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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


Seaven Colors −Volcanic Red−

 その日、平松勇吏はふらりふらりと街を歩いていた。
 空は曇天、雨が降ってもおかしくない。
「ヤな空だなぁ、こうゆう時は思いっきり遊ぶのがいいンだよな」
 と、空を見上げて前を見ていなかったせいか、正面から走ってきた少女とぶつかる。
 痛くはないが突然のことで少しよろけてしまう。ちょっと不覚だ。
「おっと……悪いな」
 一瞬の間で少女を受け止める。赤い服の少女。その赤色がとても印象的。
 彼女は何も言わずにまた走り抜けていく。その背を勇史は少し不思議そうにみつめた。
「ぶつかったら一言謝るのが筋ってもんだろうに最近の若者は……」
 そう言うがまだ自分も二十二歳。十分に若者の部類だ。
 興信所にでも遊びに行ってみるか。
 ふと、そんな考えが浮かぶ。思ったならば即実行だ。
 勇吏は足早に興信所へと向かっていく。よく知った道を足早に進んでよく知った雑居ビルの階段を上がっていく。
 そして興信所のドアをばーんと勢い良く開く。
「草間の旦那ー、遊びにきたぜェ」
「うおっ、平松か、びっくりするだろうが」
「あ、悪ィ悪ィ、扉開けてのすぐそこに立ってるなんて思わねェだろ」
 草間・武彦はあっけらかんと、悪いと思っていなさ気な勇吏を半眼で睨んだ。
「てか何かあったのか?」
「ああ、虹の赤を作るための玉が無くなったとかで人形がやってきたらしい」
「は? 何だそれ?」
「赤い玉が別の物にかわってこの辺に落ちたそうなんです。それを探してるんです」
 草間・零が言葉足らずなのをフォローし、そして掌に三体の人形をのせて見せた。頭には赤い三角帽子の手のひらに十分乗るくらいの、十センチくらいの身長の人形。
「よかったら手伝って! 灼熱のあかを探すのを!」
 ぴょん、と掌ではねるそれをふーん、と勇吏は見、そしてしばし考えた後でにやりと笑。
「ンなもん喉を熱く焼くバーボン、さらに赤と言えば赤ラベルのエヴァンウィリアムスに決まってんだろ!」
 ということで、と勇吏は武彦に手を出す。
 嫌な予感がしつつ、武彦は口を開く。
「なんだ、この手は?」
「調査費用くれってこと」
「……昼間から酒か?」
「おう! 零も行くか?」
 勇吏は零に声をかける。一人で飲むのは味気ない。どうせなら隣に女の子がいた方が楽しいだろう。そんな軽い気分だ。
「私はお掃除がまだ残っているのでお兄さんとどうぞ」
 にっこり笑って返された。その言葉に勇吏は笑う。
「そうか、じゃあ……代わりに旦那と、お前らも付き合え」
「え」
「むぎゃ」
「ふぐっ」
 がっと武彦の腕を掴み、そして零の掌にいた人形を二体掴みポケットの中へ。
 強制連行するぞ。そんなノリだ。
 その様子を零と、残された係長は見送っていた。



 近くのバー。そこへ勇吏は武彦と人形二体を連れ込んだ。
「奢ってもらうぜ、旦那ァ」
「いや、財布の中は……」
 ドン、とバーのカウンターに座り勇吏はポケットにつっこんでいた二体を出し置く。
 そして注文した酒。
「ま、とりあえずエヴァンウィリアムスをぐいっと」
 とん、とまだポケットで揺られ目を回し気味の二体の前に勇吏はボトルごと置く。
「これは違うよ」
「違う違う」
「ンなの飲むまでわからねーだろうが」
 勇吏はがっと二体を掴み、注いだグラスの中へとつっこむ、もちろん頭の方から。そしてしばしそのまま放置。武彦がそれを見て助けてやると二人はヒックと酔っ払っている。
「お、これは違うみたいだな……じゃあ他の、とりあえず酒、酒ここに全部!」
「ま、待て」
 武彦が止める間も無く勇吏はどんどん酒を注文、そして飲みまくり、飲ませたり。
 あっという間に回りはあいたグラスやら瓶やらでいっぱいだ。実は関係ないと思うような他の酒も開けて飲んでいる。だが一応依頼も忘れておらず紅い色の酒をどんどん二体に飲ませる、もとい酒に二体をつけていた。二体もずいぶん気を良くしているらしく、仕舞には自分達からグラスの中に落ちるくらいだ。
「おーいい飲みっぷりじゃねェか。んでもカンパリやブラッディメアリも違うのか……じゃあシェイカー借りて灼熱の赤って名前のカクテルでも作ってみるか」
 いい気分の勇吏はバーテンからシェイカーなどを借り、自分が想像する灼熱の赤という名のカクテルを手際よく作っていく。
 綺麗な紅い色の液体をカクテルグラスに注いで勇吏は人形の前にすっと差し出す。
「これ出した相手が美人な女だったら楽しいだろうが、まぁしょうがねェな、ほら、飲め」
「飲む飲む」
「飲むぞー」
 二体はゆるゆるとそのカクテルグラスによじ登る。途中でこぼすんじゃないかと不安になった勇吏は二体を掴んでグラスの縁へと近づけてやった。そして二体は口、ではなくて頭をつける。
 だが変化は無しだ。
「……はずれ、みたいだな。よーしたんまり飲んだし店出るかー」
「うぃー」
「おー」
 出来上がった二体をまたポケットに入れ、そして勇吏は武彦を置いていく。
 武彦はというと、勘定を支払えと店員に捕まっている最中だ。
 店の扉を開けた。雨が降っている。雨足はまだそんなに強くないが、そろそろ傘がないと辛くなりそうだ。
「やべェな、興信所に早く戻るか」
「戻るー」
 店から出て数歩、後ろからは文句を言いながら武彦がついてくる。
「いくら払ったと思ってるんだ、おい平松!」
「まぁまぁ、調査費だし、いいだろ、っと」
 後ろを向いて武彦と話していた、前を見ていない。
 これは先ほどもあったことだ。今度は、よろめいて相手の肩を掴んだ。
 赤い色の服。先ほどと同じ、少女だ。
「あ、さっきも確か……」
「お、中藤じゃねぇか?」
「違うよ、違うー」
「うん、違うー」
 じたばたと勇吏の手の中で暴れる彼女はとても焦っている様子だった。勇吏はその手をしょうがない、と離そうと思い、放しかける。
 だけれども。
「その子……玉なの!」
 ばっと息を切らして、走り回ってやってきた、この今手に捕まえている少女とそっくりの少女が現れる。一瞬何のことか頭が混乱するがすぐに理解した。
 これが、この少女が探していた灼熱の赤。
 酒だったらいいなと探したけれどもみつからなかった灼熱の赤だ。
「どうすればいいんだ、おいしっかりしろや」
 酔っ払い状態の二体を掴んで振り回すが呂律が回ってない。仕方なく中藤美猫がやってくるのを待つ。
 本当に瓜二つでそっくりな二人だ、近づいてくるたびに思う。
「武彦さんたち……その子を捕まえたのね」
 と、背後から声。振り向くとそこにはシュライン・エマがいた。
「美猫さんが追いかけてるのを見て回り道したんだけど……先を越されたわね」
 少し悔しいわね、と苦笑しながら勇吏の捕まえている美猫に変化している灼熱の赤を身を屈めて見詰めた。
 そして美猫もやってくる。
 ぴょん、と美猫の肩と、シュラインの肩にいた人形ははねる。そして顔を見合わせたようだった。
「そっくりねー」
「灼熱のあかはきっとこの赤に惹かれたから」
「姿を変えたんだね」
「あったかい感じがするよ」
「するね」
 その言葉に美猫は嬉しそうに笑う。
「おばあちゃんの手作りなの、この服」
 きゅっと自分の服の裾を掴んで彼女は恥らう。
「さて、早く玉に戻した方がいいんじゃないの?」
「そうだね!」
「だね!」
 シュラインの言葉に美猫とシュラインの肩にいた人形達はぴょん、と勇吏が捕まえていた子の頭へと乗る。
 その瞬間に灼熱のあかはしゅわしゅわと霧状になり、そして丸い、ゆらゆらと光を放つこぶし大の玉になる。
 優しい、暖かい、そして穏やか、でも激しい。そんな色合いだ。
 勇吏は酔っ払いの人形二体を武彦にぽい、と渡した。
「いい色してるな、さって依頼完遂だ。いやーごっそさん、旦那。報酬は別計算ね、よろしくゥ。後日取りに来るからな」
 勇吏はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべて武彦に言う。もちろん武彦は文句を言おうとするのだがその言葉が始まる前にじゃあな、と勇吏は意気揚々、そそくさと退散だ。
 小走り気味にその場を離れながら空を見上げる。雨が先ほどより強くなっているようでどこかで雨宿りをするか、と丁度良い軒下をみつけそこへ入る。
「一服してる間に止むかねェ……」
 煙草に火をつけてその紫煙を吸う。酒を飲みまくっていい気分。そして煙草。
 中々面白い一日だったと思う。
 そしてゆっくりと煙草を吸い終わると雨は止んでいる。通り雨だったようだ。
「おっ、止んだな。これで虹が……あー綺麗に出てるじゃねェか。ちゃんと仕事まじめにやってんだなぁ」
 雨が止み、晴れていく雲間から虹がちゃんと七色あるの確認して勇吏は見て笑う。
 きっとこんなことがなければ気にも留めなかっただろう。
「やっぱ虹ってのは七色だよな」
 もう一本、虹でも見ながら煙草吸うか、と勇吏はいい気分で火をつけた。



<END>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【2449/中藤・美猫/女性/7歳/小学生・半妖】
【4483/平松・勇吏/男性/22歳/哲学専攻大学生】
(整理番号順)

【NPC/草間・武彦/男性/30歳/草間興信所所長、探偵】
【NPC/草間・零/女性/--歳/草間興信所の探偵見習い】

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■         ライター通信          ■
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 ライターの志摩です。Seaven Colors −Volcanic Red−ご参加ありがとうございました!まだまだ未熟っぷり発揮なのですが心を込めて書かせていただいております。今回変な書き方をしたのであっちに飛んだりこっちに飛んだりといっぱいいっぱいでした。またちょっとずつ話が繋がっていく使用なので他の方のノベルを読まれるとぴしっと繋がる、と思います。
 今回(というか次回もなのですが)玉が何になっているか全然考えていなかったので中藤美猫さまのプレイングをもとに玉の変化姿を作らせていただきました。世の中には自分に似た人がいると言いますが服までの偶然はないですものね。しかもお祖母さまの手作り…!ここにトキメキを感じて使わせていただきました。
 さて赤なので、まだ続きます。次は橙ですオレンジです。虹課の彼らは玉を無くしまくります(無能っぷり発揮)管理体制が悪いとかじゃないんです。これからそのあたりもちょこちょこと書きたいです、そのうちに、きっと(弱気)

 平松・勇吏さま
 はじめまして、ご発注ありがとうございました!
 豪快さ漂うプレイングでこちらも楽しく書かせていただきました。しっかり武彦氏から搾り取って(?)楽しんでいただければ幸いです。
 またご縁があってお会いできれば嬉しく思います。本当にありがとうございました!

追記
 誤字があり修正させていただきました。
 こちらの確認不十分です、申し訳ありませんでした。