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テラレンジャー変身リング、再び!
東京都が管理する地下の下水処理施設に何者かが侵入、そしていとも簡単に占拠された。ここは最新のセキュリティー機能を充実させた無人作業施設として注目を集め、役所の人件費削減や必要部門への人的補充が行えるという方向性を示した施設である。他の大都市でも導入を検討し始めた矢先の出来事だった。事件後の謝罪会見でその熱は一気に冷めてしまい、「地元住民の不安を煽る」という一分の隙もない論理を盾に計画の凍結を決定する。都庁の人間、特に立案チームは地団太踏んで悔しがった。そんな中、当然のことながら警視庁の人間が調査に訪れた。統括責任者は前もって準備していた施設周辺の図面などが乱雑に入れられたダンボールを持ってくるよう部下に指示する。ところが警察官は「それよりも先に見てほしいものがある」と、近くに備え付けてあるビデオデッキをいじってある映像を見せた。その映像はひとりの男がわずかな光を浴びてたたずんでいる。黒山羊のマスクをつけた魔術師の姿をしており、年は三十路くらいに見えた。彼はテープの中で自らが指揮する秘密組織『黒山羊団』の存在アピールと今後の目標である東京都制圧を宣言している。チームの面々は「どんな凶悪組織でもあのセキュリティーを越えて侵入することはできない」と口を揃えて証言したが、警察官は眉ひとつ動かさずにそれを聞き「そうですか」と言うと、テープと資料を持ってさっさと退散した。部屋に残された誰もが首を傾げる。いったい彼は何をしに来たのだろうか……?
その後、テープはさまざまなところで回転した。その結果、昔から映画やテレビ、舞台演劇などに用いる小道具を専門に製作・販売している小さなスタジオが事件に関係しているとの情報を入手。十数人の社員を集めての視聴会が始まった。ところが映像が映った瞬間から周囲がざわつく。中には涙する男たちもいた。これには仏頂面の警察官も困り果て、映像を途中で止めそれぞれに話を聞く。すると彼らは魔術師の正体を知っていると言った。彼はこの会社に勤めていた同僚社員で、不幸にも若くして交通事故で他界している。俗に言う『戦隊モノ』が大好きな男で、前にも似たような騒ぎを起こしているらしい。その時の詳細を聞くと、彼の作り出した特殊な指輪で『山羊戦隊テラレンジャー』なる架空の作品を作ってそれを霊前に備えることで事件は落ち着いたそうだ。
警察官はすっくと立ち上がり、静止画を睨みつけた。そこには魔術師が不敵な笑みを浮かべている。そして「やはりそうだったか」とつぶやいた。人間の形に具現化こそしているが、あの魔術師は悪霊であることは調査でわかっている。これを祓うには、やはりそのアイテムが必要だ。
準備はゆっくりと動き出した。同僚のひとりは彼の墓に出向き、もうひとりは草間興信所に協力を求める。あの指輪を使いこなす役者が必要なのだ。しかも今回は以前とは違い、本物の敵を迎えての戦いとなる。一介の小道具屋が装備して戦うのはあまりにも危険だ。同僚は電話の向こうで「はぁ?」と何度も呆れる所長をなんとか説得し、白山羊の加護を受けし戦士たちを集めてもらうよう了解を得た。そして再び甦る……山羊戦隊テラレンジャーが!
成り行きとはいえテラレンジャーの司令となった草間は、いかにもな服装に身を包んでスタジオに設置された巨大な隊員室の豪華な椅子に座っていた。事務所のものとは比べ物にならないほど座り心地はいいが、カメラや人に見られているというのは肩が凝る。普段はあまり見せない卑屈な笑みを見せながら、「早く事件が終わらないものか」とびくびくしながら心の底で祈った。この様子はすべて高性能小型カメラで録画されている。少しでもおかしなことを言おうものなら、すぐに依頼者からダメ出しが飛ぶ。見慣れない景色が広がる場所でカリカリし始めると、同じ出演者であり妹である零と事務員のシュラインがお茶を持ってやってきた。このいつもの光景を見ると、草間指令は少し安心する。ところがやはり今回は収録ということで零は聖なる白山羊の力を戦士たちに授ける巫女の衣装を、シュラインも通信係ということで草間の衣装を女性用にアレンジした制服を着ていた。司令は素の自分が出そうになるのをなんとか抑え、役を演じることだけに集中する。
「司令さん、大丈夫ですかぁ?」
「ああ……」
「武彦さん、私たちの使命は黒山羊団を倒すことよ。これから集まるみんなもそのことをよく知ってるわ。指揮官のあなたが気合いを入れなきゃどうするの?」
「そうだな、戦うのはあいつらだったな。そうだった。」
あくまでこのシーンは触りでしかない。後は白山羊の加護を受けし戦士たちがなんとかしてくれる。自分は与えられた仕事をこなせばいい。草間はこのやり取りで開き直り、口少ない指揮官を演じ始めた。すると両腕でたくさんの武器を持って金色の目をした少年が部屋にやってくる。そして隊員たちがくつろぐ五角形のテーブルの上にそれをひとつずつ丁寧に置いた。彼は武器開発を担当する施祇 刹利。シュラインと同じ、テラレンジャーのサポートを行う隊員のひとりである。刹利は隊長よりも装飾が少ない隊員服を着ていた。
「よいしょっと、これで最後だ。シュラインさん、全員の武器の調整が終わりました。」
「お疲れ様、刹利くん。これで最終兵器は完成だけど……本当にこれで黒山羊団の魔術師を倒せるかしら。」
「大丈夫ですって。ただの武器じゃないんですから、これは。ところで、みんなは?」
刹利は自信満々の表情を浮かべながら部屋を見渡すと、扉からさっそく赤い隊員服を着た長身でがっしりした自信が表情に満ち溢れた青年が入ってきた。その後ろからは同じくらいの身長の男が付き添うように黒い隊員服を着て登場する。ふたりはテーブルに置かれた武器を見て機嫌よさそうに口笛を吹く。
「おお、なかなかいい武器作ってくれたじゃないか。刹利、俺のはどれだ?」
「ああ、リィンは赤いテラブレイシュート。セスは黒いテラブレイシュートです。この武器は通常はシュートモードですけど、折りたたまれた刀身を銃口に合わせると……これでブレイドモードになります。」
「おおおっ! 凝ってるな、貴様!」
「いやぁ、いろいろと考えて作ったんで〜。」
どうやらこのふたりがテラレンジャーのメンバーらしい。リィンがテラレッド、セスがテラブラック。ふたりはいつも使っている武器との使い勝手……ではなく、ただただ単純に武器の可変動作を見てお互いに興奮しているだけだった。あまり乗り気のない草間から説明を受けた時は「いったいどんなものをやらされるのか」と心配だったが、ふたりは大好きな特撮番組『イケメンマン』並みの精度の高い武器を見て俄然やる気になった。ところがこのふたり、とんでもなくつまらないことから口ゲンカを始める。
「ところでなんで俺はセスと一緒のアイテムなんだ? 主役は俺だぞ?!」
「悪人面がよく言うぜ。実力では俺が一番なんだ。わかったか、バーカ。」
「バカっていうな、バーカ!」
「おお! バカって言った奴がバカなんだぞ、わかってんのかこのバカ!」
「じゃあお前が最強のバカじゃねーか!」
「何をこのバカがぁ!!」
完全に小学生レベルのケンカに、思わず巫女の零が口を挟んだ。そうでもしなければ止まりそうにないからである。
「もう……リィンさんもセスさんもそんなこと言わずに。生理的に合わないのはわかりますけど、今はそんな時ではありません。」
「おおっ、零ちゃんはそこんところバッチリわかってくれたか! よしよし、そんな巫女にはイケメンマンのブルーの食玩をやろう。」
「そういえば……ブルーの奴がまだだな。まーた部屋の端っこで『ふぇぇ〜! お、俺には無理だよぉ!』とか言ってんのか?」
「仕方ないですよ。最後にテラレンジャーの戦士として見出されて間もないですし、リィンさんやセスさんたちのように戦い慣れてるわけじゃないんですから。だからあきらクンにはテラライフロッドを用意しました。」
テラブルーに変身する九竜 啓の主武器は『テラライフロッド』。気弱な彼に配慮して遠距離からの攻撃が可能なライフルモードをメインに開発された。万が一撃ち漏らして接近戦になると困るので、武器自体を頑丈かつ軽く作成し杖のようにして使えるようロッドモードにもなる。これはこれでよくできていると舐めまわすように武器を見るふたりに呆れ顔の司令。そんな中、隊員室に警報が鳴り響く。司令の後ろに配置された大画面に黒山羊団の手下である『サバティアン』がひとりの女性を取り囲んでいた!
「司令、採石場付近でサバティアンの反応が!」
「内山さんが……時雨さんが敵に囲まれています!」
シュラインと零の言葉に反応して、リィンとセスはそれぞれ自分のホルスターにブレイシュートを入れる。さっきよりも軽くなった武器の山を再び抱え、刹利もふたりに同行しようと準備を開始。そんな最中、零が隊員室の外へと走った。そう、ここにはまだあきらがいるのだ。草間はそれを見送り、3人には現場に急行するように指示した。
「司令、任せとけよ。こいつよりかはマトモに働くぜ。」
「ふん! ごたくは寝てから言え!」
「ボクは行ったら行ったで問題になってる気がするんだけどなぁ……」
「早く出動しろぉっ、お前らぁっ!」
「「「りょ、了解っ!!」」」
慌てて駆け出す隊員たちを見て、思わず溜め息をつく草間。最終的には5人の力が合わさらなければ、あの魔術師を倒すことはできない。それは誰もが知るところだ。はたして5人が協力して戦えるのか。彼は自分の机の下に忍ばせてある秘密の武器に手を伸ばした。
出動のサイレンが鳴り響く部屋の中で、あきらはひとり静かにベッドの上で三角座りをしてじっとしていた。指には水色のリングがはめられている。しかしその手は震え、その心は恐怖に怯えていた。彼は純粋すぎるから戦うことを理解できないのだ。そんな彼の元へふたりの男女がやってきた。ひとりは零、そしてもうひとりは口に物を突っ込んだままもぐもぐしているの巨漢の男である。この男もまたテラレンジャーの一員で、彼瀬 蔵人というおおらかな性格の人物だ。
「零さん……来たってダメだよぉ。いくらレンジャーでもみんなの足を引っ張っちゃったらいけないし……」
「そういうものじゃないですよ、みんなで戦うということは。」
「む、無理だよぉぉっ……」
ますます身を硬くするあきらに向かって、蔵人は大きな手を彼の肩に乗せてその声を響かせた。
「私たちが戦わなければ、救われない魂があるんです。5人の力を合わせて戦わなければならないのが、今まさにこの時。あきらさんも巫女たる零さんに見出されし戦士なのですから、自信を持って戦いましょう。刹利さんが我々の分の武器を持って現地に向かっています。」
「俺の……武器?」
「でもそれは本当の武器じゃないんです。わかりますか?」
「そう、本当の武器はあなたの強さ。困難に立ち向かう勇気、現実から逃げない意志です。指輪はそれを知っている。だからあなたから離れようとしないのです。」
あきらは蔵人と零の言葉を耳を傾けていると、指輪から波打ち際で水が跳ねる音が聞こえた。いつもそうだ。自分が立ち上がろうとすると、この音が自分の背中を押す。みんなの励ましが力になる。あきらは頑なな態度を崩し、ゆっくりと靴を履いて戦いの場へ行く準備を始めた。すでに蔵人が青い隊員ジャケットを持っている。
「と、とりあえず、みんなの足を引っ張らないように、がんばるっ!」
「これで引っ張ったことがないのがあきらさんなんですから。」
「そうですよ。どっちかというと……時雨さんの方が、ねぇ。」
あきらはすっかりやる気になったが、ふたりは再び渋い表情に戻った。いったい最後のテラレンジャー、内山 時雨とは何者なのか。
抜けるような青空の下、魔術師の怨念から生み出されたザコ敵『サバティアン』は採石場にばら撒かれた砂利のように蠢いていた。その中心に最後の戦士である時雨が立っていた。全員の心配は戦士へと向けられていたが、正しくは今から始まる惨劇についてである。いよいよ憎っくきテラレンジャーを痛めつけようとサバティアンが数体飛びかかると、それを豪快かつ高速なパンチであっけなく遥か彼方までぶっ飛ばした!
『ブグ、ブグ、ブギャーーーッ!!』
「前は正義の味方を演じさせられて腹が立ったのかね、この黒山羊団の魔術師って人はぁ。一度死んだらおとなしくしてりゃあいいものを。てっ、はっ、とりゃっ!」
『ビギャアーーーッ!!』
今度がパンチにキックを加えた連続攻撃で3体を重なるようにして吹き飛ばした。カッコよくポーズを決めたところで、時雨はポンと手を打つ。自分の考えがある程度まとまったらしい。
「ああ、そうかそうか。さては前回のでは満足しとらんのか。でなければ中毒だね。好きこそものの上手なれ、とは言うが他人に押しつけてるんじゃ困ったもんだ。ところでキミたちも彼の一部なんだろ。だったら遠慮なくかかってこいよ。」
あの巨漢の蔵人でもここまでの怪力を発揮できるだろうか。まさに『ちぎっては投げちぎっては投げ』という表現がふさわしい状況である。鮮やかな緑色に輝く指輪の力に頼らずとも、ここにいる全員を打ちのめすことができるかもしれない。時雨は一方でこの状況を心から楽しんでいた。
しばらくするとテラレンジャー専用の大型特殊車両『テラシュレイク』が登場し、中からリィンたちが飛び降りるように出てくる!
「やっぱしな。時雨はあのまま全員を倒す気だぜ。」
「姉御はお約束を知らんのか、お約束を! 一度、イケメンマンを全話見せなくてはならんな……ったく!」
「行くぞ、セス!」
「だから俺に命令すんな!」
リィンは肩幅に開かれた両手を素早く胸の前で交差させ、手首を回して指輪が見えるように静止。さらにセスも右手で指輪に触れると、左手を空高く突き上げて右手を腰に引いた! テラレンジャーへの変身である!
「オーダーメイドチェンジ!」
ふたりがそう叫ぶと、それぞれの色に染められたテラパワードスーツが瞬時に装着され、頭部に煌く山羊の装飾が施されたマスクが出現する!
「赤き血潮が勝利に飢える! 熱血の山羊、テラレッド!!」
「正義から放たれる黒き弾丸! 戦闘の山羊、テラブラック!!」
『ブシャシャシャ〜、ブシャシャシャ〜!』
「相変わらず趣味の悪い笑い声だぜ。だがそれも今日で終わりだ! テラブレイシュート、シュートモード!!」
「貴様はそこで俺の援護でもしてろ。テラブレイシュート、ブレイドモード!!」
「あーあ、やっぱりいつも通りの展開だ……参ったなぁ。」
ブラックは時雨同様、新たな武器を手にどんどん敵を斬り伏せていく。もちろんレッドの正確な射撃の援護があってこそ成り立つ活躍である。時雨も仲間の到着に気づいたようで、「そろそろか」と一言呟いた。そんな時、レッドが敵陣を切り崩すために必死に戦っているブラックの背中に誤爆した!
ガガーーーン!!
「うおあっ! おぉーいっ! 貴様ぁ、わざとやったな!」
「悪りぃ悪りぃ、セスも敵も黒くて見分けがつかなかった。」
白々しい言い訳をしているが、レッドはわざとやったのだ。後ろで見ていた刹利が証人である。中途半端な射撃ではブラックに避けられてしまうため、十分に照準を合わせてから放っていた。確信犯もいいところである。さすがの刹利はこれにはあきれ果てた。
「リィンさん! マジメにやらないのなら武器は取り上げますよっ!」
「やってるやってる、ちゃんとやってる!」
「何が『熱血の山羊』ですか……このままだと零さんの力で『嫉妬の山羊』にさせられますよ?」
「うげっ、ピンクかよ! そりゃ勘弁。セスで遊ぶのはもうヤメだ!」
レッドへの説教が一通り済んだところで、刹利は時雨専用の武器『テラヌンチャクロー』をトランクから出して大声で叫んだ!
「時雨さん! 変身して武器を持ってください!」
「武器なんかなくても大丈夫だけど、くれるっていうんならもらっとくよ。オーダーメイドチェンジ!」
両腕を伸ばした状態で下から横に動かし、脚で指輪をこすって力を発揮させる。光に包まれた時雨はそして大きな跳躍で無数の敵を飛び越えると、緑色の戦士となって刹利から武器を受け取った。
「豊かなる新緑の守護者! 孤高の山羊、テラワカバ!!」
「その武器はヌンチャクモードで振り回すことと敵を貫くクローモードに変形します!」
「じゃあ力の入るクローモードでも試すかねぇ。うおおおぉぉぉっ!!」
敵陣の奥深くにいるブラックとは違う方向からクローで攻めるワカバの勢いはすさまじいものがある。とっさにサバティアンの首をクローでつかんだかと思うと、そのまま無数の敵を押し切って奥まで突貫。そして素早くヌンチャクモードにチェンジして大立ち回りを演じる! いつも通りの働きにブラックも舌を巻く。
「あ、姉御……いつも通りの無茶苦茶だな。」
「倒せばいいんだろ、倒せば。私はキミの分まで戦ってもいいんだぞ?」
「そうはいかねぇな。俺にも見せ場ってもんがあるんだ。ちょっと遠慮してもらうぜ。」
ふたり、そしてもうひとりと数を増やしていくテラレンジャーたち。そしてサイドカー付きのバイク『テラローダー』に乗って登場したのは蔵人とあきらだった!
「僕たちも行きますよ、オーダーメイドチェンジ!」
「もう、決めたから……オーダーメイドチェンジ!」
蔵人は力強く手を組み、あきらは静かに手を重ねる。すると瞬時に黄色の戦士と水色の戦士がその姿を現した!
「雷より生まれし裁きの力! 電撃の山羊、テライエロー!!」
「清く激しい水流の化身! 双面の山羊、テラブルー!!」
「ふたりとも! この武器を!!」
ブルーにはライフロッドを、そしてイエローには『テラストライクハンマー』を渡す。左右についた大きな重りが敵を完膚なきまで叩き潰すハンマーモードだが、どうやらこの重りはスライドして前方で重なるようだ。受け取った蔵人は気にはなったが、とりあえずは敵を倒そうとハンマーを棒代わりに使って高く飛び、万力を利用して手にしたハンマーを敵に向かって振り下ろす!!
『ブッ、ブギャアアァァァッ!!』
「ずいぶんと少なくなっているようですが……まだまだ多いですね。レッド、やはりここは突貫ですか?」
「司令から何の指示もないんだから、今はそれしかねぇよ!」
「じゃ、じゃあ俺はここから一緒に撃つね。えーっと、照準を合わせてっと。それからぁ……」
戦闘中だというのに自分に言い聞かせるようにゆっくりと動作するあきらに苛立ちを覚えたセスは大声で怒鳴った!
「あーーーっ、もたもたすんなっ! 撃て撃て! どんどん撃てーーーっ!!」
「あわわわわっ、は、はいっ!」
バシュ、バシューーーン!!
レッドのシュートモードよりも強力で遠距離でも威力が落ちないレーザーがライフロッドから放たれる。たった一撃で敵を一気に数体倒せるほどの威力を持つライフルモードにブルーは驚いた。またレッドの隣にいれば敵が迫ってきたとしても、武器の威力を見た彼ならブレイドモードに切り替えて戦ってくれるだろう。5人のテラレンジャーがそれぞれの戦いを繰り広げる中、シュラインからようやく通信が入った。
『みんな! その地下は黒山羊団に占領された地下の下水処理施設へと繋がる道があるの。だから敵がいつまでも湧いて出てくるのよ!』
「ちっ、そういうことだったのか!」
『だから……なん…かしてその場…ら…下へ移動す…手…を……』
「なっ、なんか通信が遠くないですか?」
「気のせいだろ。刹利、なんか方法はあるか!」
「イエローの武器をストライクモードにして脚にセットしてキックすれば、敵も味方もその道に行けると思いますけど……」
「聞いたか、イエロー! 今すぐやれ!!」
あえて言おう、リィンは『バカ』だ。レッドだからか生まれつきかはあえて言及しない。よく刹利の説明を聞けば、その方法がどれだけ危険なことかはわかるはずだ。しかし彼は深い考えもなしに「やれ」とおっしゃる。イエローはハンマーの可変動作の意味を理解した上でストライクモードにし、脚にそれをセットしたが……さすがにキックするのをためらった。
「おいっ、レッド! このバカ、ちゃんと説明聞いてたのか! 刹利は『ここの地盤ごと俺たちは落ちる』っつってんだ!」
「じゃあお前がそのブレイドモードで穴でも掘ってくれるのか? そんなことできるわけねーだろ!」
「わかってるけど他の方法はないのかと聞いているんだ、このバカ!!」
「ケ、ケンカは……やめようね、みんなぁ?」
「やっちまえ、イエロー! 後は任せろ!!」
「言っておきますが、僕も責任取りませんからね? とるわぁぁぁぁっ、ストライクモードっ!!」
ドズ〜〜〜〜〜〜〜ン! ガラガラガラガラガラ……
イエローのストライクモードから繰り出されるキックは地面に電撃と衝撃のすさまじいパワーを与えた! そしてテラレンジャーと刹利、そしてザコをも巻き込んで奈落の底へと落ちていく……そして戦場は地下へと舞台を移した。
薄暗い光が漂う広めの通路に落ちたテラレンジャーたち。左手には浅い水路がある。見上げると小さな光がここまで差し込んでいた。あれがイエローの開けた穴だとすると、とんでもなく深い場所に落ちたらしい。しかしその事実を物語るかのように、周囲には岩がゴロゴロ転がっている。ワカバは一緒に落ちてきてしまった刹利を救出し、そのまま抱きかかえていた。実は落下している最中に『あるもの』が目に入ったのだが、あえて見なかったことにして刹利を安全なところに寝かせる。ワカバはその一瞬が理解できなかった。なぜ『あんなもの』がここに……油断ならない状況はまだまだ続くようだ。
想像以上の衝撃にやられまくったレッドはなんとブルーよりも後、しかも一番最後に起き上がった。彼を起こしたのはブルーである。啓は荒療治だがレッドの背中を自分の膝で強く押して無理やり目を覚まさせた。さっきまでのブルーとは思えないような立ち振る舞いだ。レッドは仏頂面のマスクが大集合した映像で目を覚ます。
「うおっ、ビックリするじゃねぇか! お前らよってたかって顔近づけんじゃねーよ!」
「だったらさっさと起きてくれないか。自分が指示を出しておきながら最後に起きてくるなんて……いったい何やってんだか。」
「おお、正論。あきら、俺はお前をたまに見直すぞ!」
「セスさん……あきらくん、きっと落下の時に頭を打ってるよ。今は啓くんだね。ふたりはある意味で別人だから。」
穏やかで人懐っこい『あきら』とクールなイメージが強い『啓』。テラブルーとして見る限りは身長以外はほとんど変化は見られないので、どっちがどっちかは判別しづらい。とりあえずブラックもイエローも彼が啓であることを理解する。その最中、ワカバは水路の流れをじっと見つめていた。
「下水処理施設となると、流れを逆にたどれば目的地に着く、か。よし。」
「おいおいワカバ! レッド、勝手に行っちまうぞ! 早く立てよ!」
「よし、みんなもワカバの後を追うんだ!」
ひとりで行動する癖があるワカバは敵の本陣へと猛然と走る。そして後ろからは他のメンバー、さらに刹利が続く。なぜ非戦闘員の刹利がついてくるのか……時雨は早くその訳を知りたかった。この地下水路は天井が高いため、空から複数のサバティアンが襲ってくると困るのでヌンチャクモードにセット。他の仲間も遠距離対応ができるようにモードをセットしていた。しかしブルーはあえてロッドモードにしている。ロッドの射程はそれほど長くはないが、啓には扱いやすい長さなのかもしれない。前衛も後衛もない今の状態ではライフルモードにしておくよりもいくらかいい選択だった。
目前に迫った下水処理施設の前に、黒い角を持つローブの男が現れた! 誰が見ても一目瞭然、彼が黒山羊団の魔術師である。全員が武器を構えた!
『ようやく来たな……テラレンジャー!』
「お遊びはここまでだ、魔術師!」
『お前たちの力ではこの私は倒せない。5人の力を結集させなければ、この私は何度でも蘇るのだ……出でよ、サバティアン!』
魔術師が禍々しい装飾の杖を振りかざすと、地上で相手をしたザコどもが再び出現する。しかしその数はあまり多くなかった……通路が狭いというのもあるが、自分の目で直にテラレンジャーの勇姿が見れてわずかながら満足したからだろう。テラレンジャーは接近戦モードに武器を装備しなおし、最終決戦に臨んだ!
「一気に行くぞっ!!」
「「「「おおっ!!」」」」
テラレッドの合図で再び激闘の幕が上がった。ブルーのロッド捌きは他の誰にも負けない速さを誇り、次々とサバティアンを消し去る。それを見て再びザコを召喚しようとする魔術師にライフルモードで威嚇射撃し動作を妨害するクールさも見せた。
バシューーーン!
『うおっ! おのれ、おのれテラレンジャー!』
「あんたの動作は大きいから、ものすごくわかりやすいんだよ。」
イエローは敵陣に踏み込むとジャイアントスイングの要領でハンマーを振り回し、壁にぶつかるまでただただ敵を薙いでいく。たとえ何かの障害物にぶつかったとしても、持ち前の怪力で今度は縦横無尽に振り回すのだからたまらない。同じようにヌンチャクで敵を弾き飛ばすワカバは、武器のパワーを自慢の格闘術で補う。力強いふたりのおかげもあり、魔術師への道は確実に開かれた。
そしてレッドとブラックはあの言い争いがウソのように素晴らしい連携を見せる。今度はブラックが射撃し、レッドが敵を切り裂く。ところが魔術師が射程範囲に届くとわかると阿吽の呼吸で同時にジャンプ、まずはシュートモードを両肩に命中させる。そして素早くブレイドモードに変形させると、クロスする形で敵の胸を切り裂いた!
「「セスリィィィン、クロスカッターーーッ!!」」
『う、うごああぁぁぁっ! うがあ、うごあぁぁ……わ、私は、私は不死身だぁ!』
リィンとセスの強力な攻撃を受けても、なおも立ち上がる魔術師。ザコはきれいさっぱりいなくなったところで5人が彼の前に立ちはだかる。ところが魔術師も負けてはいない。幽霊となっても、悪役になってまでもテラレンジャーと戦おうとする執念が痛みを抑えこむ。しかし、イエローとブルーの間を抜けるかのように一筋のレーザーが魔術師の震える膝を再び折らせた!
チュイィーーーン!
『ぐが、おごおっ……! こっ、これはいったい……?!』
「く、草間司令?!」
蔵人は思わず声を上擦らせた。なんとレーザーライフルを持った草間司令とシュラインがそこに立っているではないか。そう、彼女の通信が届きにくかったのは、すでに目的地へ先回りをしていたからであった!
「みんな、無事なようね。でもとんでもない方法でここまで来たから焦ったわよ。」
「それはレッドに言ってほしいな。」
ワカバがさらっとそう言うと、レッドが「俺も必死だったんだよ!」と弁解を始める。だが誰からも文句や諌言はなかった。あの場ではあれしかなかったと誰もが認めているからだ。確かに無茶は無茶だが、最短ルートを取ったのには変わりはない。司令は宿敵の魔術師を指差し、テラレンジャーに号令をかける。
「こいつが言った通りだ。お前たち5人の力を結集させなければ、あいつは何度でも立ち上がる!」
『そう、そのために刹利さん……あなたに6つ目のリングを授けたのです。あの魔術師を倒す力を持つ、あなたを。』
「なっ、零さん! こ、これはどういうことなんだ?!」
「やはりそうだったのか。刹利もまたテラレンジャーのひとりだったか。」
不意に刹利の指輪から声が響く……そう、発信源は時雨が落下の瞬間に見た『刹利の変身リング』からである。声の主は巫女の零。そして刹利の姿は徐々に光に包まれ、メタリックな装甲を身に付けたテラレンジャーとなって現れる!
「ボ、ボクも……テラレンジャー……」
『あなたはテラブラスト。5人に力を与える増幅の山羊。さぁ、名乗りなさい……』
「刹利、思いっきりやりなさい!」
シュラインの後押しもあり、刹利は力強く動いた! 腕を前に突き出して魔術師に、そして仲間たちに自分をアピールする!
「戦士に宿りし力を生み出す! 増幅の山羊、テラブラスト!!」
『ま、まさか、その名の意味するところは……?!』
「みんな! 武器を重ねてひとつにするんだ!」
「な、なんだって! そ、そんなことができるのか?!」
「最初から刹利はそのために武器を作ってたのよ。啓のライフロッドを中心に両翼をリィンとセス、上に蔵人のストライクハンマー、その下に時雨のヌンチャクローをセットしなさい! それでテラブラスターキャノンの完成よ!!」
魔術師がうろたえる中、テラレンジャーたちはシュラインの指示通りに武器を重ね合わせる。それに手をかざしたテラブラストはすべてを合体させ、テラブラスターキャノンを完成させた! そして草間司令がレッドに引き金を引くように指示する!
「お前が決めろ! テラレッド!!」
「よし、行くぜ! ブラストも混ざれ! お前も立派な戦士だ!」
「うん!」
「サンダーパワー全開っ!!」
「ライフルレーザー、最大放出!」
「テラヌンチャクロー、エネルギー増幅完了!!」
『うおっ、うぬーーーっ!!』
キャノンの銃砲はもちろん魔術師に向けられている。だが時折、満足そうな笑みを浮かべているようにも見えるのはなぜだろう……6人は迷いを振り払って大声で叫んだ!
「テラブラスターキャノンっ!!」
「「「「「ファイアーーーーーっ!!」」」」」
ズドガアァァァァァーーーーーーーッッン!
『ぬごおあぁぁぁっっ! まさか、まさかあぁぁぁあ! これがテラレンジャーの、ち、から……うがああぁぁぁっ!!』
魔術師はすさまじいパワーに耐え切れず大爆発を起こし、そのままこの世界から姿を消した。テラレンジャーはその爆発をバックに全員で「ミッションコンプリート!」のセリフとポーズで決める。まとまらないと思われていた5人、奇抜な発想で急展開を迎えたストーリー、そして突然の6人目登場でどうなるかと思われた今回のテラレンジャーもなんとか無事に終わった。草間司令もシュラインも長い溜め息をついた後でハイタッチする。彼女は冗談で司令の肩を揉んで「お疲れ様」と労をねぎらった。
その後の彼らはいつものキャラに戻った。リィンとセスは合体攻撃の完成度を映像で見てみたいと自画自賛するし、時雨は「この内容で満足しないわけがない」と満足げ。蔵人は後でちゃんと『仕事』をしなければとひとり気を引き締めていた。啓は何かの拍子に『あきら』に戻ったらしく、戦いに勝ったことを知ると「わーいわーい」と子どものように喜ぶ。刹利はこっそりとシュラインから指輪を手渡されていたが、まさか変身することになるとは思わなかったらしく興奮覚めやらぬといった様子だった。
この後は撮影会が始まるのだろう。これが終われば、またリングは墓に納められる。番組スタッフが一部始終を録画しているので、その後にも打ち上げが行われる。その時に今の写真があれば盛り上がるだろう。これで本当に彼が成仏してくれればいいが……誰の胸にも一抹の不安がよぎった。しかし今は笑顔で終わらなければならない。そんな気持ちが誰の胸にもあった。ある集合写真は普段の彼らからは想像できない姿とポーズが収められている。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号/ PC名 /性別/ 年齢 / 職業】
0086/シュライン・エマ /女性/ 26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
5307/施祇・刹利 /男性/ 18歳/過剰付与師
5484/内山・時雨 /女性/ 20歳/無職
6076/−・セス /男性/333歳/使い魔
4221/リィン・セルフィス /男性/ 27歳/ハンター
4321/彼瀬・蔵人 /男性/ 28歳/合気道家 死神
5201/九竜・啓 /男性/ 17歳/高校生&陰陽師
(※登場人物の各種紹介は、受注の順番に掲載させて頂いております。)
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■ ライター通信 ■
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皆さんこんばんわ、市川 智彦です。「テラレンジャー再び登場!」の作品です。
前回とはまったく別のテイストで仕上げてみました。今回はロボが出てこないです。
でもその分、個人の活躍が多く描けて楽しかったです。皆さんはいかがでしたか?
シュラインさんは司令と同じ衣装で、通信役としてがんばっていただきました!
何気にそういう衣装が似合いそうな風貌ですが、その辺はどうお考えですか(笑)。
司令も零ちゃんも最後に見せ場あり! 興信所チームも大活躍の物語ですね!
今回はありがとうございました。同じような題材で2回はやるんですが、3回目は?!
また通常依頼やシチュノベ、特撮ヒーロー系やご近所異界などでお会いしましょう!
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