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超能力心霊部 セカンド・ドリーマー
一週間ほどこの馴染みのファーストフード店に顔を出さなかった秋築玲奈は、やっと彼らに会えた。
いつもこの店の二階の窓際を陣取っている三人組。
彼らと話すのはとても楽しい。
だが、ここ一週間は学校の用事でどうしてもここに来られなかったのだ。
玲奈はきょとんとして一ノ瀬奈々子を見遣る。
「朱理ちゃん見ないけど、どうかしたの?」
奈々子は玲奈を見遣り、それから暗い表情で俯く。それは向かい側の席に座っている薬師寺正太郎も同様だった。
二人の様子に玲奈は怪訝そうにして、奈々子の横に腰掛ける。
「実は……朱理が起きなくなってしまったんです」
「え?」
奈々子の説明に玲奈は疑問符を浮かべた。
「朱理が眠ったまま、目覚めないんです……」
「な、何かの病気?」
玲奈の言葉に奈々子は首を横に緩く振る。
「わからないんです。ただ寝てるだけってお医者様は……」
「……原因不明の昏睡状態ってこと……?」
こくんと奈々子が首を縦に振った。
玲奈は「そんな」と小さく洩らして正太郎に視線を遣る。彼も首を左右に振っただけだ。
「何かおかしなことはなかったの? 変なこととか? 吐き気とか、そういう兆候みたいなのは?」
その言葉に奈々子はそっと、一枚の写真をテーブルの上に出した。玲奈はすぐにそれを見る。
「実は朱理が眠ったままになる前に、薬師寺さんがそれを撮ったんです」
写真には眠る朱理と、その傍にいる幼い少女の姿。
玲奈は写真を掴み、じっと見入った。
間違いない。
この写真の幼女が朱理の昏睡の原因だ!
「この子だ! この女の子が原因だよ!」
玲奈が写真の子供を指差して言う。奈々子は「え?」と小さく呟いた。
「しっかりしてよ奈々子ちゃん! 朱理ちゃんはこの女の子に……何をされたかわからないけど、この子のせいで眠ってるんだから!」
「そ……れは、そうかもしれないですけど、私も薬師寺さんもそういう類いの能力はないんです。どうすれば……」
「弱気はダメ! とにかく行こう! なんにもできないかもしれないけど、じっとしてても事態は良くならないよ!」
そう言うや玲奈は鞄を持って立ち上がった。
玲奈の様子に奈々子と正太郎は顔を見合わせ、頷く。
*
朱理のマンションに来ると、朱理の叔母という人物が中に入れてくれた。
彼女は会社に用事があるようでしばらく留守を頼みたいと言ってきたので、奈々子が了承する。
朱理の部屋まで奈々子が案内してくれた。
「へぇ……朱理ちゃんてこんなところに住んでるんだ……」
小さく呟く玲奈は、和室へ入って無言になる。
中では呑気な顔で眠っている朱理が居た。敷布団の上で彼女は本当に、ただ眠っているだけのように見える。
奈々子が苦笑してみせた。
「なんだかムカつきますよね、この寝顔。こっちは心配してるっていうのに」
「あはは。まあでも、朱理ちゃんらしいっていうか」
玲奈もつられて笑う。
正太郎は部屋を見回して嘆息した。
「やっぱりボクにはよくわからないな……。霊とかそういう類いがいるのかな、ほんとに」
ごくっと喉を鳴らして正太郎は自分の発言に青ざめる。
玲奈はきりっと表情を引き締めて頷いた。
「いる。どこにいるかはわからないけど……朱理ちゃんが起きないのは絶対にそのせいだもの」
「やけに断言しますね、秋築さん」
驚いたように言う奈々子に玲奈は照れ笑いをする。
「ま、まあ一応退魔術を習得している身としては、ね」
眠っている朱理の枕もとに座り、玲奈は様子をうかがった。
どこも苦しそうじゃない。悪夢でも見せられているなら、何か悪いものの仕業だと見当がつくものだが。
「どうでしょう? どうにかなりそうですか?」
「何かに憑かれてはいるけど、ボクは除霊はできないんだよ。だから……ごめん」
玲奈はそう言う。奈々子は「そうですか」と小さく返事をして微笑んだ。
「いえ、気にしないでください。状況がわかっただけでもいいですから」
奈々子はすっときびすを返す。
「近くのコンビニで何か飲み物でも買ってきますね。朱理をよろしくお願いします」
「あ、ボクも行くよ奈々子さん。朱理さんが起きたら、きっとアイス欲しがると思うし」
二人は頷いて部屋から出て行ってしまう。そのまま玄関のドアを閉める音がした。
残された玲奈は朱理の手を握る。とても暖かい。
(朱理ちゃん、お願い……返事をして!)
強く念じ続ける。玲奈にはこれしか手段がなかった。
やがて……玲奈は念じるのに疲労してそのまま眠ってしまう――。
そこは田舎だった。
山が見える。野が見える。
玲奈は周囲を見回す。
(ここは……もしかして朱理ちゃんの夢の中?)
そうとしか考えられない。玲奈には見覚えのない場所だからだ。
朱理の夢だとすれば、朱理がどこかにいるはずだ。探そう!
玲奈はすぐに駆け出す。
夢の中というのは曖昧で、現実とは違う。だが朱理の夢はかなり精巧だ。それほどこの場所を朱理が強く憶えているということにもなる。
そこは小さな村だった。
玲奈はあちこちを探す。
「見つからないなぁ……」
そもそも知らない土地なのだから、難しい。
玲奈は民家を見つけては表札を見たりして朱理の家を探した。だが、見つからない。
一休みしていた時、ふいに目に入った。石づくりの階段。
(あれ……神社?)
それほど段は多くない。見たところかなり小さな神社だ。
それでも行かないわけにはいかなかった。
(ラッキーなのは、夢の中だから現実より疲労しないってことだよね)
苦笑して玲奈はそちらに足を向ける。
近づき、階段を見上げた。そしてのぼり始める。
階段を一段ずつあがり、そして――――。
「見つけた……」
視界が、開けた。
神社の横の広場で鞠をついている童女と、それを眺めている朱理がいたのだ。朱理は今の姿であった。
「朱理ちゃん!」
声をかけて駆け寄ろうとするが、鞠の少女がキッと玲奈を見遣る。その眼力の威力で玲奈が吹き飛ばされて木にぶつかった。
背中を打ち付けて玲奈は地面に落ちる。
「う……っ」
痛みに震える玲奈は、自分に陰が差したのに気づいた。目の前にあの童女がいる。
「邪魔するな!」
辺りの空気を震わせるその声に、玲奈は唇を噛んで顔をあげた。
相手に呑まれてはならない!
「朱理ちゃんになにしたの!」
「おまえに関係ない!」
「関係ある! 朱理ちゃんはボクの友達だもん!」
その言葉に童女が一瞬怯んだ。
玲奈はうかがう。
「どうして朱理ちゃんを夢に閉じ込めたの?」
「…………」
童女は冷たい視線で玲奈を見遣り、それから口を開いた。
「朱理が優しいからじゃ」
「え……?」
「一緒に居てくれと頼んだら、いいよ、と応えてくれたのじゃ……」
朱理ならやりそうだ。何も考えずに即答したに違いない。
玲奈は緩く首を振った。
「あなたは、どうするつもりなの……? これから朱理ちゃんを」
「返すわけにはいかんな」
「死んじゃうかもしれないのに!?」
「魂だけでも良い」
その言葉に玲奈の頭に血がのぼった。
そんな自分勝手な言い分が、通るわけがないのに!
朱理はどうなる? 目覚めないままで!
「朱理ちゃんを心配してる人がいる! ボクもそうだよ! お願い、返して!」
「断る」
譲る気がないようだ。
だが玲奈もここで退くわけにはいかない。
現実世界では朱理の帰りを待つ者がいるのだ。
ここは相手の領域。自分では不利だ。
ならばあれしかない。
だが使うことは、玲奈に肉体負荷を余儀なくさせる。能力行使のカウンターで、視力が一時的になくなるのだ。
(説得して、きくような相手じゃない)
すでにこの童女は朱理に執着しているのだ。お気に入りの人形のように、朱理を大事にはするだろう。朱理の生活など考えずに。
悪、と断定できない魔。
「お願い……返して……」
搾り出すような玲奈の声にも童女は動かない。
俯いた玲奈は、ゆっくりと……ゆっくりとその面をあげる。
玲奈の銀の左眼が爛々と輝いていた。
びくっとしてのけぞる童女は、いつの間にか己の周囲になにかができているのに気づく。
「こ、これは……っ!?」
球体だ。
銀の色をした、半透明の球体に童女は閉じ込められている。
「なんじゃその能力は……!」
「……あなたをどうにかしないと、朱理ちゃんが解放されないっていうなら……」
玲奈は立ち上がり、童女を見下ろす。
銀の瞳は童女を捕らえていた。
「仕方ないもの……」
声は、苦渋で。
玲奈の表情は冷たくて。
「玲奈ちゃん、やめてあげて」
声が。
玲奈はそちらを見遣る。
朱理だ。朱理が立っている。
童女に捕らえられていたのでは?
玲奈の疑問の表情に朱理は苦笑した。
「その子が玲奈ちゃんに捕まったから、そういうのは解けたよ」
「! 良かった!
でもなんで……?」
「寂しかっただけなんだよ、その子」
朱理は童女を見遣る。童女は朱理にすがるような目を向けた。
「あたいも一人でいることが多かったからね……。気持ちはわかるからさ。
やりすぎたことは認めるけど……まあいいじゃん。あたいに免じて今回は見逃してあげてよ」
にかっと明るく笑う朱理に、玲奈は拍子抜けをする。
どうしてそんなに明るいのか。
玲奈は頷いて童女を解放した。
「朱理ちゃんに感謝してよ」
小さくそう囁く玲奈を、童女は見上げる。その頭を朱理が撫でた。
「というわけで、心優しい玲奈ちゃんが今回は見逃すってさ。
いつでも遊んであげるから。やり過ぎは勘弁だけどね」
「ど、うして……! 楽しいって言うたじゃろ!?」
「楽しいけど、あたいには大切に想ってくれる仲間がいるんだ。奈々子や、正太郎や………………玲奈ちゃんが」
最後の言葉に、玲奈が目を見開く。朱理は玲奈のほうを見ていない。
強く噛み締めるような朱理の言葉に、玲奈は照れ臭くなった。
*
後日――――。
「でもどうしてあんなに簡単に捕まってたの? 朱理ちゃんなら……」
「あたいは一人でいることが多かったんだー。だから、寂しいって言われたら、そっかあってなっちゃって」
軽く言う朱理に玲奈は呆れる。
能力を使ったために玲奈は左眼の視力を一時的に失っていた。
「あっ!」
転びかける玲奈を、朱理が手を握って支える。
「大丈夫?」
「う、うん。ごめんね……」
「謝らないで。だって、あたいたち友達でしょ?」
朱理の底抜けの明るい笑顔を見て、玲奈も同じように微笑んだ――――。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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PC
【4766/秋築・玲奈(あきつき・れな)/女/15/高校一年生】
NPC
【高見沢・朱理(たかみざわ・あかり)/女/16/高校生】
【一ノ瀬・奈々子(いちのせ・ななこ)/女/16/高校生】
【薬師寺・正太郎(やくしじ・しょうたろう)/男/16/高校生】
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■ ライター通信 ■
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ご参加ありがとうございます、秋築様。ライターのともやいずみです。
明るい友情ものを目指しました。いかがでしたでしょうか?
今回はありがとうございました! 楽しんで読んでいただけたら嬉しいです!
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