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<バレンタイン・恋人達の物語2006>


倉庫番長苦悩せり

□Opening
 世界のどこかにあるという、巨大物流センターの倉庫。ここには現在、世界中からバレンタイン用のチョコレートが集まってきていた。物流センターと取引のあるチョコレート工房は、まずこの倉庫に商品を全て納品する。すると、倉庫側で各配送先にまとめて配送すると言うシステムだ。
 何と言っても、世界中のバレンタイン用チョコレート。
 その膨大な量を前に、倉庫番長は大忙しだった。
「番長! この荷物はどこへ運びましょう」
「それは、Bブロックへ急がせろ! あと、俺をそう言う名で呼ぶな! イメージが!」
 番長の掛け声に、到着した荷物がBブロックへ運ばれて行く。
 その姿と整理表を見比べていた番長へ、一人のバイトが走り寄ってきた。
「番長! 大変です! Fブロックの荷物が、崩れ落ちてしまいました!」
「すぐに積み直せ! おい、その荷物は……」
 何故、そんな簡単な事を自分へ報告しに来るか。番長は、一言でバイトをあしらい次へ進もうとする。しかし、バイトは、番長の作業着の裾を引っ張った。
「それが、荷物の中身も飛び出してチョコレートが溢れ出し、荷造りの仕方が分かりません!」
「……、Fブロックは、宛先別にチョコの包み紙の色が違うはずだ、それに、詰める個数も違うだろう、それを頼りに……」
「番長! どの包み紙がどの宛先か、それに個数を書いた表を、作業車がひいてしまい破れてしまいました! 自分達では対処できません!」
 番長を捕まえたバイトは、胸を張って現状を報告した。
「いや、しかし、Fブロックの荷物はそろそろトラックに詰め込む時間だし……」
 番長は、この時ようやく、困惑する。実はこの物流センター、倉庫内のシステム整備が整っておらず、情報整理は全て手作業。控えの紙を取り寄せたりしている暇など無さそう……。しかも、番長はいっぱいいっぱいで頭が余計な事には働かない。
 後は、破れた作業表とバイトの記憶を頼りに山となったチョコレートの荷造りをし直す他は……、無い。
 各宛先へ、どの色の包み紙のチョコを何個詰めの箱で送れば良いのか。貴方の考えを聞かせて欲しい。

☆前提
 ●宛先は『東京』『ビルシャス』『マルクト』『アルマ通り』。
 ●包み紙の色は、『赤』『青』『緑』『紫』。
 ●個数は、10個詰の箱・20個詰の箱・30個詰の箱・40個詰の箱が用意されている。
☆破れた作業表から
 ●アルマ通りへの荷物は20個詰めの箱。
 ●東京へのチョコは紫の包み紙。
☆バイトの記憶
 ●マルクトへの箱はアルマ通りへの箱より詰める個数が多かった。
 ●青い包み紙のチョコは10個詰。赤は40個詰だった。

☆尚、包み紙の色や個数がかぶる事は無い。作業表・バイトの記憶に間違いは無い。

■01
 がうぅん、がうぅんと、クレーン車の音が響き渡る。バレンタインへ向けて、どんどんとチョコレートが出荷されて行くのだ。作業員達は、決められた役割を黙々と、時に大声を張り上げこなして行った。
 チョコレートを荷造りする者・その荷を所定の場所へ運ぶ者、……そして、まとまった荷物をトラックに積む者。そんな作業員達が、せわしなく動き回る倉庫内。その一廓……『F』と大きく柱に張り紙された個所で、倉庫番長、並びに数名のバイト要員達がただ呆然と立ち尽くしていた。
 崩れ落ちたと言うか、雪崩が起きたと言うか。
 目の前に散らばるチョコレートの山と無造作に投げ出された箱詰め用の空箱。
「……、とにかく適当に詰め込むと言うわけには、絶対にいかんからなっ」
 倉庫番長は、自分への戒めも込めて、周りを一度見まわした。
「はぁ……、しかし、どうやって荷造りすれば……」
 番長の言葉に、しかし、バイト達は困惑の色を隠せない。そんな風に返されたならば、番長だって言葉に詰まってしまった。
「チョコレート、大好きなのよね」
 その時だ。
 ざわめく一同のその後ろで、透き通るような声が静かに響いた。
 こつこつこつ、と。
 倉庫に似つかわしくない足音を響かせ、シュライン・エマは倉庫番長へ近づいた。
「何だ? 姉ちゃん……」
「番長さん、微力ながらお手伝いさせて頂きますね」
 突然の女性の登場に戸惑う番長。チョコの危機(?)となれば頑張らなくちゃ、と。しかし、シュラインは慌てず騒がず、にっこりとほほ笑んだ。

□03
 こほん、と。シュライン・エマは一つせき払いをした。タイミングを見計らい、メモ用紙を取り出す。
「さて、地名を基準にした表を書きます」
 さらさらと何かを書き出したシュラインの様子が気になるのか、番長はその手元を興味深く覗き込んだ。

 ┏━┳━┯━┯━┯━┓
 ┃☆┃東|ビ|マ|ア┃
 ┣━╋━┿━┿━┿━┫
 ┃赤┃□|□|□|□┃
 ┃青┃□|□|□|□┃
 ┃緑┃□|□|□|□┃
 ┃紫┃□|□|□|□┃
 ┣━╋━┿━┿━┿━┫
 ┃10┃□|□|□|□┃
 ┃20┃□|□|□|□┃
 ┃30┃□|□|□|□┃
 ┃40┃□|□|□|□┃
 ┗━┻━┷━┷━┷━┛

「……、こんな表に何の意味があるんだ?」
 番長は、何の事だかさっぱり分からない。
「手掛りを元に消去法で考えれば答えが導ける」
 その問いに、静かに答えたのはオーマ・シュヴァルツだった。一瞬、意外な物を見るような視線がオーマに集まる。
「だぁがしかぁし、ヴァレンタイン親父愛乱舞☆イリュージョンSP筋なり」
 一瞬だ。
 一瞬でも、まともな言葉を信じた誰かが悪かったのか。
 次に皆が見たものは……、各世界を舞台にしたバーゲンセールバトル中壮絶筋オーマポスター☆ソーン腹黒商店街なる所の特売セールチラシに色を塗っただけ、チェックマークの跡も確認出来家庭事情が伺える各色包み紙☆各個数札下げた人面チョコ……、だった。
 オーマはいそいそと、ポスターを空いている壁に貼り付け、各色の目印となる包み紙をチョコ達の前に並べた。
「番長、……、自分は夢でも見ているのでしょうか……」
 こそっと、バイト員が倉庫番長に耳打ちする。
「しっ、関わり合いになるな、あと、おれをその名で呼ぶな、イメージが!」
「は、はい、番長」
 巣鴨を目指すお婆ちゃんのような30のチョコ。
「へい、ガール、僕の逢魔にならないかい」
 と、シュラインに熱心に声をかけるのは、10のチョコだ。
 ちなみに、40のチョコは仮面被り第二階層はまだかと終始呟く、20はアニキ賛歌を延々歌うマッスルアニキチョコ。チョコチョコチョコ。
 人面のチョコに、皆、目を奪われるも、結局何も言う事ができなかった。
 ただ、オーマのなすがまま、ぼんやりと事態を眺めていた。
「確定分の、『アルマは20』と『東京は紫』を書き入れるわね」

 ┏━┳━┯━┯━┯━┓
 ┃☆┃東|ビ|マ|ア┃
 ┣━╋━┿━┿━┿━┫
 ┃赤┃×|□|□|□┃
 ┃青┃×|□|□|□┃
 ┃緑┃×|□|□|□┃
 ┃紫┃○|×|×|×┃
 ┣━╋━┿━┿━┿━┫
 ┃10┃□|□|□|×┃
 ┃20┃×|×|×|○┃
 ┃30┃□|□|□|×┃
 ┃40┃□|□|□|×┃
 ┗━┻━┷━┷━┷━┛

 しかし、何事も無かったかのように、シュラインは表のマスへ○×を書き始めた。
 彼女は、何があっても、当初の目的を果たそうと言うのか。
「いい? 色と個数のペア、『青&10』と『赤&40』以外の『30』と『緑』は、『アルマに緑』と『東京に30』として振り分けられるわね」
 と言うのも、東京は紫と確定しているので、『青&10』と『赤&40』の組み合わせは共に当てはまらない。『20』はアルマで確定しているので、『東京&紫&30』と確定できるのだ。
 これにより、残っている緑はアルマと組み合わさる事も確定し、『アルマ&緑&20』の組み合わせが完成する。
 シュラインは、丁寧に表を指差しながら、倉庫番長達に説明をする。

 がさり

 その時だ。
 シュラインの周りに集まる者達の耳に、何やらがさがさと紙のすれる音が聞こえてきた。
「アニキィ、おりゃあ、熱く包まるぜぇ!!!!!」
 ふと、足元を見る。
 そこでは、20と胸に刻まれたマッスルアニキチョコが、緑色に塗られた特売セールチラシを身にまとい、必死にアルマ通りのポスターへと動き出していた。
「ひっ」
 誰かが、耐えきれず悲鳴を上げる。震える腕で、誰かが彼の口を塞いだ。関わり合いになってはいけない。本能が、そう叫んでいる。
「はいよ、婆も進むがえ」
 そして、当然のように、お婆ちゃんのような30のチョコは紫色のチラシを身につけ東京のポスターを目指していた。
「ふふ、マルクトはアルマより個数が多いのなら残った中では40個だけだから赤と40のペアが該当し、残った青の10のペアがビルシャスへとなるわよね」
 シュラインは、その中でも一人ほほ笑み、さらに表に書きこんで行く。
 倉庫番長は、ごくりと唾を呑み込んだ。
「姉ちゃん、只者じゃねぇな」
「そんな、ただ、こうやって表にすれば一目瞭然よ」
 ちらり、と。番長は足元を見た。それぞれ、残ったチョコも指定された色のチラシを身体に巻きつけうぞうぞと進んで行く。
 見た事も無いようなメルヘンな光景に、気がどうかしてしまいそうだった。
 けれども、シュラインは、この異常な光景の中で淡々と作業を進めて行った。番長は、そんな彼女のある意味強靭な精神を絶賛したのだが、それは上手く伝わらなかったようだ。
 それよりも、シュラインからは丁寧に完成された表を手渡される。

 ┏━┳━┯━┯━┯━┓
 ┃☆┃東|ビ|マ|ア┃
 ┣━╋━┿━┿━┿━┫
 ┃赤┃×|×|○|×┃
 ┃青┃×|○|×|×┃
 ┃緑┃×|×|×|○┃
 ┃紫┃○|×|×|×┃
 ┣━╋━┿━┿━┿━┫
 ┃10┃×|○|×|×┃
 ┃20┃×|×|×|○┃
 ┃30┃○|×|×|×┃
 ┃40┃×|×|○|×┃
 ┗━┻━┷━┷━┷━┛

「整理すると、『東京・紫・30個』『ビルシャス・青・10』『マルクト・赤・40』『アルマ通り・緑・20』となると思うの」
 シュラインは優しげなほほ笑みをたたえたまま、番長に丁寧に説明した。
 番長は、その言葉を聞きながら、表と見比べ何度か頷く。
「と、言うわけだ、分かったか? 番長?」
 は。
 しゃがんで、おもしろそうに皆の反応を見ていたオーマが突然立ち上がった。ぱんと、膝の埃を一度払い、にやりと笑う。
「ああ、おかげさまで……」
 その普通の物言いに、つい心を緩める番長。
 その目に飛び込んできたのは、それぞれのポスターの前で、怪しくうごめく人面チョコ達だった。

□04
「よぉし、お前ら! すぐに詰め作業だっ」
 何はともあれ、これで何とかなりそうだ。
 番長の掛け声を皮切りに、バイト員達が一斉にチョコの箱詰めに取りかかった。
「じゃあ、俺は下僕主夫ヴァレンタインデイ全世界チョコ配送バイト再開だ」
 きりりと表情を整えるオーマ。怪しい動きのチョコ達を携え、必要以上に爽やかな表情で倉庫を去って行った。
 作業中のバイト員から、何やらほっと溜息が漏れる。
 有難う! オーマ・シュヴァルツ!!
 君のその勇姿! いち早く忘れたい!!!
 皆の思いは同じだった。
「チョコ、自分用にも贈物としても利用させてもらうと思うのだけど」
 手を振り、オーマを見送るシュライン。
 ぽつりと、そう呟いた。
「ああ、なら配送前にはこの倉庫を通るモノもあるだろう」
 助けてくれたお礼をと、倉庫番長が近づいてくる。
「今後はしっかり控えも取っておいて万全の体制で挑んで頂きたく心より願っておりますので」
 その番長に、にっこりと笑顔で、シュラインは微笑み振り向いた。

 はりついたえがおがなぜかこわい。

 番長は、礼を言うのも忘れて、びくびくとしながら冷や汗を掻いた。
「ともあれ皆様お疲れ様です」
 番長のその様子がおかしかったのか。
 シュラインは、最後に笑顔で皆を激励し、倉庫から去って行った。

■Ending
 愛する人に、思いを込めて。
 贈るチョコは、甘くてほろ苦い。
 溶けてとろけて、思いも一緒に溶け合うと良いけれど。

 シュラインの元に、見覚えのある紫色のチョコが届いたのは、それから間も無くの事だった。
「うん、おいしい」
 一粒、頬張り、シュラインから笑顔がこぼれた。
 差出人の名は無いけれど、シュラインには分かる。これが、番長からのお礼なのだろう。
 と、言う事は、あのチョコ達は無事出荷できたのか。
 ああ、良かった。
 更にもう一粒。
 魅惑のチョコに手が伸びた。
<End>


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

【 0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員 /東 】
【 1953 / オーマ・シュヴァルツ / 男 / 39 / 医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り /ソ 】

(※:登場人物一覧は発注順で表示させていただきました。)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 こんにちは、ライターのかぎです。この度は、倉庫番長へのご協力、ありがとうございました。そして、皆様、ご正解おめでとうございます。
 □部分は集合描写、■部分は個別描写になっております。
 バレンタインなのに、恋愛要素一切無しのノベルでしたが、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

■シュライン・エマ様
 いつもご参加有難うございます。涙は女の武器だとか、良く言われますけれども、笑顔も女の武器ですね。番長へのにっこり攻撃で、確信した次第であります。どきどきでした。
 では、また機会がございましたらよろしくお願いします。