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<東京怪談・PCゲームノベル>


惚れ薬 再び


 不思議と何かに呼ばれているような、そんな感覚。きらきらと輝く銀青の髪を揺らしながら月宮・奏は歩いていた。そしてふと、一件の雑貨屋が目に入る。
「銀屋……?」
 少し異質な雰囲気、でも心地悪いわけではない。そんな印象を受け興味をそそられた。奏はその店の引き戸の前へと立った。そして一呼吸置いてその引き戸を開けた。
 からからと、音が響く。
「あの……お邪魔します」
「あ、いらっしゃいませ」
 控え目に声を出したがしっかり店のものに聞こえていたようで奥から一人の青年が出てきた。奏よりも銀に近い髪色、そして深い青の瞳の青年だった。
「何かお探し物ですか?」
「あ、いえ、ただなんとなく」
「そうですか、じゃあお茶でも飲んで行きますか? それと、よかったら惚れ薬のデータとりにお付き合いいただければ、なんて……」
「惚れ薬、ですか?」
「はい、僕が作りました。あ、申し遅れました、僕は奈津ノ介です」
「私は月宮奏です」
 双方ぺこり、と頭を下げあって礼。そして顔を上げて視線があった時なんとなく笑みがこぼれた。
「あ、惚れ薬、ですよね、どうしよう……えっと……鯉……じゃない、恋……経験ないから興味はあるけど……」
 奏は逡巡する。それが自分にとって良い方向に働くかどうか、それが気になる。
「興味があるなら、おねーさんも飲めばいいよ!」
「わっ!」
「!」
 突然の声。それは成長期前頃の少年の声だった。どん、と奏の目の前にいた奈津ノ介が押しのけられて、そして自分の口の中に何か放り込まれた感覚。そして勢いあまってそれがこくんと喉を通る。反射的に後ろに引いた体が少しバランスを崩す。けれどもそれを誰かが、受け止めた。一寸前、からりと扉が開く音を確か、聞いた覚えがある。
「店先で何をしているんだ?」
 その人物の視線は奈津ノ介の方に向いている。後ろを見上げる形で奏はその人物の姿を捉えた。
 自分よりも頭二つ分近く高い背。キラキラとサイドだけ長い金の髪、かと思えばそこに朱が注してある。瞳も髪と同じ金。
「遙貴さんこんにちはっ!」
「うん、小判、相変わらず元気だな。奈津も……で、初対面だな」
「あ、はいっ!」
 かぁっと一瞬にして顔が赤くなる感覚。心臓が早くなってドキドキがとまらない。
「名は?」
「月宮奏、です……」
「奏、か……良い名だな。我は遙貴だ」
 受け止められた身体、その肩を支えていた手で頭をぽん、と一撫でされる。
 子ども扱いされている、そんな印象を受ける。けれどもドキドキして、傍にいられるのが嬉しくてたまらない。
「奈津、茶菓子を持ってきた。皆で、食べよう?」
「あ、はい。奏さんも是非」
 する、と手が離れていく。それが名残惜しくて、そして自分の隣を通り過ぎていく遙貴から離れたくないと思い奏は無意識に彼が着ている着物の端を握った。
 ぴん、と引っ張られる感覚に遙貴が振り向く。
「どうした?」
「すみません、私……何してるんでしょう」
 かあぁぁ、と赤面。ぱっと手を離して奏は顔を両手で覆う。
 体温があがっている、掌にもその熱さが伝わる。
「風邪か? 熱でもあるのか?」
「遙兄さん、ちょっと……」
「ん?」
 遙貴が不思議そうに問う。それを奈津ノ介が袖を引っ張って耳打ちをしている。その話を聞き終わると同時に苦笑し、そして奏をまっすぐ見詰めた。
「惚れ薬か、またおかしなものを。小判も悪戯が過ぎるな」
「あはは……まぁ毒じゃないし、ね?」
「奏、茶を飲もう。ほら、おいで」
 緩く微笑んで手を差し出される。その手をとっていいのかどうか、奏は心中嬉しいのとどうしたらいいのかでぐちゃぐちゃだ。落ち着くなんて言葉が今は程遠い。
「遙兄さん優しいですね」
「我はいつも優しいのだが?」
「そうでしたっけ?」
 世界がそこだけ輝いている、というのか、とても華やかだ。色が一層鮮やかに見える。恋をするだけでこんなにも見方が変わるなんて、自分が変わるなんて。
「奏さん、どうぞこちらへ」
 恋する乙女となっている奏に奈津ノ介は呼びかける。奏はそれにはい、と頷いて店の奥、ちょっと段差になったところにある和室へと招かれる。
 靴を脱いで和室にちょこんと奏は上がる。気になる遙貴との距離は微妙な距離。
「おねーさんもうちょっと寄ったらいいのにー」
「えっ、そんなっ!」
 悪びれなく小判に言われてまた熱が上がる。今自分がどんな顔をしているのかとても気になる。
「ならば我が奏の傍に寄るかな」
 よいしょ、と腰を浮かして遙貴は奏に近づく。着物の端に触れただけなの嬉しくてたまらない。
「……反応が丸わかりだ」
 今きっと頬が赤いんだろう。自分は戸惑っているのにこの相手、遙貴はそれを苦笑しながら楽しんでいるようで。ちょっとばかり切ない。けれども嫌いと思われていないのはわかる。それは安心できる。
「奏、茶菓子はどれがいいか? 色々あるんだが先に選べ」
 そう言って彼が持ってきた箱の蓋を開けて差し出す。そこには数種類のきれいな和菓子が鎮座していた。ちょっと見蕩れてしまう。
「えっと、じゃあこのピンク色の」
「うん、わかった。奈津」
「わかってます、とり皿ですよね」
 出された皿を受け取ってそこに奏が選んだのをのせてほら、と渡される。
 傍にいることも嬉しいのだけれども、奏と何度も名前を呼ばれることも嬉しい。
 どうしたらいいのか戸惑いもたくさんあるけれども、それよりも自分の表情がとても緩く、優しくなっているのが自分の心境の変化をなによりも表している。
 今口にしている和菓子よりも自分の心の方が甘いはずだ。
「うまい、か?」
「はい、おいしいです」
「そうか、それはよかった。小判も奈津も食べるといい」
「しっかり食べてます!」
「はい」
 隣にいる。その横顔を時々気がつかれないようにちらちらと見る。気がつかれているのかもしれないけれども、知らない振りをしてくれているのだろう。
「おねーさん、どきどきですね、顔真っ赤」
「小判君、もとは君のせいですよ」
「あは」
 ごめんなさい、と小判に謝られて奏はそういえば惚れ薬を飲んだのだった、と思い出す。今自分が持っている感情はその薬の力によって生まれた感情で。それを思うと少し悲しくなった。
「まぁ、そろそろ奏が表情を変えるのをみて楽しむのもやめなければな。奈津、解毒薬」
「はい」
 奈津ノ介の手から遙貴の手へと青いカプセルが渡る。それがきっと解毒薬なんだろう。遙貴はその青いカプセルを奏へと差し出す。
「奏、飲め」
「えっと……」
「我に恋するのはいいんだが、それは奏の本当の気持ちじゃないだろ? それが本当の気持ちならちゃんと答えを出すが……な?」
 少し困ったような声色。迷惑ではないけれども少し遠慮したい、というような雰囲気。
 奏は少し遙貴を見つめて、柔らかな笑みが返されると同時に薬を飲もうと受取り、きゅっとそれを握った。
 そしてそれを口へと運び喉へ。茶で流し込んでほっと一息つく。
 まだ、まだ傍にいるだけでどきどきと、鼓動は早い。けれどもだんだんと、それが落ち着いていくのがわかる。
 ゆっくりゆっくり、その速度が落ちてくるのがわかる。
「落ち着いてきたか?」
「はい……皆ああいうドキドキする不思議な気持ちなのかな……薬の効果であったけど、良い…素敵な経験だった」
「おねーさん良かったね」
「うん。でも、流石に少し……照れるね」
 そこで言葉を切って、奏は遙貴をまっすぐ見る。今までのドキドキした熱い視線ではなく、柔らかな好意の視線。
「恋はともかく、薬が切れても私、貴方のこと好きだな」
「そうか、我もだ」
「あと、ここの皆も…この場所も。暖かくて、賑やかで楽しい。出会えた縁に…感謝」
 奏は微笑を浮かべて奈津ノ介と小判の顔を順番に見る。
「そうですか、良ければまた、いらしてくださいね」
「うん、俺もおねーさんのこと好きだよ! 今度からはイタズラ一緒にしようね!」
 にこ、と笑いかけた小判にええ、と奏は返す。イタズラを一緒にする、というものがかわいいものだと思っているんだろう。遙貴と奈津ノ介はそれに苦笑する。
 恋心は、よくわからないけれどもでも好きという感情はわかる。
 奏は思う。この空間、この雰囲気は穏やかで、好き。



<END>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【4767/月宮・奏/女性/14歳/中学生:退魔師】

【NPC/奈津ノ介/男性/332歳/雑貨屋店主】
【NPC/遙貴/両性/888歳/観察者】
【NPC/小判/男性/10歳/猫】

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■         ライター通信          ■
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 月宮・奏さま

 はじめまして、ライターの志摩です。どうもありがとうございます!
 運命の阿弥陀の結果、遙貴との出会いを果たしました。かわいらしいお嬢さんがいらっしゃいましたよ!とライター大興奮でした。プレイングに恋する乙女かわいい胸キュン!と思いつつざかざかと書き進めさせていただきました!このノベルで楽しめていただければ幸いです。
 ではまたご縁があってお会いできれば嬉しいです!