コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


餃子パーティしませんか@駅前マンション


■話が行き渡るまでのこと〜シュラインさんと葛さんの場合。

「ふーん、餃子パーティやるの?」
「…そういえばテレビか何かでお正月女性陣総出で物凄い数の餃子作ってたの見た覚えが」
 場所は草間興信所。
 いつもの如く閑古鳥無きまくりのその空間に、遊びに来ていた藤井葛と、殆ど草間さんちの身内でもある事務員さんことシュライン・エマの声が響き渡る。お茶となると何処からともなく現れる謎の女吸血鬼、エル・レイが振った話――駅前マンションにて某生臭仙人主催と言う春節餃子パーティのお誘いに、葛とシュラインの二人が早速反応していた訳で。
「そうそれ。…どうかしら?」
 言いながらエルはちょうど草間さんちの妹さん、草間零から差し出された湯呑みに指を伸ばし、取り上げる。今日のお茶はまだ早い時間帯のせいか出涸らしでは無い。それを確かめて――と言う訳でも無いが、エル同様湯呑みに手を伸ばしつつシュラインも頷く。
「そうね。折角だし、参加させてもらおうかしら。…武彦さんと零ちゃんも、どう?」
「餃子ですか。…面白そうですよね。私も参加してみたいかもしれません」
 にこりと笑い、零。
「って場所が…駅前マンションってあそこだろ」
「そう。その駅前マンション。…やっぱり避けたい?」
 微妙に嫌そうな武彦の態度に、くすりと笑うエル。…駅前マンションと言えば魑魅魍魎多くして怪奇現象頻発のマンション。近くなので話は良く聞く。赴く事もある。が、怪奇の類出来る限りお断りな武彦としては…なるべく避けたい現象がごくごく普通?に繰り広げられる事の多い場所でもあり。
 そんな訳で、武彦にしてみると少しくらい場所柄に引っ掛かりがある事も――どうか責めないでやって欲しい。
「うーん…」
「やっぱりすぐには決められないか。じゃあ、葛さんの方はどうかしら?」
「ん。俺も呼ばれる。でさ、どのくらいの人数予定してるの?」
「………………そういえば聞いてなかったわね。まぁ、湖藍灰が噛むなら規模とか人数はどうにでもなると思うけど」
「ふーん。ま、人数が集まると色んな餃子が見られるかもしれないね。楽しみだ」
 こくりと頷き、葛もまた零から出された湯呑みに口を付ける。
 ふと目を遣れば、まだ武彦は悩んでいる。
 身内の女性陣の発言&パーティ自体の魅力と、場所柄及び主催者と言う要素。どちらに天秤を傾けるべきか――いまいち、決め手が無い。
 と。
 とんとん、とエルが指先でテーブルを叩いた。
「そういえばね、この春節で食べる餃子に関係する縁起担ぎの一つなんだけど…」
「?」
「餃子って基本的に三日月っぽい形してるわよね。この形って、中国最後の王朝まで流通していた『元宝銀』って馬蹄形の銀貨と形が良く似てるの。…ああ、昔の財布の形に似てるって話もあったっけ」
 まぁとにかくそんな風に言われててね、年の始めにこれを食べると金運に恵まれる、って縁起担ぎの意味もあるのよねー。
「兄さん!」
「武彦さん!」
 エルの言葉を聞き、殆ど同時に目の色変えて声を上げる草間さんとこの女性陣。
「だったら是非ともお呼ばれしなきゃ! ただでさえその縁起がある上に、主催者が仙人なんだったら余計に御利益あるかもしれないじゃないっ!!」
「その通りです! 出来る事はしておいて損は無いですからっ!」
 …そして今年こそは、悲願の貧乏脱却を!
 と、シュラインも零もここぞとばかりに訴える。武彦も武彦で、その話を聞き乗り気でなかった様子が少しだけ、変わっている。…その縁起は確かに魅力的。ついでに言うなら――超現実的にセコい話だがこの誘いに乗るなら飯代が一食分浮く事も確か。
 漸く天秤が傾いた。
「…行くか」
「そう来なくっちゃ」



■作る。

 で。
 一月二十八日。農暦こと旧暦の大晦日――て言うか向こう式に言うと除夕の日当日。
 大雑把に決めておいた時間に、駅前マンションへと餃子パーティ参加者が次々集まって来た。外から来る人が殆ど、とは言え当のマンション上の階から来る人も居ない訳では無い。一番上の階からは――酒瓶たくさん&色々適当に見繕った材料入りなスーパーのビニール袋ぶら下げた伍宮春華に、ちょっとだけ荷物&それとは別にケーキらしい箱も携えた朔夜・ラインフォード。彼らの乗るエレベータに、六階からこれまた何やら荷物がある玖渚士狼が合流し下りてくる。コミュニティスペースに直接顔を出して来た大家さんは勿論一階管理人室から顔を出して来た。で、師父の一声で本日餃子パーティ準備の為部屋を明け渡す事を余儀無くされているのは、二階の空五倍子唯継。…取り敢えず当該マンション住人はこの五人。
 で、外から来た人々を説明すると――まずはやけに荷物が多く見える草間武彦に草間零、そしてシュライン・エマこと草間さんちの三人。前後して訪れた藤井葛も少し荷物が多めだ。…実はマンション住人内外関係無く皆、事前に段取りを打ち合わせるだけで無く、連絡を取り合い――それなりに料理の心得がある参加予定の方々に限るが――ある程度の下拵えを済ませたものを分担して持って来る事にしてあった。…だから少し荷物が多い。
 ただ、いつも通りに和装な天薙撫子の荷物の場合は、その下拵えのものだけではなかった。それにしては気のせいか妙に多かったのだが――訊ねてみるとそれは殆どお茶の用意らしい。マリオン・バーガンディも、参加するに当たって撫子同様お茶を主体に色々考えてみたとの事。来る途中で専門店に立ち寄り、買ってきた中国茶の茶葉が幾つか。ついでにデザートも。
 殆ど手ぶらで外から来た面子が、黒榊魅月姫に真咲誠名。それと魅月姫に会わせたいとでも思ったか、女吸血鬼が引っ張ってきた『息子』ことキリエ・グレゴリオ。…過去に草間興信所にて色々騒動を起こした事もあるキャラクタではあるが、今回は一応…複雑そうな顔ながらも大人しい。
 それから、綾和泉汐耶と相楽まのみ、イオ・ヴリコラカスも来る事になってはいるのだが、何やら仕事だったり忙しかったりとの事で途中合流、と連絡をもらっている。
 最後。主催側の関係者として汐耶に話を持ち掛けた香坂瑪瑙に、草間さんちで話を持ち掛けたり魅月姫を誘ったりキリエを引っ張ってきたりしている女吸血鬼ことエル・レイ。それから忘れてはいけない、主催者当人で空五倍子の師父こと鬼・湖藍灰も勿論居る。
 一応面子が揃うと、まずは準備をしようと言う事で、二階の空五倍子の部屋に案内される。その前にシュラインが大家さんに丁寧にオトナの御挨拶。御近所さんである事と、今回は場所柄お世話になると言う事で。続いて撫子が――お祖父様こと大家さんは当然、それと顔馴染みの方初めての方久し振りの方にそれぞれ丁寧に御挨拶。大家さんの方もそれらに挨拶を返してくる。葛とエルがお久しぶりーとばかりに話していたり、朔夜が瑪瑙に話し掛けていたりキリエが魅月姫に紹介されていたり。…そんな和気藹々とした雰囲気の中、勝手知ったる弟子の家、とばかりに湖藍灰主導で皆は空五倍子の部屋まで移動した。
 二階なので、エレベータを使うまでもなく階段上って廊下を少し。すぐに到着。



 当初言っていたように空五倍子の部屋は生活感の無い殺風景な部屋だった。…で、都合が良いとばかりにキッチンのみならずリビングに当たる部分まで、テーブルその他大人数での調理準備用に事前にセッティング済みになっている。一応、ある程度事前に大掃除したらしい形跡もあり。皆で持ち寄った事前の下拵え――みじん切りにしてあるニラ白菜に長葱生姜の各種材料やら、ちょうどいいサイズにぶつ切りにした剥きエビやら挽肉等――基本の材料を荷物の中からそれぞれ取り出し、取り敢えずテーブル上にわかり易いよう並べ出す。テーブル上に元々用意されている分も結構ある。愛用の割烹着まで持参した気合いの入った方々――シュライン・エマや草間零、天薙撫子も、それらを埃を立てないよう気を付けながらいそいそと着用。
 混乱を避ける為下拵えは事前に――と考えてはいたが、焼き餃子程度ならば稀に作るが、それでも餃子を作る事は少ない為この際なので確り作り方を覚えたい、と張り切っている撫子の意向もあった為――そして一応本場の人、しかもどうやらひっそり玄人はだしな料理人でもあるとかないとか――な湖藍灰も居る為、皮など敢えてそれ以上の調理はしていない。その代わり、皮用の強力粉は何処から調達したのか大量に用意されている。
 …基本形水餃子以外の下拵えは各人におまかせ、お好みで作っておいてもおかなくても。あんまり料理が得意じゃなくても入れてほしいもの入れてみたいものがあったらどーぞ遠慮無く持ってきて下さいな。…それから何か変なものを仕込みたいと考えている人は予め具を餡に作っちゃって持ってきた方がバレ難いかもしんないよー、などと事前の連絡時点で湖藍灰の唆しも結構あり。それに答えたか別にそんなつもりでもなく単なる便宜上か、餡状態にまで仕込んで具を持参した人も、数名。果たして普通の餡かチャレンジャーな餡か。

 で、持ち寄った材料が広げられ、割烹着やら調理器具等装備も整ったところで、まずは皮を作るところから開始。強力粉を混ぜながら少しずつ水を入れる。少しずつ生地にまとまり、ちょっとずつ手応えが出て来る。オーソドックスながら白玉粉を入れてみてもいいでしょうかと撫子が提案。こっちは卵で色付けてみましょうか、と香坂瑪瑙。水の代わりに豆腐入れてみてもいい? と真咲誠名。色々と工夫しながら皆さん総出で餃子の皮作り。
 代わる代わる皆さんでやってみている。料理が得意な方々に加減を聞きつつ、慣れていない方々も一応捏ねてみたりした。一応自炊している男性陣こと朔夜・ラインフォードや玖渚士狼、空五倍子唯継も案外堂に入った手付きでやっている。粘土みたいだよなとふと伍宮春華。まぁ否定はしないがと草間武彦も。結構人数多くなったので、生地はひとまとまりだけではなく幾つかに分けて作成。そうなるとそれぞれで色々と遊びようもある。…遊び甲斐もある。
 耳たぶくらいの固さになるまで――表面が滑らかになるまで確り捏ねましょう。
 最後に生地を丸めたら、濡れた布巾を被せ、暫く常温で寝かせます。
 …と、餃子の皮自体はそんな感じなのだが、具から調理の仕方からして――基本の水餃子以外にも色々とやってみる事になっている。鉄鍋で焼く焼き餃子に様々揚げ餃子。ついでに蒸し餃子も食べたい気分かも、それからシュウマイ、包も一緒に作っちゃおう、とここぞとばかりにシュラインが言い出し実行し始めてもいる為、どうやら餃子限定では無く何やら賑やかな食卓になりそうでもある。

 …餡の具材として切ってある材料をボウルで混ぜる。挽肉と生姜に長葱、熱して冷ました油に五香粉他ささっと味付け。続けてエビ、ニラ。塩で揉んで柔らかくし、水を切った白菜。冬瓜やら干した海鼠、帆立。薬膳系のものも別に分けて作成。と、これらが一応湖藍灰が用意した水餃子の餡になる。…撫子は一つ一つ確り聞きながら、混ざり具合が偏らないよう気を付け、手でさっくりと混ぜている。
 仕上げのように香り付けの胡麻油。再び軽く混ぜ、こんな感じでどうでしょう、と湖藍灰に訊いてみる撫子。ボウルを差し出されるまま湖藍灰は撫子の作った餡をちょっと味見。そうそうそんな感じとにこやかに頷く。有難う御座いますと撫子も思わずお礼。…さすが湖藍灰は腐っても弟子持ちな仙人とでも言うべきか、はたまた撫子の方が教わるのが上手いと言うべきか…何やら即席な料理学校の先生と生徒状態である。

 そんな張り切った撫子――どうやら恋人の為にも料理等やってあげられそうな事は色々やって起きたい、上達したいと言う健気な気持ちの表れもあるらしい――の様子を見ながら、他の面子も色々具材作成に突入している。
 藤井葛と朔夜がまず考えてみたのは日本ではスタンダードな焼き餃子。向こうで焼き餃子にする場合は残った水餃子の再利用でする事も多いらしいが、ここは日本だそんな一段下の物には思わせまい。…別にそう誓った訳でも無いが――改めて一つ一つ具材の違いを確認してみると、どうやら水餃子ともあまり変わらない模様。ただ焼き餃子の場合は水餃子と違ってエビやら海鼠やら冬瓜は特に考えていなかったり、逆に水餃子の場合は大蒜は別に必需品じゃなかったり、どちらかと言うと具材の性格として肉等スタミナ系ではなくさっぱり精進料理系がメインである――と言った程度の話。後は焼き餃子の方が水餃子用より皮が少し薄めでOKか、と言ったところ。
 んじゃキャベツは要らなかったのか? とふと小首を傾げる春華。…彼が餃子の中身用にと自分ちの冷蔵庫から適当に選んで持ってきた中にキャベツもあったのだが、見たところ似た傾向の葉ものな野菜としては白菜がメインになっている以上、あまり必要なさそうな雲行きである。他にも春華は持ってきた材料を幾つか出して見せる。今言ったキャベツに、唐揚げ用鶏モモ肉。生わさび。水菜。…何やら脈絡無し。
 それらをひょっこり後ろから覗いて、シュラインはそーねぇ、と餃子以外に何か作れそうな料理も考え込んでみる。そこに湖藍灰が――鶏肉も春節料理には欠かせない縁起物なんだよね☆ と助言。だがそう言いながらも科白に反し彼の手は生わさびの方をひょいと取る。曰く、日本風にわさび醤油つけだれにしても美味しいかもと言う話と、香辛料系メインに餡を詰めても面白そうだよねー、との事。…どうやらわさび餃子仕込む気があるらしい。
 その発言に一時停止する近場の皆さん。…それはある意味罰ゲームの世界では。思い、反射的に制止し掛けるが――タイだったかどっかの国じゃそのくらい普通にやってるよん、と湖藍灰はあっさり。当然のようにキッチンに向かうとおろし金を探し始めた。…本気だ。
 内心ちょっぴり複雑な朔夜が、基本形焼き餃子の餡を作りながら湖藍灰のその様子を見ている。ロシアン餃子やってみようとひっそり持参したハバネロもこの様子ではあまりインパクトが無いかもとの懸念が。火の如き激辛の王者と独特な鼻に突き抜ける辛さでは…純粋に辛さの強弱だけで勝負できない。ちょいと辛さの性格が違う為、鼻に抜けると言うインパクトによりわさびの方に軍配が上がる可能性もある。それら諸々少し考え込んでから、朔夜はその湖藍灰を追って、ひそっと耳打ち。暫くして湖藍灰からおっけーと快く返答が来る。
 …何だか怪しい。

 他方、揚げ餃子――を考えていた面子も結構多い。チーズやバナナにリンゴに餡子。シュラインに葛がデザート系狙いとしてそんな具材を持参している。で、マリオン・バーガンディがバニラにチョコレートにストロベリーのアイスクリームまで持って来ていた。揚げ餃子の中に入れてみたらどうなるでしょうかと無邪気に提案。ちょっと考え、面白そうかもしれないねと葛も同意。シュラインも、やってみよっかとひとりごち、零と瑪瑙に声を掛ける。そんな訳で試しに使用してみる事が決定。
 ついでに、デザート系だけで無く普通の揚げ餃子は要望あるかしら? とシュラインが話を振ってみる。食べたい人が居たら挙手して下さーい、と希望を取ってみる。…気が付けば殆ど全員が手を挙げていた。挙げてないのはたまたま手が離せないタイミングだった人だけ。ひっそり武彦も零も手を挙げている。こちらもまた、数えるまでも無く決定。色んな種類の餃子があった方が楽しそうだと言う思惑が大勢らしい。と言うか、シュラインさんの手による品となると――やっぱり知っている方は食べてみたいと思うのかもしれない。
 そんな中、あ、俺ただこれ入れるんじゃなくもう一手間やって見ようと思ってたんでコンロとフライパン借りるよー? と誰にともなく告げる葛。場所柄仕方無いながらもコンロの口が少なめなので一応お断り。すぐに火を使う用事は別に無かったか、特に反対は無し。葛は小口に切り分けたリンゴとバター持参でキッチンに向かう。
 と、彼女がキッチンに入ったその時には既にコンロの一つに鍋が掛けられていた。何かと中を見たらぼこぼこと沸騰した湯の中に見慣れぬコインだけが数枚入っている。じーっとよくよく見ると日本円では無くどうやら人民元のコインらしい。真ん中に『5角』と書いてある。何事かと思っていたら、そこにちょうど空五倍子唯継が顔を出し、その鍋の火を止めていた。いったい何なのか葛は訊いてみる。と、おみくじの当たりみたいな感じでコインを餃子に入れておく風習があるそうで、と空五倍子は返答。さすがによく洗って煮沸消毒しないと食べ物の中には入れられませんけど、と肩を竦めながら空五倍子は鍋を空けてコインを取り出す。…どうやらちょうど煮沸が終わる、そんなタイミングだったらしい。それらコインを布巾で持って、空五倍子はすぐにリビングへと出て行った。
 ふーん、と頷きながら、葛は空いているコンロの口でリンゴのバター炒めを開始。フライパンにバターを潜らせ溶かし、小口に切り分けたリンゴを転がす。程無く香ばしいような甘いような匂いが立ち込める。…どーせなら今のコイン当たるといーな、と、無意識ながらもちょっと誰かさんの事を頭の隅に浮かべつつ、考えてみたりもしていた。

 そして具材を皮で包む段になる。寝かせた生地を持ってきて棒状に伸ばし、手頃な大きさに小さくカット。球状に軽く丸めてから、麺棒を使い回しながら円形に伸ばして行く。
 麺棒が幾つか用意してあるので、円形に伸ばすところから手分けしてやってみる。んじゃこんな感じで、と朔夜がまずやってみた。そして広げたところに具を少し取り、包んでみる。手馴れてますねおにいさんと湖藍灰がにやり。いえいえと朔夜くん御謙遜しつつこちらもにやり。…何だか似た反応。次は零が挑戦。力加減がいまいち掴めなかった故か出来た皮はちょっと薄め。少し考え再びトライ。今度はいい感じ。ちなみに包む方は問題無し。ちゃんと具を包み閉じている。
 そんな感じで、あちらこちらで皮を伸ばして包み出し、餃子を成型。取った餡によって、少し包み方を変えてみたりもする誠名。少しは違うのあった方が目にも楽しいだろうし中身の区別も付けやすくない? と丸っこかったり捻ったり、閉じる時作る縁の襞を細かく増やしたりして作ってみる。それもそうだなと士狼もそれに便乗。誠名に倣って幾つか同じような形に分けて成型してみた。
 こんなんで良いのかとあっさり包んでみせる春華。オーソドックスに綺麗な三日月型で、閉じた縁の襞も多過ぎず少な過ぎず華麗に波打っている。具の量も適量。おお、と意外な手先の器用さに、男性陣のみならず料理は任せろな女性陣からも賞賛の声。さすがにちょっと照れる春華。春華くんはそういう仕事、色々器用だからねと微笑みながら大家さん。…ちなみに彼の場合は一つ一つゆっくり丁寧に包んでいる。…まぁ、そうでないと上手く行かないと言うのが正直なところなのだが。
 武彦もそんな感じ。一応、それなりに包めはするが、慣れてない故に基本的に…遅い。
 そんな武彦だったが、ふと隣に立って自分同様黙々と餃子を作っていた神父服な吸血鬼――キリエ・グレゴリオの手許をちらと見る。
 …と、妙に手際が良く、早い。随分手先が器用なんだな…と武彦は思わず呟くが、特に反応せずキリエはただひたすら餃子の皮を手際良く円形に広げ、具を包んでいる。エルに連れられ来た時からどうも仏頂面なのだが…観念したのか、逃げるでもなく普通に手伝っている。ただ、何を言われても何も返さないのが精一杯の強がりらしく、餃子作りの段取りの方で用が出来ない限りは何も話さない。…まぁ、元神父となると聖餅とか自分で作ったりもする訳だから、料理関係はある程度手馴れていて当然でもあるか。知らぬ料理とは言え要領さえ掴めばそれ程難しい事でも無いのだろう。
 むしろその親世代?な吸血鬼の二人ことエル・レイや黒榊魅月姫が包んでみた方が――何やら微妙な形である。それはちゃんと餡が包めていれば良い、と言えば良いのだが…取り敢えず誰が作ったのか一目で分かる形でもあり。…それは誠名や士狼のように包み方を工夫していると言う意味では無く。そんな感じで幾つか餡を包んでは見るが、何だか却ってお邪魔かもしれませんねと魅月姫が手を止める。いえいえ参加する事に意義があるんですよん、とスポーツの大会みたいな事を言いつつ湖藍灰がその肩をぽむ。そうですわ、何事もやってみる事が大切なのです、と撫子も思いっ切り同意。彼女もまた、一つ一つ確認しながら、丁寧に餃子を成型してみている。…やっぱり撫子さんは何だか気合いの入り方が違う。
 シュラインや、エルを除いた主催側の面子は当然のように手馴れた風。特に空五倍子や瑪瑙は毎度湖藍灰に何だかんだと巻き込まれている事がしみじみ垣間見える。…自炊以前に、何処と無く手際や手付きが似て見えた。

 で、何だかんだと餃子を包み終えたところで、茹でたり焼いたり揚げたり調理の時間。そこに至り、漸く綾和泉汐耶が来訪した。彼女もまた何やら荷物が多い。仕事帰りらしいのだがそれだけの荷物でも無く。曰く、幾つか前日から仕込んである状態の餃子を持参していると言う事らしい。となると、今ここで作った他の餃子も成型は出来上がっているところだから――誰が測ったか、タイミング合わせは完璧である。



 一方。
 餃子の準備に目処が付いたかな、と見た時点で、声を掛けて一足先に一階に戻るマリオン。それが切っ掛けになったか、コンロで調理するならあまり大人数残っていても邪魔だろう、とばかりに、あまり餃子の準備をお手伝いしていない――と言うかあまり料理が得意でない皆さん――特に男性陣から率先して階下へ移動。階下に行ったら行ったで、ではこれお願い致しますです、とマリオンが当然のようにテーブルクロスをエルと魅月姫に渡している。共同でばさりとコミュニティスペースのテーブルに広げ、セッティング。
 そして何処から取り出したのか、取り皿にたれ用の皿も元々の人数分よりマリオンが多めに用意。作成段階で、つけだれが様々用意されていた事に気付いた為。皿を並べるのは大家さんに誠名。マリオンは茶器も用意し、何のお茶が良いか皆に要望を取ってみる。もうすぐ準備が終わりそうなので淹れておいてみる。お湯は――近いと言う事で管理人室のコンロをお借りして調達する事に。酒用にグラスや御猪口も追加して用意する春華。こちらを並べるのは士狼や空五倍子も手伝っている。そして――椅子は確実に足りない事が予想出来るので、立食パーティ形式にするべく逆にすべて退かしておいた。こちらは武彦やキリエもお手伝い。退かした椅子は、マリオンがちょっと穴をあけた空間の向こうに一時的に置いとかせてもらう。
 程無く、鼻腔を擽る匂いが階段の方から漂って来る。
 出来上がったところから、少しずつ階下のコミュニティスペースへと運ばれて来た。



■食す。

 ほこほこと湯気を上げながらちょこんと大皿の上に鎮座ましましている水餃子。中身の餡や皮、包み方ごとに分け、彩りも鮮やかに盛り付けてある。そんな大皿が幾つか。揚げ餃子に焼き餃子――それとちょっと様子の違う、オーブンでこんがりと焼いたらしい、見た目としては揚げ餃子の方に近いような焼き餃子もそれぞれ出てくる。用意段階では話も聞かず見掛けもしなかった気がするので汐耶の作かもしれない。そして蒸篭の中に蒸し餃子。各皿の上に付け合わせもひっそり。シュウマイやら包も出て来た。
 さてどうしようと迷った鶏肉からはちょっとした煮付けやらスープが作られている。そこに水菜もキャベツも使用。ぴりっと香辛料を効かせた、身体の心から温かくなりそうな仕上がりである。それで、持参された材料は何とか消費。…また、汐耶がついでに持って来ていた、ちょっとした魚料理もあったりする。この魚も鶏同様春節には欠かせない類の食材なのでちょうど良し。
 皿を運んで来るに当たってまだ少しばたばた気味、割烹着のままの人とかもまだ居たが――顔が揃ったと見たところですかさず皆さん呼び付けて主催者号令、お好みのお茶とお酒をそれぞれ渡し、取り敢えずの乾杯。
 何はともあれあつあつの内に召し上がれ、って事で。



 で、今度こそ落ち着いてから皆でそれぞれ食べ始める。どれが最初でどれが次とか順番何も関係無し。お好きなところからおつまみ下さいませ、と言う事で各々色々つけだれ用意。と、それを見ながらも基本形の水餃子はつけだれ無しでもそれなりに味付いてるよんと湖藍灰。あ、ホントだ結構旨いとすかさず食べてみる春華。同様ひっそり頂いてみるマリオン。一口齧って、生姜でさっぱり系なのですねと興味津々で中身を見ている。皮も美味しいのですとこくり頷く。マリオンとしてはどうも…水餃子の方には取り敢えず大蒜は無しと聞いたので、そちらをまず取ってみている模様。…大蒜が用意されているのはつけだれの方になっている。
 こちらも同様、一つ小皿に取って、何も付けないまま上品な仕草で口に運んでみる魅月姫。箸は何とか使えるが、餃子と言う物は初体験。が――ひとまず一つ食べてみると、茹でた皮のつるんとした食感がまた何とも言えず。殆ど無表情なままに見えながらも、すぐに次を小皿に取っている。どうやら彼女の知己ことエル辺りが見るに、魅月姫はこの水餃子、気に入ったと見た。食が進んでいる様子をエルが微笑ましく見ている。
 汐耶さんがまず呼び付けたのは主催者の湖藍灰さん。えー、まぁ彼女の場合この湖藍灰とは…某組織でのお仕事云々でちょいと色々とあったので、これは『完全に別口かどうか』確り確認しておきたい訳で。それは空五倍子の存在自体が確実な保険とも言えるが、取り敢えず釘刺しがてら直に言ってみる。
 すると――うん別口別口、と以前汐耶を殺し掛けた事(…)など忘れたように軽ーく返してくる湖藍灰。何だか信用ならない言い方だが――まぁこの場で色々言うのも無粋だから信じましょうと取り敢えずそこで引っ込める。汐耶としては似たような身内が居るのでこんな裏表の使い分けも一応免疫あり。と、そんな風に考えているのを知ってか知らずか――湖藍灰がまぁまぁ一杯どーぞ、と汐耶のグラスについでにお酌。その行動には何だか苦笑。俺もくれー、と春華くんもすかさず飛んで来た。ふと見れば武彦さんもまたいつの間にやら呑んでいる。
 …皆さん、呑み過ぎないように気を付けましょう。
 シュラインさんもそう言っています。

 他方、お茶の用意は撫子さんとマリオンくんが主に担当。御二人ともジャスミン茶や烏龍茶等の中国茶をメインに選んではあるが、撫子さんの方は煎茶や玉露等の日本茶も用意。マリオンくんは杏仁豆腐なんぞもデザート用に用意してみたらしい。
 それから朔夜くんがひっそり桜入りの紅茶も持参していた為、そこからちょいと気の早い春の香りも漂って来たりする。そして、紅茶同様桜なロールケーキも御土産に。朔夜の持っていたケーキらしき箱の中身はこれだったらしい。
 お茶の匂いに誘われてエルもこちらに来る。シュラインさんに零さんもこちらで一緒に和んでいる。こちらは何だか飲茶気味な世界。…えー、この場合は餃子って主食扱いでもOKなんですが。だから山程作ってたりするので。…まぁどっちでも良いんですけども。
 お茶に合うかどうかはわからないけど。準備中、エルを見てそう言いながら葛が作っていた揚げ餃子。こちらも基本形の水餃子同様何も付けなくても良い形で作ってある。リンゴのバター炒め入りのとこれまた胡麻油で炒めた餡子入りの物。頂いてみて…お茶と合わせても結構いけるわよ、とエルはにっこり。
 その他の揚げ餃子。シュラインが作ったフルーツ系の物は敢えて素材そのまま、お好みでチョコクリームや蜂蜜、酸味あるさっぱり系なサワークリーム等を付ける形に想定。それぞれ用意してある。好評。そしてお酒のおつまみと想定したか、チーズの入った揚げ餃子もまた幾つか。汐耶が更にナッツ系の物も用意して持って来ていた。お酒の方に手を出している汐耶さんに武彦さんも、お茶主体っぽいこちらに半分顔を出している状況。そちらの餃子も抓まれて、順調に減っている。
 マリオンが提案したアイスクリーム入りの物もちょっぴり興味津々で各方面から手が出されている。齧ると熱いかりかりの皮と、とろりと溶けたアイスクリームが舌の上で混ざり合う。微かに残る冷たさが面白く、両極端の刺激が楽しめた。…とは言え他の物にも増してその食感は時間限定。いえ、暫く置くと味の濃いクリーム入り揚げ餃子――それもちょっと冷め気味微妙にへたれな代物になりそうなので。…そうなる前に平らげましょう。何となく贅沢な気分になれる御菓子な餃子でした。
 オーブン焼き餃子はお察しの通り汐耶さん作の物。中身は曰くチョコレートにカスタードクリーム、こしあんに他適当なフルーツを。手を出してみると――ちょっとした洋菓子のような趣の仕上がりになっている。朔夜の持ってきた桜入り紅茶の売れ行きが俄かに上がった。…でしたらもっと紅茶も淹れてみましょうか、と撫子がティーポットと紅茶の茶葉を何処からとも無く持って来る。…実はそこまで事前に用意していたらしい。さすがお茶好きな人である。
 紅茶って西洋で――好んで英国で飲まれてますけど元々は中国発祥ですし、朔夜様の物で足りないようでしたら出そうと思っていました、とにっこり微笑む撫子。…確かに中国紅茶も、洋風な紅茶と味が近い物もある。…つまり紅茶は茶葉を完全に発酵させて作る訳なので。花のような甘味が出るくらい。

 続いてはオーブン以外の鉄鍋――て言うかフライパンで焼いた焼き餃子。こちらは――水餃子と違って予めつけだれを考える事が結構多い。醤油にラー油にお酢辺りは定番か。わさび醤油やら大蒜醤油、辛子味噌だれも用意されている。誰が持ってきたのかマヨネーズ醤油なんかもあったりした。…そうそう、忘れてはならない水餃子の方にもつけだれが色々工夫して用意されている。ひっそりと撫子が胡麻だれやらポン酢たれやらも提供してみていた。そちらもそちらで、元々味が付いているとは言え、つけだれを付けて頬張ってみるとまた違った味に早変わり。
 それら主食系な餃子も売れ行き好調。餃子を選ぶのみならず、つけだれを選ぶのもまた楽しい。白玉粉入りの皮を使った物はぷるんとした弾力が少し他のと違う。豆腐入りや卵入りの黄色い餃子は心持ち味がまろやか。勿論中身でもまた違う。海鮮系に薬膳系。確かに基本の餡で作られた物は一番飽きが来なさそうな味なのかも知れない。
 密かに朔夜くんが小皿に取り分けた餃子を瑪瑙さんに渡している。有難う御座いますとにっこり笑って受け取る瑪瑙。和気藹々。朔夜の口からさりげなく飛び出す美辞麗句と優しい微笑み。様々なおねえさま方に対し言い慣れている為不自然無し。勿論汐耶さんにも既に言っており――そちらはさくっと流され速攻撃沈。シュラインさんやらエルさんにも言ってはいるが似たような感じ。瑪瑙も瑪瑙でいつもの事とちょっと照れながらも笑って受け流している。一方、反射的に固まっている空五倍子がそこに居た。…この彼が近くにいる事を確認してから朔夜はそんな行動を取っている。
 …えー、つまりは誰かさんを苛めて遊ぶのが面白いって事なので。
 その上に…実は瑪瑙さんの方でも結構承知の上と言う噂があるとかないとか。
 士狼くんは餃子のみならず包とシュウマイも結構たくさんもらっている。…理由、豚肉メインの為。狼なのでと言うか何と言うか、たくさん食べる上に肉好きだったりするのでそちらに手が伸びる事が多い。特にシュウマイなんかは飾りのグリーンピースを除けば肉オンリーと言えるので、密かに幸せ噛み締めていた模様。
 で、自分ばっかり良い思いしても何だ、とでも思ったか、士狼は別にしておいた幾つかの餃子を朔夜に渡す。特に疑問無く朔夜はありがとーと受け取り普通に食べるが――ふと停止。数瞬沈黙。直後――大爆笑。お前おかしいと士狼に言いつつ朔夜は涙目になりひーひー笑っている。
 その理由は――士狼が朔夜に渡した餃子の中身が油揚げ。
 確かに、朔夜とてそれが好物である事を否定はしない。しないが――だからと言って餃子に入れるか? むしろこれは包む方に使いがちな食材ではなかろうか? …例えば稲荷寿司とか。
 そんな反応をされるが、士狼としては何故おかしいのか良くわからない。好きなものだろ? と士狼が大真面目に続けると、朔夜は更に爆笑。…士狼は本気で朔夜の反応の理由がわかっていない。
 と、ちょうどそんな頃に――エルに声を掛けられていた相楽まのみとイオ・ヴリコラカスが漸くコミュニティスペースへと来訪した。賑わってますねー、と言いながらそれぞれ御挨拶。いらっしゃい、と幾分落ち着いているお茶の組から誘われ小皿に取り分けた餃子を早速渡される。渡されるまま受け取りながらも酒の組の方を見ると――春華ちゃんが酒瓶抱えて平気で翼出してたり、魅月姫さんも楽しそうに(殆ど無表情なので多分だが)薄ら頬染めていたり汐耶さんも豪快に酒注いでいたりキリエがどんどん飲ませられたか潰れかけていたり、と何やら既に宴もたけなわ、ってな状態になっている。
 ついでにみゃー、と鳴き声がした。源を辿れば碧の瞳が印象的な白猫さんがまのみの足許に擦り寄っている。どうやらまのみとイオの二人と一緒に入ってきたらしい。首には鈴付きの赤い首輪。…彼もまた当該マンション在住、新米招き猫な大福くんである。その事を他の住人な参加者さんから聞き、招き猫ならちょうど縁起が良いよな、と誠名が香辛料系無しの餃子を迷いなく選び、小皿に取るとひょいと大福の目の前に。
 それで、まのみとイオのやけに多めな荷物が目に入る。仕事帰り――と言うのとは何だか性格が違いそうな荷物。曰く――春節と言う事だったら折角なので、と準備に全然手を出せない代わりに爆竹と花火を持参したらしい。…また騒ぐ為の道具が増えた。
 まぁ、悪いと言う訳では無いが――ひとまず、火の用心は忘れずに。

 と、イイ感じに盛り上がって来たところで――湖藍灰がまた別の皿を二つ持ってきた。どちらにも見たところ普通に水餃子が並べられている。
 が。
 一つの皿をギャルソンの如く翳して見せ、朔夜くんと共同製作したロシアン餃子でーす、との宣言が発されるに至り――参加者の皆様ちょっとぴくり。皮がやや厚い為、半透明とは言え中身はあまり確り判別不能。て言うか色的にわさびだったら野菜と混じるし、朔夜が画策したハバネロだったらエビ辺りと混じる。色では元々判別できそうにない。ついでに言うなら卵使用の皮を使ったのか、皮に黄色い色が付いている為ただ白い皮より余計にわからない。…他にも何か画策されてもいるのかどうか。後は匂いだが――さて。
 ちなみに、薄い緑色な皮で包まれた餃子が載っているもう一方の皿は適度に辛さを抑えて試しに作ってみた――わさび&他の具材を使った、それ程奇を衒った訳で無い普通に食べる用の餃子らしい。…で、ロシアン餃子の方の『当たり』はこちらのわさび餃子と比較して、辛さ及びインパクトが十割増しにしてあるとの事。
 わざわざ比較対象が作ってある辺りが小憎らしい。
 で、怖いもの見たさのような感じで普通用のわさび餃子の方を皆さん試しに食べてみる。それでも辛い。とは言えすっきり系の辛さで、わさびや辛いものが苦手でなければ美味しく食べられそうな程度。わさびって日本が誇れる香辛料なんだなあと唸らされるような感じである。
 …だが。
 それを基準で十割増しの辛さとインパクトと言われると――ちょいと話が違って来る。
 さぁさどうぞーと湖藍灰が皿を差し出す。一応無理強いは無し。草間さんちの皆さんとか汐耶さんとかマリオンくんとか大家さんとか辞退する人も居る。が、まぁ挑戦してみよう、と餃子を取った人の後ろには…何処から取り出したのか葛がひっそりハリセンちらつかせ、取った皆さんの様子をじーっと窺っている。
 撫子さんは取り敢えずセーフ。ちなみにセーフの水餃子の内訳は、卵入りの皮にエビニラ餃子だった模様。次に魅月姫さん。…ひとくち齧って――ふと残りを小皿に置き、ほぅ、と溜息。お茶を一杯。…リアクションが殆ど無しだがどうやら当たりだったらしい。続いて朔夜くんは――セーフ。士狼くんもセーフで、まのみさんも持って生まれた勘働きを最大限に活用?し、セーフ。誠名さんがまた当たりで…葛さんを気にしつつ、口を押さえて出してしまうのを必死で堪えている。…一応辛い物平気な方な筈なのだがそれでもきつかったらしい。続いて――瑪瑙さんもセーフ。イオくんは――涙目になっている。当たり。で、キリエさんは…殆どノーリアクション。…ただ、セーフではなく当たりだったらしく、変な顔して食べている。暫くそんな様子だったが――少しして、唐突に壁際に座り込んで頭を抱えている。…一応平気では無かったらしい。
 で、春華ちゃんが――当たり。ぎゃああああ、と吐きつつ何だかとっても素敵なリアクションで反応。その後頭部に葛のハリセンがすぱこん。なぐるなぁっ、と泣き声混じりで叫ぶが、ロシアン餃子も良いが食べ物を粗末にするのはダメだぞと一喝。春華はくすんと嘆きつつ、酒でも茶でもなんでもいい飲みもんくれええっ! と叫び訴える。大丈夫? と気遣いつつ、そんな春華に汐耶がなみなみと酒を満たしたグラスを渡したり。…ってそれもそれでちょっと待て。一方誰かに頼むまでもなく烏龍茶を何杯か事前に用意しておき、かっこんでいたりする空五倍子。当たったらしい、と言うか事前に当たると思っていたらしい上に実際に当たったらしい。普段から師匠に遊ばれている弟子故の転ばぬ先の杖か。…いや、お茶をわんこそばか何かと間違えてないか。
 当たったにも拘らず平気な顔で味を評しているツワモノも居た。エル。…中の具にわさびとハバネロ、具材混ぜる為の油にはラー油使用で、皮の黄色は卵じゃなくて和芥子みたいね? とあっさり。…それは確かに強烈だろう。
 …て言うかちょっと待て、そもそも『幾つ』当たりを仕込んだ。

 と、そんなお遊びをしながらも、餃子パーティはまだまだ続く。前に挙げた水餃子に揚げ餃子に焼き餃子、普通の中身の揚げ餃子に蒸し餃子等々、他の料理も各人取り分けつつ、そんな感じで暫し後の事。
 ロシアン餃子の『当たり』は匂いによりさくっと避け、黙々と肉系料理中心に各種餃子を食べ続けていた士狼だったが――ふと口に入れた水餃子に何か固形物が入っているのに気が付いた。がきりと歯にぶつかる金属っぽい固い物。何事かと士狼は無言でそれ――金色のコインを取り出し、ためつすがめつ。これも食べるべきなんだろうかと途方に暮れつつじーっとそのコインを見詰めている。で、ちょっと食べられそうにない気がすると結論。ならばどうするのかと本気で悩む。…と、そんな士狼の様子に気付き、お、一番手の当たりだと葛がにやりと笑い掛ける。士狼は何事かわからない。
 が、士狼くんのそれを皮切りに、続々と各人同じような状態になっている。…とは言えさすがに食べるべきか否か本気で悩むような人は士狼くんくらい。
 こっちにもある、あ、そっちにも。その内葛さんが小皿に取った餃子からも同じコインが出て来た。よくよく確認すれば――どうやら皆さんに行き渡るような形で餃子の中からコインが出て来ているらしい。…ロシアン餃子ではなく他の普通に食べる用の水餃子の中から。

 そこで今度は湖藍灰が、思わせ振りに――にやり。
 今更ながら、種明かしちっくに話し出す。



■新年快楽!

 …とは言ってもこの種明かし、湖藍灰御本人の素性がアレだが別に本気で危ない話ではない。強いて危ない話だと定義するなら――餃子ごとコインを飲み込んでしまう可能性があるのに事前に注意を与えていなかった事くらいか。…取り敢えず誰も飲み込まないで済んでいるけれど。
 曰く、皆さんの餃子から次々出て来たコインは春節の餃子の中に仕込む習慣がある物で、一番初めに入っているのを当てた人はお金持ちになるだか幸運になる云々の縁起があるらしいと説明。が、どういう加減でか殆ど皆同時にそれぞれそのコインが当たっている。どうやら湖藍灰さんが何か能力的なちょっかい掛けてそうした、と言うのが真相らしいが――そんな八百長気味な話でも、縁起担ぎだから良いじゃんそれに俺一応仙人だしさー、の一言で片付けられてしまった。まぁ確かに、そんな悪戯なら害は無いから良いのだが。
 コインの件なら葛は偶然準備中にコンロで見掛け、空五倍子に簡単ながら聞いている。改めて湖藍灰から理由を聞いて、葛さんのみならず他の皆さんもふーんと納得。だったらお守りに取っておこう、と特に草間さんちの皆さんがぐぐっと握り拳固めている。…やっぱり草間さんちは色々と切実らしい。
 ちなみに入っていたコインが人民元の五角ばかりな理由は――何故か湖藍灰が一時集めてた事があるからとの事。理由は不明。誰とも無く弟子の空五倍子に訊いてみても、師父の考えを読もうと考える方が間違っていると悟り切った顔であっさり。まぁともあれ、今回気が向いたのでそれを放出、と言う事らしい。…ぶっちゃけ、深い理由は無い。中に入れるコインとしては一角でも一元でも、日本円の硬貨でも何でもいいらしいのだが。…場所柄、日本円の方が御利益ありげに見えたかも知れないが、そこはまぁお気になさらず。
 ちなみに、密かに一番量も数もたくさん食べていたからこそ、士狼が真っ先にこのコインを当てる事になっていた模様である。…真っ先に、と言っても次点をそれ程引き離して一番だった訳でもないが。



 で、気が付けば――時計の針は結構進み。お外も暗く、次の日二十九日――春節元旦こと向こう式に言うと初一間近。
 そろそろ餃子も料理も粗方無くなり、皆さんのほほんお茶とお酒をちびりとやってそろそろお開きかなーと思っていた頃。
 んじゃそろそろやりますか、とまた湖藍灰が言い出した。何をかと思えば――取り出したるは鞭炮こと爆竹の束。おおっ、と春華が反応。それは春節の年越し時に鳴らして騒ぐものだとは聞いている。賑やかなのは良い事だ。
 そんな訳で、いーですかーと今更大家さんに許可を得ようとする湖藍灰。…空五倍子くんから聞いてるよ、と苦笑しながら大家さん。どうやら、春節祝う気なら絶対やるだろーなーと見ていたらしく、予め先回りして空五倍子は話を通しておいたらしい。湖藍灰はさすが俺の弟子と愛想振り撒き喜んでるが…当の弟子は色々複雑そうである。
 で、面白そうだと見た春華と朔夜が率先して、湖藍灰と共に爆竹片手にお外へすっとんでいく。士狼も朔夜に引き摺って行かれている。折角だから行ってみるか、と悪戯っぽく更にその後に続く葛に誠名。私も行ってみるのです、と目をきらきらさせて爆竹一つ取り上げ後を追うマリオン。エントランスから彼らの姿が消えると――程無くぱぱぱぱぱんと派手な爆発音が連続する。音にびくっとする大福くん。きゃーきゃー騒ぐ声も外から聞こえる。何やらやけに遠くからぱぱぱぱぱんと聞こえてくるのは――音の反響からして春華くんが飛行中な可能性も否定できないわね、とシュラインが苦笑。ついでにごおおおおお、と風の唸りが聞こえるのも気のせいか。気のせいだろう…気のせいとしておこう。
 …やがてエントランスの向こうに真っ白な煙がもくもく充満しているのに気が付いた頃、片付け大変そうですねと溜息混じりに汐耶さん。準備が手伝えなかったので片付けの方は確りお手伝いしようと思って来たんですが…と瑪瑙を見るが、だったら日を改めてお願いする事になっちゃいますけど、と瑪瑙。曰く、確り片付けるのは春節明けてからと言う事になっている為。当日は簡単に皿を片付ける程度で、確り御掃除後片付けするのは後になってから。そうしないと運が逃げるとか何とか。…言われてみれば日本でも似たような謂れがあったっけ。まぁ、明日も仕事なのでそういう事なら日を改めて手伝うので声掛けて下さいと肩を竦めつつ頼んでおく。日曜もお仕事なのは大変ですねと瑪瑙。仕方無いけどねと汐耶は小さく笑う。元々、汐耶は明日用に一応着替えも用意して来てあるので、今日のこのパーティが遅くなっても直行で何とかなるようには用意済み。
 爆竹で暴れるのは今行った皆さんに任せて、花火しませんかとまのみとイオが持参した花火をお誘い。春節用の派手なものではなく日本の夏場にありそうなちょっとした手持ちの花火を幾つか。これならそれ程危なくないなと思いつつ、今度は水を張ったバケツと蝋燭が即興で用意される。…ヘビースモーカーな武彦が常備品として百円ライターを持っていたので火の用意は深く考える必要もなく。
 改めてエントランスから外へ出た残りの面子の方は、何だか成り行きで今度は花火大会になっている。が、妙に線香花火の売れ行きが良いと言うのはやはり日本人?のサガなのか。
 皆さん蝋燭から花火に点火し、綺麗な火花がささやかながらも散り始めたところで――日付が変わる。
 …さて、ここで。

 あけましておめでとう――新年快楽!



 …ちなみに。
 この日の後、草間さんちの金運が良くなったかどうかは――定かではない。

【了】



×××××××××××××××××××××××××××
    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
×××××××××××××××××××××××××××

 ■整理番号/PC名
 性別/年齢/職業

 ■0086/シュライン・エマ
 女/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

 ■1892/伍宮・春華(いつみや・はるか)
 男/75歳/中学生

 ■1449/綾和泉・汐耶(あやいずみ・せきや)
 女/23歳/都立図書館司書

 ■0328/天薙・撫子(あまなぎ・なでしこ)
 女/18歳/大学生(巫女):天位覚醒者

 ■4682/黒榊・魅月姫(くろさかき・みづき)
 女/999歳/吸血鬼(真祖)/深淵の魔女

 ■1312/藤井・葛(ふじい・かずら)
 女/22歳/学生

 ■2109/朔夜・ラインフォード(さくや・-)
 男/19歳/大学生・雑誌モデル

 ■4146/玖渚・士狼(くなぎさ・しろう)
 男/18歳/大学生/バーテンダー

 ■4164/マリオン・バーガンディ
 男/275歳/元キュレーター・研究者・研究所所長

 ※表記は発注の順番になってます

×××××××××××××××××××××××××××

 …以下、登場NPC(□→公式/■→手前&拝借NPC)

■オープニングシナリオから登場
 ■鬼・湖藍灰
 ■空五倍子・唯継
 ■香坂・瑪瑙
 ■エル・レイ

■PC様よりの御指名ありで登場
 □草間・武彦/シュライン・エマ様
 □草間・零/シュライン・エマ様
 ■大家のじーさん/シュライン・エマ様&天薙撫子様

■他
 ■真咲・誠名
 ■キリエ・グレゴリオ
 ■相楽・まのみ
 ■イオ・ヴリコラカス
 ■大福
 ■真咲・御言(綾和泉汐耶様、マリオン・バーガンディ様パート:名前のみ)
 ■鬼・春梅紅(伍宮春華様、朔夜・ラインフォード様、玖渚士狼様パート:名前のみ)
 ■鬼・凋叶棕(〃)
 ■鬼・丁香紫(〃)

×××××××××××××××××××××××××××
          ライター通信
×××××××××××××××××××××××××××

 今回は発注有難う御座いました(礼)
 えー、募集開始の日が除夕こと春節前日だった訳でして、そこからして実際の春節と納品時期の方がズレ込むのは当然とも言えるのですが…それにしても…お届けするまでに随分掛かっているのが凄く気になるいきあたりばったりライターの深海残月です…。って何処かで桜が満開とかラジオから聞こえてもいたような…(汗)。日付としてもバレンタインどころか雛祭りも過ぎホワイトデー云々言ってる時期ですしね…(遠い目)
 結構長い事窓開きっぱなしだった上、日数上乗せした分目一杯使わせて頂いておりますのでそんな状況です…。
 大変お待たせ致しました(礼)

 今回、餃子と言えば飲茶と言うイメージからか、はたまたお茶好きのエルが居たせいか、それとも事前に御相談の上で参加して下さったのか…皆さん揚げ餃子、と来た方が多かったです。
 そして…酒盛りメインにするかお茶メインにするかは本気で迷いました(笑)
 プレイングとしてはお茶の方が優勢気味だったのですが、結局両方になっております。
 えー、何だか爆竹&花火まで持ち込んでたりしますが、そこは春節と言う事でおおめに見てやって頂けると。このくらいの危険?は皆さんでしたら問題無いでしょうし(笑)
 いや、むしろ散らかるのが気になるって方がいらっしゃいそうですか(汗)
 …ちなみに御近所への夜中の騒音公害の方は湖藍灰が御都合主義的にある程度は何とかしてると思いますので御安心下さい(…本当か?)

 結果としてこんな風になりましたが、如何だったでしょうか。
 少なくとも対価分は楽しんで頂けていれば幸いです。
 では、また機会がありましたらその時は。

 餃子の中から出て来た五角の貨幣、縁起担ぎに皆様お持ち帰りどうぞ。

 深海残月 拝