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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


妖精さんいらっしゃい♪〜雨の恐怖


●雨の街
 バイトの帰り、二人並んで家へと向かうその途中で。夜崎刀真は、なにやら妙なものを見つけてしまった。
 人形ほどの背丈しかない小さな子供が、草間興信所のビルの前で大泣きしているのだ。
「ねえ、トーマ。あれ……」
 瑠宇も気付いたらしい。刀真はいかにも面倒そうに顔をゆがめた。
「ああ」
 勘弁してくれ、と言いたい気分だ。
 仕事で疲れているし、泣いてるガキは苦手だし、わざわざ関わり合いになる義理など何一つない。
 それに、あの外見。小人サイズのその子の背には羽。どこからどう見ても、人外。触らぬ怪異に祟りなし。
 だが。
「泣いてるね」
 心細そうに搾り出した声で泣いているあの様子を見てしまっては。
「そうだな」
 あれを放っておけるほど開き直れやしないのだ。
「ねえ。オナカいたいの……?」
 かがんで、できるだけ妖精と同じ目線になって問いかけた瑠宇の言葉に、刀真はため息をつく。
「そんだけ元気で腹痛ってことはないだろ」
 間近にきて、改めて見れば見るほど、妖精だ。
「うええええんっ、テクスぅ〜っ!」
 泣き続ける妖精は瑠宇の言葉などまったく聴いていないようであったが、人の名前らしい叫びに、泣いている理由が見えてきた。
「迷子? えっと……」
 どうしよう、とでも言いたげに振り返ってきた瑠宇に、刀真はため息で返す。
「ほら、泣いてないで身体拭けっての。風邪……ひくかどうかはしらんが、見てるほうが寒いだろ」
 とにかくまずは泣き止んでもらわねば、事情を聞くこともできない。
 ハンカチを出して拭いてやろうとしたところで、妖精はビクリと一瞬泣き止んで、パッと宙へ舞い上がった。
 驚かせてしまったらしい。刀真の背よりも少し高いところで不安げな顔をする妖精に、瑠宇がにこりと笑いかける。
「だいじょーぶだよ。瑠宇もトーマもいじめたりしないから」
 言われて少しは安心したらしい。警戒はといてくれたようなのだが、思い出したようにまた泣き出した。
「……すぐに泣き止めとは言わないから、とにかく身体拭け」
 甲高い泣き声に少々うんざりとした気分で、けれどやっぱり、見捨てて去ることなどできるわけもなく声をかける。
 けれど妖精は泣きじゃくっているばかりで。二人は、困って顔を見合わせた。
 その時。
 すぐ傍のビルから、下りてくる男女と目が合った。
「泣き止んでくれなくて……」
 瑠宇がぽつりと呟くのを聞きながら、男はハンカチを出して妖精へと手を伸ばしたが、妖精はまったくこちらの動きに気付くことなく、泣き続けている。
「うえええんっ。テクス、テクス〜っ!」
「ウェルちゃん、落ち着いて。大丈夫だから」
 ぴた、と。妖精はその動きを止めて、下りてきた女性をみつめた。
「ふぇ……うわあああああんっ!!」
 次の瞬間、妖精は女性に飛びつき、さらなる大声をあげて泣き出した。
 どうやら彼女ら、知り合いであるらしい。


●草間興信所ソファにて
 顔見知りに出会えたことで少しは落ち着いたらしい妖精――ウェルを連れて、一行は草間興信所に落ち着いた。
「ちょっとは落ち着いた?」
 瑠宇は、それでもまだ泣き止むことのないウェルに微笑みかける。ひとりぼっちの心細いところに知り合い――シュラインと出会えて、多少はほっとしたのだろう。先ほどのような大泣きはもう、していなかった。
「心配するな、向こうだってお前のことを探してるはずだ。きっとすぐに見つかる」
 穏やかに告げる悠輔の声が聞こえているのかどうか。ウェルはシュラインにしがみついたまま、まだぐすぐすと泣いている。
「すみません……こちらに、妖精の方が来ていませんか?」
 声とともに顔を見せたのは、雨の中を飛ぶウェルを見つけて追いかけてきた、アンネリーゼ・ネーフェであった。
「来ているけれど……貴方は?」
 シュラインの問いに、彼女は礼儀正しく頭を下げた。
「アンネリーゼといいます。先ほど雨の中を飛んでいく妖精を見かけて、気になったもので」
 告げてアンネリーゼは興信所の中へと入ってくる。まだ泣いているウェルを見つけ、そっとその背を撫でてから、口を開いた。
 流れるのは美しい旋律。
 歌だ。
 シュラインの肩に顔を埋めて泣いていたウェルが、その旋律に惹かれるように顔を上げる。
 そのチャンスを逃さず刀真は持ち歩いているお菓子を取り出した。
「ほら、これでも食って元気出せ。まずはあんたが元気にならないと、探しにも行けないだろ?」
 一旦涙が引っ込んだ後はそれなりに落ち着いたのか、まだ沈んだ様子ではあるが、ウェルは差し出されたお菓子に手を伸ばす。
「テクスちゃんとどこではぐれたのか、覚えてるかしら?」
 たいして期待せずに尋ねてみる。シュラインは過去何度か妖精コンビと会っているからわかるのだが、彼女らの精神年齢は幼く、あまり詳しい話は期待できない。
「……わかんない」
 そう答えるウェルに、何度も質問を重ねてどうにかこうにか、雨に降られてパニクっていたので、どこではぐれたのかも気付かなかったということまでは聞き出せた。
「どの辺りで雨に降られたのかわかれば、そこから探しに行けるかな」
 ウェルの頭を撫でてやりながら、悠輔が考える仕草を見せる。焦って飛んできたというのなら、その前にどこにいたのかなど……その場を見ればまだしも、距離や方角なんか、ウェルが示せるはずもない。
「あ……。だいたいの方角なら、私が知っています」
「え? そうなの?」
「はい。こちらのビルに向かっているのを見かけて追いかけてきましたから」
「なら、そっちの方に向かってみましょうか」
 立ち上がりかけながら、シュラインが言う。
「だな」
 異論を口にする者はなく、一行は草間興信所の外へと向かう。
「ウェル、この辺りには見覚えはないのか?」
 悠輔の問いにはウェルは首を振るだけだ。
「私、上から探してみるね。もしかしたら、はぐれた場所に戻ってるかもしれないし」
 言うが早いか、瑠宇はふわりと空へ浮かび上がる。その時にはもう、シュラインたちの目に瑠宇の姿は映らない。瑠宇は普段は実体化しているもののその本質が霊体なので、非実体化することもできるのだ。
 一行は聞き込みをしながら――ウェルが覚えていなくとも、ウェルたちを見ることのできる人間はいる。目撃証言があれば、大まかな場所を割り出せると考えたのだ――商店街の方へと向かっていく。
 もうすぐ商店街に入ろうかというところで、瑠宇が戻ってきた。
「向こうの方から、ウェルにそっくりな妖精を連れた人たちが来るよ」
「人たち?」
 アンネリーゼが怪訝な表情を浮かべる。
 テクスもウェルも、人に見えないことが多いけれど、見える者もいるのだ。ウェルがそうしたように、テクスも誰かに手伝ってもらっている可能性はある。
 どちらにしろ、行ってみないとわからないのだ。少々の戸惑いとともに顔を見合わせてから、一行は瑠宇の言を聞いて、歩みを再会した。


●現場に戻る
 お互い相手の姿を確認した瞬間。
「うわああんっ、テクスぅ〜っ!」
「ウェル、会えたのーーっ!」
 妖精たちはここまで連れて来てくれた人たちの存在をすっかり忘れて抱き合った。
「良かったわね、ウェルちゃん」
「本当に、同じ見た目なんだなあ」
 感動の再会をほのぼのと見守りながらのシュラインと悠輔の台詞も、二人の耳には届いていないようだった。
「会えて良かったですね」
 かけられた声にやっと気付いて、ウェルはぱっと自分を連れて来てくれた人たちへと振り返った。
「ありがとう〜!」
 二人並んでの可愛い笑顔に、瑠宇もつられて笑顔になる。
「あれ……おいしい匂いがする?」
「えへへ〜。もらったのー!」
「ウェル、ずるーいのっ!」
 ほのぼのとした空気の中でいきなり騒ぎ出した二人に、刀真は呆れ半分の笑みを浮かべた。
「せっかく会えたのに喧嘩なんかするんじゃない。ちゃんと二人分あるから」
 そうして刀真のお菓子をお茶請けに、ちょっとしたお茶会がはじまるのであった。


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   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

5973|阿佐人・悠輔     |男| 17歳|高校生
4431|龍神・瑠宇      |女|320歳|守護龍(居候?)
4425|夜崎・刀真      |男|180歳|尸解仙(フリーター?)
0086|シュライン・エマ   |女| 26歳|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
5615|アンネリーゼ・ネーフェ|女| 19歳|リヴァイア

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         ライター通信          
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 お久しぶりの皆様、はじめましての皆様。
 こんにちは、日向 葵です。
 いつもコンビで行動している妖精たちの単体行動、楽しんでいただけましたでしょうか?
 操作をポカって予定以上の人数が入ってしまったときには少々焦りましたが(苦笑)
 妖精たちへの優しい気遣いがたくさんで、プレイングを読んで嬉しかったです。
 ありがとうございました!

 また機会がありましたら、お会いしましょう。