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妖精さんいらっしゃい♪〜雨の恐怖
●聞こえた声は
そのとき草間興信所にいたのはシュライン・エマのほかには草間武彦と阿佐人悠輔の二人。ちょうどひとつの調査依頼が終って寛いでいたところであった。
「少ないが、礼だ」
武彦が差し出した数枚の一万円札を、悠輔はまじまじと驚きの表情で見つめた。
「……珍しい」
呟かれた瞬間、武彦ががくっと肩を落として情けない笑みを浮かべる。
「今回は珍しくきちんと依頼料が貰えたから」
シュラインは苦笑して、フォローにならない発言を口にした。本当のことだけに、いろいろと複雑な心境である。
その心境を察してか悠輔は少々乾いた笑みを浮かべてから、お札に手を伸ばしかけた――その時。
「うええええんっ、テクス、どこぉ〜〜っ!!」
どこからか、大音響の泣き声が聞こえてきた。
「テクス?」
「あの声、ウェルちゃんじゃないかしら」
「知り合いなんですか?」
悠輔の問いに、武彦が疲れたような顔をする。
「事件……というほどでもないんだけど、別件で会った子で、妖精なのよ」
尋常ではない泣き声を気にしつつも説明したところで、悠輔がぽつりと呟いた。
「なにかあったんですかね……」
あの台詞からしておそらく、はぐれたのだろう。もう一人の妖精と。
なんにせよ、あの泣き方は尋常ではない。早く行ってやらねば。
「ええ。とにかく下に行ってみましょう」
悠輔と二人で興信所を出て、外への階段を下りていく――と。妖精の前で、困った様子で顔を見合わせる男女がいた。
声をかける前に、視線がかち合う。
「泣き止んでくれなくて……」
見た目どおりの困ったふうな声音で、少女がぽつりと呟いた。
男の方はハンカチを手にしていて、妖精を拭いてやろうとしていたらしい。
悠輔もハンカチを取り出して妖精の方へと手を伸ばしたが、妖精はまったくこちらの動きに気付くことなく、泣き続けている。
「うえええんっ。テクス、テクス〜っ!」
「ウェルちゃん、落ち着いて。大丈夫だから」
ぴた、と。妖精はその動きを止めて、シュラインをみつめた。
「ふぇ……うわあああああんっ!!」
次の瞬間、妖精は、シュラインへと飛びつき、さらなる大声をあげて泣き出した。
●草間興信所ソファにて
顔見知りに出会えたことで少しは落ち着いたらしい妖精――ウェルを連れて、一行は草間興信所に落ち着いた。
「ちょっとは落ち着いた?」
瑠宇は、それでもまだ泣き止むことのないウェルに微笑みかける。ひとりぼっちの心細いところに知り合い――シュラインと出会えて、多少はほっとしたのだろう。先ほどのような大泣きはもう、していなかった。
「心配するな、向こうだってお前のことを探してるはずだ。きっとすぐに見つかる」
穏やかに告げる悠輔の声が聞こえているのかどうか。ウェルはシュラインにしがみついたまま、まだぐすぐすと泣いている。
「すみません……こちらに、妖精の方が来ていませんか?」
声とともに顔を見せたのは、雨の中を飛ぶウェルを見つけて追いかけてきた、アンネリーゼ・ネーフェであった。
「来ているけれど……貴方は?」
シュラインの問いに、彼女は礼儀正しく頭を下げた。
「アンネリーゼといいます。先ほど雨の中を飛んでいく妖精を見かけて、気になったもので」
告げてアンネリーゼは興信所の中へと入ってくる。まだ泣いているウェルを見つけ、そっとその背を撫でてから、口を開いた。
流れるのは美しい旋律。
歌だ。
シュラインの肩に顔を埋めて泣いていたウェルが、その旋律に惹かれるように顔を上げる。
そのチャンスを逃さず刀真は持ち歩いているお菓子を取り出した。
「ほら、これでも食って元気出せ。まずはあんたが元気にならないと、探しにも行けないだろ?」
一旦涙が引っ込んだ後はそれなりに落ち着いたのか、まだ沈んだ様子ではあるが、ウェルは差し出されたお菓子に手を伸ばす。
「テクスちゃんとどこではぐれたのか、覚えてるかしら?」
たいして期待せずに尋ねてみる。シュラインは過去何度か妖精コンビと会っているからわかるのだが、彼女らの精神年齢は幼く、あまり詳しい話は期待できない。
「……わかんない」
そう答えるウェルに、何度も質問を重ねてどうにかこうにか、雨に降られてパニクっていたので、どこではぐれたのかも気付かなかったということまでは聞き出せた。
「どの辺りで雨に降られたのかわかれば、そこから探しに行けるかな」
ウェルの頭を撫でてやりながら、悠輔が考える仕草を見せる。焦って飛んできたというのなら、その前にどこにいたのかなど……その場を見ればまだしも、距離や方角なんか、ウェルが示せるはずもない。
「あ……。だいたいの方角なら、私が知っています」
「え? そうなの?」
「はい。こちらのビルに向かっているのを見かけて追いかけてきましたから」
「なら、そっちの方に向かってみましょうか」
立ち上がりかけながら、シュラインが言う。
「だな」
異論を口にする者はなく、一行は草間興信所の外へと向かう。
「ウェル、この辺りには見覚えはないのか?」
悠輔の問いにはウェルは首を振るだけだ。
「私、上から探してみるね。もしかしたら、はぐれた場所に戻ってるかもしれないし」
言うが早いか、瑠宇はふわりと空へ浮かび上がる。その時にはもう、シュラインたちの目に瑠宇の姿は映らない。瑠宇は普段は実体化しているもののその本質が霊体なので、非実体化することもできるのだ。
一行は聞き込みをしながら――ウェルが覚えていなくとも、ウェルたちを見ることのできる人間はいる。目撃証言があれば、大まかな場所を割り出せると考えたのだ――商店街の方へと向かっていく。
もうすぐ商店街に入ろうかというところで、瑠宇が戻ってきた。
「向こうの方から、ウェルにそっくりな妖精を連れた人たちが来るよ」
「人たち?」
アンネリーゼが怪訝な表情を浮かべる。
テクスもウェルも、人に見えないことが多いけれど、見える者もいるのだ。ウェルがそうしたように、テクスも誰かに手伝ってもらっている可能性はある。
どちらにしろ、行ってみないとわからないのだ。少々の戸惑いとともに顔を見合わせてから、一行は瑠宇の言を聞いて、歩みを再会した。
●現場に戻る
お互い相手の姿を確認した瞬間。
「うわああんっ、テクスぅ〜っ!」
「ウェル、会えたのーーっ!」
妖精たちはここまで連れて来てくれた人たちの存在をすっかり忘れて抱き合った。
「良かったわね、ウェルちゃん」
「本当に、同じ見た目なんだなあ」
感動の再会をほのぼのと見守りながらのシュラインと悠輔の台詞も、二人の耳には届いていないようだった。
「会えて良かったですね」
かけられた声にやっと気付いて、ウェルはぱっと自分を連れて来てくれた人たちへと振り返った。
「ありがとう〜!」
二人並んでの可愛い笑顔に、瑠宇もつられて笑顔になる。
「あれ……おいしい匂いがする?」
「えへへ〜。もらったのー!」
「ウェル、ずるーいのっ!」
ほのぼのとした空気の中でいきなり騒ぎ出した二人に、刀真は呆れ半分の笑みを浮かべた。
「せっかく会えたのに喧嘩なんかするんじゃない。ちゃんと二人分あるから」
そうして刀真のお菓子をお茶請けに、ちょっとしたお茶会がはじまるのであった。
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登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業
5973|阿佐人・悠輔 |男| 17歳|高校生
4431|龍神・瑠宇 |女|320歳|守護龍(居候?)
4425|夜崎・刀真 |男|180歳|尸解仙(フリーター?)
0086|シュライン・エマ |女| 26歳|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
5615|アンネリーゼ・ネーフェ|女| 19歳|リヴァイア
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ライター通信
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お久しぶりの皆様、はじめましての皆様。
こんにちは、日向 葵です。
いつもコンビで行動している妖精たちの単体行動、楽しんでいただけましたでしょうか?
操作をポカって予定以上の人数が入ってしまったときには少々焦りましたが(苦笑)
妖精たちへの優しい気遣いがたくさんで、プレイングを読んで嬉しかったです。
ありがとうございました!
また機会がありましたら、お会いしましょう。
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