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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


対決! 下着ドロ!?

 夏。そう夏だ。
 誰がなんと言おうと、セミは鳴くわ、入道雲は高く上るわ、太陽はギラギラなのだ。
 そして夏といえば体育の授業が水泳なのだ。
 水泳の授業時は男子の目がギラギラで、男子の体温は高く上がり、鼻息がフンフンなるのだ。
 つまりは夏で、水泳で、そこで事件が起きるのだ。

 神聖都学園の音楽教師、響 カスミは人目を避けて歩いていた。
 その挙動はかなりおかしいもので、胸の前に出席簿を持ち、左手は後ろに回してブラブラとしている。
「ああ、もぅ、なんでこんな目に……」
 愚痴を零しながらも足は止まらない。
 目的地に着いたカスミはドアを開け、ある人物を呼ぶ。
「雫さん! 瀬名 雫さんはいる!?」
「はぇ? なんすか、センセ?」
 昼休み中だった雫は弁当のタコソーセージを咀嚼しながら振り向いた。

「どうしたんすか? 何か怪奇事件?」
「か、怪奇な事件なんてあるわけ無いじゃない! それよりこれ見てよ」
 カスミが取り出したのはあるカード。
「今日、体育の先生休みじゃない? だから私が監督役で4時間目の体育を受け持ったのよ。それで授業が終わった後に更衣室にこれが置いてあったのよ」
「体育って水泳っすか?」
「そうなのよ。そんな時に更衣室に侵入者が居るったら大事じゃない? 私の責任にしたくないから内々に解決しようとしてるんだけどねぇ」
 雫は苦笑しながら渡されたカードを見た。
 表には趣味の悪いイラストが書かれており、裏にはなにやら文字が書かれていた。
「なになに……『憎き瀬名 雫。あるクラスの女子の下着は全て頂いた。返して欲しくば私を見つけてみろ。怪人黒マント』……」
「名指しだったから、とりあえず雫さんに言っておこうと思って。あわよくば貴方で解決してくれない?」
「……あんの、変態仮面……というか、まだ生きてたのか……。わかりました。こんな女の敵、放って置けませんから。ヒミコちゃん、行くわよ」
「わ、私もですかぁ……?」
 そんなこんなで、雫とヒミコは下着ドロを見つけ出すために校舎内を練り歩くのだった。
 当然、午後の授業はサボりである。

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「ねぇ、ホント頼むわよ? 私の下着も盗られて困ってるんだから」
 雫とヒミコはカスミを連れて校門前までやってきた。
「先生のまで盗られたんですか!?」
「そうよぉ。代理監督だからってプールサイドで眺めてるだけって訳にはいかないじゃない?」
「……て言うか、センセもプールに入って涼みたかっただけじゃないんですかぁ?」
「そ、そんなわけないじゃない」
 雫もヒミコもそれ以上言及しなかったが、それぞれニヤニヤ笑いと苦笑を浮かべていた。
「そ、それで校門の前に来て何をするの?」
 話題を変えてカスミが口を開く。
「ああ、助っ人が来るはずなんですよ。そろそろだと思います」
「す、助っ人!? 部外者を校内に入れるわけには行かないわよ!?」
「内々に処理したいんじゃないんですか?」
「……っぐ!」
「頼みますよ、センセ☆」
 生徒に良いように弄られる先生。哀れカスミ先生。

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「さぁ、そんなわけで助っ人が集まったわけだけど」
 集まったのは女性二人、男性二人。
 不思議な雰囲気の女性ラッテ・リ・ソッチラ。
 雫、ヒミコの友人でカスミとも知り合いの鹿沼(かぬま)・デルフェス。
 言わずと知れた鋼鉄番長、不城・鋼(ふじょう・はがね)。
 目指せ日本一のチンドン屋、志羽・翔流(しば・かける)。
 この四人である。
「カスミ様からお話は伺いましたわ! お怒りはもっともですし、雫様とヒミコ様も心配ですから、わたくしもお手伝いさせていただきますわ!」
「そうですよね。許せませんよね!」
 いつの間にか神聖都の女子用学生服を身にまとった二人。ラッテとデルフェス。
 何とも違和感なく溶け込んでいるようだ。
 不思議な力が働いてるのか否かは不確かであるが。
「よ! お二人さん似合ってるじゃん」
 翔流が扇子を取り出して水芸をしながら適当に舞っている横で、鋼は鋼鉄番長らしからぬ疲れた顔をしていた。
「あら? どうしたの鋼ちゃん。元気無さそうじゃない」
「ああ、疲れる出来事が多々あってな」
 尋ねられても適当にはぐらかす鋼君でした。
「まぁ、良いわ。とりあえず全員揃ったみたいだし、早速黒マントを探し出すわよ!」

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「ところで、犯人ですけれど」
 制服を妙に着こなしたデルフェスが学校を練り歩く途中で口を開く。
「1クラス分の全ての下着を4時間目の間に盗んだのですわよね?」
「うん。そういう話だけど」
 デルフェスの質問に雫が答えた。
「俺も女子達から聞いたが、それで間違いなさそうだ」
 鋼の付け加えたのを聞き、デルフェスは神妙な顔をして考え始める。
「……この神聖都学園は不思議な事件が多々起こるため、警備はかなり厳重ですわ。となると、部外者の犯行と言うのは考えにくいですわね」
「そうね。と言うことは黒マントはこの学校の生徒、って事かしら」
 前回、校内の『強いヤツ』を手当たり次第に倒した時も、易々と校内に入り込んで行動していた。
「そして、その中でも重点的に警備すべき点の一つ、女子更衣室に入り込める人間と言えば……この学校の女子の方になるのでは?」
「な、なるほど……。前回、ヤツの声を聞いたつもりだが、あんまりよく覚えてないしな」
「一人称が我輩ってだけで男だと思ってたけど、もしかしたら女の子だったかも……と思えなくはないわね」
 あの時の印象が微妙だったため、ぶっちゃけどうでも良い、と心の隅に追いやっていた記憶なので、掘り起こしてみてもボンヤリとしか輪郭をなさない。
「そして、4時間目はほとんどの生徒が授業に出ており、自由に行動できる生徒と言うのは限られてきます」
 そこでデルフェスは二つ指を立てる。
「一つは授業をボイコットなさった方。二つ目は不城様と同じクラスの女性ですわ!」
「待てよ。俺が上から見た感じじゃ、誰も下着を詰め込むような大荷物は持ってなかったぜ?」
 鋼と女子が更衣室から出てくるところを偶然目撃した翔流が証言する。
 あの時、確かにそんな大荷物を持っている人物は居なかった。
「じゃあ4時間目をサボったヤツが犯人って事?」
「いいえ。4時間目をボイコットなさった方が犯人ならば、不城様達が授業中に更衣室に侵入すると言うことになります。ですが先程拝見させてもらいましたところ、プールの壁は網目のフェンスになっておりました。ならばその際、そして更衣室から出てくる際にも発見される確立が高いですわ。更に犯行後では大量の荷物を持っているわけですから、目撃される確立はかなり高くなります。にも拘らず、誰も犯人を目撃しておらず、手がかりは犯人の残したカードのみ。つまり4時間目をボイコットなさった方が犯人と言うのも現実味が薄れますわね」
「じゃあ一体誰が……!?」
 頭を捻る一行に名探偵デルフェスは一つの答えを提示する。
「わたくしの推理によれば、犯人は不城様のクラスの女子の方。盗まれた下着は一時的に更衣室のどこかに隠し、水泳部が活動する前の時間、つまり昼休みから午後の授業時間にかけての間に誰にも見つからないように下着を隠しに行くと見ましたわ!!」
「「「な、なんだってー!?」」」
「そ、そういえば花沢のヤツが4時間目の間に具合が悪いって言って一度保健室に行ったぞ」
 鋼が記憶を辿って証言する。
「そいつだ! そいつが黒マントだぜ、はがねん!」
「じゃあすぐに行かないと! 下着が移動されたら証拠もなくなっちゃうわよ!」
 翔流と雫が慌てるが、デルフェスが手を上げて制止する。
「待ってください。そろそろ5時間目が始まる頃ですわ。カスミ様、5時間目の授業、どこかのクラスがプールを使用するか、わかりますか?」
「あ、いいえ。今日はもうプールを使用するクラスはないはずよ。代理監督だから覚えてるわ」
 それを聞いてデルフェスは少し微笑む。
「では皆さん。先に女子更衣室に向かいましょう。犯人はこの5時間目の間に行動するはずですわ!」

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「見事な推理ですね」
「え? あ、いえ、大した事ではありませんわ。証拠があるわけでもありませんし、全て推論ですからもしかしたら外れている可能性もあります」
 一行が更衣室に向かう途中、ラッテがかけた言葉にデルフェスは謙遜で返した。
「皆さんの行動の指標になる発言ですが、下手をすれば行動を制限してしまう言葉。今となっては確たる証拠がないうちに話してしまってよかったのか、少し心配ですわ」
「それでも、その恐れのある言葉をアレだけ堂々と発していたんですから、何か自信があるんでしょう?」
「女の勘、ですわ」
 ラッテとデルフェスは顔を見合わせて笑った。
 これから犯人を捕まえると言う時に笑っていられるのも、彼女達が前線で戦えるタイプの能力を持っていないためだ。
 戦闘は鋼と翔流に任せるしかなく、自分達は邪魔にならないように後ろに下がっている。
 と言っても、まだ更衣室までは距離があり、戦闘も予想されるだけで、これも確たる証拠があるわけではない。
「ところで、デルフェスさん?」
「はい、なんでしょう?」
 改めて話しかけられ、デルフェスはラッテに向き直った。
「これからちょっと記憶が飛ぶかもしれないけれど、気にしないで下さいね」
「は?」
 これから数分の間、デルフェスの記憶はスッパリ途切れる。
 ただ、ボンヤリ思い出せるのはラッテの笑みだけだった。

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「さて、どうしましょうか?」
 隠蔽された空間で、ラッテはデルフェスを前に微笑を湛えていた。
 女性の体でありながら、女性でも男性でもない『悪魔』であるラッテ。
 その好意の対象は外見に縛られることはない。
「あ、あら? ここは?」
 デルフェスは異変に気がつき、周りの異様さに警戒を始める。
 景色に異常は無いが、なんと言うか、空気に異質なものが混じっている。
「あの、ラッテさん?」
「この空間だけ、私の力で『隠蔽』したわ。外界からの影響は全くと言って良いほど受け付けません」
 ラッテは微笑みながらデルフェスに近付き、その肩に手を置く。
「大丈夫。楽にしてください。きっと事の後は何も覚えていないでしょうから」
「どういうことですか?」
「ふふ、デルフェスさんってお綺麗ですよね」
 ゾクリ、と背筋が震える感じを覚えた。
 それを感じ取った瞬間、デルフェスは咄嗟にラッテから距離をとる。
 敵意ではない。敵意を感じた時に覚える背筋の寒さではない。
 何か別の……それこそこの空間のような異質さを持った何かが原因だ。
「何をするのですか!?」
「怖がることはないわ。あんまりゆっくりもしてられないみたいだし、そうですね……5〜6分ってトコかしら」
 再び、ラッテが距離を詰める。
 このままではいけない、とデルフェスの内から警告の信号が送られてくる。
「か、換石の術っ!」
 ほぼ条件反射と同じスピードで術を行使する。
 途端、ラッテの四肢は石に変わり、自由が奪われた。
「……むぅ、油断しましたね」
「な、何をなさるおつもりだったかわかりませんが、少し頭を冷やしてください!」
 それを聞いてラッテはつまらなそうな顔をした。
「まぁ、良いです。お楽しみは次にとっておきます」
「つ、次なんかありません!!」

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「あ、あら? 何をしていたのかしら……」
 デルフェスが気付くとその場にポ〜っとして立っていた。
「デルフェスさん、どうしたんですか? 皆さん、もう向こうへ行ってしまいましたよ?」
 ゾクリ、と背筋が震えた。
 どこかで感じたような、初めてのような、そんな不思議な感じを受ける背筋の冷えだったが、目の前に居るのは仲間。
「な、何でもありませんわ。行きましょう」

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 プール前、女子更衣室は静かなものだった。
 偶にチャプチャプとプールの水が揺れる音が聞こえるだけで、教室で黒板を殴る音も聞こえない。
 その中で一人、女子が玄関から外に出て、女子更衣室の中に入っていった。
 彼女の名前は花沢。鋼と同じクラスの女子だ。
 花沢は女子更衣室に入り、あるロッカーの前で立ち止まった。
 そこはここ数年、誰にも使われない呪われたロッカーであると噂の纏わりつくロッカーで、今日の授業でも誰もそこに近付いていない。
 いつか雫もこの真相を追おうとしているのだが、なかなか暇が出来ないので後回しにしている。
 そんなロッカーの前で、花沢は回りを確認する。
 すぐ傍にある窓から外を確認し、部屋の中にも誰か居ないか確認する。
 全て確認した後で、花沢はロッカーを開けた。
 ガコン、ギィ〜、と錆付いたロッカーは鳴きながらその口をあけた。
「おぉ〜、よくもまぁ、コレだけ集めたもんだ」
「大分押し込んでますね。生地が痛みますわ」
「ら、ラッテさん! そんな事言ってる場合じゃ……」
「だ、誰!?」
 驚いて振り返った先には4人の女性が並んでいた。
 無論、ラッテ、デルフェス、雫、ヒミコの4人である。
「どうやってここに!? 今確認したばかりなのに!」
「ふふふ、内緒です」
 人差し指を唇に近づけて、ラッテはおどけたように笑って見せた。
「証拠もあることだし、この場で逮捕しましょうか」
「そうですわね。理由もキッチリ問い詰めて、その後反省させましょう」
 内々に処理、と言うことで警察やなにやらに通報することも出来まい。
 たっぷり反省させたら解放、と言うのは最初から決まっていた。
「っく! だが、この下着は全て餌! 瀬名 雫! 貴様を釣るためのな!」
「あたしに何の恨みがあるか知らないけど、挑戦なら受けて立つわよ、黒マント!」
 何の勝算も無しに意気込んでみたが、前回のように式神を使われては雫に対処の術は無い。
 そんな雫の内心を知ってか知らずか、花沢は不適に笑った。
「ふふふ、私は黒マントじゃないわ! 黒マントは今……外に……」
 それだけ言って花沢はその場に倒れてしまった。
「ど、どうしたの!?」
「……術に操られていただけみたいですね。黒マントは外にと言うことは……」
「不城様と志羽様が危ないですわ!!」

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「で、今回も黒マントは捕まえられず、ってことか」
「そういうこと。またアイツの顔を見そうで嫌になるぜ」
 5時間目の終わりを告げるチャイムが聞こえる前に事が片付いてしまったため、どうしようか考えていたが、とりあえずサボることにした一行。ヒミコは授業に向かったようだが。
 校舎の影で避暑していた。
「花沢様も黒マントに操られていただけみたいで、犯行の記憶は完全になくなっておりましたわ」
「ただ利用されていただけみたいですね」
「後はカスミセンセに報告して、下着を全部返して終わり、か」
「それで、肝心の下着は何処にあるんだよ?」
 翔流に言われて雫とデルフェスは周りを見るが、さっきまで置いてあった下着を詰め込んだ大風呂敷がなくなっていた。
「アレ? 何処行ったんだろ?」
「確か、ここに……何を置いていたのでしたかしら?」
 いつの間にか無くなっていた物、その記憶まで落っことしてきたようだ。
 何を置いてあったのか、何を探していたのか、全て忘れた。
 こんなことがあるのだろうか?
 と一行が首を捻っている時に、ラッテが笑いかける。
「まぁまぁ、良いじゃありませんか。事件は解決したんですから」
「あら、ラッテさん。その背負ってる大風呂敷はなんですの?」
「ちょっとした私物ですよ」
 ラッテの能力が発動したことは、誰も気付かずに時は過ぎ、終業を告げるチャイムが聞こえた。

 言っておくが、ラッテが黒幕な訳ではない。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【5980 / ラッテ・リ・ソッチラ (ラッテ・リ・ソッチラ) / 女性 / 999歳 / 存在しない73柱目の悪魔】
【2181 / 鹿沼・デルフェス (かぬま・でるふぇす) / 女性 / 463歳 / アンティークショップ・レンの店員】
【2239 / 不城・鋼 (ふじょう・はがね) / 男性 / 17歳 / 元総番(現在普通の高校生)】
【2951 / 志羽・翔流 (しば・かける) / 男性 / 18歳 / 高校生大道芸人】

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■         ライター通信          ■
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 鹿沼 デルフェス様、シナリオにご参加いただき本当にありがとうございます。『どうでも良い謎が深まりますね☆』ピコかめです。(何
 今回、戦闘がありませんでしたが、今後も黒マントいびりにお付き合いいただければ幸いです。

 不思議なところで危機一髪でしたが、どんなモンだったでしょうか。
 換石の術は敵味方問わず、行動の制止には便利な術ですよね。(何
 どうにか俺の暴走しがちな頭も止めてくれんモンですかな。(苦笑
 では、次回も気が向いたら是非。