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魅惑のバレンタイン？
◇■◇
―――あるところに、非常に悪戯好きな少女がおりました。
「さぁってとぉ☆今日完成した“変えちゃう君”バレンタイン特別仕様、最初に試すのは・・・」
紅咲 閏はニヤニヤと微笑みながら、すぅっと１つの扉の前で立ち止まるとそっと扉を開けた。
夢と現実、現実と夢、そして現実と現実が交錯する館に住みし、１人の青年にそっと近づく。
ぐっすりと眠る横顔をじっと見詰める。
良く眠っている・・・まぁ、そりゃそうだ。夕食にちょっと盛ってみたのだから。
睡眠導入補助剤。普通の薬局で売られているものだ。
閏はそっとピンク色のカプセルを取り出すと、ぐっすりと眠る青年の口の中に押し込み、水を流し込んだ。
―――ゴックン・・・・
これで全ての準備は整った。
後は明日の朝を待つだけ。閏は来た時と同じようにそっと部屋を出ると、扉の前でクスクスと小さく笑った。
―−―−翌日・草間興信所
新聞を読みながら、ぼうっと椅子に座る草間 武彦。
本日も何事もなければ良いがと思うが・・・そんな彼のささやかな願いが天に受け入れられる事はないだろう。
なにせここは“草間興信所”だ。毎日のように何かが起き・・・
「草間っ！！！」
女の人特有のか細い声と共に、興信所の扉が大きく開け放たれた。
聞き覚えのない声に、思わず小首を傾げる。
「草間！助けろっ！！」
そう言って扉から入って来たのは・・・思わず手に持ったカップを落としてしまったほどに絶世の美少女だった。
年の頃は１７，８くらいだろうか？腰まで伸びた少々赤っぽい茶色のストレートの髪に、透ける様に白い肌。大きく潤んだ瞳は綺麗な二重で、睫毛は驚くほどに長い。
桃色に染まる頬も、薔薇色の唇も、全てが怖いほどに完璧で―――それなのに、着ているものは男もののＴシャツとジーンズだ。
ぱっと見Ｓサイズだろうが、どう見ても大きい。ダボダボとした衣装が少女の華奢な体に鬱陶しく纏わりついている。
これほどの美少女を忘れるはずもなく、それならば少女の勘違いだろうか？いや、しかし・・・どっかで見たような・・・。
「えーっと・・・どちら様ですか？」
武彦はそう言うと、少女をマジマジと見詰めた。あまり見詰めすぎると儚く消えてしまいそうなほどに美しい少女は、その顔にそぐわない顰め面を思い切りすると、苦々しく口を開いた。
「梶原だ。梶原 冬弥・・・」
その瞬間、武彦は椅子ごと後ろにひっくり返った。
＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊
「つまりは、紅咲の作ったクスリのせいだと？」
「あぁ。」
零に女物の服を見繕ってもらい、嫌がる冬弥を無理矢理着替えさせた。
俺は男だ！と、必死の主張をしていたが・・・その姿ではあまりにも説得力がない。
膝上の真っ白なワンピースに身を包み、恥ずかしそうに俯く姿はなんとも言えないくらい心を揺さぶるものがあるが、相手は男だ。
「それで、チョコレートを一緒に作って、相手のチョコをもらえれば効果が切れますよ〜。と？」
「・・・何の意味があんだかさっぱりワカンネーけどなっ！！」
冬弥が投げやりにそう言って、盛大な溜息をついた。
「バレンタイン仕様ってトコじゃないのか？」
「なんで俺がチョコ作って、挙句貰わなきゃなんねーんだよっ！」
「まぁ、一生そのままで良いのなら別にやらなくて良いんじゃないか？」
そのままでもきっと幸せな一生が過ごせるぞーと、武彦は言った。
それに冬弥が反論し、ぜってー意地でも戻ってやる！と、意気込んだ。
「それじゃぁまず・・・その言葉遣いを直せ。」
「は？」
「そうだ・・・お前は今から神矢 冬香（かみや・とうか）だ！」
「はぁ・・・！？俺は俺だっ！梶原 冬弥だっ！！」
「そんな美少女外見で、誰が信じるかっ！相手を混乱させるだけだろ？！それならいっそ、神矢 冬香として女の子らしく、その外見に似合う清楚な感じで貫き通せ！」
「ちょ・・・おま・・・草間！顔が笑ってる・・・顔が笑ってるぞっ！？」
「安心しろ梶原。きっと素敵な少女になるからな？零っ！」
武彦の呼びかけに、零が応じ・・・
「い・・・イヤだぁぁあぁぁっ！！！！！」
―−―−それから数十分後
その日も普段と同じように、シュライン エマは興信所の扉を開けた。
中にいたのは武彦と、見慣れない少女・・・・・・。
こちらを振り返る―――思わず言葉を忘れてしまうほどに美しい少女に、しばし呆然としてしまう。
「あの、わたくしを、助けてくださいませんか？わたくし・・・ある方に、呪いをかけられてしまい・・・」
立ち上がり、目の前まで来ると潤んだ瞳を向けた。
「わたくし・・・もう、どうしたら良いのか・・・・・」
ポロポロと涙を流す少女の背後、武彦が必死になって笑いを噛み殺していたのは、視界に入って来なかった―――。
「えっと・・・」
シュラインは思わず口篭ると、とりあえずポケットから真っ白なハンカチを取り出して少女に差し出した。
どうしたの？泣かないで？泣いてちゃ分からないわ・・・。と、優しい言葉をかける。
赤っぽい茶色の細い髪が、少女の華奢な肩から零れ落ちる。
「わたくし・・・」
パタリ
足元へと零れる涙はあまりにも澄んだ色で・・・こんな絶世の美少女が、どうしてここに？と、シュラインは思わず小首を傾げた。
ふいっと武彦の方に視線を向けてみるものの、なんだか不思議な表情で固まっている。
「とりあえず、ソファーに座りましょう？ね？」
そっと肩を抱いて、ソファーに座らせる。
それにしても・・・細い肩だ。乱暴に扱ってしまえば儚く壊れてしまいそうなほどに華奢な少女・・・。
「それで、どうして泣いていたの？」
しばらくして、涙が乾いてきた少女にシュラインは優しい声色でそう尋ねた。
シュラインから手渡された真っ白なハンカチを右手でぎゅっと握り、大きな目を伏せて、しばらくしてから言葉を紡ぐ。
「わたくし・・・ある方に呪いをかけられてしまい・・・」
呪いとは、随分浮世離れした話だ。
「そう。どんな呪いなの・・・？」
「それは・・・詳しくは、言えないのですが・・・。」
視線を左右に揺らす。今にも涙に濡れてしまいそうな瞳に、シュラインは少々焦った。
「そう・・・まぁ、色々事情があるのよね？それで、その呪いはどうすれば解けるのかしら・・・？」
「チョコを・・・交換・・・」
一瞬だけ、少女が“苦々しい”表情を見せる。
チラリと武彦の方へと視線を向け、武彦が頭を掻きながらゆるゆると言葉を紡ぐ。
「なんでも、チョコを作って互いに交換すれば呪いは解けるんだと。」
「・・・そんなので解けちゃうの・・・？」
「バレンタイン仕様なんだとよ。」
武彦が肩を竦めながらそう言い―――随分期間限定モノの呪いなのねと、シュラインは溜息をついた。
ちょっとお茶目な呪いのような印象を受けるが・・・かけられてしまったこの少女にとっては、お茶目なんて言ってられないだろう。
「そうだ・・・私、シュライン エマって言うんだけど・・・貴方の名前を訊いても良いかしら？」
「かじ・・・」
「神矢 冬香と言うそうだ。」
冬香の言葉を遮って、武彦がそう言う。
一瞬、視線が鋭くなった気がしたが・・・気のせいだろう。
「そう、冬香さんって言うの。よろしくね？」
「あ・・・こちらこそ、よろしくお願いいたします。シュライン様・・・。」
ペコンと小さく頭を下げ、肩から滑り落ちた髪を背に払う。
・・・それにしても、何だか聞き覚えのあるテンポのコだ。
とは言え、こんな美少女―――もしどこかで会っていたならば、忘れるはずが無い。
「とりあえず、チョコだけど・・・」
「あ、買っておきましたよ。」
部屋の隅にチョコンと座っていた零がそう言って、台所の方を指差す。
それに礼を言って、それじゃぁ作りましょうかと冬香に声をかける。
冬香がトテトテとシュラインの方へ走って来て・・・その後姿を武彦が睨んでいるように見えるが、なにか冬香はしてしまったのだろうか？
考えすぎかしら。
シュラインはそう思うと、冬香と一緒に台所へと入った。
◆□◆
台所に入り、愛用の割烹着を着て・・・零が冬香に可愛らしい真っ白なフリフリのエプロンを差し出す。
一瞬だけ冬香がその顔とはおよそ似つかわしくない、苦々しい表情を浮かべ・・・直ぐに、にっこりと零に微笑む。
「有難う御座います。」
・・・その言葉に棘があるような気がするのは、気のせいだろうか・・・？
零の手からエプロンを取り、華奢な腰に紐を巻く。
もたもたとリボン結びをしようとする冬香を手助けして、キュっと紐を引き・・・冬香が顔を真っ赤にしてお礼を言うのがどこか可愛らしくて、シュラインは思わず小さく微笑んだ。
「チョコと言っても、溶かして型に入れる程度で良いのかしら？それとも・・・生チョコやトリュフとか、菓子作りとしたものが良いのかしら？」
「えっと・・・」
冬香が困惑したように視線を揺らし、しばらくしてからゆっくりと視線を上げる。
「溶かして型に入れるだけで・・・良いんだと思う・・・思いますわ。」
「そ・・・そう。」
慌てて言い直した冬香の横顔を見詰めながら、シュラインは小首を傾げた。
なんだかこの“神矢 冬香”と言う少女はどこかおかしい気がする。
勿論見た目は申し分ない美少女だし、雰囲気的にも柔らかいものがあるだけで、なんらおかしな点は無い。
しいて言うなれば、時折見せる表情と言うか―――
あと・・・
チラリと視線を向ける先、武彦がまたもやこちらを睨んでいるような仕草。
武彦の視線の先にいるのは、シュラインではなく冬香なのだが・・・何か失礼な事でも言ってしまったのだろうか？
でも、少し何かを言ったくらいで睨むような人ではないし・・・。
「大丈夫？」
「えっ・・・えっと・・・何が・・・ですか？？」
思わず零れた言葉に、冬香が反応する。
元々大きな瞳を、更に丸くさせて―――その表情があまりにも可愛くて、シュラインはそっと冬香の髪に手を触れた。
「とりあえず、作業は分担した方が良いわね。」
「・・・はい・・・。」
控えめな笑顔を見詰めながら、シュラインはふっと考えた。
渡す予定のものは事前に用意してあるけれど・・・折角だから、皆で食べる分も此処で作ってしまおうか・・・。
「そうだわ。冬香さんも、日頃お世話になっている方の分も作ってみられたら？」
「・・・え・・・？？」
パチパチと驚いたように数度瞬きをして・・・あぁと、シュラインは思わず声を上げた。
そう言えば、冬香は呪いをかけられてチョコを作らざるを得なくなってしまっているから、今こうしてここに居るわけで・・・。
「そうよね・・・。心の余裕無いかしら・・・。」
あまりにも冬香の見た目が“乙女仕様”だったために、うっかりその事実を失念してしまっていたのだ。
「変な事言って御免なさいね。」
「いや・・・別にっと・・・いいえ、別にわたくしは・・・と・・・とにかく、早くチョコを作りましょう？ね？シュライン様？」
「そうね。」
慌てた様子の冬香がシュラインの腕をグイグイと引っ張り、台所の奥まで来るとパカリと冷蔵庫を開けた。
そこには零が買って来て来れたと言うチョコが入っており・・・袋を掴むとドンと台所の上に置いた。
シュラインがまな板と包丁、鍋を取り出してセットして、冬香が手馴れた様子でサクサクとチョコを刻んで行く。
どうやら随分と慣れているようだ。
それもそうか・・・見た所、年頃の娘さんのようだし、お菓子作りくらいはしてるわよね。
見た目が見た目なだけに、お菓子作りなんかが得意な印象を―――そう言えば・・・
「ついこの間、風邪を引いてしまった男の子の看病に行ったんだけれど・・・」
ビクンと、冬香の肩が大きく上下する。
・・・なにか驚かせるような事でも言っただろうか？
「その時に頑張ってた娘さんがいてね。小さくて、凄く可愛らしい子なんだけれど・・・あの子、チョコも好きそうだろうなぁって、少し思って。」
「アイツは甘いものは好きだから・・・えー・・・っと・・・お・・・女の子は、甘い物が好きですから。」
どこか引きつった笑顔を浮かべながら、冬香がクルリとこちらを振り向く。
動作がギクシャクとしており、刻んだチョコをボウルに移す時にパラパラと床に零してしまう。
「あっ・・・！！すみませんっ・・・！！」
「大丈夫よ。こっちはやっておくから、冬香さんは湯せんの方をお願いできるかしら？」
「・・・すみません・・・」
真っ赤になって俯く冬香にヘラを手渡し、シュラインは床にしゃがみ込んだ。
チョコを踏まないように気をつけて、ティッシュで欠片を取り去り、濡れた雑巾で綺麗に床を拭く。
「出来ました・・・。」
冬香がそう言って火を止めた時、丁度シュラインも床を拭き終わっていた。
台所の端に置かれた食器棚から、様々な形の型を取り出して冬香に手渡す。
その時手渡した型はハートのものだった。
偶然その型が冬香の手に渡ってしまったのだけれども・・・「あ・・っ・・・えっと・・・ハートは・・・えーっと・・・」とオロオロする冬香がなんだか可愛くて、初心なのねと心の奥底で呟いた。
女子高育ちなのかしら？とも思うのだが・・・なんだろう。どこか冬香からは“普通の女の子”とは違う雰囲気を感じるのだ。
コレと言って明確に言い表す事は出来ないのだけれど・・・・・。
シュラインが冬香の手に、今度はクマの型をコロンと乗せた。
しばらく見た後で冬香がそれを持ってチョコと向き合い、型にチョコを流し込んで冷蔵庫の中へと入れた。
チョコが固まるまでの時間、お茶でもしましょうかと言って、シュラインがいそいそとお茶の支度をする。
チョコがある事も考えて、ここはやはり緑茶よりも紅茶の方が良いかしらと思い、紅茶の缶を探す。
緑茶はよく飲んでいる興信所の面々だったが、紅茶となると中々見つからない。
けれど・・・ついこの間、夢幻館の支配人である沖坂 奏都が冬弥の看病をしてくれた御礼だからと言って、高そうな紅茶の缶を手土産に持って来てくれたのを何処かの棚に仕舞ったはずなのだが・・・。
仕舞ったと思っていた場所にはそれらしき缶はなく、どこにやったのかしらと探すシュラインの背後から、冬香が背伸びをしながら１つの棚の中に手を突っ込んでゴソゴソと何かを探している。
「シュライン様、ありましたわ。」
にっこりと微笑みながら手渡されたのは、シュラインが探していた紅茶の缶だ。
「え・・・あ、ありがとう・・・。」
「流石に、チョコと緑茶では雰囲気的に・・・」
そう言って苦笑しながら、「あ、でも・・・お茶のチョコも御座いますわね」と言って考え込んで―――
まぁ、１００歩譲ってシュラインが紅茶の缶を探している事を分かっていたとしよう。
確かに冬香の言う通り、チョコには緑茶よりも紅茶と言う感じだ。
でも・・・どうして興信所では緑茶が主流だと言う事や、更には紅茶の缶の置いてある場所まで知っているのだろうか・・・？
なんだかおかしい。・・・でも・・・。
いそいそと紅茶を淹れて、武彦や零に配って歩くその後姿はとても悪い子には思えない。
勘繰り過ぎかしら・・・。
シュラインはそう思うと、冬香の隣に座った。
興信所では久しぶりに見るティーカップの縁に口をつけて、コクリと飲む。
とりあえず、チョコが固まるまでは待たないと・・・・・・・。
◇■◇
他愛も無い世間話から、いつの間にか好きな人の話になっていたのは、きっと紅茶が発する甘く芳醇な香りがもたらしたものなのだろう。
専らその矛先は冬香にだった。
零も武彦も、なにやら訳知り顔でニコニコ、ないしニヤニヤしながら冬香の事を見詰めている。
顔を赤くしながら俯く冬香の横顔を見詰めながら、シュランの心の中でも知的好奇心が湧き上がっていた。
これだけの美少女が好きになる相手なんて、どんな美少年なのだろうか・・・。
「神矢のタイプはどんなヤツなんだ？」
「えぇっと・・・」
冬香がそう言って、一瞬だけキっと鋭い視線を武彦に向けるが、武彦はなんら驚いた様子は無い。
「わ・・・わたくし、あまり・・・男性は・・・」
「女子校とかだったのかしら？」
「えっと・・・」
真っ赤になって俯く冬香を見ながら「冬香さんは体が弱くてあまり学校には通っていないんですよね」と零が補足を入れる。
「あら？零ちゃん、冬香さんの事以前から知っているの？」
てっきり初めて会ったのだと思っていたのだが・・・・・・・。
呪いをかけられてしまい、困った冬香が咄嗟に飛び込んで、武彦に泣きついてきたのかと思ったのだが・・・零の口ぶりからするに、冬香と零は今日初めて会ったと言うわけではなさそうだ。少なくとも、数度の交流はあるはずだ。
「えっと・・・」
明らかに零の態度がおかしくなる。
視線を激しく左右に揺らし、助けを求めるかのように武彦に視線を注ぐ。
「あー・・・以前、依頼でな。」
「あら、どの依頼かしら？」
そう言って、小首を傾げる。
興信所の事務員と化しているシュラインは、ここに来る殆どの依頼に目を通し、関わっている。
つまり、そんなシュラインが知らないはずもなく―――――
「あっと・・・そうですわ。そろそろチョコが出来た頃で御座いますでしょう！？シュライン様、どうぞわたくしの呪いを解いてくださいましな。」
なんだか酷くおかしな口調で冬香がそう言って、パっと立ち上がると台所の方に走って行き、中からチョコを取り出した。
それを持って来て・・・
「お、そうだ。記念に撮っとくか。」
ニヤリと武彦が口の端を上げ、それを見て冬香が―――
「テメェ！草間！楽しんでんじゃ・・・」
凍りついた。
先ほどからどこかおかしいとは思っていたのだが・・・無理をしてキャラを作っていたからなのだろうか？それにしても、このテンポ・・・本当にどこかで会った事がある気がするのだけれど・・・。
固まったまま動かない冬香をパシャリと１枚武彦が撮り、ニヤニヤとしながら「早く交換しろよ」と冬香とシュラインを急かす。
「それじゃぁ、はい・・・これで呪いが解けると良いわね。」
シュラインが先ほど作ったばかりのチョコを差し出す。冬香もチョコを差し出し―――互いの持っていたチョコが、相手の手に渡る。
その瞬間・・・ポンと、笑ってしまうくらいに間抜けな音が響いた。
冬香からもくもくと白い煙のようなものが立ち上り・・・零が慌てて、奥から真っ白なシーツを持って来た。
「どうしたの・・・！？」
驚くシュラインの目の前で、白い煙が掻き消え・・・中から現れたのはよく見知った顔だった。
と言うか、ついこの間会ったばかりの―――
「よ、か・じ・わ・ら」
「ルセーぞ草間！てめぇ・・・この状況を一番楽しんでたじゃねぇか！」
「当たり前だろ。あんな美少女には滅多にお目にかかれないからな。」
・・・あー・・・と、全ての謎がココに来てカチリと音を立てて解ける。
彼のテンポだったのねと、納得をして・・・真っ白なシーツに包まれた冬弥を見やる。
確かに、良く見れば似ていない事も無い。
冬香は絶世の美少女だったが、冬弥はかなりの美男子だ。そう思えば、髪の色なんかも同じだし・・・。
「あのさ・・・あんま見ないでくれるか・・・？」
苦々しい表情で冬弥がそう言って、薄っすらと頬を赤らめる。それに対して、ごめんなさいと苦笑交じりに謝罪をし―――そうだわと言って、傍らに置きっぱなしになっていたカメラを掴むと零と武彦を呼ぶ。
何すんだ！？と驚く冬弥を真ん中に、はい、チーズ・・・パシャと１枚だけ写真を撮る。
出来上がった写真の裏に何か言葉を書くとしたならば―――そうね、さっき武彦さんが撮っていた写真と合わせて、繋がるような言葉を書いた方が良いかも知れないわね。
零が持って来た男物の服をシュラインが受け取り、シーツにくるまれて座っている冬弥に手渡す。
「お疲れ様。」
にっこりと笑顔をそえて・・・
「・・・ありがと・・・。」
仏頂面でそう言って、シュラインの手から服を受け取り・・・そうだわ。
「冬香さんから冬弥さんへ・・・華麗なる変身とか、どうかしら。」
そんな呟きに、冬弥が「はぁ？」っと言うような表情を向け、零と武彦がポンと１つだけ手を打った。
「「写真の裏！」」
ピタリと合わさった零と武彦の言葉に、数度瞬きをした後で、冬弥が声を荒げた。
「あの写真は即刻捨てろぉぉぉぉぉぉぉっ！！！！！」
≪END≫
◇★◇★◇★ 登場人物 ★◇★◇★◇
【整理番号 ／ ＰＣ名 ／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業】
0086/シュライン エマ/女性/26歳/翻訳家＆幽霊作家＋草間興信所事務員
NPC/梶原 冬弥（神矢 冬香）/男性（女性）/19歳/夢の世界の案内人兼ボディーガード
◆☆◆☆◆☆ ライター通信 ☆◆☆◆☆◆
この度は『魅惑のバレンタイン？』にご参加いただきましてまことに有難う御座いました。
そして、いつもいつもお世話になっております。（ペコリ）
この度は美少女：冬香を救っていただきましてまことに有難う御座いました（笑）
冬香から冬弥への華麗なる変身をとらえた写真・・・どうぞ机の引き出しの中にでもひっそりとお仕舞いください。
賑やかで楽しい雰囲気を描けていればと思います。
それでは、またどこかでお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。
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