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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


逃亡者 〜緑の栞〜




 司法局セントラルビルの一角にあるその部屋の前で司法局特務執行部所属高野千尋は足を止めた。
 透明な強化プラスティックを一枚隔てた向こうから、青い髪の男が椅子に座ってこちらを見つめている。彼のアイスブルーの瞳が全てを吸い込んでしまいそうな程深くて、千尋は無意識に息を呑んでいた。
「待っていたよ、ゆき」
 向こう側とこちら側を繋ぐ音声スピーカーから彼のくぐもった声が聞こえてきた。
「空野彼方……いや、朱」
 そう呼びかけて千尋は反射的に目を閉じていた。その名に敬愛の念がこもってしまうのを隠し切れなくて、その事がまるで禁忌のように奥歯を噛む。
 きっかり一秒、間をあけて返ってきた空野彼方、いや朱の声は驚きを微かに含んでいた。
「嬉しいな。僕の名前ちゃんと覚えててくれたんだ」
「何故……?」
 千尋は問いかけた。
「青い絵本を空野彼方に渡してはいけない。ここを開けてくれるね、ゆき」



 ◇◇◇



 この世には不思議な色の絵本があった。

 『白い絵本』は、その日見た夢を映す。
 『黒い絵本』は、心の闇を映す。
 『赤い絵本』は、血に飢え生き血を啜る。
 『青い絵本』は、天を翔る。



 ◇◇◇



 司法局セントラルビルの二階にあるカフェテラスで、のんびりとランチを楽しんでいた司法局特務執行部オペレータ藤堂愛梨は、突然のエマージェンシーコールに頬張っていたナポリタンを噴出しかけた。
 何事かと慌てて立ち上がりながら通信機開く。
 液晶画面には事務的な一行。
『空野彼方脱走』
 12時17分の事であった。

 愛梨がオペレーションルームに戻り詳細を聞かされたのは、それから更に10分後の事である。内容は愛梨を愕然とさせるものであった。
 空野彼方脱走には手を貸した者がいる。
 それは監視カメラから高野千尋と断定された。

 手を貸した者が司法局員であるという一点に於いて、司法局はC4ISRの導入を先送りにした。それは単に、司法局の汚名は司法局自らが雪がなければならない、というくだらないプライドによるものだった。だが、手を貸したのは司法局が誇る特殊部隊の人間である。一般の者達の手に負える相手ではない。それ故に、捕縛にあたる者達は細心の注意をもって選ばれた。

 司法局特務執行部所属仁枝冬也が司法局に呼び出しを受けたのは13時3分の事であった。事件発生からこれだけの時間が開いたのには、いくつもの理由があったが、その最大の理由は官僚システムによるものだろう。
 そしてもう一つ、彼が今回の作戦に選ばれるにあたり危惧される事があったからだ。

「今回の件は、司法局の恥である。何としても止めねばならん。恐らく奴らは封印された『青い絵本』の奪還に向かう筈だ。高野の生死は問わん。何としても奴らをCITYから出すな!」

 それが司法局が彼に下した命令であった。

「せ……生死は問わないですって!?」
 驚いたように声をあげたのは愛梨だった。冬也をゆっくり振り返る。
 上司の顔をまっすぐに見返す彼の顔からは、何の感情も読み取れない。
「そんな、だって高野くんは……」
 愛梨はそのままやるせない気持ちで言葉を詰まらせた。
 千尋は冬也の親友でもあり、幼馴染でもあるのだ。

「わかりました」
 冬也が静かに頭を下げてその部屋を出て行ったのは13時17分の事であった。

「どうして!?」
「彼にしか高野くんは止められないからね」
 納得のいかない顔で愛梨が上司に詰め寄ろうとした時、彼女の背後から宥めるような声が届いた。
 冬也が出て行った扉の前でその男は両手を白衣のポケットに突っ込んだまま軽い笑顔をつくっている。
 見知った男の顔に愛梨は眉間に皺を寄せて嫌そうにその軽薄そうな顔を睨み付けた。
「どうして警察付きの観察医がこんなところにいるのよ?」
 TOKYO−CITY衛生局医療計画部医療計画課監察医務院勤務の監察医、瑞城東亜は愛梨の視線に困惑げに肩を竦めて見せる。
「ゆうべ、NATで変死体が見つかってね」
「珍しくもないでしょ」
 そっけなく切り捨てる愛梨に、東亜はやれやれと頭を掻く。
「それがどうも俺の見立てだと、空野彼方の仕業なんじゃないかと思うんだ」
「なっ!? ……どういう事?」
「そういう事」
 東亜はそう言って説明するのも面倒げに踵を返した。彼の言葉に何か心当たるものがあったのか、愛梨は慌てて自分の席に戻るとオペレータコンソールのパネルをたたき始める。
「さて、俺はウェストゲートにでも行きますか。予想が当たってれば、高野君は仁枝君にも止められないだろうけどね。事の顛末ぐらいは見届けましょう――いや、顛末ではなく幕開けとでも呼ぶべきか」
 東亜がそうして司法局セントラルビルのロビーをのんびりと横切ったのは13時23分の事である。






【起承転結の起】 本はただ物語をつむぎ続ける

 ■133001■

 都立図書館――。
 普段は子供たちでごった返す土曜日の午後。
 にもかかわらず児童書コーナーには人っ子一人、大人さえいない。いや、この表現には少し語弊があるだろうか。
 一人しかいなかった。
 いくつも並ぶ本棚の片隅に用意された閲覧コーナーでCASLL・TOは一人男泣きに泣いていた。
 柱に貼られた【静かに】という文字がむなしくなるほど豪快な泣っぷりである。手にしているのは『嵐の晩に』という絵本であった。強面の脛に傷持つ一匹狼が、心優しい人間の女の子と種族を超えた愛を育む切なくも愛しい物語である。
 とはいえ、子供向けの絵本である。
 絵本を手に大の男が人目も憚らず大号泣。
 それだけでも、皆がドン引きする要素は大きい。
 しかし、彼が絵本を読み始める前から、そのフロアーはほぼ閑古鳥であった。
 CASLL・TO。職業、悪役俳優は強面が命。子供が泣きながらフロアを飛び出していったのも仕方ない事であった。
「うぅっ……みうちゃんが可哀想です〜〜〜」
 溢れる涙を腕で拭いながら、溢れる鼻水までは拭いきれずにタオルを濡らす。今にも絞れそうなほどぐしょぐしょにしながら彼は泣いていた。
 完全に狼と自分が重なってしまっているらしい。
「あぁ…ひどいっ!!」
 彼は再び嗚咽を漏らしながら、びしょびしょのタオルに顔を埋めた。最早涙でその先は読めぬといった風情だ。
 そんな彼に近づこうなんて考える者はそうはないだろう。
 図書館の館員でさえ、注意する事を躊躇うほどの強面が相手なのだ。
 しかしそんな彼に近づくどころか肩を叩く者があった。
「はい?」
 CASLLが振り返る。顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにして、それでなくても凄みのある顔を、言葉では言い表しようがないぐらい壮絶に歪めて。どんな凶悪犯人でも裸足で逃げたくなるような顔は、普通の人ならそれこそその場で失神したかもしれない。
 という事はどうやら彼は普通の人ではないのだろう。
 彼は迷彩色の上下にカーキ色のブルゾンを羽織って人懐っこい笑みを向けた。
「お久しぶりです」
 CASLLは暫し考え込む。
 彼の顔が記憶になかったからだ。
 けれど、それも一瞬。
 何故だか旧知だったような気がして答えた。
「お久しぶりです、高野さん」
「ちょっと、お願いがあるんですが、お手伝い願えませんか?」
「はい。私に出来る事でしたら」
 そうしてCASLLは濡れた顔をタオルで拭くとティッシュで鼻をかんで、読みかけの絵本を閉じたのだった。



 ■133003■

「おや、これは」
 一色千鳥は山海亭の店の前で車のエンジン音が小さくなったのに気づいて店を出た。そこにリムジンが一台止まっている。そこから顔を出した知人に千鳥は別段訝しむでもなく声をかけた。
「そろそろ来られる頃かと思っていました」
 先んじて来訪のアナウンスをしていたわけでもない。セレスティ・カーニンガムはその言葉に少し驚いたようにわずかに目を見開いてリムジンを降りた。
 軽い挨拶もそこそこにセレスティが口火を切る。
「彼はどうやら栞を持っているらしい」
 何の前置きも説明もなかったが、千尋は戸惑う風もなく頷いた。
「絵本が目当てなら図書館でしょうね」
「なら、そちらは任せます」
 別の声がリムジンの陰から聞こえて、千鳥とセレスティが振り返った。
「直江さん?」
 そこに立っていたのは直江恭一郎だった。
 司法局がどれほど情報を隠蔽しようともやはり完全ではありえない。セレスティはたまたま偶然、絵本に関して調べている時に、この情報に行き当たった。千鳥はその類まれな特殊能力故だったか。では、恭一郎はどうであったのか。
「図書館が突破された後、恐らく奴らが向かうのはそこから一番近いウェストゲートでしょうから」
「なるほどわかりました」
「こちらまで回ってこない事を祈っておきます」
「はい」
 セレスティはリムジンの中から何やら取り出すと恭一郎に差し出した。
「半径10kmで繋がります。それ以上の距離を開けられないように追尾しましょう」
「頼みます」
 インカムを受け取り恭一郎が一歩退く。
「しかし、生死は問わないとは穏やかではありませんね」
 千鳥が眉間に皺を寄せた。
「脱走され、挙句に内通者がいたって事を闇に葬り去りたいだけの事だと思います」
 恭一郎も言葉は丁寧だったがどこか嫌悪感を滲ませている。
「ですが、栞はまだ見つかっていないとか。今、空野を死なせるのは惜しい気もします。それに……高野さんとは面識がありますからね」
 千鳥の言葉に、ふとセレスティが首を傾げた。
「そういえば、栞とはどういった形状をしているのでしょう」
「え?」
「もしかして、栞は本に挟むように出来てはいないのではないですか?」
「可能性はありますね。確かに我々が彼を捕らえた時、彼は絵本以外にそれらしいものを持っているようには見えませんでした」
 千鳥も頷く。
「…………」
「それだけを取ってみても、彼を死なせるべきではないような気がします。何としても生きて捕まえたいものですが」
 千鳥が言うのに恭一郎は小さく肩を竦めて独りごちた。
「手加減出来る相手なら……」






【起承転結の承】 栞抜き取り本開かば物語りは続き

 ■140003■

「こんにちは。お休みって聞いたんだけど、何かあったの?」
 要申請特別閲覧室へと続く扉の前でシュライン・エマが肩を叩くと、振り返った綾和泉汐耶は千客万来ね、と肩をすくめてみせた。
「今日はお客のつもりで来たんだけど……」
 そう言って千尋を振り返ったのは、今の状況をどこまで話していいものか、考えあぐねたからである。
 千尋はやれやれと笑みをこぼして、それでも隠し立て出来ぬと感じたのだろう、極秘ですよ、と念を押して言った。
「空野彼方が脱走したんです」
「え?」
 驚くシュラインに汐耶は要申請特別閲覧室へと続く扉を開きながら続けた。
「それで絵本を別の場所に移す事にしたの」
 そうして一歩を踏み出した汐耶とそれに続く千尋に、シュラインは呆然と呟いた。
「……あなた……高野くんよね?」
 シュラインが尋ねると千尋は破顔一笑してみせた。
「何言ってるんですか、俺は俺ですよ」
 千尋は溜息を一つ吐き出す。シュラインは辺りを見渡した。別段世界が変わったようには見えなかったが、確かにいくつかの音が消えたような気がする。
「やれやれ。あなたはとても耳がいいらしい」
「彼らは?」
 シュラインが尋ねた。
 彼女は、ではなく、彼ら。
 目の前の男からは、最早呼吸音も衣擦れの音も聞こえない。
「絵本を取りに行きました」
 千尋が言った。
「…………」
「あなたはその間、ここでゆっくりお寛ぎください」
 恭しく一礼してみせる千尋にシュラインは肩を竦めて歩き出す。だが、空間が捩れているのか、一向に前に進む気配がない。
「冗談……」
「そう簡単には破れませんよ」
 確かに彼の言う通りのようで、シュラインは諦めたように息を吐いた。
「……一つ、聞いてもいいかしら」
「何なりと」
「あなたは一体誰?」
「空野、彼方」
 その答えに、やっぱりという思いが滲む。千尋の姿をしているが、彼の足音は自分の記憶していたそれと確かに違っていたからだ。
 ならば、聞いてみたい事がある。
「予定調和ってどういう事?」
「何の話だい?」
「あなたは言ったわ。何故嵐を起こすのかと尋ねた時、それは単なる予定調和だと」
「神の定めたもうた秩序に、人は抗えない、という事だよ」
「嵐を起こす事が神の定めた調和ですって? 冗談」
「なるべくして、なった。それだけの事さ」
「つまり、貴方が起こそうとして起きたわけではないって事ね」
 シュラインの言葉にハッとした様に彼方は口を噤んだ。
「……あまり、首を突っ込まない方がいい」
「何を今更……え……?」
 刹那、一発の銃声と共に千尋のこめかみを、まっすぐに弾が抜けていった。だが、彼の体は傾ぐでもなく掻き消えた。
 シュラインは全身を強張らせながらも身構えた。それ以上の発砲もそれらしい何かもない。
 そこにはただ静寂だけが満ちている。
 けれど雑音が確かにシュラインの耳に戻っていた。
「今のは一体……? ま、どちらにしても助かったというべきかしらね。もっと聞きたい事もあったけど」
 呟いてシュラインは要申請特別閲覧室への扉に飛び込んだ。



 ■141002■

「待ちなさい!!」
 汐耶が意識を手放しそうになった瞬間、それを繋ぎとめようとするような声と共にその部屋の扉が開かれた。
「…………」
 汐耶は霞む視界を移ろわせ、扉の方を見やる。
 そこにシュラインが立っていた。
「おや、早かったんですね」
 彼方はゆっくりと汐耶の首から手を離した。
 そこに腰砕けたように座り込んだ汐耶は、突然気道に入り込んだ大量の空気に咽て咳き込む。彼女を庇うようにしてシュラインはその傍らに立った。
「あまり手荒な真似はしたくなかったんですが」
 彼方はそう言って左手をゆっくり掲げてみせる。その肘から先に炎が巻き起こった。
「!?」
「封印を解いてくださらないなら仕方ない。この図書館を焼き払ってしまいましょうか」
 柔らかい口調で、どこか楽しげに彼方が言った。
「なんで……すって……?」
 汐耶は彼方を睨みつける。ここには何万もの貴重な本が納められているのだ。
「二者択一ですよ」
 静かに返答を促す彼に、シュラインが汐耶の動揺を断ち切るように言い放つ。
「幻影に惑わされちゃダメ!」
 彼が今その左腕に纏わせた炎は彼が作り出した幻影だ。
「…………」
 彼方は汐耶の動揺の色がその顔から消えてしまったのに小さく息を吐き出して左手を握った。刹那、炎の幻影も立ち消える。
「執行猶予をあげますよ。よく考えておく事です」
 そう言って、彼は扉に向かって歩き出した。
「ま…待ちなさい!」
 シュラインの制止の声は、しかし彼の立ち去る扉を叩いただけで、彼を止める事は出来なかった。
 シュラインはそこで膝を付いている汐耶の傍らにしゃがみこむ。
「大丈夫?」
「本を……燃やすですって……?」
 汐耶のそれは困惑や動揺といったものではなく、怒りに満ちていた。
「絵本の封印を解いて、CITY内が水没しても同じ事。封印を解いても、本を燃やさない保障もないわよね」
 尋ねた汐耶にシュラインが頷く。
「えぇ」
 汐耶は立ち上がると、一つ深呼吸した。
「行かなきゃ」



 ■144001■

 空から人が降ってきた。

 今から一時間ほど前。千尋に頼まれてCASLLは事情はさっぱりわからなかったが図書館内を練り歩いた。
 ただ歩くだけでいいと言われたのだが、心なしか図書館にいた人々が確実に減っているような気がして、なんだか物悲しくなった。
 一通り練り歩き、殆ど図書館内がもぬけの空となったところで、CASLLは今度は図書館の前に立った。
 そこに立っていると、何故だか図書館に訪れようとした人々は、回れ右をしていく。それが皆、自分の顔を見て、ハッとしたように踵を返しているように見えて、CASLLはほんのり落ち込んだりもした。
 しかし、千尋のお願いなので、仕方が無い。
 こうする事に、果たしてどんな意味があるのか。
 図書館で何が起こっているのか、はたまた、起ころうとしているのか、皆目検討もつかないCASLLは、顔に似合わないお人よしっぷりフルに発揮して真面目にそこで突っ立っていたのである。
 そうしてどのくらい時間が経ったろうやがて千尋に肩を叩かれた。
 車のキーを手渡される。
 駐車場に止まっているミッドナイト・パープルのオフロードカー。それを目の前の高層ビル群の中でも一際高いビルの脇に回して欲しいと言われた。
 断る理由も思いつかなかったから、言われた通りに車を取りに行く。
 客の殆どいなくなった図書館の専用駐車場に残った車の台数は片手の指で足りた。
 すぐに見つけて乗り込むと、CASLLは車をビルの脇に寄せて止める。
 それから暫し待った。
 そこへ、彼の頭上から人が二人降って来たのである。

 その一人が千尋だと気づいてCASLLは慌てふためいたが、右往左往している間に二人は危なげなく着地した。
「駄目だ。まだ耳がおかしい……」
 などと呟きつつ二人はそこにとめてあった車の後部座席に乗り込んだ。
「出して」
 と言われてCASLLも急いで運転席に乗り込むと車を走らせる。
「朱、絵本はまだ?」
 後部座席に座っている千尋が隣の青い髪の男に尋ねた。
「あぁ、封印されている。まいったな。急いで解かないと、この事が奴に知れたら術者が危ない」
「…………」
「ま、バレないようにやるさ」
 それで会話が途切れたのを見計らって、CASLLが声をかけた。
「あの……、そちらの方は?」
「あぁ、彼は俺の旧知でね。朱」
「はい。朱さんですね。私はCASLLと言います」
 ハンドルを握って前を向いたまま、頭を下げたCASLLに、バックミラーに映った男は恐縮そうに笑みを返した。
「この本をなんとしてもNATまで持ち出さなくてはいけないんだ。宜しく頼む」
「はい。わかりました」
 事情がほんの少しわかって俄然気合の入ったCASLLは、アクセルを踏み込む。しかしすぐに一つ目の赤信号に掴まった。
 そこに車の後ろで妙な衝撃を感じてCASLLが振り返る。
 同様に朱も千尋も後ろを振り返っていた。
 その衝撃がライフルの弾丸によるものだとCASLLが気づいたのは、三回目の衝撃が加わった時だったろうか。
 突然視界が20cmほど沈んだ。
 どうやらタイヤがパンクしたらしい。
 千尋が車を降りてタイヤを確認する。
 青に変わった信号に後続車がクラクションを鳴らしたが、千尋は意に介した風もなく肩を竦めていた。
「やられた」
 後部座席の窓から顔を出して朱が舌を出す。
「さすがトップクラスのスナイパーだな」
「冬也はライフルを握れる状態じゃなかったよ」
「何れにせよ、足止めという事は奴らはゲートに先回りするつもりだろうな」
「どうします?」
「ここから二番目に近いゲートは?」
「サウスゲート」
「あの……」
 CASLLは二人におずおずと声をかけた。本を一刻も早くNATに持ち出さねばならないのなら、一つ提案がある。
「ん?」
 振り返った二人にCASLLが言った。
「あの、大型バイクがありますけど」
「!!」
「よし、それで行こう」

 三人は図書館専用の駐車場の片隅にある二輪車専用の駐車スペースへ訪れた。そこに1300ccの大型バイクがとまっている。
 CASLLは中からヘルメットを取り出すと二人に手渡し跨った。
「いつも、二人くらい乗せさせられているので大丈夫です」
 CASLLが笑顔で請け負うのに、千尋と朱は何とも複雑な顔を見合わせて、結局二人で乗り込んだ。
 タンデムシートに朱は座り、その後ろに千尋が立って乗る。
「よし、行こう」
「はいっ!」






【起承転結の転】 開かずとも本は他人を巻き込みて

 ■150001■

 大型トラックどころかジェット機一台簡単に通過できるほど大きな扉がある。TOKYO−CITYの最西端にあるウェストゲート。勿論、その脇には歩行者専用の小さな扉も用意されている。23区TOKYO−CITYと、23区外――通称NATを分かつ場所。
 そのゲート前にある入出管理用室で、恭一郎はぼんやり彼らの訪れを待っていた。
 10分ほど前に彼らがこちらに向かったという情報が入っている。通信機の範囲から計算して、車ならそろそろ来る頃だろうか。
『直江さん!』
 耳元でシュラインの声がして、恭一郎はインカムに手を重ねた。
 遠目にそれらしい影が見える。
「あぁ、どうやら、おいでのようですよ」
 少しだけ腹に力を入れたのは、耳元の声が女性だったからだろうか。だが、そのまま通信を切ったのは、五感を澄ませる為である。
 インカムを投げ捨て身構えた恭一郎はゲートに向けて猛スピードで走ってくる大型バイクに溜息を吐いた。
「おいおい。二人じゃなかったのか……」
 強面の運転手にバイクの後ろには二人の計三人が乗っている。
 既にこのゲートには彼の呪符が張り巡らされていた。
 自分のいわばテリトリーとも言える空間にバイクが突っ込んで、初めて恭一郎は彼が一人であることに気がついた。視覚的には確かにバイクの後部座席に二人乗っている。しかしこの呪符結界の中にいる人間は自分を含めて二人。いや、正確には三人いたが、内一人は自分が来る前からこの場にいたから、数に入れる必要もあるまい。
 つまり、あれは彼方と千尋の幻覚。
 二人はまだこの結界の外にいる。
 恭一郎は小さく舌打ちしてバイクに向かって走りだした。
 罠がバレた、とは思えない。恐らくこれは囮。ここに巡らした罠をあぶりだす為の。
 ならば恭一郎にはこいつの相手をしてやる義理はない。相手をしている間に、千尋らがゲートを抜けようとする可能性が高いからだ。とはいえゲート全域に結界を施してある。彼らがこの呪符結界を通らずにゲートを抜けるのは不可能。
 むしろ、彼をやり過ごす方が、逆に彼らを警戒させかねない。
 一瞬の迷いが事態を分かつ。
 ここは勘に頼るか。
 わざと彼らの策に嵌ってみせるのはフェイク。幻覚などこの結界内では無に等しい。見たところバイクの男はそれほどのつわものとも思えなかった。怖いのは顔だけだ。
 恭一郎は消していた気配を敢えて見せると一気に跳躍した。
 突然飛び出してきた人影にバイクが急ブレーキをかけ、タイヤはコンクリートとの摩擦に悲鳴をあげる。
 恭一郎が飛び出したとほぼ同時に、バイクの後部座席にいた二人がバイクから飛び降りた。
 ハンドルを切って横転したバイクに運転していたCASLLが横滑った。砂埃が巻き上がった。
 恭一郎の右後方に力を殺すように受身を取って転がった千尋が上体を起こして肩膝を付く。
 右後方には彼方が立っていた。
 正面にはCASLLの巨体がギターケースを抱えている。
「高野さん達は行ってください!」
 CASLLが大声で言った。
 あくまでそこに二人がいるかのように演じているのか。
 それとも、本気でこの幻影を本物だと思っているのか。
 恭一郎は後ろにも隙を作らず身構える。
 とんだ茶番だったが、おびき出すには仕方がない。
 CASLLがギターケースを開いた。中から取り出したのはチェーンソー。一体、どうやって収納されていたのか。
 CASLLがボソリと呟いた。
「アクション……」
 刹那、彼の気配が変わった。
 相変わらずそこに殺気は感じられなかったが、それに近いものを感じて恭一郎は反射的に地面を蹴る。
 モーター音を響かせて、CASLLが猛然と突進してきた。チェーンソーを軽々と振るい、恭一郎がたった今いた場所を切り裂く。その巨躯に反して意外と動きは素早い。
 バク転で退いた恭一郎は着地と同時に三方向にナイフを投げた。
 CASLLはそれをチェーンソーで弾き飛ばす。
 千尋は無造作にナイフを避けた。
 朱は、ただ足を止めて二人の攻防を見守っていた。
 恭一郎がCASLLとの間合いを一気に詰める。
 結界内の気が揺らいだ。
 ――来たか。
 言葉に出さず内心で呟いて恭一郎は一枚の符を取り出すと大きくジャンプしながら2m近くあるCASLLの頭上を飛び越え、その額に符を貼り付けた。
 ――傀儡符。
 戦闘の邪魔をさせない為に。
 突然金縛りにあったようにCASLLの動きが止まった。意識はあるのか、力任せに束縛を立ちきろうともがいている。
 それを尻目に着地した恭一郎はゆっくりとそちらを振り返った。
「お見事。その腕、惜しいな」
「…………!?」
 恭一郎の顔が曇る。何故彼らはこの結界内で動き続ける事が出来るのか。
「君が何か陣を敷いているようだったから、上から覆うようにして陣を敷いてみたんだ。どのくらい中和されるのかよくわからないけど」
 朱が種を明かす。
「こっちの幻覚も効かないみたいだし、まいったね」
 千尋は肩をすくめてみせた。
「…………」
「通して欲しいんだけど」
「断る」
「そう言うと思った」
 千尋が走りだす。
 恭一郎はナイフを走らせた。
 避けるのは勿論計算づくで彼の着地点に蹴りを叩き込む。
「こっちも忘れないでね」
 彼方が恭一郎の背を取った。
 恭一郎は蹴り出していた足を強引に方向転換して、軸足を回すと、彼方の一撃を喰らう前に飛んだ。
 地面に手を付いて二人との間合いを取ると、小さく意を吐く。
「だから、手加減出来る相手じゃないって……」
 独りごちて走りだした。
 二人が辛辣に歪める顔に多少の違和感を感じながら。






【起承転結の結】 ただ物語をつむぎ続けり

 ■151501■

 千尋たちを追ってウェストゲートへ向かうリムジン――。
 クラクションをいくら鳴らしても無理なものは無理であった。
 この渋滞では避けて進む事も出来ない。そんな事は百も承知でそれでも押したい衝動にかられるのは、苛々を持て余してしまっているせいだろう。
 工事渋滞に車線変更を強いられる。
 前に車を入れるのさえムカつくほど気持ちばかりが焦っていた一同は、苛々と足を踏み鳴らしたり、忙しなく肘掛を指で叩いたりなどしていた。
「ウェストゲートまで後どれくらい?」
 シュラインが誰とはなしに尋ねた。
「距離にして5kmってとこじゃないですか?」
 千鳥が答える。
「5000m。走れば30分くらいかしら」
「現役の頃なら」
 リオン・ベルティーニが肩を竦めてみせた。
「走るわ」
 言うが早いかシュラインがドアを開ける。
「え……」
 呆気に取られるリオンを他所に、セレスティがシュラインに声をかけた。
「私はこんな足ですから車に残りますよ」
「えぇ」
 シュラインが頷く。
「私も車に残るわ。万一、本が別のゲートに向かった場合も考えて」
 汐耶がインカムをシュラインに手渡しながら言った。
「わかったわ」
「では、私も走りますか」
 千鳥が続いて車をおりる。
「体力にはあんまり自信がないんだけどね」
 リオンは肩を竦めながら不承不承後に続いた。
「何としても事情を聞きだす。そして止めなきゃ」
「我々は幸い司法局の人間ではありませんからね。彼が空野彼方でないなら彼らを追う理由は目下のところ我々にはありませんし」
「場合によっては手を貸すわよ」



 ■151502■

 今、この段階で彼らが恭一郎と交戦している事から考えて、恐らく彼らは恭一郎の張った呪符結界を抜けられない事は容易に想像される事だった。
 下手な戦闘は時間稼ぎにしかならない。
 彼らを追ってくる者達もいるのだ。
 一気に抜けようとするなら、自分を殺すのが一番てっとり早い。しかし、彼らからはそういった殺気が感じられなかった。
 気のせいだろうか。
 幻覚の名残なのか、それとも――。
 彼方の蹴りが鳩尾に食い込み、そこで恭一郎の思考は強制的に停止させられた。
「けほっ……」
 鳩尾を押さえながら恭一郎が数歩後ろへよろめく。
 多勢に無勢は分が悪い。
 考えてる余裕などなかった。
 思いやる余裕もない。
「もう殺しは廃業したんだがな」
 自嘲が滲む。
 相手に殺気が感じられなくとも、その気がないとも限らない。
 恭一郎は腰に佩いていた脇差を鞘ごと掴んだ。
 ゆっくりと息を吐き出し地を蹴る。
 先ほどよりはるかにスピードの増した動きに彼らの反応が遅れたのか。
 恭一郎は一気に彼方との間合いを詰めると、彼に届いた瞬間脇差を抜いた。
 まっすぐに彼方を狙う銀閃に千尋が咄嗟に割り込んでくる。
 刃は千尋の脇腹を抉った。
「ゆき!?」
 動揺したのは彼方の方だろうか。
 千尋はそれに一瞬視線を馳せたが、脇差を掴んだままの恭一郎の手首をしっかりと掴んで、まっすぐ恭一郎を睨み据えている。
 場数を踏んでいるのだろう、大して動じた風もない。もし今、彼自らが飛び込んできたように見えたのが気のせいでないなら、恐らくこの一撃で彼の内臓は傷ついていない。
 恭一郎は柄から手を離して側転した。捩れる腕に千尋が咄嗟に手を離す。恭一郎は淡々とした足取りで間合いを開けると、次の攻勢を仕掛ける機をうかがった。
「やっぱり……結界を破るには術者を殺るのが一番手っ取り早いかな」
 脇差を刺したまま千尋が身構える。抜けば返って出血が酷くなるだろうから、今は抜かない方がいいだろう。とすればこれはいい判断だ、というべきか。
 恭一郎はそれで気を緩めるでもなく蹴りを繰り出した。
 両手でクロスブロックして、千尋が叫んだ。
「走れ、朱!!」
「朱?」
 その名に恭一郎が一瞬、隙をつくる。
 千尋はそこに掌底を叩き込んで一歩退くと胸ポケットに手を突っ込む。
 銃か、ナイフか、それとも――――。

 ――来る!

 刹那、二つの結界が壊れた。


「二重結界なんて初めて見たわ」
 どこか呆れたような物言いで、ササキビ・クミノは手にしていた銃を下ろした。コルトパイソン.357マグナムの2.5インチモデルは彼女の手の中にコンパクトにおさまっている。恭一郎の呪符が一枚、黒く焼け焦げていた。
 恭一郎は不審に眉を顰めた。呪符がたとえ効力を弱めていたとしても、そう簡単に物理的手段で破られるものではない。彼女の力を推し量るように見つめやる。
「お前……は?」
「子供の出る幕ではないと思うよ」
 彼方がやれやれと溜息を吐くその傍らで、どこか気が緩んだように膝をついた千尋が思い出したように笑顔を向けた。
「君は確か……その切は、うちの冬也が世話になったね」
「これだから司法局は嫌いよ。その事なかれ主義がね」
 クミノは心底嫌そうに吐き捨てて、彼方を見据えて言った。
「空野彼方……いえ、朱」
 その名前に恭一郎が反応する。朱。先ほど、千尋も彼をそう呼んでいた。
「やれやれ、とんでもないお嬢ちゃんだな」
「誰も巻き込みたくない。ご立派だとは思うけど傲慢ね」
 恭一郎は内心でクミノの言葉を反芻する。まだ状況がうまく把握出来ていなかった。
 彼は空野彼方ではないのか。恭一郎の疑問に、だが気づいた風もなくクミノは淡々と続ける。
「本物の空野彼方をおびき出す為とはいえ」
「なっ……」

 数週間前、朱は、空野彼方――橙の栞を持つ者をおびき出す為、青い絵本を開いた。
 彼がその後、あっさり司法局に掴まってみせたのは絵本を閉じてもらう為である。それと、そこに千尋がいたからだろう。千尋は朱のディジタルボックスを継承している。朱としては手ごまが欲しかったのだ。
 そして千尋は彼が朱だと知りながら空野彼方として捕らえた。彼が朱を捕らえたのは彼が絵本を開いた理由に思い当たるものがあったからだった。
 今、橙の栞を持っているのは、朱ではなく、その双子の兄、蒼。
 蒼が、絵本の回収に図書館を襲う事は容易に想像がつく。そして彼は、何の躊躇いもなくそこにある邪魔なものを全て消し去ろうとする事も。
 絵本をCITYの中に置いておく事は、最も危険な事であったろう。
 それが今回の逃亡劇。

「それに、司法局は貴方たちの抹殺命令を出している」
 クミノが言った。
「…………」
 恭一郎は二人を見やる。その表情からは何を考えているのか読み取れない。ただ、千尋は脇腹の傷に限界が近いのか、顔を蒼褪めさせていたが。
「誤認逮捕に脱走、脱走幇助。今回の一連の不祥事をなかったものにするためにね」
 思えば、それだけで抹殺命令と言うのも乱暴な話ではなかったか。
 クミノは更に続けた。
「でも、実態はもっと根が深いんじゃないの?」
 事情を話して絵本を取り封印も解いて貰った上でCITYの外に出る手段もあった。汐耶らとて、事情がわかれば無理に止めようとする事もあるまい。
 だが、敢えて彼らはこの逃亡劇を選んだのだ。
「…………」
「可愛い飼い犬を殺されたくなければ、もう、あなたが死ぬしかないんじゃないの?」
 クミノは疲れたように息を吐く。
「どういう事だ?」
 彼女の言葉の真意を理解し損ねて、恭一郎が目を見開く。
「直江さん! 待って! 違うのよ! もしかしたら彼は朱かもしれない……」
 そこへシュライン達が駆けてきた。
 クミノがシュラインを振り返る。
「あなた……」
 思いがけない人物にシュラインが絶句していると、クミノはにこりともせず言った。
「もしかしなくても予想通りよ」
 その言葉にシュラインが千尋と朱を見やる。
「やはり、そういう事でしたか」
 千鳥が呆れたように溜息を吐いた。
「なら、止める理由はないな」
「でも、力づくで止めて欲しい理由があるんじゃない?」
 クミノが千尋に尋ねる。
「ああ。確かに……君の言う通りだよ」
 千尋はどこか困ったような笑みを零した。
「朱……俺は必ず後を追う。だから先に…行ってくれ」
「…………」
 朱は一つ頷いて踵を返した。ゲートに向かって走りだす。誰もその背を追わなかった。
 その背がゲートの向こうに消えるのを見送って、千尋は彼らを振り返る。
「せっかくの…迫真の演技が…台無しじゃないか。これ以上…巻き込みたく…なかったのに……」
「!?」
 そうして千尋は自分の脇腹に刺さっていた脇差をゆっくり引き抜いた。
 鮮血があふれ出す。
「救急車を!」
 傾ぐ千尋の身体に、シュラインが慌てたように駆け寄った。
「必要ない!」
 地面に仰向けに倒れた千尋の脇腹を圧迫しながら止血を試みるシュラインの背を男の声が叩く。
 そこに白衣の男が駆けてきた。
 シュラインの手をどけて止血の応急処置を始める男に、千鳥が眉を顰める。
「あなたは?」
 恭一郎がここへ訪れる前からここにいた人物だ。
「通りすがりの監察医」
「……救急車が必要ないとは」
「こいつは死んだ」
 監察医と言った男はそこで一旦手を休め、千尋から顔をあげると千鳥を見やった。
「という事にしておいてくれ」
 そうして、再び処置に戻る。
「そういう事ね」
 クミノがそれまで張り詰めていた緊張を解いたように息を吐き出した。
「どういう事」
 シュラインが尋ねる。
「この秘密裏の任務が失敗すれば処断されるのは彼を追ってきた司法局員……要するに、この事件の黒幕には司法局が絡んでるって事でしょう」
「死んだ事にしておいた方が、この先都合がいいというわけか」
 リオンが小さく肩を竦める。
「…………」
 そこへ一台のリムジンが止まった。
 中から、汐耶とセレスティが下りてくる。
 汐耶は倒れている千尋に息を呑んだ。
「間に合わなかったの?」
「救急車を……」
 慌ててリムジンに戻ろうとするセレスティの肩をリオンが掴んで首を横に振った。
「どういう事ですか?」
 尋ねたセレスティに、リオンが簡潔に事情を話す。
 予想はほぼ当たっていた。そして――。

「絵本はNATに持ち出されたのね。封印は解くべきなのかしら」
 首を傾げた汐耶に、傀儡符から開放されたCASLLが声をかけた。
「あ……あの、今の状況があまりよくわかっていないのですが、朱さんは『急いで解かないと、この事が奴に知れたら術者が危ない』って言ってましたよ」
「奴って、蒼の事かしら」
 呟くシュラインに汐耶が頷く。
「……そうね」
「仁枝さんにも話してあげた方がいいのかしら」
「きっと、怒るんじゃないですか? 私たちも、何となく腹立たしいですし」
「ちゃんと、話してくれれば良かったのに」
 何ともやるせない気分で、六人はウェストゲートの巨大な扉をを見上げたのだった。


 CASLLが顔に似合わず懇切丁寧な挨拶をして、大型バイクで帰っていった。
 セレスティが送ってくれるという申し出を辞退したクミノが、リムジンに乗り込む六人に声をかけた。
「彼はあなたたちを巻き込みたくなくて事情を話さなかった。だけど、納得がいかないのなら『赤い絵本』を探してみたら?」
「え?」
「朱が持っているのは緑の栞」
「あ……」
「再び彼らに交わるかもしれないわ」





■END■



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【3453/CASLL・TO/男/36/悪役俳優】
【3359/リオン・ベルティーニ/男/24/喫茶店店主兼国連配下暗殺者】
【1883/セレスティ・カーニンガム/男性/725/財閥総帥・占い師・水霊使い】
【4471/一色・千鳥/男/26/小料理屋主人】
【5228/直江・恭一郎/男/27/元御庭番】
【1449/綾和泉・汐耶/女/23/都立図書館司書】
【0086/シュライン・エマ/女/26/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1166/ササキビ・クミノ/女/13/殺し屋じゃない、殺し屋では断じてない。】


【NPC/仁枝・冬也/男/28/司法局特務執行部】
【NPC/高野・千尋/男/28/司法局特務執行部】
【NPC/藤堂・愛梨/女/22/司法局特務執行部オペレータ】
【NPC/瑞城・東亜/男/25/監察医】

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■         ライター通信          ■
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 ありがとうございました、斎藤晃です。
 逃亡者にご参加いただきありがとうございました。

 章番号の上4桁は時間です。
 また、5桁目はシリアルナンバになっています。
 章番号を参考に、機会があれば他の章を読んでみると、
 その時、他の方々がどういう状況であったのかがわかって、
 いいかもしれません。

 楽しんでいただけていれば幸いです。
 ご意見、ご感想などあればお聞かせ下さい。