいわ」
「そっ。しかも本日はあたし達の貸し切りー」
 雫の言葉に、カスミは驚いて少し目を大きくした。
「嘘……よね?」
「ソレは中に入ってからのおたのしみー」
 これからカスミがどんな顔で叫び声を上げるのか。ソレを想像しただけでも雫は走り回りたいくらいの衝動に駆られる。
(ふっふー。でもコレもカスミちゃんの将来を考えてこそ。ちょーと痛いけど、すーぐに治りますからねー)
 石像を前に恐怖に歪むカスミの顔を思い浮かべながら、雫はカスミの背中をグイグイ押した。
「あ、ちょっと。そんなに押さないで。行くから、行きますから」
 戸惑いの表情を浮かべながらも、カスミは美術館へと足を踏み入れたのだった。
(ようこそ、恐怖の館へ)
 そんなことを思いながら、雫は内心ほくそ笑んだ。

 美術家の中は実に広大なスペースだった。
 入ってすぐに、抱き合う姉妹の石像が雫達を出迎え、その後ろには高さ十メートルはあろうかと思われる巨大なステンドグラスが淡く柔らかい光を大理石の空間に落としている。
「本当に……貸し切りなのね……」
 唖然とした表情でカスミは呟いた。
 雫達以外は誰もない静寂の空間。
 絵画や彫刻、造形など様々なモダンアートに囲まれた巨大なスペースは、ある意味それだけで不気味だった。
「さっ、とりあえず順路にそって回りましょーか」
 僅かに顔色の悪くなったカスミを見て、雫のテンションが上がる。
 一刻も早く『石像の間』へカスミを案内すべく、背中を押してせかし立てた。 
「ちょ、ちょっとそんなに押さないで。それより、この状況をちゃんと説明して頂戴」
「そんなのアトアト。せっかくカスミちゃんを喜ばせるために用意した舞台なんだから、細かい事なんて気にしないで楽しんでよ」
 『カスミのために』。その言葉にカスミが弱いことを雫は熟知している。自分のため
生徒がしてくれたことを、生徒想いのカスミが無下に扱うはずがない。人の良いカスミの心理を巧妙についた雫の話術だった。
「そ、そうね。有り難う。瀬名さんの気持ち。凄く嬉しいわ」
 そして思った通りカスミは気分を良くし、まるですべての疑念が払拭されたかのように明るい笑顔を浮かべる。
「じゃ行こー!」
 重苦しい程の冷厳な雰囲気の中、雫の声だけが甲高く響き渡った。

◆鹿沼・デルフェスの計画始動◆
 デルフェスは換石の術を自分にかけて三階で石像の一つとなり、順路に沿って美術品の鑑賞を続ける三人の姿を見ていた。この神聖都美術館は大きく六つのフロアに別れ、各フロアを通路が繋ぐ正六角形をしている。そしてすべてのフロアは三階まで吹き抜けとなっており、今デルフェスが居る位置からは雫達の姿が良く見通せた。
(まぁ、機嫌のよろしいこと)
 相変わらず騒がしい雫に視線を向け、デルフェスは胸中で小さく笑った。
(イタズラも結構ですが、度を過ぎると御自分に跳ね返ってくるということを、身に染みて分からせてあげますわ)
 高名な作家達の作り上げた数々の美術品に、感銘を受けたように頷き続けるカスミ。そして雫とカスミの後ろを申し訳なさそうに付いていくヒミコ。
 三人が居るのは五つ目のフロア、『精密画の間』。もう十分もたたないうちに六つ目のフロア、『石像の間』に到着するだろう。
(さて……)
 デルフェスは自分に施した換石の術を解いた。
 灰色がかり、指一本動かせなかった体が、徐々に体温を取り戻していく。
「計画開始、ですわ」
 フフフ、と小さく笑い、デルフェスは音もなく階下へと歩を進めた。

◆雫の受難◆
「すごい……まるで生きてるみたい」
 カスミは『石像の間』で感嘆の溜息をもらした。
 髪の毛一本、皺一つまで、緻密に彫られた二十体の石像が丸いフロアの壁伝いに鎮座している。四十もの視線を一身に浴び、カスミはその一つ一つを興味深げに鑑賞して回った。(さぁ、増えるのよ石像。今がチャンス!)
 デルフェスから聞いた話を思い出し、雫は心の中で快哉を叫ぶ。
(えーっと、にー、しー、ろー、はー)
 石像が増える瞬間を今か今かと待ちわび、雫は二十体以上になっていることを期待しながら石像を数え始めた。
(……じゅうはち、にじゅう……にじゅういち!)
 そして、やってきたチャンスの到来に、雫の大きくクリクリとした目が歓喜に染まる。
 思わず小躍りしたくなるのを必死に押さえ、雫は怯えた声を作ってカスミに声を掛けた。
「ね、ねぇ。カスミちゃん……。この部屋の石像って、確か二十体だったよね」
 突然名前を呼ばれ、カスミは「それがどうしたの?」と疑問符を顔に浮かべて雫の方を見る。
「二十一体、有るように見えるのは……あたしの気の、せい?」
 その言葉にカスミの顔が急激に引きつった。
「や、やだ……変な冗談よしてよ、瀬名さん。こんな時に……」
 言いながらもカスミは石像を数え始める。
 もうこうなったら雫の術中に嵌(はま)ったも同然だ。計画成功の喜びを分かち合おうと、雫はヒミコの姿を探した。
(あれ?)
 しかし、さっきまで後ろにいたはずのヒミコの姿がどこにもない。
(おっかしーな。せっかくこれからカスミちゃんの絶叫ショーが見られるって言うのに)
 小悪魔的な思考全開で、雫はキョロキョロと辺りを見回した。
「瀬名、さん。この石像……影沼さんに、似てない?」
 震えるカスミの声に反応して雫は振り向く。カスミは一体の石像を指さしながら、手を口に当てて顔面蒼白になっていた。
「え?」
 確かに似ている。軽くウェイブのかかった柔らかそうな髪。愛嬌のある大きな目。何より服装が今日ヒミコが着ていた物と全く同じ。神聖都学園の制服だ。
(まさか、そんな……)
 あり得ない思考が雫の頭の中を飛び交う。
 そして自然とヒミコの姿をした石像に手が伸び――
「え!?」
 雫が驚きの声を上げた時はもう遅かった。
「な、何コレ!?」
 僅かに石像に触れた右の人差し指が灰色に変色していく。その変化は急激に雫の腕をつたって駆け上がり、あっと言う間に胴体部分に達した。
「カ、カスミちゃん! 助け……!」
 助けを求めて振り向いた雫だったが、カスミはすでに夢の世界へと現実逃避を果たし終えていたところだった。恐怖に顔を引きつらせ、冷たい大理石のベッドで昏睡している。
 その間にも、雫の変化はどんどん進んでいた。すでに両腕の自由がきかない。まるで神経が繋がっていないかの如く、脳からの命令に連動していなかった。
「ちょ、ウソ、嘘でしょお!?」
 この時、雫はようやく理解した。自分が石になろうとしていることに。
(そんな! あたし何も悪いことしてないのに!)
 反省の色を全く見せず、雫は石化していく自分の体を見下ろす。
 太腿から膝へ。膝から脛(すね)、足首――爪先。
 首から上を残し、雫の体は彫像と化した。
「やだ! やだやだやだ! まだ、おいしー物いっぱい食べたいし、怪しい事件の調査もしたいのにー!」
 両目に涙を浮かべ、雫は大声で叫ぶ。
「助けて! 誰かー!」
 首から顎までの感覚が失せた。もう下を向くことも出来ない。
「助けてー! おかーさーん!!」
 そして口まで石となった。どんなに焦っても、どんなに恐怖を感じても声すら上げられない。
 ただ、雫の胸中を代弁するように涙だけが止めどなく溢れ出ている。
 頬、鼻――何も匂えなくなった。耳――何も聞こえなくなる。そして目――ついに最後まで残された視覚が奪われた。
 こうして、一体の石像が完成したのだった。

◆鹿沼・デルフェスの忠言◆
「さ、もう目を開けていただいて結構ですわ」
 美術館の玄関ロビー。黒い革張りのソファーに寝かせた雫の肩を、デルフェスは優しく叩いた。
「……ぇあ?」
 デルフェスの声に雫はゆっくりと目を開け、激しくしばたたかせる。
「デルフェス……ちゃん?」
 状況が理解できないのか、雫は紅いリボンを揺らして辺りを見回した。
 隣には苦笑いを浮かべて立っているヒミコ。そして雫の隣にあるソファーに、胸の前で手を組んで眠っているカスミの姿。
「どうですか? これで少しは懲りましたか?」
 イタズラっぽい笑みを浮かべながら、デルフェスは優しい口調で雫に聞いた。
「懲りたって……あー!」
 驚愕に目を見開き、叫び声を上げる雫。さすがに頭の回転が速い。もう事態を飲み込んだらしい。
「デルフェスちゃんの魔法!」
「はい。換石の術といいます」
 ニコニコと上品に笑いながら頷き、デルフェスは着物の袖で軽く口元を覆った。
「ひどーい! それじゃヒミコちゃんもグルだったのね!?」
「あ、はい……スイマセン……」
 本当に申し訳なさそうにヒミコは頭を下げる。
「デルフェスちゃん! どーしてこんなことするのよ!」
 鼻息を荒くして、今にも掴みかからんばかりの勢いで雫は激昂した。
 そんな雫とは対照的に、デルフェスは落ち着き払った喋りで返す。
「これで少しはカスミ様のお気持ち、お分かりになりましたか?」
 言われて雫は眉間に皺を寄せた。
「カスミちゃんの気持ちって……あたしはカスミちゃんの恐がりを治そうとして……!」
「雫様は明らかに御自分が楽しむためにしておられました」
 雫の言葉を遮り、デルフェスは澄ました顔で続ける。
「大体、あんな事をしてもカスミ様の恐がりが治るとは思いません。それに人間、一つや二つくらい欠点がある方が魅力的です。カスミ様はこのままの方がいいのですよ」
「そんなの……カスミちゃんに聞いてみないと分からないじゃないのさー」
 納得行かないのか、雫はほっぺたを膨らませて眉を顰めた。
「確かにその通りです。ですから雫様が本当にカスミ様の事を想ってなさった行動であれば、わたくしも止めはしません。しかし今回は最初にお話を聞いた時、雫様からは誠意が感じられませんでした。ですから、こうして被害者の立場になってお考えになる機会を差し上げたまでです」
 立てた右の人差し指を軽く前後に動かしながら、デルフェスは一つ一つ確認するように雫を諭した。
 理路整然と言いくるめられ、返す言葉がないのか雫は「うー」と呻り声を上げてデルフェスを睨む。
「……被害者の……立場」
「そうです」
 聞かされた言葉の一つを反芻するように呟いた雫に、デルフェスは鷹揚(おうよう)に頷いてみせた。
「……わかった。ゴメンナサイ……」
 うなだれ、肩を縮こまらせた雫を見て、デルフェスは満足げに頷く。
(これで雫様も一つ、素敵な女性に近づかれましたわ)
 意気消沈する雫の肩にそっと手を置き、デルフェスは出来うる最高の笑顔を見せた。

◆エピローグ◆
「……でさー、そいつがまたおかしな事言うんだよー」
 アンティークショップ・レン。いつものようにデルフェスは蓮と一緒に紅茶を楽しみながら、他愛もない話しに花を咲かせていた。
「まぁ、どんなことですの?」
 デルフェスが興味深げに聞き返した時、店の電話が鳴った。
「はいよ、アンティークショップ・レンだけど」
 三度目のコール音で蓮が出る。そして二言、三言交わした後、受話機をデルフェスの方に渡した。
「あんたにだよ。ヒミコから」
「ヒミコ様から?」
 少し戸惑いながらもデルフェスは受話器に耳を当てる。
「もしもし、鹿沼ですが」
『デルフェスさんですか!? 大変なんです! 雫さんが!』
 すぐに耳に飛び込んで来たのは、いつになく慌てたヒミコの声。
「どうしたんですか? 落ち着いて、ゆっくりと喋ってください」
『し、雫さんが! また石になって戻らないんです!』
「なんですって!?」
 思わずデルフェスも大きな声を上げる。そんな姿を蓮を煙管をくゆらせ、愉快そうに流し目を送っていた。
「わ、わかりました! とにかくすぐに行きますから!」
 乱暴に受話器を置くと、デルフェスは神聖都学園へ向かった。

 案内されたのはいつもの怪奇探検クラブの部室。
 部員達全員がどよめきながら、いつも雫が座っている椅子の方を見ている。
「雫様!」
 そこにはキーボードを叩いたまま、石化している雫の姿があった。
(そんな……。この前、換石の術は完全に解除したはず)
 デルフェスは雫の元へ駆け寄り、再び換石の術の解除を試みた。しかし全く反応しない。どれだけ強い思念を送り込んでも、雫は物言わぬ石像のままだ。
「雫様! 雫様!」
 恐らく解呪が不完全だったのだ。自分はとんでもない事をしてしまった。お灸を据えるつもりでやったことが、人一人の人生を終わらせてしまうなんて。
 デルフェスは贖罪の言葉を何度も繰り返しながら換石の術の解除を試みる。だが一向に解ける気配はない。
「ああ……」
 ついにデルフェスは崩れ落ちるように、その場に両膝を付いた。
 絶大な虚無感と脱力感、そして絶望感が体を苛む。
「スイマセン、雫様。こんな事になるなんて……」
 涙を流しながら、デルフェスは石化した雫にしなだれかかった。
「うんうん、分かってくれればいいのよ」
「はい……本当に、分か――」
 後ろからした雫の声に、デルフェスはもの凄いスピードで振り返る。そこには両手を腰にあて、大仰な仕草で胸を張る雫の姿。
「ど、どうして……」
 困惑するデルフェスを後目に、雫は石像の雫に近寄り、
「よく出来てるでしょー。あたしの石像。彫刻部に頼んで、一ヶ月がかりで作ってもらったんだから」
 エッヘンと得意げに鼻を鳴らした。
「彫刻……? それじゃ、コレは本物の……」
「そっ。正真しょーめー、ホ・ン・モ・ノの石像っ」
 雫の勝ち誇ったような高笑いが部室に木霊する。
 デルフェスは周囲を見回した。
 苦笑する部員。笑い転げる部員。申し訳なそうな顔をする部員。哀れみの視線を送って来る部員。そして、深々と頭を下げるヒミコ。
「どぅ? デルフェスちゃんっ。これで『騙された被害者の気持ち』分かったかなー?」
 へたり込むデルフェスに、雫は得意満面の顔を近づける。
 どうやら、雫の辞書には『反省』の二文字は無いようだった。
 
 【終】

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号:2181 / PC名:鹿沼・デルフェス (かぬま・でるふぇす) / 性別:女性 / 年齢:463歳 / 職業:アンティークショップ・レンの店員】

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■         ライター通信          ■
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 初めまして、鹿沼様。お仕事の発注、どうも有り難うございます。飛乃剣弥(ひの・けんや)と申します。
 さて、鹿沼様のプレイングが非常に完成された物でしたので、コレをそのまま文章にするのは商品としてどうかと思い、私なりに最後のオチを考えてみたのですがいかがでしたでしょうか? 蛇足であったならば非常に申し訳有りません(汗)。
 また別の物語でお会いできれば幸甚です。では。