コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


文月堂奇譚 〜宝玉の魔剣〜

●許可
 その日、アトラス編集部に一つの情報が入った。
「あれの取材許可が降りたんですか?はい、わかりました。早速向かわせていただきます」
 月刊アトラスの編集長、碇・麗香(いかり・れいか)は取っていた受話器を下ろす。
「えーと取材に行ってきて欲しいんだけど…、あいているのは桂(けい)しかいない、か…、桂取材行ってきて」
「編集長、何を取材してくるんですか?」
「ああ…それは…」

『トルゥゥゥトルゥゥゥ……』
 古書店文月堂に携帯電話の音が鳴り響いたのはそれから数分後の事であった。

●交渉
『そういう訳で僕だけじゃちょっと大変そうなんで、慣れてそうな司さんにも手伝って欲しいんですよ』
 古書店文月堂では携帯で桂と話す冬月・司(ふゆつき・つかさ)の姿があった。
「まぁ、それはかまわないんだけど…、で、何を取材するんですか?」
『街外れに古墳資料館があるでしょう?あそこに先日公開されていない宝玉と言うのがあるのが判ったんですよ。で、編集長がそれに取材の要請をしていたんですが、それの許可が降りたんでそれの取材です』
「宝玉、ね…。どういうのなんですか?」
『ボクも詳しくは知らないんですが、なんでも光るとか声が聞こえたどうとか…噂だけは山盛りなんですよ。噂が有りすぎて、公開するのはちょっと、という事だので今まで隠されていたそうです』
 そこまで話した司がふと横を見ると電話から聞こえてくる話を興味津々の様子で司の事を見ている少女の姿があった。
 司は携帯電話を抑えると小声でその少女、佐伯・紗霧(さえき・さぎり)に聞いた。
「ひょっとして一緒に取材に行きたいとか?」
 その司の言葉で紗霧は大きく頷く。
 その様子を見て、説得は無理そうだと司は半ば諦めた様子で紗霧に話す。
「判ったから、少し落ち着いて、な?」
 それを聞いた紗霧はふと思いついた事を司に聞いた。
「他の友達とかも一緒に行っちゃダメ?資料館の裏側なんてめったにいけるものじゃないし…」
「判った判った、それも聞いてみるよ」
 司はそう言ってふさいでいた携帯に向かって話しかける。
 司はしばらく話をしていたが話し終わったのか、電話を切った。
「まぁ、折角の機会出し数名だったら一緒に来てもいいって事だよ」
「ほんと?それじゃ明日にでも誰か誘ってみるね」
 紗霧のその嬉しそうな様子に司は小さくため息をついた。
「しかし、秘められた宝玉の取材、か、久しぶりに興味があるな」
 司のその言葉を後悔する事になるとはその時は誰にも想像はつかなかった。

●アトラス編集部にて
 上月本家にその連絡がきたのは、アトラス編集部に連絡が行った少し前の事であった。
「つまり……、その宝玉の護衛をすればいいのですか?」
「は、はい……、取材を受けるのはいいのですが貴重な資料に何かあったら一大事ですから…」
 額の汗を汗を拭きながら資料館の学芸員は答える。
「判りました。ふさわしいと思える人間を当日派遣いたします」
「本当ですか?助かります」
 何度も頭を下げ、学芸員はほっとしたような顔を浮かべ部屋を出て行った。
「さて、誰が手が開いていたかしら……。そういえば美笑が暇をしていたかしら」
 そう言って女性は電話の受話器を取った、上月・美笑(こうづき・みえみ)に連絡をつけるために。

「あら、なんだか面白そうね」
 夕暮れの迫ったアトラス編集部で綾和泉・汐耶(あやいずみ・せきや)は桂(けい)から話を取材の聞いていた。
「ええ、取材といっても堅苦しいものではなくて、もっと気楽に行こうと思ってるので汐耶さんもどうですか?」
「そうね……。その日だったら、休みを調整をすれば何とかなりそうだわ」
「実はボクもちょっと楽しみにしてるんですよ。噂付きの宝玉の取材」
「桂君がそんな風に言うのは珍しいわね」
「そうですか?」
「違ったかしら?私の勘違いかしらね。ところで他に一緒に行く人はいるの?それとも桂君一人で?」
「いえ、冬月・司(ふゆつき・つかさ)さんという方と他に数名の人が来る予定になっています」
「なるほど、だから私みたいな部外者でも大丈夫って訳ね」
「そういう事です」
 そこまで話すと汐耶はゆっくりと座っていた椅子から立ち上がる。
「それじゃ今日はそろそろ帰るわ」
「判りました、それじゃまた当日」
「ええ、そうね。私も図書館で何か良い資料がないか探して見るわね」
 手を振って出ていく汐耶を見送りながら小さく桂が呟く。
「何もなければいいんですけどね……」
 桂自身もその言葉に意味が出てくることがあるとはその時は思いも寄らなかった。
 そして汐耶が帰るのと入れ替わりで金髪の明るそうな女性とそれに引っ張られるようにして一人の青年がアトラス編集部にやってきた。
 たまたま神聖徒学園に通っている友人からアトラス編集部での取材の事を知った沢辺・麗奈(さわべ・れいな)とそれに付き合わされて、半ば引きずられるようにしてやってきた沢辺・朋宏(さわべ・ともひろ)の二人であった。
「あ、桂君桂君今度、資料館へ取材にいくんだって?良かったらあたし達もつき合わせてもらえへんかな?」
 走ってきて、息を切らしその豊かな胸の揺れが収まる間もなく開口一番編集部に戻ろうとした桂に麗奈が話しかける。
「あ、麗奈さん、こんにちはってもう知ってるんですか?相変わらずそういう情報を見つけてくるのは早いですね」
 思わず苦笑しながら桂は答える。
「伊達に文芸部員やってへんよ。こういうのに食いつかないのは文芸部員の恥だよ」
 そんな判るような判らないような論理で桂に頼む麗奈。
「別に良いですよ。今回は皆で楽しく取材したいと思ってましたから」
「ホンマに?良かったー!?断られたらどうしようかと思っとったのよ」
「だからその時はその時だとさっきも言ったろう……」
 麗奈の横で朋宏がポツリとこぼしたが、喜ぶ麗奈の耳には届いていなかった。

 そしてそれと同じ頃、古書店文月堂に二人の来客があった。
 一人は町で評判のケーキ屋の手土産を持って遊びに来た宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)で、もう一人はその皇騎の持ってきたショートケーキを美味しそうに頬張っている長い金髪の少年クラウレス・フィアートであった。
「で、紗霧さんはその取材に同行するんですか?」
 皇騎はやってきた時に文月堂の姉妹佐伯・隆美(さえき・たかみ)と佐伯・紗霧(さえき・さぎり)の丁度話していた取材の話に興味を持ち、そう聞いた。
「ええ、そのつもりだけど……、何かまずい事でもあるんですか?」
 不思議そうにそう聞き返す紗霧を見て皇騎は思わず苦笑する。
「いえ、気になるって程じゃないんですが、魔力が関係しているのでしたら私も後学のために一緒に行かせて頂けないかな?と思ったもので。あとはまぁ、私の本家の方にもその『宝玉』の話は以前から来ていたので一度ちゃんと自分の目で確かめておきたかったのですよ」
「なるほど、そう言う事なら良いと思うよ。司さんももう少しなら平気だって言っていたし」
 皇騎がそこまで言うと横から同じように声がかかる。
「それだったらできればわたしもいきたいでち」
「あらクラウレス君も?」
 隆美が驚いた様にクラウレスを見る。
「こんかいのがそうだとはいわないでちが、よくわるさをするほうぎょくのはなしをきいたりするでち。だから人では一人でもいいかな?とおもったのでちよ」
「クラウレス君は私の事心配してくれているんだ、ありがとう。それじゃ司さんには皇騎さんとクラウレス君の二人も行きたがっていた事を伝えておくね」
 クラウレスは皆には言わなかったが、別に考えている事もあった。
『さいきんよくうわさをみみにするまりょく……。まさかかんけいするとはいいきれないでちがいちおうかくにんはしておいてそんはないでちからね』
 クラウレスは心に秘めた事を表に出さずに普段と同じようにケーキを口にした。

●取材
 取材当日。
 一向はアトラス編集部でおちあい取材先に向かった
「ごめんなさい。一応私なりに図書館で調べて見たのだけど、それらしい物はみつからなかったわ」
「私の方もどうにも芳しくなかったですね……」
 汐耶と皇騎が桂に謝る。
「いえ、いいですよ。そういうのも含めて取材すれば良いですしね」
 いつもと変わらぬ笑顔を浮かべる桂の姿があった。

「あれ?あのひとはだれでちか?」
 クラウレスは資料館の入り口を指差して疑問を述べる。
 そのクラウレスの指差した先には取材先の資料館の入り口で一人の神室川学園というその筋ではそれなりに有名な学園の制服を着た少女が立っている事に気がついた。
 その少女はやんわりと笑顔を浮かべしゃべり始めた。
「皆さんいらっしゃいませ、今日は学芸員の先生が急用で御一緒できないので、私が一日案内役をさせていただく事になりました、上月・美笑と申します。よろしくお願いします」
 笑顔でそう話すどう見ても中学生くらいののその少女に一同は一瞬あっけに取られた。
 その中で皇騎と司だけは一人思案にふけっていた。
『なるほど【上月】か、あそこの家も私と同じ事を考えていたのか……』
 皇騎の思案は横からの声でかき消される。
「皇騎はんどうしたんや?」
 麗奈のその言葉に皇騎は慌てて笑顔で答える。
「い、いや、なんでもない、こんな子に案内が勤まるのか少し心配かな?と思っただけだよ」
 慌ててごまかした皇騎を麗奈は訝しがりがる。
「それやったらええけど……、って皆先に行ってしもたよ。私達も先を急がないと」
「あ、ああ、そうだね、考えるのはとりあえず後にしよう」
 二人は先に資料館にはいって行った皆のあとをついて行った。

 資料館の奥の今は使われていない特別展示室へ一向は美笑に案内されて向かって行った。
「資料室でっ手分けにもいかないですから、特別展示室においてあるんですよ。丁度今は使っていなかったですし」
 美笑が説明しながら一行を案内する。
 あまり大きくは無い窓がひとつあるだけの特別展示室の真ん中にある台座にそれは置いてあった。
「これがその宝玉になります」
 その台座に置かれた握りこぶしよりも少し小さいくらいの暗い光を放つ宝玉に皆の視線が集まった。
 宝玉は、剣のツバとも取れるような形の台に収まっていた。
「へぇ、これがその噂の宝玉ですか」
 桂がそう言って宝玉に近寄って行く。
「私達ももっと近寄って見てええんやろか?」
 麗奈が美笑に聞く。
「良いですよ、取材をするなら近くに寄らないとダメでしょうし」
 その答えに一行が嬉しそうに宝玉に近づいて行った。
「おもったよりちいさいたまのでしね」
 クラウレスが素直に感想を漏らす。
「確かにそうですね。噂の通りだともっと大きいものを想像していました」
 紗霧がそんな風に宝玉を覗き込みながら感想を漏らす。
「噂の声を発するとか文字が浮き出るとかはどういう風になったら現れるのですか?」
 皇騎のその質問に、美笑は言葉に詰まる。
「私もよくは判らないんですよ、何か法則があるのかもしれないですけど……」
 美笑も護衛を頼まれて先にこの資料館に来てから、一度その宝玉を確かめて見たのだが、その噂の現象のような事は一度も起きていなかったのである。
「もっとよく見てみたいから、少し手に取らせて頂いてもよろしいかしら?」
 汐耶のその言葉に美笑が笑顔で答える。
「少しだったら良いですよ。落っことして割ったりしないでくださいね?」
「大丈夫よ、その辺りは注意するから」
 汐耶もその注意に苦笑しながらゆっくりと気をつけながら宝玉を手に取る。
「こう見るとただの変哲のない玉に見えるわね……」
 宝玉を覗き込みながら汐耶が呟く。
「そうですね、特に何か力を感じるわけでもないですし……、これが本当にその噂の宝玉なんでしょうか?」
「そうだな……。こう見るとただのガラス玉に見えるな」
 皇騎と朋宏も一緒になってその宝玉を覗き込む。
「たしかにそうでちね……。わたしにもちからをかんじない……というかちょっと……」
「ちーとばかし?どうしたの?何ぞ気になる事でもあるの?」
 珍しく口篭ったクラウレスを不思議そうに麗奈は覗き込んだ。
「わたしのきのせいかもしれないでちから……」
「気のせいでもええから、気になりよった事があるなら言った方がええと思うよ。そうした方が桂君も記事にしやすいやろうし」
「そうですね、ボクもこのままだとちょっと記事にするような事が書けそうに無いので、何かあるなら言って貰えると嬉しいですね」
「そうでちか……」
 しばらく考え込んだクラウレスだったが、意を決した様に話し始める。
「わたちには……なにかかくされてるようにかんじられるでちよ……。ただのかんちがいかもしれないですけど

 それを聞いた桂は無表情のまま考え込む。
『何かが隠されているように感じられる?それはひょっとして……』
 どこか考え込無用なしぐさをした、桂に紗霧が不思議そうに問いかける。
「桂さんどうしたんですか?」
「い、いや紗霧さんなんでもないよ。ちょっとボクにもその宝玉を見せてもらえないですか?」
 宝玉を台に戻そうとした汐耶に桂が話しかける。
「ええ、良いわよ。取材をするならしっかり見ないといけないしね」
 そう言って汐耶は見終わった宝玉を桂に手渡す。
 宝玉を受け取った桂はゆっくりとそれを天にかざして見る。
「確かに、こう見ただけでは何も無さそうに見えますね」
 宝玉を目線の高さまで戻した桂はそれをゆっくりと回して眺める。
『特に【力】を込めても変わりはないか……、とするとやはりこれは違うのか?』』
 ゆっくりと宝玉を見終えた桂は再び台に戻す。
「こう見ると本当にただの遺跡にしか見えないですね、どうやって記事にしたものか…」
 考え込んだ桂を見てクラウレスが話しかける。
「わたちにもよくみせていただけませんか?」
 クラウレスもその宝玉を手に取りじっくりと観察する。
『なんだろう?こうなにかがおしこめられてるっていうか……』
 その自分の感覚の正体がわからずに小首をかしげながらクラウレスは宝玉を眺める。
「あの、どうしました?私も先ほど触りましたが、特におかしいところはなかったと思うんですが」
 美笑も先ほどここへ持ってくる際に一応自分なりに噂の正体がなんなのか調べて見たのだが、特に変わったところもなく噂はただの噂なのではないかと思っていた。
「そうでちね…。とくにわたちにもかんじられることはこれいじょうは……」
 クラウレスがここまで言ったとき紗霧が横から口を挟む。
「あの、私にもちょっと見せてもらえませんか?」
 興味深々と言った様子で紗霧がクラウレスにそう言った。
 話しかけられ、クラウレスは宝玉を台に戻そうとした手を止める。
「さぎりもみたいでちか?」
「うん」
 クラウレスの言葉に頷く紗霧。
「おとしちゃだめでちよ?」
「大丈夫だって、そんなドジじゃないから」
 紗霧は笑顔でクラウレスから宝玉を受け取ろうする。
 紗霧の手が宝玉に触れたその瞬間であった。
 宝玉から赤いまぶしい光が急に発せられてあたり一面を覆ったのだった。

●宝玉
「熱っ!?」

……
………
…………ガシャーーンッ!?

 激しい音を立てて何かが割れる音が周囲に響き渡る
 紗霧はその光が発せられた瞬間、宝玉から激しい暑さを感じ取り思わず宝玉を取り落としてしまったのだ。
 そして紗霧の足元には、粉々に砕けた宝玉のかけらが散らばった。
「あーあ、派手にやっちゃったわね……」
 汐耶が頭を抱えて、床に散らばった欠片を眺める。
「ああ、これの護衛を任されていたのに、どうしてくれるんですか……」
 思わず美笑の口から本音がこぼれる。
「やっぱりそれの護衛が目的でしたか、まぁ今の事態はたとえ私でも取り落としていたかもしれないですから
余り責めないであげてください」
 皇騎がそんな美笑に取り成すように話す。
「紗霧ちゃんはちーとばかし後ろに下がっていてな?また何かあるとエライやろから」
 麗奈がそう言って紗霧の事を下がらせる。
 その間に汐耶や皇騎が床に散らばった破片を拾い始める。

コロコロコロ……。

「あっ……」
 破片を拾おうとした汐耶の手から崩れた破片の一つが転がり紗霧の足元まで転がって行く。
「あ、私が広いますよ」
 笑顔を浮かべその破片を紗霧が拾おうとする。
 紗霧が身を屈めその破片に手を伸ばしたその時、異変は起こった

『……汝の力承認せし、ご命令をご主人様……』

 どこからともなくその声が周囲に響き渡る。
「私……私は……」
 紗霧の前には紅い光の脈動するビーダマ位の大きさの玉が宙に浮かんでいた。
 その玉を紗霧は熱に浮かされたような瞳で見つめていた。

「だ、大丈夫か?」
 慌てて近寄ろうとする朋宏の事を桂が制する。
 そしてその精したまま桂はどこか熱に浮かれるような視線でその光景を眺めていた。
「何するんだ!?何か起きたんだ、なんで止めるんだ!?」
 普段クールな朋宏が桂に止められて思わず声を荒げる。
『なんだ?こいつさっきまで全然気配が違う……?』
 この資料館に入ってからずっと気配に注意しながら動いていた朋宏は桂のそのさっきまでとは違う気配に対して戸惑いを覚えていた。
「どうやらこれは封印した方が良い類の物のようね……」
 汐耶はそう呟くと封印の力を使うために意識を集中させようとしたその時であった、紗霧の胸の辺りの位置に浮かんでいた宝玉が激しく明滅し周囲に魔力の波動を飛ばし汐耶の集中を乱す。
「くっ……、これじゃあ……!?」
 汐耶が焦りの声をあげる。
「あの宝玉からなんか精霊の気を感じるねん……」
 麗奈がどこか焦りの混じった声で呟く。
「精霊の気って事はお前に何とか出来るって事か?」
 朋宏のその言葉に麗奈は首を横に振った。
「今の状態やあたしには無理……。コントロールでけへん部分が多すぎる」
「そうか……」
 朋宏がそこまで言ったところで今まで朋宏の事を抑えていた桂が呟く。
「何を抑える事があるんですか、こんなに素晴らしいものを……」
 そう言うと桂は小さく呪のような言葉を唱え、朋宏をその細腕からは信じられない力で弾き飛ばし紗霧の元へと駆けて行く。
「桂君何を!?」
 今まで場の状況を見定めていた皇騎が叫ぶ。
「止まってください。今の事態は何かおかしいです!?」
 皇騎の叫びのあと、美笑が静止のことばを桂に投げかけるが、一行にとまる様子はなかった。
「待てませんよ。ボクはこれを待っていたんですよ」
 姿は桂の様でありつつ桂ではない何かがそう叫ぶ。
 桂に弾き飛ばされた朋宏の元へクラウレスと麗奈が駆け寄る。
「どうやらこまったことになってしまったみたいでちね……」
 クラウレスがそう言って見た桂は紗霧に向かって叫んだ。
「さぁ、銀の姫よ、その力を解放するが良い……」
 紗霧の目の前まで駆けてきた桂はそう紗霧に向かって話しかける。
「銀の……姫……?」
 どこか心ここにあらずといった様子でその言葉に反応する紗霧。

「桂さんやめてください。こんな事私は聞いていませ……きゃっ!?」
 桂を止めようと美笑が桂に向かって行ったがその途中で何か見えない壁のようなものに弾き飛ばされる。
「どうやら結界があるみたいですね……。そうなると少し厄介です」
 皇騎が苦々しげに呻く。
「まさか、不安が的中するとは思いませんでしたね……」
 皇騎はここに来る前に自らの家の調査網を使い宝玉について調べていたが確定できるような情報を見つける事は出来ないでいたが、どこか不安だけがその心にこびりついていたのだった。
 しばらく見ているしかなかったが今まで黙っていた司が意を決した様に叫ぶ。
「このままじゃ拉致がありません、僕が呪符を使って桂君を牽制しますからその間に何とかしてくれませんか?」
「それしかないみたいですね」
 立ち上がりながら懐から呪布を取り出し美笑が答える。
「少し派手な事をしますから汐耶さん達は被害が大きくならないようにしておいて貰えませんか?」
 皇騎がそう汐耶達に頼む。
「わたちもあのけっかいをやぶるのにきょうりょくするでち」
 クラウレスもそう言って自らの力を集中し始める。
 そして美笑が手に持った爆砕符の札を結界に向かって投げつける。
 符が結界に触れ、爆発するとそこに向かってクラウレスが力の塊を放つ。
 音もなく結界が崩れ去ったのを肌で感じた司は符を桂に向かって投げつける。
 桂に触れた符は戒めの力で桂の動きを止める。
「余りこの術は長くは持ちません。早く紗霧ちゃんを……」
 皇騎と朋宏に向かって司が叫ぶ。
「「判ったっ」」
 皇騎と朋宏の言葉が重なり二人は紗霧の元へと駆け寄る。
 二人の様子を見て桂が叫ぶ。
「銀の姫よ、自らが主人である事を示せ」
 司の呪に縛られながらも苦しそうな声で桂が叫ぶ。
「私……私は……」
 紗霧の前に浮かぶ宝玉から再び声が響く。

『ご命令をご主人様』

 どこか無機質なその言葉が部屋に響き渡る。
 宝玉に向かって朋宏がその拳に魔力を宿し殴りかかるが、その拳は何かに遮られる様に止まり、まるで磁石の反発でも起きたかのようにそのまま朋宏は壁際まで弾き飛ばされてしまう。
「紗霧さんだめだっ」
 朋宏の様子を見た皇騎は紗霧を止めようと叫んで呪符を宝玉に向かって投げつけようとする。

『ご命令をご主人様』

 再び宝玉の声が響き渡る。
 そしてゆっくりと紗霧の手が宝玉に向かって伸びる。
「させるかっ!?」
 皇騎が手に持っていた呪符を宝玉に向かって投げつける。
 そして皇騎の投げた符は一直線に宝玉に向かって飛んで行った。
 宝玉に向かって言った符は鋭い閃光と共に爆音を発する。
 汐耶が其の力を使い爆発の力を抑え込んだために、爆心点以外は其の威力が最小限に抑えられる。

「まさか……そんな……」
 呆然と桂が呟く。
「あれならやったか……?」
 皇騎のその言葉と一緒に一向は煙の晴れて来た宝玉のあった辺りを見つめる。
 煙が晴れそして一行が見た物は握りこぶし大の宝玉が柄にはまった刀を手に持った紗霧の姿であった。
「それで良いそれで良いのです、銀の姫よ……」
 桂は司の気が紗霧に向いた隙に自らを縛っていた呪を弾き飛ばし紗霧の元へと向かう。
「では行きましょうか……、銀の姫よ」
 そういうと今まで桂の姿をしていた者はすっと姿が変わる。
 金髪に紅眼に黒ずくめの鋭い瞳をした姿の青年へと。
 そして呆然と見ている一行の前で桂と紗霧は一行の前から忽然と姿を消したのだった。

●エピローグ
 二人がいなくなったショックから最初に立ち直ったのは美笑であった。
 美笑は二人の気を探る。
「方向は……こっち?」
 二人が向かったと思われる方向に向かって式神として鳥を呼び出し偵察のために向かわせた。
「それにしてもびっくりしたな。まさかあないな事になるとは思わなかったよ」
 麗奈が感想を漏らす。
 ただその感想はその場にいる皆の気持ちでもあった。
「とりあえず、この事は隆美さんに伝えないといけないでしょうね」
 汐耶が呟く。
「そうでちね……。とにかくいったんふみつきどうへもどりませんでちか?」
 クラウレスが提案する。
「そうだね。私もそれが良いと思う……」
「あの……文月堂とは?」
 事情を知らない美笑が問う。
 一向は紗霧に関係する事情を美笑に説明する。
「そう言う事なら、急いで伝えた方が良いでしょうね」
 美笑のその言葉で皆の行動は決まり、文月堂へと行く事になった。

 文月堂へとやってきた一向は再び驚くことになった。
 文月堂に、桂が傷だらけで寝かされていたからである。
「隆美さんこれは一体どう言う事ですか?」
「それは私のほうが聞きたいわよ……。紗霧達がここを出たすぐあと桂君がぼろぼろの姿でここにやってきたのよ」
 そこへ桂がゆっくり目を開ける。
「よくもさっきはあたし達の事をコケにしてくれたわね」
 目を覚ました桂に向かって食って掛かりそうな麗奈を抑え智弘が事情を聞こうとする。
 最初はその様子に驚いた桂であったが、ゆっくりと事情を話し始める。
「つまりアトラス編集部に向かおうとした時に何ものかに襲われ、紗霧さんについて言っていたようだったから文月堂に向かった、という事ですか?」
 司が桂の話した事をまとめる。
「はい……」
「そういう事なら私達が会っていた桂君は最初から偽者だったって事になるのね……」
 ため息交じりの汐耶の言葉が流れる。
「とりあえずまずは紗霧さんをどうするか考えないといけないですね。とにかくもう少し情報を集めないと……」
 皇騎がそう言うと先ほど飛ばした美笑の式神が戻ってくる。
 式神から情報を読み取った美笑だったが、落胆の表情を浮かべる。
「ごめんなさい、場所まではわかりませんでした、判ったのは向かった方位くらい……」
 美笑のその言葉に一同は一瞬悲しみの表情を浮かべたが、クラウレスがすぐさま明るい声で皆の事を励ました。
「まだぜつぼうときまったわけではないでち。とにかくまずはみなでじょうほうをあつめるでちよ。わたちたちはできることをまずやるでちよ」
「そうね、クラウレス君の言う通りだわ」
 そのクラウレスの言葉がこれからやるべき事を示していた。

●二人……そして……
 日も暮れた古びた館の一室。
 そこで金髪に紅眼の青年がゆっくりとその部屋の扉を開け入ってきた。
 青年はひとしきり部屋の中を眺めると部屋の中央にある椅子に向かってゆっくりと歩き出す。
「銀の姫よ。こんな近くにいたとは思いませんでした……」
 空ろな瞳で小さく戻った宝玉を首から下げ椅子に座った紗霧に向かって、青年は話しかけた
「貴女のその力はわたくしめが有効に使わせていただきます……、貴女は私の言葉だけを聞いていればそれで良いのです……姫よ……」
 青年は恭しく呟くと動かない紗霧の頬をなで、青年の交渉だけが静かな部屋の中に響くのであった。


To Be Continued...

□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
≪PC≫
■ 綾和泉・汐耶
整理番号:1449 性別:女 年齢:23
職業:都立図書館司書

■ 宮小路・皇騎
整理番号:0461 性別:女 年齢:20
職業:大学生(財閥御曹司・陰陽師)

■ クラウレス・フィアート
整理番号:4984 性別:男 年齢:102
職業:「生業」奇術師 「本業」暗黒騎士

■ 上月・美笑
整理番号:3001 性別:女 年齢:14
職業:神室川学園中等部2年生

■ 沢辺・麗奈
整理番号:4977 性別:女 年齢:19
職業:大学生・召喚士

■ 沢辺・朋宏
整理番号:4976 性別:女 年齢:19
職業:大学生・武道家

≪NPC≫
■ 佐伯・紗霧
職業:高校生兼古本屋

■ 佐伯・隆美
職業:大学生兼古本屋

■ 冬月・司
職業:フリーライター

■ 桂
職業:アトラス編集部アルバイト

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
 こんにちは、もしくは始めましてライターの藤杜錬です。
 この度は異界依頼「宝玉の魔剣」にご参加いただきありがとうございました。
 プレイングの結果により、続き物になりました。
 今回のノベルで出ていた桂は怪我をしているのは本物です。
 続編がいつ頃になるかはまだ少し未定なのですが、決まり次第異界などで告知をしていこうと思っています。
 その時はよろしくお願いいたします。

2006.02.06.
Written by Ren Fujimori