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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


螺旋の刻


 事件から数日後。
 今も尚やることは山積みであったが、それも少しずつ解消されている。
「はい、助かりました。ありがとうございます」
 頼んでいた事の報告を受け、とりあえずは納得してくれたようだと知ると智恵美は丁寧に礼を告げて電話を切った。
「さて……」
 幾つかの件の報告と、途中経過の話し合いをしておこうと出かける支度を始める。
 電話で済ますには少しばかり込み入った内容になるだろうと予想してのことだ。
 話し合いが主な目的だがもう一つ理由がある。
 彼女たちに会うことも、立派な理由の一つである。
 ゆっくりお茶でもしようと、手みやげを持って本部へと向かった。



 本部内、狩人宅。
「何時もありがとうございます、直ぐに戻ってくると思いますから」
「いいえ、お気になさらず」
 連絡はいれたが、少し早かったらしい。
 狩人が戻ってくるのを待ってから、お茶の前にしておくべき話を始める。
 タフィーとディドルのことだ。
「お茶菓子持ってきたんです、良かったらどうぞ」
「ありがとうございます」
「とても上手く作れたんですよ」
「えっ、手作り……いえ、はい。そうですか。いただきます」
 瞬時に何かに気付いたかなみが僅かにどもるが、チャイムの音に意識はそちらへと傾いた。
「戻っていらしたようですね」
「そうみたい、少し待っててくださいね」
 出迎えに行ったかなみは、すぐに狩人と共に戻って来る。
「悪い、待たせたみたいだな」
「今来たばかりですから」
 ソファーに腰掛けた狩人に、かなみが笑顔で今から出かけるという。
「私はその間マナの様子を見てきますね、そろそろ散歩の時間ですから」
「ああ、気をつけてな」
 今度は反対に狩人がかなみを見送った後、早速本題へと入ることにした。
「その様子だと進展あったみたいだな」
「今はまだ慎重にな行動するべきですが、ひとまずは落ち着きました」
 苦労したのは事故後の処理と責任の所在。
 事件は二人を捉えた事で落ち着いた物の、引き渡さなかったことで責任はどうするかで揉めたのだ。
 そうでなくても、ここまでに至る一連の事件でナハトとメノウもこちら側の預かりになっている。
 また同じ事をするのかと一度決着した話を蒸し返す者も出て来たが……この件については前と同じ方法をとることで何とか落ち着いた。
「本当に良かったんですか?」
「まあ、目的をはたしたところで何も終わらないって解ったしな。もう暫くは嫌われ役でも何でもするさ」 
 内側から直接動くのが狩人たちの仕事であり、周囲から動きやすいように根回しをしておくのが智恵美の役割だ。
 ここへ来る切っ掛けになった電話も、二人の扱いを何カ所かで話しておいた結果についてである。
 内容は………。
 狩人に二人を預からせた際に、組織が得る利益。
 これから何か問題を起こせば、その責任は狩人が負うことになると、向こうにとって得になると思えるような条件を流したのだ。
「もっと、別の方法もあったのではありませんか?」
 圧力をかけるように動けばいい、そうすればもっと楽になると暗に語る智恵美に狩人が苦笑する。
「いや、このバランスはあまり一度に狂わせるのはまずいんだ」
「確かにこれ以上敵を多くされるのは、別の意味で苦労しそうですが」
 持っている力全てを注げば大した貸しを作らずに対処も出来るかもしれない、だがそれでは駄目なのだ。
 常に万全な状態で交渉できるとは限らない野だから、いざというときの切り札や余力はとっておくべきだろう。
 捨て身の交渉なんて方法は、使わない方が良いに決まっている。
「もう十分目は付けられてるからな、相手に自分たちが優位に立ってるって思わせておきたいんだ」
「お疲れ様です。けれど少しは他に回すように手配しておますね」
「悪いな」
 ここ最近増えた上からの事件の調査の依頼は、半ば嫌がらせに近い。
「ここを乗り切れば少しは楽になるはずですから」
「まあ倒れない様に程々にこなすさ」
 それは良かったと智恵美が微笑み、話を先へと進める。
「タフィーとディドルの件についてですが、さすがに狩人さんが身元引受人になるのは難しいでしょう?」
「元触媒能力者とは言っても、俺の身近にタフィーを置いてたらりょうと同じ様に目を付けられるだろうし」
 安全を考えるのなら、狩人からはある程度距離を保っていた方が目は行きにくい。
 その他にも問題がある。
「暫くはIO2預かりだとは思いますが、その後を考えるのなら保護観察者が必要ですから」
「ある程度の条件は必要だよな」
 誰が見ても信用できるかは当然の事。
 何か特殊な事件があった場合に、対処できるかも必要になってくる。
「当然ですが、千里は論外ですね」
「まあそうなるだろうな」
 預かりたいと言い出しそうな顔が浮かんだのか、あっさりと切って捨てる智恵美にため息を付きつつ狩人が頷く。
「少し聞いた話では、他からもマークされているようでしたから」
「困ったもんだ……」
「彼女には私の方からもきっちりとお説教しておきますね」
 にっこりと微笑む智恵美に、何か寒さを感じたのか狩人はヒラヒラと手を振って返した。
「あ、ああ……」
「内々の話ですが、彼女のご両親からもよろしく頼まれていますから」
「解った、見つけたら誰かに連れて行かせるから、その件は任せた」
「はい、ありがとうございます」
 タフィー、ディドルと同じく暫くは目を付けられるのは間違いないだろうが……智恵美が厳しく言う代わりに扱いは程々にと言うことでどうにか落ち着きそうだとホッと息を付く。
「野放しにしとかないでくれな」
「野放し、ですか」
 苦笑する智恵美がそうそうとぽんと手を叩いた。
「ディドルのことですが」
「ん?」
「タフィーと同じく、彼の今後も考えたいと」
 本体は動ける状況にはないが、分身であるゴーレムは現在一体だけ動ける状況にある。
 ゴーレムのディドルの方は至って元気でうるさい程だ。
 行動理由が極めて単純かつ何も考えていないのが明らかなために、やっかいとも扱いやすいとも言える。
 彼の行動に関してはコールも頭を痛めていたのだ。
「あー……まあ、やり方次第だろうな」
 馬鹿とハサミは使いようなどと言うことわざが浮かんだが、それは横に置いておく。
「教育し直すのも大変でしょうが、ここは一つ任せていただけませんか?」
「組織にずっとおい解くのも何だしな……コールの思惑どおりに動いてやるのも何だしな」
「あまり良くない選択ですから」
 真実は本人に聞くしかないのだが、コールがディドルを残したのは事件の責任をおわせるためではないだろうか?
 最終的な目的であるタフィーのことを考えると、そう考えるのが一番しっくりといくのだ。
「大変だとは思うがよろしく、ディドルの件も期を見て掛け合っておくから」
「ディドルに関しては私の方からも動いてみますね」
「解った」
 今の所はこの辺りだろう。
 一息ついたところで狩人が携帯で連絡を取り始める。
「忙しそうですね」
「これはタフィーの所にだから……は?」
 眉をひそめた狩人に、何があったのかと智恵美は黙って電話が終わるのを待った。
 たいした時間はかからなかった、ほんの短い間だけの会話。
「何で出すんだ。意味が無いだろうが………。ああ、解った。任せるから。絶対に逃がすなよ」
 ため息を付きつつ電話を切り、何があったのかを話し始めた。
「千里が出たいと力の限りごねて、どうしようもないから1時間だけ条件付きで許可を出したそうだ」
「……あらあら」
 この上なく笑顔で智恵美は微笑む。
「これは本格的にお説教が必要のようですね」
「まったく……」
「もう少ししたら戻ってきますから、その時にしっかりと言っておきます」
「念入りにな」
「はい、それはもう」
 何時に帰ってくるかはしっかりと把握している、後は時間を合わせて向かえに行くだけだ。
 行動次第によってはお道のご両親に連絡を取ると言う選択も考えておいた方が良いだろう。



 この後も細々とした話し合いを進め、ようやく一段落を付ける。
「とりあえず今はこんな所か?」
「そのようですね、また何か進展したら伺います」
 そろそろタフィー達の様子を見に行こうかという頃、散歩に行っていたかなみが戻ってきた。
「おかえり」
「ただいま、ついでに少し買い物をおと思って」
 スーパーの袋を置きに行ったかなみがマナを寝かしに行った後、直ぐに戻ってくる。
「この後お茶でしたよね、今いれてきます」
「なんか手伝うことは? って、これは?」
「あらあら、ありがとうございます」
 同じく狩人もキッチンの方へ向かったのを見て、せっかくだからと思い持ってきた和菓子を箱から取り出し始めた。
「何飲む? お茶の方が良いか」
「お茶でお願いします」
「そうだな、和菓子だし」
 小皿もを持ってきた狩人に、智恵美が箱から狩人とかなみの分を取り出して分けておく。
「お忙しそうですから、お先にどうぞ」
「悪いな」
 この後も仕事があるのだろう、先にソファーに戻った狩人が菓子を口に運ぶ。
「あ、それ………」
「ん?」
「とても良くできたんですよ」
 微笑む智恵美の言葉の意図を察したか狩人が、深く静かに黙り込む。
「………………!?」
 その場に倒れ込んだのは、直ぐ後のことだ。
「しっかり!?」
「あら、あらあら」
 智恵美の料理の腕前は殺人料理としてIO2内でも有名な話であるのだが、今回ばかりは運がなかったとは……。
 騒ぎが収まった後、狩人の談である。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【2390/隠岐・智恵美/女性/46歳/教会のシスター】
【0165/月見里・千里/女性/16歳/女子高校生】

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■         ライター通信          ■
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突発シナリオでしたが、発注ありがとうございました。
どこで繋がってるようなそうでないような進行具合となりました。
楽しんでいただけたら幸いです。