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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


ペピュー育成 〜白


*オープニング*

アンティークショップ・レン。


都会にひっそりと佇むこのお店、曰く付のシロモノばかりのせいか
よほどの通か、よほどの好奇心旺盛な輩しか訪れない。

ドアが開くと、椅子に腰掛けたまま気だるげにキセルをふかした碧摩・蓮 (へきま・れん)が
視線を向ける。



「あぁ、あんたかい。
 ねぇ、面白い商品を入荷したんだけど、見てかないかい??」

そう言うと、蓮は何やらゴソゴソと、袋を漁り、何色もの手の平大の卵を取り出した。


*白の卵と、シュライン・エマ*

ペピュー。
それはいまだかつてこの世界で見た者がいない、特殊な存在。
ペピュー。
昔々、あるところ、ある場所で、ある旅人が時空の狭間に挟まれ、異世界へと飛ばされた。
旅人はそこで出会った、なんとも形容もしがたい奇妙な存在に声をかけられた。
人語を解せたのか、それとも、旅人の意識下に話しかけられたのか。
今となってはわからないが、その旅人は様々な色の卵を託された。
ペピュー。
人間界にある「卵」。それを、この世界の者達は「ペピュー」と呼ぶのかもしれない。
人間界にある卵にも、ニワトリの卵を初め、鳥の種類は勿論、魚など、様々な卵がある。
この色とりどりのペピューの卵もそういった類なのかもしれない。
ペピュー。
『持ち歩かん。さすれば、卵は孵りよう』
なんとも形容しがたいその存在は、そう言うとまた、旅人を元の世界へと戻した。

ペピューの卵と共に…


「…これが、一緒に入ってたマニュアル。んーー…ま、小難しく書いてあるけれど、
 何が生まれるかわかりませんよ、って話みたいだねぇ。
 んでもって、約七日程度で孵化し、ペピューはペピューの国へと帰ります、と…
 あたしもまた、なんだかわからないもんを仕入れちまったもんだねぇ」

キセルの煙を吹きながら、碧摩・蓮がシュライン・エマにマニュアルを手渡す。

シュライン・エマ。
切れ長の瞳を持ち、颯爽と町を歩く姿は見たものを思わず振り返らせるほどの美しさを持ち、見た者は思わず『クールビューティー』とはこういった人のことを言うのだろう、と感じさせるに違いない。
職業は、翻訳家。…では、あるのだが、その文章能力の高さから、秘密裏にゴーストライターの仕事も請け負っていたりする。
女性の収入としては、本来ならば、これで十分生活しているであろう。
だが、彼女にはもう一つの仕事がある。
もしかしたら、その仕事が彼女にとっては一番大切な仕事なのかもしれない…。

そんなシュラインは、その『一番大切な仕事』の帰り道、このアンティークショップ・レンに寄った。
そこで、顔馴染みの蓮に声をかけられたわけである。

シュラインは蓮から『ペピューマニュアル』を片手で受け取りながら、卵を物色する。
「一週間、一緒にいるだけで孵化…変わった卵ね」
そう言いながら卵を見つめるシュラインに、蓮は「これでももう2個も売れてんだよ〜、物好きがいるもんだねぇ」と、遠くを見てキセルをふかす。
「それじゃあ、あたしもその『物好き』の仲間入りさせていただこうかしら?」
シュラインはクスリと笑い、色とりどりの卵から黒い卵と白い卵を選ぶ。
「どっちにしようかしら…」
両方の手に白と黒、一つずつの卵を取り悩むエマが、ふと自分の手元に気づく。今日の服装は白いコート。袖には真っ白なファーがついている。
「ふふ、母鳥になれそうな気がするから、この白い卵を頂いていくわ♪」
100円というお代をニッコリと笑いつつ払うシュラインに、「あいよ」と蓮が白い卵を渡した。
それを、両手でそーーっと受け取るシュライン。それを微笑ましく見た蓮は
「随分と丁寧だねぇ。ダイジョーブだよ、ビルの100階から落としても割れやしないんだから」
「試したのっ!?」
「まさか」
と、クククッと笑った。
「まぁ、それだけ丁寧に扱ってもらえればペピューも喜ぶだろうよ。一週間頼むね。」
シュラインは微笑みつつ頷くと、アンティークショップを後にした。

「それにしても…大きさも普通の卵と一緒だし…間違えちゃいそうよねぇ」
歩きながら、白いペピューの卵を取り出し歩くエマ。
眺めたり、ほお擦りをすると、普通の卵よりも重いこと、そして常人ではわからないほどの小さい音で「トクトク」と鼓動がすることもわかる。
眺めながら歩いていたからだろうか、人とぶつかりそうになる。幸い、ぶつかりはしなかったが…
「そうだ♪」
シュラインは、ある場所へと向かった。


*白の卵 初日*

俺はペピュー。卵。名前はまだない。
俺が持っているのは、「自分はペピューという生き物」という意識と、ちょっとした人間界のルール、常識。
あんまり難しいことはわからないけどな。
そして、7日間たつと孵化するということ。それだけだ。

そして今、俺は綺麗なねーちゃんの手の中にいる。
微笑んで俺のことを見つめている。
おいおい、あんたから俺の中身は見えないかもしれないけど、俺からはあんたの姿はバッチリ見えるんだぜ?
そんなに見つめらたら照れるってば!
そんな俺の呟きは勿論このねーちゃんに聞こえるはずはなく、笑顔のまま手で撫でたり、ほお擦りしたりしてくる。
「しばらくよろしくね」
「こ、こちらこそ…」
きっと、聞こえてないはずだけど…て、照れるな。凄く嬉しいけど…よ。

ねーちゃんはしばらく俺を撫でたりした後、「そうだ!」と呟いた。
そして、俺を手にしたままどこかのお店に入る。雑貨屋??
そーーーーっと鞄の中に俺を閉まったため、ねーちゃんが何を買ったのか検討もつかなかった。
そして、しばらく歩き出す。

次に見えた光景は…ねーちゃんの部屋だった。
綺麗に片付いてはいるが、パソコンやら、たくさんの書籍やら…文章を書く人間なのだろうか?と俺は思った。
家について俺を取り出し、ねーちゃんは
「ここがあたしの家よ。ちょっと待っててね」
と、柔らかい布の上に俺を置いた。
白い色、という性質上、冷蔵庫の中にでも入れられたらどうしよう、と思っていた俺は一安心。
ま、寒さも熱さも大丈夫なように出来てるんだけどな、俺らは。
そんな考えはさておき、柔らかい布の上から、ねーちゃんを見る。
ねーちゃんは、一心に何かを縫っていた。
ほどなく「出来たッ♪」と彼女の弾んだ声が聞こえた。そして、俺に近寄ってくる。
「見て、ペピュー。ちょっとした巾着袋を作ってみたの。明日からこの中にあなたを入れて仕事にでかけるわ」
ちょっとの時間で出来たとは思えないほど、可愛い朱色の巾着袋。
「いくら硬いとはいっても、大事に扱いたいものね。」

…優しいねーちゃんだなぁ…俺は、思った。
そうこう考えていると、いつの間にか夜も更けている。
「明日は武彦さんの所でお仕事だし、早めに寝ることにしましょ」
独り言なのか、俺に話しかけているのか、ねーちゃんはうぅんと背伸びをした。
その後、また俺を優しく撫でる。
「おやすみなさい、ペピュー」
お、おやすみ、な。聞こえてはいないだろうが、俺は答えた。


*白の卵 二日目*

基本的に、俺達ペピューは眠る、ということをしない。
常に意識を持っているのだ。卵の持ち主が寝ている間、暇かと思われそうだが、意外と部屋を見渡すとその人間というものがわかって面白い。

そうこう思いをめぐらせているうちに、いつの間にか朝を迎えていた。
そして、ねーちゃんは起き出す。
「おはよう、ペピュー」
優しく微笑むねーちゃん。その笑顔にドギマギする自分の気持ちを発見しつつ、俺も「おはよ」と答える。
決して返事のない俺に対しても、ねーちゃんは色々と話しかけながら準備を進めていた。
今日は、もう一つの職業である草間興信所で事務の仕事の日。
「本来、私の本職は翻訳家なんだけど…最近はこっちに顔出すことの方が多いのよね…。ほぼ、ボランティアなんだけど」
愚痴なのか、と思いきや、そういうねーちゃんの表情は楽しげに見えた。

ねーちゃんの準備が整うと、昨日ねーちゃんが作ってくれた巾着袋に俺は入れられた。そして、ねーちゃんの首からぶら下げられる。
「首から下げるだけじゃ意外と重いのね…」
そうポツリと言うと、俺を胸ポケットにしまう。
「目立つかしら…?まぁ、冬だし、コートも着るし、大丈夫でしょ」
と、ねーちゃんは一人合点して、出かけた。
巾着+コートを着ているので俺の視界は真っ暗だ。
コツコツとヒールのかかとの音がしばらく響いた後、ガチャリとドアを開ける。
そして、第一声…

「ああもうっ、武彦さんたらっ!またソファーで寝てっ!」

ビックリ、した。俺の脳裏には優しい笑顔のねーちゃんの印象しかなかったからだ。
名前を呼ばれた『武彦さん』とやらは
「おー、おはよーシュライン〜」
と、寝ぼけた声を出す。
…シュライン。
このねーちゃんの名前がシュラインだということが二日目にしてわかった。
確かに日本人ぽくない、エキゾチックな顔立ちだったが…それにしても、苗字?名前?
そんな思いを巡らせていると、シュラインねーちゃんは
「毛布も下に落ちてしまっているし…風邪をひいてもしりませんからねっ」
とコートをハンガーにかけた。
ここで、やっと俺はこの『草間興信所』の内装を知る。
散らかった書類に、たくさんのファイル、冷蔵庫。・・・これが世に言う「男所帯」か。
そして…『武彦さん』なる男。寝ぼけた顔でふぁぁ〜と欠伸をしている。
シュラインねーちゃんは自分のコートをかけた後、散らかっている書類やごみ等を手早く片付けた。
寝ぼけ眼の『武彦さん』はそれをボンヤリと眺めつつ、タバコに火をつける。
そして、『武彦さん』はシュラインねーちゃんの異変に気づいたようだ。
「シュラインッ?」
「えっ?な、何っ?」
あまりの勢いで名前を呼ばれたのでビックリするシュラインねーちゃん。
「…どうしたんだ?かたっぽだけ更に発育したのか…??」
一瞬ハテナ顔のシュラインねーちゃんだったが、1秒後に胸ポケットにいる俺の存在を思い出したようだ。
「そんなわけないでしょっ」
苦笑しつつ、どこにあったのかハリセンで『武彦さん』をスパンッ☆
「おぅっ!!」
痛がる『武彦さん』を尻目に、片づけを終えたシュラインねーちゃんはデスクに座った。
俺を微笑みながら撫でつつ、「退屈かもしれないけれど、我慢してね」と小声で言う。
そして、シュラインねーちゃんは書類のまとめを始めた。
『武彦さん』はといえば、痛がりつつも、更にタバコを火をつけ、TVに見入る。

・・・・・・この兄ちゃんは仕事しなくていいのか?

きっと、この興信所はシュラインねーちゃんで持っているようなもんなんだろーなーとぼんやりと思った。

一人ほど、迷子の犬探しなどで草間興信所にお客さんが訪れ、寒い中武彦さんは犬探しに出かけ、すぐに見つけたりしつつこの日は終わった。
しかし、一日でお客一人か…そんなことを考えていると、シュラインねーちゃんが立ち上がった。
「武彦さん、今日の分のお仕事は終わったから帰るわね。冷蔵庫に煮物入れておいたから食べてね。あと、ちゃんとお布団で寝なきゃダメよ?」
そう、子供に言い聞かせるように話すシュラインねーちゃんに「はいよ、お疲れ様、シュライン」と『武彦さん』はソファーに座ったまま、体だけをシュラインねーちゃんの方に向けて軽く手を上げる。
「明日もヨロシクな。書類、たまっちまってなぁ〜」
「はいはい。それじゃあ、また明日」
苦笑しつつ、シュラインねーちゃんは外に出た。
俺は聞こえてないだろうが、シュラインねーちゃんに「お疲れ様」と声をかける。

「あたしの毎日は、こんな感じなのよ、ペピュー」
俺の言葉は聞こえてないはずなのに、シュラインねーちゃんはそう言った。
でも、その言葉は少しも疲れを感じさせる声ではなく…なんだか、とても楽しげだった。


*白の卵 三日目*

三日目。今日もシュラインねーちゃんは草間興信所へと出向く。
2月、寒さも本番。歩きながらもシュラインねーちゃんは
「今日も寒いわね…ペピューは大丈夫?」
と俺を気遣ってくれた。

事務所につくと、やっぱりソファーで眠っていたらしき『武彦さん』
「だから、風邪ひいちゃうから、って言ったじゃない」
シュラインねーちゃんもややご立腹だ。
「いつの間にか寝ちまったんだよー」
と『武彦さん』は苦笑している。

この日も、シュラインねーちゃんはファイルの整理や書類のまとめを中心に仕事を行っていた。
お昼の休憩時間になり、シュラインねーちゃんはそっと俺を取り出し、撫でていた。
「もう三日目だけど、大きさに変化はないようね…」
そう呟いたシュラインねーちゃんに、『武彦さん』が食いついてきた。
「そーそーシュライン。昨日聞こうと思ってて忘れてたんだけどさ、それ、なんなんだ?」
くわえタバコのまま、俺の入っている巾着に目を向ける。
「あ。そういえば言ってなかったわね。卵よ。」
「卵?非常食か?」
「そんなもの巾着に入れて持ち歩くわけないでしょ」
シュラインねーちゃんが苦笑すると、『武彦さん』も「そりゃそーだよな」と相槌を打つ。
この兄ちゃん、どっか天然か?
「これはね、蓮さんのお店で買ってきた『ペピューの卵』。7日間たったら孵化するみたい」
「ペピュー?孵化?なんだそりゃ?」
そーだよなー、誰だってそう思うよなーと思いつつ、二人のやり取りを聞いている。するとシュラインねーちゃんは「見る?」と一言いい、俺を取り出した。
「…卵、だな」
「えぇ。」
「実はニワトリ!とかってことはないのか?」
「た、たぶん」
俺はれっきとしたペピューだ!という叫びもむなしく、『武彦さん』は
「七日たっても孵化しなかったら騙された、ってことで…タバコ1カートン奢って♪」
と、ワケのわからない勝負をシュラインねーちゃんに挑む。
「な、なんでいきなりそうなるわけ?」
と言い返しつつも、しぶしぶ承諾するシュラインねーちゃん。

大丈夫、100%ねーちゃんの勝ちだから!!……たぶん。


…こうして、今日もシュラインねーちゃんのお仕事は終わった。
『武彦さん』とのやり取りを聞いていると…やっぱり、なんだか楽しそうなんだよな、ねーちゃん…。


*白の卵 四日目*

シュラインねーちゃんと過ごす4日目。
今日もねーちゃんは草間興信所へと足を運ぶ。
やっぱりソファーに寝そべってる『武彦さん』と、デスクで仕事をするねーちゃん。
暖かな事務所の中、まったりとした空気が流れる。
静かな時間だが、凄く心地が良い。

昨日気づいたんだが、一応『武彦さん』も仕事してるらしい。
なんか、ボヤーーっとした人影に付きまとわれては
「あーもーわかったから、話聞いてやるから成仏しろっ!」
などとこの世のものではないものの人生相談?(死後相談?)を受けたりしている模様だ。
シュラインねーちゃんもそれを手伝っているみたいだ。

その幽霊さん(じーさん)が「最後に羊羹が食べたかったのじゃ〜」などと我侭を言ったことから、
シュラインねーちゃんは近所のスーパーに買い物に行くことになったり。
「幽霊でもモノは食べれるのねぇ…あ、ついでに夕飯の食材も…」
そう言いつつ、買い物籠を下げるシュラインねーちゃん。
ああ、きっといい奥さんになるんだろうな、と俺はボンヤリと思った。

シュラインねーちゃんが帰ってきて、幽霊じーさんに羊羹(念のため、水羊羹や栗羊羹も用意する心配りも忘れず)を食べさせると、あっけあなく幽霊じいちゃんは成仏。
「あっ、おぃっ、さっき言ってた報酬は〜!!」
体が更に透けながら天へと昇っていく幽霊じーさんに『武彦さん』が手を伸ばすも、まったくや届かず。
「あ、忘れておったわい。すまぬの〜。来世できっと恩返しするからな〜」
「困ってるのは今なんだぞ〜!!!」
そう叫ぶも、じいさんは笑顔で成仏した。
「ふふ、来世が楽しみね、武彦さん」
クスリ、とシュラインが笑い、武彦はむくれる。
「あのじーさん、『遺産ならたくさんあるんじゃ〜!』って言うから長〜〜〜〜い話を聞いてやったのに…チキショー!」
「まぁ、いいじゃない、おじいちゃん喜んでたみたいなんだし」
そう言いつつ、シュライン姉ちゃんは『武彦さん』に向かって一枚の紙を渡す。
「…羊羹代、892円…結局マイナスじゃねぇか…」
泣く泣く892円をシュラインねーちゃんに渡す『武彦さん』
しかし、
「でも、今日と明日の昼ぐらいまで持つ夕食代は私が持つから。」
とねーちゃんは言う。そして、エプロン姿に着替えた。

出来上がったのは、カレーライス。
「明日は翻訳の急ぎの仕事が入ってしまってこっちにこれないから、ちゃんとご飯は食べてね?」
二人で食事を取りつつ、シュラインねーちゃんは『武彦さん』に言う。
「ん、りょうかーい。」
物凄く美味しそうにカレーを食す『武彦さん』の表情を見るシュラインねーちゃんは、今まで見たことがないくらいに穏やかな顔をしていた。


*白の卵 五日目*

今日は、シュラインねーちゃんは外には出ず、部屋にこもって本を読んではパソコンに打ち込み、本を読んではパソコンに打ち込み…を繰り返していた。
ときおり、自分でコーヒーを淹れ、休憩。その時になると、俺を巾着袋から取り出し、撫でたり話しかけたりしてくれる。
ただ、自然と会話が「武彦さん、ちゃんと昨日はお布団で寝たのかしらねー」などと、草間興信所の話題になる。
そして、また翻訳の仕事に戻る。
こうして黙々と翻訳の仕事をしているねーちゃんもかっこいいけど…やっぱり、草間興信所にいるときのほうが生き生きして見えるのは気のせいだろうか?

しばらくすると、シュライン姉ちゃんは「うぅん!」と背伸びをした。
「資料がちょっと足りないみたいだから、ちょっと、図書館か本屋に向かおうと思うの。
 ペピューとしても、うちと興信所の往復じゃ物足りないでしょうし…行きましょう♪」
そう言うと、いそいそとジャケットを着だすシュラインねーちゃん。
俺は、少しだけ、「ピン!」ときた。

ねーちゃんの言うとおり、図書館に来たものの、よっぽど珍しい書物なのか探しても見つからなかった。
大きな本屋、小さな本屋、行きつけの場所を探すも、見つからない。
「あの資料がなくても完成させることは出来るんだけど…」
と、やや眉間に皺を寄せて考え込むシュラインねーちゃん。
しばらく考えた後、ポム!と手を叩く。
「そういえば、草間興信所の近くに古本屋さんが出来たのよね!あるかどうかはわからないけど、行くだけいってみましょうかしら」
そう言い、いつもの草間興信所方面に向かうシュラインねーちゃん。
そして、運のいいことに見つかったのだ!!シュラインねーちゃんの日頃の行い、ってやつだろうか??
買い物を終え、自宅に帰宅…するかと思えば…チラリ、とねーちゃんは草間興信所の方角を見る。
「少し、覗いていきましょうかしら?」
本が見つかったからか、ルンルンとした表情で草間興信所に向かったシュラインねーちゃんだった。

しかし、そこで待ち受けてたのは…

「あれ?シュライン…今日、休みぢゃ…」
明らかに具合の悪そ〜な『武彦さん』。ゴホゴホとセキもしている。
「ちょっ、武彦さん、風邪!?連絡してくれたらすぐに来たのにっ」
「だっておまえ、急ぎの仕事だっていうから…それに…そんなにひどい風邪じゃ…ない…」
俺が見てもわかるくらい、『武彦さん』の具合は悪そうだった。やっぱり、日頃の行いって大事。
「ちょっと待って、お粥作るからっ。あと、はい、体温計。お粥食べ終わったら薬飲んでねっ」
テキパキとお粥作りから部屋掃除までこなすシュラインねーちゃん。
「すまねぇ…」
と、ゼェゼェ、グッタリしている『武彦さん』。
シュラインねーちゃんはお粥を口に運び、薬を飲ませる。
しばらくすると、薬の作用か『武彦さん』はスースーと寝息を立てだした。
それを見たねーちゃんは、起こさないように、とこっそり興信所に鍵をかけ、自宅へ戻る。

家に帰ると、すっかり夜も遅くなっていた。

「資料も見つかったことだし、あとひと頑張り〜!」
そう気合を入れなおすと、ねーちゃんはまたパソコンへと向かった。
結局、朝方までパソコンと戦ったんれーちゃんは「終わった…」という呟きと共にそのまま横になった。
嗚呼っ、ねーちゃんこそ風邪ひいちゃう!!そう思ったが、何も出来ない俺。
凄く、凄く不甲斐なかった。


*白の卵 六日目*

気づいたら、もう6日目だ。なんだかあっという間な気がする。
寝たのが遅かった割に、ねーちゃんはいつと同じ時間に起床し、草間興信所に向かう。
『武彦さん』の容態も気になっているのだろう。

こっそりと合鍵で中に入ると案の定、『武彦さん』は眠っていた。
起きないように細心の注意を払いながら朝ごはんの準備をし、メモをおいていく。
『起きたら、ご飯食べてまた薬飲んでね。あまりにひどい様だったら必ず連絡すること!
 病院に連れて行くので  シュライン・エマ』

…6日目にして、シュラインねーちゃんのフルネームがわかったぜ…。
た、たぶん「シュライン」が名前なんだよな?
そんなことを考えていると、ねーちゃんは
「さて、これからどうしようかしら」
と、呟いた。
「これからまた家に帰って眠る、という手もあるけれど…」
そう言いながら、俺の方を見るねーちゃん。
「せっかくのチャンスだし、お散歩しましょうっ♪ちょっと寒いけど、我慢してちょうだいね?」
そう、微笑むシュラインねーちゃん。
や、俺は寒くないけど、ねーちゃん睡眠不足だし寒いだろうし、無理はするなよー!!
そう必死で叫ぶけど、やはり声は届かない。

こうして、ねーちゃんと俺のお散歩が始まった。
シュラインねーちゃんがよく行くお店、顔を出す編集部、大きな学園、大きなアパート…
さまざまな場所を歩き巡り、一つ一つ思い出を語る。

行きつけらしきカフェで昼ごはんを食べ、更に散歩と思い出話は続く。
その思い出話の一つ一つが興味深くて、聞いてて飽きなかった。

「それでもやっぱり、一番思い出が多いのは…草間興信所、かしらね」
目を優しく細めて、フフッ、とシュラインねーちゃんは笑った。

時間はすっかり夕暮れ時。
公園のベンチでレモンティーを飲みつつ、シュラインねーちゃんと俺の二人は夕焼け空を眺めていた。

まだ行ったことのないペピューの国。
俺の国でも、こんなにも綺麗な夕焼けは見れるだろうか。
そして、こんなにも優しくて、頼りになる……素敵な仲間はいるのだろうか。

いよいよ明日は七日目。
夕日が地に落ちていくのを見ながら、「このまま時間が止まればいいのに」と俺は思った。


*白の卵 孵化*

七日目。ついに孵化するときが来た。
が、俺自身、いつ孵化するのかわからない。ねーちゃんも困っていたが、結局いつもどおり草間興信所に向かった。
昨日と同じく、こっそり合鍵で興信所に入ると…思いっきり珍しいことに、『武彦さん』は起きていた。
まぁ、正確には「布団の中で目を開いていた」だが。
「武彦さんっ、具合はどう?」
シュラインねーちゃんは駆け寄り、『武彦さん』のおでこに手を当てる。
「熱はないようね…セキは?」
「あぁ、だいぶ治まったよ。迷惑かけてすまないな、シュライン。」
「いいのよ。でも、油断しないで、ちゃんとしっかり治してね。今日もお粥でいいかしら?」
「あぁ、すまん、頼む。出来たら卵を入れてくれ」
「わかったわ…」
「その、胸元のヤツでもいいんだぞ?」
「おいおい!俺を食う気かよっ!!」

「「!?」」

あ、あれ?
俺自身もまったく気づいていなかったが、俺はいつの間にか巾着の中で孵化していたらしい。

「うわ、マジで孵化したよ!生卵じゃなかったんだな…煙草が…」

悔しそうな『武彦さん』とは対照的に、物凄く明るい笑顔のシュラインねーちゃん。
ただ…俺、あの、なんか、胸の間に若干挟まってる気が…
力を入れると、俺の背中に羽が生えていることに気づく。グッと力を込めるとふんわりと浮かぶことが出来た。
「ペピュー…孵化、おめでとう♪天使みたいね」
微笑むシュラインねーちゃん。手近な鏡を見ると…
純白な髪の毛、純白な羽、白い羽衣のような衣装を着た俺。

「あ、えっと、シュラインねーちゃん…今まで、ずっとありがと、な。
 一緒に入れて楽しかったぜ。そこの兄ちゃんと、ずっと仲良く、な?」

なんだか照れくさくなりつつも、お礼の言葉を述べる。そして、自分の体が徐々に透けていくのがわかる。

「ペピューくん。いつか、また、どこかでね」
微笑むシュラインねーちゃん。
「おぅっ!」と俺は元気よく答えると、ペピューの世界へと戻っていった。
もっともっと、たくさん話したいことあったけど…タイムリミット、だった。

残されたシュラインねーちゃんと『武彦さん』。


「なんか、あいつ、俺のガキの頃とそっくり…」
「え?今、何か言った?」
感傷にひたっていたシュラインは、珍しくその言葉を聞き逃していた。


*白の卵 その後*

その後、ペピューの世界に戻った純白な羽を持つ、天使らしき少年ペピューには『ライト』という名前がついた。
ライトは、数多くの知識と優しさを持ち、様々な人間の困りごとに協力して生活しているという。

白色の卵だったペピュー、ライト。
人間界での思い出はきっと忘れないだろう…。


☆END☆



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】

【NPC/ペピュー・白・ライト/男性/10歳程度?/天使?】

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■         ライター通信          ■
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毎度有難うございます!!千野千智です!
またもシュラインさんを預からせていただき光栄でございます!!!!

草間さんとペピューの三人生活ノベルになってしまい申し訳ありません(ペコ)
本当でしたら零ちゃんもちゃんと登場させたかったのですが…
技量不足を心からお詫びいたします。
しかし、やはりこのお二人のやりとりは微笑ましく、書いてて物凄く楽しかったですっ!!

本当に、謎な依頼にも関わらず、ご発注&嬉しいお言葉をありがとうございました!
よろしければ、またシュラインさんにお会いできることを願って…では!!

2006-02-09
千野千智