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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


妖精さんいらっしゃい♪〜雨の恐怖


●アトラス編集部ビル前にて
 雨の中、セフィアはトテトテトテと歩いていた。目的地はとある古書店で、新しい本を買いにいくつもりであった。
 ほんのついさっきまでは。
「……テクスさん?」
 雨の中をよたよたと飛んでくる、鮮やかな桃色の髪を持つ小さな妖精。見覚えのある子だけれど、何故か、一人しかいない。彼女らはいつだってふたりで行動していたはずなのに、一体どうしたことだろう?
 よく見れば、テクスを追いかけている男が一人。いじめられたのかとも思ったが、雰囲気から見るに、そういうわけではないらしい。
「せふぃあ?」
 ぴたりと空中で静止して、テクスはまじまじとセフィアを見つめていた。
 間近に来るまで気付かなかったらしい。
「はい」
 呼ばれた名前に頷くと、テクスの瞳にうるうると大粒の涙が溢れる。
「ふええええええええんっ! せふぃああああああっ!」
「テクスさん? どうしたんですか?」
 飛びついてきたテクスを受け止め事情を聞くも、テクスは泣くばかりで、答えを聞けそうにない。
「んー……」
 まずは泣き止んでもらわなければ、話になりそうにない。けれどセフィアは、言葉は苦手だ。
 しばらく考えてから、頭の上のたれコアラに手を伸ばした。
「テクスさん……ほかほかあったかコアラさんです」
 目の前に差し出すとさすがに、気付いてくれて。まだぐすぐすとしてはいるが、とりあえず、泣き止んでコアラの方に目をやった。
「少し垂れている所も魅力的……乗っかる?」
 微笑むセフィアを見つめ、テクスは少し迷うような仕草を見せてから、ぽーん、とコアラの上に飛び乗った。
「飛ぶの。疲れたの」
 とりあえず泣き止んではくれたけれど、このまま外にいるのは得策ではない。
 ちょうど見知った場所の前であるし、アトラス編集部の部屋を使わせてもらおうと歩き出した時。
「どうかなさったんですか?」
 かかった声に、セフィアはふと視線を向けた。何度か顔を合わせたことのある女性――榊船亜真知だ。
「私もまだ、事情を聞けていないんですけど……」
 コアラのぬいぐるみの上で、先ほどのような大声ではないものの泣き続けるテクスに目をむけ、困ったような顔で言う。
「ふむ……おそらく、フェアリーハンター協会の陰謀だな」
 うんうんと頷き自信たっぷりに言う男に、セフィアはこくんと首をかしげた。
「フェアリーハンター協会?」
「そう! 協会の陰謀により引き離され、仲間とはぐれてしまったのだ!!」
 ばっさと、大げさに男のコートが翻る。
「…………ウェルさんがいないということは、はぐれたということなんでしょうけれど……」
 はぐれたのは、まあ、その通りだろう。だが、陰謀だのなんだのというのは、ないと思う。そもそもそんな協会、聞いたこともない。
 詳しい話を聞きたいと思うのだが、いまだテクスはぐすぐすと泣いていて、話のできる状態ではなかった。
「とりあえず、落ち着けるところに行きましょう」
 亜真知が魔法でテクスの身体を乾かしてくれ、三人は揃ってアトラス編集部へと向かった。


●アトラス編集部室内
 部屋の一角にある来客用ソファとテーブルを借り、一行はとりあえずそこに落ち着いた。
「ふむ……妖精を捕まえて悪巧みをする輩がいるに違いない! お嬢さん、貴方の勇気が仲間を救うのだ」
 真剣に熱く語る男、偽神天明の言葉はとりあえず聞き流して、亜真知は温めてきたミルクをテクスの前に差し出した。
 テクスはまだコアラのぬいぐるみの上で泣いていて、その背をセフィアがそっと撫でている。
「ミルク、いらない?」
「身体が温まりますわ」
 できるだけテクスを驚かさないようかけた二人の言葉に、テクスはまだ泣き顔のままだけれど顔を上げてくれた。
「のむ……」
 ゆっくりとだがミルクを飲む様子からは、テクスがだいぶ落ち着いたらしいことがわかる。けれどまだまだ今にも泣き出しそうな顔をしていて、ウェルの名前を出したらまた泣き出してしまいそうな気配だった。
「落ち着いたのなら話をしよう」
 天明の一言に、テクスが身体を震わせ動きを止めた。
 止めなければまた元の木阿弥になってしまうと。止めようとした女性陣より数秒早く、天明が自信満々に口を開いた。
「妖精の力を悪用しようとする組織があるのだ。きっとお嬢さんの仲間もそこにいる! まずはどこで逸れたのか、そこから解決の糸口を探そうではないか」
「あくよう……?」
 不安になっている今のテクスには、堂々すぎる天明の態度そのものが怖いらしい。けれど天明の言葉の意味そのものはあまりわからなかったようで、コクンと不思議そうな顔で首をかしげた。
「ウェルさんは、どこでいなくなったの?」
 今が話しかけるチャンスとばかりにセフィアが告げたその途端。
 うるるんっとウェルの瞳が涙に濡れた。
「いないの……わかんないの……だっていなかったんだもん、ウェルーーっ!!」
「泣かないでください。きっと会えますわ。ウェルさんも、テクスさんのことを探していますから」
「会える? ほんと?」
 亜真知の声に、テクスは一時泣き止み亜真知を見上げる。
「本当です」
 セフィアが力を込めて頷くと、ウェルはようやっと、笑ってくれた。いつもの、明るい春の日差しような笑顔には程遠いけれど。
「テクスさん……良かったら少しだけ、テクスさんの記憶を見せてもらえませんか?」
「いーよ。ウェル、見つかるよね?」
「はい」
 頷くテクスの様子は言われたことの意味を本当に理解しているのか少々疑問が残るところであったが、テクスが自分では思い出せないというのだから、これが一番良い方法だろう。
 セフィアからも天明からも反対意見はなく――天明は、ひとりで脳内推理を繰り広げていただけなのだが――亜真知はテクスの記憶に意識を向ける。
「……雨に降られる直前のところまでは、辿れました」
 そこから先は、よほど慌てていたのだろう。周囲も見ずに飛んでいたようで、ウェルが飛んでいった方角もわからなかった。
「逸れた場所はわかったのだな。ならば出かけよう、フェアリーハンター協会本部に!!」
「…………」
 重々しく告げた天明は、言うが早いかばさりとコートを翻し、先に立って歩き出す。
「転移しようかと思っていたんですけれど」
「でもそれじゃあ、すれ違っちゃうかも……」
 天明の後姿を見送りつつ呟いた亜真知の横で、セフィアがぽつりと告げる。
 追いかけるべきなのか留まるべきなのか。迷った様子で亜真知とセフィアの様子を見上げるテクスに、セフィアは小首を傾げて微笑んだ。
「分身を一人置いていきましょう。そうしたら、ウェルさんが来たらわかるから」
 結局。
 いろいろ見当違いなことを言ってはいるが、真剣にウェルを探す気でいる天明を放り出すのも気が引けて。というか、今放り出したら勢い任せの推理であたりに迷惑をかけそうである。
 歩いて、ウェルとテクスが逸れた場所まで向かうことにした。


●現場に戻る
 お互い相手の姿を確認した瞬間。
「うわああんっ、テクスぅ〜っ!」
「ウェル、会えたのーーっ!」
 妖精たちはここまで連れて来てくれた人たちの存在をすっかり忘れて抱き合った。
「うむ。事件解決だな」
 腕を組んで無駄に偉そうに頷いたのは、天明だ。
「良かった……テクスさん。嬉しそう」
 感動の再会を見守りながらの呟きも、やはり二人の耳には届いていない。
「ありがとうなの〜!」
 ひとしきり再会を喜び合ったところで、テクスはぱっと自分を連れて来てくれた人たちへと振り返った。
「無事再会できたことですし、お疲れ様のお茶会をしましょうか」
「するーっ!」
 あげられた提案をテクスは元気に頷いて即答する。
 セフィアも天明も反対などするわけがなく。そうして、ちょっとしたお茶会がはじまるのであった。


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   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

1593|榊船・亜真知     |女|999歳|超高位次元知的生命体・・・神さま!?
2334|セフィア・アウルゲート|女|316歳|古本屋
5972|偽神・天明      |男| 32歳|名探偵(自称)

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         ライター通信          
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 お久しぶりの皆様、はじめましての皆様。
 こんにちは、日向 葵です。
 いつもコンビで行動している妖精たちの単体行動、楽しんでいただけましたでしょうか?
 操作をポカって予定以上の人数が入ってしまったときには少々焦りましたが(苦笑)
 妖精たちへの優しい気遣いがたくさんで、プレイングを読んで嬉しかったです。
 ありがとうございました!

 また機会がありましたら、お会いしましょう。