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ラスト・バレンタイン
「へへっ」
日が暮れた後の暗い道を、白い息を吐きながら悠宇は走っていく。
日和を家の近くまで送ってから、悠宇は回れ右して自宅へと向かっていた。
背負った鞄の中から、カタカタと軽い音が鳴っている。正体は先ほど日和にもらったばかりの――バレンタインのチョコレート。
「なんであれ、プレゼントもらうのって嬉しいよな」
好きな人が自分のために悩んでくれた、ということが、こんなにも胸を温かくしてくれる。
もう一度照れ笑いを小さく漏らすと、悠宇は夜空を見上げた。
キンと冷えた空気のおかげで、空は満点の星が輝いている。ああ、明日も晴れるな、などと考えながら、悠宇は呟いていた。
「ホワイトデー、あいつをすっごく喜ばせてやりたいな。さて何をあげようか……」
○
慣れない酒を飲みまくり、客・店員構わず周囲に絡みまくり……
たちの悪い「酔っ払い」と化した俺の横に、そいつはいつの間にか座っていた。
「それで、あなたはどうしたいんですか?」
「……どうって……?」
こんなガキに、いつの間に俺は事情を話したのだろうか?
ただでさえぐるぐる回っている思考を、なおも必死に回そうとすると、そいつは俺の考えを見透かしたかのように、少し嫌味っぽく笑う。
少し大きめのガクランを着た、まだケツの青そうなガキ。未成年でこんな店にいるくせに、カウンターのいすに浅く腰掛けひざを組んだ仕草は、俺よりさまになっている。
「たとえば、復讐とか」
「ふくしゅう……」
「恋人が交通事故で死んだんでしょう? 悔しいんじゃないんですか?」
「……そうなのかな、俺……」
言われて初めて、俺はそんな方法があることに気づく。
百合子がいなくなったのがただただ悲しくて、俺はずっと何も考えることが出来ずにいたのだ。
「俺、まだ何にも考えてなかった……けど」
―――最後にかかってきた、あいつからの電話の真意は、知りたい。
あの夜。いわゆるバレンタインデー。
どうしても今、俺に会わなきゃいけない、と言って、あいつは夜遅く電話をかけて来た。
それから一人、俺の家へ来ようとして、家のすぐ前の角を曲がろうとして……。
「あいつがそこまでして、俺に会いたかった理由はなんなのか、知りたい……」
チョコレートを渡したかったのではないと思う。
あいつからのチョコレートはちゃんとその日の朝のうちに受け取っていて―――それはいまだに、俺の部屋の、机の上にある。
「そうですか」
と、そのガキは立ち上がった。
「どうやら、僕はあなたに用はないらしい」
変なことを言うなと思いながら振り返れば、そいつは早々に居酒屋の出口へ向かって歩き出していた。
そして、振り向かないままで言う。
「お邪魔したおわびとして、今のあなたにふさわしい場所をご紹介しましょうか」
「ふさわしい、場所?」
「ええ。……おせっかいな変人たちの集まる、奇妙な興信所ですよ」
●ラスト・バレンタイン
「……あの野郎。舐めたこと言いやがって」
苦々しく吐き捨てた草間武彦に、彼の正面に腰掛けた野上誠二は大柄な身体を窮屈そうにすくめた。
「あの……俺、何か変なこと話しました、か」
「ああいいのですよ。彼の態度が悪いのは元からですから」
「……おーい、悪口ってのは本人のいないところでするもんだろう、セレスティ」
うんざりとした表情のまま、やれやれといった口調で草間はそう続ける。
矛先を向けられたセレスティは、優美な仕草で肩をすくめて見せると、隣に座る誠二に「大丈夫ですよ」とにこり笑って見せた。
「ああ見えても、一応はそれなりの探偵ですから」
「……『一応』も『それなり』も余計だ」
居酒屋で、見ず知らずの少年に声をかけられてから一夜明け。
迷った挙句、誠二は彼に教えられた草間興信所を訪ねていた。
彼の来訪を知っていたかのように、そこにはすでに興信所の常連の面々が揃っていた。誠二の事情説明を一通り聞き終え、手を貸して欲しいと頭を下げる彼を前に、一同は顔を見合わせる。
「草間さん。私たちが今日ここに集まったのは偶然でしたよね」
確認するように問いかけたのはセレスティ――とある財閥の総帥、セレスティ・カーニンガムだ。
彼の問いに、興信所の主である草間武彦は、やはり晴れぬ表情のまま、重く頷く。
「ここにいる誰一人、俺は招いた覚えはないな」
「なんだよ、その言い草。草間さんが餓死してないか、せっかく様子見に来てやったってのに」
年相応のあっけらかんとした口調でそう言ったのは羽角悠宇だ。彼のかたわらにちょこんと座っている初瀬日和と、ふたり連れ立って学校帰りにここへ立ち寄ったため、共に今日は制服姿だ。
「でも悠宇くん、本当はとても来たかったのよね? 学校にいる間中、『草間さんのところに行きたい』ってあんなに言ってたし」
「あ、こら日和! バラすなよ」
「はいはい。あいからわらず仲がいいのね」
そしてキッチンの方から人数分の湯飲みを盆にのせてきたのは、興信所事務員のシュライン・エマだった。彼女の手ずから淹れられた玉露は、濃くも無く薄くも無く、また温度も適温で、セレスティを唸らせる。
「シュラインさんの淹れたお茶は相変わらず美味しいですね」
「あら、紅茶党のセレスティに褒められるなんて光栄だわ」
にこりと微笑みあう二人。
――と、その間にいささかわざとらしい咳払いが割り込んだ。
「……シュライン、茶はいいから俺の横に座ってろ」
「あら武彦さん、ヤキモチ?」
「誰がだ!」
草間の不機嫌も手馴れたもので、はいはい、とシュラインは軽くいなしている。
と。
「……あの」
おずおずとした誠二の言葉に、一同は再び彼へと視線を戻した。
さすがに酒は飲んでいないらしい。だがどこか自信なげな態度で、彼の視線はきょときょとと落ち着かない。
乱れた髪や地味な服装と相まって、それらは彼をいっそう野暮ったい印象に見せていた。
「何がなんだか、俺、よく分からないんですけど……」
彼の言葉に、改めて顔を見合わせる一同。
「そもそも、あの……昨日会った、ここ教えてくれたヤツの事なんですけど、俺いくら考えても覚えが無くて。皆さん、ご存知で……」
「ああ、いいっていいって、あんなヤツのこと知らなくても」
と、大声で悠宇は誠二の言葉を途中で遮る。
「ろくなヤツじゃないし。人の心が弱ったところにつけ込む面倒な奴だから、関わらなくて正解さ」
「……そうね。まさか彼がココをすすめるなんて思わなかったわね」
悠宇の言葉に、「ね、武彦さん?」と、シュラインも傍らの草間を見る。
「それより……誠二さん、だっけ。あんた、強い人だね」
「え?」
わずかに口調を変え、反り返っていた身体をきちんと正す。そうして悠宇は真正面から誠二と向きあう。
「美のやつに声をかけられて誘惑に負けなかったんだからさ。俺だったら、大切な人が理不尽な理由でいなくなったら、それでそこにつけこまれてたら……もう、頭ぐらぐらに煮えたぎっちゃってただろうな」
その言葉と共に、悠宇の手はソファの上でさ迷い、隣の日和の手をぎゅっと掴む。
日和はわずかに戸惑い、傍らの彼を見上げ――悠宇は前方の誠二を見据えたままだ――彼の手に、もう片方の手を添えた。包み込むように、そっと。
そうして、日和もまた悠宇の視線を追い、誠二を見つめた。
「誠二さん……私たちに出来ることはなんでも協力します。だから、百合子さんが残してくださった思い、ちゃんと受け取ってあげましょう?」
「……どういう、ことですか」
「あなたは、恋人の百合子さんが交通事故で亡くなったことより、彼女が急いで会いに来る理由が知りたいのでしょうか」
窓から差し込む初春の陽光に溶け込む笑み。セレスティの表情はあくまで穏やかだ。
「私たちにはチカラがあります。万能とは程遠い、わずかなチカラではありますが……それでもあなたがもし、彼女の伝えたかった事を探したいというのなら、その手助けは出来ますよ」
「そうそう、なんていったってここは興信所なんですもの。探し物は専門なのよ」
セレスティの言葉をついたシュラインは、そう言って力強く頷き、ウインクを一つ飛ばす。
「復讐したいとか言い出したらどうしようかと思っちゃったわ。なかなか好感持てるわよ、君。……うん、それで、もう一度確認したいんだけれど」
――あなたが、私たちに頼みたい事は何かしら?
シュラインの問いに、わずかに視線を戸惑わせた誠二だったが、すぐに正面の草間とシュラインに顔の向きを戻した。
「やっぱ俺、あいつが何を言いたかったのか知りたいです。あいつがいなくなって、俺にはどうしようもなくて。……お願い、出来ますか」
「あ、ああ、それはもちろんだが、お前金は……」
「誠二君」
何か言おうとした草間をさえぎって、シュラインが再び口を開く。
「前もって言っておくわ。もし私たちが調べて、真実が分かったとしても、それがあなたの心を軽くする代物ではない可能性もあるわ。知らなかった方が良かったと思うかもしれない。それでも構わない?」
「……構いません。俺、あいつを失うこと以上にもう、辛い事はないし。ああでも、俺大学生で金があんまり……」
「なんだと? 俺たちは仕事で……」
「お金のことは大丈夫。あなたの払える範囲でご相談させていただくから」
シュラインの力強い言葉に、誠二はほっと胸を撫で下ろす。
「じゃあなおさら、皆さんにお願いしたいです。よろしくお願いします」
「ちょ、ちょっと待てこら、俺はボランティアでやってるんじゃ……」
「武彦さん」
ぴしゃり、と有無を言わさぬ口調で、興信所の主の名を呼ぶシュライン。
途端しおしおと身体を小さくし「なんでもないです」なんて呟いている草間に、「バレンタインだってのに、相変わらずシュラインさんに尻にしかれっぱなしなのな」と、悠宇は隣の日和に耳打ちしたのだった。
■□■
その後、一同で軽く調査の打ち合わせをした後、セレスティと悠宇は誠二の住んでいるアパートへとやって来ていた。
築10年の学生向けアパートで、誠二は一人暮らしをしているのだという。ちなみに恋人の百合子もまた、近所のアパートで一人暮らしなのだそうだ。
「やっぱりさ、チョコレートを開けてみることから始まると思うんだよね」
未だにどこか戸惑った態度の誠二の背中を、そう言って悠宇は叩く。
誠二もまたそんな悠宇に影響されたのか、興信所に来た最初よりは大分明るい表情を見せるようになっていた。
「だいたい、せっかくもらったんだからさっさと開けるべきだったと思うぜ、俺は」
「元々は百合子の目の前で開けるつもりだったんだ。だけど結局……会うことがなかったもんだから、そのままずるずると……その」
「まぁ、過ぎたことを言っても仕方ありません。この時期です、チョコレートが傷むこともないでしょうし。そう気に病むことでもないと思いますよ」
「セレスティさ〜ん、せっかく俺がハッパかけてるんだからさ!」
「はいはい。日和さんたちに負けないように、私たちも頑張りましょうか」
ちなみに彼ら二人とは別行動で、日和とシュラインは誠二の通う大学へと向かっていた。後々興信所で合流することになっている。
ちなみに草間は連絡係という名の電話番をしている――はずである。
男一人暮らしにしては意外と片付いている、といったところだろうか。
たどり着いた一室は、多少雑然としたところがあるものの、きちんとセレスティや悠宇の座るスペースはある6畳の部屋だ。玄関すぐ横に小さなキッチンがついている、いわゆる1K。
「意外ときれいじゃん」と悠宇が言うと、返答はやはり「百合子が来るたびに片付けてくれてたから」だった。
「俺は……どちらかというとあんまり掃除って得意でなくて」
「そうですね。男性ではそういう方は多いと思いますよ」
「じゃあ、料理とかも百合子さんに作ってもらってたってことか?」
次いで悠宇が問う。うーん、と首を捻ったあと、誠二はぽつりぽつりと答え始めた。
「あいつ、料理も結構上手かったけど……一緒にいる時は俺が作ることのほうが多かったかな」
「へぇ、誠二さん料理得意なんだ」
悠宇の感嘆に、誠二は複雑な笑みを返す。
その表情に気がついたセレスティが、違うのですか? と水を向けると「実は」と誠二は改めて苦笑した。
「あいつ、そそっかしかったんですよ。包丁持たせると、なんかもう危なっかしくて」
きゅうりやにんじんがつながっているのは当たり前。塩と砂糖は何度言っても間違えるし、いつぞやに魚料理を全て炭化させた時以来、誠二は料理は自分がやる、と申し出たのだという。
「だからもう、目が離せなくって。……まぁ、そんなあいつが好きだったんですけど」
「……そっか」
照れたように笑う誠二に、悠宇とセレスティもまた笑う。
「他にも、なにかあれば聞かせてくれない?」
「そうだな……植物を育てるのがあいつ好きでしたね。マンション住まいだからガーデニングってほどじゃないけど、ベランダは鉢植えでぎっしりでした」
そのうちの一つです、と誠二は小さなサボテンを持ってくる。
「これもあいつが大切にしてた鉢植えの一つなんです。ちょっと前から俺が預かってて……返すつもりだったんですけど」
語尾が沈んでしまうのはどうしようもない。
悠宇はその鉢植えを受け取り「ちょっとこれ、借りてくな」と頷いてみせる。
「あ、それで誠二さん。百合子さんからもらったっていうチョコレートだけど」
「ええ、それはこれです」
誠二は机に歩み寄り、そこに置かれていた包みを二人に示してみせる。
それは赤い包装紙に包まれていた。両手に余るほどの大きさで、茶色のリボンがかけられている。そっと持ち上げてみると……意外と軽い。
開けてもらえますか、とセレスティが促すと、どこか緊張した面持ちで誠二は一つ頷き、そしてゆっくりとリボンを解き始めた。
それから、がさがさと音を立てて包装紙を丁寧にむき始める。ところどころに貼られているテープも、紙を破かないように一つ一つ、爪を立ててはがして――
「な、なんか俺までドキドキしてきた」
「しっ」
悠宇とセレスティの見守る中、その箱は姿を現した。
ドキドキと胸を高鳴らせる3人の目の前で、とうとう蓋が開けられ、そして。
中に入っていたハート型のチョコレートには、ホワイトチョコレートの文字で、大きく、はっきりと書かれていたのだった。
「義理」と。
■□■
「……やっぱり」
百合子がチョコを間違えたらしい、ということは双方が持ち帰ってきた情報を照らし合わせることで確かなこととなり、誠二は興信所のソファの上で無残なほど肩を落としていた。
かける言葉もない。再び草間とともにテーブルを囲んだ一同は、うなだれる誠二を前にただただ視線を戸惑わせるばかりだった。
「いや、いいんです。あいつ、本当にドジだったから。ただ、なんていうか、気が抜けて……はは……」
「まあ、そうだよな。どんなシリアスな理由かと思ったら、チョコを渡し間違っただけだなんてなぁ。笑うしかないよな、あはは」
「武彦さん!」
「ま、まぁまぁ、ほら誠二さん。これがあるって」
と、悠宇が取り出したのは小さなサボテンの鉢植えだ。
「悠宇くん、それは?」
「ああ。ちょっと前に、誠二さんが百合子さんにもらったんだってさ。元々は百合子さんが育ててたっていうから、こいつが何か教えてくれるかもしれないと思って」
「……は? どういうことですか?」
疑問を口にしたのは誠二だけだ。
その他大勢は悠宇の言葉に「ああその手があったか」と頷き――そうして日和に視線を集中させた。
「誠二さん、日和はさ、少しだけど植物の気持ちが分かるんだ」
簡単に説明してから、「日和、頼めるか」と傍らの日和を見つめ、ゆっくり問いかける悠宇。
日和は悠宇を見上げ視線を絡めてから、頷いた。
「……うまく、出来ないかもしれないけど」
「日和なら出来るさ」
そして、悠宇はぽんと日和の髪を優しくなでる。
日和は膝にサボテンをおいて、しばしの間じっとまぶたを閉じていた。
一同の視線と沈黙をまとい、そして日和は静かに目を開く。
「……この子、歌を歌っています。……大好きな歌みたいです。よく聞かせてくれたって、百合子さんも大好きだったって……それから……」
「歌?」
一瞬眉間を曇らせ――説明しようとしたが言葉が見つからなかったのだろう――それから日和は何かを決意したかのように真っ直ぐ前を見据え、そして小さくちいさく歌いだした。
旋律を耳にした誠二が、パッと顔を上げる。
「この歌……この歌は」
「誠二さん、知ってるんですか」
問いかけに、誠二は、ああ、と声を漏らす。
「俺が、初めて百合子に上げたプレゼントが、安物のちゃちいオルゴールだったんです。手回しで、音もちょこっとしかなくて……その歌です……」
そうか、あれずっと持っててくれたんだ、と誠二は笑い、そして再びうなだれた。
今度はその滲む瞳を、周囲の視線から隠すために。
日和の声に合わせ、シュラインも歌いだした。
二つの旋律は美しくもどこか物悲しいハーモニーを紡ぎだし、雑然とした部屋を溢れんばかりの神々しさで満たしていく。
セレスティがふ、と小さく息を吐いた。
と、その手のひらから生まれる、ウンディーネたち。小さな水の妖精たちは軽やかに宙を舞い、旋律を目に見えるよう描き出そうとするかのようだ。
背の羽根がはばたく度に水滴が散る。その透けた身体はプリズムとなり、窓から差し込む光を束ねていくつもの虹を取り出していく。
くるりくるり、円を描く軌道。水滴は霧となり、降り注ぐ前に消えうせてしまう。
「ああ、彼女たちもこの旋律が気に入ったようですね」
セレスティが、ウンディーネたちのさざめきに目を細める。
「うわ……すご……」
悠宇はそう言ったきり言葉を失う。
草間など、サングラスを情けなくずり下げたまま宙をぽかんと見上げたままだ。
「ありがとうございます」
そして、誠二は言った。
「こんな綺麗なものを見せてくれて。それから……百合子のこと、いろいろ知ることが出来ました。知らなかったら……俺、立ち直れないままだったと思います。やっぱり俺、あいつのことが好きでした……」
と。
「誠二さん!」
立ち上がった悠宇が誠二の腕をむんずとつかみ、彼のこともむりやり立たせる。
「行きましょう!」
「え、え……?!」
突然のことに、さすがに誠二も目を白黒させている。
「バレンタインの次はホワイトデーってのがあるんですよ。……男たるもの、ちゃんと気持ちに応えてやらなきゃいけないと思いますよ」
「は、はぁ……」
「ほら、ぼんやりしてないで行きますよ! キャンディでもなんでも、百合子さんの喜ぶものお返ししてあげなきゃいけないんだからさ!」
「……君も?」
そう尋ねた誠二だったが、この問い深い意図はなかったのだろう。
だが悠宇は大真面目に頷き、当たり前だ、となぜか胸を張った。
「日和に、誰より素敵なプレゼントあげたいんだから。百合子さんへのプレゼントも協力するから、あんたも俺のこと手伝ってくれよな!」
○
それは、3月に入ったとある日曜日。
「なぁ、お前何が欲しい?」
「……あのね、悠宇くん」
寒さも大分ゆるみ、春の気配があちこちで感じられるようになってきた。だが桜にはまだ早いと見えて、ちらほらと咲いている白い花は梅だ。
二人でよく来る近所の公園。そこのベンチに並んで座り、二人は先ほどから果てのない会話をえんえんと繰り返している。
「あのね。だからね、私は悠宇くんがくれるものならなんでも……」
「まーったく。日和はいつだって欲がないよなぁ。遠慮すんなって! お前が欲しいもの、なんでも手に入れてやるからさ! あ、でもあんまり高いもんはパスな」
「だからね、悠宇くん……」
「キャンディとかだとつまらないだろ? クッキーとかは、日和の手作りの方が全然美味いしな。……うーん、そう考えてみると、お前にあげるものってなかなかないもんだなぁ。なぁ、お前何が欲しい?」
あなたがくれるものならなんでも、という言葉が、何よりの日和の本心だという事に悠宇は未だ気づかない。
ぽかぽかと暖かい春の午後、そうして二人はこんななんでもない会話を、のんびりと紡いでいく。
━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【0086 / シュライン・エマ / しゅらいん・えま / 女 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1883 / セレスティ・カーニンガム / せれすてぃ・かーにんがむ / 男 / 725歳 / 財閥総帥・占い師・水霊使い】
【3524 / 初瀬日和 / はつせ・ひより / 女 / 16歳 / 高校生】
【3525 / 羽角悠宇 / はすみ・ゆう / 男 / 16歳 / 高校生】
(受注順)
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こんにちは、つなみです。この度は発注いただきありがとうございました。
……そして、大変面目次第もございません。大遅刻でございます……
到着を待っていた皆様に対しては身の縮む思いですが、その分少しでもこのお話を楽しんでいただけてたらと願っております。
今回は、参加してくださった皆様が、何度かお会いしたことある方ばかりだったので、私自身思い入れたっぷりに書けました。さていかがでしたでしょうか?
悠宇さん、今回もありがとうございます!
さて、今回は、同じ男として誠二に同情をしつつ、場が暗くならないよう気を配っていただきました。深刻な会話の中明るく振舞えるのも、悠宇さんの優しさならではだと思うのですが、さていかがでしたでしょうか?
あと、今回のお題はバレンタインデーでしたが、せっかくですのでお返しという意味で悠宇さんには「ホワイトデー」を意識していただきました。楽しんでいただければ幸いです。
今後も、ぼちぼち活動していく予定なので、興味がありましたらまたおいでくださるととても嬉しいです。いつだって大歓迎いたしますので!
迫り来る花粉の季節に日々泣かされつつ――
つなみでした。
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