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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


『武彦の背負った業』
◆プロローグ◆
「え……?」
 あり得ない光景に零は唖然として目を見開いた。持っていた買い物袋が乾いた音を立てて落ちる。
「に、兄さん……」
 草間興信所の出入り口の前にある階段。朽ちたコンクリートの階段に武彦は座り込んでいた。無惨に切り裂かれたシャツの下からは地肌が覗き、鮮血が止めどなく流出している。
 右脚は歪(いびつ)な方向にねじ曲がり、左肩の肉が大きくえぐれていた。
「兄さん!」
 絶叫を上げ零は武彦の元に駆け寄る。
 力無くうなだれた頭からも出血が激しい。固まりかけた血液が、武彦の髪を額に付着させていた。
 零はなるべく動かさないように注意しながら、屈んで武彦の胸に耳を当てた。
「まだ、生きてる……」
 だがホッとしてはいられない。これだけの出血だ。いつ死んでもおかしくない。すぐに救急車を呼ぼうと零が立ち上がったとき、呻くような武彦の声が聞こえた。
「れ、い……」
「に、兄さん!」
 意識を取り戻した武彦の正面に零は泣きながら回り込む。
「誰!? いったい誰がこんなことを!」
「いい、んだ……」
 辛そうにしながらも武彦は無理矢理笑って言った。
「自業……自得、なんだ……。だから、このままで……」
 そして武彦は再び目を瞑る。か細いが、呼吸はまだ続いていた。意識を失っただけだ。
「自業自得って、訳分からないよ。兄さん……。誰が、どうしてこんな事を……」
 止めどなく溢れ出る涙を拭おうともせず、零は助けを求めて事務所に飛び込んだ。

◆犯人の居場所 −シュライン・エマ−◆
「酷い……」
 ソファーに寝かせた武彦の体をあたらめて見て、シュライン・エマは涙声になりながら重く息を付いた。零の能力『超回復』を武彦に適応することにより、何とか一命は取り留めているものの全快にはどれだけの日数を必要とするのか想像も出来なかった。
「兄さんっ! 兄さんっ!」
 両目から止めどなく熱い涙を溢れさせ、零は自分の生体エネルギーを武彦に送り続けている。零の能力を使うことを提案したのはシュラインの意見だ。現代医学などを頼っていては間違いなく武彦は死んでしまうだろう。それほど傷口の治療に急を要した。
「零ちゃん。自分が動ける分のエネルギーはちゃんと残しておくのよ」
 零の肩に手を置き、シュラインは諭すような口調で話しかける。だが零は答えない。武彦の胸に置いた両手に更に力を込め、ありったけのエネルギーを注いでいく。
(零ちゃん……)
 シュラインには止めることが出来なかった。もし自分が零の立場であれば、間違いなく同じ事をしている。武彦を救うためなら命を削ることなど厭(いと)わないだろう。
「犯人は……誰ですか?」
 怒気を孕んで後ろからした声に、シュラインはハッとなって振り向いた。腰まで伸びた髪は燃えるように紅く、薄く開かれた銀色の双眸には冷徹な意思が宿っている。耳元から伸びた機械構造のセンサーを濃い緑に染め、セブンは静かに聞いた。
 この草間興信所に居付いているマシンドール。数多の重火器を自分の手のように自在に操り、極めて高い戦闘能力を持つ。今回の犯人を追いつめるには無くてはならない存在だ。
「まだ、分からないわ。武彦さんの意識が戻るか……あるいは零ちゃん能力で記憶を探ってみるかしないと」
「そう、ですか」
 無表情のままセブンは抑揚のない口調で言い、黒いワンピースを翻してソファーに腰掛けた。そして武彦をじっと見つめる。まるで内面を消したかのような硬質的な表情。その裏に、気を抜けば溢れそうになる憤りを辛うじて抑えているセブンの本心がハッキリと見えた。
(とにかく、出来るだけ早く犯人を特定しないと……)
 シュラインは今自分の出来ることを冷静になって考え、そして武彦の体を見た。
(前頭部からの出血。左肩筋肉の欠失。右大腿骨の破損。肋骨は右が三番と四番、左は五番と七番が折れている。裂傷、打撲共に多数。けど……)
 武彦の傷の具合を冷静に頭に思い描きながら、シュラインは違和感を感じた。
 傷は確かに酷いが、どれも急所を外れている物ばかり。犯人は明らかに武彦をいたぶり殺そうとしていた。アッサリとどめを刺してしまうのでは無く、ジワジワと苦痛を与えながら地獄の苦しみを味あわせたかった。相当強い怨恨を犯人は抱いている。
(それに事務所の前に残っていた血痕。階段の下までは繋がっていなかった)
 もし武彦が自力で犯人から逃げ出し、命からがらココまで戻って来たのだとすれば、ビルの一階からこの事務所に続く階段に血が付着していなければおかしい。
 ならば武彦は自分の脚で戻ったのではない。事務所の前で半殺しにされたのだ。
(けど……そんなに大きな物音はしなかった)
 人一人をこれだけ痛めつけるのに、何の音も出さず、声も上げさせずに実行できる物なのだろうか? 犯人はプロの殺し屋? それにしてはやり方が粗雑すぎる。あんな状態で武彦を放置するなど、まるで――
(まるで、見せしめのよう。私達に見つけさせるために、わざと武彦さんを置き去りにして手がかりを残した。恐らくは、自分を追ってこさせるために)
 犯人の凶行はまだ終わっていない。これは単なる幕開けでしかないのだ。
 一通り考えを纏め終え、シュラインは零の方を見た。「兄さん!」と連呼しながら、自分の命を分け与えている。その甲斐あってか、武彦の傷はほぼ塞がりつつあった。
 抉れていた左肩の筋肉は盛り上がり、本来あり得ない方向に曲がっていた右脚は正常な様相を取り戻していた。荒かった呼吸も静かな寝息へと変わり、ゆっくりとした間隔で胸を上下させている。ただ乾いて全身にこびり付いた血液の残滓だけが、少し前までの武彦の惨状を物語っていた。
「零ちゃん。もういいわ。後は武彦さんの回復力に任せましょう」
 しかし零は首を振り、治癒を止めようとはしない。武彦の意識が完全に元に戻るまで続けるつもりなのだろう。その気持ちは分かる、痛いほどに。だが、今は他にやって貰わなければならないことがある。
「零ちゃん、犯人を捕まえたくない?」
 その言葉に反応して零の、そしてセブンの顔が上がった。
「零ちゃん、疲れているかもしれないけど。武彦さんの記憶、読みとれる?」
 手がかりは残っている。恐らくは犯人の指紋や、皮膚、血液が武彦の体に残っているだろう。だが、それを一つ一つ検証しているだけの余裕は無い。時間的にも、そして精神的にも。
「やって、みます……」
 力強く頷き、零は自分の額を武彦の頭に当てた。そして目を瞑り、神経を集中させる。
 シュラインとセブンの視線が零に注がれる。不安と期待をない交ぜにした四つ目で見守られる中、零は深く呼吸しながら武彦の記憶を読みほどいていった。
(頼むわよ、零ちゃん)
 零のこの探索術は相手と精神を共有化する事で行われる。すなわち、武彦の苦痛が強ければ強いほど、犯人の負の感情が大きければ大きいほど、零に跳ね返ってくる心的なダメージも大きくなる。
 貴重な情報が得られる代わりに、自分の魂を差し出さなければならない。まさに諸刃の術なのだ。
「っぁ!」
 シュラインの危惧を体現するかのように、零の体が跳ね上がった。苦痛に顔を歪ませ、額から大量の脂汗を流しながら、それでも零は武彦から離れようとはしない。零は今、武彦が受けた拷問を共有しているのだ。
 ビクン! ビクン! と立て続けに零の体が跳ね上がる。肉体的に変化はなくても、精神的にどれほどの傷を負っているのか、シュラインには想像も出来なかった。
「零ちゃん! もういいわ! これ以上は貴女の方が……!」
 零の肩を持ちシュラインが強引に引き剥がそうとする。
「もう少し! もう少しで相手の顔が見える……!」
 だがソレを零は拒絶した。肩を激しく振ってシュラインの手を振りほどくと、倒れ込むように武彦に体を預ける。
「にい、さん……」
 力無く呟き、零が武彦の頭に額を当てた直後、一際大きく痙攣して零は床へと転がり落ちた。そして、口から鮮血が吹き出す。
「零ちゃん……」
 精神的なダメージが肉体にまで影響を及ぼす。この小さな体でいったい、どれだけの怨嗟を受け止めていたのか。出来れば自分が肩代わりしてやりたい。シュラインは自分の無力さに、奥歯を強く噛み締めた。
「……い、異界……。高峰研究所の跡地……」
 片目を瞑り、苦悶の表情を浮かべながら零は消え入りそうな声で言った後、気を失った。
「分かりました」
 その言葉に触発され、セブンが立ち上がる。
「あっ! ななちゃん! 待ちなさい!」
 しかしシュラインの声はセブンの耳に届かない。まるで疾風のように目の前を通り過ぎると、乱暴に事務所のドアを開け放って外に飛び出した。
「一人で大丈夫かしら……」
 なな――セブンの圧倒的な破壊能力はシュラインも知っている。以前、零と三人で買い物に出た時、零に因縁を付けてきたチンピラを黒こげにしそうになった。普段は冷静なのだが、武彦や零が絡むと途端に理性のタガが外れる。しかも今回は武彦をこんな目に遭わせた人物が相手だ。殺すことに、ためらいはないだろう。
(私は、出来れば理由を知りたい。武彦さんが、『自業自得』と言った理由を)

◆血戦の始まり −マシンドール・セブン−◆
 乾いた風に乗って、血の匂いが混じる。
 朽ちて無数の亀裂が入ったアスファルト。草木一つない枯れた大地。
 高峰研究所跡地。異界に存在する無機質な空間は、万物の生命力を枯渇させ、生きる希望を根こそぎ奪い去っていく。かつてここで成されていた異端の研究成果の怨霊が、巣くっている為だとの噂もある。
「おやおや」
 瓦解した建物に腰掛け、高い位置からセブンを見下ろしている人物が一人。
 長い銀色の髪を靡かせ、狂気的な光を宿した碧眼がセブンを射抜く。線が細く、華奢な体つきの女性。その体をスッポリと包み込む大きさの紅いウィンドブレーカーを翻し、彼女は地面に降り立った。
「武彦の所にいたマシンドールか。また変なのが出てきたな」
 クック、と声を押し殺して笑いながら、長身痩躯の女性は銀髪を掻き上げた。
「貴女が武彦様をあんな目に遭わせたのですか」
 セブンは抑揚のない口調で言う。
「おやおや、随分と早いじゃないか。キミの能力かい?」
 アッサリと肯定した彼女に、セブンの両目が大きく見開かれた。
「目標捕捉」
 機械的な音声を発すると共に、右手腕を真横に突き出す。空中浮遊していたショルダーパッドの下から雷の様な電流が発生した直後、黒光りする砲身が顔を出す。その先を左手で持ち、セブンは一気に抜きはなった。
「ドラゴンフレア・ロックオン。ブラスト」
 セブンの身の丈以上有ると思われる巨大な超重量級の火器を、左腕一本で支えてセブンはトリガーを引く。
 紅い海が視界を埋め尽くす。膨大な量の火炎が目の前の女性を丸飲みにしていった。
「フォース・ボルケイノ起動。エナジー・シーリング解除。ライフリング回転開始」
 セブンの目が銀色から白へ、そして金色へと変色していく。
「ランチャーギアをファーストからトップへ。ダブルコード『ソウル』と『アーク』を承認。限定解除完了……フレア!」
 目の前で暴れていた獄炎が輝きを増す。瞬間最高温度二千度以上に達した火炎は光となり、暗い世界に眩い力を放ち始めた。炎のエネルギーによって撒き起こる強風がアスファルトを捲り上げ、甚大な衝撃波を伴って周囲に飛散する。
「随分と盛大な歓迎の仕方だね。ボク、ビックリしちゃったよ」
 炎の壁の向こう。熱風が吹き荒れ、二十メートル以上の高さにまで屹立した爆炎の中から、平然とした声が帰ってきた。
「上空十メートルの位置にターゲットを確認」
 ドラゴンフレアを投げ捨てて顔を上げ、セブンは目標めがけて大きく跳躍する。そして躊躇うことなく業火の海へと身を投げ出した。
「耐熱シールド展開」
 うなじの辺りから小さな瘤が隆起する。ソコから緑色の霧が噴出したと思うと、セブンの体を覆うように展開し、半透明な球となって安定した。
 セブンの視界を紅いうねりが覆い尽くす。岩すら溶かす超高熱の中で、セブンは冷静にターゲットを追っていた。
(目標まで残り、五……四……三)
 相手との距離が急速に縮まっていく。
(二……一……目標捕捉)
 地上から約十メートルの位置。膨大な熱波が吹き上げる中、彼女は悠然と空中に停滞していた。炎はわざと避けているかのように、彼女の周囲で不自然に曲がっている。
「ジェネレーター起動。エナジーレベル・マックス。ソードデバイスを発動させます」
 セブンの両手の甲から光を帯びた剣が生えた。ソレを大きく振り上げ、渾身の力を込めてターゲットへと叩き付ける。
 重い手応え。彼女は両腕をクロスさせ、セブンの斬撃を真っ向から受け止めていた。
「零は、来ないのか?」
 碧眼に潜む瞳孔を縦に開き、彼女は口の端をつり上げて余裕の笑みを浮かべて見せる。
「貴女を、殺す!」
 その問いには答えず、セブンは力任せにソードを押し切る。
 と、急に手応えが無くなった。ターゲットの顔に酷薄な笑みが浮かぶのが見える。
「お前じゃ役不足だ!」
 上体を後ろへ倒し、セブンの力を上滑りさせて逃がす。そのまま半回転して頭を下に向けた。次の瞬間、セブンの後頭部に強い衝撃が走る。
 下からすくい上げるように放たれた彼女の蹴撃が、クリーンヒットしたのだ。同時にうなじにあった耐熱シールドの発生器が破損する。
(耐熱シールド使用不能。現在の戦闘域から離脱)
 左のショルダーパッドから磁気的な流れが発生する。そしてボウガンの先端が顔を覗かせた。右手でソレを抜き取り、適当な建物めがけて射出する。
 ガッ、という何かに刺さった手応えと同時に、矢尻に取り付けられた硬質ワイヤーが巻き取られ、セブンの体を引っ張っていった。炎のカーテンを抜け出し、セブンは崩落した建物に着地する。
「お帰り」
 声は上からした。頭に手が添えられかと思うと、視界が足下のアスファルトに向いていた。頭部が無機質な地面にめり込んでいく。
(ガンデバイス、ナパームランチャー起動)
 セブンの両肩のショルダーパッドが後ろに向けて裏を見せる。二つは向かい合うように移動すると、丁度中間の空間に黒い球状の物体が現出した。その中から口径五十センチほどの砲台が生まれ、真後ろに狙いを定めた。
「ファイア」
 くぐもったセブンの声。
 至近距離から、ターゲットに無数の榴弾が襲いかかるのを肩越しに見ながら、セブンは体を起こした。
「なるほど、なるほど。前言撤回しよう。キミは強い」
 爆風と灼熱に覆い隠されながら、ターゲットの涼しげな声が聞こえる。
 やがて煙が晴れ、変貌した彼女の全身が露わとなった。
 背中には巨大な蝙蝠の羽根。両腕は不自然に伸び、直立しているにも関わらず手の位置は膝にある。大きくせり出した肩には無数の棘が生え、胸元には血走った一つの眼球がコチラに睨みを利かせている。
「どうだい? 醜いだろう? コレもすべて、武彦のせいなんだよ?」
 耳元まで裂けた紅い唇を、口腔から蛭のように這い出した長い舌で妖艶に舐めとり、彼女は喉を震わせて低く笑った。
「アイツが、あの時ボクを選んでくれればこんな事にはならなかった」
 異様に伸びた手と足の指。ソレを鉤爪のように内側に曲げて、忌々しそうに震わせる。
「でもそんな事はもうどうでもいいや。だって、アイツはそろそろ死んでる頃なんだから! キミにも見せたかったよ。ここでボロボロにした武彦を飛んで連れて、ゴミクズのように事務所の前に捨ててきた光景を!」
 小さい押し殺したような笑い声は、すぐに薄ら笑いになり、明確な嘲笑へ。そして耳をつんざく哄笑へと変わった。銀髪を振り乱し、彼女は凄絶な笑みを浮かべて腹の底から笑い続けていた。
「貴女を、殺す」
 いつもとまるで変わらないセブンの声。
 そして第二幕が始まった。

◆武彦の背負った業 −シュライン・エマ−◆
「アニール・クーリーって覚えるだろ?」
 昏睡状態から驚異的な回復力で目を覚ました武彦は、シュラインの出したコーヒーをすすりながら静かに話し始めた。零はリビングに寝かせている。
「アニール……」
 武彦の言葉にシュラインは体中を電撃が走ったような錯覚に襲われた。
 アニール・クーリー――昔、この草間興信所にいた女性の従業員だ。銃撃戦が得意で、物騒な依頼でも進んで請けていった。だが、とある事件で彼女は他界することになる。
「まさか、武彦さんを襲った犯人って……」
 沈痛な顔つきで武彦は頷いた。
「でも、彼女は死んだはずじゃ……!」
「生きてたんだよ。恐らくは奴らの実験台にされたんだ」
 武彦は悔しそうに顔をしかめる。持っているコーヒーカップが小刻みに揺れた。
 『奴ら』というフレーズから、シュラインの中で最悪の組織名が連想される。
 グレムリン・サーカス。かつて高峰研究所に存在していた暗部。そのあまりに残忍で非人道的な研究内容から組織を追放され、今では研究棟もろとも消滅させられている。
 一年ほど前、その組織から研究データを盗み出してきて欲しいという依頼があった。武彦は危険すぎるから断ろうと言ったが、アニールがどうしてもというので渋々請けたのだ。
 結局、武彦とアニール、そして当時今ほど感情豊かではなかった零の三人で組織へと乗り込んだ。
 研究データの取得には成功したが、帰り際に犯した些細なミスで敵に気付かれることになった。アニールの銃さばきと、零の心霊兵器『霊鬼兵』としての力を使い、何とか生きて帰れるかと思ってた。しかし――
「アイツら、まだ研究を続けているの? 究極の生命体を生み出すとか言う」
 自分の言葉にシュラインは寒気が走る。
 シュラインは実際に組織に行った訳ではなく、すべて武彦から聞かされた話だが、それでも『グレムリン・サーカス』の異常さは十分に伝わってきた。
 武彦達が組織の中で見た物。それは腹から頭の生えた男性や、背中に縦割きの口を持つ少女。果てには三つの頭を持つ赤ん坊まで。想像しただけでも気分が悪くなるような代物ばかりだ。
 彼らは神を作り出そうとしてたらしい。万物を支配し、絶対的な破壊力を有する究極の生命体。
「いや、研究所自体は無くなっている。所員も殆どが自殺しているか、殺されているらしい。だから今はもう、研究自体は行われていないと思う」
 だが、当時の研究産物だけは残っている。そして現在、異形の者や闇の者と称され、ダークハンター達のターゲットとなっている。
 今、アニールもその一人なのだ。
 胸が締まる。どうしようもない憤りと、言いようのない悲しみが、シュラインの精神を蝕んでいった。
「アニールは俺を恨んでいる。きっとあの時、助けてやれなかったことを」
「でもそれは……!」
 何かを叫ぼうとしたシュラインの言葉を遮り、武彦を立ち上がった。
「武彦さん……どこ、行くの……?」
 放心したように、シュラインは蚊の啼くような声で呟いた。
「言ったろ。自業自得だって。あいつの怒りはこんなもんじゃまだ収まらないんだよ。それに俺はあいつを救わないと行けないんだ」
 毅然とした表情で、武彦は強い意志を持って言い放つ。
(自業自得――違う。違うわ武彦さん。貴方はあの時出来る最善の道を選んだだけ)
 データを持って組織から出た時、武彦達を待っていたのは思わぬ伏兵だった。先回りされていたのだ。武装した十数人の男達が、武彦達を蜂の巣にしようと一斉に射撃を始めた。それに一番早く反応した武彦は、身を低くするように叫んだ。だがアニールと零は動かない。いや、動けなかった。
 そして本能的に、武彦は近くにいた零を抱いて倒れ込んだ。
 その後は滅茶苦茶だった。甚大な恐怖により惹起された零の暴走により、ありとあらゆる場所から怨霊が吹き出し、敵を混乱の渦中に叩き込んだ。そのおかけで、武彦と零は無事に帰ることが出来たのだが……。
「武彦さん。私も行くわ」
 どうせ止めたって聞かないのは分かっている。タバコもくわえないで、こんなに真剣な表情をしている武彦は久しぶりに見た。
「お、おい。シュライン。お前、どれだけ危険な場所か分かって……!」
「貴方を失うなら、死んだ方がましです」
 真っ向から武彦の目を見つめる。絶対に逸らしたりはしない。武彦が頷くまでは。
 どれだけそうしていただろうか。根負けしたように、武彦から視線を外した。
「分かったよ。その変わり、みすみす命を捨てるようなマネだけはしてくれるなよ」
「ええ、勿論」
 力強く頷き、シュラインと武彦は事務所を出た。

◆シュラインの奇策 −マシンドール・セブン−◆
(バッテリー残量二パーセント。使用可能武器、無し)
 自己診断を終え、セブンは稼働不能となった左腕を押さえながらターゲットを見据えた。
「お、思ったよりやるじゃないか……。ボクの体にココまで傷を付けたのはキミが初めてだよ……」
 だが相手も満身創痍だった。
 背中にあった蝙蝠の右羽はもげ、左目は潰れている。左腕は肘から先が無く、両腿が大きく抉れていた。
 マシンドールであるセブンと違い相手は生物だ。痛みを感じる。それにセブンはバッテリーが満タンだろうと一パーセントだろうと、少しでも残っていれば平常時と変わらない動きが可能た。対して彼女は体力が落ちれば落ちるほど動きが鈍くなる。
 長期戦に持ち込めば、セブンにも十分勝機はあった。
 だが――
「クッククク……!」
 周囲に飛散する数々の重火器を見回しながら、彼女は嘲笑を浮かべた。鼻を鳴らして、高圧的な視線でセブンを射抜く。
「どうしたんだい? もう、お終いかい?」
 セブンが今装備している武器はすべて使いきった。頼りになるのは、辛うじて動く右の拳くらいなものだ。
(バッテリー残量一パーセント……。損害修復を遮断。待機モードに移行)
 傷の修復にエネルギーを回している分、バッテリーの減りが速い。最後の賭けに出るためには、少しでも消費を抑える必要があった。
 ターゲットが泰然とした動きで近づいてくる。蒼い血を太腿から滴らせながらも、その歩みはしっかりしたモノだった。そして、彼女の手が届く射程範囲内まで近づき――
「ッアアァァァァァ!」
 振り下ろそうとした右手を頭にあて、絶叫を上げた。
「セブン!」
 続けて後ろから声が聞こえる。大切な人の声が。
「武彦……様……」
 全身の駆動部分から力が抜けて行くのが分かる。セブンの中で張りつめていたモノが霧散していった。そのまま糸の切れた人形のように武彦の胸に体を預ける。
「大丈夫……じゃないよな。有り難う。しっかり休んでてくれ」
 武彦はセブンを抱きかかえると、ターゲットから距離を取った。そしてもう一人の大切な人の元へと近づく。
「シュライン……様。申し訳有りません。ターゲットを破壊できませんでした」
 セブンの弱々しい声にシュラインは目で微笑むと、胸に手を当てて何か言葉を紡いでいた。
「シュライン、もういいぞ。いくら耳栓してても、俺までクラクラになりそうだ」
 武彦は軽く手を挙げて、シュラインの発声を止めるように指示する。
「どう? 私の声帯模写能力、意外なところで役に立つでしょ?」
 シュラインの声帯模写能力。人、物に関係なく、音が出ればどんなモノでもコピーできる。マシンドール故にセブンには効果は無いのだが、生物であるターゲットには十分効いたようだ。
(武彦様……どうかご無事で……)
 シュラインの奇手は確かに効いた。だが決め手にはならない。セブンのバッテリーはすでに体を動かせるほど残ってはいなかった。
(もっと、役に立ちたいのに……)
 だが体が言うことを聞かない。
(まだ後、〇.五パーセントは残って……る……)
 茫漠とする意識を繋ぎとめるため、少しでもバッテリー消費を減らすため、セブンは全身の力を抜いた。

◆アニール・クーリー −草間武彦−◆ 
 アニールの姿は変わり果てていた。
 あの美しかった銀髪も、吸い込まれそうな碧眼も、人なつっこい笑みも、快活な仕草や表情も。今の目の前にいるアニールは、それらすべての対局に居ると言っても良かった。
「武彦ぉ……まだ、生きていたのか……」
 シュラインの不可聴音域をまともに聞いて平衡感覚を失っているのだろう。頭を右腕で押さえながら、おぼつかない足取りで右へ左へと揺れ動いている。
「悪運は強い方でね。それに、お前だってまだ復讐し足りないだろ?」
「武彦さん!」
 後ろからシュラインの悲鳴混じり声が聞こえる。だが、どんなことがあっても任せてくれと言い含めてある。シュラインが武彦のことを信頼しているならば、そう簡単には近づかないはずだ。
「ああ、そうさ……。まだ足りない。あの時ボクが味わった絶望は……お前に見捨てられたという悔しさは……どれだけ立っても色褪せないよ」
 牙を剥き出しにして、アニールは怨嗟の念を吐く。
「声だけは……昔のままなんだな」
 声変わりしたばかりの男の子を彷彿とさせるハスキーボイス。かつてのアニールの姿を今の容姿と重ね合わせながら、武彦は自嘲めいた笑みを浮かべた。
(俺が、こうしてしまったも同然だ……)
 あの時、どうして俺はアニールも助けられなかったのか。どうして二人とも助ける方法を閃かなかったのか。どうして依頼を断らなかったのか。
 どうして、どうして、どうして!
 際限なく沸き上がる悔恨の思いは、武彦の精神を徐々に疲弊させていった。この一年、アニールのことを忘れたことなど無かった。墓を作ろうにも死体は見つからず、いつも身一つで行動するアニールの所有物すら興信所には無かった。
(ずっと、考えてた。どうすれば、俺は罪を償えるのか。あの時のやり残しを、どうすれば取り戻せるのか)
 一歩ずつ、武彦はアニールの元へと近寄る。
「武、彦……!」
 威嚇するようにアニールは右手を突き出すが、武彦は怯まない。
「アニール」
 凛とした通る声で武彦は短く言い、そして左手を差し出した。
「また一緒に、興信所で働こう」
 アニールの残った右眼が驚愕に大きく見開かれる。
「な、何の冗談だ。それは……命乞いのつもりか?」
 何かに気圧される様にして、アニールはヨロヨロと後ずさった。
(単純なことだ。アニールは死んでいなかった。まだ生きている。どんな姿であれ、アニールであることには変わりない。だったら、何の問題も無いさ)
 笑みすら浮かべて武彦はアニールとの距離を詰める。だが、その分アニールは後ろへと下がっていった。
「アニール。また、お前の得意な特性ちゃんこでも作って、零やシュラインと一緒に食べよう」
 この殺伐とした情景にあまりにそぐわない言葉。血と肉と炎、生と死が混在するこの空間に武彦は平和すぎる日常を持ち込んだ。そのことがアニールの精神を揺さぶったのか、呆けたように口元をだらりと緩める。
「ば、バカじゃないか、お前。ボクはお前を一度半殺しにしてるんだぞ。そんな、そんな相手によく言えるな……」
「あのくらいお前が受けた苦しみに比べれば何でもないさ。もしアレでお前の気が晴れたのなら俺の手を取ってくれ、アニール」
 また一歩近づく。左手を大きく差し出しアニールを誘う。それはアニールを勧誘すると言うよりも、アニールに対して救いを求めているように見えた。
「もうダメなんだよ、武彦、ボクは、化け物になった……。コレがボクの正体なんだ……。昔には戻れない」
 まるで子供が親に許しを請うように、アニールはオドオドとした口調で、ぎこちなく言う。
「そんなことはない。今からでも十分間に合う。さぁ」
 自信に満ちた表情で武彦は更に一歩進む。アニールは後ろに下がらなかった。
「武彦……」
 アニールの体から強ばりが解ける。極度の緊張から解放されたかのように、肩を大きく落とした。そして、はにかんだような笑いを浮かべ、右手を差し出してくる。アニールの右手が武彦の左手と繋がろうとした直前、アニールの体が大きく仰け反った。
「な――」
 吃音(きつおん)の様な声を上げた武彦の眼前で、頭を打ち抜かれたアニールの体がゆっくりと沈んでいく。まるで自分の周りだけがスローモーションになっているかのように、酷く違和感のある光景だった。
「やれやれ、良い出来かと思っていましたが。所詮は失敗作でしたか」
 声のした方に振り向く。
 スキンヘッドに黒いローブ。顔にはいくつもの皺が刻まれ、両目は大きく落ちくぼんでいる。油が枯れて萎縮した唇を、醜悪な笑みの形に歪めながら、男はシュラインの頭に銃口を当てていた。
「お前は……」
「お久しぶりですねぇ、草間さん。一年前はどうもお世話になりました」
 組織『グレムリン・サーカス』の所長、鬼頭隆三(きとう・りゅうぞう)。狂った科学の生みの親だ。
「こんな形で、貴方にお会いすることになるとは。人生分からないものですねぇ」
 冷ややかな笑いを浮かべつつ隆三は目を細めた。
「貴様!」
 武彦は憤怒の形相で隆三を睨み付けた後、足下のアニールに視線を移した。正確に眉間を打ち抜かれている。額に穿たれた暗い穴からは、蒼い液体がこぶこぶと音を立てて流れ出ていた。
 目をガラス玉のように虚ろにし、力無く横たわっている。誰が見ても即死だった。
(アニール……)
 また救えなかった。どうして、どうして同じ事を繰り返す。どうして!
 武彦の胸中を、暗い負の感情が埋め尽くしていく。血が滲むほどに強く下唇を噛み締めながら、武彦は隆三の方に向きなおった。
(まだ、終わっていない。シュラインだけは、せめてシュラインだけは絶対に助け出す!)
 強く心に命じる。例え自分の命と引き替えでも構わない。もうこれ以上、大切な人を失いたくはない。
「シュラインを離せ。彼女は関係ない。お前が憎んでいるのは俺だろう」
「そうですねぇ。私の人生を滅茶苦茶にしてくれた貴方には地獄の苦しみを味わっていただかないと。なにせ、貴方達に研究データを奪われるという失態を絶好の理由にして、上層部達は私の研究所を取り壊したのですから」
 底冷えするような禍々しい顔つきになり、隆三は銃口を武彦の方に向けた。
「動かない下さいねぇ。指一本でも動かせば、このお嬢さんがそこの失敗作みたいになりますよ?」
 アニールのほうに蔑視を向けて一瞥し、隆三は愉悦に顔を歪ませた。
 そして、武彦の左腕が膨大な熱量を帯びる。
「あぐっ!」
 思わず叫び声を上げ、その場に倒れ込んだ。左の二の腕から鮮血が溢れだし、武彦のシャツを赤黒く染めていく。
「武彦さん!」
「おおっと動かないでくださいよ。貴女はこの特等席で、じわじわと彼が痛めつけられて、死んでいく様を焼き付けていただかないと」
 シュラインの眉間に銃口を添え直し、隆三は口の恥をつり上げる。弱者をいたぶることに何の躊躇も呵責もなく、快楽として受け入れる狂人。それが鬼頭隆三の本質だった。
(シュライン……)
 激痛に顔を歪めながら、武彦はシュラインは視線を送る。そして、うずくまるフリをしながら耳元に手を持っていく。それだけで察してくれたのか、シュラインは隆三に気付かれないよう小さく頷いた。
 武彦はポケットから取り出した耳栓をし、ゆっくりと立ち上がる。
「……ですねぇ。そ……くては。そ……こそいたぶり……があ……いう……」
 もう隆三の言葉ハッキリと聞こえない。武彦はシュラインの口元に傾注する。そして、形の良い唇が薄く開いた。
「おおおおぉぉぉぉぉ!」
 雄叫びを上げながら、武彦は隆三に向かって全力で疾駆する。
「バ……が!」
 その行動を玉砕覚悟と踏んだのか、喜々とした表情で隆三は引き金を引いた。しかし弾丸は頬を僅かに掠めて、背後へと消失する。
「……!」
 隆三に動揺が浮かんだ。しかし、すぐに視線をシュラインに戻すと頭に銃口を宛う。
(もう気付かれた!)
 いくら人不可聴音域で隆三の平衡感覚を失ったとしても、ゼロ距離射撃では意味がない。
「シュライン!」
 しかしまだ距離は遠い。後数秒は掛かる。
「死ね……、……のアマ!」
 笑う膝で上体を強引に固定させ、トリガーに掛かった隆三の指が動く。しかし次の瞬間、銃を持っていた隆三の手が大きく弾かれた。悔しそうに睨み付ける隆三の視線の先を追う。セブンが腹這いになりながら右手を突き出していた。恐らく石か何かを親指で打ち出したのだろう。
(もう、バッテリーも残ってないってのに……)
 それが本当に最後の力だったのか、セブンの目から完全に光が消えた。
「隆三おおぉぉぉぉぉぉ!」
 だがセブンの作ってくれた時間は十分だった。隆三が銃を構え直すよりも、武彦の踏み込みの方が早い。武彦は大きく大地を蹴り、右腕に渾身の力を込めて隆三の顔面に拳を叩き付けた。
「ぐぁ!」
 右手に鈍い感触。それが収まりきる前に更に叩き付ける。二度、三度、四度。
「よくも! よくもアニールを!」
 武彦は怒声を上げながら、何度も隆三の顔を殴りつけた。倒れ込んだ隆三の体に馬乗りになり、更に怒りをぶつける。手の皮膚が裂け、血が滲んでも終わることはなかった。隆三が気を失い、口から泡と血の混じった液体を垂れ流し始めたところでシュラインに止められ、武彦はようやく怒りを静めた。
「くっ……!」
 アスファルトに拳を打ち付ける。硬い感触と、鈍い痛み。
「武彦さん……」
 シュラインの気遣うような視線に武彦は顔を上げた。
「無事……だったか? 怪我はないか?」
「ええ。武彦さんのおかげで」
 精一杯の笑顔でシュラインは応える。
「そう、か……」
 シュラインは助けることが出来た。だが、頭のモヤは晴れない。
 アニールを救うことが出来なかった。その事実が一年前と変わらず、いやソレ以上の重みを伴って武彦にのし掛かる。
「アニール……」
 耳の奥で甲高い音が聞こえる。目頭が熱くなり、視界が歪んで行った。
「アニイィィィィィィィィィィル!!」
 武彦の叫び声が、無機質な灰色の世界に木霊した。

◆エピローグ◆
 異界。高峰研究所跡地。
 周囲には人の気配どころか、雑草すら生えていない。枯れ果てた大地。乾き切った風。
 そんな寂れた場所に、一つの墓がある。墓と言っても、朽ちたアスファルトを積み重ねて作っただけの簡易的なモノだ。
「アニール。今日も来たぞ」
 その墓に武彦は毎日のように通っていた。後ろには零とシュラインが居る。だがセブンの姿はなかった。
「貴女が得意だった特性ちゃんこ。この前作ってみたけど、巧くできなかったわ」
 微笑しながらシュラインは屈む。そして雪割草を墓前に備えた。アニールの髪の色と同じ花弁を持つ花を探したのだが、さすがに銀色の花はなく、コレが一番近かったのだ。
 新雪の様に美しい白をたたえた六枚の花びら。それが風を受けて、そよそよと揺れていた。
「アニールさん。昔は殆ど喋れなかったですけど、これからは毎日お話しに来ますね」
 零もシュラインの横にかがみ、無骨な墓石をそっと撫でた。
「そのうちセブンも連れてくるから。でもケンカすんなよ?」
 茶化したように言いながら、武彦は墓石のてっぺんを軽く叩く。と、その拍子に何かが落ちた。ソレは小さな音を立てて、武彦達の足下で止まる。
 弾丸だった。九ミリの弾丸。パラベラムだ。
「ななちゃん……」
 シュラインが呟くように言う。
「そっか。もう会ってたのか」
 嬉しそうに鼻を鳴らしながら、武彦はセブンの『お供え』を拾い上げた。ソレを元の位置に戻し、手を合わせて瞑目する。シュラインと零も武彦に続いて、アニールの墓に祈りを捧げた。
 数十秒間そのままの状態でいた後、武彦が目を開ける。
 一瞬、墓石にアニールの姿が映ったように見えた。しかしソレはすぐに消え去り、武彦の心に何とも言えない影を落とす。
「じゃあな。また明日来るよ」
 ソレを払拭するように、元気な声で言うと武彦はアニールの墓石に背中を向けた。
 ――アリガトウ。
 風に混じって、何かが聞こえた気がした。
「シュライン、何か言ったか?」
 言われてキョトンとした顔つきになり、シュラインは首を横に振る。目線を零にやるが同じく否定した。
「そっか……」
 心なしか、さっきよりも気分が軽くなったように思える。
 胸ポケットからタバコを取り出してくわえ、火を付けた。溜息混じりに吐き出した紫煙の向こう。屈託無く笑う、アニールの顔が見えたような気がした。

 【終】

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号:4410 / PC名:マシンドール・セヴン (ましんどーる・せぶん) / 性別:女性 / 年齢:28歳 / 職業:スペシャル機構体(MG)】
【整理番号:0086 / PC名:シュライン・エマ (しゅらいん・えま) / 性別:女性 / 年齢:26歳 / 職業:翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】

 登場NPC
【アニール・クーリー (あにーる・くーりー)/性別:女性 / 年齢:28歳 / 職業:元草間興信所事務員】
【鬼頭隆三 (きとう・りゅうぞう)/性別:男性 / 年齢:57歳 / 職業:組織『グレムリン・サーカス』の研究所長】

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■         ライター通信          ■
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 初めましてセブンさま。飛乃剣弥(ひの けんや)と申します。ご発注、どうも有り難うございました。果たして今回、セブン様のご満足いただけるバトルを描けましたでしょうか。押さえ込む人員が居なかったので、思いっきり暴れさせてみました(笑)。セブン様のような人工生命体を動かしていると、ラブストーリーが書きたくなりますね。徐々に心を開いていく、みたいな。まぁ、王道ですが(汗)。
 では、またいつかどこかでお会いできれば幸甚です。
 
 飛乃剣弥 2006年2月13日