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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


螺旋の刻


 事件から数日後、夜倉木家。
「おじゃまします」
「どうぞごゆっくり、何のおかまいもせず」
「いえ」
 玄関から廊下を進み、まっすぐに夜倉木の部屋へと向かう。
 ふすまの前で一度立ち止まり声をかける。
「夜倉木」
「啓斗、どうぞ入ってください」
 思っていたよりも直ぐに返された返事に、静かにふすまを開く。
「こんな格好で済みませんね」
「構わない」
 起きあがろうとしているのを制止し、ふすまを閉め布団の横へと座り手にしていた箱を横へと置いておく。
「具合は?」
「怪我の方は何ともありませんよ。魂と体が落ち着くまで、もう暫く安静にしていれば元通りです」
「ん……」
 今日来たのは様子を見に来るためでもあったが、それ以外にも用事があっての事である。
 事件の最中のあった事で、どうしても話がしたくてここへ来たのだ。
「俺は夜倉木に言ったはずだ」
「……」
 静かな部屋の中、返答をほんの数秒だけ待ってから話を続ける。
「覚えてないとは言わせない」
「契約の件ですよね、覚えてますよ」
「そうだ」
 あの時交わした約束は、破られることはないと信じていたのだ。
 何故信じたのだろう。
 相手は、夜倉木の性格は……ここ最近行動を共にして見ていたというのに。
 一方的な思い込みに過ぎなかったのだろうか、ただの都合の良い出任せでしかなかったのかも知れない。
 その事がずっと頭に浮かび、ここに来るのに数日という時間を必要としたのだ。
「どうして助けた? 言ったはずだ、ただ死ぬのを見届けろと」
 強く睨み付けた啓斗から視線をそらさずに、普段通りの口調で夜倉木が答える。
「死に様を見届けろと言いましたよね」
「ああ、なのにどうして助けたりした!」
「あの場で死ぬとは思いませんが」
「俺は、言ったはずだ! 助けるな、と!」
 つかみかかりそうになる手を、強く握る事でどうにか押さえる。
 あの場でこそ死にはしなかっただろうが、だとしてもボーダーラインよりも遙かに前の場面で助けに来たのだ。
 乗り移られた時にはっきりと解った。
 あの戦い方は、傷一つ付けさせないようにしていると。
 死なせる気なんて無いのだと。
「ちょうど良い機会です、はっきりさせておきましょうか」
「ああ、次は……」
「俺は、何度だって同じ事をするつもりですよ」
「!」
 遮られ、思わず言葉を詰まらせる。
「俺がどうして殺し屋をしていると思うんですか? 依頼人を生かす為です。手を汚す人間を一人でも減らすためにしてるんです」
「知ってるはずだろ、俺は……」
 どんな仕事をしていたか、知らない筈がないのだ。
「だからって死なせたりしませんよ、その為にならなんだってします」
「嘘を付いても?」
「はい、間違ったことをしたとは思っていません」
「―――っ!」
 パシンと乾いた音が部屋の中に響く。
手の甲がじりじりと痺れたが、それよりも夜倉木を無抵抗で殴れた方が驚きだった。
 反射的なことだったが、よけるか、反撃の一つもあると思っていたからこそ尚のこと。
「……怒らないのか?」
「殴られる理由はありますから」
 頬を押さえながら言う夜倉木に、こんな所で年の差を感じさせられ悔しさを感じる。
「何をしても生きるという選択肢を選んでみませんか?」 
 何を今更と言おうとした啓斗は、そこで初めて何かが何時もと違うと気付く。
 ほんの小さな違和感。
 普段よりも、多くの感情や言葉が向けられている。
「………」
「もっとも、ここまで言ったからには、みすみす死なせるつもりなんてありませんよ」
 微笑んでいるような表情と、普段よりも柔らかい口調。
「選択肢もないのか?」
「俺に依頼した時点で運がなかったと思って、諦めてください」
 どちらも知っていたのに、初めて見たような気がする。
「………」
「啓斗?」
 俯いてそれきり沈黙し続けていると、少し立ってから名を呼ばれた。
 さらに黙っていると、もう一度。
「……啓斗?」
 なんと返せばいいか迷っている内に、下の方から顔を覗き込まれ驚いて顔あげる。
「怒りましたか?」
「………」
「俺は、啓斗にもっと生きて、色々なことが出来るのだと知って欲しい」
 真剣にそう思っているのだとは、直ぐに解った。
 カッと頬が熱くなるのを感じ、目線そらしながら側にあった箱を夜倉木の方へ差し出す。
「……?」
「見舞だ、なんとか……しょこら、買うのは癪だったから作った」
「ガトーショコラですね、ありがとうございます」
 嬉しそうにそう言われ顔から火が出そうだった。
 急な話題転換だとは解っているだろうに、何も言ってこないのがとても悔しい。
 啓斗もあえてそこには触れずに。そのまま話を続ける
「……甘い物好きなのか?」
「手作りなんでしょう?」
 もう限界だ。
「皿とか借りてくる」
「お願いします」
 勢いよく立ち上がり、部屋の外へと出て行った。



 どうにも調子が狂ってならない。
 思い当たった理由は、今日はやけに返される反応が素直だったからだ。
 今までは話を逸らされていると感じていただけに、余計にどうしたらいいか解らない。
 何をしても相手のペースで、どうすればいいのかさっぱり解らないのはどう行動しても同じらしい。
 皿とフォークを借りて戻った啓斗が開口一番に言ったのは、
「さては、頭でも打ったんだろう」
 こうでも言わなければ、あの部屋に戻れないような気がしたのだ。
 正確に言えば、戻ってもまた夜倉木のペースにされることを回避したかったのだが……。
「どうしてそう思ったんです?」
 楽しげに返され、上手く行ったのかは微妙な所だった。
「何か、違うから」
 今だって前よりずっと視線が向けられていると解るのである、これで落ち着けと言われても到底出来そうにない。
「今回死にかけて思ったんですよ、悩むのはもうやめようと」
「……そか」
 箱から取り出したケーキを皿にのせ、夜倉木の方へと差し出す。
「味は保証しない、勝手に食うと良い」
「良くできてると思いますよ、いただきます」
 食べ始めた夜倉木が少し視線を逸らしたことにホッと息を付く、見られているとどうにも落ち着かなくて仕方ないのだ。
「おいしいですよ」
「ん、そか……」
 感想を言われ、見てしまっていたのだと気付いて慌てて話題を変える。
 なるべく反対方向の話に向けられるような内容を考え、聞きたかったことを思いだした。
 本来なら忘れてしまうような軽い内容ではないのだが、この部屋に来てからのやりとりのお陰でどこかへと追いやられてしまっていたのである。
「今後も、二足の草鞋のままなのか?」
 表の仕事であるアトラスと、家業である殺し屋の仕事。
 最近ではIO2の仕事も同時にこなしているのだ。
 忙しくない筈がない。
「体調が落ち着いたらそうなりますね」
「やっぱりそうか、忙しいんじゃないかと思ってたんだ」
 休んだ後であれば特にその度合いも強まるだろう。
「……気にしてくれるんですか?」
「それは……いや、聞いてみただけだ」
「本当に?」
 答えを解って聞いているのだとは直ぐに解った。
 そうでなければ、こんなに嬉しそうなはずがない。
「………っ」
 何を言っても雰囲気に飲まれてしまいそうになる。
「どうしました、啓斗。顔が赤いですよ?」
「―――っ、あんたが変なことばっかり言うからだ!」
「それはすみません」
 カッとなって言い返す物の、これ以上話をかき混ぜられる前に言ってしまった方が良いだろうと気付く。
「……忙しすぎるのが気になったのは本当だ」
「大丈夫ですよ、体力はありますから。今は本調子じゃないだけです」
 本当にそう思っていっているのだろうが……啓斗はむうと呻く。
「あんたは嘘つきだからな」
「信用されてないですね」
 小さく笑ってから、それならと夜倉木が続ける。
「気になるなら、夜倉木の関係者になってみませんか?」
「……え?」
「一族の中の人間になら、嘘も隠し事もありませんよ」
「それって………」
 言われた言葉の意味がわからずに首をかしげた。
 何時も通りの回りくどい言い方か?
 それとも単純な意味なのか?
 直ぐにはとてもじゃないが判断できなかった。
「どういう意味だ?」
「ゆっくり説明しますよ、急ぐ必要はありませんから」
「………ん」
 説明するつもりはあるようだと頷く啓斗に、夜倉木が手を伸ばし頭を撫でる。
「起きてて何ともないのか?」
「大丈夫ですよ」
「そか……」
 ホッと息を付き、半ば納得しかけたところでようやく我に返る。
「って!?」
 どうしてされるがままになっているのだと慌てて距離を取った。
「子供扱いするな!」
「もっと大人扱いした方が良かったですか?」
「………」
 それはそれで困る気がする。
「元気みたいだな、そろそろ帰る」
「もう?」
「また何か手伝う事があれば、携帯に……壊れたんだっけ」
 どうしようか悩んだ隙に、手を掴んで引き戻されてしまう。
「なっ!」
「携帯は直ぐに用意しますよ。それまで時間があるのなら夕飯でもどうですか?」
 疑問系なのに手を離す様子が全く感じられない。
「……解った」
 頷いた途端、部屋の襖が勢いよく開かれた。
「よお、俺も見舞に来たぜ」
「………」
「今までどうしてたんだ北斗?」
 捕まれていた手がゆるんだ隙に、そっと腕を抜き取る。
「ちょっとな。ああ、ついでに俺も構わないよな」
「そうですね、ついでにどうぞ」
 人数が増えて良かったのか悪かったのか?
 その答えが解るのは直ぐ後のことなのだろうと、啓斗は深々とため息を付いた。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0554/守崎・啓斗/男性/17歳/高校生(忍)】
【0568/守崎・北斗/男性/17歳/高校生(忍)】

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■         ライター通信          ■
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突発シナリオでしたが、発注ありがとうございました。
どこで繋がってるようなそうでないような進行具合となりました。
楽しんでいただけたら幸いです。