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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


螺旋の刻


 ある提案を切り出したのは、事件が終わり少しばかり落ち着いた頃の話だ。
 再び彼を呼び出し、良く通る声で悠也は話を持ちかける。
「式神になりませんか?」
「―――……」
 はっきりとコールが口を閉じる。
 声が聞こえなかった訳ではなく、単純に悠也の言葉に驚いただけだろう。
 案の定返されたのは、問いかけの言葉だ。
「式神?」
「精神や思考だけは他に移しても問題はなさそうでしたから、どうかと思いまして」
 体は元に戻したし、魂は未だに触媒能力と共に人型に封じられたままだが……精神だけを呼び戻したことで、現世との繋がりは強くなっている
 何かしらの媒介を用いれば、精神はとどめておけるというのが悠也の出した結論だった。
「もちろん拒否されても構いません、その気のないモノを式にするつもりはないので」
「………」
 悠也の言葉に、多少ながら迷っているのだと解る。
「特典はありますよ」
「………例えば?」
 問い返すコールに、悠也は微笑を返す。
 在る提案を持ちかければ、高い確率で同意すると解っていたのだ。
「コールさんだと知られずに、タフィーさんを見守れるとか」
 微笑む悠也に、コールが苦笑する。
「どうあっても見逃す気はないようだな」
「強制はしませんよ」
「断るとは言っていないのだが……答えは解っているのだろう?」
「はい、実は」
 死んで全てをお終にするなんて、勝ち逃げのようなことはさせたくない。
 一度関わってしまったことは、可能な限り最後まで関わるべきだ。
「新しい名前と、望むなら姿も変えましょう」
「それも良い考えではあるな、是非とも良い名を考えておいてくれ」
「はい、それはもう」
 頷いたコールと契約を済ませ、コールから風波へと名を変えた彼が、悠也の正体を知るのと。
 その結果半永久とも言える時間をこき使われる事になるのは……。
 もう少し後の事だ。



「さて、次は」
 まだやるべき事は多数在る。
 狩人の所へと向かったのは、今も尚変わらぬ姿を保っている異界の扱いに関してだ。
 現在表向きには、タフィーが触媒能力を使用不可の状態に陥ったことで、異界も不安定な状況なために立ち入り禁止と報告しているが……。
 時間をかけて調べれば発覚してしまうだろうから、今の内に決めておいた方が良い。
「悪用されかねない場所ですから」
「願いの代償がランダムなのも問題だしな」
 異界の中ですむことだけなら安全とも言えるが、その結果どんな危険な願いが叶ってしまうか解らない。
 逆に安全を無視して外にも関係することを願った結果、何時誰が命を落とすかも解らない。
「勝手な意見だが、あの特性は無くした方が良さそうだな。頼めるか?」
「では、そのように」
 落ち着いた時には、抜け殻の様にただの広い空間となっていたと報告されるのだろう。
 何かを狙う者にとっては肩すかしな結末だろうが、安全を考えるのなら有効な手だ。
「っと……ああ、まただ」
 狩人鳴り始めた携帯を確認しがため息を付く。
「他にも問題が?」
「そうなんだよ、りょうに仕事手伝わせ様としたら逃げたらしくてな。いまアトラスからもこっちに電話かかってきてるし」
「俺で良かったらお手伝いしますよ?」
「忙しいのに悪いな、メノウへの届け物とりょうの様子見頼む。俺はこれからタフィーの様子を見に行ってくるから」
 大判の封筒を受け取り、出かける前に一つだけと悠也が尋ねる。
「タフィーさんはお元気ですか?」
「落ち着くまで時間はかかるだろうが、まあ元気にしてるよ」
「それは何よりです」
 それが聞ければ良かったのだ。



 封筒をメノウに届けた後。
「おいしそうですね」
「……!」
 りょうがゲームセンター近くで、鯛焼きを食べている所を見つけたのは直ぐだった。
 僅かに迷いはしたようだが、直ぐに逃げるのを諦めたようだ。
 もっとも……。
「皆さん探していましたよ」
「……って、言うと親父? アトラス?」
「両方ですね、話を聞いたのは狩人さんからですが」
「いま帰ったって疲れてて何も出来ねぇし、無理無理、絶対無理」
 かなり大人気ないごね方だ。
「無理矢理連れ帰ったりしませんから、安心してください」
 何かを真剣に考え込んでから、りょうがあやふやな説明で頼み込む。
「何かいま親父の方に戻ったら酷い目にあうような気がするんだよなぁ」
 つまりはアトラスの方の仕事はどうにかする気はあるらしい。
「手伝いしますよ、おすすめの場所がありますから、向こうへ行くのはその後でと言うことで」
「悪いな……って、え?」
 おすすめの場所とは、もちろん心霊スポットだ。
 今は廃墟となった建物は出入りがなかなか難しい場所で、色々な意味で曰く付きの場所である。
 曰く入り込んだ数名のうち一人が居なくなってしまい、そのままになっている。
 曰く危ない職業の人達が出入りしているらしいとか。
「最近噂になっている様ですから」
「噂以上に本物みたいだな」
 建物全体に感じる霊の気配は、強い物ではないが至る所を這いずったかのように残されている。
「行方不明になったと噂の人は、開いている扉から入って行ったそうです」
「そしてそのまま……っと」
「後から他の方が呼びに行った時には、どの扉もしっかりと溶接されていたそうです」
 多数ある扉はどれも数日や数ヶ月といった単位より、ずっと前に封鎖されていのだ。
 扉が溶接されているのも、怪しげな噂が立った理由だろう。
「中を見る事が出来たら記事になりますよね」
「確かに気になるな」
 他の扉は人為的な物だが、誰かが入ったという扉だけはここにいる霊の結界が原因だ。
 ならばそれを解けば中へとはいる事が出来る。
「元々結界が消えそうな時期と重なったのだと思いますよ」
 あっさりと開いた扉から中へと進む。
 狭い通路の奥にいたモノが光を避けるように、奥へと下がっていくのが見えた。
 何かできるような霊だとは思えないし、先の部屋にも何もない。
 いや、通路の奥にもう一つ扉がある。
 そこから出たのだろう。
 戻ってこなかったという話は、やはり噂らしい。
「このぐらいの方がネタにはしやすいよな」
「書けそうですか?」
「まあなんとか」
 大きなあくびをしたりょうに、疲れ気味なのだと気付いた悠也が声をかける。
「力が足りていないようですね」
「ああ、いまナハトが検査中だから」
「どこか悪い所が?」
 まだ完治していないのかと思ったのだが、そうではないようだ。
「怪我の方は大丈夫なんだ。ただ波長とかなんとか、俺がやってた様な検査だな」
 今になって何故と言う疑問が頭を過ぎり、実際に様子を見てみたくなった。
「いまはIO2の病院ですか?」
「そうだけど……俺はまだ戻んねぇぞ。ええと、ほら。まだ何も書いてないし」
 後退さるりょうに、悠也が相変わらずだと苦笑する。
「それもそうですね、落ち着いたら顔を出してあげてください」
「ああ、ちょっと喫茶店で書いてから行くから」
「解りました、それではまた」
 そこでいったん分かれ、悠也は病院へと向かう事にした。



 検査室。
 一瞬前の静けさはどこへやら。
 切っ掛けは、悠也が来たことと……悠と也の二人も元気よく気挨拶し、ナハトに飛びついた事から始まった。
「元気がありませんね☆」
「痛いところありせんか♪」
 悠と也の二人にぎゅっと抱きつかれ、ぺたぺたと髪や背を撫でられる。
「大丈夫だ、力が足りない以外は何もないと」
 ここに来たときに見せてもらったデータを眺め、成る程と頷く。
 一部を共有しているからこそ、りょうもナハトも等しく力不足の状態になってしまったのだろう。
 そして、以前よりも同調している部分も高まったとも出でいる。
「それなら力を送れば多少は緩和される訳ですよね」
「……? ………!?」
 口移しで力を送られ、さすがに驚いて後ろへと飛び退いた。
「これで大丈夫ですよ」
「悠もする☆」
「也もー♪」
 あっけにとられているナハトに、悠と也ははしゃぎつつ頬やら額やらにキスをしたり、ポンポンと叩いて乱れた気も直しておく。
「変化も落ち着く筈ですよ」
「……あ、ああ。助かる」
 どう反応するべき仮名や見始めそうなナハトに、とりあえずはこの辺にしておこう。
「この後の予定は?」
「病室の方に戻る、客を待たせてあるから」
 立ち上がりかけたナハトに、悠也が声をかける。
「手作りのプリンも持ってきたんです。今はお忙しそうですから、りょうさんが来た時にどうぞ」
「ありがとう」
 箱を手渡し、悠也は手を振って次の目的地へと向かった。



 夜倉木家。
 聞いた話では、どうやら体調が優れないのは慣れない事をしてしまったからだとか。
「これぐらいのことで情け無いわよね」
「寝ていて治るのもすごい話だとは思いますよ」
 体と魂が離れた結果だそうだ。
 幾日もすれば落ち着くから、治ったら呼ぶ気だとは狩人の言葉である。
 案内された部屋の側で、母親シッと合図を送る。
「……?」
「来たこと言ってないのよ、油断してたら一緒に笑いましょう」
 さすがだとは思いつつ、止めようとはしなかった。
 扉を開くと、暗い部屋の中で頭まで布団をかぶっている。
 どうやら、寝ているようだ。
「………」
「………」
 顔を見合わせた後。
 悠也は気配を感じさせないように側まで近寄り、布団の真上で手にしていた物を離す。
 ぼふっと言う音と衝撃に、中で跳ねるような動きをした後に夜倉木が勢いよく体を起こす。
「―――っ!?」
「おはようございます」
「………」
「ほらほら、油断してるから」
 様子を視るに、確かに今の状態なら数日の間休養を取って安定させるのが一番良いだろう。
「そう機嫌悪くしないでください、良い物を持ってきましたから」
 布団の上にあるプリン三つと水晶の入ったお守り袋がそれだ。
「身につけていれば早く治りますよ」
「……悩むところですね」
「確かに」
 治ればそれだけ復帰も早まる事になる。
「上手く使ってくださいね」
 ならばばれない様にすればいいと暗にほのめかし微笑する悠也。
「もっともです、そうさせてもらいます」
「それでは、また。お大事に」
 軽く手を振り、悠也は部屋を後にした。
 




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0164/斎・悠也/男性/21歳/大学生・バイトでホスト】

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■         ライター通信          ■
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突発シナリオでしたが、発注ありがとうございました。
どこで繋がってるようなそうでないような進行具合となりました。
楽しんでいただけたら幸いです。