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<東京怪談・PCゲームノベル>


超能力心霊部 フォース・ファントム



 う、と成瀬冬馬は周囲をきょろきょろする。
 この背筋を駆ける悪寒は……!
(久々にこれ……! シャレになってないっての!)
 嫌な気分だ。
(まさかと思うけど……)
 脳裏に浮かぶのはファーストフード店に集まるあの三人組である。
 あの三人に何かあったのではと冬馬はその場から駆け出した。



 ファーストフード店に入ると、一目散に二階を目指す。
 二階の窓際に彼らはいつも集まるのだ。
 二階に居たのは朱理と正太郎だけである。
「朱理ちゃん! 正太郎君!」
 駆け寄って声をかけると、二人は呑気に顔をあげて冬馬のほうを見た。
「あれー?」
「成瀬さんだ。こんにちは。なにか急ぎですか?」
 冬馬は二人の安否を確かめてから……奈々子の姿がないのに気づく。
「奈々子ちゃんは?」
「帰ったよ」
「帰った!?」
「うん。なんか用事?」
 朱理の言葉に冬馬は苦笑して後頭部を掻いた。
「うん、ちょっとね」
「ついさっき帰ったばかりだから、走れば間に合うと思うよ」
 にかっと笑う朱理に「そう?」と言って冬馬は店内からすぐさま出て行った。
 そんな冬馬を見送った二人は、顔を見合わせる。
「どうしたんだろ?」
 ハッとして正太郎は朱理に顔を向けた。
「もしかしてあの写真が関係してるんじゃ……!?
 奈々子さんが危ないかもしれない。朱理さんも行って!」
「ええ……? なんで……?」
「なんとかできるのって、攻撃力が高い朱理さんだけなんだってば!」



 奈々子を探して走る冬馬は、やっとのことで彼女を見つけた。
 何かに驚いているように、強張った表情でいる奈々子を遠くから発見する。
(奈々子ちゃん! 良かった、無事みた……)
 次の瞬間、奈々子が対峙している人物を見て仰天した。
 そっくりである。
 一ノ瀬奈々子のそっくりさんが立っていたのだ。
 ちょうど奈々子のいる道は狭く、ほかに人がいない。
 あまりにも不自然な空間だった。
(な、なにあれ!? 奈々子ちゃんが二人!? 一粒で二度おいし……!)
 じゃない。
 よく見れば怯えているほうの奈々子と違い、もう一人は腕組みして自信満々の様子だ。
 きっと、どちらかが本物で、どちらかは偽者。
(本物のドッペルゲンガー?)
 『似ている』なんていうレベルではない。完全に同一だ。
 ドッペルゲンガーに会った者は死ぬ。そういう話はいやというほどある。有名だからだ。
 ということは。
(奈々子ちゃんが……死ぬ!?)
 以前に似たような事件を扱ったが、これほどはっきりと相手の姿を写し取っているのは初めてだ。
「奈々子ちゃん!」
 声をかけると、二人同時にこちらを振り向いた。まるで双子である。
「成瀬さん!? どうしてここに?」
「なにしに来たの?」
 一人は驚いて。
 一人は不愉快そうに。
 どちらも『奈々子』がしそうな反応である。
 とにかくどちらが本物かを見分けるのが先決だ。
「朱理を呼んできてください! きっと何かの悪霊です!」
「違います。あっちが偽者だもの。朱理を呼ばないで。あの子にばかり迷惑はかけられません」
 二人は睨み合う。
「あなたが偽者でしょう!?」
「いいえ、あなたが偽者よ!」
 互いに譲らない奈々子を見遣り、冬馬は近くの奈々子の肩にぽんと軽く手を置いた。
「ごめんね」
 そう言う冬馬は触れた奈々子から『読み取り』を開始する。これこそが冬馬の能力、思念同調だ。
 ただしこれを使うとかなり疲労するのが欠点である。
 目の前の奈々子からは確かに記憶が読み取れた。朱理との奇妙な出会いまでを遡り、そこで冬馬は手を離す。
 軽い眩暈に襲われて冬馬は頭を横に振った。
「だ、大丈夫ですか?」
 心配そうにする奈々子に向けて冬馬は微笑んだ。
「大丈夫だよ、奈々子ちゃん」
「え?」
「キミが本物の奈々子ちゃんでしょ?」
 そして冬馬はもう一人の奈々子を見遣る。
 冷えた目でいるあの少女こそ、奈々子のドッペルゲンガーだ。
「で、キミは偽者。違う?」
 ドッペルゲンガーは目を細めて笑った。
「私も『奈々子』だ」
「だってさ。そうなの? 奈々子ちゃん?」
「違います!」
 尋ねた冬馬に奈々子は即答する。
 ドッペルゲンガーはそこから動かない。
「なにが目的だ? 奈々子ちゃんを殺すことか?」
「そうだ」
 あっさりと肯定したドッペルゲンガーは嘲笑する。
「私は奈々子の『願望』から生まれただけだ。彼女の『理想』。ならば、私が本物だ」
「キミが、奈々子ちゃんの理想だって?」
「そうだ。一ノ瀬奈々子は己の能力を疎んじていた。平凡の中に埋もれたいと思っていた」
「そ、そうなの……?」
 自分の背後にいる奈々子を見遣ると、彼女は唇を噛んでわなわなと震えていた。
「制御できない能力など不用。あるだけ無駄。霊感も、なくなればいいと思っていた。多少見えるだけで何もできない。
 なんと無駄な。
 中途半端な力は重荷にしかならないだろ?」
 くすっと笑うドッペルゲンガーは続けた。
「一ノ瀬奈々子は高見沢朱理に憧れを抱いている。彼女のように奔放で明るくなりたいと思っている。
 自分の能力を役立てられる。自分の能力を恥じていない。
 朱理が憎い」
「違います! 私は朱理を……!」
「憎い。憎い。朱理のことは好きだけど、時々とても鬱陶しい。どうして私が朱理じゃないのか」
「だから朱理ちゃんみたいな表情で、笑うんだね」
 冬馬の冷たい声に彼女は微笑む。
「でもさ、似てないよ。朱理ちゃんはもっと元気に笑う。そんな風に、他人を嘲笑しない」
「…………」
「奈々子ちゃんも惑わされちゃダメだよ! きっとすぐに朱理ちゃんたちが……」
 言葉が、出ない。
 奈々子は涙を流していた。
 突然のことに冬馬はぎょっと目を剥き、慌てる。
「うわ……。え、えっと、だ、大丈夫だよ? ね?」
 優しく声をかける冬馬に頷いて返事をするが、奈々子は涙を手の甲で拭っていた。
 あの奈々子が泣くなんて。
 冬馬がドッペルゲンガーのほうを睨みつけた。
(奈々子ちゃんを泣かせたな……)
 だが自分にドッペルゲンガーを倒す能力はない。
 幸いなのは、近寄ってこないことだろう。そして手出ししてこない。
 どうして攻撃してこない……?
(奈々子ちゃんの理想……?
 っ! もしかして……!)
 もしも、自分の予想が当たっているならこのドッペルゲンガーはこれ以上近づけない。いや、近づくためには奈々子が彼女に屈服しなければならないのだ。
 ドッペルゲンガーには影がない。
 それは……肉体のない証拠だ。
 奈々子の肉体を奪う……それが目的だろう。
 理想の自分を受け入れたが最後…………。
(でもそれは『本人』じゃない…………無理にそんなことしたら『壊れる』)
 それは奈々子の死を意味していた。
 まずい。奈々子の精神はすでに弱り始めている。
 恐怖で。
(……そう思うところがなかったかって、不安になってるんだ……)
 比べる相手が悪いと冬馬は思う。
 奈々子は奈々子でいいところがたくさんある。朱理にはないものがたくさんあるのだ。
 その魅力に気づいていない。朱理が眩しすぎて、逆に不安が濃くなったのだ。
 そう思っていた時。
「お待たせ!」
 そう声がした。朱理がやって来たのだ。
「朱理ちゃん!」
 とう! と掛け声をかけてなぜか塀の上からこちらに降りてきた朱理に冬馬は安堵する。
 朱理は冬馬ににこーっと笑った。
「ヒーローは遅れて登場するもんだよ。ふっふっふ。
 …………で、なんで奈々子は泣いてるわけ?」
 笑顔で不愉快そうに呟く朱理に、泣いている奈々子は何も言えない。
 奈々子が答えないので朱理は怪訝そうにし、冬馬を睨む。睨まれて冬馬は慌てて首を左右に振った。
 朱理の視線が、ドッペルゲンガーに向く。
「……あんたが泣かせたの?」
 冬馬の背中にひやりとした悪寒が走った。
 ちら、と見ると朱理は無表情でいる。こんな怖い彼女を見たのは初めてだ。
(うわー! 朱理ちゃんて本気で怒るとこんなに静かになるのー!?)
 ひえええええ!
 踏んではいけない地雷を踏んだ、そんなところだろう。
 のけぞる冬馬は、何かに袖を引っ張られて見下ろす。
 奈々子が小さく衣服の袖を掴んでいたのだ。迷子が心細くてするように。
「大丈夫だよ……」
 そう小さく囁くと、奈々子は頷いた。まるで幼い子供のようだ。
 朱理はドッペルゲンガーを見て、そして人差し指を向けた。チッ、という小さな音がして、ぐらっとドッペルゲンガーは揺れる。
 見れば相手の額には小さな穴があいていた。銃弾でも貫通したような、穴が。
 朱理の炎である。炎を凝縮し、レーザーのように発射したのだ。
 なんという速さ。怒りの力というのは恐ろしい。
「八つ裂きにしてやりたいところだけど…………奈々子が怖がってるから一瞬で死ね」
 ぶわっと朱理の制服と髪が軽く浮かび上がった。彼女の能力が怒りで増幅されたのである。
 ドッペルゲンガーを一瞬で炎が包んだ。ゆるやかに燃えるものではない。高温で、即時に焼き尽くすものだ。
 ドッペルゲンガーはなにも言えず、燃え尽きた。
 朱理の怒りに比例したような圧倒的な炎に、冬馬は冷汗をかく。
(こわい…………朱理ちゃんも怒らせないようにしないと)
 しっかりとそのことを心に刻んだ冬馬であった。



 近くのコンビニまで来て、朱理は冬馬に奈々子を頼むと言って店内に入った。
 駐車場に残された二人は、しばらく無言。先に口を開いたのは奈々子だった。
「すみません……取り乱して」
 朱理から受け取ったハンカチを握りしめている奈々子を、冬馬がうかがう。
「いいよ。あと……さっきのナイショにしとくね」
 ウィンクする冬馬に彼女は安堵して頷いた。
「朱理のこと……羨ましいって思ってるところはあるんです。でも、私……憎いなんて思ってなくて…………同じ顔で言われて、自信がなくなってしまって……」
 ぼそぼそと吐露する奈々子は、朱理のハンカチを見つめた。
「奈々子ちゃんは憎いとか思ってないよ。朱理ちゃんのこと大事な友達だって思ってるの、ボクは知ってるよ」
 朱理と出会ってからの奈々子の元気な姿を冬馬は視ている。憎しみなど持っているはずがない。
 真っ赤になった目で奈々子は苦笑する。
「……あの、ありがとうございます。助けに来て……くださって」
「いえいえ。どーいたしまして」
 感謝する奈々子に微笑む冬馬。そんな彼を見上げて、泣き腫らした目で奈々子は微笑んだ。
「なんかナイショ話?」
 コンビニから出てきた朱理に、冬馬は頷く。
「そうだよ。奈々子ちゃんとボクだけの、ナイショ話」



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【2711/成瀬・冬馬(なるせ・とうま)/男/19/大学生・臨時探偵】

NPC
【高見沢・朱理(たかみざわ・あかり)/女/16/高校生】
【一ノ瀬・奈々子(いちのせ・ななこ)/女/16/高校生】
【薬師寺・正太郎(やくしじ・しょうたろう)/男/16/高校生】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、成瀬冬馬様。ライターのともやいずみです。
 今回は奈々子がメインのお話です。いかがでしたでしょうか?

 今回はありがとうございました! 楽しんで読んでいただけたら嬉しいです!