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<バレンタイン・恋人達の物語2006>


負け組君にアイの手を!

●ただ羨ましいの一言。
大通りもショーウィンドーも、コンビニエンスストアにだって、ピンク色の空気は侵食していた。
道行く人は大抵が二人組で…彼らの周りから、その空気は周りを染めていて。
…一人でいる者にとっては、なんだか歩いているのもごめんなさ〜い!と思わせてしまうような、そんな日。
「はぁ…」
そこまで思って、ジミー(本名ではない)は息を落とす。
ついにこの日が来てしまった。
2月に入ってからというもの、彼はことあるごとに日数のカウントダウンをして…墓穴を掘っていた。
カウントゼロになるのは、2月の14日…つまり、バレンタインデーであるところの、今日。
万年負け組の彼には、正直言って、呪いたいくらいのイベントである。
「誰もくれないんだろうな…」
空を見上げる…憎らしいほどの快晴。
どうせなら、土砂降りにでもなればいいのに。
「はぁ…」

●そこ行くカップルも見ていきんっさい♪
「はいはい、お次は志羽の水芸、とくとご覧あれ♪」
広場の一角。
平日の昼時ならば、近くのオフィスに務める社会人らが昼食片手にあつまり賑わう場所だ。
勿論、今日という日はまた別の意味で賑わっている。
熱いこの日に一時の清涼剤宜しく、パフォーマンスをしている青年――名を志羽・翔流と言う――は愛用の銀鉄扇・寒雲を用いて水芸の真っ最中。
二月の半ば、まだ寒い時期であるはずなのに、お愛想の水がかかっても文句を出さず…むしろ恋人との会話のエッセンスにしてしまう観客たち。
(かーっ! 相手がいる人はいいねぇ)
「ご覧のとおり、水が生きたように自由自在に踊りまする♪」
それでも体は今日のパフォーマンスの進行を間違えることも無く実行していくのは、それだけ練習や経験を積んでいる証といえる。
(さて、そろそろシメの頃合だな…ん?)
最後の水の吹き上げの前に、観客たちの全体位置を確認したところで、視界の隅に、今日の特別なピンク色を纏わぬ存在を捕らえる。
(わざわざ広場に出てくるってのも、奇妙な奴だな? このあと、声をかけてみるか)
改めて、周囲を確認。
「さぁ、天高くひと噴きしてお暇とさせていただきます、しかと目に焼き付けておくんなまし♪」
ぴゅぅぅぅーっ♪

●そこ行くどこ行く暗い空。
「おーい?」
「…」
軽く声をかけてみるが、返事がない。
「そこのお前さん?」
「……」
少し音量を上げてみるが、またもや返事なし。
「そこのお前だってばさ」
「………はぁ」
念には念を入れてさらに試してみるが、やっぱり気づかず、しかもタイミングよく溜息つき。
(仕方ない)
「…そこの万年独り身男ー」
今までで一番小さい声で言ってみる。
「なにをぅっ! 僕はまだ16だぁっ!」
なんだかすっとぼけた回答を本気で返されたが、やっと振り返る独り身男君。
そんな彼ににかっと人懐こい笑みを返して、まずは謝罪を試みる。
「悪い悪い、なかなか返事してくれないからさ、こうでもしないと気づいてもらえないかと思ってな?」
笑みを返されると思っていなかったのか、途端に気弱になってもじもじしちゃう16歳独り身男君。
「で、何落ち込んでいるんだよ、良かったら話してみな?」
にっかり
独り寂しい時にそんな笑みを向けられたら…話しちゃうものだよね。
男同士だけど。

●独り者の会。
ここで話するのも寒いし、喫茶店でコーヒー飲みながら話そうか、と言うことで…近くの喫茶店に会場移動。
やっぱり…そこもピンクの空気が充満中。
なるべく店内を見ないように、カウンターに腰を下ろす。
ガラス張りになっているから、店の前を行きかう人の波が見える。
少なくとも、店内を見るよりはマシ。
「実は…」
届けられたコーヒーを目の前にして、やっと口を開く独り身男ジミー。

「何? バレンタインデーなんか来なきゃいいのに?」
ちょっと声が大きいですよ、翔流さん。ついでに立ち上がったから注目度倍増です。
店内のカップル達が一瞬、殺気だった目でキミを見てました。
「お前、一度もチョコ貰ったことないのかっ? おふくろさんとか幼稚園の先生とか、義理とか含めても?」
…ジミー君、物言わずこっくりと頷く。
その動作に哀愁が漂い始めているのは、気づかないでいてあげるべきなのか?
「俺、お前のことが可哀相になってきたよ」
どっかりと腰を下ろして続ける。
「俺もさ、義理しか貰ったことないんだよ。本命なんて一度もなかった…」
愛用の扇子を開いたり閉じたりくるりと回したり…いじりながら、自分の身の上も話し出す。
全国各地を渡り歩いて大道芸武者修行をしている翔流は、そういった経験が普通の人より少ないのだ。
でも、義理だけでも貰ったことがある分、ジミーよりはいい身分ですよ。
現にジミー君、なんだか羨ましげにキミを見ているし。
「いいなぁ…彼女いる奴は…。俺も芸人修行なんかせず、普通に高校生活過ごしていたら、彼女の一人や二人できてただろうな…」

●今年も結局収穫ゼロで。
お代わり自由のホットコーヒー。
「羨ましいなぁ〜」
二人でそういいながら、ただずーっと道行く恋人たちを眺めていた。
見ているからって、幸せがもらえるわけじゃないと分かってはいたのだけれど、他にしたいことがあるわけでもなくて。

ぐるぐるぐるぐる
コレが最後、と決めたホットコーヒー。
二人して大量の砂糖を溶かして、めいっぱい甘くして。
せめて気分だけでもバレンタインデーで、今日を終わりにしよう。
男同士だし、なんだか空しいけれどね?
ぐいっと一息で飲み干せば、甘すぎで、それでもほろ苦いコーヒーが喉を焼く。

道行くカップルたちはやっぱり幸せそうで、ピンクの空気はまだ勢いを衰えさせていない。
結局、今年もこの一言に尽きる。
「羨ましいなぁ〜」

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【2951 / 志羽・翔流 (しば・かける) / 男性 / 18歳 / 高校生大道芸人】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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大変お待たせした形となってしまいました、申し訳ありません(平伏

改めて初めまして、桐島めのうです。
今回はご発注ありがとうございました、扇を使った能力もちのPCさんということで、キャッチフレーズにもある水芸を意識して書かせていただきました。

もしまた機会に恵まれました時には宜しくお願いいたします(礼
ありがとうございました。