コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


螺旋の刻


 騒ぎが収まった頃。
 IO2本部内の一室にて、今回の事件に関わった少女が一人。
「誰か」
 現時点で彼女、千里はタフイーに最も近い境遇だとして扱われている。
 実際は違うのだろうが、表向きには千里もタフィーもコールに操られていたと報告されるのだと聞かされた。
「ねえ、誰か」
 返事がないことにムッとして、ベッドに乗せていた足を無意味にばたつかせてみる。
 飾り気のない病室は寝る事しかできないようなシンプルな作りだ。
 怪我なんてとっくに治っているしどこも悪くない、入院という名目で閉じこめられているのは明らかである。
 これまでの行動を考えればそれも仕方のないことだ。
 事件に首を突っ込んだ結果。
 意図も容易くコールに操られ事件を大きくしてしまったのだ。
 それも、二回。
 その後もこのままでは納得が行かないと飛び出していったりもしたのである。
 タフィーとディドルの身元を確保した後、千里はIO2から保護観察される立場に置かれていた。
 当然能力も扱えない状態に置かれてしまっている。
 それにしたって、テレビや本すらもないというのはなんて扱いだろうか。
 ここ数日何度も話を聞かれ、かなりストレスがたまってきているというのに……出来ることと言えば食事や最低限の日常生活程度のレベル以外はほぼ不可能な状態なのだ。
 これで暇だと感じない方がどうにかしている。
 ベッドから降り、ドアから外に向けて本日何度目かの呼びかけを試みる。
「だーれーかー!!!」
 どんどんとドアも叩いたり揺すってみたりもしてみた。
「あーけーてー!!! もう飽きたー!!!」
 力の限り叫び続け経つこと数分。
 ようやくドアが開かれる。
「………」
「あっ」
 眉をしかめつつ立っていたのは、千里がコールにかけられていた暗示が何かを調べていた人だ。
 少なからず知っている顔にホッとしつつ、とにかく声をかけてみる。
 扉の前に立たれているから、飛び出すことも出来ない状態だったのだ。
「こ、こんにちは」
「今度は何をする気なのかな」
 いきなりの毒舌にぎくりとしつつ、引きつったような笑顔で何とか言葉を返す。
「外に出たいなー、なんて」
「却下」
「まって、待って!!」
 ドアが閉められそうになる気配に、千里はしがみつくようにして阻止する。
 ここで会話を終わらせたら、また暫くは出れないと確信できてしまったのだ。
「暫くおとなしくしてなさい!」
「ちょっとだけで良いからっ、これ以上ここにいたら暇で死にそう!」
「仕方ないと思いなさい!!」
「思えないから言ってるの!!!」
 遠くまで聞こえるのではないかと思えるほどの大声でやりとりを繰り返す。
「そうだ、タフィーは、タフィー」
「元気にしてるから戻りなさい」
「タフィーと遊びに行きたい」
「絶対に却下!!! 絶対に無理、駄目駄目!」
「けちー!!! そうだ、見張りとか付けても良いから」
「出来ないから、無理無理無理」
「けちけちけち!!!」
 双方必死の押し問答を1時間ほどに渡って交渉……もといごね続けた結果。
 監視と制限付きで何ようやく許可をもらった。
 最後の方は泣き言の言い合いになっていたのだが、それは横へ置いておく。
 条件は次の通り。
 能力使用は何かあったらどうするのだと詰め寄り、一度だけ許可をもらった。
 発信器付きの監視者有り。
 一時間限定。
 問題を起こしたら即帰還。
 等々厳しく言いつけられたのだが、外に出られただけでよしとしておこう。



 数日ぶりの外を満喫しながら、本やCDを買い込んでおく。
 それからタフィーのおみやげでもと思いケーキ屋や服屋ものぞいてみる。
 地味な服が多かったから、イメージチェンジでもどうだろうかと思い立ち寄ったのはフリルのたっぷり施された服……つまりはゴスロリ系の服だ。
「これかわいいっ、買って帰りたいなぁ」
「早くな」
「急かせないでよ」
 持って帰ったら着てくれるだろうか?
 そんなことを取り留めもなく考え、次の見せに移ろうとしたその時。
「あ」
 通りの向こうの喫茶店に入っていくりょうの姿。
 人のことは言えない状況ではあるのだが、果たして彼ものんびりしていて良いのだろうかと首をかしげる。
「……こんな所に」
 ぽつりと呟いたのを千里はもちろん聞き逃さなかった。
「やっぱり逃げてるんだ」
「だとしても関係な……こらっ、行くなっ」
 否定しないと言うことは肯定して居るも同然だ。
「あたしか捕まえてあげるから、大丈夫」
「そうじゃない、そうじゃなくて!!!」
 さらりとそう決めつけ、最後まで聞かずに走り出す。
 運の良いことに、あの喫茶店は千里の友人がバイトをしている店だったのだ。
 裏口から店に入らせてもらい、友人の姿を見つけて変わって欲しいと声をかける。
 後ろからのぞいているのが解ったが、更衣室に入ってしまえばこっちの物だ。
 なにやら事情を話していれてもらうような会話が聞こえたが、早い所済ませてしまえば問題ない。
「………だ、大丈夫」
 後で思いっきり怒られるかもしれないが、りょうを捕まえたら少しは軽減される……かもしれない。
 冷静に考えれば怒られる方が濃厚なのだが、久しぶりの外出の所為もあってテンションは上がりっぱなしだ。
 制服に着替えつつ本日一回限定の能力を使用する。
 千里にとって、これも十分何かあった内にはいるのだ。
「………よしっ」
 支度を終えてから鏡の前に立ち上から下までしっかりと確認する。
 上手く出来ていると頷き、仕上げににこりと微笑む。
「ばっちり!」
 これで準備は万端。
 おかしな所は見あたらない。
 軽い足取りで彼女はバックヤードを後にした。



 席に着いたりょうがメモに走り書きを始める。
 一ページ分を埋め尽くすと、そこからは目に見えて速度が落ちてきた。
 なんてお約束と思いつつ注文のコーヒーをトレーに載せ、まっすぐにりょうの座っている席へと向かう。
「お待たせしました」
「んー……って、え?」
 うつむいたままの時はどうしようかと思ったが、声に気付いて顔を上げる。
「お仕事ご苦労様」
「……!?」
 ギョッとして目を見開く。
 それもその筈。
 話しかけた声も、顔も、全て高校生ぐらいのリリィその物である。
 能力を使って年齢のそっくりに変身したのだ。
「………」
「……あれ?」
 思ったよりも反応が少ないと首をかしげる。
「どうしたの、りょう?」
 口調はこれで良かった筈だが……。
「リリじゃないだろ……」
「そんなこと……どうして?」
 ばれるのが早いと叫びかけるのを何とか思いとどまる。
「いや、なんか気配が……ああ、あと肩と首の中間あたりにほくろが一つあるんだよ」
「え、嘘!? やっぱりそんな関係!?」
 普通ではそんな所見ない場所だと何時も通りの口調で問いかける。
「………」
「……あ」
 失敗したと口をふさぐ。
 これがほくろのある無い程度の古典的な手段なら、回避できたのかもしれなかったというのに。
「お前……月見里だろ」
「あはは、はは……」
 じりじりと後退る千里。
 この間逃げてしまおうかと思った直後、背中越しに誰かにぶつかる衝撃にはっと息を飲んで顔を上げる。
「ごめんなさ……あ」
 店の裏口で待っていた筈の彼が立っていたのだ。
 その両脇にはIO2職員だとはっきり解る黒服の男の人が二人。
「何かしたら即帰還」
「ちょ、ちょっとまって!!!」
 がっしりと両腕を捕まれ、そのまま引きずられるように連行されていく。
「制服返さないと」
「後で届けさせます」
「りょうはいいの!?」
 何でも言ってみる物だ。
 ぴたりと足を止め、唖然としつつ状況を見ていたりょうに一言。
「君もあまり逃げないように」
「解った、気をつける」
 棒読み口調に深々とため息を付いてから、何事もなかったように歩き出した。
 どうやら話はこれで終わりらしい。
「まだ帰りたくないー!」
「反省してください」
 今度ばかりは、泣き落としも聞きそうになかった。
 こうして千里の外出はあっさりと終了したのだが……。
 部屋から出たいという希望だけは叶えられた。
 智恵美を筆頭に、数人の大人達から数時間に渡ってのきついお説教と言う形での話である。
 当然と言えば、それまでの話だ。




□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0165/月見里・千里/女性/16歳/女子高校生】
【2390/隠岐・智恵美/女性/46歳/教会のシスター】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

突発シナリオでしたが、発注ありがとうございました。
どこで繋がってるようなそうでないような進行具合となりました。
さすがに不可能でしたので一部変更させていただきました、ご了承ください。